説明

ダイアフィルトレーション済安定化血液産物の調製方法

【課題】細菌的又はウイルス的に安全で、より長い貯蔵寿命を有する、血小板又は血液細胞の産物の調製法を提供する。
【解決手段】原材料をダイアフィルトレーションして保持物質と濾過物とを産生する方法であって、当該方法は、原材料を少なくとも一回、緩衝液交換に対してダイアフィルトレーションすることを含み、当該原材料は、全血又は血液産物を含み、当該保持物質は、ダイアフィルトレーションした安定化血液産物を含み、当該濾過物は、夾雑血漿蛋白質を含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液産物及び調製方法に関する。より具体的には、本発明は、ダイアフィルトレーション(daifiltration)を利用した安定化血液産物の調製に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板は、休止期の形態で血液中を循環する、無核細胞である。これは血液凝固機構の細胞性成分である。血管の損傷部位で刺激されると、血小板は損傷部の表面に付着して、複雑な生化学的及び形態学的変化を行い、貯蔵された顆粒成分の分泌及び血小板凝固物の形成が起こる。血小板の付着及び凝固は、フィブリンとの相互作用により起こるが、これによって初期的な血小板血栓が生じる。血小板の凝固は、当該出血性損傷部位において凝固性因子を濃縮して凝固性蛋白質を活性化する、血小板の膜のリン脂質面の入手可能性が増大すると更に加速される。
【0003】
血小板は現在、臨床分野においては種々の状態を処置するのに使用されているが、これには出血性ショック及び血小板減少症が含まれる。血小板減少症は、循環血液中における異常なほどに小数の血小板により特徴付けられる。この状態は、ヘパリンの使用、乾癬、自己抗体、マラリア、リンパ腫、肝炎、放射線露出、及び化学療法剤により患者内で誘導することができる。
【0004】
血小板調製物を投与して、特定の遺伝疾患であって血小板の機能が損なわれているものの処置に使用することも可能である。更に、ダイアフィルトレーション済安定化血液産物の調製物を、重度の血液喪失が関与する、外傷の外科的修復、例えば銃弾やナイフでの格闘の犠牲者の処置等においても使用することができる。
現在の治療性血液産物の輸血治療は、(22°Cで保存された)血小板液や液体の血液細胞産物の貯蔵寿命が短い(5日間)ために、臨床環境においては妨げられ、しばしば、地方における供給不足が起こっている。更に、現在の貯蔵方法は、細菌増殖に対して伝導的であり、輸血関連細菌敗血症が引き起こされる。血小板輸血治療に関連した他の問題には、白血球(WBC)の汚染によるHLA(ヒト白血球抗原)の同種免疫及び熱反応が含まれる。更にウイルス伝播の危険性も、未処理(fresh)の血小板又は血液細胞の輸血には存在するが、これはウイルスの不活化又は除去工程が無いことによるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,213,814号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、細菌的又はウイルス的に安全で、より長い貯蔵寿命を有する、血小板又は血液細胞の産物の開発は有益であろう。究極的な目標は、安定化された、血小板又は血液の細胞性産物であって、ウイルス的に安全で、WBCが枯渇され、無菌であり、そして止血的に有効であるものを生産することである。安定化されたダイアフィルトレーション済血液産物であって室温で貯蔵が可能なものは、軽量であり、もちがよく、輸送が容易であり、FDAの認可済であり、2無いし5年間の貯蔵寿命有するものであるが、これは血小板及び血液細胞ついての資源の管理における著しい進歩であろう。このような産物は好ましくは、ラージスケールの方法であって、上記の問題を処理することが可能なものを使用した、優良な製造の実践のもとで製造されるであろうが、これは血小板の広汎な活性化及び凝固化を防ぐのに十分穏やかなものであろう。
【0007】
凍結乾燥(lyophilized、又はfreeze-dried)済の血小板産物は、遠心法により製造されるものが知られている。例えばGoodrich Jr.らの米国特許第5,213,814号を参照されたし。また、ChaoらのInfusible platelet membrane microvesicles: a potential transfusion substitute for platelets, Transfusion 1996であって、凍結乾燥した血血小板の膜の産物を生産する方法を教示するものをも参照されたし。1992年5月29日に出願の、現在係属中の米国特許出願番号891,277、及び1995年4月19日に出願の08/424,895についても参照する。望ましくないことに遠心は、血小板の活性化を引き起こし、生産レベルまでスケールアップすることができない。更に、既知の方法では無菌の状態で実施することができず、既知の方法においてはウイルスを低減する工程が一切含まれていない。
【0008】
ダイアフィルトレーションは、膜を使用して懸濁液中の成分を、粒子サイズの違いにより分離する、既知の分離方法である。膜の孔径に依存して、当該懸濁液中の成分を、選択的に保持又は膜を通過させることができる。ダイアフィルトレーションは、非血液細胞を回収する、ルーチン的な適用において使用されて、細胞を非細胞性媒体から分離することに使用されるが、ダイアフィルトレーションは血小板又は血液の細胞性産物の生産において適用されたことはなかった。
従って、血小板又は血液の細胞性産物を調製する方法であって、血小板を活性化することなく、生産レベルまでスケールアップすることができ、無菌でウイルス的に安全な産物を生産する方法の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ダイアフィルトレーションを利用して、既知の血液処理技術の不利益を解消する。
本発明によれば、血液細胞の広汎な活性化を防止しつつ、これらの細胞が懸濁している液体の媒体を操作するためにダイアフィルトレーションが利用される。ダイアフィルトレーションは、血漿に固有の、又は製造プロセス中に導入されてしまった望ましくない成分が低減された産物を作りだすのに使用することができる。
【0010】
この方法では、単一の工程又は一連の別個の又は組み合わされた工程の何れかにおいてダイアフィルトレーションを行うことが関与している。本発明のダイアフィルトレーションを使用して、望ましくない血漿蛋白質を血小板及び他の血液細胞より除去することができる。この方法は更に、化合物又は添加物であって、例えば血漿の凝固又は血小板の活性化を阻害し、血小板を安定化し、又はウイルス賦活剤として当該方法において機能することが可能なものを添加又は除去するのに使用することができる。本発明のダイアフィルトレーション方法はまた、血液の細胞が懸濁された媒体を変化させること、例えば長期間の貯蔵、凍結貯蔵、又は凍結乾燥に望ましいものへと変化させるために使用することができる。更に、ダイアフィルトレーションは、ウイルスの低減工程として使用し、血液細胞群からの血漿中に存在するフリーなウイルスを血小板から分離するのに使用することができる。
【0011】
血小板と血液の細胞に対する、本発明に特有な利点には、血小板の広汎な活性化の防止、ラージスケールでの生産方法の服従性、高度に自動化する可能性、最小の空間的許容量の要求、及び高収率のリカバリーが含まれるが、これらには限定されない。この技術はまた、有効な閉鎖系として操作し、有効な無菌化工程を方法に取り入れて、無菌の血小板又は血液の細胞性産物を製造することができる。
【0012】
一の特定の態様においては、ダイアフィルトレーションは、血小板又は血液細胞を固定化により安定化する方法と組み合わせて使用し、無菌の、ウイルス的に安全な産物であって、血漿中に存在するか、又は製造工程中に導入されてしまった望ましくない成分が低減されているものを作り出すことができる。
【0013】
一の態様においては、約1乃至約10リットルの血小板に富む血漿中におけるアフェレーシス済(apheresed)の血小板のプールを、約1乃至2リットルの血小板濃縮物へと濃縮する。最初の濾過工程において、この血小板濃縮物を、複数回、好ましくは8乃至11回の、クエン酸添加生理食塩水緩衝液の交換に対してダイアフィルトレーションして、血漿蛋白質レベルを約0.15mg/mLのレベルまで低減するか、又は99.5%低減する。
血小板を次に、0.01乃至10%、好ましくは1-3%のパラホルムアルデヒド溶液中で十分な時間、好ましくは5分乃至24時間、より好ましくは約1時間、室温で固定する。固定化工程により、血小板が安定化されて、凍結、凍結乾燥、及び再構築への耐性を付与するばかりか、ウイルス及び細菌の低減工程も提供される。
【0014】
第二のダイアフィルトレーション工程においては、血小板を濃縮して、複数回、好ましくは約5乃至15回の緩衝溶液(好ましくはイミダゾール緩衝生理食塩水)の交換に対してダイアフィルトレーションし、次に、約0-6回の0.9%のNaClに対する交換を行う。第二のダイアフィルトレーション工程中における全体でおおよそ5-21回の交換により、ホルムアルデヒドのレベルが、好ましくは1ppm以下のレベルにまで低減される。第二のダイアフィルトレーションの最後に、血小板は調剤化及び凍結乾燥化に適合する生理食塩水の形態となっている。
【0015】
血小板及び血液の細胞性産物を試験する目的で、種々のアッセイが開発されてる。このようなアッセイを、本発明のダイアフィルトレーション済安定化血液産物に適用することができる。これらのアッセイには、以下のものが含まれる。
1)透過型電子顕微鏡法;2)血小板計測;3)Kunickiスコア;4)血小板因子3;5)血小板凝固;6)血小板凝集;7)低張ショック応答;8)トロンボキサン産生;9)蛋白質決定;10)バウムガルトナーチャンバー環流(Baumgartner Chamber Annular Perfusion);11)スキャニング電子顕微鏡法;12)糖蛋白質受容体部位;13)含湿量;14)トロンボエラストグラフィー(Thromboelastography);15)パラホルムアルデヒド濃度決定;16)ウサギ止血時間モデル;17)及びウサギ、ラット、及びヒヒ環状モデル(circulatory model);そして18)フローサイトメトリー分析。
【0016】
それぞれのアッセイの基本的な、原理、技術、及び目的は十分に定義されている。これらのアッセイの中のいくつかは、定性的であり、一方、他のものは定量的であって極めて感度が高い。これらを組み合わせると、血小板及び血液細胞の構造的完全性、形状、アゴニスト及び低張ショックに対する応答、及び露出した内皮下の血管表面への付着を測定する方法が提供される。これらはまた、受容体部位及び酵素システムの完全性、活性化の度合い、及び血小板が凝固機構に関与して出血性の機能障害を修正する能力を評価する手段を提供する。これらのアッセイはダイアフィルトレーション済安定化血液産物の開発段階を導くのみならず、その全体的特徴を調べることにとって重要である。
これらのアッセイは、本発明のダイアフィルトレーション方法が、全体で約50乃至90%の血小板収率を与えることを証明している。この技術により産生される血小板は、わずかであるが、広汎的ではない活性化を示すが、これは約200乃至260のKunickiスコアにより証拠付けられるものである。固定化された血小板には、約30乃至約60%のリストセチン凝集値を有しているが、これは、無処理の血小板と比較して幾分かの機能喪失を意味している。
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面を参照している以下の発明の詳細な説明より明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この図は、本発明の血小板処理方法の、一般化された概略を示すものである。
【図2】この図は、本発明の3ポンプ型ダイアフィルトレーションシステムのブロックフロー図である。
【図3】この図は、本発明の第一のダイアフィルトレーション中における蛋白質の除去を示すグラフである。
【図4】この図は、本発明の第二のダイアフィルトレーション中におけるホルムアルデヒドの除去を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、全血又は血液産物を、少なくとも一回の緩衝液交換に対してダイアフィルトレーションすることにより、安定化された、血小板又は血液の細胞性保持物質及び血漿蛋白質濾過物質を産生する方法、及びこの方法により産生される組成物に関する。
本発明の原材料には、全血及び血液産物が含まれる。本願において全血は、天然の構成物の全てが含まれ、精製により何も取り除かれていないものを意味する。全血は、何れの動物の供給源より回収することができるが、これには例えばヒト、ウサギ、ラット、ヒヒ、イヌ、ネコや、他の動物が含まれる。血液産物である原材料は、全血より由来するいずれかの産物であり、血液の血漿が含まれる。本発明における使用に適している、血液産物である原材料の例としては、血小板に富む血漿及び血小板濃縮物が含まれる。
【0019】
血小板に富む血漿は、全血試料中の同じ容量中において通常存在するよりも多量の、一定容量の血漿中に存在する血小板を有する血液の血漿である。血小板に富む血漿は、全血に由来するものであり、血小板を保持しつつ、赤血球及び白血球を除去するために精製された血液の血漿である。血小板に富む血漿は、当該技術分野において既知の種々の技術を使用して作ることができるが、これにはダイアフィルトレーション、遠心、アフレーシス装置の使用が含まれるが、これらには限定されない。当該技術分野で知られる典型的なアフレーシス機械を使用して、血小板を血液提供者から回収する。アフレーシス機械は、血小板を赤血球及び白血球から分離して、血小板に富む血漿とする。この血小板に富む血漿は、実質的に赤血球を有しないが、白血球で汚染されているかもしれない。
【0020】
血小板濃縮物もまた、本発明の原材料として適している。血小板濃縮物は、一定容量の血漿中に存在する同じ量の血小板が、より少量の血漿中に存在するように濃縮した、血小板に富む血漿である。例えば、アフレーシス機械を利用して、提供者から得た血液試料は、概して血小板に富む血漿を、約250乃至300mlの範囲の量で産みだすものである。この血小板に富む血漿を次に濃縮して、内部に、250乃至300ml中に存在していたものとほぼ同じ容量の血小板を含むであろう、約50mlの血漿を得る。
【0021】
本発明のダイアフィルトレーションにより、安定化済ダイアフィルトレーション血液産物を含む保持物質と、血漿蛋白質の濾過物質が産生される。安定化血液産物である保持物質は、全血に由来するものであり、これには血小板、血液細胞(例えば赤血球、白血球や、幹細胞)や、血小板及び血液細胞の混合物が含まれる。保持物質は実質的に汚染性の血漿蛋白質を含んではいない。血小板保持物質より除去され、濾過物質中に存在する血漿蛋白質の例としては、アルブミン、ガンマグロブリン、凝固因子、補体因子、及び蛋白質酵素とホルモンが含まれる。本発明の保持物質は好ましくは、0.30mg/ml未満、より好ましくは0.15mg/ml未満の蛋白質レベルを有する。血液産物である保持物質はまた、実質的に赤血球を含んでいない。
【0022】
本発明により産生される、血液産物である保持物質は、保持物質にある種の有利な特性を(例えばウイルス不活化、血小板活性化阻害、及び血小板凝集の阻害が含まれる)付与する成分を、その中に適宜含むことができる。適切なオプション成分には、抗−凝結剤、血小板阻害剤、及びウイルス不活化剤が含まれる。本発明での使用に適する抗−凝結剤には例えば、EDTA、EGTA、クエン酸塩が含まれる。適切な血小板阻害剤には例えば、ヘパリン、抗−トロンビンIII、ヒルジン、プロスタグランジン、及びテオフィリンが含まれる。適切なウイルス不活化剤には例えば、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、溶媒用界面活性剤、ソラレン、B-プロピオラクトン、及びフタロシアニン色素が含まれる。
【0023】
本発明における血液産物である保持物質は、種々の媒体中に懸濁されていてもよく、これには長期間の貯蔵、凍結保存や、凍結乾燥に適するものが含まれる。このような媒体の適切な態様には、例えばアルブミン、ジサッカリド、モノサッカリド、トレハロース、及び不凍性蛋白質が含まれる。
【0024】
本発明における、血液産物である保持物質は、室温で保存が可能であり、もちがよく、5日を越える貯蔵寿命を有するように、安定化される。
本発明においては、血液産物である原材料は、少なくとも一回の緩衝液交換に対してダイアフィルトレーションされる。血液又は血液産物のダイアフィルトレーションによる交換とは、血液又は血液産物の細胞性成分(血液細胞及び血小板を含む)が、分離膜の一方に残り、非細胞性成分が、予め規定した、流速、圧力、膜の孔径、並びに緩衝液の組成及び容量についての条件下で、膜から洗い流されることを意味する。複数回の交換を利用する態様においては、血液又は血液産物である原材料は、好ましくは約5乃至約15回、より好ましくは約8乃至約12回、更に好ましくは10回の緩衝液の交換に対してダイアフィルトレーションされる。
【0025】
ダイアフィルトレーションで使用するのに適する緩衝液には、ダイアフィルトレーション用として当該技術分野で知られる緩衝液が含まれる。好ましい緩衝液には、リン酸塩、クエン酸塩、イミダゾールの部類が含まれる。より好ましくは、適切な緩衝液には生理食塩水、及びクエン酸添加生理食塩水が含まれる。緩衝液は、処理用緩衝液(ダイアフィルトレーション工程中に使用されるもの)、又は固定化緩衝液(固定化工程中に使用されるもの)の何れかに分類される。処理用緩衝液は、好ましくは生理食塩水緩衝液より選択される。固定化緩衝液は、好ましくはリン酸塩緩衝液、ACD緩衝液、イミダゾール緩衝液、並びにホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、及びグルタルアルデヒドの緩衝液、或いは溶媒用洗剤、ソラレン、B-プロピオラクトン、又はフタロシアニン染料を含有する緩衝液より選択される。
【0026】
使用する緩衝液の容量は、本発明のダイアフィルトレーションにかけられる、血液又は血液産物である原材料の容量に依存して変化する。好ましくは使用する緩衝液の容量は、約1乃至約100リットルの範囲である。使用する緩衝液の濃度は、約1mM乃至約1.0M、好ましくは、約5mM乃至約300mMの範囲とすることができる。
緩衝液にはオプションの成分、例えば血小板阻害剤、抗−凝結剤や、NaCl等の塩類を含ませて、生理学的浸透圧を維持することができる。血小板阻害剤は、血小板の活性化を防止する化合物である。適切な血小板阻害剤には例えば、ヘパリン、抗−トロンビンIII、ヒルジン、プロスタグランジン、及びテオフィリンが含まれる。本発明において使用が好ましい抗−凝結剤は、広汎なキレート剤であるが、好ましくは、EDTA、EGTA、及びクエン酸塩を含む群より選択される。
【0027】
種々のタイプの膜が、本発明において使用するのに適している。好ましい膜は、ビニール又はナイロンでできているか、又は中空の繊維構造であって孔径が約0.1乃至約1.0ミクロンのものである。
【0028】
本発明のダイアフィルトレーションは、単一又は複数のダイアフィルトレーション工程の何れかで行うことができる。この方法はまた、適宜、固定化工程を含んでいてもよい。この固定化工程により、血小板に安定性を付与し、凍結、凍結乾燥、及び再構築に耐えうるものとなる。固定化工程はまた、ウイルス及び細菌の低減工程としても機能する。固定化工程は一般には、少なくともダイアフィルトレーション工程を一回行った後に行われる。固定化工程においては、前工程のダイアフィルトレーションの血小板含有部に固定溶液を添加する。適切な固定化溶液には、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、及びイソプロパノールが含まれ、より好ましくはホルムアルデヒド及びパラホルムアルデヒドである。
【0029】
ダイアフィルトレーション技術を利用した、ダイアフィルトレーション済安定化血液産物を調製するための本発明の一の態様を、図1乃至4を参照しながら記載する。本発明の方法には、図1のフローチャートで例示されるように、最大で以下の3工程が含まれる:前固定化ダイアフィルトレーション工程(「DF1」);固定化工程;及び固定化後ダイアフィルトレーション工程(「DF2」)。
【0030】
DF1工程においては、血小板に富む血漿中のアフレーシス済みの血小板のプール(3リットル当たり3×1012の血小板)を、1-2リットルにまで濃縮し、次にクエン酸塩緩衝液の8-11回の交換に対してダイアフィルトレーションして、血漿蛋白質レベルを0.15mg/ml以下にまで下げる。この工程自身は、適切な安定化剤を引き続いて添加する場合には、無血漿の血小板産物を調製するのに使用することができる。
【0031】
固定化工程においては、血小板を、0.1乃至2%のパラホルムアルデヒド溶液に最大で1時間、室温で固定する。固定化工程により、血小板に安定性が付与されて、凍結、凍結乾燥、及び再構築に耐えうるものとなり、それと同時にウイルス及び細菌の低減工程が提供される。
【0032】
DF2工程においては、血小板を濃縮して、イミダゾール緩衝生理食塩水の8-11回の交換に対してダイアフィルトレーションし、次に生理食塩水の3回の交換を行う。DF2工程中の合計で11-14回の交換により、ホルムアルデヒドのレベルが1ppm未満にまで低減される。DF2工程の終わりには、血小板は、調剤及び凍結乾燥に適する生理食塩水(0.9%NaCl中の5%ヒト血清アルブミン)中にある。
【0033】
以下の表1に示されるように、本発明のダイアフィルトレーションにより、全体で61-71%の血小板の回収率が得られる。この技術により産生される血小板は、わずかではあるものの広汎ではない活性化を示すが、これはKunickiスコアが216乃至260の範囲にあることにより証明される。固定化された血小板は、 37-41%のリストセチン凝集化値を有するが、これは無処理の血小板と比較して幾分かの機能喪失を意味する。3つの独立した処理を受けたロットについての、DF1収率、DF2収率、及び全体の収率、及びリストセチン凝集化値の範囲は小さいが(それぞれ、73-81%、84-92%、61-71%、37-41%)、これはこの技術が再現性が高いことを証明している。
【実施例】
【0034】
以下に示すように、血小板減少症のウサギを使用して、本発明によりダイアフィルトレーションして調製した血液産物の止血効果を試験する。
本発明によりダイアフィルトレーションして調製した血小板産物についてのin vivoの機能を、血小板減少症のウサギの耳の出血モデルを使用して論証した。表2に示すように、凍結乾燥済みの血小板の、3つの独立して産生されたロットの5×1010を輸血した血小板減少症ウサギをエチル=パルミテートで処理すると、これらは全て、>2700秒(未処理)の出血時間から顕著な減少を示し、輸血後1時間では413乃至534秒、輸血後4時間では540乃至620秒となった。
【0035】
(パイロットスケールの方法)
凍結乾燥済、パラホルムアルデヒド-固定化血小板調製物のパイロットスケールでの生産のための、本発明の一の態様によるダイアフィルトレーションの方法を以下に記載する。この方法は、実験室スケールのプロトコールに基づき、また、マイクロフィルター膜を使用したダイアフィルトレーション技術を使用している。
【0036】
(処理用の緩衝液及び溶液)
本発明のダイアフィルトレーション方法において使用する処理用の緩衝液は、発熱因子フリーの注射用水を使用して調製した。この緩衝液を、清浄な容器へ、0.22μmの膜を通して無菌濾過して、存在するかもしれないエンドトキシン及び微粒子を除去した。使用した緩衝液は、以下の通りであった。
クエン酸添加生理食塩水緩衝液(CS):5.4mMクエン酸ナトリウム、146mMNaCl、HClで25°CのpHを6.5に調整。
イミダゾール緩衝生理食塩水(IBS):84mMイミダゾール、146mM NaCl、HClで25°CのpHを6.8に調整。
生理食塩水:146mM NaCl。
【0037】
(固定化用の緩衝液及び溶液)
第一のダイアフィルトレーション工程(DF1)と第二のダイアフィルトレーション工程(DF2)との中間の固定化工程固定化用の緩衝液は、以下の通りであった。
リン酸塩緩衝液:270mM Na2HPO4、pHは25°Cで6.5に調整。
ACD緩衝液:170mM クエン酸ナトリウム二水和物、129mM クエン酸一水和物、222mMデキストロース、pHは25°Cで4.5に調整。
8%パラホルムアルデヒド緩衝溶液(PFA):パラホルムアルデヒド(2.67M)を、WFI水に懸濁し、50%のNaOHを定期的に添加してpHを11に調節して溶解し、溶液を透明にした。パラホルムアルデヒドが完全に溶解した後、NaH2PO4(270mM)を添加して、pHをHClにより25°Cで7.2に調整した。この溶液を、水で注射用の容量にした。
パラホルムアルデヒド固定化溶液(PFS):1部のACD緩衝液を、9部の5%PFA緩衝液及び10部のリン酸塩緩衝液と混合した。pHは、濃塩酸及び/又は濃NaOHにより、25°Cで6.8に調整した。溶液を0.22μm膜を通して無菌濾過した。
【0038】
(方法の概要)
製造方法は3工程に分割することができる:1)ダイアフィルトレーション1(DF1);パラホルムアルデヒド固定化;そして3)ダイアフィルトレーション2(DF2)(図1)。第一の工程(DF1)においては、無処理の貯蔵されていた血小板又は他の血液細胞をプールしてダイアフィルトレーションし、血漿蛋白質を除去する。DF1中に使用する技術は、血小板の活性化及び凝集化を防止するのに十分穏やかでなくてなならない。パラホルムアルデヒド固定化工程により、血小板が安定化されて、凍結、凍結乾燥、及びその後の再構築にも耐えうるものとなる。更にパラホルムアルデヒド固定化工程は、ウイルス及び細菌の低減工程をも提供する。ダイアフィルトレーション工程2の目的は、二つである:1)パラホルムアルデヒドが、検出できないレベルにまで、これを除去すること;そして2)血小板を次の凍結乾燥用の調剤用緩衝液中に懸濁すること。それぞれの工程の手順は、以下において更に詳細に記載されている。
【0039】
(ダイアフィルトレーションシステム)
本発明のダイアフィルトレーション方法における一の態様は、図2に例示される処理システムを使用して実施することができる。このシステムは、制御ユニット1、緩衝液タンク2、緩衝液ポンプ3、処理タンク4、供給ポンプ5、フィルターホルダー6、浸透ポンプ又は制御バルブ7、廃棄物容器8、供給、浸透、及び保持用の圧力ゲージ9、10、11、供給、浸透、及び保持用のバルブ(図示せず)、及び熱交換器(図示せず)からなる。制御ユニットは、供給ポンプと浸透ポンプの速度を制御する制御装置、圧力、温度及び流速をモニターするデジタル計器からなっている。
【0040】
(膜の完全性試験)
DF1又はDF2の前に、単一のマイクロフィルター膜(4平方フィート)をフィルターホルダー6にマウントした。この膜をWFI水でぬらして(10L/分、保持物質圧=2-3psi、10分間)、水の浸透性試験及び空気拡散完全性試験を、製造者が記載するようにして行った。このシステムを2LのCS緩衝液(DF1の場合)、又は2Lの生理食塩水(DF2の場合)ですすぎ(10L/分、Pret=2-3psi、5分)、排出した。
【0041】
(PRPの回収)
本発明の一の態様においては、血小板に富む血漿を原材料として使用することができる。一の特定の態様においては、血小板に富む血漿(PRP)は、止血又はCOBEアフレーシス装置の何れかを使用して、単一のドナー単位として回収した。血小板は、種々の感染因子について試験し、陰性の場合には開放した(released)。PRPの単一のドナー単位(400mL;1.2×106の血小板/μL)を、温度を20乃至25°Cに維持しつつも血小板に適切なガス交換を供するように特別に設計された遮断箱中に入れて、一晩で配送した。到着後、血小板をプールし、混合し、計測した。血小板のプールは、低張ショック応答;アラキドン酸、コラーゲン、二重アゴニスト(ADP及びアラキドン酸)の凝集化応答;リストセチン凝集化についてアッセイした。
【0042】
(DF1)
DF1の一の目的は、ダイアフィルトレーションにより血漿蛋白質を、血小板又は血液細胞の活性化及び凝集化を最小としつつも、血小板、血液細胞、又は血小板と血液細胞との混合物、の溶液から洗浄することである。ダイアフィルトレーション方法の適切な態様は、図2に概略が示されている。
本発明の一の態様において、PRPプール(3×1012の血小板、約2-3L)を、処理用タンク4に注いだ。保持物質バルブを完全に開き、供給ポンプ5を始動させた(2L/チャンネル/分;即ち5チャンネルを有する4平方フィートの膜で、10L/分である)。浸透ポンプ7を調節して、所望の流速(10-90L/m2/h)を達成した。浸透物質の流れを廃棄物容器8へとそらして、血小板を約2Lの容量にまで濃縮した。血小板を次に一定容量(CS緩衝液の交換に対して2Lを8回(16L))でダイアフィルトレーションした。処理用タンク4へのCS緩衝液の流入を制御して一定容量を維持した。約8回の交換が終了した後、緩衝液ポンプ3を停止して、血小板を最大許容レベル(0.8-1.0L)にまで濃縮したが、この時点で、供給ポンプ及び保持物質ポンプを停止した。血小板は、低ポイント廃棄バルブを通して、固定化反応用タンクへと移した。このシステムを循環するCS緩衝液で二回洗浄したが(10L/分)、浸透バルブを閉め、浸透ポンプはオフの位置にした。血小板にこの二回の洗浄容量を加えて、固定化用に、容量をCS緩衝液で4Lに調節した。
【0043】
(パラホルムアルデヒド固定化反応)
本発明のこの態様においては、DF1からの血小板(4L;4-8×105血小板/μL)をステンレス鋼製の容器内へ入れ、4Lのパラホルムアルデヒド固定化溶液を添加し、よく混合した。固定化中の血小板の濃度は、約300,000/μLであった。容器を被って、室温(22-26°C)で60分間、一切攪拌せずに反応させた。
【0044】
(DF2)
固定化反応からの8Lの血小板懸濁液を、処理用貯蔵容器へ入れた。保持物質バルブを完全に開いて、供給ポンプを始動させた(2L/チャンネル/分;即ち、4平方フィートの膜当たり10L/分)。浸透物ポンプを調節して、10-95L/m2/hの所望の流速を達成した。浸透物の流れを廃棄容器へとそらし、血小板を約2Lの容量へと濃縮した。血小板を次に、一定容量(2L)で、IBSの11回の交換(22L)に対してダイアフィルトレーションし、次に生理食塩水の3回の交換(6L)に対してダイアフィルトレーションした。緩衝液ポンプを経由した、処理用タンクへのIBS又は生理食塩水の流入を制御することで、一定容量を維持した。全部で14回の交換を行った後、緩衝液ポンプを停止し、血小板を最大許容レベル(約1L)にまで濃縮したが、この時点で供給ポンプ及び保持物質ポンプを停止させた。血小板は、低ポイント廃棄バルブを通して、最終的な調剤用のタンクへと移した。このシステムを更に2回、生理食塩水で洗浄して、血小板の最大の達成可能な回収率を決定した。
【0045】
(調剤化及び凍結乾燥)
ヒトの血清アルブミン(Albuminar-25、Centeon)を添加して、最終的な血小板懸濁液を、0.9%NaCl(pH6.8±0.2)中5%のHSAとし、最終的な血小板濃度が500,000-3,000,000plts/μLとした。血小板を凍結乾燥して、-20°C又は-70°Cで次に使用するまで保存した。
【0046】
(蛋白質除去アッセイ)
DF1工程中に保持された液体中に残存する蛋白質のレベルを、280nmの吸光アッセイによりモニターした。試料(2mL)を処理用貯蔵容器から所望の間隔で取り出した。1.5mLのエッペンドルフチューブ内のこの試料を、エッペンドルフ5415Cマイクロ遠心機で遠心した(16,000RPM、10分)。上清を、血小板の沈殿物が壊れないように注意しながら除去して、清浄なチューブへと移した。クエン酸添加生理食塩水緩衝液をブランクとして使用して、A280の値をベックマンDU640分光器により測定した。蛋白質含有量は、1.0cm2/mgでの吸光係数を使用して推定した。
【0047】
(ホルムアルデヒドアッセイ)
DF2工程中に保持された液体中のに残存するホルムアルデヒドのレベルは、比色ホルムアルデヒドアッセイを使用してモニターした。アリコット(3mL)を処理用貯蔵容器から、所望の間隔で取出して、1.5mLのエッペンドルフチューブに入れてすぐに、エッペンドルフ5415Cマイクロ遠心機で遠心した(16,000RPM、8分)。上清を、血小板の沈殿物が壊れないように注意しながら除去して、清浄な15mLのプラスチック製の遠心チューブへと移し、キャップをして、アッセイするまで-20°Cで凍結した。
【0048】
(ウサギの耳出血時間の実験)
凍結乾燥した血小板の止血効果は、血小板減少症のウサギで行った、耳出血時間の実験により測定した。この実験には、5×1010の凍結乾燥済みの血小板を、それぞれの血小板減少症のウサギに注射して、出血時間の変化を、二つ一組で、輸血後1時間及び4時間で測定して行った。同様に処理した3つの独立したロットを試験し、1ロット当たり全部で8匹のウサギを輸血した。清浄なウサギの耳の出血時間は、約250秒であり、一方、血小板減少症のウサギの耳の出血時間は、2700秒を越える。試験した血小板は、上述のダイアフィルトレーション法を使用して調製したが、但し、DF2工程においては、生理食塩水をイミダゾール緩衝生理食塩水に換えて行った。
【0049】
(膜のクリーニング)
膜をDF1又はDF2の使用のみに選定した。単一の膜を一以上の製造ロットに対して使用することができる。膜は、それぞれの使用後にはクリーニングし、再利用の前に水の浸透率及び空気に対する完全性について試験した。膜を漂白液(4L、600ppmの次亜塩素酸塩、50°C)に入れて、製造社が提唱するように洗浄した。漂白液を使用して、膜を2回すすぎ(10L/分、Pperm=3.0psi,30分)、次に拡張洗浄サイクル(10L/分、Pperm=3.0psi、30分)にかけた。
【0050】
(結果)
(DF1中の蛋白質除去)
DF1工程中の血液産物からの血漿蛋白質の除去は、図3に示してある。示したロットは、同一の典型的な処理条件(45L/m2/h、2L/分/チャンネル;0.22μの4平方フィートPVDF(登録商標) Durapore膜)にかけた。8回の緩衝液交換の最後に、99.5%を越える血漿蛋白質が除去され、表1に示されるように蛋白質レベルが0.15mg/mL以下となった。
【0051】
【表1】

【0052】
(DF2中のホルムアルデヒド除去)
DF2工程中の血液産物からのホルムアルデヒドの除去は、図4に示してある。ダイアフィルトレーション技術が、血液産物から効果的にパラホルムアルデヒドを除去する能力を評価するために、本発明の態様により作られた血小板を、通常のIBS緩衝液ではなく、生理食塩水での12回の交換に対してダイアフィルトレーションした。示した3つのロットは、同一の処理条件(45L/m2/h、2L/分/チャンネル;0.22μ平方フィート)にかけた。結果は、ホルムアルデヒドが効果的に除去されて、3回の実験間で再現性があった。12回の緩衝液交換の最後に、フリーなホルムアルデヒドのレベルは、表2に示されるように1ppm以下となった。
【0053】
【表2】

【0054】
(ダイアフィルトレーションにより産生される血小板及び血液細胞産物の回収及びin vitroアッセイの特徴)
ダイアフィルトレーションの工程は、流速及び浸透物の流速を所望のレベルに調節することにより制御することができる。一の態様においては全工程は、予め設定しておくが、工程中は保持物質、浸透物質、又は経膜圧力の変化に応じて調節されない流速(flow rate)及び流出速度(flux rate)において行われる。
血小板の3つのロット(表3)は、本願に記載の処理方法により同一の条件下で処理した。それぞれのロットについての、処理の回収率、Kunickiスコア、及びリストセチン凝集値は、狭い範囲内あったが、これはこの方法の良好な再現性を意味している。出血時間の補正(表4)はまた、輸血後1時間及び4時間の双方における良好な再現性を示した。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
本発明はその特定の態様との関係において記載したが、他の多くの変形例及び修飾例、並びに他の使用は、当業者らには明らかであろう。従って、本発明は本願の特定の開示事項により限定されず、添付の特許請求の範囲のみによって規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原材料をダイアフィルトレーションして保持物質と濾過物とを産生する方法であって、当該方法は、原材料を少なくとも一回、緩衝液交換に対してダイアフィルトレーションすることを含み、当該原材料は、全血又は血液産物を含み、当該保持物質は、ダイアフィルトレーションした安定化血液産物を含み、当該濾過物は、夾雑血漿蛋白質を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−144556(P2012−144556A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−65727(P2012−65727)
【出願日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【分割の表示】特願2000−545544(P2000−545544)の分割
【原出願日】平成11年2月26日(1999.2.26)
【出願人】(500501443)シーエスエル・ベーリング・エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】