説明

ダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法

【課題】
電子源あるいは電子増倍機構を持つ電子源は、現在よりも桁違いの長い寿命、大きな電流、高い品質、つまり輝度が高く、時間幅の狭い、発生数の高い電子源が求められている。
【解決手段】
ダイヤモンド膜に、ギャップエネルギーより十分高い数百eVから数百keV程度以上のエネルギーの1次高エネルギー励起量子を入射させて、この膜の価電子帯の電子を伝導帯へ励起することにより、空孔電子対を1次高エネルギー励起量子の数よりも百倍から十万倍程度以上多く生成し、この電子群をダイヤモンド膜内外の電界或いはこれらと共に拡散によって、負電子親和力を持つ表面層から百倍から十万倍程度以上の2次電子を引き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、すべての高品質から低品質、大電流から小電流の多様な電子ビームを発生増倍する装置、すべての高品質から低品質、大電流から小電流の多様な電子ビームを用いる装置において、この高品質から低品質、大電流から小電流の多様な電子ビームを発生増倍する方法、及びその装置内の、光電子陰極、熱電子陰極、電界放射陰極或いはその他の電子陰極から弱い電流の1次高エネルギー励起量子を発生し、或いはこの1次高エネルギー励起量子を外部から導入し、これをダイヤモンドのギャップエネルギーに2次電子の増倍数程度以上を乗算した値より高い、したがって百倍から十万倍程度以上高い電子エネルギーまで加速し、負電子親和力を持つ水素終端処理層或いはアルカリ金属単層膜等を2次電子引き出し面に持つダイアモンド膜に、薄い金属薄膜等の1次高エネルギー励起量子入射面から1次高エネルギー励起量子を入射させ、この1次高エネルギー励起量子がダイアモンド膜中を通過する際に、その1次高エネルギー励起量子経路周辺に沿って、価電子帯の電子にエネルギーを与えてこれらを伝導帯に励起し、空孔を価電子帯に励起し、多数の電子空孔対を生成し、この多数のキャリア(電子の電荷担体)が注入された状態が生成され、負電子親和力を持つ表面から、内部に印加された電界と外部に印加された電界により、桁違いに増倍された、増倍数程度の或いはそれより少ないけれども、大きな数の、2次電子として引き出されることによって、電子を発生増倍するダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光電子陰極或いは熱電子陰極或いは電界放射陰極あるいはその他の電子陰極から弱い電子電流の1次高エネルギー励起量子を発生加速し、これを2次電子放出し易い金属板、金属筒あるいは金属メッシュ等、及びこれらの金属板や金属メッシュ等上に保持された化合物膜或いは単体膜等の2次電子放出増倍板あるいは単管内面に衝突させ、引き出し電界により多数の2次電子を放出させる。同様の手順でこれらの放出された2次電子を繰り返し別の2次電子放出板あるいは単管内面に衝突させ、最終的に1次高エネルギー励起量子数より数桁以上に多くの数の2次電子を放出させる方法がとられている。
【0003】
熱電子源としてよく知られている、表面障壁が小さな酸化物、酸化物の混合物、6ホウ素ランタンに類似する化合物等の高温に耐え、高温で電子を放出しやすい物質を高温に保持し、高電圧を印加して熱電子を放出させる方法がとられている。
【0004】
光電子源として知られている、光によって価電子帯に充満する電子を禁止帯を飛び越えて伝導帯へ励起し、価電子帯に空孔を励起し、これを負或いは正の電子親和力を持つ表面から表面に印加する高電界によって放出させる方法が取られている。このエネルギー効率は、量子効率と呼ばれ、励起するために光として入力されるエネルギーの電子励起に使われるエネルギーに対して通常10%から0.001%以下で極めて非効率である。
【0005】
電界放出電子源として知られている、針状陰極の先端直径を非常に小さくして、高電圧を印加し、先端に掛かる電界を非常に大きくして、電界放出電子を引き出す方法が、或いはこの装置において電界放出電子を引き出す際に先端部にレーザー照射によって引き出す電子の数や電子の時間幅の制御を行う方法がとられている。これは極めて高輝度であるが大きな発散をもっていること、動作が不安定であること、と電流の絶対値がきわめて微弱であることが欠点である。
【0006】
又、真空中或いはガス中でレーザーを集光し、或いはパルス状或いは連続して高圧放電、高周波放電を行い、これにより発生するプラズマ中から電界をかけて電子を引き出す方法がとられている。この方法は、駆動レーザーの繰り返しが低く、輝度が小さく、平均電流が大きいことが特徴である。
【0007】
光電子銃は、高価なレーザー装置や極高真空装置あるいは超高真空装置が必要不可欠で、構造が複雑であるため、産業用としては利用できる分野や応用目的が限定されている。
【0008】
更に又、エネルギーの高いX線励起或いはその他の粒子線を含む量子励起電子源は、ダイアモンド電子源と動作の基本はまったく同一で、結晶中での励起が高密度でない限り増倍数も同一であることが多く、利用する量子が異なるのみである。励起に利用する個々の量子を発生させることが複雑で高価であるので、光子、電子はこの目的のためには最も単純で安価である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような電子源あるいは電子増倍機構を持つ電子源は、性能に限定があるが真空管、光電子増倍管、電子顕微鏡、X線発生装置、放射光源、照明装置、乾燥機、高分子架橋反応装置、殺菌滅菌装置、医療用や産業用加速器、科学技術研究用加速器などに広範囲に利用されている。この大きな利用応用分野では、現在よりも桁違いの長い寿命、大きな電流、高い品質、つまり輝度が高く、時間幅の狭い、発生数の高い電子源が求められている。この要求はそのひとつの例である次世代放射光源に不可欠であり、このような電子源はその実現に、次のような課題がある。
【0010】
熱電子源は、多くの形式の多くの工夫を経て、利用実績が多い、しかしながら電流が低く輝度が低く、時間制御性が悪い、極低温での利用が困難であることなど、次世代光源への適用を著しく制限している。
【0011】
光電子源は、大電流で発散とビーム径が小さく、つまり輝度が高く、時間制御性が良い、極低温での利用が可能であるが、使用するレーザーの性能に依存しており、一般的に平均電流は低く、光陰極材料の環境や材質や使用される真空度に依存して寿命も比較的短いために、次世代放射光源への適用は困難で大きな制限がある。また尖頭電流値は高いが、平均電流値は小さい。
【0012】
電界放出電子源は、発散が大きいが輝度が極めて高く、時間制御性は良くないが、レーザーを利用すれば改善でき、極低温での利用が可能であるが、平均電流は低く、寿命も比較的短く、動作が不安定であるので、次世代放射光源への適用は困難である。
【0013】
これらの電子源、特に光電子源や熱電子源を1次高エネルギー励起量子源として用いて高品質の電子ビームを発生させ、これを品質を劣化させないまま、必要な電流値まで必要なエネルギーの電子で励起させ増倍させるダイヤモンド以外の半導体膜、金属膜、化合物膜、それらの複合膜等は、寿命が短く、半導体膜、金属膜、化合物膜、それらの複合膜等も不安定で、十分な増倍が得られなかった。また、比較的構造が複雑で、低温での利用も困難であった。このため次世代放射光源への適用は困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、この発明は、上記のように使用する1次高エネルギー励起量子を、熱電子源、光電子源、電界放射電子源、レーザーや加速器を用いたその他の量子源等を用いて生成し、必要な増倍数を生成できるほど高い電子エネルギーまで加速し、これをダイヤモンド膜に入射し、価電子帯の多数の電子を励起し、他の種類の2次電子増倍電子源では不可能な次世代光源等が求める極短パルス、大電流、発散が小さな、高輝度である要求を実現する。したがって、輝度が高く、時間制御性が良く、極低温での利用が可能であり、使用するレーザーの性能に比較的依存せずに、高い平均電流が可能で、1次高エネルギー励起量子源の環境や材質にあまり依存せず、長寿命で、次世代放射光源への適用が可能である新しいダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法を提供することにある。
【0015】
この発明の電子励起ダイアモンド電子源は、100%より桁違いに低い、はるかに低い量子効率で行われる光電子源の光1個による1対の空孔電子対励起の替わりに、ギャップエネルギーより百倍から十万倍程度以上高いエネルギーを持つ1次高エネルギー励起量子1個による百対から十万対程度以上の空孔電子対励起を用いる。
ダイヤモンド膜に、ギャップエネルギーより十分高い数百eVから数百keV程度以上のエネルギーの1次高エネルギー励起量子を入射させて、単結晶や多結晶ダイヤモンド膜あるいはダイヤモンド類似炭素膜の価電子帯の電子を伝導帯へ励起することにより、空孔電子対を1次高エネルギー励起量子の数よりも百倍から十万倍程度以上多く生成し、この電子群が、ダイヤモンド膜内外の電界或いはこれらと共に拡散によって、水素終端したあるいはアルカリ金属原子単層膜が生成した、負電子親和力を持つ表面層から、表面障壁からほとんど影響を受けずに、引き出されることによって高い輝度と非常に大きな電子電流を実現することを特徴としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
連続波動作する自由電子レーザー装置を駆動するための高出力超伝導リニアックに必要とされる、連続運転可能な、高い輝度と非常に大きな電子電流を得るための入射器・電子銃において、本発明は、図1の様に1次高エネルギー励起量子を発生し、特定の目的に必要とされるギャップエネルギーの百倍から十万倍程度以上の電子エネルギーまで加速し、ダイヤモンド膜へ入射し、ダイヤモンド膜中で励起された、増倍数程度である百倍から十万倍程度以上の空孔電子対を生成することによって、2次電子を発生するダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法として用いる。
図1(A)は、本発明のダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法の説明図である。駆動用レーザーで光陰極を照射し、高エネルギー励起量子を引き出す。この高エネルギー励起量子は高圧電源で加速され、ダイヤモンド膜の金属薄膜を持つ入射面に打ち込まれる。この表面からダイヤモンド薄膜内で目的に合わせた最適の経路で加速エネルギーを費やして電子空孔対を生成し、その経路周辺に多数の電荷担体を発生させる。ダイヤモンドの2次電子引き出し面は負電子親和力(NEA)であるので、引き出し電圧とNEAを構成するCsや水素終端面によって極めて容易に大電流がこの面から引き出し可能となる。
図1(B)は、本発明のダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法の説明図である。駆動用レーザーで光陰極を照射し、高エネルギー励起量子を引き出す。この高エネルギー励起量子は高圧電源で加速され、ダイヤモンド膜の金属薄膜を持つ入射面に打ち込まれる。この表面からダイヤモンド薄膜内で目的に合わせた最適の経路で加速エネルギーを費やして電子空孔対を生成し、その経路周辺に多数の電荷担体を発生させる。ダイヤモンドの2次電子引き出し面は負電子親和力(NEA)であるので、引き出し電圧とNEAを構成するCsや水素終端面によって極めて容易に大電流がこの面から引き出し可能となる。この図は引き出し面が1次高エネルギー励起量子の入射方向と直角、或いは45度から135度程度の範囲の角度を持っている配置を想定している。大面積、任意の引き出し断面形状を持つ、或いはパルス幅を幾何形状を最適化することにより、目標値に制御できる。
図1(C)は、本発明のダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法の説明図である。駆動用レーザーで光陰極を照射し、高エネルギー励起量子を引き出す。この高エネルギー励起量子は高圧電源で加速され、ダイヤモンド膜の金属薄膜を持つ入射面に打ち込まれる。この表面からダイヤモンド薄膜内で目的に合わせた最適の経路で加速エネルギーを費やして電子空孔対を生成し、その経路周辺に多数の電荷担体を発生させる。ダイヤモンドの2次電子引き出し面は負電子親和力(NEA)であるので、引き出し電圧とNEAを構成するCsや水素終端面によって極めて容易に大電流で任意の引き出し断面形状のビームがこの面から引き出し可能となる。この図は引き出し面が1次高エネルギー励起量子の入射方向と反対方向あるいは135度以上225度程度以内の範囲の角度を持っている配置を想定している。大面積、任意の引き出し断面形状を持つ、或いはパルス幅を幾何形状を最適化することにより、目標値に制御できる。
図2(A)は、本発明の高エネルギー量子励起ダイアモンド電子源説明図であり、縦軸はエネルギーバンド構造のエネルギー深さを、横軸は電子や空孔の運動方向に沿った電子運動軸座標を表している。 1次高エネルギー量子として電子を例として説明している。量子励起源である1次電子光陰極はギャップエネルギーより大きなレーザーの光量子により1次高エネルギー量子として1次電子をそのNEA面から生成放出する。これは1次電子陰極と2次ダイアモンド陰極の間のどこかで印加されている加速電界で2次電子源まで到達する間に加速され、増倍に対応する電子エネルギーまで加速される。高いエネルギーまで加速された電子はダイアモンド膜に入射し、この結晶中で電子空孔対を生成するたびに平均して13eV程度の運動エネルギーを失い、減速して行き、最後に停止する。停止時には電子空孔対生成以外のフォノン生成等のエネルギー散逸に費やされたに加速エネルギーを除くと加速エネルギーを電子空孔対生成必要エネルギーで除した電子増倍数程度の電子がダイアモンド陰極のNEA面から引き出される。
図2(B)は、本発明の高エネルギー量子励起ダイアモンド電子源説明図であり、縦軸はエネルギーバンド構造のエネルギー深さを、横軸は電子や空孔の運動方向に沿った電子運動軸座標を表している。 1次高エネルギー量子として電子を例として説明している。量子励起源である1次電子光陰極はギャップエネルギーより大きなレーザーの光量子により1次高エネルギー量子として1次電子をそのNEA面から生成放出する。これは1次電子陰極と2次ダイアモンド陰極の間のどこかで印加されている加速電界で2次電子源まで到達する間に加速され、増倍に対応する電子エネルギーまで加速される。高いエネルギーまで加速された電子はダイアモンド膜に入射し、この結晶中で電子空孔対を生成するたびに平均して13eV程度の運動エネルギーを失い、減速して行き、最後に停止する。停止時には電子空孔対生成以外のフォノン生成等のエネルギー散逸に費やされたに加速エネルギーを除くと加速エネルギーを電子空孔対生成必要エネルギーで除した電子増倍数程度の電子がダイアモンド陰極のNEA面から引き出される。
[発明の効果]
【0017】
光電子増倍管の多重電子増倍をダイヤモンド膜を用いることにより、反射や通過増倍だけでなく、任意経路を通過する増倍を行うことにより、今までの長い増倍経路が不要となり、増倍時間遅れや時間幅、誤差が大きく改善される、また今までの限界を越えて、きわめて小型に組み上げる事が可能と成り、さらに極めて高い増倍係数を実現することが可能となる。
【0018】
真空管、X線発生装置、電子顕微鏡、照明装置の陰極にダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法を適用することにより、電子ビーム発散角と電子ビーム径が小さく、大電子ビーム電流引き出しが可能となるため、真空管、X線発生装置、照明装置が高出力、或いは小型化、長寿命、或いは高品質、或いは高効率とすることが可能となる。
【0019】
X線発生装置、乾燥機、高分子架橋反応装置、殺菌滅菌装置、医療用加速器の陰極にダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法を適用することにより、大電子ビーム電流引き出しが可能となるため、いままでより百倍から十万倍程度以上の長寿命、高出力、また今までよりも小型化、安価とすることができる。
【0020】
放射光源、産業用加速器、科学技術研究用加速器の陰極にダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法を適用することにより、電子ビーム発散角と電子ビーム径が小さく、大電子ビーム電流引き出しが可能となるため、放射光源が高輝度で高強度、回折限界で高強度となり、産業用加速器では、大出力化、小型化、長寿命化、安価となり、科学技術研究用加速器では、高輝度化、小型化、長寿命化、高出力、安価とすることができる。
【0021】
自由電子レーザー用加速器の陰極にダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法を適用することにより、電子ビーム発散角と電子ビーム径が小さく、大電子ビーム電流引き出しが可能となるため、自由電子レーザーの発振波長が小さくなり、高出力化、或いは小型化、長寿命、或いは高品質、或いは高効率とすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上のようにこの発明によれば、従来の技術では不可能であった、電子ビームを発生する装置、及び電子ビームを利用する装置において電子ビーム発散角と電子ビーム径が小さく、大電子ビーム電流引き出しが可能となるため、高出力化、小型化、長寿命化、高品質、或いは高効率、極短パルスが、更に安価とすることが可能である。
【0023】
この発明によれば、真空管発振器や自由電子レーザー装置のような可干渉電磁場発生装置において、超大型の加速装置等も必要なく、より小型の装置で現在実現は困難とされているX線領域の自由電子レーザー発振が容易に実現できる。
【0024】
この発明によれば、また電子発生部を極めて小型にすることが可能であるので1次高エネルギー励起量子源及び電子励起のための加速部分を2次電子源部分と一体化して、多数の2次元面上に配置し、高輝度長寿命高品質大面積等の特徴を持つ電子表示装置などを実現することが可能である。これは対象物の重量、形状、作業場所による制限はなく、大面積にわたって容易に安価に実行できる。
【0025】
この発明によれば、電子ビームの高い品質が不要な大電流のみが必要な応用、たとえば高分子製品の架橋反応促進、化学反応制御、農作物、花卉、食品、医薬品、医療現場での滅菌、殺菌、除菌や塗装等の乾燥に適用可能で、発生装置単価も運転単価も現在より安く実現することが可能で、経済的に容易に実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1A】本発明のダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法の説明図である。
【図1B】本発明の高エネルギー量子励起ダイヤモンド電子源の説明図である。
【図1C】本発明のダイアモンド電子源とその電子発生増倍方法の説明である。
【図2A】本発明の高エネルギー量子励起ダイアモンド電子源説明図である。
【図2B】本発明の 高エネルギー量子励起ダイアモンド電子源の説明図である。
【符号の説明】
【0027】
(図1A)
1 光陰極1次高エネルギー励起量子源、2 1次高エネルギー励起量子、3 ダイヤモンド半導体増倍膜、4 1次高エネルギー励起量子に励起された空孔電子対群、5 負電子親和力表面層(NEA)、6 真空中への2次電子の引き出し
(図1B)
1 1例として光陰極高エネルギー励起量子源(励起量子源としては熱、電界その他の種類のものが可能)、2 1次高エネルギー励起量子、3 ダイヤモンド半導体増倍膜、4 高エネルギー励起量子に励起された空孔電子対群、5 負電子親和力表面層(NEA面)、6 金属膜(ダイヤモンド内の内部電界は金属膜とNEA面間で印加される。)、7入射方向とは異なる方向に向いた、真空中への2次電子の引き出し
(図1C)
1 1例として光陰極高エネルギー励起量子源(励起量子源としては熱、電界その他の種類のものが可能)、2 1次高エネルギー励起量子、3 ダイヤモンド半導体増倍膜、4 高エネルギー励起量子に励起された空孔電子対群、5 負電子親和力表面層(NEA面)、6 金属膜(ダイヤモンド内の内部電界は金属膜とNEA面間で印加される)、7入射方向とは異なる方向に向いた、真空中への2次電子の引き出し
(図2A)
1 内殻電子、 2 禁制帯、3 価電子帯、4 禁制帯、5 伝導帯、6 禁制帯、7 NEA面、8真空レベル
(図2B)
1 内殻電子、 2 禁制帯、3 価電子帯、4 禁制帯、5 伝導帯、6 禁制帯、7 NEA面、8真空レベル



【特許請求の範囲】
【請求項1】
空孔電子対の発生を行う1次高エネルギー励起量子よりも2-5桁多い数の空孔電子対を発生させ、この片方の電子である2次電子の増倍発生を目的とするダイアモンド電子源を使用した電子発生増倍方法であって、
(1)量子源から1次高エネルギー励起量子を発生し、或いはこの弱い電流の1次高エネルギー励起量子を外部から導入し、これをダイアモンドのギャップエネルギーより百倍から十万倍程度以上高いエネルギーである、数百eVから数百keV程度以上まで加速し、
(2)負電子親和力(NEA)を持つ水素終端処理層或いは負電子親和力を持つアルカリ金属単層膜等を2次電子引き出し面に持つダイアモンド単結晶膜、ダイヤモンド多結晶膜又はダイアモンド類似炭素膜(以下ダイヤモンド膜)に、そのダイアモンド膜の、2次電子引き出し面とは同一薄膜の異なる相対角度相対位置にある別の場所にある、或いは同一面の異なる相対角度にある薄い金属薄膜等を着けた1次高エネルギー励起量子入射面から1次高エネルギー励起量子を入射させ、
(3)この1次高エネルギー励起量子がダイアモンド膜中を通過する、或いは進入後別角度で反射する際に、1次高エネルギー励起量子の経路周辺に沿って、非弾性電子散乱等によりダイヤモンド膜中の価電子帯に充満している電子にギャップエネルギーΔの2−3倍程度以上のエネルギーを与えて、ダイヤモンド膜の価電子帯の電子を伝導帯へ励起移動させ、空孔を価電子帯に励起して多数の電子空孔対を生成し、またフォノンを励起し、その全運動エネルギーEを完全に費やして、1次高エネルギー励起量子よりも2-5桁多い多数の電子と空孔の対を其々伝導帯と価電子帯に生成し、この価電子帯の空孔の数と伝導帯の電子の数は同数で全運動エネルギーをギャップエネルギーの2−3倍(電子空孔対生成に必要な平均必要エネルギーは大体13eV程度の値以上である。)で割った数と同程度の増倍数{ (増倍数N=E/(2.2・Δ+Nr・Eフォノン ), Δ: ギャップエネルギー, Nr:フォノン数、Eフォノン:平均フォノンエネルギー)となり、フォノン励起などのエネルギー散逸が多数起こった場合にはこの増倍数は減少し、この空孔と電子の多数の電荷担体(以下キャリア)が注入された状態が生成し、
(4)負電子親和力を持つ表面から、ダイヤモンド膜の内部に印加された電界と外部に印加された電界により、最大この増倍数程度の、桁違いに増倍された、大きな数の、2次電子が引き出されることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記1次高エネルギー励起量子が、バンドギャップ構造を持つ物質のギャップエネルギーよりも2-5桁以上多い高い運動エネルギーを持ち、そのバンドギャップ構造を持つ物質中で2-5桁多い数の多数の空孔電子対を励起する能力のある極紫外線、X線、電子、陽電子、陽子、反陽子、重イオン、中間子等の量子であり、又前記量子源が、極紫外線やX線のような光子の場合には紫外線発生装置、X線発生装置若しくは放射光装置であり、電子の場合には光電子陰極、熱電子陰極、電界放射陰極若しくはその他の電子陰極であり、又はその他の量子の場合にはこれらの量子を発生する能力を持つ個々の超高出力レーザー若しくは加速器である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ダイアモンド膜が、十分厚く、ギャップエネルギーより十分高いエネルギーを持った1次高エネルギー励起量子が直接入射面から2次電子引き出し面まで通過することがほとんどなく、通過する1次高エネルギー励起量子がギャップエネルギーと比べて十分低いエネルギーを持つ、また1次高エネルギー励起量子が、入射面から2次電子引き出し面までほぼダイヤモンド膜厚みより短いが、引き出し面に近傍の最大平均進入経路長さ位置(電子飛程長)まで達することが可能な1次高エネルギー励起量子の運動エネルギーまで加速されてからダイアモンド膜に入射されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ダイアモンド膜が十分薄く、ギャップエネルギーより十分高いエネルギーを持ったまま1次高エネルギー励起量子が直接入射面から2次電子引き出し面まで通過し、また1次高エネルギー励起量子がギャップエネルギーと比べて高いエネルギーを持って、ダイアモンド膜を通過する、2次電子と異なる性質の1次高エネルギー励起量子を分別して処理し、目的の2次電子の性質を劣化することなく引き出すことができ、したがって1次高エネルギー励起量子が入射面から2次電子引き出し面までのダイヤモンド膜厚みより長い飛程を持つが、引き出し面に近傍の最大平均進入経路長さ位置(電子飛程長)よりはるかに長い深さまで達することが可能な1次高エネルギー励起量子の運動エネルギーまで加速されてからダイアモンド膜に入射されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
不純物の導入(以下、ドープと言う。)により空孔或いは電子のキャリアが注入されてP型或いはN型半導体、あるいはキャリアがほとんど無い真性半導体、あるいはドープされておらず絶縁物である、ダイアモンド膜の増倍膜において、半導体の膜内部に印加される高周波或いは直流或いは交流により、膜内のキャリアが偏在して膜内電界を打ち消さないほどキャリア濃度は低いこと、或いは絶縁体の膜内部に、1次高エネルギー励起量子により注入されるもの以外の定常的に分布するキャリアはわずかしか無く、高周波或いは直流或いは交流電界が安定に印加され、安定に増倍電子が輸送され、2次電子として引き出されることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
半導体或いは絶縁体のダイアモンド膜の内部に、外部から高周波或いは直流或いは交流電界を印加しない場合において、或いは、膜内のキャリアが偏在して外部から印加される膜内電界が打ち消され、あるいは減衰された場合において、発生増倍させた2次電子が、拡散によって安定に輸送される場合、さらにまた隣接する金属、半導体などから流入する多数キャリア或いは少数キャリア等の偏在によってある程度の膜内電界が存在する場合において、特定の目的に合った十分な数の、しかしながら上記の予想される増倍数よりは少ない数の、2次電子として引き出されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
負電子親和力を持つ水素終端処理層或いは負電子親和力を持つアルカリ金属単層膜等を2次電子引き出し面に持つダイアモンド単結晶膜、ダイヤモンド多結晶膜又はダイアモンド類似炭素膜(以下ダイヤモンド膜)に、そのダイアモンド膜の、2次電子引き出し面とは同一薄膜の異なる相対角度相対位置にある別の場所にある、或いは同一面の異なる相対角度にある薄い金属薄膜等を着けた1次高エネルギー励起量子入射面から構成されたダイヤモンド電子源。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2006−260817(P2006−260817A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73240(P2005−73240)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】