説明

ダイカストマシンのプランジャースリーブ構造

【課題】本発明は、スリーブの温度差による変形を防止したダイカストマシンのプランジャースリーブ構造(射出スリーブ構造)の提供を目的とする。
【解決手段】コールドチャンバーからなるダイカストマシンのプランジャースリーブ構造であって、少なくともスリーブ上部とスリーブ底部に温度センサーを設け、スリーブ周壁内に冷却水路を形成し、前記スリーブ上部と底部との温度が均一になるように冷却制御したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカストマシンのプランジャースリーブの熱変形を防止するのに効果的なスリーブ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミダイカスト鋳造技術はJIS ADC12アルミニウム合金等の鋳造用合金の溶湯を金型内に高圧、高速に射出する技術である。
ダイカスト鋳造は、アルミ合金の溶湯をダイカストマシンのプランジャースリーブ内に注湯し、プランジャー等により高圧、高速に溶湯を金型に射出することから、生産性に優れる。
また、ダイカスト鋳造にはホットチャンバー方式とコールドチャンバー方式とがあるが、アルミニウム合金の場合に、溶湯が比較的高温であることから設備的に構造が簡単で安価なコールドチャンバー方式を採用している場合が多い。
しかし、コールドチャンバー方式では、プランジャースリーブに設けた湯口からラドルにてアルミ合金の溶湯を注湯し、プランジャーチップで金型内に高速、高圧で射出する工程を繰り返すことになる。
この場合に、注湯される溶湯の量は、スリーブ内容積の約半分ぐらいであり、スリーブの上部には空間ができる。
従って、スリーブの底部は繰り返し注湯される高温の溶湯によって温度上昇するが、これに対してスリーブの上部は空間が存在することから相対的に温度上昇が少ない。
その結果、スリーブの底部の方が上部より膨張量が多くなり、いわばバナナのようにスリーブ長手方向両端が反り上がる変形が生じる。
スリーブにこのような変形が生じると、スリーブ内周に沿って射出前進、及び後退を繰り返すプランジャーのチップとの間にねじれが発生し、チップにカジリが生じたり、磨耗が早くなったりする。
チップにカジリや磨耗が生じるとスリーブとチップとの間の潤滑油がスリーブ内に漏れやすくなる。
特に、真空ダイカストの場合に、チップの潤滑油が溶湯に入り込むとガス化し、吸引効果が弱くなる。
特許文献1には、耐熱変形性に優れた積層円筒体からなるプランジャースリーブを開示するが、上記のような、温度差による反り変形を改善できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−205666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、スリーブの温度差による変形を防止したダイカストマシンのプランジャースリーブ構造(射出スリーブ構造)の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るコールドチャンバーからなるダイカストマシンのプランジャースリーブ構造は、少なくともスリーブ上部とスリーブ底部に温度センサーを設け、スリーブ周壁内に冷却水路を形成し、前記スリーブ上部と底部との温度が均一になるように冷却制御したことを特徴とする。
本明細書においては、ダイカストマシンに水平方向に配置した円筒状のプランジャースリーブ(以下、必要に応じて単にスリーブと称する。)の上側の上部といい、下側を底部と表現する。
本発明にてスリーブに温度センサーを取り付けるのは、スリーブの上部温度と底部温度を検知し、冷却水にて底部が必要以上に高温になるのを防ぐのが目的であり、スリーブ全体を低く抑えるのが目的ではない。
スリーブ内でアルミ合金の溶湯温度が下がり過ぎると鋳造品質に悪い影響を与えるからである。
温度センサーは配置場所が多い方が均一制御するのに良いが、スリーブ長手方向のバナナ変形を防止するには、少なくとも上部温度と底部温度を検知する必要がある。
【0006】
ここで、冷却水路は、スリーブ周壁全周に亘って配設してあり、当該スリーブの底部側から給水すると、底部の熱で温度が上昇した冷却水が上部側に廻り、スリーブの全周が均一の温度になりやすい。
【0007】
また、冷却水路に4.5〜6.5kg/cmの高圧水を通水すると、素早く冷却水が流れ、それだけ速く温度均一になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明にあっては、スリーブ上部とスリーブ底部に温度センサーを設け、スリーブ周壁内に冷却水路を形成することで、スリーブの上部と底部との温度が均一になるように冷却制御したことにより、スリーブのバナナ変形を防止できるため、プランジャーチップのカジリや異常摩耗が少なくなり、チップの寿命が延びると共に、溶湯への潤滑油漏れを抑え、真空ダイカストにおける減圧不良を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ダイカストマシンのプランジャースリーブ構造及び金型構造例を示す。
【図2】プランジャースリーブの直交方向断面図を示す。
【図3】金型方案の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、横型ダイカストマシンのプランジャースリーブ構造及び金型の縦断面を示す。
ラドル等で汲み上げたアルミ合金の700℃前後の溶湯Mを湯口11cからスリーブ11内に注湯し、先端部にプランジャーチップ10aを取り付けたプランジャー10を高速、高圧にて前進させ溶湯をキャビティ内Cに射出する。
スリーブ11は略円筒形状をしていて、本実施例では、底部の湯口11c寄りと金型のランナー寄りの2ヶ所にそれぞれ温度センサー12a、12bを取り付け、上部の金型寄りに温度センサー12cを取り付けた例になっている。
スリーブ11は図2に直交方向の断面図を示すように、スリーブ11の全周に亘って冷却水路14が形成され、底部に給水管3を連結してある。
冷却水路は図1に示すようにスリーブの底部の温度が異常に高温になるのを抑えるべく、複数の冷却水配管13a、13b、13c、13dが適宜配置されている。
冷却水は約4.5〜6.5kg/cmの高圧で送水される。
溶湯Mはラドル等にて所定量、スリーブ内に注湯されるが、図2に示すように、上部に空間Vができるので、スリーブの底部は約700℃前後あるアルミ合金の溶湯により温度上昇するが、上部はそれより温度上昇が少なく、繰り返しショットするにつれて上部と底部との温度差が大きくなる。
この温度差がスリーブの膨張差になり、スリーブが長手方向に円筒状に長いので、バナナのように変形する恐れがあるが、上部の温度と底部の温度を検知比較し、温度差が20〜50℃以内になるように冷却制御した。
【0011】
本実施例の金型構造はエアーの巻き込みによるガス巣の発生を防止すべく、溶湯の射出前にキャビティC内を真空(減圧)にしながら射出するいわゆる真空ダイカスト用を示す。
図3に固定型1,可動型2を示し、図1に金型縦断面構造を示すように、真空ポンプに連結されたバルブ装置3と溶湯の流れ先端部を検知する検知装置4を有する。
また、図3に示すように、金型に複数の温度センサー15a〜15eをキャビティ面と金型冷却配管との間の所定の位置、例えば、中間に配置し、予め温度センサーで検知した値と実際のキャビティ面の温度との相関を求めておき、鋳造製品に応じて最適になるように冷却するのがよい。
この場合も高圧で冷却水を通水するのがよい。
【符号の説明】
【0012】
1 固定型
2 可動型
10 プランジャー
10a プランジャーチップ
11 スリーブ
11a スリーブ上部
11b スリーブ底部
12a 温度センサー
13 給水管
13a,13b,13c,13d 配管
14 冷却水路
C キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コールドチャンバーからなるダイカストマシンのプランジャースリーブ構造であって、
少なくともスリーブ上部とスリーブ底部に温度センサーを設け、
スリーブ周壁内に冷却水路を形成し、
前記スリーブ上部と底部との温度が均一になるように冷却制御したことを特徴とするプランジャースリーブ構造。
【請求項2】
前記冷却水路は、スリーブ周壁全周に亘って配設してあり、当該スリーブの底部側から給水することを特徴とする請求項1記載のプランジャースリーブ構造。
【請求項3】
前記冷却水路に4.5〜6.5kg/cmの高圧水を通水することを特徴とする請求項1又は2記載のプランジャースリーブ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−206827(P2011−206827A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78218(P2010−78218)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(500442674)株式会社ダイエンジニアリング (9)