説明

ダイカスト用水性離型剤

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はダイカスト用水性離型剤に関する。アルミニウム合金や亜鉛合金等を射出成形するダイカストでは、これら金属類の溶湯を成形型内へ射出するに先立ち、該成形型内に離型剤が塗布される。本発明は、上記のような離型剤であって、成形型から継続して高品質の成形品を取り出すことができ、しかも作業環境や公害上の問題を引き起こすことのない、高温潤滑性のダイカスト用水性離型剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、ダイカスト用離型剤としては、鉱物油や動植物油をベースとした潤滑成分に、耐熱性や極圧性付与剤として脂肪酸、ワックス、パラフィン、グリース又はシリコン等を加え、更にはピグメントとして黒鉛、アルミニウム粉末又は硫化モリブデン等を加えて、通常はこれらを適当な乳化剤を用いてエマルジョン化したものが使用されている。
【0003】ところが、これら従来のダイカスト用離型剤には、例えば600〜750℃のアルミニウム溶湯を成形型内へ高速高圧で射出して成形するという苛酷なダイカスト条件下において、次のような重大な欠点がある。1)本質的な耐熱性不足によって、該ダイカスト用離型剤の分解生成物(タール状物質)が成形型内周面に付着残留してこれが成形品に転着したり、該分解生成物が成形型内周面に遂次付着堆積してこれが成形品の寸法精度を著るしく阻害したりする。そしてこれらは結局、焼付き、湯じわ、巣、圧もれ等の成形不良を引き起こす。2)また同様に本質的な耐熱性不足によって、該ダイカスト用離型剤を成形型へ塗布する際や成形後に成形型を型開きする際に多量の油煙が発生して作業環境を著るしく悪化する。しかも該ダイカスト用離型剤は通常エマルジョンの形態でスプレー塗布されるのであるが、かかるスプレー塗布の際に飛散したものによってダイカストマシン周辺が油で汚染され、このように飛散したり或いはタレたりしたものが結局は冷却水等に混入して公害排水となる。加えて必然に、成形型内周面やダイカストマシン周辺の面倒な清掃作業を頻繁に強いられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、鉱物油や動植物油を潤滑成分のベースとする従来のダイカスト用離型剤では、成形型から継続して高品質の成形品を取り出すことができず、しかも作業環境や公害上の問題を引き起こす点である。
【0005】
【課題を解決するための手段】しかして本発明者らは、上記のような課題を解決するべく研究したが、従来のように鉱物油や動植物油を潤滑成分のベースとすることによって得られる単純な油性効果ではどうしても上記のような課題を解決することができなかった。そこで更に追究した結果、特定のポリシロキサン化合物で主形成された微粒子がコロイド状に懸濁した水性懸濁液を用いることによって得られる該微粒子の滑性効果を利用するのが正しく好適であることを見出した。
【0006】すなわち本発明は、下記のポリシロキサン化合物で主形成された微粒子がコロイド状に懸濁した水性懸濁液からなることを特徴とするダイカスト用水性離型剤に係る。
【0007】ポリシロキサン化合物:下記の式1で示される構成単位の1種又は2種以上から構成され、且つnが1以下の構成単位を15モル%以上含有するポリシロキサン化合物。
【0008】
【式1】


【0009】[但し、Rはケイ素原子に直接結合した炭素原子を有する、同時に同一又は異なる非置換又は置換の炭化水素基。nは0〜3の整数。]
【0010】式1で示される構成単位は、SiO2、RSiO3/2、R2SiO、R3SiO1/2で示される構成単位のいずれかであり、本発明におけるポリシロキサン化合物は、かかる構成単位の1種又は2種以上から構成され、且つ該構成単位のうちでSiO2で示される構成単位及び/又はRSiO3/2で示される構成単位を15モル%以上含有するものである。
【0011】SiO2で示される構成単位及び/又はRSiO3/2で示される構成単位の総和が15モル%以上、好ましくは50モル%以上含有するポリシロキサン化合物で主形成された微粒子は、固体の球状粒子であって、離型剤として優れた滑性効果を発揮する。SiO2で示される構成単位及び/又はRSiO3/2で示される構成単位の総和が15モル%未満のポリシロキサン化合物で主形成された微粒子は、固体の不定形粒子や油状物を含有したものとなり、離型剤として所期の滑性効果を発揮しない。
【0012】上記のようなポリシロキサン化合物の構成単位において、Rはケイ素原子に直接結合した炭素原子を有する、同時に同一又は異なる非置換又は置換の炭化水素基である。非置換炭化水素基である場合のRとしては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アラルキル基等が挙げられるが、なかでも、メチル基、エチル基、ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基が有利に選択される。また置換炭化水素基である場合のRとしては、置換基としてハロゲン、エポキシ基、シアノ基、ウレイド基等を有する置換炭化水素基が挙げられるが、なかでも、γ−グリシドキシプロピル基、β−(3,4−エポキシ)シクロヘキシルエチル基、γ−クロロプロピル基、トリフルオロプロピル基等が有利に選択される。これらの非置換炭化水素基と置換炭化水素基とは任意の比率にすることができる。
【0013】次に本発明におけるポリシロキサン化合物で主形成された微粒子がコロイド状に懸濁した水性懸濁液の製造方法について説明する。先ず、加水分解によってシラノール基を形成し得る化合物(以下、シラノール基形成性化合物という)を水系媒体中で酸又はアルカリ等の加水分解触媒存在下に加水分解してシラノール化合物を生成させる。次に、該シラノール化合物を無機酸又は有機酸等の縮重合触媒の存在下に縮重合すると、ポリシロキサン化合物で主形成された微粒子がコロイド状に懸濁した水性懸濁液を得る。
【0014】上記シラノール基形成性化合物としては、各種のアルコキシシラン、クロルシラン、ハイドロジェンシラン、アシロキシシラン、シクロシロキサン化合物等が挙げられ、これらのシラノール基形成性化合物に含まれるアルコキシル基、クロル基、ハイドロジェン基、アシロキシ基等の反応性基が加水分解によってシラノール基となるのであるが、本発明においては、前述するように、加水分解によってシラノール基が1分子中に3又は4個形成されるようなシラノール基形成性化合物を用いる全シラノール基形成性化合物中で15モル%以上となるように用いることが必須である。
【0015】加水分解によってシラノール基が1分子中に3個形成されるシラノール基形成性化合物としては、各種のものが挙げられるが、メチルトリメトキシシラン、メチルジクロルメトキシシラン、メチルジクロルハイドロジェンシラン、メチルジクロルシラノール等のシラン化合物が有利に使用できる。また加水分解によってシラノール基が1分子中に4個形成されるシラノール基形成性化合物としては、これも各種のものが挙げられるが、テトラエチルシリケート(テトラエトキシシラン)、テトラクロルシラン等のシラン化合物が有利に使用できる。
【0016】用いる全シラノール基形成性化合物中で85モル%以下となるように用いるその他のシラノール基形成性化合物としては、これも各種のものが挙げられるが、1)ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジクロルシラン、ジメチルジハイドロジェンシラン、ジメチルクロルシラノール等の、1分子中に2個のシラノール基が形成されるシラン化合物、2)オクタメチルシクロテトラシロキサン等の、1分子中に2個のシラノール基が形成されるシクロシロキサン化合物、3)トリメチルメトキシシラン、トリメチルクロルシラン、トリメチルハイドロジェンシラン等の、1分子中に1個のシラノール基が形成されるシラン化合物が有利に使用できる。
【0017】シラノール基形成性化合物として、グリシジル基、ウレイド基、アミノ基等の極性基で置換された炭化水素基を有するシラノール基形成性化合物を全シラノール基形成性化合物中で5〜30モル%となるように用いると、得られる水性懸濁液は安定性に優れたものになる。かかるシラノール基形成性化合物としては、これも各種のものが挙げられるが、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N,N−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン等が有利に使用できる。
【0018】本発明における水性懸濁液を製造するには、前述したように、ポリシロキサン化合物の原料であるシラノール基形成性化合物を水系媒体中で加水分解し、生成したシラノール化合物を縮重合する。ここで用いる水系媒体は、水を30重量%以上、好ましくは90重量%以上含有する均一溶媒である。水以外に併用できる溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン等の水溶性溶媒が挙げられる。
【0019】かくして得られる水性懸濁液はここに含まれる微粒子の濃度が5〜50重量%となるようにしたものが製造上及び安定性の上から有利である。また該水性懸濁液にダイカスト用水性離型剤としてより優れた性能を発揮させるためには、ここに含まれる微粒子は、その粒子径分布を可及的に狭くした、平均粒子径が0.01〜0.3μmの均等な球状のものが好ましく、平均粒子径が0.02〜0.2μmの均等な球状のものが更に好ましい。そのためには、前述したようなシラノール化合物の縮重合の際に界面活性剤を適宜選択して用いるのが有利である。
【0020】本発明のダイカスト用水性離型剤は、その具体的使用に際して、これを適宜の濃度となるように水で希釈し、スプレー等の方法によって金型に塗布する。この際、界面活性剤、消泡剤、防錆剤等を適宜併用することもできる。
【0021】
【実施例】以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、試験区分1として実施例及び比較例を、また試験区分2として評価例を挙げる。尚、各例において部は重量部を、%は重量%を表わす。また種々の物性値及び特性は次のように測定又は評価したものである。
【0022】平均粒子径:微粒子がコロイド状に懸濁した水性懸濁液を動的光散乱法により電気泳動光散乱光度計ELS−800(大塚電子社製)を用いて測定した。
【0023】形状:微粒子がコロイド状に懸濁した水性懸濁液(有効濃度0.1%希釈)を試料板に薄く塗布した後、乾燥し、金蒸着して、電子顕微鏡(SEM)で観察評価した。
【0024】・試験区分1(実施例及び比較例)
・・実施例1撹拌機を備えた反応容器にイオン交換水1080g及び酢酸0.2gを仕込み、20℃で撹拌しながら、メチルトリメトキシシラン1292g(9.50モル)、テトラエチルシリケート83g(0.40モル)及びγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン529g(1.67モル)を添加した後、30℃で30分間保持して、生成したシラノール化合物の透明な溶液を得た。
【0025】別の撹拌機を備えた反応容器にイオン交換水475g及びドデシルベンゼンスルホン酸50gを仕込み、内温が80〜85℃になるまで加熱した。加熱した溶液を撹拌しながら、上記で得たシラノール化合物の透明な溶液300gを約2時間かけて滴下した。滴下終了後、15分熟成し、更に1時間かけて撹拌しながら徐冷して、炭酸ナトリウム水溶液でPH7となるように中和した。そして中和したものを70℃まで加熱し、副生アルコールを減圧下に留去して、微粒子がコロイド状に懸濁した水性懸濁液からなるダイカスト用水性離型剤(実施例1)を得た。水性懸濁液中の微粒子は球状であり、その平均粒子径は0.05μm、その濃度は13.8%であった。
【0026】実施例1のダイカスト用水性離型剤の場合と同様にして実施例2〜5及び比較例1のダイカスト用水性離型剤を得た。これらの内容を表1にまとめて示した。
【0027】
【表1】


【0028】注)表1において、S−1〜S−5の欄の数値:シラノール基形成性化合物の仕込みモル%S−1:テトラエチルシリケートS−2:オクタメチルテトラシクロシロキサンS−3:メチルトリメトキシシランS−4:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランS−5:γ−アミノプロピルトリメトキシシラン*1:粒子径100μm以上の粗大粒子が存在する
【0029】・試験区分2(評価例)ダイカスト用アルミニウム合金(ADC−12)を用い、次の条件下で農業用機械のギヤーケースをダイカストした。
使用機械:2000トンダイカストマシーン溶湯温度:平均720℃射出圧力:1500kg/cm2程度ダイカスト中の金型温度:(湯流れ先端側)120℃金型:中子が上下左右、主型が固定及び可動の6面開きのもの
【0030】射出に先立ち、金型内周面全域に濃度0.8%に調整したダイカスト用離型剤を均一スプレー塗布した。ダイカスト用離型剤の内容及びダイカストの結果を表2にまとめて示した。各評価例は、従来のダイカスト用離型剤を用いた評価例7〜9を除き、いずれも1000個づつダイカストしたときの不良率(%)、カス堆積の厚さ(mm)及び中子抜けずの回数(回)で示した。但し、ダイカストを途中で中止した評価例7〜9については、そのときまでの同様の数値で示した。尚、不良率の項目は製品の外観を肉眼観察し、またカス堆積は金型にカスが最も堆積した部分のその厚さ(mm)を測定し、更に中子抜けずは金型を開いても中子が抜けない場合にこれをバーナーで加熱して抜き出した回数を示す。
【0031】
【表2】


【0032】注)表2において、R−1:鉱物油37.5部、シリコン油20部及び非イオン界面活性剤42.5部からなるダイカスト用離型剤のエマルジョンR−2:鉱物油25部、カルナバワックス37.5部、非イオン界面活性剤18.5部、エチレングリコール17.5部及び防錆剤1.5部からなるダイカスト用離型剤のエマルジョンR−3:ポリジメチルシロキサン(25℃における粘度1万センチストークス)85部及び非イオン界面活性剤15部からなるダイカスト用離型剤のエマルジョン
【0033】
【発明の効果】既に明らかなように、以上説明した本発明には、成形型から継続して高品質の成形品を取り出すことができ、しかも作業環境や公害上の問題を引き起こすことがないという効果がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記のポリシロキサン化合物で主形成された微粒子がコロイド状に懸濁した水性懸濁液からなることを特徴とするダイカスト用水性離型剤。ポリシロキサン化合物:下記の式1で示される構成単位の1種又は2種以上から構成され、且つnが1以下の構成単位を15モル%以上含有するポリシロキサン化合物。
【式1】


[但し、Rはケイ素原子に直接結合した炭素原子を有する、同時に同一又は異なる非置換又は置換の炭化水素基。nは0〜3の整数。]

【特許番号】第2931127号
【登録日】平成11年(1999)5月21日
【発行日】平成11年(1999)8月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−139649
【出願日】平成3年(1991)5月14日
【公開番号】特開平4−337390
【公開日】平成4年(1992)11月25日
【審査請求日】平成10年(1998)1月7日
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【参考文献】
【文献】特開 昭61−27141(JP,A)
【文献】特開 昭63−97695(JP,A)
【文献】特開 平3−73317(JP,A)
【文献】特開 昭52−95586(JP,A)
【文献】特公 昭47−25567(JP,B1)