説明

ダイナミックゲインイコライザー

本発明は、光アンプの利得波長特性を平坦化するダイナミックゲインイコライザー提供する。ダイナミックゲインイコライザーは、複数段の光分岐カプラ1を接続して形成された多段光分岐カプラ7と、複数段の光合波カプラ3を接続して形成された多段合波カプラ11と、伝搬光の位相を可変可能な光位相調節器9および伝搬光に設定時間遅延を付与する光遅延線10を有する光接続回路12とを有する光導波回路2からなり、前記多段光分岐カプラ7の少なくとも1つの光分岐カプラ1と多段光合波カプラ11の少なくとも1つの光合波カプラ3には光振幅可変手段21,21がそれぞれ設けられており、前記多段光分岐カプラ7と前記多段光合波カプラ11はそれぞれ前記多段光分岐カプラ7の光出力端17の中心配列位置と前記多段光合波カプラ11の光入力端18の中心配列位置を結ぶ線の延長線に対して非対称に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、波長分割多重伝送等の光通信分野に用いられるダイナミックゲインイコライザーに関するものである。
【背景技術】
高密度波長多重伝送システムにおいて、そのシステムを支えているキーテクノロジーの一つがEDFA(Er3+Doped Fiber Amplifer)を用いた光アンプである。EDFAは、例えば図5に示すような利得波長特性を有している。つまり、EDFAは、波長1530nm〜1560nmに高い利得を有するため、利得波長特性が平坦ではない。
なお、図5の特性線a〜eは、EDFAに入力されるポンプ光レベルの小さい順にその特性を示している。つまり、これらの特性線a〜eのうち、特性線aは、ポンプ光レベルが最も小さい場合の利得波長特性を示し、特性線eは、ポンプ光レベルが最も大きい場合の利得波長特性を示す。
そこで、近年、EDFAを高密度波長多重伝送システムに適用するために、EDFAの利得波長特性を平坦化することが行われるようになった。この利得平坦化は、EDFAの利得波長特性と反対の損失波長特性を有する光利得等化フィルタを適用して行われている。
また、利得平坦化は、多段マッハツェンダ光干渉計回路(MZI)を用いたラティスフィルタ型のものも提案されている(例えば、神宮寺他、「Lawson法を基礎にしたラティス型利得等化器の設計」2001年電子情報通信学会総合大会C−3−50)。
さらに、PLCを用いた利得平坦化の別の例として、光トランスバーサルフィルタ型のものも提案されている(例えば、A.Ranalli and B.Fondeur,「PLANAR TAPPED DELAY LINE BASED,ACTIVELY CONFIGURABLE GAIN−FLATTENING FILTER」Proc.ECOC,Paper7−1−2,2000.)。
【発明の開示】
本発明のダイナミックゲインイコライザーの第一実施形態は、下記を備えている。複数段の光分岐カプラを接続して形成された多段光分岐カプラと、複数段の光合波カプラを接続して形成された多段合波カプラと、伝搬光の位相を可変可能な光位相調節器および伝搬光に設定時間遅延を付与する光遅延線を有する光接続回路とを有する光導波回路、
前記多段光分岐カプラの少なくとも1つの光分岐カプラと多段光合波カプラの少なくとも1つの光合波カプラには光振幅可変手段がそれぞれ設けられており、
前記多段光分岐カプラと前記多段光合波カプラはそれぞれ前記多段光分岐カプラの光出力端の中心配列位置と前記多段光合波カプラの光入力端の中心配列位置を結ぶ線の延長線に対して非対称に形成されている。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のダイナミックゲインイコライザーの一実施形態を示す要部構成図である。
図2Aは、上記実施形態例のダイナミックゲインイコライザーの光遅延線およびその近傍の構成を示す説明図である。図2Bは、図2Aの光接続回路の他の構成例を示す説明図である。
図3は、上記実施形態例の損失波長特性と、本実施形態例により利得平坦化を行うEDFAの利得波長特性と共に示すグラフである。
図4は、上記実施形態例によりEDFAの利得平坦化を行った後の利得波長特性を示すグラフである。
図5は、EDFAの利得波長特性例を示すグラフである。
図6は、光トランスバーサルフィルタの構成例を示す説明図である。
図7は、本発明のダイナミックゲインイコライザーの他実施形態を示す要部構成図である。
図8は、図7の実施形態例によりEDFAの利得平坦化を行った後の利得波長特性を示すグラフである。
図9A、図9B、図9Cは、本発明のダイナミックゲインイコライザーのさらに他実施形態を示す要部構成図である。
図10は、図1の実施形態例の損失波長特性と、本実施形態例により利得平坦化を行うEDFAの利得波長特性との実施例を共に示すグラフである。
図11は、図10の実施形態例によりEDFAの利得平坦化を行った後の利得波長特性を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
ゲインイコライザーは、様々なタイプのものが考えられる。例えば、光利得等化フィルタを用いるもの、音響光学フィルタを用いるもの、MEMS(マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム)を用いるもの、PLC(平面光導波回路)を用いるもの等がそれに該当する。まず、これらのダイナミックゲインイコライザーの検討を行なう。
まず、光利得等化フィルタは、以下のような方法によってEDFAの利得波長特性と反対の損失波長特性を実現している。つまり、光利得等化フィルタの実現方法の提案例の一つは、例えば反射率と周期(FSR)の異なる複数のエタロンフィルタを組み合わせて所望のスペクトルを実現する方法である。
また、光利得等化フィルタの実現方法の別の提案例として、誘電体多層膜フィルタにより所望のスペクトルを実現する方法や、長周期型のファイバグレーティング(FBG)を利用した方法が提案されている。
なお、上記のような光利得等化フィルタは、EDFAの一つの利得波長特性の利得を平坦化するように、一般的にカスタマイズ設計されている。
しかしながら、EDFAの利得波長特性は、そのポンプ光レベルにより変化するので、上記のように、一つの利得波長特性の利得を平坦化するように設計されたフィルタは、ポンプ光レベルの変化にダイナミックな対応ができないといった問題があった。
そこで、将来的には、EDFAの利得波長特性の変化に対応させて損失波長特性を可変できるダイナミックゲインイコライザーの実現が必須である。
上述したゲインイコライザーのうち、PLCを用いたものは、その高い制御性、安定性の面から、他のデバイスと比較して有望なデバイスとなりうると考えた。このため、PLCを用いたタイプについて検討を進める。そこで、PLCを用いたダイナミックゲインイコライザーとして、多段マッハツェンダ光干渉計回路(MZI)を用いたラティスフィルタ型について検討した。
また、PLCを用いたダイナミックゲインイコライザーの別の例として、可変光カプラ、光遅延線、位相調節器を用いた光トランスバーサルフィルタ型についても検討した。
これらのPLCを用いたダイナミックゲインイコライザーは、いずれも、挿入損失が比較的大きいといった問題があった。ダイナミックゲインイコライザーを光アンプの利得等化フィルタとして使用する場合、S/N比の問題から、挿入損失が小さいことが望まれており、挿入損失を低減することは重要である。
図1は、挿入損失を抑制でき、かつ、ポンプ光レベルによらず光アンプの利得等化を可能とする本発明のダイナミックゲインイコライザーの一実施形態を示している。以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
本発明に係るダイナミックゲインイコライザーの一実施形態例が示されている。図1に示すように、本実施形態例のダイナミックゲインイコライザーは、図1に示す回路構成を有する光導波回路2を基板15上に形成した平面光導波回路により形成されており、光導波回路2は、多段光分岐カプラ7と多段光合波カプラ11を有している。
多段光分岐カプラ7は、複数段の光分岐カプラ1を接続して形成されており、複数の光出力端17を有している。多段光合波カプラ11は、複数段の光合波カプラ3を接続して形成されており、複数の光入力端18を有している。
また、本実施形態例においては、複数の光分岐カプラ1と複数の光合波カプラ3のうち少なくとも1つはY分岐回路を有しており、かつ、複数の光分岐カプラ1と複数の光合波カプラ3のうち少なくとも1つはマッハツェンダ光干渉計回路を有している。
例えば第1段の光分岐カプラ1(1a)、第3段、第4段の光分岐カプラ1(1c,1d)はマッハツェンダ光干渉計回路を有し、第2段の光分岐カプラ1(1b)はY分岐回路を有している。また、最終段の光合波カプラ3(3a)、最終段から数えて3段目、4段目の光合波カプラ3(3c,3d)はマッハツェンダ光干渉計回路を有し、最終段の前段の光合波カプラ3(3b)はY分岐回路を有している。
前記多段光分岐カプラ7のそれぞれの光出力端17と多段光合波カプラ11の対応する光入力端18との間には、光接続回路12が介設されている。光接続回路12は、伝搬光の位相を可変可能な光位相調節器9と伝搬光に設定時間遅延を付与する光遅延線10を有して成る。各光位相調節器9は1本の光導波路を有してこの光導波路にTiNiヒータの位相調節手段6を形成して成る。
なお、本実施形態例では、上記光接続回路12は、図1、図2Aに示すように、光位相調節器9と光遅延線10を直列接続して形成されているが、例えば図2Bに示すように、光遅延線10に位相調節手段6を設けて光位相調節器9の機能をもたせて光接続回路12を形成してもよい。
また、前記多段光分岐カプラ7の少なくとも1つの光分岐カプラ1には光振幅可変手段21が設けられており、多段光合波カプラ11の少なくとも1つの光合波カプラ3には光振幅可変手浚22が設けられている。
本実施形態例では、マッハツェンダ光干渉計回路により形成された光分岐カプラ1(1a,1c,1d)と光合波カプラ3(3a,3c,3d)に光振幅可変手段21,22が設けられている。これらの光振幅可変手段21,22は、TiNiヒータにより形成されている。
多段光分岐カプラ7と多段光合波カプラ11はそれぞれ、多段光分岐カプラ7の光出力端17の中心配列位置と多段光合波カプラ11の光入力端18の中心配列位置を結ぶ線の延長線に対して非対称に形成されている。
また、多段光分岐カプラ7の光出力端17と多段光合波カプラ11の光入力端18は互いに同じ奇数個ずつ設けられており、これらの各光出力端17と対応する光入力端18間に設けられる各光遅延線10は互いに長さを異にしている。
図中、最下部に設けられている光遅延線10aを基準とし、下から2番目に設けられている光遅延線10bは光遅延線10aよりdL長く、下から3番目の光遅延線10cは光遅延線10aより2dL長く形成され、下から4番目の光遅延線10dは光遅延線10aより3dL長く形成されている。
また、この長さの異なる光遅延線10のうち真ん中の長さを有する実質的中心光遅延線10eは最上部に設けられて、前記光遅延線10aより4dL長く形成され、下から5番目以降に設けられている光遅延線10f〜10iは、それぞれ、順にdLずつ長く形成され、光遅延線10iは光遅延線10aより8dL長く形成されている。ここで、dL=39.9μmである。
また、上記実質的中心光遅延線10eの入力側には前記多段光分岐カプラ7を形成する第1段の光分岐カプラ1(1a)の一方の光出力部(つまり光出力端17e)が接続され、該第1段の光分岐カプラ1aの他方の光出力部には第2段の光分岐カプラ1(1b)の光入力部が接続されて、第2段以降の光分岐カプラ1により光分岐部13が形成されている。
図2Aに示すように、光分岐部13の光出力端は多段光分岐カプラ7の光出力端17(17a〜17d、17f〜17i)を成し、それぞれ、前記実質的中心光遅延線10eを除く対応する光遅延線10(10a〜10d、10f〜10i)の光入力側に接続されている。
図1に示すように、前記実質的中心光遅延線10eの出力側には前記多段光合波カプラ11の最終段の光合波カプラ3(3a)の一方の光入力部(つまり光入力端18e)が接続されており、該最終段の光分岐カプラ3aの他方の光入力部には該最終段の前段の光合波カプラ3(3b)が接続されて、最終段の前段以前の光合波カプラ3により光合波部14が形成されている。
図2Aに示すように、光合波部14の光入力端は多段光合波カプラ11の光入力端18(18a〜18d、18f〜18i)を成し、それぞれ、前記実質的中心光遅延線10eを除く対応する光遅延線10(10a〜10d、10f〜10i)の光出力側に接続されている。
前記光分岐部13と前記光合波部14はそれぞれ、前記光分岐部13の光出力端の中心配列位置と前記光合波部14の光入力端の中心配列位置を結ぶ線の延長線に対して線対称に形成されている。
本実施形態例は以上のように構成されており、本実施形態例の構成を決定するにあたり、本発明者は、図6に示すような、従来の光トランスバーサルフィルタ構成による任意波形フィルタ合成について定式化する検討を行った。なお、図6において、本実施形態例のダイナミックゲインイコライザーを形成する光導波回路2の構成要素と同一名称部分には同一符号が付してある。
図6に示すように、従来の光トランスバーサルフィルタは、複数の光出力端17を有する多段光分岐カプラ(スプリッタ)7と、複数の光入力端18を有する多段光合波カプラ(コンバイナー)11とを有している。
また、前記多段光分岐カプラ7のそれぞれの光出力端17と前記光合波カプラ11の対応する光入力端18との間には、可変光減衰器(VOA;Variable Optical Attenuation)8と位相調節器9と光遅延線10を有して成る光接続回路12が介設されている。この光トランスバーサルフィルタは、前記可変光減衰器8の光振幅と前記光位相調節器9の位相変化量を可変設定することにより光デジタルフィルタ1の光周波数特性を任意に可変設定可能としている。
前記各可変光減衰器8は、2本の光導波路(コア)を並設して成るマッハツェンダ光干渉計回路を有し、2つの方向性結合部4に挟まれた光導波路にヒータ5を形成して成る。前記各光位相調節器9は本実施形態例と同様に形成され、前記光遅延線10は、互いに光導波路の長さを異なる長さに形成して成る。
ここで、図6に示す光トランスバーサルフィルタにおいて、タップ数(多段光分岐カプラ7の分岐数)をNとすると、多段光分岐カプラ7から光位相調節器9までの伝達関数は、(数1)により表される。なお、nはタップ番号である。
【数1】

ここで、g=ajθnとおく。aは可変光減衰器8の光振幅量、θは位相調整器(位相シフタ)の位相変化量であり、これらを光トランスバーサルフィルタのタップ係数とする。jは√(−1)である。
光遅延線10から多段光合波カプラ11までの伝達関数を(数1)の伝達関数に合わせると、光トランスバーサルフィルタの伝達関数Gは、(数2)となる。
【数2】

なお、βは導波路の伝搬定数、ΔLは光遅延線の光路長差、neffは導波路の等価屈折率、cは光速、fは光周波数、1は整数である。
ここで、(数3)、(数4)、(数5)とすると(ただし、mは整数)、(数6)が導かれる。
【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

ここで、所望の光周波数特性G1からのサンプリング数をN’とすると、(数6)から(数7)の離散的フーリエ変換によりgが求まる。
【数7】

なお、この場合のタップ番号nは、−(N−1)/2≦n≦(N−1)/2(Nは奇数)、−N/2≦n≦N/2−1(Nは偶数)とする。よって、タップ係数(可変光減衰器8の光振幅aと光位相調節器9の位相変化量θ)は、それぞれ、(数8)、(数9)となる。
【数8】

【数9】

例えば図5に示したEDFAの利得波長依存性を等化するダイナミックゲインイコライザーを、図6に示した光トランスバーサルフィルタによりN=8で形成した場合、そのタップ係数は、表1に示すようになる。

ここで、Equalizer1’〜5’は、EDFAのポンプ光レベルが小さい順に並んでいる。また、光振幅は最大で規格化してある。
表1から明らかなように、従来の光トランスバーサルフィルタは、各タップへの光振幅aの割合が不均一であることが分かる。そして、従来の光トランスバーサルフィルタは、この光振幅の不均一性が、挿入損失に直接影響を及ぼすため、大きな損失が生じる。
ここで、図6の構成の場合、挿入損失は、(数2)から以下の式(数10)により表される値となる。
【数10】

そのため、図6に示す光トランスバーサルフィルタは、実質的中心光遅延線10(図6においては、タップ番号が4の光遅延線10d)を有する光接続回路12に光パワーの約94%が入力され、それ以外の光遅延線10を有する光接続回路12に残りの約6%の光パワーが入力することになる。
ただし、それぞれの光遅延線10には可変光減衰器8が接続されているので、可変光減衰器8によって光振幅が可変されて光パワーが減衰され、それぞれの光接続回路12を通る光には挿入損失が生じる。
そして、上記Equalizer1’〜5’の挿入損失は、表2に示すとおりになり、Equalizer5’の挿入損失は13.9dBとなる。

本発明者は、上記検討の結果、光トランスバーサルフィルタのタップ係数aが、その光遅延線10の実質的中心に対して線対称になるように決定されることに着目した。そして、複数の光接続回路12に入力する光の多くは、上記実質的中心となる光遅延線10(ここでは10d)を有する光接続回路12に入力することを考慮し、上記構成の本実施形態例のダイナミックゲインイコライザーを提案することにした。
つまり、本発明者は、まず、多段光分岐カプラ7の光出力端17と多段光合波カプラ11の光入力端18を互いに同じ奇数個ずつとし、多段光分岐カプラ7と多段光合波カプラ11を、それぞれ、多段光分岐カプラ7の光出力端17の中心配列位置と多段光合波カプラ11の光入力端18の中心配列位置を結ぶ線の延長線に対して非対称になるように形成した。
そして、前記多段光分岐カプラ7を形成する第1段の光分岐カプラ1(1a)の一方の光出力部(つまり光出力端17e)を実質的中心光遅延線10eの光入力側に接続し、実質的中心光遅延線10eの光出力側には、前記多段光合波カプラ11の最終段の光合波カプラ3(3a)の一方の光入力部(つまり光入力端18e)を接続した。
この接続により、実質的中心光遅延線10eを通る光は、実質的中心光遅延線10eと、上記第1段の光分岐カプラ1と光位相調節器9と、最終段の光合波カプラ3aのみを通ることになるので、その挿入損失はほぼゼロとなる。
そして、本実施形態例において、実質的中心光遅延線10eを有する光接続回路12に光パワーの約94%が入力され、それ以外の光遅延線10を有する光接続回路12に残りの約6%光パワーが入力され、この約6%の光パワーの挿入損失もほとんど無いので、光導波回路2の全体としての挿入損失がほぼゼロになるようにできる。なお、実質的中心光遅延線10eを有する光接続回路12に光パワーの約50%、約60%、約70%、約80%を入力させ、残りの光パワーである約50%、約40%、約30%、約20%を光遅延線10を有する光接続回路12に入力させても、上述の実施形態と同様の結果が得られた。
上記のように、本実施形態例は挿入損失が小さく、かつ、任意波形フィルタ合成については従来の光トランスバーサルフィルタと変わらないために、たとえEDFAに入力されるポンプ光レベルが変化しても、その変化に対応させてEDFAの利得波長特性を平坦化でき、かつ、挿入損失が小さいダイナミックゲインイコライザーを実現できる。
また、本実施形態例のダイナミックゲインイコライザーは、以下のようにして製造される。まず、火炎加水分解堆積法を用いてシリコン基板上に石英系ガラスのアンダークラッド膜、コア膜を形成する。
その後、図1に示した回路が描かれたフォトマスクを介してフォトリソグラフィー、反応性イオンエッチング法にてコア膜に光トランスバーサルフィルタパターンを転写し、コア(光導波路)の回路を形成する。その後、再度、火炎加水分解堆積法を用いて石英系ガラスのオーバークラッド膜を形成し、ダイナミックゲインイコライザー2を形成する。
また、多段光分岐カプラ7の光分岐カプラ1と多段光合波カプラ11の光合波カプラ7のうちマッハツェンダ光干渉計回路の方向性結合部4に挟まれた光導波路に光振幅可変手段21,22を形成する。これらの光振幅可変手段21,22は、それぞれ、スパッタ法によりTaヒーターを形成し、オーバークラッド膜上部にスパッタ法によりTiNiヒータを設けて形成する。
また、同様に、位相調節器9にもTiNiヒータにより位相調節手段6を形成する。さらに、これらのヒータへの給電用として、TiNi/Au電極を形成する。
そして、上記TiNi/Au電極から上記ヒータに給電して通電することによりヒータを発熱させ、その熱によって、石英系光導波路のコアにより形成された光分岐カプラ1と光合波カプラ3および位相調節器9に熱光学効果を発生させる。この熱光学効果により、光分岐カプラ1と光合波カプラ3の光振幅と光位相調節器9の位相調整量を可変する構成とする。
また、本実施形態例に適用したダイナミックゲインイコライザーは、前記タップ数を9タップに形成しており、本実施形態例のダイナミックゲインイコライザーのタップ係数は、表3に示すようになる。

ここで、Equalizer1〜5は、EDFAのポンプ光レベルが小さい順に並んでいる。また、光振幅は最大で規格化してある。
図3の特性線a〜eには、EDFAのポンプレベルに応じた利得波長特性が、ポンプ光レベルが小さい順に示されており、特性線a’、b’、c’、d’、e’には、本実施形態例のダイナミックゲインイコライザーの試作例Equalizer1、2、3、4、5の損失波長特性が示されている。試作例Equalizer1〜5は、それぞれ、表3に示したタップ係数を有する。
また、図4には、本実施形態例のダイナミックゲインイコライザーを用いて、図3の特性線a〜eに示した利得波長特性を有するEDFAの利得平坦化を行った結果が示されている。
これらの図から明らかなように、本実施形態例のダイナミックゲインイコライザーを用いて、EDFAの波長1.55μm帯(波長1530nm〜1560nm)の利得を平坦化できた。なお平坦化のレベル(Gainの最大値から最小値を引いた値)は、利得平坦化の最も厳しい条件である特性線eにおいて0.8dBであり、全ての特性線a、b、c、d、eにおいて1dB以下であった。
また、本実施形態例において、作製したダイナミックゲインイコライザー(Equalizer1〜5)の挿入損失は、どのポンプレベルに対しても約3dBであった。なお、この損失中には、実際の回路の伝搬損失、回路の過剰損失、光ファイバとの接続損失を含んでいる。
以上のように、本実施形態例は、EDFAのポンプ光レベルが変動しても、そのポンプ光レベル変動に対応させてEDFAの利得平坦化を図ることができ、かつ、挿入損失が小さいダイナミックゲインイコライザーを実現することができた。
なお、上記の実施形態の実施例として、光遅延線の長さ(dL)を41.1μmに設定し、図10に示すEDFAの利得波長特性の利得平坦化を行った。ダイナミックゲインイコライザーの設計値は下記の表4の通りである。表4に示すEqualizer1〜3は、EDFAのポンプ光レベルが小さい方から順に並んでいる。また、光振幅は最大で規格化してある。作製されたEqualizer1〜3(表4参照)の挿入損失は、どのポンプレベルに対しても約3dBであった。この挿入損失には、実際の回路の伝搬損失、回路の過剰損失、光ファイバーとの接続損失が含まれている。このEqualizer1〜3のフィルター特性とその利得平坦化を行った結果を図11に示す。各Equalizer1〜3による利得偏差は、±0.3dB以下に平坦化できた。

なお、本発明は上記実施形態例に限定されることはなく、様々な実施の態様を採り得る。例えばダイナミックゲインイコライザーのタップ数は特に限定されるものでなく適宜設定されるものである。例えば、図7に示すダイナミックゲインイコライザーの一実施例は、タップ数を5つとしたものである。
図7に示すダイナミックゲインイコライザーは、光トランスバーサルフィルタの分解能を下げることなく、図1のものよりタップ数が少ない構成となっている。図1、表1から、光トランスバーサルフィルタのタップ係数がその遅延線の実質的中心に対し線対称であることに着目して、線対称となる片側のタップ係数を用いてもう一方のタップ係数をあらわすことにより、タップ数を減らすことが出来る。この手法について、説明する。表1において、Tap Num=1〜3のタップ係数a[n]はTap Num=5〜7のタップ係数a[n]と同じ値である。そこでTap Num=0〜3のタップ係数a[n]の値を2倍して用いれば、光トランスバーサルフィルタの分解能を下げることなく、Tap Num=5〜7のタップを無くすことができる。この場合のタップ係数は下記の表5のようになる。この構成により、タップ数が減るため挿入損失をさらに低減することができ、かつ回路サイズを小さくすることができる。
【表5】

次に、図8を用いて、図7のダイナミックゲインイコライザーによるEDFAの利得波長特性の利得平坦化の一実施例を説明する。なお、図8は、図4に示すEDFAの利得波長特性を、図7の構成でかつ下記表6に示す特性を有するダイナミックゲインイコライザーにより利得平坦化を行なった結果を示すものである。平坦化のレベル(Gainの最大値から最小値を引いた値)は、利得平坦化の最も厳しい条件である特性線eにおいて1.3dBであり、全ての特性線a、b、c、d、eにおいて1.5dB以下であった。
【表6】

また、図7の変形例を、図9A、図9B、図9Cに示す。図9A、図9B、図9Cの図7と異なる主な構成は、光遅延線10を中心として、光分岐カプラ1と光合波カプラ3を折り曲げた点である。図9Aに示す光トランスバーサルフィルタ回路は、各光遅延線10のR部50が一定に設計され、直線部52の長さが異なる構成となっている。各光遅延線10では、直線部の長さで遅延差を与える構造となっている。なお、直線部52には、位相調節手段6が設置されている。図9Bは、図9Aの変形例であり、直線部52(図8−A参照)を形成せず、R部50のみの構成である。各光遅延線10は、中心部54からの半径が異なるため、この半径の差により各光遅延線10の長さが異なり、この長さの差が遅延差を発生させることになる。図9Cは、図9Aの構成と、図9Bの構成を組合せたものである。つまり、光遅延線10は、R部50と直線部52、もしくはR部のみで構成しても良い。これは付与する遅延量により適宜選択するものである。なお、図9A、図9B、図9Cでは、タップ数が5個の構成例を示しているが、図1のタップ数が9個の光導波回路2に、図9A、図9B、図9Cの光遅延線10の構成を適用しても構わない。図9A、図9B、図9Cの構成を適用することにより、長手方向の回路サイズを小さくすることができる。
また、本発明において、光位相調節器9と光遅延線10の接続順は特に限定されるものではなく適宜設定されるものである。また、光位相調節器9と光遅延線10の間に、必要に応じて他の回路を介設することもできる。
さらに、上記実施形態例は、EDFAの利得が比較的大きい波長である波長1.55μm帯の利得平坦化を行うダイナミックゲインイコライザーとしたが、本発明のダイナミックゲインイコライザーは、様々な損失波長特性を有するものを形成できるので、波長1.55μm帯以外の波長においてもEDFAの利得波長特性を平坦化することもできるし、EDFA以外の光アンプの利得波長特性の平坦化もできる。
さらに、上述した各実施形態において、光分岐カプラ1(1a、1c、1d)と光合波カプラ3(3a、3c、3d)を同一の特性としても良い。これらの光分岐カプラ1、光合波カプラ3は、それぞれに任意の分岐、結合特性をもつように作成可能であるため、所望のタップ係数を得られる様な初期特性(ここでは可変動作を行わない場合の特性を初期特性と呼ぶ)をあらかじめ与えておき、可変動作は微調整のみとして小さな消費電力で所望のタップ係数を得ることが可能である。しかし、火炎加水分解堆積法、フォトリソグラフィー、反応性イオンエッチング法の製造プロセス誤差により、光分岐カプラ1、光合波カプラ3の初期特性は設計値からずれが生じる。光分岐カプラ1、光合波カプラ3をそれぞれ任意の分岐、結合特性をもつように設計した場合は、そのずれの大きさもカプラ毎に異なるため、タップにおいて所望の分岐・結合特性を得る為には、全てのカプラのずれを測定する必要がある。
そこで全ての光分岐カプラ1、光合波カプラ3を同一の初期特性を有するように、同じ設計値で作成すると、全てのカプラで同一のずれが生じるため、どこかひとつのカプラのずれを測定すれば、回路全体の分岐、結合特性を効率的に把握することができ、タップにおいて所望の分岐・結合特性を得ることが容易になる。
上述した実施形態によれば、多段光分岐カプラと多段光合波カプラの構成を、多段光分岐カプラの光出力端の中心配列位置と前記多段光合波カプラの光入力端の中心配列位置を結ぶ線の延長線に対して非対称に形成することにより、これらのカプラ間に設けられて位相調節器と光遅延線を有して成る光接続回路を通る光パワー比を最適化でき、挿入損失が小さく、かつ、EDFAに入力されるポンプ光レベルに対応させてEDFAの利得波長特性を平坦化できるダイナミックゲインイコライザーを実現できる。
また、本発明において、多段光分岐カプラの光出力端と多段光合波カプラの光入力端を互いに同じ奇数個ずつ設け、長さの異なる光遅延線のうち真ん中の長さを有する実質的中心光遅延線に、多段光分岐カプラを形成する第1段の光分岐カプラの一方の光出力部と、多段光合波カプラの最終段の光合波カプラの一方の光入力部を接続し、実質的中心光遅延線以外の光遅延線に光分岐部と光合波部を設けた構成によれば、上記効果を確実に発揮できるダイナミックゲインイコライザーを容易に形成できる。
さらに、本発明において、複数の光分岐カプラと複数の光合波カプラのうち少なくとも1つはY分岐回路を有している構成や、複数の光分岐カプラと複数の光合波カプラのうち少なくとも1つはマッハツェンダ光干渉計回路を有している構成によれば、これらの回路によって、多段光分岐カプラと多段光合波カプラを容易に形成できる。
【産業上の利用可能性】
本発明によると、たとえEDFAに入力されるポンプ光レベルが変化しても、その変化に対応させてEDFAの利得波長特性を平坦化でき、かつ、挿入損失が小さいダイナミックゲインイコライザーを実現できる。
【図1】


【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】



【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を備えたダイナミックゲインイコライザー:
複数段の光分岐カプラを接続して形成された多段光分岐カプラと、複数段の光合波カプラを接続して形成された多段合波カプラと、伝搬光の位相を可変可能な光位相調節器および伝搬光に設定時間遅延を付与する光遅延線を有する光接続回路とを有する光導波回路、
前記多段光分岐カプラの少なくとも1つの光分岐カプラと多段光合波カプラの少なくとも1つの光合波カプラには光振幅可変手段がそれぞれ設けられており、
前記多段光分岐カプラと前記多段光合波カプラはそれぞれ前記多段光分岐カプラの光出力端の中心配列位置と前記多段光合波カプラの光入力端の中心配列位置を結ぶ線の延長線に対して非対称に形成されている。
【請求項2】
請求項1のダイナミックゲインイコライザーであって、前記光遅延線の各々は互に異なる長さからなり、長さの異なる前記光遅延線のうち実質的中心光遅延線の光入力側には前記多段光分岐カプラを形成する第1段の光分岐カプラの一方の光出力部が直接接続され、前記実質的中心光遅延線の光出力側には前記多段光合波カプラの最終段の光合波カプラの一方の光入力部に直接接続されている。
【請求項3】
請求項2のダイナミックゲインイコライザーであって、前記多段光分岐カプラの光出力端と多段光合波カプラの光入力端は互いに同じ奇数個づつ設けられ、前記第1段の光分岐カプラの他方の光出力部には第2段の光分岐カプラの光入力部が接続されて、第2段以降の光分岐カプラにより光分岐部が形成されており、該光分岐部の光出力端はそれぞれ前記実質的中心光遅延線を除く対応する光遅延線の光入力側に接続され、該最終段の光分岐カプラの他方の光入力部には該最終段の前段の光カプラが接続されて、最終段の前段以前の光合波カプラにより光合波部が形成されており、該光合波部の光入力端はそれぞれ前記実質的中心光遅延線を除く対応する光遅延線の光出力側に接続されている。
【請求項4】
請求項3のダイナミックゲインイコライザーであって、前記光分岐部と前記光合波部はそれぞれ光分岐部の光出力端の中心配列位置と前記光合波部の光入力端の中心配列位置を結ぶ線の延長線に対して線対称に形成されている。
【請求項5】
請求項1または2のダイナミックゲインイコライザーであって、複数の光分岐カプラと複数の光合波カプラのうち少なくとも1つはY分岐回路を有している。
【請求項6】
請求項1または2のダイナミックゲインイコライザーであって、複数の光分岐カプラと複数の光合波カプラのうち少なくとも1つはマッハツェンダ光干渉計回路を有している。
【請求項7】
請求項4のダイナミックゲインイコライザーであって、前記実質的中心光遅延線を有する光接続回路に光パワーの約50%以上が入力され、残りの光パワーは光遅延線を有する光接続回路に入力される。
【請求項8】
請求項1または2のダイナミックゲインイコライザーであって、前記光導波回路の前記光遅延線の長さは、基準となる光遅延線から順次dLずつ長く設定されている。
【請求項9】
請求項1または2のダイナミックゲインイコライザーであって、前記実質的中心光遅延線は、基準となる光遅延線の長さを基準として、最も長い光遅延線の長さの半分の長さを有する光遅延線である。
【請求項10】
請求項1または2のダイナミックゲインイコライザーであって、前記実質的中心光遅延線は、基準となる光遅延線の長さを基準として、最も長い光遅延線の長さを有する光遅延線である。
【請求項11】
請求項9または10のダイナミックゲインイコライザーであって、前記光導波回路は、前記基準となる光遅延線と前記実質的中心光遅延線との間に、残りの光遅延線が配置されている。
【請求項12】
請求項8のダイナミックゲインイコライザーであって、前記光導波回路を基板上に形成した平面光導波回路からなっている。
【請求項13】
請求項1のダイナミックゲインイコライザーであって、前記光振幅可変手段はTiNiヒータからなっており、前記光分岐カプラおよび前記光合波カプラの光振幅を可変にし、前記光位相調節器の位相調整量を可変にする。
【請求項14】
請求項1または2のダイナミックゲインイコライザーであって、前記多段光分岐カプラの分岐数が、前記遅延線の実質的中心に対して線対称となる片側の所定のタップ係数を用いて他方のタップ係数をあらわすことによって減少されている。
【請求項15】
請求項1または2のダイナミックゲインイコライザーであって、前記光合波カプラと、前記光分岐カプラは、ほぼ同じ合波特性、分岐特性を有する。
【請求項16】
請求項1または2のダイナミックゲインイコライザーであって、前記多段光分岐カプラおよび前記多段合波カプラが、前記光遅延線に関して右左対象になるように湾曲され、湾曲頂部がR部および直線部からなり、前記R部の長さが一定で前記直線部の長さがことなり、前記直線部の長さによって遅延差を与える。
【請求項17】
請求項1または2のダイナミックゲインイコライザーであって、前記多段光分岐カプラおよび前記多段合波カプラが、前記光遅延線に関して右左対象になるように湾曲され、湾曲頂部がR部からなり、前記R部の半径の差による光遅延線の長さの差によって遅延差を与える。
【請求項18】
請求項1または2のダイナミックゲインイコライザーであって、前記多段光分岐カプラおよび前記多段合波カプラが、前記光遅延線に関して右左対象になるように湾曲され、湾曲頂部がR部、または、R部および直線部からなり、前記R部の半径の差による光遅延線の長さの差および直線部の長さの差によって遅延差を与える。

【国際公開番号】WO2004/038493
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546473(P2004−546473)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013616
【国際出願日】平成15年10月24日(2003.10.24)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】