説明

ダイナミックダンパー

【課題】 アウター金具にマス部材を収容したインナー金具をゴム弾性体で宙吊り状態で保持したダイナミックダンパーであり、マス部材をインナー金具に対して簡単で、確実に固定できるようにする。
【解決手段】 U字形をしたアウター金具と、内部にマス部材を収容して同じくU字形をしたインナー金具を間にゴム弾性体を所定に圧縮して介在させてインナー金具をアウター金具に宙づり状態に保持したダイナミックダンパーにおいて、インナー金具の両側壁に対向するマス部材の両端を外方が下がる傾斜面に形成し、インナー金具の両側壁の上端を傾斜面上で内側に巻き曲げてカールさせ、このカールでマス部材を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振、防音を目的として自動車に取り付けられるダイナミックダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の足廻り等には、車輪等の振動が車体に伝達されるのを防止するためにダイナミックダンパーが取り付けられている。この種のダイナミックダンパーは、保持金具にマス部材をゴム弾性体を介して宙吊り状態で取り付けているものであるが、自動車に入力される振動の振動数は検証できることから、ゴム弾性体のばね特性とマス部材の質量特性とを調整してマス部材を振動振動数に共振させることで防振している。これにおいて、ゴム弾性体のばね特性を安定的に現出させるためには、ゴム弾性体をある程度圧縮させた初期状態に設定しておく必要がある。加えて、この圧縮の程度によってばね定数は変わってくるから、所望のばね定数を得るためにも、圧縮の程度は調整できる必要がある。
【0003】
このため、種々の方法で圧縮を図っており、下記特許文献1では、マス部材に連着するゴム弾性体をボルトナットで締め付けて圧縮するものが示されている。これによると、一々ボルトを締めなけれはならず、手間が大変で、量産品には向かない。一方、特許文献2では、マス部材と保持金具との間にゴム弾性体を加硫接着しておき、この保持金具を外方から絞ることで、ゴム弾性体に所定の圧縮状態を出現させるものが示されている。しかし、これによると、保持金具には取付孔等も形成されているから、これを変形させると、その位置が狂ったりするし、取付面の平面度も狂うことがある。また、マス部材を取り付けた保持金具を絞らなければならないから、取扱いが重いという欠点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−234970号公報
【特許文献2】特開2003−097635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような課題を解決したものであり、要するに、内部にマス部材を取り付ける金具を振動体に取り付ける保持部材とは別のものにするとともに、マス部材をインナー金具に対して簡単で、確実に固定できるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、U字形をしたアウター金具と、内部にマス部材を収容して同じくU字形をしたインナー金具を間にゴム弾性体を所定に圧縮して介在させてインナー金具をアウター金具に宙づり状態に保持したダイナミックダンパーにおいて、インナー金具の両側壁に対向するマス部材の両端を外方が下がる傾斜面に形成し、インナー金具の両側壁の上端を傾斜面上で内側に巻き曲げてカールさせ、このカールでマス部材を固定したことを特徴とするダイナミックダンパーを提供したものである。
【0007】
また、本発明は、以上のダイナミックダンパーにおいて、請求項2に記載した、インナー金具の底壁に突起を上向させるとともに、マス部材の底面に孔を形成し、孔を突起に嵌合させてマス部材を位置決めした手段を提供したものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の手段によると、マス部材はインナー金具を内曲げするカールで固定されるから、マス部材の厚みの誤差を吸収できる上に溶接やボルト止め等を必要とせず簡単にできる。また、カールはマス部材の傾斜面に押し付けられるものであるから、固定も強化されるし、カールの内曲げがより容易になる。請求項2の手段によると、マス部材の位置がずれたりすることがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第一発明のダイナミックダンパーの製造過程を示す一部断面側面図である。
【図2】第一発明の成形方法を示す断面側面図である。
【図3】第一発明のダイナミックダンパーの一部断面平面図である。
【図4】第二発明のダイナミックダンパーの製造過程を示す一部断面側面図である。
【図5】第二発明の成形方法を示す断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の第一に係るダイナミックダンパーの製造過程を示す一部断面側面図、図3は完成後の一部断面平面図であるが、このダイナミックダンパーは、アウター金具1とインナー金具2及びマス部材3等からなる。このうち、アウター金具1は、振動体に取り付けられてインナー金具2やマス部材3を受けるものであり、本例では、側面視で、底壁4と側壁5及び側壁の上端に鍔6が設けられるU字形をしたものである(7は鍔に設けられた取付孔)。なお、アウター金具1のこの形状は、塑性加工によって行われる。
【0011】
インナー金具2は、マス部材3を保持してアウター金具1に対してゴム弾性体8を介して宙吊り状態で保持されるものであり、本例では側面視で、底壁9と側壁10とからなるU字形をしている。この場合、一般的には、インナー金具2の肉厚は、アウター金具1のそれよりは薄くなっているが、両者とも、その平面形状は様々になっている。加えて、本例のインナー金具2は、その底壁9が凹凸11に形成されており、かつ、底壁9の中心には円形の突起12が形成されている。なお、これら凹凸11や突起12の形成は、すべて塑性加工によって行われる。
【0012】
以上のインナー金具2の側壁10の外面とアウター金具1の側壁5の内面には、ゴム弾性体8が加硫接着され、インナー金具2は、アウター金具1の中にこのゴム弾性体8を介して宙吊り状態で収容される。そして、インナー金具2にマス部材3が取り付けられてこのマス部材3が振動することで、アウター金具1が取り付けられる振動体からの振動を防振するのである。本発明では、アウター金具1にインナー金具2を取り付けた後に次の操作を施す。図2はその状態を示す断面側面図であるが、インナー金具2の底壁9の下に下敷13を敷き、上から金型14で押圧する。これにより、底壁9の凹凸11はひしゃがれて側壁10は外方にRだけ張出する。
【0013】
したがって、ゴム弾性体8は、この張出量Rで圧縮され、そのばね特性を安定して出現させるものとなる。一般に、ゴム弾性体8を加硫接着しただけでは、安定したばね特性は得られないから、これを改善したものである。なお、金型14の落下量を調整すれば、凹凸11のひしゃげ量(張出量R)、すなわち、ゴム弾性体8の圧縮程度も調整できることから、これによってばね定数も調整できるものとなる。
【0014】
以上の処置が終了すると、マス部材3をインナー金具2の底壁9の上に載せて取り付けるが、このとき、マス部材3には、インナー金具2の底壁9に形成された突起12に嵌合する孔15を形成しておき、この孔15を突起12に嵌合するようにすれば、位置決めとずれ止めが図られる。さらに、マス部材3の上面の両端を外方に下がる傾斜面3aに形成しておき、インナー金具2の側壁10の上端を金型(図示省略)で下方に押圧し、この部分が内側に巻き曲げられて傾斜面3a上でカール16を形成するようにする。
【0015】
したがって、マス部材3の寸法誤差に対してはカール16の径が大きくなったり、小さくなったりしてマス部材3を上から押え付けることになり、マス部材3がインナー金具2から外れたりするのを防止できる。これにより、インナー金具2へのマス部材3の取付けが簡単になり、煩雑な溶接やボルト止め等を要しないものとなる。
【0016】
図4は本発明の第二に係るダイナミックダンパーの製造過程を示す一部断面側面図であるが、本発明が第一の発明と違う点は、インナー金具2の側壁10を予め内側に折り曲げた状態でゴム弾性体8を加硫接着する点である。そして、この側壁10を外側へ押し曲げてゴム弾性体8を所要の圧縮状態にし、その後にマス部材3を保持するのである。なお、上記した凹凸11と組み合わせたものでもよい。
【0017】
図5は側壁10の外方への押し曲げの原理を示す一部断面側面図であるが、外面が直立して内面が上方に広がる斜面に形成された拡げ体17を二個インナー金具2の中に挿入しておき、拡げ体17の中に上からくさび18を挿入すことで拡げ体17を外方に移動させて側壁9を外方に押し曲げて起こすものである。これにより、インナー金具2の側壁9はSだけ外方に張出され、その結果、ゴム弾性体8は張出量Sで圧縮される。なお、マス部材3の取付け等については、第一の発明と同じである。
【0018】
以上、本発明について説明したが、その作用効果について再度説明すると、次のようになる。
1.ゴム弾性体の圧縮程度を任意に調整できるから、ばね定数の調整が容易である。
2.マス部材の取付けが容易であるから、重量の違うマス部材への変更が簡単である。
3.マス部材の取付けは、機械的な構成によるものであるから、少々の寸法誤差は吸収できるし、この結果、接当側端面は鋳放しでよい。
4.ゴム弾性体を加硫接着する段階では、未だマス部材が取り付けられていないのであるから、重量が軽くて取扱いが容易である。
5.アウター及びインナー金具の種々の成形及びマス部材の保持といった加工は、すべて塑性加工によるものであるから(機械加工を必要としない)、生産性が良くて作業環境が向上する。
【符号の説明】
【0019】
1 アウター金具
2 インナー金具
3 マス部材
3a 〃 の傾斜面
4 アウター金具の底壁
5 〃の側壁
6 鍔
7 取付孔
8 ゴム弾性体
9 インナー金具の底壁
10 〃の側壁
11 凹凸
12 突起
13 下敷
14 重し
15 孔
16 カール
17 拡げ体
18 くさび
R 張出量
S 張出量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
U字形をしたアウター金具と、内部にマス部材を収容して同じくU字形をしたインナー金具を間にゴム弾性体を所定に圧縮して介在させてインナー金具をアウター金具に宙づり状態に保持したダイナミックダンパーにおいて、インナー金具の両側壁に対向するマス部材の両端を外方が下がる傾斜面に形成し、インナー金具の両側壁の上端を傾斜面上で内側に巻き曲げてカールさせ、このカールでマス部材を固定したことを特徴とするダイナミックダンパー。
【請求項2】
インナー金具の底壁に突起を上向させるとともに、マス部材の底面に孔を形成し、孔を突起に嵌合させてマス部材を位置決めした請求項1のダイナミックダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−281460(P2010−281460A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218468(P2010−218468)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【分割の表示】特願2005−78480(P2005−78480)の分割
【原出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(591283501)備前発条株式会社 (33)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)