説明

ダッタンソバ子実を用いたスプラウト

【課題】 ダッタンソバ子実を用いたスプラウトと、その最適生産技術を開発し、提供する。
【解決手段】 (1)ダッタンソバ子実を発芽させて生産したスプラウトである。(2)スプラウト中のルチン含量が乾物重量当たり30mg/g以上である。(3)スプラウト中のルチン含量が乾物重量当たり50mg/g以上である。(4)ダッタンソバスプラウト生産に用いる子実の倍数性が4倍体以上の品種・系統のダッタンソバ子実である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康機能性を持ったルチンを高含有率で含有し、且つ、従来のソバスプラウト(もやし)に比べて格段に品質の良好なダッタンソバスプラウト(もやし)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タデ科に分類される「ソバ」には、ソバ(Fagopyrum esculentum)、ダッタンソバ(F.tataricum)、及び宿根ソバ(F. Symosum)の3種があるが、このうち主に食用されるのは前者2種である。我が国では、ソバが主に食用され、ダッタンソバ(苦ソバ)は主に中国雲南一帯、ネパール等で利用されているが、国内では一部食されているに過ぎない。
【0003】
しかしながら、ダッタンソバは、北方系の作物であるためソバに比べ耐寒性が非常に強く、冷涼で土地の痩せている北海道の道東の酪農地帯根釧地域においても栽培が可能であり、冷涼で広大な農地での栽培により、無農薬、低コスト生産が可能であるという利点を持っている。また、最近根釧地域に適応した収量性、耐倒伏性に優れた我が国初のダッタンソバ品種(北系1号)が独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 北海道農業研究センターで育成され、国内での安定生産の道が開かれ、大いに期待が集まっている。
【0004】
現在、「ソバ」は、健康的な食品としてのイメージが定着し、人気も上々である。その理由の1つとしてソバに含まれる高血圧予防、血管強化作用、抗酸化作用等の効果があるとされている成分であるルチンへの期待がある。このルチンをダッタンソバはソバの数十倍含んでいるため、特にその機能性に大きな期待が寄せられている。また、最近の研究から、ダッタンソバ中のルチン、ケルセチン等には老人性痴呆症予防効果の期待できる神経系細胞保護効果、血圧降下効果、血糖上昇抑制効果のあることが明らかになっている。更に、ダッタンソバの葉には、多量のルチン、クロロゲン酸等の機能性物質が含まれ、抗酸化活性もソバのそれに比べ遥かに高いことが判っている。
【0005】
上記のように、近年、ソバ及びダッタンソバについては健康機能性を中心に非常に注目されており、種々の研究が行われている。これらの中で、本願発明に関連する従来技術、報告としては、ソバの植物体の利用に関する技術(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6等)が開示されている。また、ダッタンソバ植物体利用に関しては特許文献7が開示されている。更に、ソバもやし(スプラウト)に関する技術、報告としてソバもやしの生産方法(特許文献8、特許文献9、特許文献10等)、ソバもやし中の機能性成分の同定、定量等に関しては鈴木らの報告(鈴木ら: Plant Science, 163, 417-423, 2002)、渡辺らの報告(渡辺ら: 食科工, 49, 119-125, 2002; 食科工, 50, 32-34, 2003)等がある。
【0006】
【特許文献1】特公昭57−12587号公報
【特許文献2】特公昭59−6631号公報
【特許文献3】特開平 7−308162号公報
【特許文献4】特開平 7−308166号公報
【特許文献5】特開平 9−271347号公報
【特許文献6】特開平10−262564号公報
【特許文献7】特開2003−299462公報
【特許文献8】特開2001−320966公報
【特許文献9】特開2000−308426公報
【特許文献10】特開2004−121065公報
【0007】
しかしながら、ソバの植物体やスプラウトに関する従来技術、報告はほとんどがソバに関するものであり、ダッタンソバスプラウトやスプラウト中の機能性成分(ルチン等)に関する検討は全く行われていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ソバスプラウトに比べ格段に品質が良好でルチン含量の高いダッタンソバスプラウトと、その生産技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のようにこれまで全く技術確立のされていなかったダッタンソバスプラウトの生産技術について種々生産条件の検討を行い、スプラウト品質、ルチン含量に注目して鋭意研究した結果、従来のソバスプラウトに比べ品質良好でルチン含量の格段に高いスプラウトを生産できることを発見し、本発明を完成した。即ち、本発明の特徴とするところは、従来のソバスプラウトに比べ格段に品質が良好でルチン含量の高いダッタンソバスプラウトの提供とその最適生産技術を確立した点にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のダッタンソバスプラウトは、従来のソバスプラウトに比べ、機能性成分のルチンの含量も顕著に高く、且つ、総合的品質も明らかに良好ある。また、ダッタンソバは耐寒性の作物であるため、北海道のような冷涼な地域でも安定生産が可能であり、ソバに比べ子実の低コスト、安定生産が可能である。そのため、本発明の技術を用いることによって機能性に優れたソバスプラウトの低コスト安定生産が可能になると共に、主に国産ダッタンソバの需要拡大や品質良好な機能性ソバスプラウトの安定生産に多大な寄与が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のダッタンソバスプラウトの生産方法としては、通常のかいわれ大根に代表されるスプラウトの生産条件を参考に最適化された表1の条件が採用できるが、目標の品質、ルチン含量が得られる栽培条件であれば特に生産条件に限定はない。但し、スプラウト中のルチン含量をより高めるためには照光栽培期間を長くする方が好適である。
【0012】
【表1】

【0013】
本発明でいうダッタンソバとは、タデ科(Fagopyrum)に属するダッタンソバ(Fagopyrum tataricum)品種・系統について特に限定はなくすべてのものが含まれる。具体的な品種、系統としては、本発明者らが育成し品種登録出願公表中の北系1号、あるいは北系2号、北系3号、北系4号、北系5号、北系6号、北系7号、北系8号、北系9号、北系10号等をあげることができる。なお、茎が太く、外観のより良好なスプラウトを生産するためには、倍数性4倍体以上の品種・系統を用いるのが好適であり、上記品種・系統の中では北系5号、北系9号、北系10号が適しており、特に北系9号の特性が優れている。
【0014】
本発明のダッタンソバスプラウトの特徴としては、従来のソバスプラウトに比べ品質が良好でルチン含量が高いことを挙げることができる。具体的な品質としては、スプラウトの長さの揃いが良く、外観がみずみずしく長期保存においても黄色化することがないという特徴を持っている。これらの良好な特徴については、ソバが他殖性で個々の子実が遺伝的にヘテロであるのに対し、自殖性であるダッタンソバは遺伝的にホモであることが大きく関係していると考えられる。また、ルチン含量に関しても同条件でスプラウトを生産した場合、ダッタンソバスプラウトはソバスプラウトに比べ2〜3倍の含量を示す。この点については、両作物の遺伝的な差異が大きくこれに関係していると考えられる。
【0015】
次に実施例(比較例を含む)を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0016】
【表2】

【0017】
【表3】

【実施例1】
【0018】
表2に示す条件で種々の品種・系統を用いダッタンソバスプラウトを生産し、得られたスプラウトの評価を以下のように行った。ルチン含量は、生産直後のスプラウトを用い高速液体クロマトグラフィーを用い鈴木らの方法(鈴木ら: Plant Science, 163, 417-423, 2002)によって測定した。含量は乾燥重量当たりの含量で示した。その結果を表3に示す。表3の結果から、比較例のソバスプラウトに比べ、実施例のダッタンソバスプラウトは総合的に品質が良好であり、特に試験例3のダッタンソバスプラウトはスプラウトの揃いが良く、保存中の黄化もなく外観的にも大変優れていた。また、ルチン含量についても比較例に比べ試験例ではいずれも2倍以上の高いルチン含量を示し、特に試験例3のスプラウトは比較例に比べ3倍以上のルチンを含有していた。
【0019】
以上の結果から、好適な条件でダッタンソバスプラウトを生産することによって、従来のソバスプラウトに比べ格段にルチン含量が高く、品質良好なスプラウトが得られることがわかる。
【実施例2】
【0020】
次に表4に示す実際の工場でのスプラウト生産条件に近い条件で実施例1と同様の品種・系統についてダッタンソバスプラウトを生産し、得られたスプラウトの評価を同様に行った。その結果を表5に示す。表5の結果から、ダッタンソバスプラウトを工場生産条件に近い条件で栽培した場合にも、本発明のダッタンソバスプラウトは比較例のソバスプラウトに比べ総合的に明らかに良好な品質を示し、ルチン含量も非常に高い値を示した。特に4倍体である北系9号のスプラウトは茎も太く外観が特に好ましく総合的に最も良好な品質を示した。
【0021】
【表4】

【0022】
【表5】

【0023】
以上の結果から、実際の工場でのスプラウト生産条件に近い条件でもダッタンソバからソバに比べ格段に良好なスプラウトが得られることがわかる。このことから、本発明の技術は、ソバスプラウトの実際の工場生産においても十分応用可能であり、従来技術に比べ明らかな新規性、進歩性があることがわかる。
【実施例3】
【0024】
次に表6に示す実際の工場でのスプラウト生産条件に近い条件で実施例2に比べ若干高い温度で自然光のやや弱い条件で実施例1と同様の品種・系統についてダッタンソバスプラウトを生産し、得られたスプラウトの評価を同様に行った。その結果を表7に示す。表7の結果から、表6の条件で栽培した場合にも本発明のダッタンソバスプラウトは比較例のソバスプラウトに比べ総合的に明らかに良好な品質を示し、実施例2に比べるとやや低くなったがルチン含量も比較例に比べ2倍程度高い値を示した。特に4倍体である北系9号のスプラウトは茎も太く外観が好ましく総合的に最も良好な品質を示した。
【0025】
【表6】

【0026】
【表7】

【0027】
以上の結果から、やや温度が高めで、自然光がやや低い条件でもダッタンソバからソバに比べ格段に良好なスプラウトが得られることがわかる。このことから、本発明の技術は、ソバスプラウトの実際の工場生産においても十分応用可能であり、従来技術に比べ明らかな新規性、進歩性があることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のダッタンソバスプラウトは、従来のソバスプラウトに比べ、機能性成分のルチンの含量も顕著に高く、且つ、総合的品質も明らかに良好あり、ソバに比べ子実の低コスト、安定生産が可能であって、本発明の技術を用いることによって機能性に優れたソバスプラウトの低コスト安定生産が可能になると共に、国産ダッタンソバの需要拡大や品質良好な機能性ソバスプラウトの安定生産に多大な寄与が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッタンソバ子実を発芽させて生産したスプラウトであることを特徴とするダッタンソバ子実を用いたスプラウト。
【請求項2】
スプラウト中のルチン含量が乾物重量当たり30mg/g以上であることを特徴とする請求項1記載のダッタンソバ子実を用いたスプラウト。
【請求項3】
スプラウト中のルチン含量が乾物重量当たり50mg/g以上であることを特徴とする請求項1記載のダッタンソバ子実を用いたスプラウト。
【請求項4】
ダッタンソバスプラウト生産に用いる子実の倍数性が4倍体以上の品種・系統のダッタンソバ子実であることを特徴とする請求項1,2又は3記載のダッタンソバ子実を用いたスプラウト。

【公開番号】特開2006−158274(P2006−158274A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353078(P2004−353078)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】