説明

ダブルクラッド光ファイバ及びその製造方法、並びにダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法

【課題】コアの紫外線劣化を生じ難くして伝送特性の優れたダブルクラッド光ファイバを得る。
【解決手段】ダブルクラッド光ファイバ11は、ファイバレーザ或いはファイバアンプ等の分野で使用される。ダブルクラッド光ファイバ11は、希土類元素が添加されたガラス製のコア11aとそれを被覆するように設けられコア11aより屈折率が低いガラス製の第1クラッド11bとそれを被覆するように設けられ第1クラッド11bより屈折率が低い第2クラッド11cとを有する。第2クラッド11cを形成する第2クラッド材料は、熱硬化性樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダブルクラッド光ファイバ及びその製造方法、並びにダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファイバレーザ或いはファイバアンプ等の分野でダブルクラッド光ファイバが用いられている。
【0003】
特許文献1には、希土類元素が添加されたコアが第1クラッドで被覆され、第1クラッドがさらに第2クラッドで被覆されたダブルクラッド光ファイバであって、コア及び第1クラッドが石英で形成され、且つ第2クラッドが紫外線硬化性樹脂で形成されたものが開示されている。
【0004】
特許文献2及び3には、コアが第1クラッドで被覆され、第1クラッドがさらに第2クラッドで被覆されたダブルクラッド光ファイバであって、コア及び第1クラッドが石英で形成され、それを被覆する被覆層は複数の層からなり、被覆層の中でも第2クラッド層は紫外線硬化性樹脂で形成されたものが好ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−60854号公報
【特許文献2】特開2010−250167号公報
【特許文献3】特開2010−250168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ファイバレーザ或いはファイバアンプに用いられるダブルクラッド光ファイバでは、コアに希土類元素が添加されているため、それが線引時などに照射される紫外線光によって反応し、紫外線波長領域及びそれに近い波長1μmや1.5μmなどの励起光、或いは、信号光の波長領域でコアの伝送損失が増大して伝送特性が悪化する現象、すなわち紫外線劣化が生じ易いコアとなっている。
【0007】
本発明の課題は、コアの紫外線劣化を生じ難くして伝送特性の優れたダブルクラッド光ファイバを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のダブルクラッド光ファイバは、希土類元素が添加されたガラス製のコアと、該コアを被覆するように設けられ該コアより屈折率が低いガラス製の第1クラッドと、該第1クラッドを被覆するように設けられ該第1クラッドより屈折率が低い第2クラッドと、を有するものであって、上記第2クラッドを形成する第2クラッド材料は、熱硬化性樹脂であることを特徴とする。
【0009】
本発明のダブルクラッド光ファイバの製造方法は、ガラス製のプリフォームを線引きして希土類元素が添加されたコア及びそれを被覆し該コアより屈折率が低い第1クラッドを形成するコア及び第1クラッド形成工程と、該コア及び第1クラッド形成工程で形成した上記第1クラッドの表面に液状の第2クラッド材料を付着させて加熱することにより熱硬化させて該第1クラッドより屈折率が低い第2クラッドを形成する第2クラッド形成工程と、を備えたものであって、上記第2クラッド材料は、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマーを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法は、本発明のダブルクラッド光ファイバの製造方法で製造したダブルクラッド光ファイバの表面に液状のオーバーコート材料を付着させて加熱することにより熱硬化させるオーバーコート形成工程を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第2クラッドが紫外線硬化性樹脂でなく、熱硬化性樹脂により形成されているので、線引時に紫外線劣化を生じ難く、その結果、伝送特性の優れたダブルクラッド光ファイバを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るダブルクラッド光ファイバ心線を示す斜視図である。
【図2】(a)〜(c)は第2クラッド材料のガラス転移温度及び硬化開始温度の測定方法の説明図である。
【図3】実施形態に係るダブルクラッド光ファイバ心線を用いたファイバレーザを示す図である。
【図4】実施形態に係るダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法を示す説明図である。
【図5】(a)は加圧ダイスを用いたダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法を示す説明図であり、(b)はオープンダイスを用いたダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法を示す説明図である。
【図6】オーバーコートを形成するための第2加熱炉の変形例を示す説明図である。
【図7】(a)及び(b)は温水浸漬前後それぞれの波長と伝送損失との関係を示すグラフである。
【図8】高温雰囲気への保持時間と第1クラッドのNAとの関係を示すグラフである。
【図9】85℃及び85%の高温高湿雰囲気への保持時間と第1クラッドのNAとの関係を示すグラフである。
【図10】ファイバ長と第1クラッドのNAとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は実施形態に係るダブルクラッド光ファイバ心線10を示す。この実施形態に係るダブルクラッド光ファイバ心線10は、例えば、ファイバレーザ或いはファイバアンプ等の用途で用いられるものである。
【0014】
実施形態に係るダブルクラッド光ファイバ心線10は、円形断面のダブルクラッド光ファイバ11とそれを被覆するオーバーコート12とで構成されている。心線径は例えば100μm〜1000μmである。
【0015】
ダブルクラッド光ファイバ11は、ファイバ中心の円形断面の希土類元素が添加されたコア11aとそれを被覆するように設けられたコア11aより屈折率が低い第1クラッド11bとさらにそれを被覆するように設けられた第1クラッド11bより屈折率が低い第2クラッド11cとで構成されている。なお、第1クラッド11bの断面形状は円形であってもよいが、後述するように第1クラッド11bに励起光が入力されたときに、励起光がコア11aを横切らないスキュー光になるのを防ぐ観点からは、当該断面形状は多角形や非幾何学形状であることが好ましい。ダブルクラッド光ファイバ11の第2クラッド11cの外径は例えば50μm〜700μmである。
【0016】
コア11a及び第1クラッド11bはガラスで一体に形成されている。
【0017】
コア11aを形成するガラスは、希土類元素(Er、Yb、Nd等)が添加されたガラスであれば、例えば、石英ガラス(SiO2)に、Geなどの屈折率を高めるドーパント、Fなどの屈折率を低くするドーパント、或いはその他の機能性付与ドーパントが添加された石英であってもよい。なお、コア11aに添加された希土類元素の濃度が高いほどコア11aは紫外線光によって反応し易く、紫外線波長領域でコア11aの伝送損失が増大して伝送特性が悪化する現象が生じ、紫外線波長領域に近い波長1μmや1.5μmなどの励起光、或いは、信号光の波長領域でコア11aの伝送損失が増大して伝送特性が悪化する現象が生じ易い。従って、コア11aに添加される希土類元素の濃度の例としては、1〜10質量%が挙げられる。
【0018】
コア径は例えば5μm〜100μmである。コア11aの屈折率は第1クラッド11bの屈折率よりも高く、コア11aと第1クラッド11bとの比屈折率差(Δ)は例えば0.1〜1%である。
【0019】
第1クラッド11bを形成するガラスは、純粋な石英ガラス(SiO2)であってもよく、また、Fなどの屈折率を低くするドーパント或いはGeなどの屈折率を高くするドーパントが添加された石英であってもよい。第1クラッド11bの厚さは例えば25μm〜350μmであり、その断面形状の内接円の直径は例えば50μm〜700μmである。
【0020】
第2クラッド11cは、熱硬化性樹脂により形成されている。特に、第2クラッド11cが大きく低屈折率化され、その結果、高い出射NA(以下、単に「NA」ともいう。)の第1クラッド11bを得ることができるため、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含む第2クラッド材料により形成されていることが好ましい。第2クラッド11cの厚さは例えば10μm〜100μmである。
【0021】
第2クラッド11cの屈折率は、第1クラッド11bの屈折率よりも低く、例えば1.32〜1.45であり、その際、第1クラッド11bが石英であれば、第1クラッド11bのNAはファイバ長2mで測定して0.13〜0.60となる。特に、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含む第2クラッド材料により形成されているダブルクラッド光ファイバ11では、第2クラッド11cが1.32〜1.40の低屈折率を有することにより、その際、第1クラッド11bが石英であれば、第1クラッド11bのNAはファイバ長2m測定してもファイバ長500mで測定しても0.40〜0.60となる。NAは、JIS C6822記載のFFP法により測定される。
【0022】
以下、上記第2クラッド材料を使用した場合について詳述する。
【0023】
上記第2クラッド材料の密度は例えば1.7〜1.8である。上記第2クラッド材料の密度は、JIS K 0061により測定される。
【0024】
上記第2クラッド材料のヤング率は、例えば0.5〜50MPaであり、外力に対する緩衝作用に優れる点から1〜10MPaであることが好ましい。上記第2クラッド材料の引張り強さは、例えば1〜100MPaであり、外力に対する耐性に優れる点から10MPa以上であることが好ましく、光ファイバ11を曲げたときの曲げに対する追随性に優れる点から70MPa以下が好ましい。上記第2クラッド材料の切断時伸びは、例えば5〜100%であり、光ファイバ11を曲げたときの曲げに対する追随性に優れる点から20%以上であることが好ましく、外力に対する緩衝作用に優れる点から70%以下が好ましい。上記第2クラッド材料のヤング率はJIS K 6251に準拠し、フィルム状に成形した第2クラッド材料を引張速度1mm/minで引張ったときの2.5%の伸び時の張力を断面積で除することにより求められる。また、上記第2クラッド材料の引張り強さ及び切断時伸びは、JIS K 6251により測定される。
【0025】
上記第2クラッド材料のショアA硬さは、例えば10〜80であり、外力に対し耐性に優れる点から25〜80であることが好ましい。上記第2クラッド材料のショアA硬さは、JIS K 6253記載のタイプAデュロメータにより測定される。
【0026】
上記第2クラッド材料のガラス転移温度(Tg)は、例えば−150〜0℃であり、使用温度領域での特性の安定性から−150〜−50℃であることが好ましい。上記第2クラッド材料のガラス転移温度(Tg)は、図2(a)に示すような剛体振子型物性試験器20(例えば、エー・アンド・デイ社製 型番:RPT−3000W)を用いて次の手順により測定される。なお、剛体振子型物性試験器20は、試料ボート21(例えばアルミニウム製)を備え、その中にパイプエッジ22(例えば、エー・アンド・デイ社製 型番:RPN160)が設けられ、そこから錘23(例えば、エー・アンド・デイ社製 型番:FRB100)が垂らされて振子が構成されている。室温の大気雰囲気下で、試料台21に厚さ約100μmの第2クラッド材料M1のフィルムを載せ、試料ボート21を−100℃から150℃まで10℃/minの速度で昇温し、一定時間ごとに振子に振動を与えて振動周期を測定する。第2クラッド材料M1の粘弾性が変化すると、対数減衰率が変化することから、図2(b)に示すように、対数減衰率の変化率の絶対値が最大となる温度を求め、それをガラス転移温度とする。−100℃以下にTgが存在する場合には、同原理で−100℃以下の測定が可能な装置もしくは動的粘弾性測定装置によって測定されたtanδピークにより求めることが出来る。
【0027】
上記第2クラッド材料のゲル分率は、例えば90〜100%であり、高温使用環境における低分子量成分の揮発或いは高湿使用環境における低分子量成分の溶出によって生じる第2クラッド11cの特性変化を防止する点から、96〜100%であることが好ましい。上記第2クラッド材料のゲル分率は、溶媒抽出時の質量変化により測定される。具体的には、上記第2クラッド材料に対し、メチルエチルケトン(沸点)を溶媒として、毎時約10回の循環速度で5時間、ソックスレー抽出を行い、抽出後の上記第2クラッド材料の乾燥質量を初期の質量で除し、百分率で表した値をゲル分率とする。
【0028】
第2クラッド11cの第1クラッド11bへの密着性の指標となる第2クラッド材料のガラスに対する90°剥離力は10N/m以上であることが好ましく、ダブルクラッド光ファイバ11を曲げたとき第2クラッド11cと第1クラッド11bとの密着性を保つ点から、20N/m以上であることがより好ましい。第2クラッド材料のガラスに対する90°剥離力は、ガラス基板上に100〜200μmの厚さで第2クラッド材料を塗布、硬化させ、第2クラッド材料のみに幅2.5cmの間隔で短冊状に切り込みを入れ、短冊の一端をガラス基板から垂直に、引張速度100mm/minで引き上げたときの張力を測定し、その値を短冊の幅で除することにより求めることができる。
【0029】
オーバーコート12は樹脂或いはゴムで形成されている。オーバーコート12を形成する樹脂或いはゴムとしては、例えば、紫外線硬化性樹脂などの光硬化性樹脂、ポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、シリコーンゴムなどの硬化性ゴム等が挙げられる。なお、コア11aに希土類元素が添加されていて、紫外線劣化が生じ易いコア11aとなっているが、上記のように形成された第2クラッド11cが存在するため、オーバーコート12が紫外線硬化性樹脂であって、オーバーコート12形成時に紫外線が照射されたとしても、紫外線劣化が生じ難くなっており、それ故、オーバーコート12を形成する樹脂は紫外線硬化性樹脂でもよい。ただし、紫外線劣化を生じ難くするためには、オーバーコート12形成時に紫外線が照射されない方が好ましく、その点で、ポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、シリコーンゴムなどの硬化性ゴム等が好ましい。特に、ダブルクラッド光ファイバ11からの放熱性を向上させるために熱伝導性に優れたシリコーンゴムが好ましい。また、第2クラッド11cへの濡れ性を改善する観点からは、オーバーコート12を形成する樹脂にはフッ素が少量添加されていることが好ましい。
【0030】
オーバーコート12の厚さは例えば10〜100μmである。オーバーコート12の屈折率は、例えば1.4〜1.57であり、クラッドモード光の散逸を抑制する観点から、第2クラッド11cの屈折率よりも高いことが好ましい。オーバーコート12を形成する樹脂のヤング率は、例えば100〜400MPaであり、屈曲時に発生する応力及び伝送損失を低減する観点から、第2クラッド材料のヤング率よりも高いことが好ましい。オーバーコート12を形成する樹脂のゲル分率は、例えば80〜100%であり、第2クラッド材料のゲル分率よりも低いことが好ましい。また、吸水後に乾燥したときに発生する散逸低分子量成分に起因する収縮量の差を小さくすることにより、オーバーコート12と第2クラッド11cとの間の浮きの発生を規制し、それによって伝送損失の抑制を図る観点からは、オーバーコート12を形成する樹脂と第2クラッド材料とのゲル分率の差は5%よりも小さいことが好ましい。
【0031】
以上の実施形態に係るダブルクラッド光ファイバ心線10によれば、第2クラッド11cが熱硬化性樹脂、好ましくはヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含む熱硬化性樹脂で形成されているので、第2クラッド11cが大きく低屈折率化され、その結果、高NAの第1クラッド11bを得ることができる。ここで、第2クラッド11cがヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含む熱硬化性樹脂であれば、その樹脂中の炭素原子とケイ素原子の結合部が疎水性であることにより、優れた耐湿性を得ることができる。さらに好ましくは、第2クラッド11cがヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含む熱硬化性樹脂であり、その樹脂内にケイ素原子に結合したアルコキシ基が含まれる場合には、第2クラッド11cと第1クラッド11bを形成するガラスとの親和性が増すこととなり、それらの間に高い密着性が生じ、その結果、より優れた耐湿性を得ることができる。また、光源から出射された励起光を集光して第1クラッド11bに入射させる場合、このようにNAが高い方が入射角を大きくできるため、入射可能な励起光量を多くすることができ、従って、より多くの励起光を第1クラッド11b内に閉じ込めることができ、高い発振効率を得ることができる。なお、従来から、高NAを得ることができるダブルクラッド光ファイバとして、クラッドにエアホールが形成された構造のものが存在するが、このものは、製造技術が困難であり、また、良品をスクリーニングするため歩留まりが悪く、さらに、エアホールを形成するために光ファイバ外周に補強のためのサポート層が必要で、そのため光ファイバ径が大きくなることから許容曲げ径も大きい、といったデメリットを有する。しかしながら、本実施形態に係るダブルクラッド光ファイバ心線10ではかかるデメリットはない。
【0032】
さらに、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーにより形成された第2クラッド11cは、光学特性の温度依存性が小さいこと及び耐熱性が優れることが予想され、そのため厳しい環境下での使用可能性及び長寿命化を期待することができる。
【0033】
図3は、実施形態に係るダブルクラッド光ファイバ心線10を用いたデバイスの一例としてのファイバレーザ30を示す。
【0034】
このファイバレーザ30は、ファイバレーザ本体31を備え、その入力端に入力側FBG32(Fiber Bragg Grating)が接続されていると共に、出力端に出力側FBG33が接続され、また、入力側FBG32の入力端に光コンバイナ34が接続され、さらに、出力側FBG33の出力端がレーザ出射部を構成する光学ヘッド35に接続されている。
【0035】
ファイバレーザ本体31のファイバ長は例えば3〜100mである。
【0036】
入力側FBG32は、コアに希土類元素が添加されておらず且つ回折格子32aが形成されたダブルクラッド光ファイバ心線で構成されている。入力側FBG32は、コアの回折格子32aにより、ファイバレーザ本体31側からの光(例えば波長1085nmの光)を98〜100%反射するように構成されている。入力側FBG32のファイバ長は例えば0.3〜10mである。
【0037】
出力側FBG33も、コアに希土類元素が添加されておらず且つ回折格子33aが形成されたダブルクラッド光ファイバ心線で構成されている。出力側FBG33は、コアの回折格子33aにより、ファイバレーザ本体31側からの光(例えば波長1085nmの光)を5〜15%反射するように構成されている。出力側FBG33のファイバ長は例えば0.3〜10mである。
【0038】
光コンバイナ34は、複数のピグテール光ファイバ34aがそれらの出射端側で束ねられて溶融一体化されている。ピグテール光ファイバ34aの数は例えば2〜数十芯であり、典型例として、例えば、7芯、19芯、及び37芯が挙げられる。複数のピグテール光ファイバ34aのそれぞれの入力端には励起光源36が接続されている。励起光源36は、例えば、半導体レーザ等で構成されている。各励起光源36の出力は例えば5〜500Wである。
【0039】
このファイバレーザ30は、複数の励起光源36のそれぞれからのレーザ光をピグテール光ファイバ34aを介して伝送すると共に、それらを纏めて入力側FBG32に入力するように構成されている。また、ダブルクラッド光ファイバ心線で構成された入力側FBG32、実施形態に係るダブルクラッド光ファイバ心線10で構成されたファイバレーザ本体31、及びダブルクラッド光ファイバ心線で構成された出力側FBG33では、複数の励起光源36のそれぞれからのレーザ光をマルチモードの励起光として第1クラッド11b内で伝送し、そのマルチモードの励起光がコア11aを横切る際にコア11a中の希土類元素を励起させてエネルギー順位間の反転分布を形成することから、誘導放出により生じたシングルモードのレーザ光をコア11aを伝送するように構成されている。そして、コア11aを伝送するシングルモードのレーザ光を入力側FBG32及び出力側FBG33の回折格子32a,33aで反射させることにより発振させ、その発振によりハイパワー化された特定波長のレーザ光の一部を出力側FBG33の出射端を通して光学ヘッド35から出力するように構成されている。ファイバレーザ30の出力は例えば10〜200Wである。
【0040】
ここで、例えば、ピグテール光ファイバ34aの光ファイバ径が125μm及び出力NAが0.15である場合、ピグテール光ファイバ34aの数が7芯のときには光ファイバ束の外径が375μm、19芯のときには光ファイバ束の外径が625μm、及び37芯のときには光ファイバ束の外径が875μmとなる。そして、これを入力側FBG32の外径が250μmの入力端に接続するには、光コンバイナ34の出力端部をテーパ状等の先細り形状に形成する必要があるが、このとき7芯では出力NAが0.225、19芯では出力NAが0.375、及び37芯では出力NAが0.525となり、従って、ピグテール光ファイバ34aの数が多くなるに従って出力NAが大きくなる。これに対し、ダブルクラッド光ファイバ心線10では、高NAであることから、多芯のピグテール光ファイバ34aからのレーザ光を漏らすことなく入力側FBG32に入力させ、ダブルクラッド光ファイバ心線10で内を伝送させることができる。従って、上記ファイバレーザ30では、多くの励起光源36とのカップリングが可能であり、その結果、高出力のレーザ光を出力することができる。
【0041】
なお、上記ファイバレーザ30では、光コンバイナ34により励起光を入力する構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、入力側FBG32の側面にV溝等を形成して露出した第1クラッドに励起光を入力する構成としてもよく、また、入力側FBG32の第2クラッドを部分的に除去して露出した第1クラッドに励起光入力用のマルチモード光ファイバを融着して励起光を入力する構成としてもよい。
【0042】
次に、実施形態に係るダブルクラッド光ファイバ心線10の製造方法について図4に基づいて説明する。なお、以下ではオーバーコート12を熱硬化性ゴムで形成する場合を例とするが、特にこれに限定されるものではない。
【0043】
まず、コア11a及び第1クラッド11bを形成するためのガラス製のプリフォームPを作製する。プリフォームPの作製方法としては、例えば、CVD法、VAD法等の公知の方法を挙げることができる。プリフォームPは、例えば、長さが10〜1000mm、及び外径が10〜50mmの円柱体である。
【0044】
次いで、プリフォームPを線引機40にセットする。
【0045】
ここで、線引機40は、プリフォームPを加熱する紡糸炉41、その後段の第2クラッド形成部42、及びその後段のオーバーコート形成部43からなる。第2クラッド形成部42は、第1コーティングダイス42aと第1加熱炉42bとで構成されている。オーバーコート形成部43は、第2コーティングダイス43aと第2加熱炉43bとで構成されている。
【0046】
そして、線引機40を稼働させ、紡糸炉41でプリフォームPからコア11a及び第1クラッド11bを形成し、続いて、それを第2クラッド形成部42に通して第2クラッド11cを形成してダブルクラッド光ファイバ11を作製し、そして、そのダブルクラッド光ファイバ11をオーバーコート形成部43に通してオーバーコート12を形成して実施形態1に係るダブルクラッド光ファイバ心線10を製造する。
【0047】
このとき、紡糸炉41では、プリフォームPを加熱して線引きしてコア11a及び第1クラッド11bを形成する(コア及び第1クラッド形成工程)。ここで、紡糸炉41の設定温度(線引温度)は例えば2000〜2300℃である。線引速度は例えば1〜100m/minである。
【0048】
第2クラッド形成部42では、線引きされたコア11a及び第1クラッド11bを第1コーティングダイス42aに通して、その表面に液状の第2クラッド材料を均一厚さで付着させ、引き続いて第1加熱炉42bを通過させて加熱することにより熱硬化させて第2クラッド11cを形成する(第2クラッド形成工程)。
【0049】
ここで、第1コーティングダイス42aとしては、図5(a)に示すように、第2クラッド材料M1を加圧しつつ第1クラッド11bの表面に付着させる加圧ダイスを用いてもよく、また、図5(b)に示すように、第2クラッド材料M1を加圧することなく第1クラッド11bの表面に付着させるオープンダイスを用いてもよいが、第2クラッド材料M1を均一に付着させる観点から、前者の加圧ダイスを用いることが好ましい。
【0050】
第2クラッド材料は、熱硬化性樹脂であって、C=C二重結合及びSiHのヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマーを含み、C=C二重結合とSiHとを1:1の割合で含むことが好ましい。
【0051】
第2クラッド材料は単一成分で構成されていてもよい。単一成分の第2クラッド材料は、分子内に少なくとも1つのC=C二重結合及び少なくとも1つのSiHを有するパーフルオロエーテルポリマーで構成され、加熱されると、分子間でC=C二重結合とSiHとがヒドロシリル化反応して架橋する。
【0052】
第2クラッド材料は複数成分で構成されていてもよい。複数成分の第2クラッド材料は、例えば、分子内に少なくとも2つのC=C二重結合を有するパーフルオロエーテルポリマー成分と少なくとも2つのSiHを有する含フッ素オルガノシロキサン成分とで構成され、加熱されると、両成分間でC=C二重結合とSiHとがヒドロシリル化反応して架橋する。
【0053】
上記C=C二重結合は、主鎖中に含まれていてもよく、また、側鎖中に含まれていてもよく、さらに、主鎖或いは側鎖の末端に含まれていてもよい。C=C二重結合は、分子中にアルケニル基として導入されていることが好ましい。かかるアルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、スチリル基、イソプロペニル基、シクロプロペニル基、ブテニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0054】
上記SiHは、主鎖中に含まれていてもよく、また、側鎖中に含まれていてもよく、さらに、主鎖或いは側鎖の末端に含まれていてもよい。SiHは、分子中にシロキサン結合の繰り返し構造((−SiH2−O−)n)として導入されていることが好ましい。シロキサン結合の繰り返し数(n)は例えば2〜5である。
【0055】
第2クラッド材料は、単一種のパーフルオロエーテルポリマーのみを含んでいてもよく、また、複数種のパーフルオロエーテルポリマーを含んでいてもよい。
【0056】
第2クラッド材料は、ダブルクラッド光ファイバ11の高NA及び優れた耐湿性を損なわない範囲で他のポリマー成分を含んでいてもよい。また、第2クラッド材料は、白金系等の触媒を含んでいてもよい。
【0057】
第2クラッド材料の粘度は、例えば0.5〜50Pa・sであり、第2クラッド11cとして好ましい厚さの塗膜を得られる点で1〜10Pa・sであることが好ましい。第2クラッド材料の粘度は、JIS Z 8803記載の円錐−平板形回転粘度計により測定される。
【0058】
第2クラッド材料の硬化開始温度は、例えば70〜150℃であり、第2クラッド材料として好ましいポットライフと加工速度が得られる観点から90〜130℃であることが好ましい。第2クラッド材料の硬化開始温度は、ガラス転移温度と同様、図2(a)に示すような剛体振子型物性試験器20(例えば、エー・アンド・デイ社製 型番:RPT−3000W)を用いて次の手順により測定される。室温の大気雰囲気下で、試料ボート21に第2クラッド材料M1を深さ0.5mmとなるように注入し、そして、試料ボート21を室温から200℃まで10℃/minの速度で昇温し、また、一定時間ごとに振子に振動を与えて振動周期を測定する。第2クラッド材料M1が架橋して硬化すると、液の弾性が上昇して振動周期が短くなることから、図2(c)に示すように、昇温初期からの振動周期が一定である直線部と振動周期が低下する直線部との交点を求め、それを硬化開始温度とする。
【0059】
なお、第2クラッド材料に含まれるパーフルオロエーテルポリマーは、市販材料として信越化学社製のSIFELシリーズがある。
【0060】
第1加熱炉42bの炉内設定温度は例えば100〜500℃である。第1加熱炉42bにおける加熱処理時間は例えば0.05〜0.5秒である。
【0061】
オーバーコート形成部43では、第1クラッド11bが第2クラッド11cで被覆されたダブルクラッド光ファイバ11を第2コーティングダイス43aに通して、その表面に液状のオーバーコート材料を均一厚さで付着させ、引き続いて第2加熱炉43bを通過させて加熱することにより熱硬化させてオーバーコート12を形成する(オーバーコート形成工程)。
【0062】
ここで、第2コーティングダイス43aとしては、図5(a)に示すように、オーバーコート材料M2を加圧しつつダブルクラッド光ファイバ11の表面に付着させる加圧ダイスを用いてもよく、また、図5(b)に示すように、オーバーコート材料M2を加圧することなくダブルクラッド光ファイバ11の表面に付着させるオープンダイスを用いてもよいが、オーバーコート材料M2を均一に付着させる観点から、前者の加圧ダイスを用いることが好ましい。
【0063】
第2加熱炉43bは、単一の炉で構成されていてもよい。この場合、第2加熱炉43bの炉内設定温度は例えば100〜500℃である。第2加熱炉43bにおける加熱処理時間は例えば0.05〜0.5秒である。
【0064】
また、第2加熱炉43bは、図6に示すように、一対の上流側加熱炉431b及び下流側加熱炉432bで構成されていてもよく、そして、オーバーコート12を形成する際のダブルクラッド光ファイバ11への熱の影響を低減する観点から、液状のオーバーコート材料を付着させたダブルクラッド光ファイバ11を、炉内設定温度を相対的に高くした上流側加熱炉431b及び炉内設定温度を相対的に低くした下流側加熱炉432bを順に通過させてオーバーコート材料を熱硬化させることが好ましい。この場合、上流側加熱炉431b及び下流側加熱炉432bは、間隔を有することなく連設されていてもよく、また、例えば0〜1000mmの間隔を有して設けられていてもよい。オーバーコート材料が付着したダブルクラッド光ファイバ11が上流側加熱炉431bから出て下流側加熱炉432bに入るまでの時間は例えば0〜0.5秒である。上流側加熱炉431bの炉内設定温度は例えば100〜500℃である。下流側加熱炉432bの炉内設定温度は例えば100〜450℃である。上流側加熱炉431b及び下流側加熱炉432bの炉内設定温度差は、好ましくは50〜200℃、より好ましくは50〜100℃である。
【0065】
オーバーコート材料としては、例えば、未硬化の熱硬化性シリコーンゴム等が挙げられる。オーバーコート材料の粘度は例えば0.5〜5Pa・sである。オーバーコート材料の硬化開始温度は、例えば70〜150℃である。
【実施例】
【0066】
[試験評価1]
(ダブルクラッド光ファイバ)
<発明例>
上記実施形態と同様の構成のダブルクラッド光ファイバ心線を作製し、それを発明例とした。
【0067】
発明例のダブルクラッド光ファイバ心線の心線径は350mmであった。ダブルクラッド光ファイバの第2クラッドの外径は300mmであった。コア径は10μmであった。第1クラッドの外径は200μmであった。
【0068】
コアはイッテルビウム(Yb)とアルミニウム(Al)が添加された石英で形成した。第1クラッドは石英で形成した。第2クラッドは、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマー(硬化開始温度128℃)で形成した。オーバーコートは熱硬化性シリコーンゴム(硬化開始温度86℃)で形成した。
【0069】
<比較例1及び2>
上記発明例と第2クラッドのみ異なり他は同様の構成のダブルクラッド光ファイバ心線2種を作製し、それを比較例1及び2とした。
【0070】
なお、比較例1及び2は、共に第2クラッドを紫外線硬化性のフッ化アクリレート樹脂で形成したものであるが、異なる紫外線硬化性のフッ化アクリレート樹脂を使用したものである。
【0071】
(試験評価方法)
<伝送損失>
発明例及び比較例1のそれぞれについて、200mを束にとり、JIS C 6823に基づいて、波長を変調して信号光を伝送したときの伝送損失を測定した。また、それをウォーターバス内の85℃に調温した温水に2日間浸漬し、同様に伝送損失を測定した。
【0072】
<NA>
発明例並びに比較例1及び2のそれぞれについて、第1クラッドのNAをJIS C 6822記載のFFP法により測定した。具体的には、赤色LEDからダブルクラッド光ファイバの第1クラッドにレンズを介して光を入射し、そして、出射光のファーフィールドパターン(FFP)を測定し、そのFFPプロファイルが最大値の5%となる値をNAとした。なお、NAの測定装置には、浜松ホトニクス社製のFFP測定システムLEPAS11を用いた。レンズには、測定対象のダブルクラッド光ファイバの第1クラッドのNAよりも少し大きいNAを有するものを用いた。NAの測定は、ファイバ長2m及び500mのそれぞれについて行った。
【0073】
<耐熱性>
発明例及び比較例1のそれぞれのファイバ長60mについて、160℃及び80℃の温度雰囲気下に保持し、経過日数と第1クラッドのNAとの関係を求めた。NAの測定方法は上記と同一である。
【0074】
なお、高NA成分の光ほどガラス製の第1クラッドと樹脂製の第2クラッドとの界面付近で光強度が大きくなるが、樹脂製の第2クラッドが劣化すると、光吸収の増大や第2クラッドの剥離による散乱の増大により、その高NA成分の光ほど大きな影響を受けて第1クラッドのNAが小さくなる。従って、この第1クラッドのNAの測定により第2クラッドの劣化を評価することができる。
【0075】
<耐湿熱性>
発明例及び比較例1のそれぞれのファイバ長60mについて、85℃及び85%の高温高湿雰囲気下に保持し、経過日数と第1クラッドNAとの関係を求めた。第1クラッドのNAの測定方法は上記と同一である。
【0076】
(試験評価結果)
図7(a)及び(b)は、温水浸漬前後それぞれの波長と伝送損失との関係を示す。
【0077】
これらによれば、温水浸漬前は、局所的なピークの差(例えば、波長1400nm帯のOHによる吸収ピーク)はあるものの、総じて発明例も比較例1も同水準の伝送損失を示し、一方、温水浸漬後は、発明例では伝送損失の変化が極めて小さいのに対し、比較例1では伝送損失が著しく高まっていることが分かる。
【0078】
表1は第1クラッドのNAを示す。
【0079】
【表1】

【0080】
発明例は、ファイバ長2mにおけるNAが0.59であり、ファイバ長500mにおけるNAが0.54であった。比較例1は、ファイバ長2mにおけるNAが0.46であり、ファイバ長500mにおけるNAが0.45であり、比較例2は、ファイバ長2mにおけるNAが0.60であり、ファイバ長500mにおけるNAが0.24であった。
【0081】
これらの結果から、発明例では、ファイバ長が短尺(2m)であっても長尺(500m)であっても、比較例1及び2よりも高NAの第1クラッド11bを得ることができている点で好ましいことが分かる。
【0082】
図8及び表2は、高温度雰囲気での保持日数とNAとの関係を示す。
【0083】
【表2】

【0084】
160℃の高温雰囲気に保持したときの第1クラッドのNAは、発明例では、初期(経過日数0日)が0.57、7日後が0.55、16日後が0.54、23日後が0.54、37日後が0.51、及び101日後が0.50であり、比較例1では、初期(経過日数0日)が0.47、7日後が0.43、14日後が0.38、28日後が0.33、及び92日後が0.13であった。
【0085】
80℃の高温雰囲気に保持したときの第1クラッドのNAは、発明例では、初期(経過日数0日)が0.57、7日後が0.57、14日後が0.57、28日後が0.57、及び91日後が0.57であり、比較例1では、初期(経過日数0日)が0.47、8日後が0.46、及び71日後が0.43であった。
【0086】
これらの結果から、第2クラッドを熱硬化性樹脂で形成した発明例では、高温雰囲気での保持時間が長くなっても、第1クラッドのNAの低下が小さいことが分かる。その一方、第2クラッドを紫外線硬化性樹脂で形成した比較例1では、高温雰囲気での保持時間が長くなるに従って、第1クラッドのNAが大きく低下しているのが分かる。比較例1では、熱による第2クラッドの劣化により、光吸収の増大や第2クラッドの剥離による散乱の増大により、第1クラッドのNAが小さくなったものと考えられる。
【0087】
図9及び表3は、高温高湿雰囲気での保持日数と第1クラッドのNAとの関係を示す。
【0088】
【表3】

【0089】
85℃及び85%の高温高湿雰囲気に保持したときの第1クラッドのNAは、発明例では、初期(経過日数0日)が0.57、7日後が0.57、14日後が0.57、28日後が0.57、35日後が0.57、及び99日後が0.52であり、比較例1では、初期(経過日数0日)が0.47、8日後が0.45、15日後が0.36、及び70日後が0.36であった。
【0090】
これらの結果から、第2クラッドを熱硬化性樹脂で形成した発明例では、高温高湿雰囲気での保持時間が長くなっても、第1クラッドのNAの低下が小さいことが分かる。その一方、第2クラッドを紫外線硬化性樹脂で形成した比較例1では、高温高湿雰囲気での保持時間が長くなると、第1クラッドのNAが大きく低下しているのが分かる。比較例1では、高温高湿による第2クラッドの剥離により、第1クラッドのNAが小さくなったものと考えられる。
【0091】
[試験評価2]
(ダブルクラッド光ファイバ心線の製造)
試験評価1の発明例と同様の構成のダブルクラッド光ファイバ心線を、オーバーコートの加熱条件を変更して作製した。
【0092】
具体的には、条件1では、第1及び第2コーティングダイスとして加圧ダイスを用い、第1加熱炉の炉内設定温度を300℃、第2加熱炉の炉内設定温度を400℃、及び線引速度を20m/minとした。
【0093】
条件2では、第2加熱炉の炉内設定温度を450℃とした他は条件1と同一とした。
【0094】
条件3では、第2加熱炉の炉内設定温度を500℃とした他は条件1と同一とした。
【0095】
条件4では、第2加熱炉を、間隔を有することなく連設された上流側加熱炉及び下流側加熱炉で構成し、前者の炉内設定温度を400℃及び後者の炉内設定温度を300℃とした他は条件1と同一とした。
【0096】
(試験評価方法)
条件1〜4で作製したダブルクラッド光ファイバ心線について、目視にて外観観察を行い、A:外観異常無し、B:数mに1個の頻度で外観異常部あり、及びC:外観異常部多数の三段階で評価した。
【0097】
また、表面のタック性について、手で掴んだ際の触感から、A:無及びB:有の二段階で評価した。
【0098】
さらに、試験評価1と同一方法によりファイバ長60mでの第1クラッドのNAを測定した。
【0099】
(試験評価結果)
表4は試験評価結果を示す。
【0100】
【表4】

【0101】
外観について、条件1ではB、及び条件2〜4ではAであった。
【0102】
タック性について、条件1ではB、及び条件2〜4ではAであった。
【0103】
第1クラッドのNAについて、条件1では0.56、条件2では0.20、条件3では0.18、及び条件4では0.57であった。
【0104】
これらの結果から、条件2及び3では、第1クラッドのNAが低下しているのが分かる。第2加熱炉の炉内設定温度を450℃及び500℃と高く設定した条件2及び3では、第2クラッドが熱により変質したものと考えられる。その一方、条件1では、第1クラッドのNAの低下は認められないものの、外観及びタック性が劣るものとなっていることが分かる。第2加熱炉の炉内設定温度を400℃と低く設定した条件1では、オーバーコートが完全に硬化しなかったものと考えられる。
【0105】
これらに対し、第2加熱炉を上流側加熱炉及び下流側加熱炉で構成し、前者の炉内設定温度を400℃及び後者の炉内設定温度を300℃とした条件4では、第1クラッドのNAの低下が認められず、また、外観及びタック性も優れるダブルクラッド光ファイバ心線を得ることができた。
【0106】
[試験評価3]
(ダブルクラッド光ファイバ心線の製造)
試験評価1の発明例と同様の構成のダブルクラッド光ファイバ心線を、第2クラッドを形成するための第1コーティングダイスとして加圧ダイスを用いて作製し、また、第1コーティングダイスとしてオープンダイスを用いても作製した。
【0107】
(試験評価方法)
第1コーティングダイスとして加圧ダイスを用いた場合及びオープンダイスを用いた場合のそれぞれで得られたダブルクラッド光ファイバ心線について、ファイバ長を変量して試験評価1と同一方法により第1クラッドのNAを測定した。
【0108】
(試験評価結果)
図10及び表5は、第1コーティングダイスとして加圧ダイスを用いた場合及びオープンダイスを用いた場合に得られたダブルクラッド光ファイバ心線のファイバ長と第1クラッドのNAとの関係を示す。
【0109】
【表5】

【0110】
第1クラッドのNAは、加圧ダイス使用の場合では、ファイバ長が1mのとき0.57、8mのとき0.56、13mのとき0.56、23mのとき0.56、33mのとき0.55、43mのとき0.55、及び53mのとき0.54であり、オープンダイス使用の場合では、ファイバ長が1mのとき0.57、2mのとき0.56、7mのとき0.52、17mのとき0.46、27mのとき0.40、37mのとき0.38、47mのとき0.30及び57mのとき0.26であった。
【0111】
この結果から、加圧ダイスを用いた場合には第1クラッドのNAのファイバ長依存性が小さいのに対し、オープンダイスを用いた場合には第1クラッドのNAのファイバ長依存性が大きく、ファイバ長が長くなるに従って小さくなっていることが分かる。
【0112】
また、両方のダブルクラッド光ファイバ心線について、He−Neレーザを入射してみたところ、オープンダイスを用いた方では、明るく光っている点が多数観察され、その部分を顕微鏡で拡大してみると、第2クラッドの外径が変動して薄肉になっている部分から光が漏れていることが分かった。その一方、加圧ダイスを用いた方では、そのような明るく光っている点は観察されなかった。従って、加圧ダイスを用いることにより、第2クラッドの外径が安定し、それによって光の漏れが抑制され、結果として、第1クラッドのNAは、ファイバ長依存性が小さく、長さ方向に安定したものになるのだと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明はダブルクラッド光ファイバ及びその製造方法、並びにダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0114】
10 ダブルクラッド光ファイバ心線
11 ダブルクラッド光ファイバ
11a コア
11b 第1クラッド
11c 第2クラッド
12 オーバーコート
20 剛体振子型物性試験器
21 試料ボート
22 ナイフエッジ
23 錘
30 ファイバレーザ
31 ファイバレーザ本体
32 入力側FBG
32a 回折格子
33 出力側FBG
33a 回折格子
34 光コンバイナ
34a ピグテール光ファイバ
35 光学ヘッド
36 励起光源
40 線引機
41 紡糸炉
42 第2クラッド形成部
42a 第1コーティングダイス
42b 第1加熱炉
43 オーバーコート形成部
43a 第2コーティングダイス
43b 第2加熱炉
431b 上流側加熱炉
432b 下流側加熱炉
M1 第2クラッド形成材
M2 オーバーコート材料
P プリフォーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素が添加されたガラス製のコアと、該コアを被覆するように設けられ該コアより屈折率が低いガラス製の第1クラッドと、該第1クラッドを被覆するように設けられ該第1クラッドより屈折率が低い第2クラッドと、を有するダブルクラッド光ファイバであって、
上記第2クラッドを形成する第2クラッド材料は、熱硬化性樹脂であることを特徴とするダブルクラッド光ファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載されたダブルクラッド光ファイバにおいて、
上記第2クラッドを形成する第2クラッド材料は、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含む熱硬化性樹脂であることを特徴とするダブルクラッド光ファイバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたダブルクラッド光ファイバにおいて、
上記第1クラッドの開口数がファイバ長2mで測定して0.4〜0.6であることを特徴とするダブルクラッド光ファイバ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載されたダブルクラッド光ファイバにおいて、
上記第1クラッドの開口数がファイバ長500mで測定して0.4〜0.6であることを特徴とするダブルクラッド光ファイバ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたダブルクラッド光ファイバにおいて、
上記第2クラッド材料のショアA硬さが10〜80であることを特徴とするダブルクラッド光ファイバ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載されたダブルクラッド光ファイバにおいて、
上記第2クラッド材料のガラス転移温度が−150〜0℃であることを特徴とするダブルクラッド光ファイバ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載されたダブルクラッド光ファイバをオーバーコートで被覆したことを特徴とするダブルクラッド光ファイバ心線。
【請求項8】
ガラス製のプリフォームを線引きして希土類元素が添加されたコア及びそれを被覆し該コアより屈折率が低い第1クラッドを形成するコア及び第1クラッド形成工程と、
上記コア及び第1クラッド形成工程で形成した上記第1クラッドの表面に液状の第2クラッド材料を付着させて加熱することにより熱硬化させて該第1クラッドより屈折率が低い第2クラッドを形成する第2クラッド形成工程と、
を備えたダブルクラッド光ファイバの製造方法であって、
上記第2クラッド材料は、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマーを含むことを特徴とするダブルクラッド光ファイバの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載された方法で製造したダブルクラッド光ファイバの表面に液状のオーバーコート材料を付着させて加熱することにより熱硬化させるオーバーコート形成工程を備えたダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載されたダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法において、
上記オーバーコート形成工程では、液状のオーバーコート材料を付着させたダブルクラッド光ファイバを、炉内設定温度を相対的に高くした上流側加熱炉及び炉内設定温度を相対的に低くした下流側加熱炉を順に通過させてオーバーコート材料を熱硬化させるダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載されたダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法において、
上記オーバーコート形成工程では、液状のオーバーコート材料を加圧する加圧ダイスを用いて、ダブルクラッド光ファイバの表面に液状のオーバーコート材料を付着させるダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−48214(P2013−48214A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−150368(P2012−150368)
【出願日】平成24年7月4日(2012.7.4)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】