説明

ダンパアセンブリ、それを用いた高圧ポンプ及び高圧ポンプの製造方法

【課題】 ダンパアセンブリを用い、組立タクトタイムを短縮可能で、製造工程におけるダンパ部の傷付きを防止でき、かつ、製造バラツキが少なく脈動減衰性能の品質が安定した高圧ポンプを提供する。
【解決手段】 ダンパアセンブリ200は、第1支持部材50と第2支持部材60との間にダンパ部材210を挟持し、あそびを有する状態で係合する。高圧ポンプ10の組立工程では、ダンパ収容空間201にダンパアセンブリ200を配置し、ダンパアセンブリ200の被押圧部51に弾性部材80を載せ、その上から蓋体12をポンプボディ11に固定する。弾性部材80が被押圧部51を押圧することにより、第1支持部材50及び第2支持部材60の当接部がダンパ部材210に当接してダンパ部材210が固定されるとともに、ダンパアセンブリ200がダンパ収容空間201に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられ、燃料の圧力脈動を低減するためのダンパアセンブリ、それを用いた高圧ポンプ、及び高圧ポンプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧ポンプ内の燃料の圧力脈動を低減するための金属ダイヤフラムダンパの機構が知られている。例えば、特許文献1の高圧ポンプでは、2枚式の金属ダイヤフラムダンパを用い、ポンプボディに、ワッシャガイド、金属ダイヤフラムダンパ、ワッシャ、波ワッシャを順に組み付ける構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4036153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高圧ポンプの製造工程にてダイヤフラムダンパ表面に傷が付くと、高圧ポンプの燃料供給性能に影響を及ぼすおそれがある。ところが、ポンプ本体のメイン組立工程で直接ダイヤフラムダンパを組み付ける製造方法では、作業時におこりうる他部品、設備、治工具などとの接触や、部品の保管時、運搬時の不慮の事故によって、ダンパ表面を傷付ける可能性がある。
【0005】
そこで、あらかじめサブ組立工程でダンパ表面が周囲物と接触しにくい構造のダンパアセンブリを組み立て、メイン組立工程に供給すれば、保管時、運搬時およびメイン組立工程での作業時のダンパ表面傷付き防止に有効である。また、サブ組立工程でダンパアセンブリを組み立てれば、メイン組立工程での組立工数を削減し、タクトタイムを短縮できるという点からも、ダンパ部材のアセンブリ化が望まれる。
【0006】
ここで、特許文献1に基づき、金属ダイヤフラム、ワッシャガイド、ワッシャの3部材からなるアセンブリ化を仮定すると、製造工程で以下の問題が生ずると考えられる。
第一に、開示された図(特許文献1の図3参照)によれば、外周のワッシャガイドの高さよりも中央部のダイヤフラムの高さの方が高いので、アセンブリを作業台に置いたときダイヤフラムが作業台に接触してしまい、傷付きが防止できない。
【0007】
第二に、ワッシャの外径とワッシャガイドの内径との関係について、ポンプボディに直接、順に組み付ける場合は、ワッシャの外径をワッシャガイドの内径よりもわずかに小さくして、すきまばめの嵌合をすることができる。しかし、アセンブリ化する場合は、組み付けた部材が運搬中や作業中にばらばらにならないようにするため、ワッシャの外径をワッシャガイドの内径よりもわずかに大きくして、しまりばめの嵌合すなわち圧入をする必要がある。ワッシャ、ワッシャガイドは円周全部が嵌合しているため、(1)圧入荷重を一定範囲に管理するため、圧入部の加工寸法精度や面粗度を高精度に維持する必要があり、(2)円周方向の圧入荷重のバラツキによって金属ダイヤフラムがねじれて脈動減衰性能の品質が安定しないおそれがある。また、(3)波ワッシャによる押圧の力がダイヤフラムの挟持力として有効に利用できないという問題がある。
【0008】
本発明は上述した問題を解決するためになされたものであり、その目的は、ダンパ部材を支持部材によってアセンブリ化することにより、組立タクトタイムを短縮可能で、製造工程におけるダンパ部の傷付きを防止でき、かつ、製造バラツキが少なく、それを組み付けた高圧ポンプの脈動減衰性能の品質を安定させることのできるダンパアセンブリを提供することにある。
また、このダンパアセンブリを用いた高圧ポンプを提供することにある。
また、このダンパアセンブリを用いた高圧ポンプの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載のダンパアセンブリは、高圧ポンプのポンプボディの一端に形成されるダンパ収容空間に配置され、蓋体が前記ダンパ収容空間を塞いで前記ポンプボディに固定されるとともに、前記蓋体と前記ポンプボディとの間に弾性部材を介して挟まれ、弾性部材に押圧されて固定されるものであり、次の3部材によって構成される。
(1)ダンパ部材。中央部にダンパ部と、周囲に周縁部とを有する2枚のダイヤフラムを、ダンパ部を上下として周縁部で接合したものである。
(2)第1支持部材。上側のダンパ部を囲む第1筒部と、第1筒部の上部に設けられ弾性部材に押圧される被押圧部と、第1筒部の下部端面に設けられる第1当接部と、第1筒部の径外方向に設けられる第1係合部とを有する。
(3)第2支持部材。下側のダンパ部を囲む第2筒部と、第2筒部の下部に設けられダンパ収容空間の底部の固定面に当接する着座部と、第2筒部の上部端面に設けられる第2当接部と、第2筒部の径外方向に設けられる第2係合部とを有する。
なお、望ましくは、第1当接部と第2当接部はほぼ同径の略円状に形成される。
そして、両当接部の間にダンパ部材の周縁部を固定することなく挟持する姿勢で、両係合部が、もしくは両係合部とさらに別の結合部材とが係合している。
なお、「ダンパ部材の周縁部を固定することなく挟持する姿勢で」とは、言い換えれば、両支持部材があそびを有する状態で係合していることを示す。
【0010】
本発明によれば、ダンパ部材と支持部材とによるアセンブリ化が可能である。したがって、サブ組立工程でダンパアセンブリを組み立て、メイン組立工程に供給することにより、タクトタイムの短縮が図れる。
また、本発明のダンパアセンブリは、支持部材の筒部がダンパ部材を囲んでいるため、ダンパ部の傷付き防止に効果がある。
また、本発明のダンパアセンブリは支持部材がダンパ部材の周縁部を固定することなく挟持する姿勢で係合している。言い換えれば、支持部材があそびを有する状態で係合している。そこで、高圧ポンプの組立の際、例えば、弾性部材が支持部材を押圧することによりダンパ部材を固定する場合、圧入構造とは異なり、弾性部材による全荷重を全周均等にダンパ部材の挟持に有効に利用でき、ダンパ部材の偏芯、ねじれなどに関連する製造バラツキが低減できる。よって、それに起因する高圧ポンプの脈動減衰性能の品質が安定する。
【0011】
請求項2に記載のダンパアセンブリは、係合構造に関する発明である。
係合部の一方は、支持部材の径外方向に突出してから端面側へ曲折するクリップ部によって構成される。係合部の他方は、支持部材の外周に設けられるフランジ状の外周縁部によって構成される。これにより、クリップ部と外周縁部とのスナップフィットによる係合が可能となる。
【0012】
ここで、クリップ部と外周縁部の具体的な構造は、例えば次のようである。
クリップ部は、一方の支持部材の径外方向に突出する延長部、その延長部から略L字状に曲折して中心軸に略平行に端面側に伸びる抱持部、その抱持部の先端に内周側に食い込んで形成されるクリップ爪部からなり、支持部材の外周に複数箇所設けられる。外周縁部は、他方の支持部材の外周の一部分または全周にフランジ状に設けられる。両支持部材は、どちらが第1支持部材または第2支持部材であってもよい。
支持部材の中心軸からの寸法の関係は、次のようである。
(1)抱持部の内側までの寸法はダンパ部材の半径より大きく設定される。つまり、抱持部とダンパ部材の周端部とが接触しないようにする。
(2)クリップ爪部の内側までは、外周縁部の半径よりわずかに小さく設定される。つまり、クリップ部が弾性変形して外周側に広がらなければスナップフィットにより外周縁部に係合できず、また一旦係合すれば、作業時、保管時、運搬時に、支持部材の自重や通常発生しうる振動、衝撃などによっては容易に離脱しないようにする。
【0013】
係合の手順は、両支持部材にダンパ部材を挟み、中心軸を一致させて圧着することにより、クリップ部が弾性変形して外周側に広がり、クリップ爪部が外周縁部を乗り越えた後、内周側に復元して、スナップフィットにより外周縁部に係合する。
本発明によれば別の結合部材を必要とせず部品点数が少なくてすむ。また、組立作業が容易である。
【0014】
請求項3に記載のダンパアセンブリは、係合構造に関する別の発明である。
両係合部はともに径外方向へ突出して上下に重なるピンチ部を構成する。
結合部材は、ピンチ部の突出方向に延びる上下2つの壁部、及び壁部を径外方向で連結する連結部とからなるU字状の断面形状を有する。結合部材は、ピンチ部を径外方向から上下に挟み、かつ、径方向に移動可能に装着される。
【0015】
ここで、ピンチ部と結合部材の具体的な構造は、例えば次のようである。
ピンチ部は両支持部材の筒部の径外方向である外周の一部分または全周に設けられ、その一方の範囲が他方の範囲と同一であるか、または他方の範囲に含まれる。
ピンチ部の平面形状は略四角形であり、断面形状は支持部材の端面から反端面側に傾斜して、両支持部材のピンチ部を合わせたとき互いに反るように形成される。
結合部材は、ピンチ部の突出方向に延びる上下2つの壁部が径外方向の連結部で連結されるU字状の断面形状を有する。上下の壁部の内側の幅は、両支持部材の間にダンパ部材を挟んだときの両ピンチ部の縁の距離よりもわずかに小さく、両支持部材のピンチ部を弾性変形させて反りを戻すように装着することにより、結合部材の上下の壁部の内側と両ピンチ部の上面および下面との摩擦によって両支持部材が一体に保持される。また、壁部の端面から連結部までの深さはピンチ部の突出長さよりも大きく、連結部の内側がピンチ部の縁もしくはダンパ部材の周端部に接しないようになっている。
【0016】
本発明によれば部品点数が増えるが、支持部材の加工は単純となる。さらに、結合部材の形状、寸法を自由に設計できるため、例えば、結合部材装着時の最外径寸法をダンパ収容空間の内径に嵌合する寸法とすることにより、ダンパ収容空間へ配置する時の調芯機能を兼ねることができる。
また、支持部材の装着は手作業に限定するものではなく、機械でカシメすることもできる。カシメの場合は、両支持部材の係合がカシメによって確実にされるため、離脱防止を寸法精度によって保証する必要性が少ない。したがって各部品の寸法精度を緩くできるため、加工、管理工数の低減につながる。
【0017】
請求項4に記載のダンパアセンブリは、ダンパ部材の位置決めに関する発明である。
いずれかの支持部材の筒部の径外方向であって、係合部以外の複数の部位に、径外方向に突出してから端面側へ曲折するガイド爪部を形成する。ダンパ部材をガイド爪部の内側に配置することにより、ダンパ部材の移動を規制する。
【0018】
ここで、ガイド部の具体的な構造は、例えば次のようである。
ガイド部は、いずれかの支持部材の外周の一部に、望ましくは全周を等分する位置に複数設けられる。さらに、ガイド部と請求項2または請求項3の係合部とを、全周を等分する位置に交互に配置することもできる。
ガイド部は、径外方向に突出するガイド延長部、そのガイド延長部から屈曲して中心軸に略平行に端面側に伸びるガイド爪部からなり、支持部材の中心軸からガイド爪部の内側までの距離はダンパ部材の半径よりわずかに大きく設定される。
【0019】
そのため、ダンパアセンブリの組立工程でガイド爪のある支持部材を下に置き、その上にダンパ部材を載せる際、ガイド爪の案内によりダンパ部材を支持部材とほぼ同軸に、偏芯せずに配置することができる。したがって作業性が向上し、また品質が安定する。
【0020】
請求項5に記載のダンパアセンブリでは、各支持部材の高さは、ダンパ部の高さより高い。したがって、作業台や保管棚に置いたときでもダンパ部材が支持部材によって保護され、周囲物と接触しにくいため、ダンパ部の傷付きをより確実に防止できる。
【0021】
請求項6に記載の高圧ポンプは、次の部材を備える。
(1)請求項1〜5のいずれかに記載のダンパアセンブリ。
(2)ポンプボディ。一端にダンパアセンブリを収容するダンパ収容空間を有する
(3)蓋体。ダンパ収容空間を塞ぎ、ポンプボディに固定される。
(4)弾性部材。
具体的には、ダンパ収容空間にダンパアセンブリを配置し、ダンパアセンブリの被押圧部に弾性部材を載せ、その上から蓋体をポンプボディに固定する。弾性部材が被押圧部を押圧することにより、第1支持部材及び第2支持部材の当接部がダンパ部材に当接してダンパ部材が固定されるとともに、ダンパアセンブリがダンパ収容空間に固定される。
また、以上の組立工程は、請求項7により高圧ポンプの製造方法として提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態の高圧ポンプにおける基本構成を説明するための断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態のダンパアセンブリの平面図である。
【図3】図1の要部拡大断面図であり、図2のA−A断面でのダンパアセンブリの断面図を含む。
【図4】図2のA−A断面でのダンパアセンブリの要部拡大断面図である。
【図5】図2のB−B断面でのダンパアセンブリの断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態のダンパアセンブリの係合手段を示す斜視図である。
【図7】本発明の第1実施形態のダンパアセンブリの構成部品の断面図である。
【図8】本発明の第1実施形態のダンパアセンブリの組立手順を示す説明図であり、(a)から(c)の順に組み立てられる。
【図9】本発明の第2実施形態のダンパアセンブリの断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態のダンパアセンブリの平面図である。
【図11】図10のA−A断面でのダンパアセンブリの断面図である。
【図12】本発明の第4実施形態のダンパアセンブリの平面図である。
【図13】図12のA−A断面でのダンパアセンブリの断面図である。
【図14】本発明の第4実施形態の変形形態のダンパアセンブリの平面図である。
【図15】図14のA−A’断面でのダンパアセンブリの断面図である。
【図16】本発明の第5実施形態の高圧ポンプの要部拡大断面図である。
【図17】本発明の第5実施形態の高圧ポンプに用いられる皿バネの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の第1〜第5実施形態を説明する。なお、第1実施形態はダンパアセンブリおよび高圧ポンプの実施形態、第2〜第4実施形態はダンパアセンブリの実施形態、第5実施形態は高圧ポンプの実施形態を示す。
(第1実施形態)
最初に図1、図3に基づき、高圧ポンプ10の基本構成および作動を説明する。
(基本構成)
本発明の第1実施形態の高圧ポンプは、例えば、車両のガソリンエンジンやディーゼルエンジンのインジェクタに、図示しないデリバリパイプを経由して燃料を供給するものである。図1に示すように、高圧ポンプ10は、ポンプボディ(またはハウジング)11、蓋体12、プランジャ13、弁ボディ30、電磁駆動部70、吐出弁部90、及びダンパ部材210などを備えている。
【0024】
ポンプボディ11には、円筒状のシリンダ14が形成されている。シリンダ14には、プランジャ13が軸方向に往復移動可能に収容されており、その奥に加圧室121が形成されている。
ポンプボディ11には、シリンダ14の中心軸と略垂直に筒部15が形成されている。筒部15の内径には通路151が設けられ、通路151の底側に小径の弁ボディ収容穴152が形成されている。弁ボディ収容穴152には、弁ボディ30が収容される。
【0025】
ポンプボディ11にはまた、シリンダ14の反対側に、筒部203に囲まれるダンパ収容空間201が形成されている。ダンパ収容空間201には、ダンパ部材210、第1支持部材50、第2支持部材60及び弾性部材80が収容され、それ以外の空間が流体室16を形成する。ダンパ収容空間201の底部202には、嵌合穴204が同軸に形成されている(図3参照)。
蓋体12は、有底円筒状に形成されている。蓋体12は、ポンプボディ11の筒部203の外壁に溶接などの方法で固定され、ダンパ収容空間201を塞ぐ。
【0026】
流体室16は、図示しない燃料入口(燃料インレット)と連通し、この燃料入口は、図示しない低圧燃料配管と接続されている。流体室16には、低圧燃料配管から燃料入口を通じて、図示しない低圧燃料ポンプによって燃料タンクの燃料が供給される。
導入通路111は、流体室16と筒部15の内側に形成されている通路151とを連通している。吸入通路112は、一方の端部が加圧室121に連通し、他方の端部は、弁ボディ収容穴152に開口している。導入通路111と吸入通路112とは、後述する弁ボディ30の内側の通路を経由して連通している。加圧室121は、また吐出通路114と連通している。
燃料通路100は、これら導入通路111、吸入通路112、吐出通路114、及び後述する弁ボディ30の内側の通路を包括するものである。
【0027】
次にプランジャ部、すなわちプランジャ13及びその周辺について説明する。
プランジャ13は、ポンプボディ11のシリンダ14に軸方向へ往復移動可能に収容されている。プランジャ13は、小径部131、及び小径部131に接続して小径部131との間に段差面132を形成する大径部133からなる。段差面132にはポンプボディ11に接する略円環状のプランジャストッパ23が設けられている。
【0028】
プランジャストッパ23は、加圧室121側の端面に、反加圧室121側へ略円板状に凹む凹部231と凹部231から径外方向へプランジャストッパ23の外縁まで延びる溝路232とを有している。凹部231の径はプランジャ13の大径部133の外径より大きく形成されている。凹部231の中央部にはプランジャストッパ23を板厚方向に貫く孔233が形成されている。プランジャストッパ23は、孔233にプランジャ13の小径部131が挿通されるとともに、加圧室121側の端面がポンプボディ11に接している。
プランジャ13の段差面132、小径部131の外壁、シリンダ14の内壁、プランジャストッパ23の凹部231およびシール部材24に囲まれる略円環状の空間は可変容積室122を形成する。
【0029】
ポンプボディ11には、シリンダ14の反加圧室121側端部の外側に、加圧室121側へ略円環状に凹む凹部105が形成されている。凹部105には、オイルシールホルダ25が嵌め込まれている。オイルシールホルダ25は、プランジャストッパ23との間にシール部材24を挟んで、ポンプボディ11に固定されている。シール部材24は、小径部131周囲の燃料油膜の厚さを規制し、プランジャ13の摺動によるエンジンへの燃料のリークを抑制する。オイルシールホルダ25の反加圧室121側端部には、オイルシール26が装着されている。オイルシール26は、小径部131周囲のオイル油膜の厚さを規制し、プランジャ13の摺動によるオイルのリークを抑制する。
【0030】
オイルシールホルダ25とポンプボディ11との間には、環状の通路106および通路107が形成されている。通路106とプランジャストッパ23の溝路232とは連通し、また、通路106と通路107とは連通している。ポンプボディ11には、通路107と流体室16とを連通する戻し通路108が形成されている。こうして、溝路232、通路106、通路107、戻し通路108が順に連通することにより、可変容積室122は流体室16と連通している。
【0031】
プランジャ13の小径部131の反大径部133側に設けられたヘッド17は、スプリング座18と結合している。スプリング座18とオイルシールホルダ25との間には、スプリング19が設けられている。スプリング座18は、スプリング19の付勢力により、図示しないカムの方向(図1の下方向)へ付勢されている。プランジャ13は、図示しないタペットを介してカムと接することにより往復駆動される。スプリング19は、一方の端部がオイルシールホルダ25に接し、他方の端部がスプリング座18に接しており、軸方向へ伸びる力を有している。これにより、スプリング19は、スプリング座18を介して図示しないタペットをカム側へ付勢する。
【0032】
可変容積室122の容積は、プランジャ13の往復移動に応じて容積が変化する。
調量行程及び加圧行程でプランジャ13が上昇すると、加圧室121の容積が減少し、可変容積室122の容積が増大する。ここで、可変容積室122の断面積は、プランジャ13の大径部133の断面積から小径部131の断面積を引いたものであるから、大径部133と小径部131の断面積比が例えば1:0.4であるとすると、大径部133と可変容積室122の断面積比は1:0.6である。容積は断面積にプランジャ13の上昇ストロークを乗じて求められるから、加圧室121の容積の減少分と可変容積室122の容積の増加分の比も1:0.6となる。
よって、加圧室121が排出した低圧燃料の容積の約60%が、流体室16から戻し通路108、通路107、通路106、溝路232を経由して、可変容積室122に吸入される。その結果、残りの約40%が流体室16及び低圧燃料配管に脈動を発生させることになる。すなわち、可変容積室122を設けない場合に比べると、脈動の伝達が約40%に低減する。
【0033】
一方、吸入行程でプランジャ13が下降すると、加圧室121の容積が増大し、可変容積室122の容積が減少する。すると、加圧室121が流体室16から燃料を吸入すると同時に、可変容積室122の燃料が流体室16へ送り出される。上記の容積比によれば、加圧室121が吸入する燃料の約60%が可変容積室122から供給されるので、残りの約40%が燃料入口から吸入されることになる。すなわち、可変容積室122を設けない場合に比べると、加圧室121への燃料の吸入効率が向上する。
【0034】
次に吐出弁部90について説明する。
ポンプボディ11の吐出通路114側に設けられている吐出弁部90は、加圧室121において加圧された燃料の排出を許容または遮断する。吐出弁部90は、吐出弁92、規制部材93、スプリング94などから構成されている。
吐出弁92は、底部921、及び底部921から反加圧室121側へ筒状に延びる筒部922からなる有底筒状に形成され、吐出通路114において往復移動可能に設けられている。規制部材93は、筒状に形成され、吐出通路114を形成するポンプボディ11に固定されている。スプリング94は、一方の端部が規制部材93に接し、他方の端部が吐出弁92の筒部922に接している。
吐出弁92は、スプリング94の付勢力により、ポンプボディ11に形成される弁座95側へ付勢されている。吐出弁92は、底部921側の端部が弁座95に着座することにより吐出通路114を閉鎖し、弁座95から離座することにより吐出通路114を開放する。吐出弁92は、弁座95とは反対方向(図1の右方向)へ移動したとき、筒部922の反底部921側端部が規制部材93と接することにより移動が規制される。
【0035】
加圧室121の燃料の圧力が上昇すると、加圧室121側の燃料から吐出弁92が受ける力は増大する。そして、加圧室121側の燃料から吐出弁92が受ける力がスプリング94の付勢力と弁座95の下流側の燃料、すなわち図示しないデリバリパイプ内の燃料から受ける力との和よりも大きくなると、吐出弁92は弁座95から離座する。これにより、加圧室121内の燃料は、吐出弁92の筒部922に形成された通孔923、及び筒部922の内側を経由して燃料出口91から高圧ポンプ10の外部へ吐出される。
【0036】
一方、加圧室121の燃料の圧力が低下すると、加圧室121側の燃料から吐出弁92が受ける力は減少する。そして、加圧室121側の燃料から吐出弁92が受ける力がスプリング94の付勢力と弁座95の下流側の燃料から受ける力との和よりも小さくなると、吐出弁92は弁座95に着座する。これにより、下流側の燃料が加圧室121へ逆流することを防止する。
【0037】
次に吸入弁部、すなわち弁ボディ30、吸入弁35及びその周辺について説明する。
弁ボディ30は、係止部材20により通路151の内部に固定されている。弁ボディ30は、小径部31、筒部32を有し、筒部32の底部には、凹テーパ状の円周面を有する弁座34が形成されている。
吸入弁35は弁ボディ30の筒部32の内側に配置され、小径部31の内壁に案内されて往復移動する。吸入弁35の、反加圧室121側の面には、弁座34に着座可能な凸テーパ状の円周面が形成されている。
【0038】
ストッパ40は、弁ボディ30の筒部32の内壁に固定され、吸入弁35の開弁方向(図1の右方向)への移動を規制する。ストッパ40の内側と吸入弁35の端面との間にはスプリング21が設けられている。スプリング21は、吸入弁35を弁座34に着座させる方向、すなわち閉弁方向へ付勢している。
【0039】
弁ボディ30の筒部32の内壁とストッパ40の外壁との間には、燃料通路100を構成する環状の環状燃料通路101が形成されている。吸入弁35が開弁すると通路151と環状燃料通路101が連通し、吸入弁35が閉弁すると通路151と環状燃料通路101の連通が遮断される。
【0040】
また、ストッパ40は、吸入弁35との間に容積室41を形成している。容積室41は、吸入弁35の往復移動により容積が変化する。
ストッパ40には、ストッパ40の軸に対して傾斜する通路102が周方向に複数形成され、環状燃料通路101と吸入通路112とを連通している。また、ストッパ40には、容積室41と環状燃料通路101とを連通する管路42が形成されている。このため、環状燃料通路101と連通する通路102の燃料は、管路42を経由して容積室41に流入可能である。
【0041】
なお、上述した燃料通路100は、環状燃料通路101及び通路102を含み、流体室16と加圧室121との間が燃料通路100によって連通される。すなわち、燃料が流体室16側から加圧室121側へ向かうとき、燃料は、導入通路111、通路151、環状燃料通路101、通路102、吸入通路112をこの順に流れる。一方、加圧室121側から流体室16側へ向かうとき、燃料は、この逆の順に流れる。
【0042】
次に電磁駆動部70について説明する。
電磁駆動部70は、コイル71、固定コア72、可動コア73、フランジ75などから構成される。コイル71は樹脂製のスプール78に巻回されており、通電することにより磁界を発生する。固定コア72は磁性材料で作られ、コイル71の内側に収容されている。可動コア73は磁性材料で作られ、固定コア72と対向して配置されている。可動コア73は、筒部材79及びフランジ75の内側に軸方向に往復移動可能に収容されている。
【0043】
筒部材79は非磁性材料で作られ、固定コア72とフランジ75との間の磁気的な短絡を防止する。フランジ75は磁性材料で作られ、ポンプボディ11の筒部15に取り付けられ、電磁駆動部70をポンプボディ11に保持するとともに、筒部15の端部を塞いでいる。フランジ75は、中央部に筒状に形成されたガイド筒76を有している。
ニードル38は略円筒状に形成され、ガイド筒76の内壁に案内されて往復移動する。ニードル38は、一方の端部が可動コア73に一体に組み付けられており、他方の端部が吸入弁35の電磁駆動部70側の端面に当接するように設置されている。
【0044】
固定コア72と可動コア73との間にスプリング22が設けられている。スプリング22は、スプリング21が吸入弁35を閉弁方向に付勢する力よりも強い力で、可動コア73を吸入弁35側、すなわち吸入弁35の開弁方向へ付勢している。
コイル71に通電していないとき、可動コア73は固定コア72に吸引されず、互いに離れている。そのため、スプリング22の付勢力により、可動コア73と一体のニードル38が吸入弁35側へ移動し、ニードル38の端面が吸入弁35に当接して吸入弁35が開弁する。
【0045】
次に高圧ポンプ10の作動について説明する。高圧ポンプ10は、吸入工程、調量工程、加圧工程を繰り返す作動をする。
(作動)
(1)吸入行程
プランジャ13が下降するとき、コイル71への通電が停止され、吸入弁35は開弁状態となっている。そのため、流体室16の燃料が燃料通路100を経由して加圧室121に吸入される。
【0046】
(2)調量行程
プランジャ13が下死点から上死点に向かって上昇するとき、所定の時期まではコイル71への通電が停止され、吸入弁35は開弁状態となっている。そのため、加圧室121の低圧燃料が燃料通路100を経由して流体室16に戻される。
【0047】
調量行程の途中の所定の時期にコイル71への通電を開始することにより、コイル71に発生する磁界によって、固定コア72と可動コア73との間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力がスプリング22の付勢力よりも大きくなると、可動コア73は固定コア72側へ移動する。そのため、可動コア73と一体のニードル38は、固定コア72側へ移動する。すると、吸入弁35とニードル38とは離間し、吸入弁35は、スプリング21の付勢力、及び加圧室121から流体室16側へ排出される低圧燃料の流れによって生ずる力によって、弁座34側へ移動する。その結果、吸入弁35が弁座34に着座し、閉弁状態となる。
【0048】
吸入弁35が閉弁することにより、燃料通路100の燃料の流れが遮断され、加圧室121から流体室16へ低圧燃料を戻す調量行程は終了する。すなわち、コイル71の通電時期を調整することにより、加圧室121から流体室16へ戻される低圧燃料の量が調整される。その結果、加圧室121で加圧される燃料の量が決定される。
【0049】
(3)加圧行程
加圧室121と流体室16との間の燃料の流れが遮断された状態で、プランジャ13がさらに上死点に向けて上昇すると、加圧室121の燃料の圧力は上昇する。加圧室121の燃料の圧力が所定の圧力以上になると、吐出弁92が、スプリング94の付勢力、及び下流側からの燃料圧力に抗して開弁し、加圧室121で加圧された燃料は吐出通路114を経由して高圧ポンプ10から吐出される。高圧ポンプ10から吐出された燃料は、図示しないデリバリパイプに供給されて蓄圧され、インジェクタに供給される。
【0050】
プランジャ13が上死点まで上昇するとコイル71への通電が停止され、吸入弁35は再び開弁状態となる。そして、プランジャ13は再び下降し、加圧室121の燃料の圧力は低下して、再び吸入工程が行われる。
このように(1)から(3)の行程を繰り返すことにより、高圧ポンプ10は吸入した燃料を加圧して吐出する。以上が高圧ポンプ10の作動についての説明である。
【0051】
(ダンパアセンブリ)
次に、本発明の第1実施形態によるダンパセンブリ200の全体構成を図3に基づき説明する。なお、図3は、図1のダンパ収容室201付近の要部拡大断面図である。
ダンパアセンブリ200は、ダンパ部材210、第1支持部材50、第2支持部材60から構成される。
【0052】
ダンパ部材210は、中央部に凸状のダンパ部212、222と、周囲に平坦な周縁部213とを有する2枚のダイヤフラム211、221を、ダンパ部212、222を上下として、周縁部213で接合したものである。
ダイヤフラム211、221は略円形であり、中央部に凸状のダンパ部212、222を形成している。ダイヤフラム211、221は、周縁部213の面同士を接触させ、周端部216を溶接することにより、気密及び液密にシールされる。
【0053】
ダンパ部212、222の間にはダンパ室217が形成され、例えばヘリウム(He)、又はアルゴン(Ar)、あるいはこれらの混合気体が所定圧で封入されている。ここで所定圧は、例えば低圧側の燃料ポンプやエンジンシステムの要求値、ダイヤフラムの材料、脈動の大きさなど様々な要素から決定される。ダンパ部212、222は、流体室16の圧力変化に応じて弾性変形する。これにより、ダンパ室217の容積が変化し、流体室16の圧力脈動を減衰する。
ダイヤフラム211、221の板厚、材質、及びダンパ室217に封入される流体の圧力等により、要求される耐久性、或いはその他の要求性能に応じてダンパ部材210のばね常数が設定される。そして、このばね常数により、ダンパ部材210が減衰する脈動周波数が決定される。また、ダンパ室217の容積により、ダンパ部材210の脈動減衰性能が変化する。
【0054】
第1支持部材50および第2支持部材60は、略円筒状に形成される。
第1支持部材50は、上部外周に平坦な被押圧部51、外周に筒状の第1筒部52を有している。被押圧部51の内周側には面に略垂直に第1小径部511が形成される。第1小径部511の内周側には開口部513が形成される。また、第1支持部材50の下部端面には、円状の第1当接部56が形成される。
第2支持部材60は、下部外周に平坦な着座部61、外周に筒状の第2筒部62を有している。第2筒部62には、その外壁と内壁とを通じる複数の連通孔65が形成される。また、第2支持部材60の上部端面には、ダンパ部材210の周縁部213と当接し、第1当接部56と略同径の円状の第2当接部66が形成される。
ダンパアセンブリ200組立時に第1当接部50と第2当接部60とが周縁部213に当接して、その間にダンパ部材210を挟持する(図4参照)。
【0055】
ここで、ダンパアセンブリ200を組み付けた高圧ポンプ10の燃料通路に関して説明する。
ポンプボディ11と、第1支持部材50及び第2支持部材60との間には、導入通路111と連通する外側流体室85が形成されている。外側流体室85は、第1支持部材50及び第2支持部材60の周囲を取り巻いて形成されている。
第1支持部材50の内側には、ダンパ室217の外側の空間に第1内側流体室86が形成される。外側流体室85の燃料は、開口部513から第1内側流体室86に流入する。
第2支持部材60の内側には、ダンパ室217の外側の空間に第2内側流体室87が形成される。外側流体室85の燃料は、連通孔65を通り第2内側流体室87に流入する。
すなわち、外側流体室85、第1内側流体室86、第2内側流体室87は、互いに連通し、これらが流体室16を構成する。
【0056】
次に、ダンパセンブリ200の係合に関して図2〜図6に基づき説明する。図2は平面図、図3は上述のとおり図1の要部拡大断面図であり、図2のA−A断面図を含む。図4は図2のA−A断面の要部拡大図、図5は図2のB−B断面図、図6は斜視図である。
第1支持部材50の外周を4等分する位置に4箇所のクリップ部53が設けられる。クリップ部53には、径外方向に突出する延長部531と、その延長部から曲折して中心軸に略平行に端面側に伸びる抱持部532と、その抱持部の先端に内周側に食い込むクリップ爪部533とが形成される(図2、図4参照)。
第2支持部材60の外周を4等分する位置に4箇所の外周縁部63が設けられる。外周縁部63は、クリップ部53と同じ範囲に設けられてもよいが、図2には、クリップ部53よりも広角度θである約70°の範囲、すなわち後述するガイド部64を除く範囲に設けられる態様が示されている。
【0057】
対向する2個の抱持部532の内側の寸法は、ダンパ部材210を挟持した時、周端部216に接触しないように、ダンパ部材210の直径よりも大きく設定される。また、対向する2個のクリップ爪部533の内側の寸法は、対向する外周縁部63の外側の寸法よりもわずかに小さく設定される。つまり、クリップ部53が弾性変形して外周側に広がらなければスナップフィットにより外周縁部63に係合できず、また一旦係合すれば、作業時、保管時、運搬時に、支持部材の自重や通常発生しうる振動、衝撃などによっては容易に離脱しない。
【0058】
第2支持部材60の外周にはまた、4箇所の外周縁部63の各中間位置にガイド部64が設けられる。ガイド部64は、径外方向に突出するガイド延長部641と、そのガイド延長部から略L字状に曲折して中心軸に略平行に端面側に伸びるガイド爪部642からなる。
中心軸からのガイド爪部642の内側までの寸法は、ダンパ部材210の半径よりわずかに大きく設定される。よって、ダンパ部材210は、第2支持部材60に置いたとき、ガイド爪部642によって移動が規制される(図2、図5参照)。
【0059】
次に、第1実施形態のダンパアセンブリ200の構成部品を図7に、組立手順を図8(a)〜(c)に示す。
ダンパアセンブリ200を組み立てるには、まず第2支持部材60を下に置き、その上にダンパ部材210を載せる。ガイド部64の案内によりダンパ部材210は第2支持部材60とほぼ同軸に、偏芯せずに配置することができる。よって、作業性が向上し、また、品質が安定する。
つづいて、クリップ部53と外周縁部63の位置を合わせて第1支持部材50を第2支持部材の上に重ねる(図8(a)参照)。クリップ部53よりも外周縁部63が広角度に設けられているため、第1支持部材50を置く際、±30°程度の角度誤差が許容され、作業性が向上する。
【0060】
クリップ爪部533が外周縁部63に接触した姿勢(図8(b)参照)から第1支持部材50をまっすぐ下に押し込むと、クリップ部53が弾性変形して外周側に広がり、クリップ爪部533が外周縁部63を乗り越えた後、内周側に復元して、スナップフィットにより外周縁部63に係合する(図8(c)参照)。この係合によって、組み付けた両支持部材50、60が作業時、保管時、運搬時に容易に離脱しなくなる。ここで、両支持部材50、60は、ダンパ部材210の周縁部を固定することなく挟持する姿勢で係合すること、言い換えれば、あそびを有する状態で係合することが本発明の重要な構成要件である。
【0061】
なお、ガイド部64を第1支持部材50に設けることもできる。その場合の組立手順は、第1支持部材50を下に置き、ダンパ部材210を第1支持部材50に載せた後、第2支持部材60を上から係合させればよい。
【0062】
次に、上記のダンパアセンブリ200を用いる高圧ポンプ10の実施形態を説明する。
図3に示すように、嵌合穴204は、ダンパ収容空間201の底部に、ダンパ収容空間201と同軸に、かつ第2支持部材60の第2筒部62が嵌合可能に設けられている。高圧ポンプ10を組み立てる際、まず底部202に着座部61を当接させ、かつ嵌合穴204に第2筒部62を嵌合させてダンパアセンブリ200をダンパ収容空間201に配置する。これにより、ダンパアセンブリ200は、ダンパ収容空間201に同軸に配置される。その後、被押圧部51の上に弾性部材80を載せる。本実施形態では、弾性部材80として波ワッシャ81が用いられる。波ワッシャ81は、その内径が被押圧部51の内側に形成される小径部511に案内されてダンパアセンブリ200とほぼ同軸に配置される。
【0063】
その後、波ワッシャ81を押さえるように、蓋体12をポンプボディ11に溶接などの方法で固定することにより、波ワッシャ81が被押圧部51を押圧して、第1当接部56と第2当接部66とをダンパ部材210に当接させて挟持するとともに、ダンパアセンブリ200をダンパ収容空間201に固定する。
ここで、両支持部材50、60はあそびを有して係合しているので、波ワッシャ81により発生する全荷重が全周均等にダンパ部材210の挟持に有効に利用できる。よって、ダンパ部材210の偏芯、ねじれなどに関連する製造バラツキが低減でき、それに起因する高圧ポンプ10の脈動減衰性能の品質が安定するという効果を奏する。
【0064】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態によるダンパセンブリ200は、図9に示すように第2支持部材60にクリップ部53を設け、第1支持部材50に外周縁部63を設けたものである。このように、クリップ部53と外周縁部63をどちらの支持部材に形成してもよい。また、外周の数箇所のうち一部は、クリップ部53を第1支持部材50に、外周縁部63を第2支持部材60に形成し、残りの部分は、逆に、クリップ部53を第2支持部材60に、外周縁部63を第1支持部材50に形成してもよい。
本実施形態でも、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0065】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態によるダンパセンブリ200を図10、図11に示す。図10は平面図、図11は図10のA−A断面図である。
第1支持部材50の外周を4等分する位置に4箇所の第1圧接部57が設けられる。第1圧接部57には、径外方向に突出する延長部571と、延長部から略L字状に曲折して中心軸に略平行に端面側に伸びる内接爪部572が形成される。
第2支持部材60の外周を4等分する位置に4箇所の第2圧接部67が設けられる。第2圧接部67には、径外方向に突出する延長部671と、延長部から略L字状に曲折して中心軸に略平行に端面側に伸びる外接爪部672が形成される。
【0066】
対向する2個の内接爪部572の外側の寸法は、対向する外接爪部672の内側の寸法よりもわずかに大きく設定される。また、内接爪部572の高さは、両支持部材50、60を組み付けたとき、第2圧接部67の延長部671に触れない程度に短く、外接爪部672の高さは、両支持部材50、60を組み付けたとき、内接爪部572の外側に十分接する程度に長く設定される。
第2支持部材60の外周にはまた、4箇所の第2圧接部67の各中間位置に第1実施形態と同様のガイド部64が設けられる。なお、図10のB−B断面は図5と同様である。
【0067】
ダンパアセンブリ200を組み立てるには、まず第2支持部材60を下に置き、その上にダンパ部材210を置く。ガイド部64の案内によりダンパ部材210は第2支持部材60とほぼ同軸に置くことができる。つづいて、第1圧接部57と第2圧接部67の位置を合わせて第1支持部材50を第2支持部材の上に重ね、まっすぐ下に押し込むと、内接爪部572の外側が外接爪部672の内側に摩擦する係合状態で挿入され、ダンパ部材210が挟持される。
この摩擦による係合状態は、組み付けた両支持部材50、60が容易に離脱せず、かつダンパ部材210の周縁部を固定することなく挟持する姿勢で係合可能、言い換えれば、あそびを有する状態で係合可能となるような寸法もしくは面粗度で構成部品が製作されることにより実現する。
【0068】
なお、従来技術に基づいて検討した、ワッシャをワッシャガイドに圧入する方法の場合は、全周をしまりばめ嵌合させるため高い圧入荷重が必要となり、あそびを有する状態で圧入するという微妙な製作は事実上不可能と考えられる。それに対し、本実施形態は外周の一部に圧接部を設けるものであり、比較的軽い荷重で挿入されるため、摩擦により係合を保ちつつあそびを有する状態が実現しうる。
【0069】
これにより、第1実施形態と同様、ダンパ部材210のアセンブリ化により高圧ポンプ10の組立タクトタイムを短縮し、製造工程におけるダンパ部材210の傷付きを防止できる。また、ダンパアセンブリ200の製造バラツキが抑えられ、高圧ポンプ10の脈動減衰性能の品質が安定する。
【0070】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態によるダンパセンブリ200を図12、図13に示す。図12は平面図、図13は図12のA−A断面図である。
第1支持部材50の外周を4等分する位置に4箇所の第1ピンチ部58が設けられる。
第2支持部材60の外周を4等分する位置に4箇所の第2ピンチ部68が設けられる。第2ピンチ部68は、第1ピンチ部58と同じ範囲に設けられてもよいが、図12には、第1ピンチ部58よりも広角度θである約70°の範囲に設けられる態様が示されている。これは、第1実施形態の外周縁部63の態様に類似している。
【0071】
両ピンチ部58、68の断面形状は、各支持部材50、60の端面から反端面側に傾斜するように突出する。両ピンチ部58、68の突出長さは同程度であり、両支持部材50、60を組み付けたとき上下に重なり、かつ、互いに反るように形成される。
第2支持部材60の外周にはまた、4箇所の第2ピンチ68の各中間位置に第1実施形態と同様のガイド部64が設けられる。なお、図12のB−B断面は図5と同様である。
【0072】
結合部材590は、ピンチ部の突出方向に延びる上下2つの壁部591、591が径外方向の連結部592で連結されるU字状の断面形状を有する。上下の壁部591、591の内側の幅は、両支持部材50、60の間にダンパ部材210を挟んだときの両ピンチ部58、68の縁の距離よりもわずかに小さく設定される。これにより、結合部材590が両ピンチ部58、68を径外方向から上下に挟んだとき、結合部材590の上下の壁部の内側と両ピンチ部58、68の縁との摩擦により、結合部材590は両ピンチ部58、68に、径方向に移動可能に装着される。
また、壁部591の端面から連結部592までの深さは両ピンチ部58、68の突出長さよりも深く、連結部592の内側が両ピンチ部58、68の縁もしくはダンパ部材210の周端部216に接しないようになっている。これは、周端部216は溶接により全周の寸法が不均一な場合があるため、連結部592が周端部216に接して結合部材590の装着寸法が不均一になることを防ぐためである。
【0073】
ここで、結合部材590の平面形状は、外周側の縁をダンパ収容空間201と同じ半径の弧状に形成し、さらに、結合部材590は径方向に移動可能に装着されるので、装着時の最外径寸法がダンパ収容空間201の内径に嵌合する寸法となるように設定することもできる。これにより、ダンパアセンブリ200をダンパ収容空間201へ配置する時の調芯機能を兼ねることができる。したがって、ポンプボディ11の嵌合穴204と第2筒部62の嵌合によって調芯する、言い換えれば同軸を確保する必要がなくなるため、嵌合穴204の内径を第2筒部62の外径より大きくしてもかまわない(図13参照)。また嵌合穴204をなくしても良い。
【0074】
ダンパアセンブリ200を組み立てるには、まず第2支持部材60を下に置き、その上にダンパ部材210を置く。ガイド部64の案内によりダンパ部材210は第2支持部材60とほぼ同軸に置くことができる。つづいて、第1ピンチ部58と第2ピンチ部68の位置を合わせて第1支持部材50を第2支持部材の上に重ねる。この際、第2ピンチ部68が広角度に設けられているため、第1支持部材50を置く際、±30°程度の角度誤差が許容され、作業性が向上する。
【0075】
この状態を手または機械でクランプして、ダンパ部材210を挟持した状態で保持したまま、4個の結合部材590を、径外方向から、両ピンチ部58、68を上下に挟み、弾性変形させて反りを戻すように装着する。結合部材590の上下の壁部の内側と第1ピンチ部の上面および第2ピンチ部の下面との摩擦により、その後クランプを緩めても、両支持部材50、60が一体に結合される。
この結合による係合状態は、組み付けた両支持部材50、60および結合部材590が容易に離脱せず、かつ、ダンパ部材210の周縁部を固定することなく挟持する姿勢で係合可能、言い換えれば、あそびを有する状態で係合可能となるような寸法もしくは面粗度で構成部品が製作されることにより実現する。
【0076】
これにより、上記実施形態と同様、ダンパ部材210のアセンブリ化により高圧ポンプ10の組立タクトタイムを短縮し、製造工程におけるダンパ部材210の傷付きを防止できる。また、ダンパアセンブリ200の製造バラツキが抑えられ、高圧ポンプ10の脈動減衰性能の品質が安定する。
【0077】
(第4実施形態の変形形態)
本発明の第4実施形態の変形形態によるダンパセンブリ200を図14、図15に示す。図14は平面図、図15は図12のA−A’断面図である。本形態では、結合部材590の代わりにカシメ部材595を用い、機械でカシメる。
この場合、第4実施形態と同様に、両ピンチ部58、68をカシメる(図14のA断面参照)だけでなく、より厚みのある部分をカシメることも可能である。例えば第3実施形態の第1圧接部57と第2圧接部67の上下を取り囲むようにカシメ部材595を装着し、カシメることができる(図14のA’断面参照)。本実施形態では両支持部材50、60の係合がカシメによって確実にされるため、離脱防止を寸法精度によって保証する必要性が少ない。したがって各部品の寸法精度を緩くできるため、加工、管理工数の低減につながる。
【0078】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態による高圧ポンプ10は、図16に示すように、弾性部材80として第1〜第4実施形態の波ワッシャ81の代わりに皿バネ82(図17参照)を用いるものである。皿バネ82は、ダンパアセンブリ200に載せる際、内径が被押圧部51の内側に形成される小径部511に案内されてダンパアセンブリ200とほぼ同軸に配置される。
【0079】
その後、皿バネ82を押さえるように、蓋体12をポンプボディ11に溶接などの方法で固定することにより、皿バネ82が被押圧部51を押圧して、第1当接部56と第2当接部66とをダンパ部材210に当接させて挟持するとともに、ダンパアセンブリ200をダンパ収容空間201に固定する。
ここで、両支持部材50、60はあそびを有して係合しているので、皿バネ82により発生する全荷重が全周均等にダンパ部材210の挟持に有効に利用できる。よって、ダンパ部材210の同軸、ねじれなどに関連する製造バラツキが低減でき、それに起因する高圧ポンプ10の脈動減衰性能の品質が安定するという、第1実施形態と同様の効果を奏する。
もちろん、皿バネ82以外の弾性部材80を用いることもできる。
【0080】
(他のダンパアセンブリの実施形態)
上述の説明において、第1、第2実施形態におけるクリップ部53、第3実施形態における圧接部57、67、第4実施形態におけるピンチ部58、68、および各実施形態におけるガイド部64などをいずれも4等分(90°方向)に配置する態様を例示したが、3等分(120°方向)、6等分(60°方向)などに配置されてもよく、また不等分に配置されてもかまわない。
以上、本発明は、上記実施形態に何等限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々なる形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0081】
10:高圧ポンプ、11:ポンプボディ(ハウジング)、12:蓋体、121:加圧室、122:可変容積室、13:プランジャ、16:流体室、200:ダンパアセンブリ、201:ダンパ収容空間、202:底部、204:嵌合穴、210:ダンパ部材、213:周縁部、216:周端部、217:ダンパ室、ボディ50:第1支持部材、51:被押圧部、53:クリップ部、56:第1当接部、57:第1圧接部、58:第1ピンチ部、590:結合部材、591:壁部、592:連結部、60:第2支持部材、61:着座部、63:外周縁部、64:ガイド部、642:ガイド爪部、66:第2当接部、67:第2圧接部、68:第2ピンチ部、80:弾性部材、81:波ワッシャ、82:皿バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ポンプのポンプボディの一端に形成されるダンパ収容空間に配置され、蓋体が前記ダンパ収容空間を塞いで前記ポンプボディに固定されるとともに、前記蓋体と前記ポンプボディとの間に弾性部材を介して挟まれ、前記弾性部材に押圧されて固定されるダンパアセンブリであって、
中央部にダンパ部と、周囲に周縁部とを有する2枚のダイヤフラムを、前記ダンパ部を上下として前記周縁部で接合したダンパ部材と、
上側の前記ダンパ部を囲む第1筒部と、前記第1筒部の上部に設けられ前記弾性部材に押圧される被押圧部と、前記第1筒部の下部端面に設けられる第1当接部と、前記第1筒部の径外方向に設けられる第1係合部とを有する第1支持部材と、
下側の前記ダンパ部を囲む第2筒部と、前記第2筒部の下部に設けられ前記ダンパ収容空間の底部の固定面に当接する着座部と、前記第2筒部の上部端面に設けられる第2当接部と、前記第2筒部の径外方向に設けられる第2係合部とを有する第2支持部材と、
を備え、
前記第1支持部材と前記第2支持部材とが、前記第1当接部と前記第2当接部との間に前記ダンパ部材の前記周縁部を固定することなく挟持する姿勢で、前記第1係合部と前記第2係合部とが、もしくはさらに別の結合部材とが係合していることを特徴とするダンパアセンブリ。
【請求項2】
前記第1係合部または前記第2係合部の一方は、前記第1支持部材または前記第2支持部材の径外方向に突出してから端面側へ曲折するクリップ部によって構成され、
前記第1係合部または前記第2係合部の他方は、前記第1支持部材または前記第2支持部材の外周に設けられるフランジ状の外周縁部によって構成されており、
前記クリップ部と前記外周縁部とがスナップフィットにより係合することを特徴とする請求項1に記載のダンパアセンブリ。
【請求項3】
前記第1係合部と前記第2係合部は、ともに径外方向へ突出して上下に重なるピンチ部を構成し、
前記結合部材は、前記ピンチ部の突出方向に延びる上下2つの壁部、及び前記壁部を径外方向で連結する連結部とからなるU字状の断面形状を有し、前記ピンチ部を径外方向から上下に挟み、かつ、径方向に移動可能に装着されることを特徴とする請求項1に記載のダンパアセンブリ。
【請求項4】
前記第1筒部または前記第2筒部の径外方向であって、前記第1係合部または前記第2係合部以外の複数の部位に、径外方向に突出してから端面側へ曲折するガイド爪部を形成し、
前記ダンパ部材を前記ガイド爪部の内側に配置することにより、前記ダンパ部材の移動を規制するよう構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のダンパアセンブリ。
【請求項5】
前記第1支持部材および前記第2支持部材の高さは、前記ダンパ部の高さより高いことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のダンパアセンブリ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のダンパアセンブリと、
一端に前記ダンパアセンブリを収容するダンパ収容空間を有するポンプボディと、
前記ダンパ収容空間を塞ぎ、前記ポンプボディに固定される蓋体と、
前記蓋体と前記ダンパアセンブリとの間に配置され、前記ダンパアセンブリを介して前記ダンパ部材を固定する弾性部材とを備え、
前記蓋体と前記被押圧部の間に前記弾性部材を挟んで、前記蓋体を前記ポンプボディに固定することにより、前記弾性部材が前記被押圧部を押圧して、前記第1当接部と前記第2当接部とが前記ダンパ部材に当接し、前記ダンパ部材が固定されるとともに、前記ダンパアセンブリが固定されることを特徴とする高圧ポンプ。
【請求項7】
請求項6に記載の高圧ポンプの製造方法であって、
請求項1〜5のいずれか一項に記載のダンパアセンブリを組み立てる工程と、
前記着座部が前記ダンパ収容空間の底部の固定面に当接して保持されるように前記ダンパアセンブリを前記ダンパ収容空間に配置する工程と、
前記蓋体と前記第1受圧部の間に前記弾性部材を挟んで、前記蓋体を前記ポンプボディに固定することにより、前記弾性部材が前記被押圧部を押圧して、前記第1当接部と前記第2当接部とが前記ダンパ部材に当接し、前記ダンパ部材が固定されるとともに、前記ダンパアセンブリが固定される工程と、
からなることを特徴とする高圧ポンプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−99426(P2011−99426A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256380(P2009−256380)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】