説明

ダンプ車両の転倒防止方法

【課題】車両の転倒を予防できるダンプ車両の転倒防止方法を提供すること。
【解決手段】車体フレーム(4)上に回動可能に支持された荷台(3)を備えるダンプ車両の転倒防止方法において、車両の後輪(2)を支点とする回転モーメントであって、車両の前輪(1)を地面(20)から浮き上がらせるために必要な転倒限界モーメント(Ml)を算出する手順と、転倒限界モーメント(Ml)に基づいて車両の転倒可能性を判定する手順とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷台を傾斜して運搬物を排出する際にダンプ車両が転倒することを防止するダンプ車両の転倒防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
採石現場や鉱山などでは、掘削した土砂などの運搬物(積荷)を排土場所まで運搬し、荷台を傾斜させて運搬物を排出するダンプ車両が使用されている。このダンプ車両を不整地や傾斜地に停止させると、車両全体が傾いたり地盤が脆弱だったりして、不安定な状態になることがある。このような状態で荷台を傾斜させて運搬物を排出しようとすると、その荷台の傾斜によって車両全体の重心が高くなるために、当該車両が不安定となって転倒する可能性がある。このような運搬物排出の際の転倒防止を図る技術としては、自車両の傾斜角度を角度計などの計測手段によって監視し、その傾斜角度が所定値以上になった場合に荷台傾斜の動作を規制する技術が知られている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−307996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、運搬物の粘性が高い等の理由で運搬物が荷台に付着する場合には、荷台の傾斜角度がある角度を超えたときにその運搬物が一気に滑り落ちることがあり、車体の動的なバランスが崩れて車両が転倒してしまうおそれがある。そのため、上記特許文献1に開示された技術のように、自車両の傾斜角度の監視のみをもって転倒防止を図るのでは必ずしも十分でない場合がある。
【0005】
本発明は上記課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、車両の転倒を予防できるダンプ車両の転倒防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、車体フレーム上に回動可能に支持された荷台を備えるダンプ車両の転倒防止方法において、前記車両の後輪を支点とする回転モーメントであって、前記車両の前輪を地面から浮き上がらせるために必要な転倒限界モーメントを算出する手順と、当該転倒限界モーメントに基づいて前記車両の転倒可能性を判定する手順とを備えるものとする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両の転倒を予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態に係るダンプ車両の全体構成図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るダンプ車両の転倒防止装置の全体構成図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るダンプ車両の積荷排出時の側面図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るダンプ車両の転倒防止装置における車両転倒可能性判定の処理の流れ図。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るダンプ車両の積荷排出時の側面図。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るダンプ車両の転倒防止装置の全体構成図。
【図7】本発明の第2の実施の形態における路肩強度算出の考え方の模式図。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るダンプ車両の転倒防止装置における車両転倒可能性判定の処理の流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0010】
図1は本発明の実施の形態に係るダンプ車両の全体構成図であり、図2は本発明の第1の実施の形態に係るダンプ車両の転倒防止装置の全体構成図である。
【0011】
この図に示すダンプ車両は、車体フレーム4の前方及び後方に取り付けられた前輪1及び後輪2と、車体フレーム4上に支持軸6を介して回動可能に支持された荷台3と、伸縮することで支持軸6を中心に荷台3を回動させるホイストシリンダ5と、ダンプ車両の転倒防止装置における主制御装置40と、運転室内に設置された表示装置(報知手段)37を主に備えている。
【0012】
前輪1には、前輪1に作用する荷重の合計を検出する前軸荷重センサ(前軸荷重検出手段)31Aが取り付けられており、後輪2には、後輪2に作用する荷重の合計を検出する後軸荷重センサ(後軸荷重検出手段)31Bが取り付けられている。すなわち、前軸荷重センサ31Aは車両前方に作用する荷重を検出しており、後軸荷重センサ31Bは車両後方に作用する荷重を検出している。これらセンサ31A,31Bは、例えば、前輪1、後輪2のサスペンション機構に取り付けられた力センサなどで構成すれば良い。例えば、前輪1、後輪2のサスペンション機構が油圧機構にて構成されている場合には、前輪1、後輪2にかかる荷重はそれぞれのサスペンション機構を支える油圧シリンダ内の圧力を計測することによって容易に知ることができる。
【0013】
車体フレーム4には、駆動系や運転席等の主要構成要素が搭載されており、前輪1及び後輪2によって車両が路面上を自由に走行可能な構成となっている。ホイストシリンダ5を伸長させると、荷台3は支持軸6を中心に回動しながら前端を上昇させて傾斜角度を増していくように動作し、荷台3の上に積載した積荷(運搬物)7を荷台3の後端から排出することが可能となっている。また、支持軸6には、車体フレーム4に対する荷台3の傾斜角度を検出する角度検出手段として、支持軸6の回転角を測定するポテンショメータ(ロータリーポテンショメータ)38が設置されている。
【0014】
図2に示すダンプ車両の転倒防止装置において、主制御装置40は、積荷重量推定部(積荷重量推定手段)32と、車体回転モーメント算出部(車体回転モーメント算出手段)33と、基準モーメント算出部(基準モーメント算出手段)34と、判定部(判定手段)35と、シリンダコントローラ(シリンダ制御手段)39を備えている。
【0015】
積荷重量推定部32は、前軸荷重センサ31A及び後軸荷重センサ31Bと接続されており、前軸荷重センサ31Aと後軸荷重センサ31Bにより得られた荷重データ(検出値)の合計からダンプ車両の自重を減算することで積荷7の重量(積荷重量)mを推定する部分である。
【0016】
基準モーメント算出部34は、前軸荷重センサ31A及び後軸荷重センサ31Bと接続されており、この前軸荷重センサ31A及び後軸荷重センサ31Bより得られた荷重データに基づいて転倒限界モーメントMl(後述)を算出し、さらに、その算出した転倒限界モーメントMl以下の回転モーメントを基準モーメントMsとして設定する部分である。
【0017】
ここで、転倒限界モーメントMlとは、前輪1の荷重がゼロを下回ってしまうときの車体回転モーメント、すなわち、後輪2を支点とする回転モーメントであって前輪1を地面から浮き上がらせるために必要な車体回転モーメントの最小値を示すものであり、転倒限界モーメントMlは、前輪荷重センサ31A及び後輪荷重センサ31Bにより得られた荷重データから車両の重心位置を算出することにより算出される。また、基準モーメントMsとは、表示装置37を介して車両転倒のおそれが高い旨を運転者に報知するか否かを判定する際の基準に用いられるものであり、転倒限界モーメントMl以下に設定されている。基準モーメントMsとしては、算出された転倒限界モーメントMlをそのまま利用しても良いが、基準モーメントMsを転倒限界モーメントMlよりも小さく設定すればするほど車両転倒を確実に回避することができる。
【0018】
ここで、転倒限界モーメントMlの算出方法の一例について説明する。ダンプ車両の前輪1と後輪2の間隔(すなわち、ホイールベース)をLwとし、前輪荷重センサ31A、後輪荷重センサ31Bにより得られた荷重データによる車輪反力をそれぞれFf、Frとし、また、総荷重をF(F=Ff+Fr)とすると、後輪2から重心までの距離Lrは下記式(1)によって表される。
Lr=Lw×(Ff/F) ・・・式(1)
一方、総荷重Fを後輪2周りに持ち上げる転倒限界モーメントMlは下記式(2)によって表される。
Ml=Lr×F ・・・式(2)
したがって、式(2)に式(1)を代入することで、転倒限界モーメントMlは下記式(3)で表すことができる。
Ml=Lw×Ff ・・・式(3)
車体回転モーメント算出部33は、積荷重量推定部32と接続されており、積荷重量推定部32で推定された積荷重量に基づいて、積荷排出時における積荷7の移動によって生じる車体の回転モーメント(車体回転モーメント)を算出する部分である。車体回転モーメントとは、運搬物である積荷7の排出時に荷台3が支持軸6を中心に回転させられるときのモーメントであり、荷台3から積荷7が一気に滑り落ちるときには大きなモーメントとなる。本実施の形態における車体回転モーメント算出部33では、その積荷7が一気に滑り落ちるときに発生すると予測される車体回転モーメントを算出している。次に、図3を用いて、その車体回転モーメントの算出方法の一例について説明する。
【0019】
図3は本発明の第1の実施の形態に係るダンプ車両において積荷7を排出する際の側面図である。この図において、荷台3は、支持軸6を支点に回動可能であるので、積荷7が一気に荷台3の後方に移動したときには、その積荷7の重量によって図3における時計回りの方向に回動されるモーメントを受ける。ここで、積荷重量推定部32において推定された積荷重量をm、重力加速度をg、水平面に対する荷台3の傾斜角度をθとし、運搬物の排出時に積荷7が一気に滑り落ちると仮定すると、最大でm×g×cosθの荷重を荷台3の後端に受ける。すなわち、荷台3から積荷7が一気に滑り落ちるときの車体回転モーメントMbは、支持軸6から荷台3後端までの距離をLbとすると、下記式(4)によって表すことができる。なお、水平面に対する荷台3の傾斜角度θを取得する方法としては、例えば、水平面に対する荷台3の傾斜角度を検出する角度センサを利用するものや、水平面に対する車体フレーム4の傾斜角度を検出する角度センサとポテンショメータ38の検出値を合計するものなどがある。
Mb=Lb×m×g×cosθ ・・・式(4)
図2に戻り、判定部35は、車体回転モーメント算出部33及び基準モーメント算出部34と接続されており、これらから入力される車体回転モーメントMb及び基準モーメントMsの値に基づいて、車体回転モーメントMbが基準モーメントMsを超えたか否かを判定する部分である。基準モーメント算出部34において、基準モーメントMsを転倒限界モーメントMlと設定したときには、判定部35は、上記式(3)及び(4)から、下記式(5)を用いて車両転倒の可能性を判定する。
Lb×m×g×cosθ>Lw×Ff・・・式(5)
判定部35は、式(5)が成り立つと判定した場合には、積荷7が一気に排出されたときに車両の前後重量配分が後側に集中することで前輪1が浮き上がり車両が不安定な状態になる可能性が高いので、表示装置37に車両転倒のおそれが高い旨を表示させるための信号を送信する。また、この表示装置37への信号とともに又は当該信号に代えて、ホイストシリンダ5の伸長速度を抑制する又は伸長を停止する信号をシリンダコントローラ39に送信するように構成しても良い。
【0020】
表示装置37は、例えば、高精細な液晶モニターであり、判定部35と接続されている。表示装置37は、運転席内の運転者から見易い位置に設置されており、判定部35において車体回転モーメントMbが基準モーメントMsを超えたと判定された場合に、車両転倒のおそれが高い旨が文字、図形、記号又はこれらの組合せ等で表示される。このように表示装置37により車両転倒のおそれが高い旨報知すると、運転者に車両が転倒する可能性がある旨を認識させることが可能となる。なお、本実施の形態では、車両転倒のおそれが高い旨を報知する手段(報知手段)として、表示装置37を挙げたが、この他にも、運転席のメータパネル内に設けた警告ランプによってその旨を報知したり、ブザー等の警告音声によってその旨を報知したりしても良い。
【0021】
シリンダコントローラ39は、判定部35と接続されており、判定部35において車体回転モーメントMbが基準モーメントMsを超えたと判定された場合に、ホイストシリンダ5の伸長速度の抑制又は伸長の停止を行う部分である。シリンダコントローラ39による制御後のホイストシリンダ5の伸長速度の目安としては、積荷7が一気に排出されない速度より小さい速度を設定すれば良い。
【0022】
また、判定部35と表示装置37及びシリンダコントローラ39との間において、図2示すようにスイッチ36を設置してもよい。このスイッチ36は、角度判定部11と接続されており、ポテンショメータ38で検出される荷台3の傾斜角度に応じて適宜開閉される。
【0023】
角度判定部11は、ポテンショメータ38と接続されており、ポテンショメータ38で検出された傾斜角度が設定角度を超えたか否かを判定する部分である。ここで、設定角度とは、角度判定部11(または主制御装置40の記憶部(図示せず)等)に記憶されている角度であり、車両転倒が発生する程度の車体回転モーメントが生じ得ない荷台3の傾斜角度を示すものである。例えば、設定角度として、荷台3を傾斜させたときに土砂等の粘性の低い積荷が自然に崩れ落ちて荷台3から排出される角度を設定した場合には、当該設定角度以上に荷台3を傾斜させてもまだ積荷が残っているときには、積荷は粘性の高いものと推定することができる。すなわち、積荷がまとまって一気に滑り落ちる可能性が高く、さらには車両転倒のおそれに配慮する必要性が高くなることが分かる。
【0024】
また、角度判定部11は、ポテンショメータ38で検出された傾斜角度が当該設定角度を超えたと判定した場合にはスイッチ36を閉じ、それ以外の場合にはスイッチ36を開くように構成されている。これにより、ポテンショメータ38の検出値が当該設定角度より大きいときにのみ、車両転倒のおそれが高い旨が表示装置37に表示されることになり、また、シリンダコントローラ39によるホイストシリンダ5の速度制御が行われることになる。
【0025】
次に上記のように構成されるダンプ車両の転倒防止装置の動作について説明する。図4は、本発明の第1の実施の形態に係るダンプ車両の転倒防止装置における車両転倒可能性判定の処理の流れを示す図である。
【0026】
積荷7の排出のために荷台3を傾斜させるスイッチ(図示せず)が操作されると図の処理が開始され、主制御装置40は、まず、軸荷重センサ31A,31Bにより得られた荷重データ(センサ値)を積荷重量推定部32及び基準モーメント算出部34に入力する(ステップ61)。次いで、積荷重量推定部32は、軸荷重センサ31A,31Bの荷重データから積荷荷重mを推定し(ステップ62)、車体回転モーメント算出部33は、積荷重量推定部32で推定された積荷荷重mを利用して車体回転モーメントMbを算出する(ステップ63)。
【0027】
一方、基準モーメント算出部34は、ステップ61で取得した軸荷重センサ31A,31Bの荷重データから車両重心位置の算出し、その重心位置を利用して転倒限界モーメントMlを算出し、さらにその転倒限界モーメントMlを基準にして基準モーメントMsを設定する(ステップ64)。
【0028】
ステップ64が終了したら、比較部35は、ステップ63で算出された車体回転モーメントMbとステップ64で算出された基準モーメントMsとを比較する(ステップ65)。ここで、車体回転モーメントMbが基準モーメントMsを下回っていれば、ステップ61に戻ってその後の処理が繰り返される。一方、ステップ65において車体回転モーメントMbが基準モーメントMsを上回っていた場合には、運転者に対し車両転倒のおそれが高い旨を表示装置37に表示し(ステップ66)、これ以後はステップ61以降の処理を繰り返す。このように、本実施の形態によれば、車両転倒リスクに対して合理的な状況判断を運転者に促すことができる情報を提示することができる。
【0029】
上記のように、本発明のダンプ車両の転倒防止装置では、荷台3を傾斜させて土砂などの積荷(運搬物)7を排出するときに、軸荷重センサ31A,31Bにより計測された荷重配分から求まる重心位置と既知の車輪1,2の位置データとから、車体が転倒に至る際(すなわち、重心位置移動により前輪1の垂直荷重がゼロを下回る際)のモーメントである転倒限界モーメントMlを算出し、基準モーメントMsを設定している。さらに、積荷重量推定部32で推定した積荷重量mと既知の荷台3の形状データ及び荷台支持軸6の位置データとから、排出時の積荷移動により発生する荷台支持軸6の回りの車体回転モーメントMbを算出し、基準モーメントMsと車体回転モーメントMbの両者の大小関係を判定している。これにより、重心位置移動によりいずれかの車輪1,2が地面から浮き上がって転倒してしまうという静的なつり合いに加え、積荷排出時の積荷移動で発生する回転モーメントにより前輪1が浮き上がって転倒してしまうという動的なつり合いも同時に考慮した車両転倒のおそれに関する情報を表示装置37を介して運転者に報知できる。これにより、表示装置37を介して転倒のおそれがある旨の報知を受けた運転者は、ホイストシリンダ5の伸長速度の低減や伸長の停止などの対策を講じることができるので、荷台3から積荷7が一気に滑り落ちることに起因する車両の転倒を予防することができる。
【0030】
ところで、上記の実施の形態において、角度判定部11を作動させて、荷台3の傾斜角度に応じてスイッチ36の開閉を制御する場合の効果について説明する。この場合には、角度判定部11において荷台3の傾斜角度が設定角度を超えたと判定された場合にはじめてスイッチ36が閉じられるので、荷台3が傾斜角度が設定角度以上であって車体回転モーメントMbが基準モーメントMsを超えた場合にのみ、表示装置37に車両転倒のおそれが高い旨の警告が表示されることになる。すなわち、荷台3の傾斜角度が小さい間は大きな車体回転モーメントMbが発生する可能性が低いので警告の報知を停止し、荷台3の傾斜角度が大きくかつ積荷7が残っている場合には積荷7が一気に落下して基準モーメントMs(転倒限界モーメントMl)を超える車体回転モーメントMbが発生する可能性が高くなるので警告の報知を行うようにする。これにより、不必要な場合に警告が報知されることが軽減され、必要性が高いときにのみ警告を報知することができる。
【0031】
さらに、上記の実施の形態において、シリンダコントローラ39を作動させて、車体回転モーメントMbに応じてホイストシリンダ5の伸長速度を制御する場合の効果について説明する。この場合には、判定部35において車両転倒のおそれが高いと判定されたことをきっかけにして、荷台3の傾斜速度の低減又は停止を自動的に行うことができる。これにより、積荷7が一気に落下して大きな車体回転モーメントMbを発生する可能性が高くなる場合には、自動的に車体の安定化を図ることが可能となり、確実に車両転倒を防止することができる。
【0032】
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。図5は本発明の第2の実施の形態に係るダンプ車両の積荷排出時の側面図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。
【0033】
この図において、路肩は、路面部20と、その路面部20に対して下り勾配に設けられた法面部21を有している。ダンプ車両は、路面部20上においてその後方(車両における積荷の排出側)を法面部21に向けて停車しており、路肩形状計測センサ(路肩形状計測手段)8を備えている。
【0034】
路肩形状計測センサ8は、車両から当該車両後方の法面部20までの距離及び路肩の形状を計測するもので、ダンプ車両の後方に取り付けられている。より具体的には、本実施の形態における路肩形状計測センサ8は、後輪2の接地位置から法面部21までの距離及びその路肩(路面部20及び法面部21)の形状を計測し、これらをデータ化している(以下において、これら距離及び形状に関するデータを「路肩形状データ」と称することがある)。路肩形状計測センサ8で計測された路肩形状データは、主制御装置40A内の路肩強度算出部54(後述)に出力されている。
【0035】
ところで、路肩形状計測センサ8としては、例えば、レーザレーダを利用することができる。これは、赤外レーザ光等を利用してセンサ8から路肩までの距離を光学的に測定し、これによって得られる点列に基づいて路肩形状データを取得するものである。また、この他にも、ミリ波アレイまたは超音波アレイを用いた距離検出装置や、撮像素子(カメラ)を用いて撮影した画像を処理することによって距離情報を抽出する画像認識装置などを利用しても良い。なお、路肩形状計測センサ8は、路面部20及び法面部21の形状の計測を容易ならしめるために、車両後方のできるだけ高い位置に設置することが好ましい。
【0036】
図6は本発明の第2の実施の形態に係るダンプ車両の転倒防止装置の全体構成図である。この図に示す転倒防止装置は主制御装置40Aを備えており、主制御装置40Aには、先述した積荷重量推定部32、車体回転モーメント算出部33、角度判定部11及びシリンダコントローラ39の他に、荷重移動量算出部(荷重移動量算出手段)51と、路肩強度算出部(路肩強度算出手段)54と、荷重比較判定部(荷重比較判定手段)52が設けられている。
【0037】
荷重移動量算出部51は、車体回転モーメント算出部33と接続されており、ここで算出された車体回転モーメントMbに基づいて、当該車体回転モーメントMbにより生じる後輪2の荷重移動量ΔFrを算出する部分である。本実施の形態における荷重移動量算出部51は、車体回転モーメントMbをホイールベースLwで除することで後輪2の荷重移動量ΔFr(ΔFr=Mb/Lw)を算出しており、その算出された荷重移動量ΔFrは、荷重移動量算出部51と接続された荷重比較判定部52に出力されている。
【0038】
路肩強度算出部54は、路肩形状計測センサ8と接続されており、路肩形状計測センサ8で計測された路肩形状データに基づいて車両が位置する路肩の耐荷重(路肩耐荷重W)を算出する部分である。ここで路肩耐荷重Wとは、路肩に任意の荷重を作用させる場合に当該路肩が崩落しない荷重の最大値であり、路肩耐荷重Wの大きさは、路肩を形成する土砂の種類によってほぼ決定される内部摩擦角φ(図7参照)を利用して次のように算出される。
【0039】
図7は本発明の路肩強度算出の考え方を模式的に表した図である。この図における内部摩擦角φは、土砂が崩れる時に自然に現れる角度であり滑り面45を規定する。滑り面45よりも上側の部分の土砂44が崩落しないためには、垂直荷重43で発生する摩擦42の大きさが、土砂44による荷重46と車両の後輪2による軸荷重41との合力の滑り面45方向の分力よりも大きければ良い。すなわち、当該合力の分力の大きさが摩擦42と等しくなるときの軸荷重41の大きさが算出すべき路肩耐荷重Wである。ここで、先述のように内部摩擦角φは土砂の種類により決まる値なので、路肩形状計測センサ8から入力される路肩形状データから得られる法面部21の角度及び後輪2から法面部21までの距離を利用すれば、土砂44による荷重46を計算することができ、これにより路肩耐荷重Wを算出することができる。算出された路肩耐荷重Wは、路肩強度算出部54と接続された荷重比較判定部52へ入力される。
【0040】
荷重比較判定部52は、後軸荷重センサ31Bで検出された後軸荷重Frと荷重移動量算出部51で算出された荷重移動量ΔFrとに基づいて算出した最大後軸荷重FRが、路肩強度算出部54で算出された路肩耐荷重Wを超えたか否かを判定する部分である。本実施の形態における荷重比較判定部52は、荷重移動量算出部51で算出された荷重移動量ΔFrと後軸荷重センサ31Bで測定された後軸荷重Frとを加算することで最大後軸荷重FR(FR=Fr+ΔFr)とし、その最大後軸荷重FRと路肩強度算出部54で算出された路肩耐荷重Wの大きさと比較することで、路肩強度の余裕の有無を判定している。すなわち、荷重比較判定部52は、下記式(6)を用いて車両転倒の可能性を判定している。
Fr+ΔFr>W ・・・式(6)
荷重比較判定部52は、式(6)が成り立つと判定した場合には、積荷7が一気に排出されたときには路肩が崩落して車両が転倒する可能性が高いので、表示装置37に車両転倒のおそれが高い旨を表示させるための信号を送信する。また、第1の実施の形態と同様に、この表示装置37への信号とともに又は当該信号に代えて、ホイストシリンダ5の伸長速度を抑制する又は伸長を停止する信号をシリンダコントローラ39に送信するように構成しても良い。
【0041】
次に上記のように構成されるダンプ車両の転倒防止装置の動作について説明する。図8は、本発明の第2の実施の形態に係るダンプ車両の転倒防止装置における車両転倒可能性判定の処理の流れを示す図である。
【0042】
積荷7の排出のために荷台3を傾斜させるスイッチ(図示せず)が操作されると図の処理が開始され、主制御装置40Aは、まず、軸荷重センサ31A,31B及び路肩形状センサ8により得られた荷重データ及び路肩形状データ(センサ値)を積荷重量推定部32、路肩強度算出部54及び荷重比較判定部52に入力する(ステップ81)。
【0043】
次いで、積荷重量推定部32は、軸荷重センサ31A,31Bの荷重データから積荷荷重mを推定し(ステップ82)、車体回転モーメント算出部33は、積荷重量推定部32で推定された積荷荷重mを利用して車体回転モーメントMbを算出する(ステップ83)。そして、荷重移動量算出部51は、車体回転モーメント算出部33で算出された車体回転モーメントMbを車両のホイールベースLwで除して荷重移動量ΔFrを算出する(ステップ84)。
【0044】
一方、路肩強度算出部54は、ステップ81で取得した路肩形状データから法面部21の角度及び後輪2から法面部21までの距離を抽出し、これらと内部摩擦角φ等を利用することで路肩耐荷重Wを算出する(ステップ85)。
【0045】
ステップ85が終了したら、荷重比較判定部52は、ステップ81で取得した後軸荷重Frにステップ84で算出された荷重移動量ΔFrを加算することで最大後軸荷重FRを算出し、その算出した最大後軸荷重FRとステップ85で算出された路肩耐荷重Wとを比較する(ステップ86)。ここで、最大後軸荷重FRが路肩耐荷重Wを下回っていれば、ステップ81に戻ってその後の処理が繰り返される。一方、ステップ86において最大後軸荷重FRが路肩耐荷重Wを上回っていた場合には、運転者に対し車両転倒のおそれが高い旨を表示装置37に表示し(ステップ87)、これ以後はステップ81以降の処理を繰り返す。このように、本実施の形態によれば、車両転倒リスクに対して合理的な状況判断を運転者に促すことができる情報を提示することができる。
【0046】
ところで、本実施の形態は次の点に着目してなされたものである。
ダンプ車両がその積荷を排出する場所は、一般に縦坑と呼ばれる放土用の縦穴の縁に位置することが多く、場合によっては路肩の地盤が脆弱な場合も考えられる。特に未舗装であって路肩法面に何ら補強などの措置が取られていない縦坑であれば、第1の実施の形態のように荷台から積荷が一気に滑り落ちた場合には、後輪を介して路肩に作用する荷重が突然大きくなるので、路肩崩落による車両転倒のおそれが高くなる。この点に関し、特許文献1記載の転倒防止装置は、このような路肩崩落リスクに対応する仕組みを持たないため、路肩が崩落して初めて動作することになり、その効果が限定的になってしまうという課題があった。すなわち、本実施の形態に係る発明の目的とするところは、荷台から運搬物が一気に滑り落ちることに起因する車両の転倒を予防できるダンプ車両の転倒防止装置を提供することにある。
【0047】
この目的に対して、本実施の形態に係るダンプ車両の転倒防止装置にあっては、路肩強度算出部54において、路肩形状計測センサ8で計測した路肩形状データ(後輪2から法面部21までの距離、法面部21の角度等)に基づいて路肩耐荷重Wを算出し、荷重比較判定部52において、後輪2における軸荷重Frと荷台傾斜による荷重移動量ΔFrを加算して算出した最大後軸荷重FRを路肩耐荷重Wと比較することで、土木工学的な根拠に基づいた合理的な路肩崩落リスク状況を推定し、そのリスクが高い場合には表示装置37を介して車両転倒のおそれが高い旨報知している。すなわち、本実施の形態によれば、路面強度まで含めた総合的かつ合理的な状況判断を運転者に行なわせ得る情報を報知することができるので、荷台から運搬物が一気に滑り落ちることに起因する車両の転倒を予防できる。
【0048】
また、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、角度判定部11を作動させて、荷台3の傾斜角度に応じてスイッチ36の開閉を制御しても良い。このように構成すれば、第1の実施の形態と同様に、不必要な場合に警告が報知されることが軽減され、必要性が高いときにのみ警告を報知することができる。さらに、第1の実施の形態と同様に、シリンダコントローラ39を作動させて、荷重比較判定部52における判定結果に応じてホイストシリンダ5の伸長速度を制御しても良い。このように構成すれば、第1の実施の形態と同様に、大きな後軸荷重が発生する可能性が高くなる場合には、自動的に車体の安定化を図ることが可能となり、確実に車両転倒を防止することができる。
【0049】
またさらに、第1の実施の形態に係るダンプ車両に対し、荷重移動量算出部51、路肩形状計測センサ8、路肩強度算出部54及び荷重比較判定部52を追設し、第1の実施の形態と第2の実施の形態の特徴を併せ持つダンプ車両の転倒防止装置を構成しても良い。この場合には、第1の実施の形態の効果に加え、路肩崩落による車両転倒のおそれについても判断対象に含めることができるので、さらに効果的に車両転倒を防止することができる。
【0050】
なお、以上では、本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明の具体的な構成は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等は当然に本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
2 後輪
3 荷台
5 ホイストシリンダ
7 積荷
8 路肩形状計測センサ
11 角度判定部
21 法面部
31A 前軸荷重センサ
31B 後軸荷重センサ
32 積荷重量推定部
33 車体回転モーメント算出部
34 基準モーメント算出部
35 判定部
37 表示装置
38 ポテンショメータ(角度センサ)
39 シリンダコントローラ
40 主制御装置
51 荷重移動量算出部
52 荷重比較判定部
54 路肩強度算出部
m 積荷荷重
Mb 車体回転モーメント
Ml 転倒限界モーメント
Ms 基準モーメント
Fr 後軸荷重
ΔFr 後軸荷重移動量
FR 最大後軸荷重
W 路肩耐荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレーム上に回動可能に支持された荷台を備えるダンプ車両の転倒防止方法において、
前記車両の後輪を支点とする回転モーメントであって、前記車両の前輪を地面から浮き上がらせるために必要な転倒限界モーメントを算出する手順と、
当該転倒限界モーメントに基づいて前記車両の転倒可能性を判定する手順とを備えることを特徴とするダンプ車両の転倒防止方法。
【請求項2】
請求項1に記載のダンプ車両の転倒防止方法において、
前記転倒限界モーメントを算出する手順では、前記後輪から前記車両の重心までの距離と前記車両に作用する総荷重、または、前記車両のホイールベースと前記前輪に作用する荷重、に基づいて前記転倒限界モーメントを算出することを特徴とするダンプ車両の転倒防止方法。
【請求項3】
請求項2に記載のダンプ車両の転倒防止方法において、
前記車両の後輪を支点として前記車両に作用する回転モーメントであって、積荷排出時の積荷移動によって生じる車体回転モーメントを、前記荷台の積荷荷重に基づいて算出する手順をさらに備え、
前記車両の転倒可能性を判定する手順では、前記車体回転モーメントと前記転倒限界モーメントとに基づいて前記車両の転倒可能性を判定することを特徴とするダンプ車両の転倒防止方法。
【請求項4】
請求項3に記載のダンプ車両の転倒防止方法において、
前記車両の転倒可能性を判定する手順では、前記転倒限界モーメント以下に設定された基準モーメントと、前記車体回転モーメントを比較することで前記車両の転倒可能性を判定することを特徴とするダンプ車両の転倒防止方法。
【請求項5】
請求項4に記載のダンプ車両の転倒防止方法において、
前記車体回転モーメントを算出する手順では、前記荷台の回動軸から後端までの距離と、前記積荷荷重と、前記荷台の傾斜角とに基づいて、前記車体回転モーメントを算出することを特徴とするダンプ車両の転倒防止方法。
【請求項6】
請求項4に記載のダンプ車両の転倒防止方法において、
前記車両が走行する路肩の内部摩擦角と、当該路肩の形状とに基づいて、当該路肩の耐荷重を算出する手順と、
前記車体回転モーメントと、前記路肩の耐荷重とに基づいて、前記路肩の崩落可能性を判定する手順とをさらに備えることを特徴とするダンプ車両の転倒防止方法。
【請求項7】
請求項6に記載のダンプ車両の転倒防止方法において、
前記路肩の崩落可能性を判定する手順では、前記車体回転モーメントから算出される前記後輪の移動荷重に、前記後輪に作用する荷重を加算した値と、前記路肩の耐荷重とを比較することで、前記路肩の崩落可能性を判定することを特徴とするダンプ車両の転倒防止方法。
【請求項8】
車体フレーム上に回動可能に支持された荷台を備えるダンプ車両の転倒防止方法において、
前記車両が走行する路肩の内部摩擦角と、当該路肩の形状とに基づいて、当該路肩の耐荷重を算出する手順と、
前記車両の車輪が前記路肩に作用させる荷重を算出する手順と、
当該車輪が前記路肩に作用させる荷重と、前記路肩の耐荷重とに基づいて、前記路肩の崩落可能性を判定する手順とをさらに備えることを特徴とするダンプ車両の転倒防止方法。
【請求項9】
請求項8に記載のダンプ車両の転倒防止方法において、
前記車両の後輪を支点とする回転モーメントであって、前記荷台の積荷移動によって生じる車体回転モーメントに基づいて前記後輪の移動荷重を算出する手順をさらに備え、
前記車輪が前記路肩に作用させる荷重を算出する手順では、前記後輪に作用する荷重に前記後輪の移動荷重を加算した値を、前記車輪が前記路肩に作用させる荷重として算出し、
前記路肩の崩落可能性を判定する手順では、前記車輪が前記路肩に作用させる荷重と、前記路肩の耐荷重とを比較することで、前記路肩の崩落可能性を判定することを特徴とするダンプ車両の転倒防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−52868(P2013−52868A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−249918(P2012−249918)
【出願日】平成24年11月14日(2012.11.14)
【分割の表示】特願2009−280709(P2009−280709)の分割
【原出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)