説明

チアゾロチアゾール化合物、及びその重合体

【課題】正孔輸送性及び電子輸送性の両方を有するチアゾロチアゾール化合物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I)で示されるチアゾロチアゾール化合物。但し、一般式(I)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、nは0または1を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チアゾロチアゾール化合物、及びその重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
米国特許第4,806,443号公報には、特定のジヒドロキシアリールアミンとビスクロロホルメートとの重合によるポリカーボネートが開示されており、米国特許第4,806,444号公報には特定のジヒドロキシアリールアミンとホスゲンとの重合によるポリカーボネートが開示されている。
【0003】
また、米国特許第4,801,517号公報には、ビスヒドロキシアルキルアリールアミンとビスクロロホルメート或いはホスゲンとの重合によるポリカーボネートが開示されており、米国特許第4,937,165号公報、及び同第4,959,228号公報には、特定のジヒドロキシアリールアミン、或いはビスヒドロキシアルキルアリールアミンとビスヒドロキシアルキルアミンとビスクロロホルメートとの重合によるポリカーボネート、或いはビスアシルハライドとの重合によるポリエステルが開示されている。
【0004】
さらに米国特許第5,034,296号公報には、特定のフルオレン骨格を有するアリールアミンのポリカーボネート、或いはポリエステルが開示されており、また、米国特許第4,983,482号公報には、ポリウレタンが開示されている。
【0005】
さらにまた、特公昭59−28903号公報には、特定のビススチリルビスアリールアミンを主鎖としたポリエステルが開示されている。
また、特開昭61−20953号公報、特開平1−134456号公報、特開平1−134457号公報、特開平1−134462号公報、特開平4−133065号公報、及び特開平4−133066号公報等にはヒドラゾンや、トリアリールアミン等の電荷輸送性の置換基をペンダントとしたポリマー及び感光体が提案されている。
【0006】
また、パラフェニレンビニレン(PPV)に代表されるπ共役系高分子を用いた有機電界発光素子(Nature,Vol.357,477(1992))や、ポリフォスファゼンの側鎖にトリフェニルアミンを導入した高分子を用いた有機電界発光素子(第42回高分子討論会予稿集20J21(1993))が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,806,443号公報
【特許文献2】米国特許第4,806,444号公報
【特許文献3】米国特許第4,801,517号公報
【特許文献4】米国特許第4,937,165号公報
【特許文献5】米国特許第4,959,228号公報
【特許文献6】米国特許第5,034,296号公報
【特許文献7】米国特許第4,983,482号公報
【特許文献8】特公昭59−28903号公報
【特許文献9】特開昭61−20953号公報
【特許文献10】特開平1−134456号公報
【特許文献11】特開平1−134457号公報
【特許文献12】特開平1−134462号公報
【特許文献13】特開平4−133065号公報
【特許文献14】特開平4−133066号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature,Vol.357,477(1992)
【非特許文献2】第42回高分子討論会予稿集20J21(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、正孔輸送性及び電子輸送性の両方を有するチアゾロチアゾール化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、下記一般式(I)で示されるチアゾロチアゾール化合物である。但し、一般式(I)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、nは0または1を表す。
【0011】
【化1】

【0012】
請求項2に係る発明は、下記一般式(II)で示されるチアゾロチアゾール化合物重合体である。但し、下記一般式(II)中、Yは2価の炭化水素基を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。mは1から5の整数を表す。pは5から5,000の整数を表す。Aは下記一般式(III)で示される基を表す。また、下記一般式(III)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、nは0または1を表す。
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】



【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、正孔輸送性及び電子輸送性の両方を有する化合物が提供される。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、正孔輸送性及び電子輸送性の両方を有する重合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で得られた化合物の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図2】実施例1で得られた化合物のNMRスペクトルを示すグラフである。
【図3】実施例2で得られた化合物の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図4】実施例2で得られた化合物のNMRスペクトルを示すグラフである。
【図5】実施例3で得られた化合物の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図6】実施例3で得られた化合物のNMRスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態に係るチアゾロチアゾール化合物は、下記一般式(I)で示されるチアゾロチアゾール化合物である。
【0019】
【化4】

【0020】
一般式(I)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、nは0または1を表す。
【0021】
また本実施形態に係るチアゾロチアゾール化合物重合体は、下記一般式(II)で示されるチアゾロチアゾール化合物重合体である。
【0022】
【化5】

【0023】
一般式(II)中、Yは2価の炭化水素基を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。mは1から5の整数を表す。pは5から5,000の整数を表す。Aは下記一般式(III)で示される基を表す。
【0024】
【化6】

【0025】
一般式(III)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、nは0または1を表す。
【0026】
一般式(I)及び(III)中、Arは、置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、複素環が含まれていてもよい。またArに含まれる芳香族環数、及び複素環数は特に限定はされない。Arとしては、具体的には、例えば、置換もしくは未置換のフェニル基、置換もしくは未置換の芳香族数2から20の1価の多核芳香族炭化水素基、置換もしくは未置換の芳香族数2から20の1価の縮合芳香族炭化水素基、置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環基、または少なくとも1種の芳香族複素環を含む置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表す。
【0027】
ここで、「多核芳香族炭化水素」とは、炭素と水素から構成される芳香環が2個以上存在し、環同士が炭素−炭素結合によって結合している炭化水素を表す。多核芳香族炭化水素としては、具体的には、例えば、ビフェニル、ターフェニル、スチルベン等が挙げられる。そして、「多核芳香族炭化水素基」は、多核芳香族炭化水素からなる置換基であり、例えばビフェニルからなる置換基、すなわちビフェニレン基等が挙げられる。
【0028】
また、「縮合芳香族炭化水素」とは、炭素と水素から構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が隣接して結合する1対の炭素原子を共有している炭化水素を表す。具体的には、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、フルオレン等が挙げられる。そして、「縮合芳香族炭化水素基」は、縮合芳香族炭化水素からなる置換基であり、例えばナフタレンからなる置換基、すなわちナフチル基等が挙げられる。
【0029】
また、「芳香族複素環」は、炭素と水素以外の元素も含む芳香環を表す。そして、芳香族複素環基は、芳香族複素環からなる置換基である。
芳香族複素環の環骨格を構成する原子数(Nr)としては、例えば、Nr=5、又はNr=6等が挙げられる。また、環骨格を構成する炭素原子以外の原子(異種原子)の種類及び数は限定されない。異種原子の種類としては、例えば、硫黄原子、窒素原子、酸素原子等が挙げられる。また芳香族複素間は、環骨格中に2個以上の異種原子が含まれていてもよく、2種以上の異種原子が含まれていてもよい
【0030】
特に、Nr=5の環骨格構造(すなわち5員環構造)を有する複素環としては、例えば、チオフェン、チオフィン、ピロール、フラン、又はこれらの3位及び4位の炭素をさらに窒素で置換した複素環等が挙げられる。またNr=6の環骨格構造(すなわち6員環構造)を有する複素環としては、例えば、ピリジン環等が挙げられる。
【0031】
また、「芳香族複素環を含む芳香族基」は、骨格を形成する原子団中に、少なくとも1種の前記芳香族複素環を含む結合基を表す。これらは全てが共役系で構成されたもの、あるいは一部が共役系で構成されたもののいずれでもよいが、電荷輸送性の点で、全てが共役系で構成されたものが好ましい。
【0032】
上記「置換もしくは未置換の1価の芳香族基」において、芳香族基を置換する置換基としては、例えば、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アリール基、アラルキル基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられ、その中でも特に、例えば水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基等が挙げられる。
前記アルキル基としては、例えば炭素数1から10のものが挙げられ、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。
前記アルコキシ基としては、例えば炭素数1から10のものが挙げられ、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。
前記アリール基としては、例えば炭素数6から20のものが挙げられ、具体的には、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる。
前記アラルキル基としては、例えば炭素数7から20のものが挙げられ、具体的には、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
置換アミノ基の置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基が挙げられ、具体例は前述の通りである。
【0033】
上記一般式(I)及び(III)中のArとしては、上記の中でも、置換もしくは未置換のフェニル基、又は置換もしくは未置換の多核芳香族炭化水素基が好ましく、置換もしくは未置換のフェニル基、又は置換もしくは未置換のビフェニレン基がさらに好ましい。
【0034】
また、上記一般式(II)におけるYとしては、例えば、下記構造式(IV−1)から(IV−7)から選択された基が挙げられる。
【0035】
【化7】

【0036】
上記構造式中、RおよびRは、それぞれ水素原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、置換または未置換のフェニル基、置換または未置換のアラルキル基を表し、hおよびiはそれぞれ独立に1から5の整数を表し、jおよびqはそれぞれ独立に0から6の整数を表し、lおよびrはそれぞれ独立に0または1を表し、Vは下記構造式(V−1)から(V−11)で表される基を表す。
【0037】
【化8】



【0038】
構造式(V−1)、(V−10)、及び(V−11)中、eは1から5の整数、f及びgは0から5の整数を表す。
【0039】
一般式(II)で表される重合体の重合度pは5以上5,000以下であるが、成膜性、電子デバイス素子の安定性等の理由から、好ましくは10以上1,000以下の範囲である。また、一般式(II)で表される重合体の重量平均分子量Mwとしては、例えば、10,000以上300,000以下の範囲が挙げられる。
【0040】
また、一般式(I)におけるR、及び一般式(II)におけるRは、水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換のアラルキル基である。
上記アルキル基としては、例えば炭素数1から8までのものが挙げられ、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、又はオクチル基等が挙げられる。R及びRが表すアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分鎖状であってもよい。
【0041】
上記アリール基としては、例えば炭素数6から20までのものが挙げられ、具体的には、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる。
上記アラルキル基としては、例えば炭素数7から20までものが挙げられ、具体的には、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
また、置換アリール、置換アラルキル基の置換基としては水素原子、アルキル基、アルコシキ基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0042】
本実施形態のチアゾロチアゾール化合物および本実施形態のチアゾロチアゾール化合物重合体の具体例を以下に示す。
具体的には、まず一般式(I)で示される構造を有する化合物の具体例を下記表に示すが、これらに限定されるものではない。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
また、一般式(II)で示される構造を有する化合物の具体例を下記表に示すが、これらに限定されるものではない。なお、下記表の具定例において、一般式(II)中のRは、水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換のアラルキル基のいずれかである。また下記表中、「表1から表3の構造No.」の数字は、上記表1から表3に示された具体例である例示化合物の番号を示す。
【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
以下、本実施形態のチアゾロチアゾール化合物及び重合体の製造方法について説明する。
本実施形態のチアゾロチアゾール化合物及び重合体の製造方法としては、例えば、下記製造方法等が挙げられる。
・トリアリールアミン誘導体のホルミル体とルベアン酸とを環化反応させる方法。
・アリールアミンとハロゲン化カルボアルコキシアルキルベンゼン、又はハロゲン化アリールとカルボアルコキシアニリンとを反応させてジアリールアミンを合成し、次いでこのジアリールアミンとビスハロゲン化アリールとを反応させる方法。
【0050】
アルキレンカルボン酸エステル基を有する電荷輸送材料を合成する方法としては、例えば、クロロメチル基を導入した後、Mgでグリニャール試薬を形成し、二酸化炭素でカルボン酸に変換後、エステル化する方法(特開平5−80550号公報)が挙げられる。
【0051】
上記クロロメチル基を導入する方法としては、例えば、トリアリールアミン、或いはテトラアリールベンジジン等の骨格を形成後、例えば、原料の初期の段階で導入しておいたメチル基をクロロメチル化する方法や、原料段階では無置換のものを使用し、テトラアリールベンジジン骨格を形成後、芳香環への置換反応によりホルミル基などの官能基を導入した後還元してアルコールとし、さらに塩化チオニル等のハロゲン化試薬を用いて、クロロメチル基に導く方法や、又はパラホルムアルデヒドと塩酸などにより直接クロロメチル化する方法等が挙げられる。
【0052】
また、本実施形態のチアゾロチアゾール化合物を得る方法として、例えば、アリールアミン又はジアリールベンジジン等とハロゲン化カルボアルコキシアルキルベンゼンとを反応させる方法が挙げられる。この方法は、置換基の位置を変更し、イオン化ポテンシャル等を制御することが容易であるという点に優れる。すなわち、上記方法に使用する原料である単量体は、置換基の導入が容易であり、化学的に安定であるため取り扱いが容易である。
【0053】
以下、上記本実施形態のチアゾロチアゾール化合物の製造方法について、さらに具体的に説明する。
本実施形態においては、例えば、下記一般式(VI)で示されるハロゲン化合物と下記一般式(VII)で示されるジアリールアミン化合物を銅触媒でカップリング反応を行うか、又は下記一般式(VIII)で示されるジアリールアミン化合物と下記一般式(IX)で示されるハロゲン化合物を銅触媒でカップリング反応を行うことにより、下記一般式(X)で表されるトリアリールアミン誘導体が得られる。
【0054】
次いでトリアリールアミン(X)をオキシ塩化リンの存在下に、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアニリド等のホルミル化剤と反応させることで、トリアリールアミン誘導体のホルミル体(XI)が得られる。このトリアリールアミン誘導体のホルミル体(XI)とルベアン酸とを反応させることにより、チアゾロチアゾール化合物が得られる。
【0055】
【化9】



【0056】
一般式(VI)中、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、Gは臭素原子又はヨウ素原子を示す。また、一般式(VII)中、Arは前述と同様であり、ArはArと同様である。
【0057】
【化10】



【0058】
一般式(VIII)中、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、Arは前述と同様である。また一般式(IX)中、Ar及びGは前述と同様である。
【0059】
【化11】



【0060】
一般式(X)中、Ar、Ar、及びRは前述と同様である。
【0061】
【化12】



【0062】
一般式(XI)中、Ar、Ar、及びRは前述と同様である。
【0063】
上記カップッリング反応は、一般式(VII)又は(VIII)で示される化合物1当量に対して、一般式(VI)又は一般式(IX)で示されるハロゲン化合物を、例えば0.5当量以上1.5当量以下、好ましくは0.7当量以上1.2当量以下で用いられる。
上記カップリング反応に用いられる上記銅触媒としては、例えば、銅紛、酸化第一銅、硫酸銅等が挙げられる。また上記銅触媒は、一般式(VII)又は(VIII)で示される化合物1質量部に対して、例えば0.001質量部以上3重量部以下、好ましくは0.01質量部以上2質量部以下で用いられる。
【0064】
上記カップリング反応においては塩基が用いられるが、用いる塩基の具体例としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。また上記塩基は、一般式(VII)又は(VIII)で示される化合物1当量に対して、例えば0.5当量以上3当量以下、好ましくは0.7当量以上2当量以下で用いられる。
【0065】
上記反応においては、溶媒を用いてもよいし、溶媒を用いなくても良い。溶媒を用いる場合、用いられる溶媒としては、例えば、n−トリデカン、テトラリン、p−シメン、テルピノレン等の高沸点の非水溶性炭化水素系溶剤や、o−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン等の高沸点のハロゲン系溶剤等が挙げられる。上記溶媒は、一般式(VII)又は(VIII)で示される化合物1質量部に対して、例えば0.1質量部以上3質量部以下、好ましくは0.2質量部以上2質量部以下の範囲で使用される。
【0066】
また、上記反応は、窒素又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気下において、例えば100℃以上300℃以下、好ましくは150以上270℃以下、さらに好ましくは180℃以上230℃以下の温度範囲で、効率よく攪拌しながら行い、さらに反応中に生成する水を除去しながら反応させることが好ましい。
【0067】
反応終了後には、必要に応じて冷却した後、例えばメタノール、エタノール、n−オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、又はグリセリン等の溶剤、及び水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等の塩基を用いて、加水分解を行う。
上記加水分解における溶剤の使用量は、一般式(VII)又は(VIII)で示される化合物1質量部に対して、例えば0.5質量部以上10質量部以下、好ましくは1質量部以上5質量部以下が挙げられる。また上記加水分解における塩基の使用量は、一般式(VII)又は(VIII)で示される化合物1質量部に対して、例えば0.2質量部以上5質量部以下、好ましくは0.3質量部以上3質量部以下が挙げられる。
【0068】
また、上記加水分解反応は、上記カップリング反応を行った後、その反応溶液中に直接上記溶剤及び上記塩基を加え、窒素又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、50℃以上かつ用いる溶剤の沸点以下の温度範囲において、攪拌しながら行う。
また、この場合、溶剤としては、カップリング反応でカルボン酸塩が生成して固化するため、反応温度を上げるためには、例えば、沸点が150℃以上ものを用いる。
【0069】
加水分解反応の終了後、反応生成物を水に注入し、さらに塩酸等で中和することにより一般式(X)で示されるトリアリールアミン化合物を遊離させる。この加水分解反応の後処理において、水に注入した後、さらに塩酸等で中和することにより一般式(X)で示されるトリアリールアミン化合物を遊離させるためには、水溶性のエチレングリコール、プロピレングリコール、又はグリセリン等を添加することが特に好ましい。
【0070】
次いで、洗浄し、必要に応じて、溶剤に溶解させた後、シリカゲル、アルミナ、活性白土、活性炭等でカラム精製を行なうか、又は溶液中にこれら吸着剤を添加して不要分を吸着させる等の処理を行う。さらにアセトン、エタノール、酢酸エチル、トルエン等の溶剤から再結晶を行うか、又はメチルエステルもしくはエチルエステル等にエステル化した後、同様の再結晶の操作を行ってもよい。
【0071】
次いで、上記で得られた一般式(X)で示されるトリアリールアミン化合物をオキシ塩化リンの存在下に、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアニリド等のホルミル化剤と反応させることで、トリアリールアミン誘導体のホルミル体(XI)が得られる。この場合、ホルミル化剤を過剰に用いることにより、ホルミル化剤が反応溶媒を兼ねてもよいが、溶媒としてo−ジクロロベンゼン、ベンゼン、塩化メチレン等の反応に不活性な溶媒を用いてもよい。反応温度としては、例えば、0度以上かつ用いる溶媒の沸点以下の範囲が挙げられ、好ましくは27℃以上150℃以下である。
【0072】
次に、一般式(XI)で示されるトリアリールアミン誘導体のホルミル体とルベアン酸との環化反応を行うことにより、一般式(I)で示されるチアゾロチアゾール化合物が得られる。
上記一般式(XI)で示されるトリアリールアミン誘導体のホルミル体とルベアン酸との環化反応において、一般式(XI)で示される化合物1当量に対して、例えば1.5当量以上5当量以下、好ましくは1.7当量以上4当量以下のルベアン酸が用いられる。
【0073】
上記環化反応において、溶剤は必要に応じて使用する。溶剤としては、例えば、n−トリデカン、テトラリン、p−シメン、テルピノレン等の高沸点の非水溶性炭化水素系溶剤、又はo−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン等の高沸点のハロゲン系溶剤が挙げられる。上記溶剤は、一般式(XI)で示されるトリアリールアミン誘導体のホルミル体1質量部に対し、例えば0.1質量部以上3質量部以下、好ましくは0.2質量部以上2重量部以下の範囲で使用される。
【0074】
また、この環化反応は、窒素又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気下において、例えば100℃以上300℃以下、好ましくは150℃以上270℃以下、さらに好ましくは180℃以上250℃以下で効率よく攪拌しながら行い、さらに反応中に生成する水を除去しながら反応させることが好ましい。反応の終了後は、反応生成物をトルエン、アイソパー、n−トリデカン等の溶剤に溶解させ、必要に応じて、水洗またはろ過により、不要物を除去し、さらに、シリカゲル、アルミナ、活性白土、活性炭等で、カラム精製するか、または溶液中にこれらの吸着剤を添加し、不要分を吸着させる等の処理を行い、さらに、エタノール、酢酸エチル、トルエン等の溶剤から再結晶させて精製する。
【0075】
次に、本実施形態のチアゾロチアゾール化合物重合体の製造方法について説明する。
一般式(II)で表される本実施形態の重合体は、下記一般式(XIV)で示される低分子化合物を、例えば第4版実験化学講座28巻(日本化学会編、丸善)などに記載された方法等で重合することにより合成される。
【0076】
【化13】



【0077】
一般式(XIV)中、Arは前記一般式(I)におけるArと同様である。A’は水酸基、ハロゲン原子、又は基−O−Rを表す。Rは、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。
すなわち、一般式(II)で示されるチアゾロチアゾール化合物重合体は、次のようにして合成される。
【0078】
<1>A’が水酸基の場合
A’が水酸基の場合には、例えば、HO−(Y−O)−Hで示される2価アルコール類を、上記一般式(XIV)で示される低分子化合物と当量混合し、酸触媒を用いて重合する。なお、上記2価アルコール類におけるY及びmは、上記一般式(II)におけるY及びmと同様であり、以下の2価アルコール類についても同様である。
上記酸触媒としては、例えば、硫酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等、通常のエステル化反応に用いるものが挙げられ、上記一般式(XIV)で示される低分子化合物1質量部に対して、例えば1/10,000質量部以上1/10質量部以下、好ましくは1/1,000質量部以上1/50質量部以下の範囲で用いられる。
【0079】
合成中に生成する水を除去するために、水と共沸する溶剤を用いることが好ましく、溶剤としては、例えば、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が挙げられ、上記一般式(XIV)で示される低分子化合物1重量部に対して、例えば1質量部以上100質量部以下、好ましくは2質量部以上50質量部以下の範囲で用いられる。
反応温度は特に限定されないが、例えば、重合中に生成する水を除去するために、溶剤の沸点で反応させてもよい。
【0080】
上記溶剤を用いなかった場合には、反応終了後、反応生成物が溶解する溶剤に溶解させる。反応時に上記溶剤を用いた場合には、反応溶液をそのまま、メタノール又はエタノール等のアルコール類や、アセトン等のポリマーが溶解しにくい貧溶剤中に滴下し、反応生成物である高分子化合物を析出させ、高分子化合物を分離した後、水や有機溶剤で洗浄し、乾燥させる。更に、必要であれば有機溶剤に反応生成物を溶解させ、貧溶剤中に滴下し、高分子化合物を析出させる再沈殿処理を繰り返してもよい。再沈殿処理の際には、メカニカルスターラー等で、効率よく攪拌しながら行うことが好ましい。再沈殿処理の際に高分子化合物を溶解させる溶剤は、高分子1質量部に対して、例えば1質量部以上100質量部以下、好ましくは2質量部以上50質量部以下の範囲で用いられる、また、上記貧溶剤は、高分子化合物1質量部に対して、例えば1質量部以上1,000質量部以下、好ましくは10質量部以上500質量部以下の範囲で用いられる。
【0081】
<2>A’がハロゲンの場合
A’がハロゲンの場合には、例えば、HO−(Y−O)−Hで示される2価アルコール類を、上記一般式(XIV)で示される低分子化合物と当量混合し、ピリジン又はトリエチルアミン等の有機塩基性触媒を用いて重合する。
上記有機塩基性触媒は、低分子化合物1質量部に対して、例えば1質量部以上10質量部以下、好ましくは2質量部以上5質量部以下の範囲で用いられる。
【0082】
重合反応において用いる溶剤としては、例えば、塩化メチレン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が挙げられ、低分子化合物1質量部に対して、例えば1質量部以上100質量部以下、好ましくは2質量部以上50質量部以下の範囲で用いられる。
重合反応における反応温度、特に限定されない。重合後、前述のように再沈殿処理し、精製する。
【0083】
また、2価のアルコール類として、ビスフェノール等の酸性度の高い2価のアルコール類を用いた場合には、界面重合法を用いてもよい。
界面重合法は、2価のアルコール類に水を加え、2価のアルコール類と当量の塩基を加えて、溶解させた後、激しく攪拌しながら、2価のアルコール類と当量の低分子溶液を加えることによって重合する方法である。この場合、水は、2価アルコール類1質量部に対して、例えば1質量部以上1,000質量部以下、好ましくは2質量部以上500質量部以下の範囲で用いられる。低分子化合物を溶解させる溶剤としては、例えば、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が挙げられる。反応温度は特に限られず、反応を促進するために、アンモニウム塩、スルホニウム塩等の相間移動触媒を用いてもよい。相間移動触媒は、低分子化合物1質量部に対して、例えば0.1質量部以上10質量部以下、好ましくは0.2質量部以上5質量部以下の範囲が挙げられる。
【0084】
<3>A’が−O−Rの場合
A’が−O−Rの場合には、例えば、HO−(Y−O)−Hで示される2価アルコール類を、上記一般式(XIV)で示される低分子化合物に対して過剰に加え、硫酸、リン酸等の無機酸、チタンアルコキシド、カルシウムもしくはコバルト等の酢酸塩もしくは炭酸塩、又は亜鉛の酸化物等を触媒として用いて加熱し、エステル交換により合成される。
【0085】
2価アルコール類は低分子化合物1当量に対して、例えば2当量以上100当量以下、好ましくは3当量以上50当量以下の範囲で用いられる。上記触媒は、低分子化合物1質量部に対して、例えば1/1,000質量部以上1質量部以下、好ましくは1/100質量部以上1/2質量部以下の範囲で用いられる。反応温度としては、例えば、200℃以上300℃以下の範囲が挙げられる。また基−O−Rから基O−(Y−O)−Hへのエステル交換反応が終了した後には、HO−(Y−O)−Hの脱離による重合反応を促進するため、例えば減圧下で反応させる。また、HO−(Y−O)−Hと共沸する1−クロロナフタレン等の高沸点溶剤を用いて、減圧下でHO−(Y−O)−Hを共沸で除きながら反応させてもよい。
【0086】
また、一般式(II)で示されるチアゾロチアゾール化合物重合体は、次のようにして合成してもよい。上記それぞれの場合において、2価アルコール類を過剰に加えて反応させることによって下記構造式(XV)で示される化合物を生成した後、これを低分子化合物として用いて、上記と<2>と同様の方法で、2価カルボン酸または2価カルボン酸ハロゲン化物等と反応させて高分子化合物を得る。
【0087】
【化14】



【0088】
一般式(XV)中、Arおよびnは、前記一般式(I)におけるAr、およびnと同様であり、Y及びmは、前記一般式(II)におけるY及びmと同様である。
【0089】
以上説明した本実施形態のチアゾロチアゾール化合物及びチアゾロチアゾール化合物重合体は、正孔輸送性及び電子輸送性の両方を有する(すなわちバイポーラ性を有する)。またこの化合物は、合成容易であって、溶解性、成膜性も有する化合物である。したがって、本実施形態のチアゾロチアゾール化合物及びチアゾロチアゾール化合物重合体は、有機感光体や有機電界発光素子、有機トランジスタ、有機光メモリー等の有機電子デバイスに用いられる材料として適用される化合物である
【実施例】
【0090】
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0091】
(実施例1)
アセトアニリド(25.0g)、4−ヨードフェニルプロピオン酸メチル(64.4g)、炭酸カリウム(38.3g)、硫酸銅5水和物(2.3g)、n−トリデカン(50ml)を500mlの三口フラスコに入れ、窒素気流下、230℃で20時間加熱攪拌した。反応終了後、水酸化カリウム(15.6g)をエチレングリコール(300ml)に溶解したものを加え、窒素気流下で3.5時間加熱還流した後、室温(25℃)まで冷却し、反応液を1Lの蒸留水に注ぎ、塩酸で中和し、結晶を析出させた。結晶を吸引ろ過によりろ取し、水洗した後、1Lのフラスコに移した。これに、トルエン(500ml)を加え、加熱還流し、共沸により水を除去した後、濃硫酸(1.5ml)のメタノール(300ml)溶液を加え、窒素気流下で5時間加熱還流した。反応後、トルエンで抽出し、有機相を純水で洗浄した。次いで、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶剤を減圧下留去し、ヘキサンから再結晶することにより下記DAA−1を36.5g得た。
【0092】
【化15】



【0093】
次に、ヨードベンゼン(4.8g)、上記DAA−1(5.0g)、硫酸銅(II)五水和物(0.2g)、炭酸カリウム(1.3g)、トリデカン(10ml)の混合液を、210℃で7時間撹拌した。反応終了後、水酸化カリウム(15.6g)をエチレングリコール(300ml)に溶解したものを加え、窒素気流下で3.5時間加熱還流した後、室温(25℃)まで冷却し、反応液を1Lの蒸留水に注ぎ、塩酸で中和し、結晶を析出させた。結晶を吸引ろ過によりろ取し、水洗した後、1Lのフラスコに移した。これに、トルエン(500ml)を加え、加熱還流し、共沸により水を除去した後、濃硫酸(1.5ml)のメタノール(300ml)溶液を加え、窒素気流下で5時間加熱還流した。室温(25℃)に冷却し、トルエンを加えてセライト濾過した。純水で洗浄し、有機相を抽出し、有機溶媒を留去して得られた生成物をシリカゲルカラムクロマト(ヘキサン4:トルエン1)で分離し、下記TAA−1を3.9g得た。
【0094】
【化16】

【0095】
TAA−1(3.0g)、N,N−ジメチルホルムアミド(100ml)の混合液を500mlの三口フラスコに入れ、オキシ塩化リン(1.7g)を滴下した後、80℃に加温し、7時間撹拌した。
冷却後、純水に反応溶液を加え、析出した結晶を吸引ろ過によりろ取して、TAA−1のホルミル体を2.4g得た。
【0096】
【化17】



【0097】
窒素雰囲気下、TAA−1のホルミル体(2.0g)とルベアン酸(0.37g)をメシチレン(5ml)に溶解し、30時間還流した。メシチレンを減圧下で留出して得られた固体を、ヘキサンでソックスレー抽出(6時間)を行い、不純物を除去した。ついでトルエンでソックスレー抽出(4.5時間)を行い、得られた粗結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=20:1)で分離し、トルエンから再結晶して例示化合物8を0.62g得た。
【0098】
【化18】



【0099】
得られた例示化合物8の融点は、191から192℃であった。また、得られた例示化合物8の赤外吸収スペクトルを図1に、H−NMRスペクトル(H−NMR、溶媒:CDCl、以下に示すNMRスペクトルも同様。)を図2に示す。
また、得られた例示化合物8のイオン化ポテンシャルは5.60eV、正孔移動度は5.24×10−6cm/Vs、電子移動度は7.37×10−6cm/Vsであった。
【0100】
なお、赤外吸収スペクトル(ATR法)のピーク位置は以下の通りである。
IR(cm‐1):756,836,1176,1269,1510,1590,1725,2945,3034
また、H−NMR(CDCl)スペクトルのピークは、以下の通りである。
NMR(H、CDCl):2.62−2.70(4H)、2.75−2.96(4H)、3.65−3.69(6H)、7.00−7.15(17H)、7.20−7.32(5H)、7.76−7.82(4H)
【0101】
なお、イオン化ポテンシャルは、大気中光電子分光装置(AC−2:理研計器株式会社製)により測定した。
また上記H−NMRスペクトルの測定には、VARIAN株式会社製、UNITY−300(300MHz)を用い、IRスペクトルの測定には、ATR法にてフーリェ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製、TF/IR−6100、ATRプリズム:ZnSe45°、分解能4cm−1)を用いた。
【0102】
さらに正孔移動度および電子移動度の測定は、Time of Flight法(オプテル社製、TOF−401:励起光源:窒素パルスレーザー(波長;337nm)、印加電圧;30V/μm)により測定した。この正孔移動度測定は、特に断りのない限りポリカーボネートに対する40質量%目的物分散膜を用いて実施した。
また電子移動度の測定の際は、真空中(10−3Torr)で行った。
測定方法については、以下同様である。
【0103】
(実施例2)
4−(2−チエニル)アセトアニリド(30.0g)、4−ヨードフェニルプロピオン酸メチル(28.5g)、炭酸カリウム(13.6g)、硫酸銅5水和物(2.0g)、1,2−ジクロロベンゼン(50ml)を500mlの三口フラスコに入れ、窒素気流下、230℃で20時間加熱攪拌した。反応終了後、水酸化カリウム(15.6g)をエチレングリコール(300ml)に溶解したものを加え、窒素気流下で3.5時間加熱還流した後、室温(25℃)まで冷却し、反応液を1Lの蒸留水に注ぎ、塩酸で中和し、結晶を析出させた。結晶を吸引ろ過によりろ取し、水洗した後、1Lのフラスコに移した。これに、トルエン(500ml)を加え、加熱還流し、共沸により水を除去した後、濃硫酸(1.5ml)のメタノール(300ml)溶液を加え、窒素気流下で5時間加熱還流した。反応後、トルエンで抽出し、有機相を純水で洗浄した。次いで、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶剤を減圧下留去し、ヘキサンから再結晶することによりDAA−2を17.9g得た。
【0104】
【化19】



【0105】
窒素雰囲気下、ヨードベンゼン(3.6g)、DAA−2(5.0g)、硫酸銅(II)五水和物(0.2g)、炭酸カリウム(1.3g)、トリデカン(15ml)の混合液を、210℃で15時間撹拌した。
反応終了後、水酸化カリウム(15.6g)をエチレングリコール(300ml)に溶解したものを加え、窒素気流下で3.5時間加熱還流した後、室温(25℃)まで冷却し、反応液を1Lの蒸留水に注ぎ、塩酸で中和し、結晶を析出させた。結晶を吸引ろ過によりろ取し、水洗した後、1Lのフラスコに移した。これに、トルエン(500ml)を加え、加熱還流し、共沸により水を除去した後、濃硫酸(1.5ml)のメタノール(300ml)溶液を加え、窒素気流下で5時間加熱還流した。
冷却後、トルエンを加えてセライト濾過し、トルエンを留出して得られた生成物をシリカゲルカラムクロマト(ヘキサン2:トルエン1)で分離し、TAA−2を3.2g得た。
【0106】
【化20】



【0107】
TAA−2(3.0g)をN,N−ジメチルホルムアミド(5ml)に溶解し,オキシ塩化リンを滴下した。室温(25℃)で4時間撹拌後,無水N,N−ジメチルホルムアミド(3ml)追加投入し,さらに13.5時間磁気攪拌した.反応終了後,水(100ml)と酢酸エチル(100ml)を入れ撹拌して,有機相を分離し,有機相を飽和食塩水食50mlで洗浄し,硫酸ナトリウムで乾燥した.溶媒留去し得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で分離し、TAA−2のホルミル体を2.5g得た。
【0108】
【化21】



【0109】
TAA−2のホルミル体(2.2g)とルベアン酸(0.37g)をメシチレン(5ml)に溶解し,30時間還流した.メシチレンを減圧下で留出して得られた固体を,ヘキサンでソックスレー抽出(6時間)を行い、不純物を除去した.得られた粗結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=20:1)で分離し,トルエンから再結晶して例示化合物25を0.54g得た。
【0110】
【化22】



【0111】
得られた例示化合物25の融点は、227から228℃であった。また、得られた例示化合物25の赤外吸収スペクトルを図3に、H−NMRスペクトル(H−NMR、溶媒:CDCl)を図4に示す。イオン化ポテンシャルは5.39eV、正孔移動度は、6.18×10−6cm/Vs、電子移動度は7.10×10−6cm/Vsであった。
【0112】
なお、赤外吸収スペクトル(ATR法)のピーク位置は以下の通りである。
IR(cm‐1):787,1157,1294,1463,1727,2957,3040
また、H−NMR(CDCl)スペクトルのピークは、以下の通りである。
NMR(H、CDCl):2.60−2.71(4H)、2.72−2.96(4H)、3.65−3.70(6H)、7.00−7.15(17H)、7.20−7.28(7H)、7.40−7.52(6H)
【0113】
(実施例3)
実施例1で得られた例示化合物8を1.0g用い、エチレングリコール10mlおよびテトラブトキシチタン0.02gとともに50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃で5時間加熱攪拌した。
原料である上記例示化合物8が反応して消失したのをTLCにより確認した後、50Paに減圧してエチレングリコールを留去しながら210℃に加熱し、6時間反応を続けた。
【0114】
その後、室温(25℃)まで冷却し、テトラヒドロフラン50mlに溶解し、不溶物を0.5μlのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターにてろ過し、ろ液を減圧下留去した後、モノクロロベンゼン300mlに溶解させ、1N−HCl300ml、水500ml×3の順に洗浄した。モノクロロベンゼン溶液を30mlまで減圧下留去して、酢酸エチル/メタノール=1/3:800ml中に滴下し、ポリマーを再沈殿させた。
得られたポリマーをろ過し、メタノールで洗浄した後、60℃で16時間真空乾燥させ、0.7gの重合体〔例示化合物:(4)〕を得た。
【0115】
この重合体の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー社製、HLC−8120GPC)にて測定したところ、MW=5.7×10(スチレン換算)、Mn/Mw=1.21であり、原料である低分子化合物の分子量から求めた重合度pは71であった。
【0116】
また、得られた例示化合物(4)の赤外吸収スペクトルを図5に、H−NMRスペクトル(H−NMR、溶媒:CDCl)を図6に示す。
また、得られた例示化合物(4)のイオン化ポテンシャルは5.62eV、正孔移動度は4.18×10−5cm/Vs、電子移動度は5.18×10−5cm/Vsであった。
【0117】
なお、赤外吸収スペクトル(ATR法)のピーク位置は以下の通りである。
IR(cm‐1):695、756、835、886、1047、1085、1178、1285、1445、1513、1594、1729、2894、2947
また、H−NMR(CDCl)スペクトルのピークは、以下の通りである。
NMR(H、CDCl):2.38−2.58、2.62−2.71、2.88−2.95、3.65−3.85、7.00−7.18、7.22−7.38、7.74−7.82
【0118】
上記結果から、本実施例で得られた例示化合物は、いずれも、溶解性、成膜性を有すると共に、正孔輸送性及び電子輸送性の両方を有するチアゾロチアゾール化合物であり、例えば、各種有機電子デバイスに有用であることがわかる。また、本実施例で得られた例示化合物は、合成容易であることもわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示されるチアゾロチアゾール化合物。
【化1】


〔一般式(I)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、nは0または1を表す。〕
【請求項2】
下記一般式(II)で示されるチアゾロチアゾール化合物重合体。
【化2】


〔一般式(II)中、Yは2価の炭化水素基を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。mは1から5の整数を表す。pは5から5,000の整数を表す。Aは下記一般式(III)で示される基を表す。〕
【化3】


〔一般式(III)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、nは0または1を表す。〕

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−84486(P2011−84486A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236603(P2009−236603)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】