説明

チアゾール類の製造方法

【課題】チアゾール類を工業的に簡便にかつ安全に製造する方法の提供。
【解決手段】特定の構造式で表されるα-ハロケトン化合物と、アンモニウムジチオカルバメートとを反応させ、得られた2−メルカプトチアゾール類を酸化剤または還元剤と反応させることを特徴とする式(3)


(R1は、水素原子または置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を、R2は、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、または置換されていてもよい炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基を示す。)で表されるチアゾール類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チアゾール類の製造方法に関する。さらに詳しくは、2位が無置換のチアゾール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チアゾール類は、医薬品等の合成用中間体として有用であり、2位が無置換のチアゾール類は、抗HIV薬等の原料として利用される。
【0003】
2位が無置換のチアゾール類の製造方法として、種々の方法が知られている。例えば、α-ハロケトン化合物とチオ尿素を反応させて2-アミノチアゾール類となし、次いで、亜硝酸化合物を用いて、アミノ酸をジアゾ化して脱離させる方法や、チオホルムアミドとα-ハロケトン化合物を反応させる1段で2位が無置換のチアゾール類を製造する方法(特許文献1)が知られている。しかしながら、これらの方法には、種々の不具合な点がある。例えば、上記前者の製造方法によると、爆発危険性のあるジアゾニウム化合物を経由する必要があり、また、上記後者の製造方法によると、化学的に不安定なチオホルムアミドを使用するため、その取り扱いに注意を要する。
【特許文献1】特表平9−503501
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、チアゾール類を工業的に簡便にかつ安全に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示すとおりのチアゾール類の製造方法に関する。
項1.式(1);
【化1】


(式中、R1は、水素原子または置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を示す。Rは水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基または、置換されていてもよい炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基を示す。Xはハロゲン原子を示す。)で表されるα-ハロケトン化合物と、アンモニウムジチオカルバメートとを反応させ、得られた式(2);
【化2】


(式中、R1およびRは、それぞれ式(1)におけるR1およびRと同じ基を示す。)で表される2−メルカプトチアゾール類を酸化剤または還元剤と反応させることを特徴とする式(3);
【化3】


(式中、R1およびRは、それぞれ式(1)におけるR1およびRと同じ基を示す。)で表されるチアゾール類の製造方法。
項2.式(1)で表されるα-ハロケトン化合物が、1,3−ジクロロアセトンまたは2−クロロアセト酢酸エチルである項1に記載のチアゾール類の製造方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0006】
本発明に用いられるα-ハロケトン化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【化4】


式(1)において、R1は、水素原子または置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を、Rは、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、または置換されていてもよい炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基を示す。また、Xは、ハロゲン原子を示す。
1で示される置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基およびトリクロロメチル基等が挙げられる。
で示される置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基およびトリクロロメチル基等が挙げられる。
Rで示される置換されていてもよい炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基およびtert−ブトキシカルボニル基等が挙げられる。
Xで示されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0007】
式(1)で表されるα-ハロケトン化合物の具体例としては、例えば、1,3−ジクロロアセトン、2−クロロアセト酢酸エチル、2−ブロモアセト酢酸メチルおよび3−クロロ−4,4,4−トリクロロ-2-ブタノン等を挙げることができる。中でも、1,3−ジクロロアセトンおよび2−クロロアセト酢酸エチルが、取り扱いの容易さから好適に用いられる。
【0008】
本発明において、アンモニウムジチオカルバメートの使用割合は、α-ハロケトン化合物1モルに対して、アンモニウムジチオカルバメート1〜10モルであることが好ましく、1〜3モルがさらに好ましい。アンモニウムジチオカルバメートの使用割合が1モル未満の場合、収率が低下するおそれがある。また、アンモニウムジチオカルバメートの使用割合が10モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的ではない。
【0009】
式(1)で表されるα−ハロケトン化合物とアンモニウムジチオカルバメートを反応させる方法は特に限定されず、例えば、α−ハロケトン化合物、アンモニウムジチオカルバメートおよび溶媒を所定の温度に維持して攪拌する方法を挙げることができる。
【0010】
溶媒としては、上記反応に対して不活性な溶媒であれば特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、クロロホルム、二塩化エチレン、ジエチルエーテル、ニトロメタンおよびニトロエタン等の非水溶性有機溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルアルコールおよびエチルアルコール等の水溶性有機溶媒等、並びに水等が挙げられる。中でも、反応後の反応液からの反応生成物の単離の容易性、製造時の作業環境や廃水が引き起こす環境汚染および経済性の観点から、メチルアルコールおよびエチルアルコール等のアルコール類、並びに水が好適に用いられる。
【0011】
溶媒の使用量は、α-ハロケトン化合物100重量部に対して、200〜2000重量部であることが好ましい。溶媒の使用量が200重量部未満の場合、反応が円滑に進行しにくくなるおそれがある。また、溶媒の使用量が2000重量部を超える場合、容積効率が悪化するおそれがある。
【0012】
反応温度は、0〜100℃が好ましく、20〜70℃がさらに好ましい。反応温度が0℃未満の場合、反応速度が、実用上遅すぎるので好ましくない。また、反応温度が100℃を超える場合、不純物の生成する割合が多くなり、好ましくない。反応時間は、反応温度や溶媒の使用量等により異なるが、通常、3〜20時間である。
かくして得られる2−メルカプトチアゾール類は、例えば、上記反応液を濾過することにより、単離することができる。
【0013】
前記2−メルカプトチアゾール化合物は、下記式(2)で表される。
【化5】


式(2)において、R1およびRは、それぞれ式(1)におけるR1およびRと同じ基を示す。
式(2)で表される2−メルカプトチアゾール類の具体例としては、例えば、
2−メルカプト−4−クロロメチルチアゾール、2−メルカプト−4−メチルチアゾール−5−カルボン酸エチルエステル、2−メルカプト−4−メチルチアゾール−5−カルボン酸メチルエステルおよび2−メルカプト−4−メチル−5−トリクロロメチルチアゾール等を挙げることができる。
本発明に係る下記式(3)で表されるチアゾール類は、このようにして得られる2−メルカプトチアゾール類を酸化剤または還元剤と反応させることにより製造することができる。
【化6】


式(3)において、R1およびRは、それぞれ式(1)におけるR1およびRと同じ基を示す。
【0014】
式(3)で表されるチアゾール類の具体例としては、4−クロロメチルチアゾール、4−メチルチアゾール−5−カルボン酸エチルエステル、4−メチルチアゾール−5−カルボン酸メチルエステルおよび4−メチル−5−トリクロロメチルチアゾール等が挙げられる。
【0015】
酸化剤としては、例えば、過酸化水素、過酢酸、次亜塩素酸ソーダおよび塩素等が挙げられる。中でも、安価で取り扱いが容易である観点から、過酸化水素および次亜塩素酸ソーダが好適に用いられる。これら酸化剤は、1種単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
還元剤としては、例えば、亜鉛および鉄等が挙げられる。なお、これらは還元剤は、1種単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
酸化剤もしくは還元剤の使用割合は、2−メルカプトチアゾール類1モルに対して、1〜10モルが好ましく、2〜4モルがさらに好ましい。酸化剤もしくは還元剤の使用割合が1モル未満の場合、収率が低下するおそれがある。また、酸化剤もしくは還元剤の使用割合が10モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的ではない。
式(2)で表される2−メルカプトチアゾール類と酸化剤もしくは還元剤とを反応させる方法は特に限定されず、例えば、2−メルカプトチアゾール類、酸化剤もしくは還元剤および溶媒を所定の温度に維持して攪拌することで行われる。
反応溶媒としては、上記反応に対して不活性な溶媒であれば特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、二塩化エチレン、ジエチルエーテル、ニトロメタンおよびニトロエタン等の非水溶性有機溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルアルコールおよびエチルアルコール等の水溶性有機溶媒等、並びに水が挙げられる。中でも、反応後のチアゾール類の単離の容易性、製造時の作業環境や廃水が引き起こす環境汚染および経済性の観点から、水、並びにメチルアルコールおよびエチルアルコール等のアルコール類が好適に用いられる。
【0016】
前記酸化反応に用いられる反応溶媒の使用量は、2−メルカプトチアゾール類100重量部に対して、200〜2000重量部であることが好ましい。反応溶媒の使用量が200重量部未満の場合、反応が円滑に進行しにくくなるおそれがある。また、反応溶媒の使用量が2000重量部を超える場合、容積効率が悪化するため好ましくない。
【0017】
反応温度は、0〜100℃が好ましく、20〜50℃がさらに好ましい。反応温度が0℃未満の場合、反応速度が遅くなるおそれがある。また、反応温度が100℃を超える場合、不純物の生成が多くなり好ましくない。反応時間は、反応温度、溶媒の使用量等により異なるが、通常、1〜20時間である。
かくして得られたチアゾール類は、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、二塩化エチレン、ジエチルエーテル、ニトロメタンおよびニトロエタン等の有機溶媒を用いて抽出することにより単離することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、医薬品等の合成用中間体として有用な2位が無置換のチアゾール類を簡便にかつ安全に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0020】
実施例1
撹拌機および温度計を備えた100mL容の反応容器に2−クロロアセト酢酸エチル10g(0.061モル)、アンモニウムジチオカルバメート7g(0.064モル)およびエタノール50gを仕込み、25℃で5時間反応させた。反応終了後に10℃まで冷却し、析出した結晶を濾取した。得られた結晶をエタノール10gで洗浄後、乾燥することにより、前記式(2)におけるRがメチル基であり、Rがエトキシカルボニル基である2−メルカプト−4−メチルチアゾール−5−カルボン酸エチルエステル11.2g(0.055モル)を得た。2−クロロアセト酢酸エチルに対する2−メルカプト−4−メチルチアゾール−5−カルボン酸エチルエステルの収率は90%であった。
【0021】
得られた2−メルカプト−4−メチルチアゾール−5−カルボン酸エチルエステル11.2g(0.055モル)と水50gとを撹拌機および温度計を備えた100mL容の反応容器に仕込み、25℃で30%過酸化水素水20g(0.167モル)を滴下し、25℃で1時間反応させた。反応液を苛性ソーダ30gによりアルカリ性にした後、塩化メチレン50gで3回抽出し、当該塩化メチレン溶液を混合、濃縮することにより、式(3)におけるRがメチル基であり、Rがエトキシカルボニル基である4−メチルチアゾール−5−カルボン酸エチルエステル8.0g(0.047モル)を得た。2−メルカプト−4−メチルチアゾール−5−カルボン酸エチルエステルに対する4−メチルチアゾール−5−カルボン酸エチルエステルの収率は85%であった。得られた4−メチルチアゾール−5−カルボン酸エチルエステルは、H−NMR分析にて、以下の化学シフトを示すことにより同定した。
H−NMR(d6DMSO);δ 1.21(t,3H), 1.69(S,3H), 4.14(q,2H), 8.81(S,1H)
【0022】
実施例2
実施例1において、2−クロロアセト酢酸エチル10g(0.061モル)に代えて1,3−ジクロロアセトン7.7g(0.061モル)を、エタノール50gに代えて水50gを、それぞれ用いた以外は実施例1と同様にして、式(3)におけるRがクロロメチル基であり、Rが水素原子である4−クロロメチルチアゾール3.7g(0.028モル)を得た。1,3−ジクロロアセトンに対する4−クロロメチルチアゾールの収率は45.7%であった。尚、得られた4−クロロメチルチアゾールは、H−NMR分析にて、以下の化学シフトを示すことにより同定した。
H−NMR(CDCl); δ 4.57(s ,2H) , 6.85(s ,1H) , 8.77(S,1H)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1);
【化1】


(式中、R1は、水素原子または置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を、Rは、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、または置換されていてもよい炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基を示す。Xはハロゲン原子を示す。)で表されるα-ハロケトン化合物と、アンモニウムジチオカルバメートとを反応させ、得られた式(2);
【化2】


(式中、R1およびRは、それぞれ式(1)におけるR1およびRと同じ基を示す。)で表される2−メルカプトチアゾール類を酸化剤または還元剤と反応させることを特徴とする式(3);
【化3】


(式中、R1およびRは、それぞれ式(1)におけるR1およびRと同じ基を示す。)で表されるチアゾール類の製造方法。
【請求項2】
式(1)で表されるα-ハロケトン化合物が、1,3−ジクロロアセトン、または2−クロロアセト酢酸エチルである請求項1に記載のチアゾール類の製造方法。