説明

チェーン

【課題】ブシュの内周面に樹脂材を一体成形したチェーンにおいて、樹脂材とブシュの内周面との接合力を強化して耐久性を向上させたチェーンを提供する。
【解決手段】前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ孔に圧入してなる内リンクとブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対のピンの両端部を左右一対の外プレートのピン孔に圧入してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されているチェーンにおいて、ブシュ112の両端部の内周縁部112aが面取りされており、ブシュ112の内周面に軸方向中央部が肉厚になるように樹脂材115がインサート成形されていることにより、上記の課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブシュが用いられるローラチェーンやブシュチェーンに関するものであって、特に、食品や乳飲料の充填機などに内装されるチェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、食品や乳飲料の充填機などに内装されるチェーンは、衛生上の観点からオイル、グリスによる潤滑ができないため、摩耗伸びが大きくなる。しかも、このようなチェーンは衛生管理を重視し、薬剤を用いた洗浄を行うため耐食性を有するステンレスブシュを使用している。そのため、耐摩耗性を更に低下させる要因となっている。
【0003】
また、充填機内では、チェーンを水平対向駆動させることが多いが、このような場合、左右のチェーンに摩耗伸び差が発生すると、チェーンの位相を合わせる必要があり、このためのメンテナンスの頻度が高く、長時間を要している。さらに、このメンテナンス作業には、十分に訓練されたオペレータを必要とし、メンテナンスコストが非常に高価である。
【0004】
そこで、ブシュの内周面に樹脂材を一体成形して耐摩耗性を向上させたチェーンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−309888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のブシュの内周面に樹脂材を一体成形した耐摩耗性チェーンは、樹脂材とブシュの内周面との接合力が弱く、樹脂材が軸方向に脱落したりブシュ内で回転したりしてチェーンの耐久性が低下するという問題が指摘されていた。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、ブシュの内周面に樹脂材を一体成形したチェーンにおいて、樹脂材とブシュの内周面との接合力を強化して耐久性を向上させたチェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
まず、本請求項1に係る発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ孔に圧入してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対のピンの両端部を左右一対の外プレートのピン孔に圧入してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されているチェーンにおいて、前記ブシュの両端部の内周縁部が面取りされており、前記ブシュの内周面に軸方向中央部が肉厚になるように樹脂材がインサート成形されていることにより、前記課題を解決したものである。
【0008】
また、本請求項2に係る発明は、請求項1に係るチェーンにおいて、前記ブシュが巻きブシュであり、該巻きブシュの成形合わせ目のスリットに、前記樹脂材が浸入固化していることにより、前記課題をさらに解決したものである。
【0009】
そして、本請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に係るチェーンにおいて、前記ブシュの内周面に軸方向に少なくとも1本の溝が設けられ、該溝に前記樹脂材が浸入固化していることにより、前記課題をさらに解決したものである。
【0010】
さらに、本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに係るチェーンにおいて、前記樹脂材が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂であることにより、前記課題をさらに解決したものである。
【発明の効果】
【0011】
本請求項1に係るチェーンによれば、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ孔に圧入してなる内リンクとブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対のピンの両端部を左右一対の外プレートのピン孔に圧入してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されているチェーンにおいて、ブシュの両端部の内周縁部が面取りされており、ブシュの内周面に軸方向中央部が肉厚になるように樹脂材がインサート成形されていることにより、ブシュの内周面にインサート成形されている樹脂材がブシュの両端部において面取りされたブシュの内周縁部に密着して外側に向かって拡径状態となっており、樹脂材がブシュを抱き込む形に成形されているため、樹脂材が軸方向に脱落することが確実に防止される。
【0012】
しかも、チェーン組立時にブシュを内プレートのブシュ孔に圧入することによって、ブシュの両端部が縮径しブシュが樽型形状に変形したときに、ブシュの内周面に軸方向中央部が肉厚になるようにインサート成形された樹脂材の表面がフラットとなり、ピンと樹脂材の表面とが面接触するため、ピンの外周面にブシュの両端部の内周縁が片当たりすることが防止され、チェーンの初期摩耗伸びが低減するとともに耐摩耗性を大幅に向上させることができる。
【0013】
また、本請求項2に係るチェーンによれば、請求項1に係るチェーンにおいて、ブシュが巻きブシュであり、巻きブシュの成形合わせ目のスリットに、樹脂材が浸入固化していることにより、ブシュ内で樹脂材が回転することが確実に防止されるため、チェーンの耐久性を向上させることができる。
【0014】
そして、本請求項3に係るチェーンによれば、請求項1又は請求項2に係るチェーンにおいて、ブシュの内周面に軸方向に少なくとも1本の溝が設けられ、この溝に樹脂材が浸入固化していることにより、ブシュ内で樹脂材が回転することが確実に防止されるため、チェーンの耐久性を向上させることができる。
【0015】
また、本請求項4に係るチェーンによれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに係るチェーンにおいて、樹脂材が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂であることにより、ポリエーテルエーテルケトン樹脂が耐薬品性に優れているため、薬剤を用いた洗浄を行う用途においてもチェーンの初期摩耗伸びを低減することができるとともに耐摩耗性を大幅に向上させることができる。しかも、ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、自己潤滑性能にも優れているためチェーンの無潤滑運転を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ孔に圧入してなる内リンクとブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対のピンの両端部を左右一対の外プレートのピン孔に圧入してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されているチェーンにおいて、ブシュの両端部の内周縁部が面取りされており、ブシュの内周面に軸方向中央部が肉厚になるように樹脂材がインサート成形されていることにより、樹脂材とブシュの内周面との接合力を強化して耐久性を向上させたものであれば、その具体的な実施の形態は如何なるものであっても何ら構わない。
【0017】
例えば、本発明のチェーンは、ピンの外周面とブシュ両端の内周縁とが片当たりすることを防止し、ブシュ内周面とピン外周面との間の接触状態を一様に保つことによって、チェーンの初期摩耗伸びの低減を図るとともに耐摩耗性を向上させるものであるので、ローラチェーン、ブシュチェーンのいずれであっても差し支えない。
【0018】
また、本発明のチェーンに用いられる樹脂材は、チェーンの用途に応じて所望の耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性などを備えたエンジニアリングプラスチックを用いることが可能である。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施例1であるチェーンについて図1乃至図5に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の実施例1であるチェーンの一部を示す斜視図であり、図2は、実施例1のチェーンのブシュの中心軸を通る面における断面図であり、図3は、図2を矢視III方向から見たときの平面図であり、図4は、図2のIV−IV線における断面図であり、図5は、チェーンに張力が加わった際のチェーンのピッチ線に沿った断面図である。
【0020】
まず、本発明の実施例1であるチェーン100は、図1に示すように内リンク110と外リンク120とが交互に多数連結されて構成されている。そして、内リンク110は、それぞれ2個のブシュ孔113を有する一対の内プレート111と、この一対の内プレート111のブシュ孔113に両端部がそれぞれ圧入された2本の円筒状のブシュ112と、両ブシュ112に回転自在に外挿されたローラ114とで構成されている。一方、外リンク120は、それぞれ2個のピン孔123を有する一対の外プレート121と、この一対の外プレート121のピン孔123に両端部がそれぞれ圧入された2本のピン122とで構成されている。そして、内リンク110と外リンク120とが、円筒状のブシュ112内にピン122が回転自在に嵌挿されることで交互に多数連結されて1条のチェーン100が構成されている。
【0021】
ブシュ112には、ステンレスを用いている。そして、図2に示すように、両端部の内周縁部112aを面取りする。さらに、図4に示すように、ブシュ112の内周面に軸方向に少なくとも1本の溝112bを設ける。本実施例では、ブシュ112の内周面に等間隔に4本の溝112bを設けている。溝112bの断面形状は、特に限定されるものではないが、断面V字形状とすることによって、溝112bの全域に渡って樹脂材をムラなく浸入させることができるため好ましい。そして、ブシュ112の内周面に軸方向中央部が肉厚になるように樹脂材115をインサート成形する。本実施例においては、樹脂材115の材質として、耐薬品性及び自己潤滑性能に優れたポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いている。
【0022】
ブシュ112の内周面に軸方向中央部が肉厚になるように樹脂材115をインサート成形するためには、例えば、次のような方法が用いられる。まず、金型の中に予め両端部の内周縁部112aを面取りしたブシュ112を装着する。次に、ブシュ112の内側に軸方向中央部が僅かに縮径した鼓状中子を装入する。そして、ブシュ112の内周面と鼓状中子の外周面との隙間に樹脂材を射出注入する。この時、射出注入された樹脂は、図2及び図3に示すように、ブシュ112の両端部の面取りされた部分に浸入し、ブシュ112を抱き込む形になる。その後、樹脂材が冷える前に鼓状中子を抜くことにより、ブシュ112の内周面に軸方向中央部が肉厚になるように樹脂材が成形される。
【0023】
さらに、図2に示すように、樹脂材115の両端部の内周縁部115aに面取りを施す。この面取りによりピンの挿入が容易になるとともに、樹脂材115の端部の割れを防止することができる。
【0024】
図3において、参照符号112aを付した実線の円と点線の円で囲まれた領域が、面取りされたブシュ112の内周縁部を示しており、すなわち、点線の円がブシュ112の内周面を示している。このようにブシュ112の面取りされた部分を樹脂材115が覆うことによって、樹脂材115が軸方向にずれることを防止している。また、参照符号115aを付した2つの実線の円で囲まれた領域が、面取りされた樹脂材115の内周縁部を示している。そして、最も内側の実線の円が樹脂材115の最も肉厚である部分、すなわち軸方向中央部分の内周面を示している。なお、図2及び図3は、樹脂材115の軸方向中央部の肉厚量を強調して描写しており、実際の肉厚量(最も厚い所と最も薄い所の厚みの差)は、10〜100μm程度である。この肉厚量は、後述するようにチェーンを組み立てたときに生じるブシュの変形を計測して、その変形量、すなわちブシュの軸方向中央部における半径と両端部における半径との差に等しくなるように決定する。
【0025】
次に前述したブシュ112をチェーンに組み立てたときの効果について、図5に基づいて説明する。ブシュ112は、内プレート111に穿孔されたブシュ孔113に圧入される。この時、ブシュ112の外周とブシュ孔113は、シメシロを有して嵌合するため、ブシュ112の両端部は、内プレート111から力fを受けて縮径し、ブシュ112は、全体が樽型形状に変形する。その結果、ブシュ112の内周面に軸方向中央部が肉厚になるようにインサート成形された樹脂材115の内周面115bは、軸方向に対してフラットになる。そのため、チェーンに張力Fが加わった際にピン122と樹脂材115の内周面115bは、面接触し、ピン122とブシュ112の内周面とが片当たりすることが抑制されるため、チェーンの初期摩耗伸びを低減するとともに、耐摩耗性を大幅に向上させることができる。
【0026】
また、樹脂材115の材質として、自己潤滑性能に優れたポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いたことにより、チェーンの無潤滑運転を実現することができる。
【0027】
以上のように、本発明の実施例1のチェーン100は、ブシュ112の両端部の内周縁部112aが面取りされており、ブシュ112の内周面に軸方向中央部が肉厚になるように樹脂材115がインサート成形されていることにより、ブシュ112の内周面にインサート成形されている樹脂材115がブシュ112の両端部において面取りされたブシュ112の内周縁部112aに密着して外側に向かって拡径状態となっており、樹脂材115がブシュ112を抱き込む形に成形されているため、樹脂材115が軸方向に脱落することが確実に防止される。
【0028】
さらに、ブシュ112の内周面に軸方向に少なくとも1本の溝112bが設けられ、この溝112bに樹脂材115が浸入固化していることにより、ブシュ112内で樹脂材115が回転することが確実に防止されるため、チェーンの耐久性を向上させることができる。
【0029】
加えて、本発明の実施例1のチェーン100は、チェーン組立時にブシュ112を内プレート111のブシュ孔113に圧入することによって、ブシュ112の両端部が縮径しブシュ112が樽型形状に変形したときに、ブシュ112の内周面に軸方向中央部が肉厚になるようにインサート成形された樹脂材115の表面がフラットとなり、ピン122と樹脂材115の表面とが面接触するため、ピン122の外周面にブシュ112の両端部の内周縁が片当たりすることが防止され、チェーンの初期摩耗伸びが低減するとともに耐摩耗性を大幅に向上させることができるなど、その効果は甚大である。
【実施例2】
【0030】
次に、本発明の実施例2であるチェーンについて図6乃至図8に基づいて説明する。
ここで、図6は、本発明の実施例2であるチェーンのブシュの中心軸を通る面における断面図であり、図7は、図6を矢視VII方向から見たときの平面図であり、図8は、図6のVIII−VIII線における断面図である。
【0031】
本発明の実施例2であるチェーンは、前述した本発明の実施例1であるチェーン100とブシュの形態を除き、基本的な装置構成が全く同じであるから、同一部材に付した符号の100番台を200番台に書き換えることにより、その説明を省略する。
【0032】
実施例2のチェーンは、ブシュ212が巻きブシュからなっている。そして、図8に示すように、巻きブシュの成形合わせ目のスリット212bに、ブシュ212の内周面にインサート成形した樹脂材215が浸入固化している。そのため、樹脂215が、ブシュ212内で回転することが防止され、チェーンの耐久性が向上する。
【0033】
図7において、参照符号212aを付した実線の円と点線の円で囲まれた領域が、面取りされたブシュ212の内周縁部を示しており、すなわち、点線の円がブシュ212の内周面を示している。このようにブシュ212の面取りされた部分を樹脂材215が覆うことによって、樹脂材215が軸方向にずれることを防止している。また、参照符号215aを付した2つの実線の円で囲まれた領域が、面取りされた樹脂材215の内周縁部を示している。そして、最も内側の実線の円が樹脂材215の最も肉厚である部分、すなわち軸方向中央部分の内周面を示している。
【0034】
以上のように、本発明の実施例2のチェーンは、ブシュ212に巻きブシュを用い、その成形合わせ目のスリット212bにブシュ212の内周面にインサート成形した樹脂材215を浸入固化させるという簡単な構成により、別途、溝加工などを要することなく、樹脂材215を回転を防止し、ブシュ212と樹脂材215とを一体化することができるため、チェーンの耐久性を向上させることができるなど、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例1のチェーンの一部を示す斜視図。
【図2】本発明の実施例1のチェーンのブシュの中心軸を通る断面図。
【図3】図2を矢視III方向から見たときの平面図。
【図4】図2のIV−IV線における断面図。
【図5】チェーンに張力が加わった際のチェーンのピッチ線に沿った断面図。
【図6】本発明の実施例2のチェーンのブシュの中心軸を通る断面図。
【図7】図6を矢視VII方向から見たときの平面図。
【図8】図6のVIII−VIII線における断面図。
【符号の説明】
【0036】
100 ・・・ ローラチェーン
110 ・・・ 内リンク
111 ・・・ 内プレート
I12、212 ・・・ ブシュ
113 ・・・ ブシュ孔
114 ・・・ ローラ
115、215 ・・・ 樹脂材
120 ・・・ 外リンク
121 ・・・ 外プレート
I22 ・・・ ピン
123 ・・・ ピン孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ孔に圧入してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対のピンの両端部を左右一対の外プレートのピン孔に圧入してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されているチェーンにおいて、
前記ブシュの両端部の内周縁部が面取りされており、
前記ブシュの内周面に軸方向中央部が肉厚になるように樹脂材がインサート成形されていることを特徴とするチェーン。
【請求項2】
前記ブシュが巻きブシュであり、該巻きブシュの成形合わせ目のスリットに、前記樹脂材が浸入固化していることを特徴とする請求項1記載のチェーン。
【請求項3】
前記ブシュの内周面に軸方向に少なくとも1本の溝が設けられ、該溝に前記樹脂材が浸入固化していることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のチェーン。
【請求項4】
前記樹脂材が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか記載のチェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−1914(P2010−1914A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159241(P2008−159241)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(503385196)株式会社椿本カスタムチエン (2)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)