説明

チオール化合物誘導体の製造方法

【課題】活性塩素系のアクリルゴムに配合したとき、スコーチ安定性に優れるとともに長期保存性に優れたチオール化合物のアルキルビニルエーテル付加体組成物を高収率で得ることができるチオール化合物誘導体の製造方法を提供すること。
【解決手段】酸性触媒と反応溶媒を用いてチオール化合物とビニル(チオ)エーテルの付加反応を行なった後、反応液を塩基性化合物水溶液で洗浄し、反応液を塩基性化合物水溶液で洗浄した後、前記反応によって生成する付加体に塩基性化合物を残留させることを特徴とし、好ましくは前記反応によって生成する付加体に塩基性化合物を残留させる手法が、(1)水洗工程を行なわないでそのまま反応溶媒を留去する手法、(2)反応溶媒を留去する前に少量の塩基性化合物の水溶液を添加してから反応溶媒を留去する手法、又は(3)反応溶媒を留去して付加体生成物を単離した後、塩基性物質を添加する手法の何れかであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、インク、接着剤、ゴム、樹脂などを作る際の架橋剤として好適なチオール化合物誘導体の製造方法に関し、詳しくは、反応性の高い塩素原子を架橋性官能基として持つアクリルゴムの加硫に使用する保存安定性に優れたチオール化合物誘導体組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チオール化合物のアルキルビニル(チオ)エーテル付加体は、ポリエポキシ化合物などの熱潜在性架橋剤になることが知られており、一液性の塗料、インク、接着剤などに使用することが検討されている。
【0003】
一方、クロルメチルスチレン又はクロル酢酸ビニルを架橋性官能基として、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどと共重合したアクリルゴムは、トリアジントリチオールなどのチオール化合物を加硫剤、金属石鹸を加硫促進剤として180℃程度で加硫成型できることが知られている。
【0004】
しかし、この反応は室温でも進行するため、保存性が悪く、加工温度でのスコーチタイムが短く、加工性が悪いという問題があった。
【0005】
そこで、本発明者らにより、トリアジントリチオールなどのチオール化合物をビニル(チオ)エーテル付加体とし、ゴム組成物の保存性の問題を解決する検討がなされている(特許文献1)。
【0006】
特許文献1の製造方法は、チオール化合物とアルキルビニル(チオ)エーテルを酸性リン酸エステルなどの酸性触媒で反応した後、そのままアルコキシチタン等の有機金属化合物と反応し、酸性触媒を不活性化するものであった。この方法では、未反応のチオール化合物が残留しやすいため、付加体の長期保存安定性、ゴム組成物のスコーチタイムにおいて、まだ、十分満足のいくものではなかった。
【0007】
また、合成ハイドロタルサイトなどの酸吸着剤を使用して酸性物質を除去する方法では、収率が低いなどの問題があった。
【特許文献1】特開2003−55353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、活性塩素系のアクリルゴムに配合したとき、スコーチ安定性に優れるとともに長期保存性に優れたチオール化合物のアルキルビニルエーテル付加体組成物を高収率で得ることができるチオール化合物誘導体の製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、チオール化合物のアルキルビニルエーテル付加体が塩基性では加水分解されず、保存中においては塩基性物質が加水分解安定剤になることを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
【0011】
(請求項1)
酸性触媒と反応溶媒を用いてチオール化合物とビニル(チオ)エーテルの付加反応を行なった後、反応液を塩基性化合物水溶液で洗浄することを特徴とするチオール化合物誘導体の製造方法。
【0012】
(請求項2)
反応液を塩基性化合物水溶液で洗浄した後、前記反応によって生成する付加体に塩基性化合物を残留させることを特徴とする請求項1記載のチオール化合物誘導体の製造方法。
【0013】
(請求項3)
前記反応によって生成する付加体に塩基性化合物を残留させる手法が、(1)水洗工程を行なわないでそのまま反応溶媒を留去する手法、(2)反応溶媒を留去する前に少量の塩基性化合物の水溶液を添加してから反応溶媒を留去する手法、又は(3)反応溶媒を留去して付加体生成物を単離した後、塩基性物質を添加する手法の何れかであることを特徴とする請求項1又は2記載のチオール化合物誘導体の製造方法。
【0014】
(請求項4)
前記チオール化合物が、トリアジントリチオールであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のチオール化合物誘導体の製造方法。
【0015】
(請求項5)
前記ビニル(チオ)エーテルが、モノアルキルビニル(チオ)エーテルであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のチオール化合物誘導体の製造方法。
【0016】
(請求項6)
前記塩基性化合物が、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、第四級アンモニウムの水酸化物であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のチオール化合物誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、活性塩素系のアクリルゴムに配合したとき、スコーチ安定性に優れるとともに長期保存性に優れたチオール化合物のアルキルビニルエーテル付加体組成物を高収率で得ることができるチオール化合物誘導体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明に係るチオール化合物誘導体の製造方法は、酸性触媒と反応溶媒を用いてチオール化合物とビニル(チオ)エーテルの付加反応を行なった後、反応液を塩基性化合物水溶液で洗浄することを特徴とする。
【0020】
<チオール化合物>
本発明に使用されるチオール化合物は、モノチオール、ポリチオール、芳香族チオール、脂肪族チオール、飽和チオール、不飽和チオールなどいずれでも適用可能である。中でもトリアジンポリチオールが好ましく、トリアジンポリチオールとしては、下記一般式(1)で表されるトリアジンジチオール類や1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオールが好ましい化合物として例示でき、特に、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオールがアクリルゴムの加硫剤として優れている。
【0021】
【化1】

【0022】
一般式(1)中、R1としては、(a)水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、アラルキル基および−NH2から選ばれる基(好ましくは水素原子、アルキル基、フェニル基)、(b)一般式−NR23 で表されるジアルキルアミノ基、(c)一般式−NHR4 で表されるモノアミノ基、(d)一般式−OR5 で表される基、(e)一般式−SR6 で表される基から選ばれる基が挙げられる。
【0023】
アルキル基としては、炭素原子数が好ましくは1〜25、さらに好ましくは1〜18のアルキル基が挙げられ、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、セチル基、ステアリル基、1−メンチル基などが挙げられる。これらのうちでは、メチル基、エチル基が好ましい。
【0024】
アルケニル基としては、炭素原子数が好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜10のアルケニル基が挙げられ、たとえば、プロパンジエニル基、イソプロペニル基、3−メチル−2−ブテニル基、アリル基、2−メチルアリル基などが挙げられる。これらのうちでは、イソプロペニル基が好ましい。
【0025】
アルキニル基としては、炭素原子数が好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜10のアルキニル基が挙げられ、たとえば、プロパルギル基、1−フェニルプロパルギル基などが挙げられる。これらのうちでは、プロパルギル基が好ましい。
【0026】
フェニル基としては、フェニル基(C65−)、メトキシフェニル基、o-トリル基、p-ニトロフェニル基、2−ニトロフェニル基、3−ニトロフェニル基、p-フルオロフェニル基、p-メトキシフェニル基、p-アミノフェニル基、N-メチルアミノフェニル基、p-(ジメチルアミノ)フェニル基、4−アセチルフェニル基、p-ヨードフェニル基、p-クロロフェニル基、2−ピペリジノエチル基、2,4,6−トリクロロフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリブロモフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,4−ジブロモフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基などが挙げられる。これらのうちでは、フェニル基が好ましい。
【0027】
アラルキル基としては、炭素原子数が好ましくは1〜20、好ましくは1〜10のアラルキル基が挙げられ、たとえば、4−フェニルブチル基などが挙げられる。
【0028】
一般式−NR23 において、R2、R3はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、ベンジル基、アリル基、シクロアルキル基又はフルオロアルキル基を表わし、R2とR3とは互いに同一であっても異なってもよい。これらのうちでは、アルキル基、アルケニル基が好ましい。
【0029】
2、R3 において、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、アラルキル基は、R1で例示した基と同様の基が挙げられ、ベンジル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、シクロペンチル基などが挙げられる。フルオロアルキル基としては、テトラフルオロエチル基が挙げられる。
【0030】
一般式−NHR4 において、R4はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、ベンジル基、アリル基、シクロアルキル基、フルオロアルキル基、アニリノ基およびヒドロキシアニリノ基から選ばれる基を表わす。これらのうちでは、アルキル基が好ましい。
【0031】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、アラルキル基は、R1で例示した基と同様の基が挙げられ、ベンジル基、シクロアルキル基、フルオロアルキル基は、R2、R3 で例示した基と同様の基が挙げられる。アニリノ基としては、アニリノ基、p−メチルアニリノ基が挙げられる。ヒドロキシアニリノ基としては、o−,m−,p−ヒドロキシアニリン誘導体に由来する基が挙げられる。
【0032】
一般式−OR5 において、R5はアルキル基、フェニル基、アルケニル基、アラルキル基、ハロゲノフェニル基、ナフチル基およびシクロアルキル基から選ばれる基を表わす。これらのうちでは、アルキル基、フェニル基が好ましい。
【0033】
アルキル基、フェニル基、アルケニル基、アラルキル基は、R1で例示した基と同様の基が挙げられ、シクロアルキル基は、R2、R3 で例示した基と同様の基が挙げられる。
【0034】
ハロゲノフェニル基としては、p-ヨードフェニル基、p-クロロフェニル基、p-ブロモフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,4−ジブロモフェニル基、2,4−ジヨードフェニル基、2,4,6−トリクロロフェニル基、2,4,6−トリブロモフェニル基などが挙げられる。これらのうちでは、p−クロロフェニル基が好ましい。
【0035】
一般式−SR6 において、R6はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、アラルキル基、ハロゲノフェニル基、ナフチル基およびシクロアルキル基から選ばれる基を表わす。これらのうちでは、アルキル基が好ましい。
【0036】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、アラルキル基は、R1で例示した基と同様の基が挙げられ、ハロゲノフェニル基は、Rで例示した基と同様の基が挙げられ、シクロアルキル基は、R2、R3 で例示した基と同様の基が挙げられる。
【0037】
前記一般式(1)で表されるジチオール化合物としては、具体的には、たとえば、s−トリアジン−2,4ジチオール、6−メチル−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−フェニル−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−アミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−ジヘキシルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−[ビス(2−ヘキシル)アミノ]−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−ジエチルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−ジシクロヘキシルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−ジフェニルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−ジベンジルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−ジアリルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−ジドデシルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−ジブチルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−ジメチルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−フェニルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニリノ)−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−ステアリルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−エチルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−ヘキシルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−(cis-9-オクタデセニルアミノ)−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−シクロヘキシルアミノ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−(4−アニリノ−N−イソプロピルアニリノ)−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−メトキシ−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−(1−ナフチルオキシ)−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−(m−クロロフェノキシ)−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−(2,4−ジメチルフェノキシ)−s−トリアジン−2,4ジチオール、6−フェノキシ−s−トリアジン−2,4ジチオールなどが挙げられ、中でも6−フェニル−s−トリアジン−2,4ジチオールが好ましい。
【0038】
<ビニル(チオ)エーテル>
ビニル(チオ)エーテルとしては、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルチオエーテルなどが用いられる。
【0039】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられ、中でも、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、オクタデシル基、シクロヘキシル基などのアルキルビニルエーテルが材料の入手性から好適に使われる。
【0040】
アルキルビニルエーテルとしては、たとえば、メチル−1フェニルビニルエーテル、エチル−1フェニルビニルエーテル、メチル−1メチルビニルエーテル、エチル−1エチルビニルエーテル、エチル−1メチルビニルエーテル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、sec-ブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、ペンチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、ヘプチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、プロパジエニルビニルエーテル、イソプロペニルビニルエーテル、2−プロピニルビニルエーテル、3−ブチニルビニルエーテル、3−メチル−2−ブテニルビニルエーテル、アリルビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエタノールアミンモノビニルエーテル、1−クロルエチルビニルエーテル、2−クロルエチルビニルエーテル、アセトンオキシムビニルエーテル、2−メチルアリルビニルエーテル、3−フェニルプロパルギルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2−ブロモエチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、2−ブトキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールメチルビニルエーテル、2−アセトキシエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルビニルエーテル、アミノエチルビニルエーテル、3−ジメチルアミノプロピルビニルエーテル、トリメチルシロキシエチルビニルエーテル、トリメチルシリルビニルエーテル、トリエチルシリルビニルエーテル、1−メンチルビニルエーテル、2−メトキシフェニルビニルエーテル、o−トリルビニルエーテル、p−ニトロフェニルビニルエーテル、2−ナフチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、p−フルオロフェニルビニルエーテル、p−メトキシフェニルビニルエーテル、p−アミノフェニルビニルエーテル、2,4,6−トリクロロフェニルビニルエーテル、2,4,6−トリメチルフェニルビニルエーテル、2,4−ジクロロフェニルビニルエーテル、2,4,6−トリブロモフェニルビニルエーテル、N-メチルアミノフェニルビニルエーテル、p−(ジメチルアミノ)フェニルビニルエーテル、4−アセチルフェニルビニルエーテル、2−ニトロフェニルビニルエーテル、3−ニトロフェニルビニルエーテル、p−ヨードフェニルビニルエーテル、p−クロロフェニルビニルエーテル、1−フェニルエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、2−ピペリジノエチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0041】
アルキルビニルチオエーテルとしては、前記のアルキルビニルエーテルに対応するアルキルビニルチオエーテル等が挙げられる。具体的には、たとえば、3−(トリメチルシリル)プロピルビニルチオエーテル、2−ハイドロキシエチルビニルチオエーテル、2−(N-モルフォリノ)エチル−S−ビニルチオエーテル、2−(N−β−ハイドロキシエチル)アミノエチル−S−ビニルチオエーテル、2−アミノエチルビニルチオエーテル、p−クロロフェニルチオエーテル、フェニルビニルチオエーテル、ジビニルチオエーテルなどが挙げられる。
【0042】
なお、本発明では、環状モノビニルエーテルや多価ビニルエーテル類を使用することもできる。環状モノビニルエーテルとしては、具体的には、たとえば、2,3−ジヒロドフラン、3,4−ジヒドロフラン、2,3−ジヒドロ−2H−ピラン、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン、3,4−ジヒドロ−2−メトキシ−2H−ピラン、3,4−ジヒドロ−4,4−ジメチル−2H−ピラン−2−オン、3,4−ジヒドロ−2−エトキシ−2H−ピランなどが挙げられる。また多価ビニルエーテル類としては、ジビニルエーテル、トリビニルエーテル、テトラビニルエーテルなどが挙げられる。ジビニルエーテルとしては、たとえば、ジビニルエーテル、ジビニルフォルマール、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリエタノールアミンジビニルエーテル、1,3−プロパンジオールジビニルエーテル、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、4,4’−ジハイドロキシアゾベンゼンジビニルエーテル、ハイドロキノンジビニルエーテル、ビスフェノールAジビニルエーテルなどが挙げられる。トリビニルエーテルとしては、たとえば、グリセロールトリビニルエーテルなどが挙げられる。テトラビニルエーテルとしては、たとえば、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテルなどが挙げられる。
【0043】
<酸性触媒>
酸性触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、p−トルエンスルホン酸、酸性リン酸モノエステル、酸性リン酸ジエステル等の有機酸が挙げられ、これらの1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
中でも酸性リン酸モノエステル、酸性リン酸ジエステルが、ビニルエーテルの重合が少ないこと及び反応系が均一になりやすいことから好ましく使用できる。
【0045】
酸性触媒の使用量は、前記チオール化合物に対して、0.05重量%〜5.0重量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.5重量%〜1.0重量%の範囲である。
【0046】
<反応溶媒>
反応溶媒としては、有機溶剤を使用できる。有機溶剤としては、ヘキサン、トルエン、キシレン、ベンゼン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)等の有機溶剤が挙げられ、これらの溶剤の1種を使用してもよいし、混合して使用することもできる。本発明では、ケトン系の溶剤を好ましく使用でき、これらの中でも、アセトン及び又はメチルエチルケトンがより好ましい。
【0047】
<反応条件>
本発明のチオール化合物誘導体の製造方法では、前記チオール化合物と、ビニル(チオ)エーテルとを、反応溶媒や酸性触媒の存在下で反応させる。
【0048】
本発明の製造方法により得られるチオール化合物誘導体は、原料となるチオール化合物のチオール基の水素原子の全部又は一部がビニル(チオ)エーテルで置換された化合物であり、チオール化合物とビニル(チオ)エーテルとの配合比率をコントロールすることにより、所望のチオール化合物誘導体を得ることができる。
【0049】
チオール化合物とビニル(チオ)エーテルの反応比率は、当量比で、1:1.2〜1:2の範囲が好ましく、さらには、1:1.25〜1:1.5の範囲がより好ましい。1:1.2未満では反応が遅いおそれがあり、1:2を越えるとビニル(チオ)エーテルが無駄になりやすい。
【0050】
反応温度は、0℃〜150℃の範囲が好ましく、さらには40℃〜80℃の範囲がより好ましい。反応温度が0℃未満では反応速度が遅くなりやすく、150℃を越えるとビニル(チオ)エーテルが重合しやすくなる不都合がある。
【0051】
反応時間は、温度、使用する反応溶媒、触媒の種類や量などにもよるが、1時間〜100時間程度が適当である。1時間よりも短いと反応が不完全になりやすく、収率が低下し、50時間よりも長くなるとビニル(チオ)エーテルが重合しやすくなる不都合がある。
【0052】
<本発明の洗浄処理>
本発明では、反応終了後、反応液を塩基性化合物水溶液で洗浄する。すなわち塩基性化合物水溶液で洗浄することにより、未反応のチオール化合物および酸性触媒を除いて、その後、反応溶媒(溶剤)を留去することにより付加体を得る。
【0053】
塩基性化合物水溶液で洗浄すると、未反応のチオール化合物や酸性触媒を除去できるとともに、チオール化合物のアルキルビニルエーテル付加体が塩基性では加水分解されないので付加体の長期保存安定性に優れる効果を発揮し、更に付加していないチオール基が少なくなるためゴム組成物のスコーチタイムが良好になる効果がある。
【0054】
塩基性化合物水溶液の濃度は、0.1〜0.5モル/リットルの範囲が好ましく、0.1モル/リットルよりも濃度の低い水溶液を使用すると水層との分離が悪くなり、収率が低下することがある。また0.5モル/リットルを越えると取扱い上の危険性が大きくなることがある。
【0055】
本発明では、反応液を塩基性化合物水溶液で洗浄した後、前記反応によって生成する付加体に塩基性化合物を残留させることが好ましい。
【0056】
塩基性化合物を残留させると、チオール化合物のアルキルビニルエーテル付加体の保存中において、当該塩基性物質が加水分解安定剤になるため、保存安定性に優れる効果を発揮する。
【0057】
反応によって生成する付加体に塩基性化合物を残留させる手法は、(1)水洗工程を行なわないでそのまま反応溶媒を留去する手法、(2)反応溶媒を留去する前に少量の塩基性化合物の水溶液を添加してから反応溶媒を留去する手法、又は(3)反応溶媒を留去して付加体生成物を単離した後、塩基性物質を添加する手法の何れでもよい。
【0058】
塩基性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、第四級アンモニウムの水酸化物などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用することができる。具体的には炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラブチルアンモニウム水酸化物などが挙げられる。これらのうち、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが好適に使用される。
【0059】
本発明において、塩基性化合物が残留していることを確認する手法は、目視により溶解していない塩基性固体物質を確認する手法のほか、溶解していない塩基性固体物質を目視で確認できないときは、本発明の生成物(反応生成付加体)を水洗したときの洗浄水のpH測定、酸による中和滴定等、塩基性を特定できる手法であれば特に制限なく使用できる。
【0060】
塩基性化合物の残留濃度は、特に制限はないが、本発明の生成物を洗浄したときの水洗水のpHが7を越えることが必要で、例えば、10倍重量の水で水洗したときの水洗水のpHは8以上が好ましく、9以上であればさらに好ましい。一方、pHの上限はなく、目視により塩基性固体物質が確認できる量であってもよい。
【0061】
<チオール化合物誘導体の用途>
本発明の製造方法により得られるチオール化合物誘導体は、硬化性組成物の架橋剤として有用である。本発明に係るチオール化合物誘導体は、チオール基(−SH)がビニル(チオ)エーテルに由来する基により保護され、あるいはビニルエーテルに由来する基により架橋されるかたちで保護されているため、たとえば、塩素含有アクリルゴム等の加硫剤として用いる場合に、保存安定性がよく、たとえば、加工時あるいはその後の保存時のゲル化を抑制することができる。
【0062】
また、塩素含有アクリルゴム等の加硫成形時あるいは架橋形成時に、ビニルエーテルに由来する保護基を加熱等により脱離させ、−SH基を有するチオール化合物を容易に再生させることができるので、本来の反応性を容易に復活させて、塩素含有アクリルゴム、エポキシ基を含有する樹脂等の加硫あるいは架橋を有効に行わせ、諸物性に優れた架橋物を得ることができる。
【0063】
本発明に係るチオール化合物誘導体は、チオール基を再生した後、二重結合への付加、エポキシ環への付加、有機性塩素の置換に対して用いることができる。
【0064】
本発明のチオール化合物誘導体は、単独でまたは促進剤、脱ハロゲン剤などと併用して用いることができる。前記二重結合を有するゴム、樹脂としては、たとえば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、不飽和ポリエステル樹脂、二重結合を導入したアクリルゴムなどが挙げられる。
【0065】
エポキシ基を有するゴムあるいは樹脂としては、エポキシ樹脂オリゴマー、エポキシ基を含有するアクリルゴムなどが挙げられる。有機性塩素を含有するゴムあるいは樹脂としては、アクリルゴム、クロロプレンゴム(CR)、エピクロロヒドリンゴム(CO、ECO)、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。
【0066】
本発明に係るチオール化合物誘導体は、これらのゴムあるいは樹脂を、1種単独でまたは複数をブレンドあるいは多層構造にしたものに混合させて用いることができ、このような本発明に係るチオール化合物誘導体を含有するゴムあるいは樹脂は、共架橋、共加硫、金属と加硫接着された複合材料として成型するのに有用である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明の効果を例証する。
【0068】
参考例
従来、付加体生成物中の未反応トリアジントリチオール化合物をIR吸収スペクトルでSHおよびケト型構造のC=Sを定量していたが、さらに測定精度を上げるため、滴定法を検討した。トリアジントリチオール(新興化学工業製「ノクセラーTCA」)の単独品を使用して、中和滴定で濃度(純度)の評価を行なった。滴定装置は、「AT−420WIN」(京都電子工業製電位差自動滴定装置)を用い、サンプルは、「ノクセラーTCA」0.1070gとし、溶媒として、メタノール:トルエン=3:7(体積比)66.7gを用い、滴定液は0.1N KOHエタノール溶液を用いた。その結果、滴定曲線は、滴定量に対して、pHが3回跳躍する曲線が得られた。
【0069】
(評価)
跳躍する部分の変曲点のpHを読み取った。又、その点での滴定量とサンプル量から酸価を計算した。また跳躍点では、3個のチオールのうち1個ずつ中和されたものとして、跳躍点間の酸価から製品純度を計算した。
【0070】
その結果、第二跳躍点の酸価−第一跳躍点の酸価から、純度を計算すると98%となり、中和滴定で純度が評価できることを確認した。
【0071】
一方、特開平3−141269号に、跳躍点とその構造が記載されており、pHはかなりに近似していた。又、大内新興化学でのHPLCから求めた同製品の純度は97%とされている。
【0072】
以上の結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
以上の結果から、付加体生成物中の未反応トリアジントリチオールの定量を中和滴定で行ない、pHが6.82から9.07までの酸価の差が、トリアジントリチオールのSH1個に相当するものとして、定量することとした.
【0075】
実施例1
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えた500mL四つ口フラスコに、ノクセラーTCA(大内新興化学工業製トリアジントリチオール)26.55g(0.15モル)、ブチルビニルエーテル(試薬)67.5g(0.675モル)、アセトン150g、DP−4(第八化学工業所製ジブチルアシッドフォスフェート)0.3gを加え、57℃で14時間反応した。
【0076】
反応液を室温まで冷却した後、0.5モル/リットルのKOH水溶液を400mL添加した。
【0077】
水層を廃棄し、トルエン400mLを加え、さらに0.5モル/リットルのKOH水溶液400mLを加え、トルエン層を分離した。
【0078】
トルエン及び水をエバボレーターで留去して、淡黄色透明液体を得た。
【0079】
収量は、70.2gで、トリアジントリチオール1モルに対してブチルビニルエーテルが3モル付加した構造(分子量477 理論収量71.55)として、収率は、トリアジントリチオール基準で98.1%であった。
【0080】
参考例のように中和滴定を行ない、pH6.82からpH9.07までの滴定量から酸価を計算し、原料であるトリアジントリチオールの混在率を評価したところ、0.36%であった。なお、純度の算定方法として、IR吸収スペクトルでは、算定方法として感度が不足しているが、参考例のような滴定法によれば、さらに高感度での定量ができるので、それに従った。
【0081】
図1に原料であるトリアジントリチオールのIR吸収スペクトルを示す。原料のIR吸収スペクトルは、日本分光製「FT/IR 480Plus」を使用し、KBr錠剤法で測定した。同図より、3150cm-1、1580cm-1にS−HおよびC=Sに基づく吸収が認められる。
【0082】
また図2に生成物のIR吸収スペクトルを示す。生成物のIR吸収スペクトルは、日本分光製「FT/IR 480Plus」を使用し、KRS−5の窓板に生成物(液体)を塗布して測定した。図2では、S−HおよびC=Sに基づく吸収は消失していることがわかる。
【0083】
更に図3に生成物の1H-NMRスペクトルを示す。1H-NMRは、日本電子製「JNM−LA300 FT−NMR」を使用して測定した。
【0084】
化学シフトは、下記の構造であることを示している。
【0085】
【化2】

【0086】
比較例1(塩基性化合物による洗浄を行っていない例)
実施例1と同一の原料を使用し、同一の反応温度、時間で反応した。室温に冷却して、TA−30(松本製薬工業製テトラオクチルチタネート)4gを入れ、70℃で1時間反応した。エバポレーターで揮発成分を留去し、淡黄色液体を得た。
【0087】
収量は74gで、収率はトリアジントリチオールに対して、103%であった。
【0088】
また参考例のように中和滴定を行ない、pH6.82からpH9.07までの滴定量から酸価を計算し、原料であるトリアジントリチオールの混在率を評価したところ2.0%であった(純度98.0%)。
【0089】
図4に生成物のIR吸収スペクトルを示す。生成物のIR吸収スペクトルの測定は実施例1と同様に行った。
【0090】
実施例1の図2と同様に、3150cm-1、1580cm-1にS−HおよびC=Sに基づく吸収は消失していた。
【0091】
(評価)
1.収率性の評価
実施例1の方法によれば、不純物0.36%(純度99.64%)で、収率はトリアジントリチオール基準で98.1%であった。比較例1では不純物2.0%(純度98%)であり、収率はトリアジントリチオールに対して103%であった。
【0092】
従って、収率は実施例1と比較例1は共に高いが、実施例1では比較例1に比べ高純度の生成物が得られるので、実施例1の方が、高純度の生成物を高収率で得ることができることがわかる。
【0093】
2.保存性の評価
実施例1及び比較例1の生成物1gをそれぞれ30mLのスクリュー管に入れ、開放で、23℃、50%の部屋に放置した。
【0094】
1カ月後、残留トリアジンチオールの量を評価したところ、実施例1の生成物では、0.4%、比較例1の生成物では10%であった。
【0095】
従って、実施例1の生成物は保存性に優れていることがわかる。
【0096】
3.ゴム組成物のスコーチタイムの評価
下記表2に示すような配合処方で、活性塩素系アクリルゴム組成物を得た。得られた組成物についてJIS K6300−1:2001に従いスコーチタイム(最低値から一定値増加するまでの予熱時間も含めた時間で、Lロータを用い5M増加する時間をt5として表す)を求めた。
【0097】
その結果を表2に示す。
【0098】
【表2】

【0099】
上記表2より、実施例の生成物は、活性塩素系アクリルゴムに適用したときスコーチタイムを長くすることができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】トリアジントリチオールのIR吸収スペクトル
【図2】実施例1のIR吸収スペクトル
【図3】実施例1の1H-NMRスペクトル
【図4】比較例1のIR吸収スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性触媒と反応溶媒を用いてチオール化合物とビニル(チオ)エーテルの付加反応を行なった後、反応液を塩基性化合物水溶液で洗浄することを特徴とするチオール化合物誘導体の製造方法。
【請求項2】
反応液を塩基性化合物水溶液で洗浄した後、前記反応によって生成する付加体に塩基性化合物を残留させることを特徴とする請求項1記載のチオール化合物誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記反応によって生成する付加体に塩基性化合物を残留させる手法が、(1)水洗工程を行なわないでそのまま反応溶媒を留去する手法、(2)反応溶媒を留去する前に少量の塩基性化合物の水溶液を添加してから反応溶媒を留去する手法、又は(3)反応溶媒を留去して付加体生成物を単離した後、塩基性物質を添加する手法の何れかであることを特徴とする請求項1又は2記載のチオール化合物誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記チオール化合物が、トリアジントリチオールであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のチオール化合物誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記ビニル(チオ)エーテルが、モノアルキルビニル(チオ)エーテルであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のチオール化合物誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記塩基性化合物が、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、第四級アンモニウムの水酸化物であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のチオール化合物誘導体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−169133(P2008−169133A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2869(P2007−2869)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)