説明

チタン製の歯科用インプラントアバットメント

【課題】欠如歯部の失われた口腔機能を回復するための治療方法である歯科用インプラント治療において、顎骨に埋入されて人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に装着され歯肉を貫通し上部構造体の土台となるチタン製の歯科用インプラントアバットメントの歯茎部分が歯肉を通して透けて見えるような場合であっても審美性を著しく損なうことがないチタン製の歯科用インプラントアバットメントを提供する。
【解決手段】顎骨に埋入されて人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に装着され歯肉を貫通し上部構造体の土台となるチタン製の歯科用インプラントアバットメントの表面を、L*a*b*表色系で示すところのL*,a*及びb*がL*が40〜52,a*が21〜40,b*が−20〜10の範囲で示される色に着色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠如歯部の失われた口腔機能を回復するための治療方法である歯科用インプラント治療において、歯科用インプラントアバットメントの歯茎部分が歯肉を通して透けて見えるような場合であっても審美性を著しく損なうことがないチタン製の歯科用インプラントアバットメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
欠如歯部の失われた口腔機能を回復するための治療方法として、欠如歯部の顎骨内に埋入して顎骨と骨結合した人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に歯科用補綴物を固定する歯科用インプラント治療が普及している。この歯科用インプラント治療において、従来は歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に歯肉を貫通する歯科用インプラントアバットメントを配置し、この歯科用インプラントアバットメントの口腔内側に歯科用補綴物を配置する構造が一般的であった(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
しかしこのような歯科用インプラント治療において歯肉厚が薄い患者の場合には、歯科用インプラント治療を施した後に、歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に配置されている歯科用インプラントアバットメントが歯肉を通して透けて見えてしまうことがある。
【0004】
従来の歯科用インプラントアバットメントは、生体親和性等を考慮してチタン又はチタン合金で形成されているため、歯科用インプラントアバットメントの口腔内側部分が歯肉を通して透けて見えると金属色のチタン又はチタン合金によって黒ずんで見えてしまい著しく審美性を損なうという欠点があった。
【0005】
また近年、歯科用CAD/CAM技術の進歩により、歯科用インプラントアバットメントをジルコニア製のブロックから削り出して製作する手法が普及してきたが、審美性には優れるもののセラミックを主成分とする脆性材料であり強度的に劣るため、やはり歯科用インプラントアバットメントの長期的信頼性の面から破折といった危険性を生じうるという欠点があった。
【0006】
この問題を解決するために、本出願人は歯肉に隠れる部分の色を赤系の色彩とした歯科用インプラントアバットメントを提案した(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、赤系色彩の歯科用インプラントアバットメントは、歯肉を通して見た場合に不自然な暗い赤色あるいは黒色を示してしまうことが多く、審美的に未だ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−80003号公報
【特許文献2】特開2003−325552号公報
【特許文献3】米国特許明細書5674072号公報
【特許文献4】特開2009−082171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、歯肉縁下部分が歯肉を通して透けてしまっても、従来のチタン製歯科用インプラントアバットメントよりも審美性を損なうことがないチタン製の歯科用インプラントアバットメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者(等)は前記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、チタン製の歯科用インプラントアバットメントの色調を、L*a*b*表色系で示すところのL*が40〜44,a*が21〜40,b*が−20〜10の範囲で示される色とすることによって、歯茎部が歯肉を通して透けて見えても、インプラントアバットメントからの反射光が歯肉を鮮明化することにより、従来のチタン製インプラントアバットメントと比較して、審美性を著しく損なわないことを究明し、本発明を完成したのである。
【0010】
本発明は、顎骨に埋入されて人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に装着され歯肉を貫通し上部構造体の土台となるチタン製の歯科用インプラントアバットメントであって、L*a*b*表色系で示すところのL*,a*及びb*が所定の範囲で示される色に表面が着色されているので、口腔内に入射した光のアバットメントからの反射光が歯肉を鮮明化することを特徴とするチタン製の歯科用インプラントアバットメントである。
【0011】
即ち、上記L*a*b*表色系で示すところのL*,a*及びb*の範囲とは、L*が40〜44,a*が21〜40,b*が−20〜10の範囲で示される色である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るチタン製の歯科用インプラントアバットメントは、歯肉縁下部分が歯肉を通して透けて見えても、従来のチタン製歯科用アバットメントよりも審美性を損なうことがない優れたチタン製の歯科用インプラント用アバットメントである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るチタン製の歯科用インプラントアバットメントは、その表面の色調がL*a*b*表色系表示で示すところのL*が40〜44,a*が21〜40,b*が−20〜10の範囲で示される色であることを特徴とする。
【0014】
即ち、L*a*b*表色系表示は、色調を、明度(明るさ)を示すL*と、色相(赤と緑の度合い)を示すa*と、彩度(黄と青の度合い)を示すb*という3つの要素に解析し、そして色調をL*,a*,b*という3つの数値で表現するものであり、明度(明るさ)を示すL*は40〜44であることが必要である。これは、L*が40未満ではアバットメント自身が暗すぎるため、その反射光が当たっても歯肉が黒く見えてしまうから好ましくなく、44を超えると逆に明るすぎて歯肉が不自然に見えてしまうから好ましくない。中でも、L*が41〜43.5であることがより好ましい。
【0015】
また色相(赤と緑の度合い)を示すa*は21〜40であることが必要である。これは、a*が21未満では緑が強すぎ、その結果反射光が当たっても歯肉が黒く見えてしまうから好ましくなく、40を超えると赤みが強すぎるため、かえって歯肉が不自然に見えてしまうから好ましくない。中でも、a*が21〜37であることがより好ましい。
【0016】
そして彩度(黄と青の度合い)を示すb*は−20〜10であることが必要である。これは、b*が−20未満では黄色みが少なく本発明の目的とする効果が得られにくくなり、10を超えると黄色みが強いため、反射光が歯肉へ照射されてもかえって不健康に見えてしまうから好ましくない。中でも、b*が−16〜10であることがより好ましい。
【0017】
本発明に係るチタン製の歯科用インプラントアバットメントにおけるチタン表面の着色方法は従来から知られている陽極酸化処理や窒化処理により着色する方法等がある。なお、これらのチタン製の歯科用インプラントアバットメント表面の着色方法による着色層は薄いので、着色処理後にその表面を加工することは好ましくない。
【0018】
以下、図面により本発明に係るチタン製の歯科用インプラントアバットメントについて詳細に説明する。
【0019】
図面中、1は欠如歯部の失われた口腔機能を回復するための歯科用インプラント治療において、欠如歯部の顎骨に埋入され顎骨と骨結合して人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーであり、前記特許文献1に示されているような略円柱状を成しているものや、前記特許文献2に示されているような略円柱状を成しておりその外周にオネジが螺設されているものがあり、その中央の軸方向にメネジ1aが螺設されている。そしてその口腔内側には後述する本発明に係るチタン製の歯科用インプラントアバットメント2を回転しないように係合させるための係合部1bが設けられている。この係合部1bとしては、図1及び図3に示すように歯科用インプラントアバットメント2の歯科用インプラントフィクスチャー1側に設けられている係合部2aが六角形などの角柱状である場合にはその横断面が角柱状に合致した形状の凹部であり、図5に示すように歯科用インプラントアバットメント2の歯科用インプラントフィクスチャー1側に設けられている係合部2aがその横断面が六角形などの角状の凹部である場合にはその角状に合致した形状の柱状であり、また図6に示すように歯科用インプラントアバットメント2の歯科用インプラントフィクスチャー1側に設けられている係合部2aが円柱状の外周に所定間隔で凸条が設けられている形状である場合にはその横断面が円形の外周に所定間隔で凹条が設けられている形状である。そして、このような係合部1bが柱状である場合にはその係合部1bにメネジ1aに連通する貫通穴が形成されている。
【0020】
2は顎骨に埋入されて人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側に装着され、歯肉を貫通し上部構造体の土台となる本発明に係るチタン製の歯科用インプラントアバットメントであり、その表面の色調は、L*a*b*表色系表示で示すところのL*が40〜44,a*が21〜40,b*が−20〜10の範囲で示される色である。更に詳しくは、L*a*b*表色系表示で示すところのL*が40〜44,a*が21〜40,b*が−20〜10の範囲で示される色となるように、歯科用インプラントアバットメント表面が陽極酸化処理や窒化処理などの着色方法などで着色されている。
【0021】
この本発明に係るチタン製の歯科用インプラントアバットメント2としては、その口腔内側と反対側に歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側に設けられている係合部1bに係合するための、図1及び図3に示すような六角形などの角柱状や、図5に示すような横断面が六角形などの角状の凹部や、図6に示すような円柱状の外周に所定間隔で凸条が設けられている形状の係合部2aが設けられており、またその口腔内側には図1,図2及び特許文献1に示すような歯科用インプラントアバットメント2とは別部材から成る補綴物形成部材を回転しないように係合する口腔内側係合部2bが設けられている態様や、図3,図4,図5,図6及び特許文献2に示すような歯肉を貫通する部位の口腔内側に略裁頭円錐形状の外面形状を有する補綴物固定部位2cが一体を成して形成されている態様や、図7に示す如く形成する歯科用補綴物の形状に即した形状の補綴物固定部位2cが一体を成して形成されている態様のものがあり、また歯肉に隠れる部分2dとしては、歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側にその係合部2aを係合させて装着された際に、図1,図2や特許文献1及び特許文献2のように歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側外面から口腔内側に拡がるような形状のものや、図4や特許文献3のように歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側端面の外周より内側から口腔内側に拡がるような形状のものがある。そして、歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側面から口腔内側に拡がる口腔内側端部は平面状を成しているものや、図7に示すような歯間の乳頭部を考慮して歯間の乳頭部側が口腔内側により突出するようなスキャロップ構造のものがある。
【実施例】
【0022】
チタンブロック体から図1に示す形状の歯科用インプラントアバットメントを切削加工機により作製し、全体にそれぞれ歯科において一般的と考えられる研磨作業を実施した後、表1に示す電圧をかけて電解研磨及び陽極酸化処理を実施することによりチタン製の歯科用インプラントアバットメントを作製した(実施例1〜3)。
【0023】
また、前記処理のうち異なる電圧及び処理時間により作製したチタン製の歯科用インプラントアバットメントを比較例1及び2、処理をしないで作製したチタン製の歯科用インプラントアバットメントを比較例3とした。
【0024】
これらのチタン製の歯科用インプラントアバットメントのL*a*b*表色系表示でのL*,a*及びb*をJIS Z8722, 2009に準拠した測定方法及び分光測光器(商品名:CM−700d、コニカミノルタ社製)にて測定した結果を表1に示す。
また、実施例1〜3及び比較例1,2のチタン製の歯科用インプラントアバットメントの歯肉に隠れる部分に、患者の歯肉を模した歯科用硬質レジン(商品名:グラディア ガム、ジーシー社製)を付着させ重合させて試験片とした。この試験片をヒトの口腔内で歯科用硬質レジン側から目視にて観察して、下記の測定結果に基づいて表1に効果として示す。
測定結果
○:口腔内に入射した光のアバットメントからの反射光が歯肉を鮮明化した
△:口腔内に入射した光のアバットメントからの反射光の歯肉の鮮明化が低い
×:アバットメントの金属色がかなり目立つ
【0025】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るチタン製の歯科用インプラントアバットメントの1実施例の斜視図である。
【図2】図1に示す歯科用インプラントアバットメントを使用した歯科用インプラント治療完了後の状態を示す縦断面説明図である。
【図3】本発明に係るチタン製の歯科用インプラントアバットメントの他の実施例の斜視図である。
【図4】図3に示す歯科用インプラントアバットメントを使用した歯科用インプラント治療完了後の状態を示す縦断面説明図である。
【図5】本発明に係るチタン製の歯科用インプラントアバットメントの更に他の実施例の斜視図である。
【図6】本発明に係るチタン製の歯科用インプラントアバットメントの更に他の実施例の斜視図である。
【図7】本発明に係るチタン製の歯科用インプラントアバットメントの更に他の実施例の斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 歯科用インプラントフィクスチャー
1a メネジ
1b 係合部
2 本発明に係る歯科用インプラントアバットメント
2a 係合部
2b 口腔内側係合部
2c 補綴物固定部位
2d 歯肉に隠れる部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎骨に埋入されて人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に装着され歯肉を貫通し上部構造体の土台となるチタン製の歯科用インプラントアバットメントであって、その表面の色調がL*a*b*表色系で示すところのL*が40〜44,a*が21〜40,b*が−20〜10の範囲で示されることを特徴とするチタン製の歯科用インプラントアバットメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−170723(P2012−170723A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36988(P2011−36988)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】