説明

チップ溶液収納容器

【課題】インキュベータ環境内での分注作業を容易にできるようにする。
【解決手段】チップ溶液収納容器42は、容器部42Aと蓋部42Bから構成され、容器部42Aには、未使用のディスペンサーチップ51がセットされる未使用ディスペンサーチップエリア42A1、使用済みのディスペンサーチップ51が廃棄される使用済みディスペンサーチップエリア42A2、これから使用する試薬等の溶液がセットされる溶液エリア42A3、および使用済みの廃液が流される廃液エリア42A4の4つのエリアが設けられている。本発明は、試料を入れた培養容器を内部に格納して、所定の環境条件で前記試料を培養する培養部と、前記培養容器に分注する分注部とを備える培養装置で用いられるチップ溶液収納容器に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ溶液収納容器に関し、インキュベータ環境内での分注作業を容易にできるようにしたチップ溶液収納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
インキュベータ環境内において、試薬添加や培地交換等の分注作業を行う技術としては、例えば、特許文献1が知られている。特許文献1では、ディスペンサーチップの回収と新品差し替えができるように、チップ回収室(図10のチップ回収部57)とチップ交換室(図9のチップ供給装置50)とを培養装置内に専用に設けている。
【特許文献1】特開2004−350641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような専用の部屋を用意することは、ユーザが培養装置を定期的にメンテナンスしなければならず、すなわち、使用済みディスペンサーチップを回収室から取り除いたり、新品のディスペンサーチップを交換室に装填したりする作業が必要となる。
【0004】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、インキュベータ環境内で行われる試薬添加や培地交換等の分注作業を容易に行うことができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のチップ溶液収容容器は、複数の区画が形成された容器本体部を有し、前記容器本体部は、前記容器本体部の1つの前記区画に形成された、未使用のディスペンサーチップを収容する収容領域と、前記容器本体部の別の前記区画に形成された、使用済みディスペンサーチップを回収する回収領域とから少なくとも構成され、分注作業に使用される前記ディスペンサーチップを収容、回収する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、インキュベータ環境内での分注作業を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0008】
図1は、本発明を適用した細胞培養装置の全体構成を示す正面図である。
【0009】
図1の例では、細胞培養装置1は、インキュベータ部11と、その下側に配置される架台部12から構成される。インキュベータ部11の内部には、例えば、ヒータが用いられる温度調節装置等からなる温度制御機構、霧を噴出する噴霧装置等からなる湿度制御機構、外部の二酸化炭素ボンベに接続されるガス導入部等からなるガス制御機構、内部空間の細胞培養環境を検出する環境センサ等(いずれも図示せず)が設けられている。また、インキュベータ部11の内側は断熱材で覆われている。これにより、インキュベータ部11の中は、細胞の培養中、細胞の培養環境を維持するために密封され、例えば空気を循環させることにより一定の温度に保たれることで、温度37℃、湿度90%、二酸化炭素濃度5%等に維持される。
【0010】
また、インキュベータ部11が載せられた架台部12の内部には、図1に示すように、細胞培養装置1の各部を制御するコントロールボックス13やパーソナルコンピュータ14等が収納される。
【0011】
インキュベータ部11の内部には、ストッカ部21、搬送部22、蓋開閉部23、分注部24Aおよび24B、観察部(顕微鏡部)25、並びにキャリア部26が設置される。
【0012】
ここで、図2の細胞培養装置1の上面図を参照して、インキュベータ部11の内部に設置される各機構の配置と構成について説明する。
【0013】
ストッカ部21は、トレイ31に載せられた培養容器41およびチップ溶液収納容器42を保管する場所である。すなわち、ストッカ部21には、培養容器41やチップ溶液収納容器42をトレイ31ごと収容可能である。
【0014】
ここで、トレイ31の詳細な構成について図示すると、図3のようになる。すなわち、図3のトレイ31の上面図に示すように、トレイ31は、培養容器41またはチップ溶液収納容器42を載置可能な形状からなり、さらに、固定ブロック31A1乃至31A4並びにバネ31B1および31B2(以下、単に、固定ブロック31A、バネ31Bという)を有している。図3の例では、固定ブロック31Aおよびバネ31Bによって、載置された培養容器41を固定している。また、トレイ31には、耳部31C1乃至31C4(以下、単に、耳部31Cという)が設けられており、搬送部22は、トレイ31の耳部31Cを載置することで、トレイ31を搬送する。
【0015】
また、図3の例では、培養容器41をトレイ31に載置する例を図示しているが、トレイ31には、トレイ31に載置可能な形状を有しているチップ溶液収納容器42も載置することができる。例えば、チップ溶液収納容器42は、培養容器41と同一または類似の形状を有している。
【0016】
ここで、チップ溶液収納容器42の詳細な構成について図示すると、図4のようになる。すなわち、図4のチップ溶液収納容器42の3面図(正面図、上面図、側面図)に示すように、チップ溶液収納容器42は、容器部42Aと蓋部42Bから構成され、チップ溶液収納容器42を使用しない場合には、蓋部42Bは容器部42Aに被せられた状態となっており、チップ溶液収納容器42を使用するときに、容器部42Aから蓋部42Bを外すことになる。
【0017】
容器部42Aには、上面図に示すように、未使用ディスペンサーチップエリア42A1、使用済みディスペンサーチップエリア42A2、溶液エリア42A3、および廃液エリア42A4の4つのエリアがある。
【0018】
未使用ディスペンサーチップエリア42A1には、クリーンベンチ等により搬送部22の分注器22L1にセッティングするための未使用のディスペンサーチップ51がセットされる。図4の例の場合には最大で12個のディスペンサーチップ51をセット可能であるが、その数は12個に限定されるものではない。なお、未使用のディスペンサーチップ51を分注器22L1に取り付ける方法の詳細については後述する。
【0019】
使用済みディスペンサーチップエリア42A2には、穴部52を利用して使用済みのディスペンサーチップ51が廃棄される。図4の例では、12個の穴部52が設けられているが、その数は12個に限定されるものではない。なお、使用済みディスペンサーチップ51の廃棄方法の詳細については後述する。
【0020】
また、溶液エリア42A3には、これから使用する試薬等の溶液がセットされ、分注器22L1により吸引口53から吸引される。なお、図4の例では、4種類の溶液をセットできる形態を示したが、それに限らず、使用する試薬の量と種類に応じて、その数量を変更してもよい。また、使用する試薬は必要に応じて事前に使用温度に加温してから装置内部に搬送してもよいが、加温する時間をあらかじめ見込んで装置内に入れておくことも可能である。
【0021】
廃液エリア42A4には、使用済みの廃液が流される。具体的には、廃液エリア42A4においては、分注器22L1の先端が廃液口54に挿入されるので、そこから出された廃液を貯めることになる。
【0022】
以上のように、チップ溶液収納容器42には、分注作業を実現するために必要となる各種の要素を収納するための各エリアが設けられており、搬送部22は、そのチップ溶液収納容器42をトレイ31に載せてインキュベータ部11内の各機構に搬送する。
【0023】
なお、図4の例では、未使用ディスペンサーチップエリア42A1乃至廃液エリア42A4の4つのエリアは、均等に4分割された容器部42Aのそれぞれの領域に相当するが、それらの領域は均等に分割されている必要はなく、あるエリアの領域を広げたり、狭めたりすることができる。例えば、未使用ディスペンサーチップエリア42A1の使用頻度が高い場合にはその領域を広げて、その分他のエリアの領域を狭くすることが可能である。
【0024】
また、図4の例では、容器部42Aは、未使用ディスペンサーチップエリア42A1乃至廃液エリア42A4の4つのエリアを有しているとして説明したが、例えば、未使用ディスペンサーチップエリア42A1および使用済みディスペンサーチップエリア42A2の2つのエリアだけを有する構成や、溶液エリア42A3および廃液エリア42A4の2つのエリアだけを有する構成等としてもよい。要は、容器部42Aは、インキュベータ部11の内部で行われる分注作業の作業形態に合わせて、未使用ディスペンサーチップエリア42A1乃至廃液エリア42A4の4つのエリアのうちのいずれかのエリアを有していればよい。また、本実施の形態においては、ディスペンサーチップは、ディスポーザルチップで記載したが、かかるディスペンサーチップを洗浄してもよい。
【0025】
本実施の形態のチップ溶液収納容器42は、複数の区画が形成された容器部(容器本体部)42Aと、容器部42Aの1つの区画に形成された未使用のディスペンサーチップ51を収容、保持する第1エリア(収容領域)42A1と、容器部42Aの別の区画に形成された、使用済みのディスペンサーチップ51を回収し、収容する第2エリア(回収領域)42A2とから少なくとも構成されている。
【0026】
さらに、上記の構成に加えて、チップ溶液収納容器42は、容器部42Aの別の区画には、ディスペンサーチップ51により吸引される試薬等の溶液を収容する溶液収容エリア42A3を有する。
【0027】
そして、第1エリア42A1は、未使用のディスペンサーチップ51が複数収容され、各チップが同一方向に向けて整然とマトリックス状に配列されて保持される構成となっている。また、第2エリア42A2は、少なくとも1つの穴部52が形成され、その穴部52がチップの側壁の突出したリング(あるいは円筒窪みでもよい)が引っ掛かる内径を有しており、その穴部52に引っ掛かり外された使用済みのディスペンサーチップ51を収容する部屋がその穴部52の下に形成されている。
【0028】
このように、チップ溶液収納容器42は、複数の機能を果たすエリアが1つの矩形状の容器内に一体的に形成されて構成されている。このチップ溶液収納容器42を、複数用意することで、ユーザは簡単にディスペンサーチップの新品交換や使用済みチップの回収が容易にできる。
【0029】
図2に戻り、搬送部22は、ストッカ部21に収納されたトレイ31に載せられた培養容器41またはチップ溶液収納容器42を、蓋開閉部23、分注部24A、分注部24B、または観察部25のいずれかに搬送する機構である。すなわち、搬送部22は、培養容器41またはチップ溶液収納容器42を載置したトレイ31を支持して各機構に搬送するとともに、ストッカ部21に対してトレイ31を出し入れする。なお、図2の上面図では、分注部24Aおよび分注部24Bを記載する都合上、蓋開閉部23の記載を省略しているが、図1や後述する図6等を参照することでも明らかなように、蓋開閉部23は分注部24Aまたは24Bの上部に設置される。
【0030】
ここで、図1、図2、および図5の搬送部22の拡大図を参照して、搬送部22の詳細な構成について説明する。なお、図5において、図中上側の図は搬送部22の上面図を表わし、図中下側の図は搬送部22の正面図を表わしている。
【0031】
図2において、ステージベース22Aには、Y軸用のガイド軸22Cと駆動軸22Dを介してYステージ22Bが取り付けられる。Yステージ22Bはモータ22Eの回転によりY軸方向に移動する。なお、ステージベース22Aは筐体に対して固定されている。
【0032】
Yステージ22Bには、Z軸用の駆動軸22Gを介してZステージ22Fが取り付けられる。Zステージ22Fはモータ22Hの回転によってZ軸方向に移動する。Zステージ22Fには、駆動部22Iを介して分注ステージ22Jが取り付けられる。分注ステージ22Jは、搬送部22の最上部に設けられたステージであり、駆動部22Iの駆動により、X軸方向に移動する。つまり、図5に示すように、駆動部22Iは、例えばラックアンドピニオン式の駆動機構であって、Zステージ22Fと分注ステージ22Jの両ステージに取り付けられる面にそれぞれピニオンが設けられており、それらのピニオンがZステージ22Fおよび分注ステージ22Jに形成されたラックにそれぞれ噛合されることで、両ステージに取り付けられている。これにより、駆動部22Iの駆動によって、分注ステージ22JをX軸方向に所定量だけスライド移動させることが可能となる。
【0033】
分注ステージ22Jには、分注器22L1および分注器22L2の2つの分注器が設けられている。分注器22L1は、試薬等の溶液を吸引および添加し、分注器22L2は、廃液を吸引するためのものである。具体的には、分注器22L1および分注器22L2は、それぞれ、チューブ28を介してポンプ部27(図1)と接続されており、ポンプ部27が駆動することで、分注器22L1により溶液が吸引および添加されるか、また分注器22L2より廃液が吸引される。また、分注器22L1および分注器22L2にそれぞれ取り付けられるディスペンサーチップ51は、取り付けおよび取り外しが可能である。
【0034】
なお、以下、特に2つの分注器を区別する必要がない場合には単に分注器22Lと称して説明する。
【0035】
分注ステージ22Jにはまた、その先端部にアーム部22Kが着脱可能に取り付けられる。アーム部22Kには、トレイ31の耳部31Cが載置される。すなわち、アーム部22Kは、トレイ31の搬送や設置の際の受け渡し部材として使用される。なお、アーム部22Kと、トレイ31との接触面には、摩擦抵抗の大きい部材(例えばゴム等)を貼り付けておくことが好ましい。
【0036】
また、Yステージ22Bは、回転モータ(図示せず)の回転により、XY平面内で回転軸22Mを中心に回転する。すなわち、搬送部22は、図2に示すような、蓋開閉部23(図2では図示せず)、分注部24A、分注部24B、および観察部25等の図中搬送部22の右側の機構への搬送の他に、Yステージ22Bを180度回転させて反対向きになることで、ストッカ部21等の図中搬送部22の左側の機構への搬送を行うことが可能となる。なお、Yステージ22Bを回転させる場合には、分注ステージ22JをZステージ22F側に縮めて回転半径を小さくすることが好ましい。
【0037】
このように、以上のように構成される搬送部22では、アーム部22Kに支持されたトレイ31を、X軸、Y軸、Z軸の3方向に移動させることができ、また、Z軸中心として180度回転させることもできる。これにより、搬送部22は、インキュベータ部11内において、トレイ31を支持して各機構に搬送するとともに、ストッカ部21に対してトレイ31を出し入れすることが可能となる。
【0038】
また、搬送部22は、培養容器41を観察部25で観察する場合には、トレイ31に載せられた培養容器41を観察部25に搬送する。
【0039】
観察部25は、主に、照明系と、観察系から構成され、インキュベータ部11内の他に、その一部は架台部12にも収容される。照明系においては、LED(Light Emitting Diode)等の光源からの光が、矩形絞り、位相リング、およびコンデンサレンズ等を介した後、観察ステージに入射する。そして、その光は、搬送部22によって、観察ステージの中のスペースに搬送されてきたトレイ31に載置された培養容器41内の試料に照明光として入射する。そして、照明系からの光によって照明された試料は、その培養状態に応じて光を発生する。試料から透過方向に発生した光は、観察ステージを通過した後、観察系に導かれる。
【0040】
観察系では、試料から透過方向に発生した光が、対物レンズ、中間変倍レンズ、蛍光照明ユニット、およびCCD(Charge Coupled Device)カメラの内蔵レンズ等を介した後、CCDカメラに入射する。このとき、CCDカメラの撮像面には、結像光学系による試料の像が形成される。そして、CCDカメラにより撮像された画像は、例えばモニタ装置(図示せず)等に表示される。
【0041】
以上のようにして、細胞培養装置1は構成される。
【0042】
ところで、培養容器41およびチップ溶液収納容器42のインキュベータ部11の内部への搬送方法であるが、例えば、クリーンベンチにおいて、チップ溶液収納容器42の容器部42Aの未使用ディスペンサーチップエリア42A1にディスペンサーチップ51をセットし、溶液エリア42A3に試薬をセットして蓋部42Bをのせた後、そのチップ溶液収納容器42をトレイ312にセットする。また、培養容器41は、チップ溶液収納容器42を載置したトレイ312とは別のトレイ311にセットする。
【0043】
なお、以下、培養容器41とチップ溶液収納容器42の載置されたトレイ31を区別するために、それらの容器が載せられたトレイ31を、それぞれ、トレイ311、トレイ312と称して説明するが、それらを特に区別する必要がない場合には単にトレイ31と称する。また、このとき、培養容器41およびチップ溶液収納容器42(の容器部42A)は、それぞれが載置されているトレイ31の固定ブロック31Aおよびバネ31Bにより固定される。
【0044】
次に、この培養容器41を載置したトレイ311と、チップ溶液収納容器42を載置したトレイ312は、複数のトレイ31を一括収納するキャリアにセットされる。そして、オペレータの操作により、インキュベータ部11のアクセスドア11Aと内扉11Bが開けられ、インキュベータ部11内のキャリア部26に、その複数のトレイ31を収納したキャリアがセットされる(図1のキャリア部26の点線がセットされたキャリアを表わしている)。すると、インキュベータ部11の内部において、キャリアにセットされたトレイ31は、オペレータによる操作に応じて動作する搬送部22によって、所定の位置まで搬送される。例えば、チップ溶液収納容器42を直ぐに使用する場合には、その容器を載せているトレイ312は分注部24Bに搬送され、決められた時間だけ加温して使用する場合には、その容器を載せているトレイ312はストッカ部21に搬送され収容される。また、このとき、例えば、培養容器41を載せているトレイ311は、ストッカ部21に搬送され収容される。
【0045】
これにより、搬送部22によって、試料の培養を開始する前に、培養容器41を載せているトレイ311や、チップ溶液収納容器42を載せているトレイ312が搬送され、ストッカ部21の各段や分注部24B等に収容される。
【0046】
なお、本実施の形態においては、個々のトレイ31に対応させてストッカ部21の各段を構成してもよいし、複数のトレイ31を一括するキャリアの大きさに合わせてストッカ部21の各段を構成してもよい。また、ストッカ部21は、インキュベータ部11の筐体の中の側壁に沿って設置される。
【0047】
ところで、上述したように、搬送部22は、インキュベータ部11内において、培養容器41やチップ溶液収納容器42を載せたトレイ31を支持して各機構に搬送する他に、分注器22Lを有しているので、分注部24Aにおいて、培養容器41内部に溶液を入れることも可能である。
【0048】
そこで、次に、図6乃至図11を参照して、搬送部22により行われる分注作業、すなわち、チップ溶液収納容器42を分注部24Bに搬送し、そのチップ溶液収納容器42から溶液を吸引し、分注部24Aに搬送された培養容器41に添加するまでの作業の流れについて説明する。
【0049】
なお、以下の説明において、チップ溶液収納容器42を載置しているトレイ312が分注部24Bに固定された状態でのチップ溶液収納容器42内の未使用ディスペンサーチップエリア42A1、使用済みディスペンサーチップエリア42A2、溶液エリア42A3、および廃液エリア42A4の4つのエリアの各挿入穴の位置は、その位置に対応する座標として事前に登録しておくものとする。
【0050】
まず、図6に示すように、トレイ312に載せられたチップ溶液収納容器42は、搬送部22によって、蓋開閉部23の設置された領域まで搬送される。なお、図6は、インキュベータ部11の内部空間において、蓋開閉部23、分注部24A、および分注部24Bの設置された領域に、搬送部22が移動してきたときの状態を表わしている。また、後述する、図7、図8、および図10の表わしている状態も同様である。
【0051】
このとき、チップ溶液収納容器42は、吸着部23Aの真下に搬送されるので、搬送部22は、チップ溶液収納容器42をZ軸の正方向にさらに移動させることで、吸着部23Aとチップ溶液収納容器42とを接触させる。すると、図7に示すように、チップ溶液収納容器42を構成する容器部42Aと蓋部42Bのうち、蓋部42Bのみが吸着部23Aにより真空吸着される。つまり、搬送部22においては、蓋部42Bが外されて、容器部42Aだけがトレイ312に載せられた状態でアーム部22Kに支持された状態となる。
【0052】
次に、図7に示すように、搬送部22は、蓋部42Bが外されたチップ溶液収納容器42、すなわち、容器部42AをZ軸の負方向に移動させることで、分注部24Bのトレイ保持部61Bに搬送する。なお、このとき、トレイ保持部61Bに載せられたトレイ312の耳部31Cは、分注部24Bのトレイ耳固定部62BがZ軸の負方向に移動することでトレイ保持部61Bとトレイ耳固定部62Bに挟持され固定される。すなわち、分注作業を行う際には、分注作業モードをオンにして、分注開始時にトレイ耳固定部62Bによりトレイ312の耳部31Cを固定する。その後、分注作業が終了した場合には、分注作業モードをオフにして、トレイ312の耳部31Cを固定していたトレイ耳固定部62BがZ軸正方向に駆動されて解除され、トレイ312の耳部31Cはフリーの状態となる。
【0053】
その後、搬送部22は、チップ溶液収納容器42を搬送したときと同様に、培養容器41をトレイ311に載置して、分注部24Aのトレイ保持部61Aに搬送する。トレイ保持部61Aに載せられたトレイ311の耳部31Cは、図8に示すように、分注部24Aのトレイ耳固定部62Aにより固定される。なお、培養容器41にも蓋(蓋部)が設けられている場合には、チップ溶液収納容器42の蓋部42Bを外した場合と同様の原理で蓋開閉部23の吸着部23Aに培養容器41の蓋部を吸着させて外せばよい。この場合、蓋開閉部23は、例えばトレイ保持部61Aと、トレイ保持部61Bの上方等にそれぞれ設置され、培養容器41とチップ溶液収納容器42のそれぞれの蓋部を取り外す。
【0054】
そして、図8に示すように、搬送部22は、分注器22L1を、下段のトレイ保持部61Bに搬送されトレイ耳固定部62Aにより固定されている容器部42Aの未使用ディスペンサーチップエリア42A1上の対応する位置に移動させる。搬送部22は、あらかじめ登録されている各挿入穴の座標情報に基づいて、未使用ディスペンサーチップエリア42A1の挿入穴にセットされているディスペンサーチップ51を分注器22L1に取り付ける。このディスペンサーチップ51の取り付け方法であるが、例えば、図9の左側に示すように、挿入穴にセットされているディスペンサーチップ51に対して、分注器22L1を圧入することで、図9の右側に示すように、分注器22L1にディスペンサーチップ51が取り付けられる。
【0055】
その後、搬送部22は、ディスペンサーチップ51が取り付けられた分注器22L1を溶液エリア42A3上に移動させ、ディスペンサーチップ51により、吸引口53から試薬等の溶液を吸引させる。そして、図10に示すように、この分注器22L1を、搬送部22をZ軸の正方向に移動させることで、上段のトレイ保持部61Aに搬送されトレイ耳固定部62Aにより固定されている培養容器41上に移動させた後、ディスペンサーチップ51によって吸引された溶液を培養容器41内に添加する。
【0056】
また、溶液の添加後、ディスペンサーチップ51内に溶液が残っている場合には、下段のトレイ保持部61Bに固定された容器部42Aの廃液エリア42A4上に、分注器22L1を移動させ、ディスペンサーチップ51の先端を廃液口54に挿入して、廃液を全て出させる。その後、さらに、使用済みディスペンサーチップエリア42A2上に移動させて、使用済みとなったディスペンサーチップ51を分注器22L1から取り外すようにすればよい。
【0057】
このディスペンサーチップ51を取り外す方法であるが、例えば、図11の「状態1」に示すように、まず、使用済みディスペンサーチップエリア42A2に設けられた穴部52(図4の例では12個の穴部52が設けられている)のうちの直径の大きな穴の方に、ディスペンサーチップ51を挿入する(図11の「状態2」)。ディスペンサーチップ51のフランジ部分が容器部42Aの使用済みディスペンサーチップエリア42A2の上面板より下にきたところで(図11の「状態3」)、直径の小さな穴の方に移動する。その状態で分注器22L1をZ軸の正方向に上昇させ、フランジ部分を穴部52のツバ部に引っかけることにより(図11の「状態4」)、ディスペンサーチップ51を取り外すことが可能
【0058】
なお、本実施の形態においては、培養容器41に溶液を追加する例について説明したが、溶液を追加する前に、例えば追加する量と同等の溶液を事前に取り除く場合には、分注器22L2に、分注器22L1同様に、未使用ディスペンサーチップエリア42A1の挿入穴にセットされているディスペンサーチップ51を取り付けて、培養容器41から溶液を吸い取り、その後、容器部42Aの廃液エリア42A4に廃液を捨ててから、上述した動作を実行すればよい。
【0059】
その後、全ての分注作業が終了したら、分注モードを終了し、トレイ31の耳部31Cを固定しているトレイ耳固定部62Aおよび62Bを解除する。続いて、搬送部22は、アーム部22Kによりトレイ312の耳部31Cを保持して、蓋開閉部23に移動させて、今度は逆に、容器部42AをZ軸の正方向に移動させて吸着部23Aにより吸着されている蓋部42Bを容器部42Aに被せさせる。その後、蓋部42Bを被されたチップ溶液収納容器42をインキュベータ部11の外部に取り出す場合、搬送部22によって、チップ溶液収納容器42をキャリア部26まで搬送させることで、その溶液収納容器42はアクセスドア11Aより搬出可能となる。また、搬送部22は、分注作業が行われた培養容器41を、分注部24Aからストッカ部21に搬送して収納する。
【0060】
以上の如く、本発明によれば、分注作業を実現するために必要となる各種の要素を収納するための各エリアが設けられたチップ溶液収納容器42を用いて分注することで、インキュベータ環境内での分注作業を容易に行うことができる。
【0061】
また、本発明によれば、複数の搬送機構を用いることなく、1つの搬送部22により培養容器41やチップ溶液収納容器42を載せたトレイ31をインキュベータ部11内の各機構に搬送できるので、内部空間を有効活用して、培養装置全体を小型化できる。
【0062】
さらに、本発明によれば、培養容器41やチップ溶液収納容器42を載せたトレイ31を搬送する搬送部22は、分注器22Lを有しているので、搬送と分注の両方の作業を行うことができ、それらの作業を行う機構を別個に設ける必要がないため、培養装置全体を小型化できる。また、培養容器41やチップ溶液収納容器42を載せたトレイ31を搬送した搬送部22が、その場で分注することができるので、迅速に分注作業を行うことができる。
【0063】
すなわち、これまで培養容器41の搬送機構と分注器22Lの搬送機構とがそれぞれ必要であったものが、共通化することができる。さらに省スペース化が図られたことにより、それらの機構をインキュベータ部11の内部に設置することができる。
【0064】
また、未使用のディスペンサーチップ51、使用済みのディスペンサーチップ51、溶液、廃液を収納する溶液収納容器42のサイズを、培養容器51のサイズ(ウエルプレートサイズ)と互換性を持たせたことにより、培養容器51の搬送経路で溶液収納容器42も搬送することが可能になる。また、溶液収納容器42は、アクセスドア11Aより出し入れが可能となり、新たにインキュベータ部11の底面や側面にこれらの搬入搬出口を設ける必要はない。
【0065】
なお、本実施の形態においては、アーム部22Kにトレイ31を支持する際に、トレイ31の耳部31Cをアーム部22Kに載置する例により説明したが、それに限らず、その他、例えば、トレイ31を側方から挟み込む方式で支持してもよいし、マグネットやエアチャック等を用いてトレイ31を完全に固定保持する方式等であってもよい。
【0066】
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明を適用した細胞培養装置の全体構成を示す正面図である。
【図2】細胞培養装置の構成を示す上面図である。
【図3】トレイの詳細な構成を示す図である。
【図4】チップ溶液収納容器の詳細な構成を示す図である。
【図5】搬送部の詳細な構成を示す図である。
【図6】分注作業の様子を示す模式図である。
【図7】分注作業の様子を示す模式図である。
【図8】分注作業の様子を示す模式図である。
【図9】ディスペンサーチップの取り付けの流れを表わす図である。
【図10】分注作業の様子を示す模式図である。
【図11】ディスペンサーチップの取り外しの流れを表わす図である。
【符号の説明】
【0068】
1 細胞培養装置, 11 インキュベータ部, 11A アクセスドア, 11B 内扉, 12 架台部, 13 コントロールボックス, 14 パーソナルコンピュータ, 21 ストッカ部, 22 搬送部, 22A ステージベース, 22B Yステージ, 22C ガイド軸, 22D 駆動軸, 22E モータ, 22F Zステージ, 22G 駆動軸, 22H モータ, 22I 駆動部, 22J 分注ステージ, 22K アーム部, 22L1および22L2 分注器, 22M 回転軸, 23 蓋開閉部, 24Aおよび24B 分注部, 25 観察部, 26 キャリア部, 27 ポンプ部, 28 チューブ, 31 トレイ, 41 培養容器, 42 チップ溶液収納容器, 42A 容器部, 42A1 未使用ディスペンサーチップエリア, 42A2 使用済みディスペンサーチップエリア, 42A3 溶液エリア, 42A4 廃液エリア, 42B 蓋部, 51 ディスペンサーチップ, 52 穴部, 53 吸引口, 54 廃液口, 61Aおよび61B トレイ保持部, 62Aおよび62B トレイ耳固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の区画が形成された容器本体部を有し、
前記容器本体部は、
前記容器本体部の1つの前記区画に形成された、未使用のディスペンサーチップを収容する収容領域と、前記容器本体部の別の前記区画に形成された、使用済みディスペンサーチップを回収する回収領域とから少なくとも構成され、
分注作業に使用される前記ディスペンサーチップを収容、回収する
ことを特徴とするチップ溶液収納容器。
【請求項2】
前記分注作業により細胞培養容器に添加される所定の溶液を収納する溶液収納領域と、前記分注作業により前記細胞培養容器から吸引された廃液を収納する廃液収納領域とをさらに有する
ことを特徴とする請求項1に記載のチップ溶液収納容器。
【請求項3】
前記収容領域は、未使用のディスペンサーチップが複数収容され、各チップが同一方向に向けて整然とマトリックス状に配列されて保持される構造となっている
ことを特徴とする請求項1に記載のチップ溶液収納容器。
【請求項4】
前記回収領域は、少なくとも1つの穴部が形成され、前記穴部が前記ディスペンサーチップの側壁の突出したリングあるいは円筒窪みが引っ掛かる内径を有しており、前記穴部に引っ掛かり外された使用済みディスペンサーチップを収容する部屋が前記穴部の下に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のチップ溶液収納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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