説明

チーズ製造装置

【課題】 バット本体に投入された原料乳または殺菌乳を、殺菌処理するために好適な温度にまで迅速に昇温したり、醗酵に好適な温度にまで迅速に降温することにより、原料乳からチーズ原製品を得るまでの一連の処理を短時間で行うことができる、新規なチーズ製造装置を開発することを技術課題とした。
【解決手段】 熱媒体が収容される循環水タンク25内には熱交換器40が具えられ、この熱交換器40に対して、バット本体1内に位置する原料乳M0または殺菌乳M1を通過させることにより、原料乳M0または殺菌乳M1を調温することができるように構成されていることを特徴として成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチーズの製造装置に関するものであって、特に原料乳または殺菌乳の温度を極めて迅速に所望の値にすることにより、製造時間を大幅に短縮することのできるチーズ製造装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
チーズの製造は、原料乳を殺菌処理し、続いて原料乳に対してスタータ(乳酸菌、カビ類)を注入し、乳酸醗酵を行うとともに、レンネット(凝乳成分であるキモシンを主成分とする乳凝固剤)を注入して混合した後、所定時間静止させてカード(固体成分)を形成するというものである。次いでこのカードを成型し、適宜の条件で熟成させることにより、様々なチーズとして製品化される。
【0003】
そしてこのようなチーズの製造における殺菌、醗酵を行うための製造装置は、国内ではほとんど開発されていないため、欧州等から輸入された装置が用いられている。
しかしながら欧州等と比べて湿度が高い日本国内においては、空気中に存在する雑菌の種類が多い等の問題により、独自の醗酵時間、温度等の条件設定が必要であり、このためチーズ製造者は試行錯誤を繰り返し、各種条件を見出して何とか装置を使いこなしているというのが実情である。そしてこのような作業には多大な時間を要するものであり、元より輸入される装置は非常に高価なものであり、且つ大型機、大型装置であるため、チーズの製造工場を立ち上げる際の大きな障害となっていた。
そこで本出願人は、原料乳の性状、最終製品の形態に応じて、好適な乳酸醗酵条件及び凝固条件を容易に実現することができ、特に日本国内での使用に好適である新規なチーズの製造方法並びにその装置を開発し、既に特許出願に及んでいる(特許文献1、2参照)。
【0004】
そしてその後も本出願人は、この種のチーズ製造装置の開発を継続しており、特にチーズ製造装置の主たるユーザーの職種として、家畜の世話に多大な時間と労力が必要とされる酪農家が該当することを考慮し、原料乳からチーズ原製品を得るまでの一連の処理を、より短時間で行うことができるような改良に着手した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2008−331995
【特許文献2】特願2009−245425
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような背景からなされたものであって、バット本体に投入された原料乳または殺菌乳を、殺菌処理するために好適な温度にまで迅速に昇温したり、醗酵に好適な温度にまで迅速に降温することにより、原料乳からチーズ原製品を得るまでの一連の処理を短時間で行うことができる、新規なチーズ製造装置を開発することを技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち請求項1記載のチーズ製造装置は、バット本体と、ミキサとを具え、前記バット本体に投入された原料乳を、前記ミキサにより攪拌しながら乳酸醗酵させて醗酵乳とし、更に乳凝固剤を用いて凝固乳とし、この凝固乳からホエイを除去することにより、チーズ原製品を得る一連の処理を行う装置において、前記バット本体には、バット本体を囲繞する保温ジャケット及び温度調節機構が具えられ、この保温ジャケット内に供給する熱媒体として水を用いるとともに、この水の温度を調節することにより原料乳及び中間製品の温度を所望の値に設定する機能が具えられて成るものであり、更に前記熱媒体が収容される循環水タンク内には熱交換器が具えられ、この熱交換器に対して、バット本体内に位置する原料乳または殺菌乳を通過させることにより、原料乳または殺菌乳を調温することができるように構成されていることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求2項記載のチーズ製造装置は、前記要件に加え、前記熱交換器は、二重管式熱交換器であることを特徴として成るものである。
【0009】
更にまた請求項3記載のチーズ製造装置は、前記要件に加え、前記熱交換器は、多葉状伝熱管を具えて成るものであることを特徴として成るものである。
【0010】
更にまた請求項4記載のチーズ製造装置は、前記要件に加え、前記熱媒体の温度調節を行うための機器として、電動比例制御バルブが具えられ、この電動比例制御バルブによって蒸気と水とを混合することにより、所望の温度の熱媒体を得ることができるように構成されていることを特徴として成るものである。
そしてこれら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0011】
まず請求項1記載の発明によれば、循環水タンク内に具えられた熱交換器において熱媒体と原料乳または殺菌乳との間で熱交換することにより、原料乳または殺菌乳を所望の温度にまで迅速に調温することができる。更に調温された原料乳または殺菌乳をバット本体に戻した後は、保温ジャケット内に供給される熱媒体によって所望の温度を保った状態とすることができる。
このため、殺菌工程、冷却工程に要する時間を短縮することができ、原料乳からチーズ原製品を得るまでの一連の処理を短時間で行うことが可能となる。
【0012】
また請求項2記載の発明によれば、温水と原料乳との間の熱交換または冷水と殺菌乳との間の熱交換を高効率で行うことができる。
【0013】
更にまた請求項3記載の発明によれば、温水と原料乳との間の熱交換または冷水と殺菌乳との間の熱交換をよりいっそう高効率で行うことができる。
【0014】
更にまた請求項4記載の発明によれば、所望の温度の熱媒体を極めて迅速に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】チーズ製造装置の構成要素を示す斜視図である。
【図2】チーズ製造装置を示す側面図である。
【図3】バット本体周辺の分解斜視図である。
【図4】熱交換器を示す斜視図である。
【図5】熱交換器を示す断面図である。
【図6】多葉管のみによって構成された熱交換器を一部破断して示す斜視図である。
【図7】管路及び熱交換器内の原料乳を自然流下によってバット本体内に戻すことができる急速調温機構の構成を示す側面図である。
【図8】バット本体の形態を異ならせたチーズ製造装置の構成要素を示す斜視図である。
【図9】チーズの製造過程を示す工程表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のチーズ製造装置の最良の形態の一つは以下の実施例に説明するとおりであるが、以下の実施例に対して、本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
【実施例】
【0017】
図中、符号Dで示すものが本発明のチーズ製造装置であって、このものは図2に示すように、鋼材を適宜組み合わせて構成された機枠Fに対して、バット本体1、温度調節機構2、ミキサ3、急速調温機構4及び制御盤5を具えて成るものである。
【0018】
以下、これらチーズ製造装置Dの構成要素について詳しく説明する。
まず前記バット本体1は、ステンレス等(一例としてSUS304、厚さ1.5mm)により構成された容量50〜100リットル程の、有底円筒形状(いわゆる寸胴)の容器であり、上部開口部の周縁にフランジ11が形成されたものである。
そしてバット本体1の底板12には液抜口12aが形成されるものであり、この実施例では図2、3に示すように、底板12の外周付近を平面視で矩形状に切り抜くことにより液抜口12aを形成した。なおこの液抜口12aには液抜管12bが接続されるものであり、管状部材の端部付近の上半分を一定範囲にわたってを切除し、残された部分が前記液抜口12aを下方から覆うようにして管状部材をバット本体1の外側から溶接し、先端部を封止するようにした。因みに液抜口12aをこのような形態とすることにより、後述するカードCの詰まりが防止されて良好に排出を行うことができることが確認されている。
またバット本体1の側周部には、原料乳M0等の流出口19a及び流入口19bが形成されるものであり、この実施例では図3に示すように、流出口19aのほぼ真上に流入口19bが形成されるようにした。なおこれら流出口19a及び流入口19bには、詳しくは後述するが、管路46a及び管路46bがそれぞれ接続される。
【0019】
更に前記バット本体1が有底円筒形状を成すことに因み、底板12に対して変形防止板13が設けられる。具体的には図3に示すように、底板12の中央部外側部分に、変形防止板13としての円形板を溶接するとともに、この変形防止板13の中心に設けられた固定杆13aを、機枠Fを構成する鋼材に対してビス13b等を用いて固定する。
なお本発明のチーズ製造装置Dの開発段階において、上述のような変形防止板13を設けない場合には、原料乳M0が殺菌等のために加熱された際に、前記底板12が変形してしまうことが確認されており、板厚を増すことなくこのような変形を防止するうえで、前記変形防止板13を設けることは必要不可欠なものとなっている。
【0020】
また後述する温度センサ52及びpHセンサ53を保持するためのセンサホルダ14がバット本体1の上部に設けられている。
なおバット本体1の上部開口部は、カバー15によって塞がれるものであり、このカバー15には、バット本体1に被せられた状態で、後述する攪拌羽根35がバット本体1内に進入することができるように、中央に挿入口15aが形成されている。なおカバー15を、中心部等で二つ割れ状態となるように構成することにより、着脱の際の取り扱いが飛躍的に向上する。
【0021】
次に前記温度調節機構2について説明すると、この機構は前記バット本体1の側周面及び底面を囲繞するように設けられる保温ジャケット20に対して、温水W1または冷水W2を循環させることにより、バット本体1内に収容された原料乳M0や中間製品の温度を所望の値に保つための機構である。更に前記保温ジャケット20は、筐体16内に収容されるものであり、この筐体16と保温ジャケット20との間には断熱材17が配される。
【0022】
ここで前記温度調節機構2における熱媒体の流れについて説明すると、図3に示すように、前記保温ジャケット20の側周面に入水口21が形成され、一例としてここから平面視で反時計回り方向270°の個所における上部の位置に出水口22が形成され、それぞれに給水管23、集水管24が接続される。なお入水口21から保温ジャケット20内に流入した熱媒体を出水口22に導くために、入水口21の内側には流方向板21aが設けられ、熱媒体が入水口21から出水口22にショートパスしないように配慮されている。
更に前記給水管23は循環水タンク25における出水口25aに接続され、集水管24は入水口25bに接続される。このため熱媒体(温水W1、冷水W2)は、循環水タンク25と保温ジャケット20との間で循環することとなる。
なお前記給水管23と出水口25aとの間の管路には循環ポンプ26が具えられている。更に給水管23には三方弁V5が具えられる。
また前記集水管24には三方弁V1が具えられており、熱媒体を循環水タンク25に戻すか、あるいは外部に排出するかの選択が可能となっている。
【0023】
ここで前記循環水タンク25に対して供給される熱媒体を生成するための構成について説明する。この実施例では一例として熱媒体の温度調節を行うための機器として、電動比例制御バルブV6(三方弁)が具えられ、蒸気発生装置2Sから電動比例制御バルブV6に供給される蒸気と、適宜水道等から注水管27を通じて電動比例制御バルブV6に供給される水との混合比を調節することにより、所望の温度の熱媒体を得ることができるように構成されている。そして所望の温度とされた熱媒体は、供給管28aを通じて循環水タンク25に供給される。
このような構成が採られることにより、後程触れる旧型装置と比べて、循環水タンク25中の自由空間を広く確保することができ、熱交換器40を大型化することが可能となる。
なお前記蒸気発生装置2Sは、ボイラによって蒸気を発生させるとともに、この蒸気を更に加熱することにより、飽和蒸気よりも高温の過熱蒸気を得ることができる装置である。また蒸気発生装置2Sとしては、ボイラによって発生した蒸気をそのまま用いるものとしてもよい。
【0024】
またこの実施例では前記電動比例制御バルブV6の一例として、東フロコーポレーション株式会社製、電動比例制御バルブMCV−Mシリーズを採用した。
また循環水タンク25の上部にはオーバーフロー口25dが形成され、循環水タンク25からの不用意な水の溢出を防止できるように構成されている。更に循環水タンク25の底部には排出口25eが形成され、循環水タンク25の側部または底部には入水口25g及び出水口25hが形成されている。また前記循環水タンク25の外周部分には適宜断熱材が貼設される。
【0025】
なお前記循環水タンク25に供給された熱媒体(温水W1)の温度が低下してしまったた時には、電動比例制御バルブV6を調節して、適量の蒸気を循環水タンク25に供給することにより熱媒体を昇温することができる。
【0026】
また図1〜3中、仮想線で示すように、前記保温ジャケット20の内部に、円環状の仕切板20aを一例として二枚設けることにより、熱媒体の流路を上下方向に三分割し、それぞれの区画に出水口22を設けるようにしてもよい。因みにこのような構成を採ることにより、保温ジャケット20内における熱媒体の流れを整然としたものとすることができるため、バット本体1を均等に加熱または冷却し、原料乳M0または中間製品と熱媒体との間での熱交換効率を高めることができる。
更に入水口21と出水口22の位置を交互にすることにより、仕切板20aによって仕切られた区画毎に、熱媒体の流れ方向が交互に異なるようにしてもよい。この場合には、バット本体1内に位置する原料乳M0または中間製品の温度をより一層均一なものとすることができる。
【0027】
次に前記ミキサ3について説明すると、このものは太陽ギヤボックス31の太陽軸31aの先端に回転蓋32を具えるとともに、更に太陽軸31aにおける回転蓋32の上方に遊星ギヤボックス33を具え、遊星軸33aが回転蓋32を貫いてその下方に延び、遊星軸33aの先端に、攪拌羽根35が着脱自在に取り付けられて構成されるものである。なお図3に示した太陽ギヤボックス31は、歯車等を箱体内に収容し、更にこの箱体内にモータ34を収容したものである。
そして前記太陽ギヤボックス31は、架台36に載置されるものであり、この架台36は、機枠Fに設けられた一対のスプロケット37間に巻回されたチェーン38に取り付けられ、機枠Fの上下方向に沿って配されたレール39上を移動する。
【0028】
ここで前記攪拌羽根35は、シャフト35aに対して複数の攪拌体35bを螺旋状(螺旋軌道上)に配置して構成されるものである。
なお前記攪拌体35bとしては、図示のようなパドル状のものの他、一部曲げ加工を施した金属板に丸穴を複数設けたタイプのものや、対向する一対の金属板間に複数の金属棒を平行に配したタイプのもの等を採用することもできる。この場合、攪拌体35bは必ずしもシャフト35aに対して螺旋状に配置する必要はない。
【0029】
次に前記急速温調機構4について説明すると、このものは、前記熱媒体としての温水W1(または冷水W2)が収容される循環水タンク25内に熱交換器40が具えられ、この熱交換器40に対して、バット本体1内に位置する原料乳M0(殺菌乳M1)を通過させることにより、原料乳M0(殺菌乳M1)を迅速に調温することができるように構成されるものである。
前記熱交換器40は一例として図4に示すように、二重管式熱交換器が適用されるものであり、SUS等、サニタリー性に優れるとともに、熱伝導率の高い金属等を素材とする外管41内に、同じくSUS等、サニタリー性に優れるとともに、熱伝導率の高い金属等を素材とする内管42が配置されて成るものである。そして図4(a)に示す実施例の熱交換器40は、内管42の端部を先細りになるように加工するとともに、外管41の端部を塞ぐ封止板43に設けられた孔に対して内管42の先細り部分を挿通することにより、その端部の流入口42a(流出口42b)が突出するようにしたものである。また前記封止板43には流入口41a(流出口41b)が形成されている。
なお内管42の先細り部位を、外管41の側周部から突出した状態とすることもできる。
そしてこのような構成が採られることにより熱交換器40には、流入口42aから内管42内を通過して流出口42bから外部に至る流路と、流入口41aから外管41と内管42との間を通過して流出口41bから外部に至る流路との二流路が形成されることとなる。
【0030】
なお図4(a)に示す熱交換器40は、外管41及び内管42をクランク状に曲げ加工して、平行状態にある四箇所の直線部と、この直線部と直交する三箇所の直線部が形成されるようにしたものである。
また外管41及び内管42の断面形状は、図5(a)に示すように外管41、内管42ともに円形とする他、内管42の断面形状を図5(b)に示す六葉状、または図5(c)に示す五葉状のように複雑な形状とすることにより、外管41と内管42との間を流れる流体と、内管42内を流れる流体との見かけ上の接触面積を増大することが、両者の熱交換効率を高めるうえで好ましい。
【0031】
そして図1に示すように、循環水タンク25内に配された熱交換器4における流入口41aと、バット本体1における流出口19aとを管路46aによって接続し、同様に流出口41bと流入口19bとを管路46bによって接続する。このような構成が採られることにより、バット本体1内の原料乳M0(殺菌乳M1)が、熱交換器40における外管41と内管42との間を通過した後、再びバット本体1内に戻る流路が形成されることとなる。
なお前記管路46aまたは管路46bには、ポンプ47及び電磁弁48が具えられる。
【0032】
また、循環水タンク25に形成された入水口25g及び出水口25hには、管路46cが接続されるとともに、この管路46cにはポンプ49が具えられる。そして熱交換器4における流入口45a(42a)と出水口25hとは管路46dによって接続される。このような構成が採られることにより、循環水タンク25内の温水W1(冷水W2)が、ポンプ49の作用によって熱交換器40における内管42内を通過して、流出口45b(42b)から再び循環水タンク25内に戻る流路が形成されることとなる。
【0033】
次に前記制御盤5は、前記温度調節機構2における三方弁V1、V2、流量調整弁V3、V4電動比例制御バルブV6並びにモータ34、ポンプ47、49等を制御することにより、チーズ製造装置Dの運転を制御するための機器である。
そしてこのような制御を行うために、前記循環水タンク25内に温度センサ51が設置され、また前記バット本体1の上部には温度センサ52及びpHセンサ53が設置され、更に前記レール39の所定の個所にリミットスイッチ54が設けられている。
なお前記温度センサ52及びpHセンサ53は、バット本体1の上部に設けられたセンサホルダ14により保持される。
【0034】
ここで前記pHセンサ53は、バット本体1に収容される原料乳M0や中間製品に対して直接触れるものであるため、一般的なガラス管タイプのものではなく、ISFET型のものが採用される。このものは、FETが適用され、溶液と感応膜との界面電位の分だけゲート閾値電圧が変化することを利用したセンサであり、プロトン感応膜として絶縁体であるSiO2 、Si34 、Al23 、Ta25 等が用いられることにより、pHセンサとして作動するものである。
この実施例では一例としてエンドレスハウザージャパン社製「半導体pH電極CPS471D」を採用した。因みにこのCPS471Dは、欧米食品規格EHDEGのテスト証明を取得済みのものであり、日本国内においては法制上、食品工場においてその使用が認められているものである。
【0035】
また前記制御盤5には、前記温度センサ51、温度センサ52及びpHセンサ53の検出値を一定時間毎に記録することができる機能が具えられる。
因みにこのような記録は、例えば殺菌の際の温度、時間が適切に行われたことを証明する資料として供される他、原料乳M0の性状、中間製品及び最終製品の形態、更には気温・湿度等の周辺環境を併せて記録しておくことにより、加工対象となる原料乳M0の成分や製造するチーズの種類に適したものを選択して呼び出し、同様の条件下での加工を容易に行うことが可能となるものである。
また制御盤5には、原料乳M0の性状、最終製品の形態、更には気温・湿度等の周辺環境に応じた、好適な乳酸醗酵条件及び凝固条件を実現するための設定温度及び工程所要時間がプリセットされる。
【0036】
本発明のチーズ製造装置Dは一例として上述したように構成されるものであり、以下この装置を用いたチーズの製造方法について説明する。
なお原料乳M0は、チーズ製造装置Dによる処理の段階に応じて、その性状が変化するものであるため、ここで各段階毎の呼称について定義しておく。
まず、搾乳後、異物を除去するための濾過処理が行われた状態のものを原料乳M0と称す。
次いで原料乳M0に対して、醗酵や熟成を順調に進めるために殺菌処理を施したものを殺菌乳M1と称す。
次いで殺菌乳M1に対して、スタータSあるいはクエン酸を注入して乳酸醗酵させたものを醗酵乳M2と称す。
次いで醗酵乳M2に対して、レンネットRを注入して凝固させたものを凝固乳M3と称す。
次いで凝固乳M3を、カードナイフ6で裁断することにより得られる小片状の固体物をカードCと呼び、このとき滲出する液体成分をホエイHと称す。
そしてカードCから更にホエイHを滲出させて塊状としたものをチーズ原製品M4と称す。
なお前記殺菌乳M1、醗酵乳M2、凝固乳M3並びにカードC及びホエイHが混在したものを中間製品として総称することもある。
【0037】
以下、図1及び図2並びに図9に示す工程表を参照しながら説明を行う。なお以下の工程は、チーズ製造装置Dをいわゆるセミオートにより運転することにより行われ、一部、人手による作業を伴うものであるため、各工程が終了した段階で適宜ブザー音を発する等してオペレータに認知させることが好ましい。
【0038】
〔装置等の殺菌(装置殺菌工程P0)〕
始めに装置の運転に先立ち、原料乳M0や中間製品に対して直接触れる部材を殺菌するものであり、バット本体1内に、カードナイフ6及びカッター8を位置させるとともに、架台36を下降させて回転蓋32によりカバー15の挿入口15aを覆う。このとき、攪拌羽根35もバット本体1内に位置することとなる。もちろん攪拌羽根35を遊星軸33aから取り外した状態でバット本体1内に位置させてもよい。
次いで液抜管12bに対してチューブTを接続し、ここからバット本体1内に蒸気を供給することにより、前記バット本体1、カバー15、攪拌羽根35、カードナイフ6及びカッター8及び回転蓋32の殺菌を行う。なおチューブTは適宜、直接あるいは間接的に蒸気発生装置2Sに繋がれる。
【0039】
〔運転条件の選択〕
次いで制御盤5を操作して、原料乳M0の性状(乳牛種、脂肪含有量等)、最終製品の形態(ゴーダ、カマンベール、クリーム、チェダー、ブルー、カテージ等)に応じた、好適な乳酸醗酵条件及び凝固条件を実現するための設定温度及び工程所要時間の呼び出しを行う。
これらは具体的には、一例としてデータシート形式で制御盤5内に記憶されているものであり、原料乳M0の乳脂肪率及び無脂肪固形分、最終製品形態が主たる情報として記憶される。
そして例えば「チェダーチーズ」を作る場合に、「乳脂肪率及び無脂肪固形分」を入力すると、蓄積されたデータの中から最も類似したデータが呼び出されて、このデータに従った運転制御が行われるものである。
なおこれらのデータは、過去の実績に基づいて記憶されるものであり、随時更新されてゆくことにより、最終製品の品質向上を図ることができるものである。
また参考データとして、気温及び湿度並びに乳牛種、採取牧場、搾乳日時及び加工日時等を記憶しておくようにしてもよい。
【0040】
〔温水の生成〕
また上述したバット本体1等の殺菌と並行して温水W1を準備しておくものであり、循環水タンク25の排出口25eに栓をしてスタートボタンを押すと、電動比例制御弁V6による水と蒸気の混合比が適宜調節されて所定の温度(この実施例では36.5℃または75℃)の温水W1が生成され、このものが供給菅28aを通じて循環水タンク25内に供給される。
そして適宜流量計や水位センサ等により循環水タンク25内の水位が所定の位置まで上昇したことが確認された時点で温水W1の注入が停止される。
【0041】
〔原料乳投入〕
その後、架台36を上昇させて回転蓋32上方に移動させ、カバー15の挿入口15aを解放状態とする。次いで液抜管12bを閉めて原料乳M0を投入するものであり、温度センサ52及びpHセンサ53の検出部が原料乳M0と接した状態とする。また原料乳M0の投入が完了したら架台36を下降させて、回転蓋32によりカバー15の挿入口15aを覆うとともに、攪拌羽根35を原料乳M0に没した状態とする。
また同時に、制御盤5による温度センサ52及びpHセンサ53の検出値の記録が開始される。
【0042】
〔原料乳の殺菌(殺菌工程P1)〕
次いで原料乳M0は加熱されることにより殺菌が行われるものであり、以下、低温殺菌を行う場合と、高温殺菌を行う場合とに分けて説明を行う。
(1)低温殺菌
まず低温殺菌の場合には、原料乳M0は63.5℃前後の温度で30分間、加熱されることにより殺菌が行われるものであり、前記循環水タンク20内の温水W1の温度は63.5℃とされる。
そして電磁弁48を開けるとともにポンプ47を起動することにより、バット本体1内の原料乳M0を、熱交換器40における外管41と内管42との間を通過させた後、再びバット本体1内に戻すことが行われる。この際、原料乳M0は図5に示すように、内管42内を流れる温水W1と、外管41外(循環水タンク25内)に位置する温水W1との双方との間で熱交換が行われ、その温度が所望の温度に向かって急速に上昇することとなる。
また同時に循環水タンク25内の温水W1が循環ポンプ26によって保温ジャケット20に送り込まれることにより、バット本体1内の原料乳M0を加温してその温度が63.5℃を保つようにする。
このとき、循環水タンク25内の温水W1の温度低下が温度センサ51によって検出された場合には、電動比例制御弁V6の操作により、循環水タンク25内に直接蒸気を供給することにより、温水W1を所望の温度にまで再び昇温することができる。
また保温ジャケット20への温水W1の供給は、電動比例制御弁V6から直接、三方弁V5に温水W1を供給することにより、循環水タンク25を経由することなく行うこともできる。
なお本発明のチーズ製造装置Dの試作機と、急速調温機構4(熱交換器40)を具えていない装置(以下、旧型装置と呼ぶ。)とで、バット本体1内の原料乳M0が63.5℃になるまでの時間を比較したところ、旧型装置が約180分であったのに対し、本発明のチーズ製造装置Dでは約60分と大幅に時間を短縮できることが確認された。
【0043】
(2)高温殺菌
また高温殺菌の場合には、原料乳M0は72〜73℃の温度で15秒間(細菌数によっては75℃の温度で15分間)加熱されることにより、殺菌が行われるものであり、前記循環水タンク20に供給される温水W1の温度は72〜73℃に調整される。
そして電磁弁48を開けるとともにポンプ47を起動することにより、バット本体1内の原料乳M0を、熱交換器40における外管41と内管42との間を通過させた後、再びバット本体1内に戻すことが行われる。この際、原料乳M0は図5(a)に示すように、内管42内を流れる温水W1と、外管41外(循環水タンク25内)に位置する温水W1との双方との間で熱交換が行われ、その温度が所望の温度に向かって急速に上昇することとなる。
このとき、原料乳M0が熱交換器40を通過する時間が15秒間となるように、熱交換器40の長さ、および/またはポンプ47の吐出速度を調節することにより、原料乳M0が熱交換器40を一度通過するだけで高温殺菌を行うことが可能となる。なおこのような熱交換器40の長さを確保することができない場合には、原料乳M0を複数回、熱交換器40を通過させることにより、トータルの通過時間が15秒以上となるようにすれば、高温殺菌を実現することができる。
なおこのような高温殺菌を行う場合には、原料乳M0の加熱(昇温)は、熱交換器40においてのみ行われればよいため、保温ジャケット20への温水W1の供給は不要となる。このため温水W1の排水量を大幅に低減することができる。なお、調温機構4(熱交換器40)を具えていない旧型装置では、このような高温殺菌行うことは実質的に不可能であった。
【0044】
また上述したいずれの殺菌方法が行われる場合にも、原料乳M0はミキサ3によって撹拌されるものであり、攪拌羽根35が自転しながら公転(遊星旋回回転)することにより、バット本体1内の原料乳M0全域にわたって攪拌体35bが作用する。
この際、バット本体1は有底円筒形状を成すものであり平面視円形であるため、攪拌羽根35はバット本体1の内周に沿って公転し、原料乳M0の全域に作用することとなり、バット本体1内に位置する原料乳M0を、より一層均等に攪拌することができる。
また攪拌羽根35は、シャフト35aに対して攪拌体35bが螺旋状に配置されているため、原料乳M0に対流を起こして均等に攪拌することができる。
更に前記攪拌羽根35がバット本体1内に進入した状態では、バット本体1の上部開口部は回転蓋32によって覆われるため、バット本体1の保温性が向上するとともに、原料乳M0と外気とを遮断し、原料乳M0の温度を均等に保つとともに酸化を抑制することができる。更に原料乳M0に異物が混入してしまうのを防止することができる。
【0045】
〔殺菌乳の冷却(冷却工程P2)〕
次いで殺菌乳M1は乳酸醗酵に適した温度である33.5℃まで冷却されるものであり、循環水タンク25内に温水W1がある場合には、このものを適宜排水するとともに、電動比例制御弁V6による水と蒸気の混合比を適宜調節して所定の温度(33.5℃以下)の温水W1を生成し、このものを供給菅28aを通じて循環水タンク25内に供給する。
そして電磁弁48を開けるとともにポンプ47を起動することにより、バット本体1内の殺菌乳M1を、熱交換器40における外管41と内管42との間を通過させた後、再びバット本体1内に戻すことが行われる。この際、殺菌乳M1は図5に示すように、内管42内を流れる温水W1と、外管41外(循環水タンク25内)に位置する温水W1との双方との間で熱交換を行い、その温度が所望の温度に向かって急速に低下することとなる。
また同時に循環水タンク25内の温水W1は循環ポンプ26によって保温ジャケット20に送り込まれることにより、バット本体1内の原料乳M0を冷却して、その温度が33.5℃を保つようにする。
【0046】
なお殺菌乳M1の冷却をより速く行うときには、給水管23に対して設けられた三方弁V5から直接、冷水W2を保温ジャケット20に供給することにより、バット本体1内の殺菌乳M1を冷却することが有効であり、このような操作を、上記熱交換器40を用いた冷却操作と併用して行うこともできる。
また図示は省略するが、循環水タンク25内の温水W1をチラーを用いて一気に冷却し、これを保温ジャケット20に供給するようにしてもよい。
【0047】
そして殺菌乳M1の冷却を行いながら、ミキサ3によって殺菌乳M1を撹拌するものであり、温度センサ52による検出値が所望の値となるまで継続される。このとき本発明によれば、殺菌乳M1を急速に乳酸醗酵に適した温度とすることができるため、製造に要する時間が短縮されるとともに、殺菌乳M1の劣化が抑えられる。
【0048】
なお前記三方弁V1から外部に排出される温水W1または冷水W2については、特に不純物が混入してしまうことがないため、これら外部に排出された温水W1または冷水W2、更には循環水タンク25内の温水W1を、蒸気発生装置2Sで再利用したり、あるいは別途保管しておいて装置の洗浄に用いるようにすることが好ましい。特に温水W1については、チーズ製造装置Dの後工程で用いられるカードミキサD2モルダD3の加熱に再利用することが好ましい。
【0049】
なお、上述した冷却工程P2以降の工程においては、保温ジャケット20を用いた温度調節のみが行われ、熱交換器40(急速温調機構4)は使用されることがなく、更にここから最終工程までには数時間を要するため、熱交換器40、管路46a及び管路46b内に殺菌乳M1が残存してしまうことがないように、適宜排出するとともに、流出口19a及び流入口19bを適宜の蓋部材やシャッター部材によって閉鎖できるように構成することが望ましい。
【0050】
〔スタータ注入(醗酵工程P3)〕
次いで架台36を上昇させて攪拌羽根35をバット本体1から抜き出した状態とし、33.5℃に冷却された殺菌乳M1に対して、2〜4種類の乳酸菌が混合されて成るスタータSを混入する。そして架台36を下降させて、回転蓋32によりカバー15の挿入口15aを覆うとともに、攪拌羽根35を殺菌乳M1に没した状態とする。
この際、スタータSを殺菌乳M1中に十分に分散させることが重要でるため、ミキサ3により、約10分間、殺菌乳M1の撹拌が行われる。
また殺菌乳M1を33.5℃に保つため、保温ジャケット20に対して適温の温水W1を循環させるものであり、温度センサ51及び温度センサ52の検出値に応じて電動比例制御弁V6の混合比が適宜調整され、循環水タンク25内の温水W1を所定の温度にする。
【0051】
〔乳酸醗酵〕
次いで回転蓋32により遮光を図りながら、60分間にわたって静止状態を維持する。この際、温度センサ52及びpHセンサ53による検出が継続的に行われており、殺菌乳M1を33.5℃に保つように保温ジャケット20に対して適温・適量の温水W1が循環させられる。そしてpH値が6.5となった時点で所望の醗酵状態に至ったことが認識され、次工程に移行する。
【0052】
〔レンネット注入(凝固工程P4)〕
次いで架台36を上昇させて攪拌羽根35をバット本体1から抜き出した状態とし、醗酵乳M2を豆腐状に凝固させ、水分を除去しやすい状態にする目的で、牛の第4胃から抽出された凝乳成分であるレンネットR添加する。そしてレンネットRを醗酵乳M2中に十分に分散させるため、架台36を下降させて攪拌羽根35を醗酵乳M2に没した状態とし、醗酵乳M2を約5分間、撹拌する。
また醗酵乳M2を33.5℃に保つため、保温ジャケット20に対して適温・適量の温水W1が循環させられる。
【0053】
〔凝固(静止)〕
次いで回転蓋32により遮光を図りながら、30分間にわたって静止状態を維持する。この際、温度センサ52及びpHセンサ53による検出が継続的に行われており、醗酵乳M2を33.5℃に保つように保温ジャケット20に対して適温・適量の温水W1が循環させられる。そしてpH値が6. 3となった時点で所望の凝固状態に至ったことが認識され、次工程に移行する。
【0054】
〔カッティング(分離工程P5)〕
次いで架台36を上昇させて攪拌羽根35をバット本体1から抜き出した状態とし、更カバー15を取り外し、カードナイフ6を用いて凝固乳M3の分断を行うものであり、10mm角程度の小片となったカードCからは、濁りの少ない透明な黄緑色の液体成分であるホエイHが滲出してくる。
【0055】
〔ミキシング〕
次いで架台36を下降させて、回転蓋32によりカバー15の挿入口15aを覆うとともに、攪拌羽根35を凝固乳M3に没した状態とし、カードCとホエイHとが混在した状態のものを33.5℃に保ちながら30分間、撹拌する。
更にその後、ホエイH中にカードCが浮遊した状態となったものを38℃まで昇温し、この温度に保ちながらミキサ3によって30分間、撹拌する。
このようなミキシングを行うことにより、はじめは、ややくっついているカードC同士がほぐれるとともに、カードCとホエイHとの分離が促進される。
【0056】
〔ホエイ抜き及び静置〕
次いで架台36を上昇させて攪拌羽根35をバット本体1から抜き出した状態とし、攪拌羽根35を遊星軸33aから外すとともに、液抜口12aを開放してホエイHを排出するものである。
そしてバット本体1内(底板12上)にカードCを集めて一つの塊状にし、更にバット本体1にカバー15を装着し、架台36を下降させて回転蓋32によりカバー15の挿入口15aを覆うことにより遮光を図り、約20分間静置し、更なるホエイHの滲出を図る。
なおホエイHはそのまま食材とすることができ、更にたんぱく質が豊富なため各種健康食品の材料や飼料とされるものであるため、適宜回収して有効利用することが好ましい。
【0057】
〔分断及び静置(整形工程P6)〕
次いで架台36を上昇させ、更にカバー15を外し、塊状のカードCを、バット本体1内においてカッター8を用いて20cm角ほどの小ブロックに分断する。
次いでバット本体1にカバー15を装着し、架台36を下降させて回転蓋32によりカバー15の挿入口15aを覆うことにより遮光を図り、約20分間静置し、ホエイHの更なる滲出を図るとともに、カードCの凝固を進行させる。
このようにして得られた塊状物はチーズ原製品M4(いわゆるフレッシュチーズ)と成るものであり、その後、カードミキサD2やモルダD3においてミキシング(ミキシング工程P7)、分割成型(成型工程P8)が行われた後、加塩、混練、カビ付け、熟成等を行うことにより、所望の最終製品(ゴーダ、カマンベール、クリーム、チェダー、ブルー、カテージ等)となる。
【0058】
〔他の実施例〕
本発明のチーズ製造装置Dの最良の形態の一つは上述した基本となる実施例で説明したものであるが、本発明の技術的思想の範囲内において以下のような実施例とすることも可能である。
【0059】
(1)サニタリー性を向上させた熱交換器の構成
まずサニタリー性を向上させた熱交換器40の構成について説明すると、図4(b)に示すように、内管42の端部を先細りになるように加工するとともにほぼ直角に曲げ加工し、直線状の外管41の側周部に設けられた孔に対して内管42の先細り部分を挿通することにより、その端部の流入口42a(流出口42b)が突出するようにする。
また前記外管41の開口部付近の側周部には、雄ネジ41cが形成されるものであり、このような外管41は複数、平行状態に配置されるとともに、継手44及び集合管45によって連結される。
前記継手は、両端にソケット44aを具えて成るU字型の管体であり、このソケット44aの内周部には雌ネジ44bが形成され、更に適宜のパッキンが具えられている。なお継手44の素材としてはサニタリー性に優れ、且つ熱伝導率が高い、SUS等の金属等を採用することが好ましい。
更に図4(c)に示すように、前記外管41、継手44を、それぞれヘルール41d、ヘルール44cが具えられたものとし、これらへルール41d、44c│にパッキン44dを介在させた状態で両者を突き合わせ、その外側からクランプバンド│4eによって締結するような構成を採ることもできる。
なお前記クランプバンド44eとしては、図4(c)に示したように二分割された部材によってへルール41d、44cを挟み込むもののほか、ヒンジ接続された複数部材によってへルール41d、44cを挟み込むもの等とすることもできる。
【0060】
また前記集合管45は、複数の外管41の側周部から突出した流入口42a及び流入口42bを分岐または合流させるための部材であり、主管路に対して複数の分岐路が具えられている。
なお図4(b)に示す熱交換器40は、一例として平行状態にある四本の外管41(内部に内管42が位置する。)と、これら外管41を連結する三本の継手44とを具えて形成されるようにしたが、熱交換効率を向上させるためには、図1に示したようにより多くの段数を設け、熱交換器40内の流路をより長くすることが好ましい。
【0061】
そしてこのような構成が採られることにより、熱交換器40には、集合管45における流入口45aから個々の内管42内を通過して流出口45bに至る流路と、最下部の外管41における流入口41aから最上部の外管41における流出口41bに至る流路との二流路が形成されることとなる。
そして内管42内に流入し、内管42と外管41との間に位置する原料乳M0または殺菌乳M2との間で熱交換を行った温水W1または冷水W2は、その温度が下降または上昇した状態でいったん外管41から流出して継手44内に進入する。ここで温水W1または冷水W2は、再度循環水タンク25内の温水W1または冷水W2との間で熱交換が行われ、再び昇温または降温された状態で次の外管41に流入することとなるため、熱交換器40の熱交換効率は更に向上することとなる。
またメンテナンスの際には、ソケット44aあるいはクランプバンド44eを緩めて継手44を取り外すことにより、外管41内の洗浄を容易に且つ確実に行うことができるものであり、更に継手44の洗浄も容易に且つ確実に行うことができる。
【0062】
(2)構成を簡略化した急速調温機構
次に構成を簡略化した急速調温機構4について説明すると、例えば図5(b)(c)に示した内管42のように、多葉状の断面形状が採られることにより、側周部の面積を非常に広く確保できるような場合、その熱交換効率は側周部の面積に比例して高いものとなるため、図6に示すようにこのような内管42のみによって熱交換器40を構成することも可能となる。具体的には循環水タンク25内に内管42を位置させるとともに、流入口42aに管路46aを接続し、更に流出口42bに管路46bを接続することにより、内管42内に供給される原料乳M0または殺菌乳M1と、循環水タンク25内の温水W1または冷水W2との間で熱交換を行うものである。
【0063】
(3)殺菌乳の残存を防止するための構成
次に急速調温機構4内への、原料乳M0または殺菌乳M1の残存を防止するのに有効な構成について説明する。具体的には図7(a)に示すように、管路46a、管路46bをバット本体1側に向けて下降するように設置するとともに、熱交換器40の構成要素を水平部分が無いように傾斜させて構成するものである。そしてこのような構成が採られることにより、ポンプ47が停止した時点で管路46a、管路46b及び熱交換器40内に位置する原料乳M0または殺菌乳M1は、自然に流下してバット本体1に向かうこととなる。なお管路46aに具えられる電磁弁48を三方弁とすることにより、バット本体1の流出口19a及び流入口19bに蓋をした場合であっても、原料乳M0または殺菌乳M1を電磁弁48から排出することが可能となる。
更に図7(b)に示すように、熱交換器40が配される循環水タンク25をより上方に位置させることにより、原料乳M0または殺菌乳M1の流下をよりいっそう促進することもできる。
【0064】
(4)バット本体の形状(容量)を異ならせた実施例
次にバット本体1の形状(容量)を異ならせた実施例について説明すると、上述した基本となる実施例では、容量が容量50〜100リットル程の比較的小型のバット本体1が具えられたチーズ製造装置Dについて説明したが、更に大容量のバット本体1が具えられたチーズ製造装置Dに対して急速温調機構4を設けることも有用である。
すなわち図8に示すように、容量100〜600リットル程の大型のバット本体1の場合、保温ジャケット20内に温水W1を供給する温度調節だけでは、バット本体1内の原料乳M0または殺菌乳M1を所望の温度にするのに、非常に多大な時間を要してしまうが、急速温調機構4が設けられることにより、熱交換器40によって高効率で原料乳M0または殺菌乳M1の昇温または降温が行われるため、チーズ製造に要する時間の短縮効果は更に増すこととなる。
【0065】
ここで前記循環水タンク25周辺の構成については、前出の旧型装置で採用されていた構成としてもよく、以下その構成について説明する。
まず注水管27が適宜水道の蛇口等に接続され、この注水管27に三方弁V2が接続されることにより、水の供給先を注水管27Aまたは注水管27Bのいずれかに選択できるように構成されている。
また前記注水管27Aは、循環水タンク25の上部に形成された注水口25cに対して接続されている。そしてこの注水口25cには、フロート弁25fが具えられており、循環水タンク25に所定量以上の水が供給されてしまうのを防ぐように構成されている。
一方、前記注水管27Bは、前記出水口25aにその排出部が臨むように設置されており、ここから排出された水は、いったん循環水タンク25内に収容されるものの、即座に出水口25aから排出されるように構成されている。
【0066】
なお前記循環水タンク25に注入された水は、冷水W2として供されるときにはそのまま循環させられ、温水W1として供されるときには循環水タンク25内において昇温されるものであり、ここでそのための機構について説明する。
具体的には、前記循環水タンク25の底部にはノズル28が配されるものであり、このノズル28に対して供給管28aを通じて、蒸気発生装置2Sから蒸気が供給される。
そして前記ノズル28から循環水タンク25内の水中に噴出された蒸気は、直接、 水に作用してその温度を上昇させ、温水W1が得られるものであり、流量調整弁V4によって蒸気の供給量が調整され、温水W1の温度が所望の値とされるものである。
また図示は省略するが、前記循環水タンク25内に管を設け、この管内に蒸気を通過させ、管の側周面を通じて循環水タンク25内の温水W1に熱を供給して、温水W1の温度を所望の値に維持するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 バット本体
11 フランジ
12 底板
12a 液抜口
12b 液抜管
13 変形防止板
13a 固定杆
13b ビス
14 センサホルダ
15 カバー
15a 挿入口
16 筐体
17 断熱材
19a 流出口
19b 流入口
2 温度調節機構
2S 蒸気発生装置
20 保温ジャケット
20a 仕切板
21 入水口
21a 流方向板
22 出水口
23 給水管
24 集水管
25 循環水タンク
25a 出水口
25b 入水口
25c 注水口
25d オーバーフロー口
25e 排出口
25f フロート弁
25g 入水口
25h 出水口
26 循環ポンプ
27 注水管
27A 注水管
27B 注水管
28 ノズル
28a 供給管
3 ミキサ
31 太陽ギヤボックス
31a 太陽軸
32 回転蓋
33 遊星ギヤボックス
33a 遊星軸
34 モータ
35 攪拌羽根
35a シャフト
35b 攪拌体
36 架台
37 スプロケット
38 チェーン
39 レール
4 急速温調機構
40 熱交換器
41 外管
41a 流入口
41b 流出口
41c 雄ネジ
41d ヘルール
42 内管
42a 流入口
42b 流出口
43 封止板
44 継手
44a ソケット
44b 雌ネジ
44c ヘルール
44d パッキン
44e クランプバンド
45 集合管
45a 流入口
45b 流出口
46a 管路
46b 管路
46c 管路
46d 管路
47 ポンプ
48 電磁弁
49 ポンプ
5 制御盤
51 温度センサ
52 温度センサ
53 pHセンサ
54 リミットスイッチ
6 カードナイフ
8 カッター
C カード
D チーズ製造装置
D2 カードミキサ
D3 モルダ
F 機枠
H ホエイ
M0 原料乳
M1 殺菌乳
M2 醗酵乳
M3 凝固乳
M4 チーズ原製品
P0 装置殺菌工程
P1 殺菌工程
P2 冷却工程
P3 醗酵工程
P4 凝固工程
P5 分離工程
P6 整形工程
P7 ミキシング工程
P8 成型工程
R レンネット
S スタータ
T チューブ
V1 三方弁
V2 三方弁
V3 流量調整弁
V4 流量調整弁
V5 三方弁
V6 電動比例制御バルブ
W1 温水
W2 冷水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バット本体と、ミキサとを具え、前記バット本体に投入された原料乳を、前記ミキサにより攪拌しながら乳酸醗酵させて醗酵乳とし、更に乳凝固剤を用いて凝固乳とし、この凝固乳からホエイを除去することにより、チーズ原製品を得る一連の処理を行う装置において、前記バット本体には、バット本体を囲繞する保温ジャケット及び温度調節機構が具えられ、この保温ジャケット内に供給する熱媒体として水を用いるとともに、この水の温度を調節することにより原料乳及び中間製品の温度を所望の値に設定する機能が具えられて成るものであり、更に前記熱媒体が収容される循環水タンク内には熱交換器が具えられ、この熱交換器に対して、バット本体内に位置する原料乳または殺菌乳を通過させることにより、原料乳または殺菌乳を調温することができるように構成されていることを特徴とするチーズ製造装置。
【請求項2】
前記熱交換器は、二重管式熱交換器であることを特徴とする請求項1記載のチーズ製造装置。
【請求項3】
前記熱交換器は、多葉状伝熱管を具えて成るものであることを特徴とする請求項1または2記載のチーズ製造装置。
【請求項4】
前記熱媒体の温度調節を行うための機器として、電動比例制御バルブが具えられ、この電動比例制御バルブによって蒸気と水とを混合することにより、所望の温度の熱媒体を得ることができるように構成されていることを特徴とする請求項1、2または3記載のチーズ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−167169(P2011−167169A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36556(P2010−36556)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(509003195)大生機設株式会社 (6)