説明

テニスラケットグリップ

【課題】テニスラケットの面出しを容易にすることのできるグリップを提供する。
【解決手段】断面多角形状の本体部を有するテニスラケットグリップにおいて、グリップの角を強調させることができ、テニスラケットの面出し効果を容易に得ることができるようにするため、本体部の対向する一対の外側面14a、14bを平面形状とし、外側面14a、14b以外の少なくとも一つの外側面13に凹R処理を施し、本体部の外周にグリップテープを巻回して、凹R処理を施した前記本体部の側面と、前記グリップテープとの間に間隙部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
テニス競技において正確なショットを打つためには、プレーヤがラケットの面を正確に認識し、微妙なラケット操作を行えることが望ましい。従来、プレーヤが出したい面でボールを打てるという、いわゆる“面出し”効果を与えることのできるテニスラケットのグリップ構造として、特許文献1に記載のラケットグリップが知られている。
【0002】
図8は、特許文献1に記載のラケットグリップ80の断面図である。
特許文献1に記載のラケットグリップ80は、エポキシ樹脂複合材料等よりなる断面八角形の下地部分81において、対向する一対の側面82以外の側面83を凹形状とし、下地部品81の周りを、柔らかく弾性のある上部部品83で覆うことで、プレーヤがラケットグリップ80を握った場合に、下地部品81の各側面間に形成される尖った峰状構造によりグリップの指標付け機能を与えるとともに、上部部品83により打球時のショックを吸収するものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特開平06−063182
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のラケットグリップは、グリップ本体の表面全体を、柔らかく弾性のある樹脂部品で被覆しており、強く握った場合は、下地部品の峰状構造によるラケット面の指標付け効果を得ることはできるものの、軽く握った場合は、その効果を得ることはできない。また、グリップ表面に柔らかい素材を配置しているので、使用に従いグリップが捻れてしまうという問題がある。
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、軽く握った場合であってもラケットの面出し効果を得ることができ、かつ使用によるグリップの捻れを防ぐことのできるテニスラケットグリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係るテニスラケットグリップは、断面多角形状の本体部の周囲にグリップテープを巻回してなるテニスラケットグリップにおいて、前記本体部の少なくとも一つの外側面に、その長手方向に沿う凹曲面状の溝部が設けられ、前記本体部の外周に巻回されたグリップテープと、前記溝部との間に間隙部が形成されることを特徴とする。
これにより、ラケットを軽く握った場合であっても、ラケットの角部を認識することができ、ラケットの面出し効果を容易に得ることができる。
【0006】
また、本発明の請求項2に係るテニスラケットグリップは、前記溝部は、前記本体部の角部より所定長離れた位置に形成され、前記本体部の角部と前記溝部との間に、互いに水平な一対の平行面が形成されることを特徴とする。
これにより、ラケットの角部による手の痛みを和らげることができ、ラケットの使用感を向上させることができる。
【0007】
また、本発明の請求項3に係るテニスラケットグリップは、請求項1または2に記載のテニスラケットグリップにおいて、前記溝部は、前記本体部の外側面のうち、対向する一対の外側面以外の全ての外側面に形成されることを特徴とする。
これにより、ラケットの角部をより明確に感じることができ、ラケットの面出し効果を高めることができる。
【0008】
また、本発明の請求項4に係るテニスラケットグリップは、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のテニスラケットグリップにおいて、前記本体部には、グリップエンド側からトップ側にかけてテーパー処理が施され、前記溝部は、前記テーパー処理領域において、グリップエンド側からトップ側にかけて連続的に浅くなるよう形成されることを特徴とする。
これにより、凹R処理を施していないラケットグリップに比して違和感のない把持感を与えることができる。
【0009】
また、本発明の請求項5に係るテニスラケットグリップは、請求項1ないし4のいずれかに記載のテニスラケットグリップにおいて、前記本体部は、ショアD硬度30以上のポリウレタンよりなる。
これにより、使用によるグリップの捩れを防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるテニスグリップラケットによれば、本体部の外側表面に凹R形状の溝部を設け、グリップテープをその上に直接巻き付けて、本体部とグリップテープとの間に隙間を設けることとしたので、テニスグリップラケットを軽く握った場合でも、グリップのエッジを十分に感じ取ることができるようになり、これにより、プレーヤは、ラケットを比較的軽く握っている構えの状態から、パワーを集中させるインパクトの瞬間まで、常に自分の出したい面でボールを打つことができ、ラケットの操作性を向上させることが可能となる。
【0011】
また、凹R形状の溝部と共に、本体部のエッジの両側に平行面を設けることとしたので、グリップを握った場合に手に掛かる負担を軽減することができ、良好な使用感を与えることができる。
【0012】
さらに、グリップの素材硬度を最適化することで、使用によるグリップの捩れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るテニスラケットグリップの正面図である。
【図2】本発明に係るテニスラケットグリップの本体部の正面図である。
【図3】本発明に係るテニスラケットグリップの本体部の断面図である。
【図4】本発明に係るテニスラケットグリップの断面図である。
【図5】本発明に係るテニスラケットグリップの本体部の拡大断面図である。
【図6】本発明に係るテニスラケットグリップとラケットフレームとを組み合わせた正面図である。
【図7】他の実施形態によるテニスラケットグリップ本体部の正面図である。
【図8】従来のテニスラケットグリップの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1に係るテニスラケットグリップ10(以下、「グリップ」という。)の正面図を、図2はグリップ10の本体部11の正面図を、図3は本体部11の横方向断面図をそれぞれ表す。
図1に示すグリップ10は、断面略八角形状の中空柱状部材よりなる本体部11の端部にエンドキャップ(図示せず)を包着し、かかる本体部11の外側にグリップテープ20を巻回して成るものである。
【0015】
本体部11の断面形状は、図3に示すように、断面八角形状の本体部11の各外側面のうち、連続する3つの外側面12a,12b,12cと、この3つの外側面にそれぞれ対向する3つの外側面12d,12e,12fとのそれぞれにおいて、凹曲面形状の溝部(R溝13a〜13f)を形成し、残りの一対の外側面14a,14bを、ラケット面に垂直なストレート面としたものである。
【0016】
本体部11には、図2に示すように、エンドキャップが包着されるグリップエンド側端、およびラケットフレーム側のトップ側端の一定の範囲を除く領域Sに、グリップエンド側からトップ側に向けて0.75/100ないし1.5/100程度のテーパーが施され、R溝13a〜13fは、かかるテーパー領域Sの全面に亘り施される。
【0017】
ここで、R溝13a〜13fの具体的形状について、図4、及び図5を用いて説明する。図4はグリップ10の横方向断面を、図5は本体部11の横方向の拡大断面をそれぞれ表す。
図4に示すように、本体部11にグリップテープ20を巻回すると、R溝13a〜13fと、グリップテープ20との間に間隙15が形成され、この間隙15により、プレーヤがグリップ10を握ったときにグリップ面の角を強調させることができる。
グリップの角を強調させるこの効果(エッジ効果)は、プレーヤに対する面出し効果に大きく寄与するものであり、凹Rの深さが浅すぎると、本体部11とグリップテープ20との間の間隙15が小さくなり、エッジ効果は弱くなる。一方、凹Rの深度が深すぎると、グリップ10を握ったときに角が強調されすぎ、手への負担が大きくなる。上記に鑑み、R溝13a〜13fの深度D、すなわち、凹Rの頂点部分から外側面12a〜12fの仮想平面までの距離(図5参照)は、0.25mmないし0・35mmとするのが好適である。
【0018】
また、外側面12a〜12fのR溝13a〜13fは、図5に示すように、グリップ10のエッジ16から所定の長さだけ内側の位置より形成されており、外側面12a〜12fのエッジ16の両側には平行部17が形成される。つまり、外側面12a〜12fは、R溝13a〜13fと、R溝13a〜13fの両端に連続して形成される一対の平行部17とより構成される。
【0019】
平行部17は、プレーヤがグリップ10を握ったときに、立ち過ぎたエッジ16により手に痛みを感じるのを防止するために設けられ、その幅Wは、エッジ16より1mmないし2mm程度に設けるのが好適である。これは、1mm以下の場合は、エッジ効果が強調されて手に負担が大きくなり、一方、2mm以上の場合は、エッジ効果が少なくなりR溝13a〜13fを形成することによる面出し効果が得られなくなることによるものである。
【0020】
以上のように形成されるR溝13a〜13fは、外側面12a〜12fの長手方向において均一の深さとしても良く、あるいは、図2に示すようなテーパーを有するタイプのグリップの場合は、グリップエンド端側の凹R深度が最深となり、トップ側の凹Rが最浅となるよう、その深さを連続的に変化させてもよい。このようにグリップ10のテーパーに合わせてR溝13a〜13fの深さを連続的に変化させることにより、グリップを握った時の違和感を解消することができる。
【0021】
上記の構造を有する本体部11は、本実施の形態1においては、発泡ポリウレタン樹脂の射出成型により作成することができる。例えば、テニスラケットのフレームの周囲に金型を配置し、発泡剤を加えたポリウレタン樹脂を注入することで、図6に示すようにテニスラケット本体のフレーム部30に、本体部11を形成することができる。
【0022】
成型後の本体部11の硬度は、ショアD硬度で30以上とするのが好ましく、ポリウレタンの製造上のバラツキを考慮すると、37ないし52とするのがより好ましい。これは、ショアD硬度が30以下であると、柔らかすぎるために、使用によりグリップが変形しやすく、ショアD硬度が55以上であると、硬すぎるために、打撃時の衝撃吸収性に劣ることになることによるものである。
【0023】
本実施の形態1のグリップ10は以上のように構成されるものであり、本体部11の外側面にR溝13a〜13fを設け、グリップテープ20をその上に直接巻き付けて、本体部11とグリップテープ20との間に隙間15を設けることとしたので、グリップ10を軽く握った場合でも、グリップ10のエッジ16を十分に感じ取ることができるようになり、これにより、プレーヤは、構えの状態からインパクトの瞬間まで、自分の出したい面でボールを打つことが可能となる。
【0024】
また、本体部10を、ショアD硬度が30以上となるようにしたので、ラケットの使用によるグリップの変形を抑えることができる。
【0025】
なお、本実施の形態1のグリップ10のように、R溝13a〜13fをストレート面14a,14b以外の全ての面に形成するのではなく、ストレート面14a,14b以外のいずれかの面のみ、あるいは選択した複数面にのみ形成してもよい。すなわち、プレーヤがグリップ10を握る基準とするストレート面14a,14bと、ラケットの面出しの指標となる角を与える少なくとも一つのR溝13a〜13fとを設けることで、プレーヤは、グリップのエッジとストレート面とを介してラケットの面を認識することができ、本実施の形態1のグリップ10と同様に、面出し効果を実感することができる。
【0026】
また、本実施の形態1においては、テーパータイプのグリップ10について説明したが、図7に示すようなストレートタイプのグリップ70においても、一対の平行面以外の各面にR溝13a〜13f、及び平行部17を形成すことで、上記実施の形態1のグリップ10と同様の効果を得ることができる。この場合は、R溝13a〜13fの深さは、グリップエンド端からトップ側にかけて一定の深度とすることで、グリップを握った場合の違和感を抑えることができる。
【0027】
(実施例)
以下、本発明の実施例及びこれと対比する比較例を示す。ここでは、本発明の実施例に係る2種類のテニスラケットと、比較例に係る3種類のテニスラケットとを比較する。以下の表1は、各テニスラケットのグリップ、およびラケットの仕様を示している。
【0028】
【表1】




実施例1ないし比較例3は、主に、グリップのR溝13a〜13fの有無、R溝13a〜13fの深さ、及びエッジ部の形状について差異を与えている。具体的には、実施例1,2、及び比較例1は、グリップにR溝13a〜13fを設け、R溝13a〜13fの深さをそれぞれのグリップにおいて異ならせている。なお、いずれのグリップにおいても、平行部17は同一幅(1mm)としている。また、比較例2,3は、いずれもグリップにR溝13a〜13fを設けず、比較例2はグリップの各面間にエッジを与えたもの、また比較例3はグリップの各面間のエッジを丸めたものである。なお、ラケットの全長、バランス、モーメントなど、グリップ以外の要素については、全てのラケットにおいて略同じになるよう調整している。
【0029】
以上のように構成された実施例、及び比較例に係るテニスラケットを用いて実打試験を行った。当該実打試験は、複数(25名)の中上級プレーヤ(大学、社会人)を対象にして、実際に、実施例1,2、及び比較例1〜3のラケットを用いて打撃練習を行い、その際の「面がわかるか」、「軽く握れるか」等のプレーヤが体感したグリップ使用感の評価を行っている。また、ボレー、ローボレーでの評価について、別途独立して評価を行なった。
以下の表2は、上記実打試験の総合評価の結果であり、表3は、ボレー、ローボレーでの評価結果である。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
表2から明らかなように、実施例1については、いずれの項目においても良好な評価が得られている。特に、「面が分かる」、「リラックスできる」、「軽く握れる」のいずれの評価も高く、ラケット操作がし易い点が評価されていることで、結果的に「ミスが出にくい」の評価が高くなっていることが分かる。
【0033】
一方、比較例1ないし3については、個別の項目については部分的に良好な評価を得たものもあるが、「面がわかる」「軽く握れる」においては実施例の評価と同等、もしくは低い結果となっている。
【0034】
また、表3に示すボレー、ローボレーの評価において、R溝13a〜13fの深度を最も深くした比較例1が、「面がわかる」の評価が最も高く、これによりR溝13a〜13fによる面出し効果が十分に得られることが分かるが、総合評価として「グリップが痛くない」の評価が低く、テニスラケットの総合的な評価としては実施例に比して劣っている。
【0035】
以上から明らかなように、本発明に係るグリップによれば、面出し効果を十分に奏することができると共に、良好な使用感を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によるテニスラケットグリップによれば、グリップを軽く握ったリラックスした状態においても、ラケットの面だし効果を十分に感じ取ることができ、且つ操作性に優れたテニスラケットを提供することができる点において有用である。
【符号の説明】
【0037】
10 テニスラケットグリップ
11,70 本体部
12a〜12f 外側面
13a〜13b R溝
14a,b ストレート面
15 隙間
16 エッジ
17 平行部
20 グリップテープ
30 フレーム部
80 ラケットグリップ
81 下地部分
82,83 一対の側面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面多角形状の本体部の周囲にグリップテープを巻回してなるテニスラケットグリップにおいて、
前記本体部の少なくとも一つの外側面に、その長手方向に沿う凹曲面状の溝部が設けられ、
前記本体部の外周に巻回されたグリップテープと、前記溝部との間に間隙部が形成される、
ことを特徴とするテニスラケットグリップ。
【請求項2】
請求項1に記載のテニスラケットグリップにおいて、
前記溝部は、前記本体部の角部より所定長離れた位置に形成され、前記本体部の角部と前記溝部との間に、互いに水平な一対の平行面が形成される、
ことを特徴とするテニスラケットグリップ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のテニスラケットグリップにおいて、
前記溝部は、前記本体部の外側面のうち、対向する一対の外側面以外の全ての外側面に形成される、
ことを特徴とするテニスラケットグリップ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のテニスラケットグリップにおいて、
前記本体部には、グリップエンド側からトップ側にかけてテーパー処理が施され、
前記溝部は、前記テーパー処理領域において、グリップエンド側からトップ側にかけて連続的に浅くなるよう形成される、
ことを特徴とするテニスラケットグリップ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のテニスラケットグリップにおいて、
前記本体部は、ショアD硬度30以上のポリウレタンよりなる、
ことを特徴とするテニスラケットグリップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−115392(P2012−115392A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266603(P2010−266603)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)