説明

テンション装置

【課題】細い線材に対してきめ細かくテンション制御を行えるテンション装置を提供する。
【解決手段】空気圧源150よりホースH、コネクタCを介して空気室133e内に給送すると、下方斜孔143はステージ133xの内側面で遮蔽されているので、開放した上方斜孔142のみから空気が中空筒状体140の貫通孔141内に供給される。すると、図2に示すように、貫通孔141内には上方に向かう気体の流れが生じる。 その後、カットアンドホールド機構が線材Wを釈放し、回転軸122を回転させることで、線材WをボビンBの外周面に巻き付けてゆくが、このとき、貫通孔141内を通過する線材Wには、上方に向かう空気流により抵抗が与えられ、所望のテンションを付与されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動する線材に所定の張力を付与するテンション装置に関し、例えば、細い線材をボビンに巻回する巻線機に用いられると好適なテンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボビンに線材を巻き付けてコイルを製造する巻線機が知られている。まず、従来技術による巻線機について簡単に説明する。図4は、従来技術による巻線機の一例を示す斜視図である。図4において、図示されていない線材の供給源から矢印方向に、巻線機に向かって線材Wが供給されている。
【0003】
供給された線材Wは、まずテンション装置10を介して巻線機の下方に送られ、駆動部40に支持された細いパイプ状のノズル20を通過した後、その先端を挟み部30において挟まれて保持される。
【0004】
ノズル20は、駆動部40の駆動により3次元的に移動可能となっており、より具体的には、回転シャフト50の先端に保持されたボビンBの上方において、その位置を自在に変更できるほか、その姿勢をも変更することができる。
【0005】
巻線機の動作について説明すると、まず線材Wの先端を挟み部30に挟んだまま、ノズル20がボビンBの端子部B1の周囲をぐるりと回り、線材Wを端子部B1に巻き付ける動作(からげ動作)がなされる。
【0006】
線材Wが端子部B1にからみついた状態で、挟み部30はボビンBから離れる方向に移動して線材Wの先端を切断する。線材Wが太く移動による切断が困難な場合は、図示されていない駆動部40に支持されたニッパーで切断する。その後、回転シャフト50をボビンBとともに高速回転させる。この際ボビンBの回転に同期させて、ノズル20をボビンBの長さ方向に所定のピッチで移動させ、それにより同一箇所に線材が巻き付くことを防止する。
【0007】
所定回数だけ、線材WがボビンBに巻き付いた段階で、回転シャフト50を停止させる。その後再びノズル20のからげ動作により、線材WをボビンBの端子部B2にからみつかせ、かつ線材Wを切断して、巻線機の動作は終了する。
【0008】
ところで、かかる巻線機の動作において、線材WをボビンBの周囲にきれいに巻くため、あるいはユーザーの要求する仕様に成るよう精密に巻くためには、一定の張力を線材Wに付与して、線材Wの巻付き時にたるみ等が生じないようにする必要がある。そこでテンション装置10を、ノズル20と線材の供給源との間に配置し、ボビンBの回転に伴って線材Wが移動するときに一定の制動力を付与し、それにより線材Wにたるみが生じないようにしている(特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開平11−116141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、外径φ0.02mm以下の超極細線の巻線を行いたいという要求がある。しかるに、このように細い線材について巻線を行う場合には、太い線材とは異なる取り扱いが必要であることが判明した。
【0010】
特許文献1においては、磁力を用いて線材が巻き付くテンションプーリに抵抗を与え、線材にテンションを与える技術が開示されている。しかるにテンションプーリは、ある程度の質量を有するので慣性によるレスポンスの遅れが問題となる。例えば線材が巻き付いたボビンの回転速度を増大させる加速時には、線材に引っ張られてテンションプーリも加速するが、慣性の影響により回転速度は直ちに増大せず、それにより線材のテンションが高まり線材が細いと容易に断線してしまうという問題がある。一方、線材が巻き付いたボビンの回転速度を低下させる減速時には、テンションプーリは付与されている磁力で回転速度が徐々に低下するが、慣性により直ちに減速しないため、線材を送り出しすぎてテンションがゼロとなり、線材の巻き付け不良を招く恐れがある。
【0011】
更に、特許文献1のテンション装置においては、線材が巻き付いたプーリは揺動可能なテンションバーで支持されており、このテンションバーは、線材にテンションを与える方向に弾性的に付勢されている。従って線材のテンションが変化したときは、テンションバーが揺動して、線材の過度の緊張や弛みを排除するようになっている。しかしながら、テンションバーの効果を確保するためには、テンションバーをある程度長くせざるをえず、それにより慣性が大きくなる。従って、細い線材のテンション調整に用いると、例えば巻線に使用しているボビンが長方形であるような、縦横比の大きなものであると、巻線中の線速変化が激しく、巻線が高速となれば、テンションバーが追従できず線材の緊張と弛みが生じてテンション値の増減をきたし、容易に切断してしまう恐れがある。以上の問題は、太い線材においては、表面化していなかったものである。
【0012】
尚、フェルト等の間に細い線材を通して軽く挟み、その摩擦力で軽い抵抗を与えることも考えられる。しかしながら、細い線材が長時間フェルト等と擦れ合うので、塵埃が堆積したり摩耗することで摩擦力が変化してテンション機能が不安定になる恐れがある。特に、細い線材の場合には、テンション値が小さいので、通常の線材よりもテンション制御を精密に行う必要がある。
【0013】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、細い線材に対してきめ細かくテンション制御を行えるテンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成すべく、本発明のテンション装置は、線材の供給源から線材の処理部(例えば巻線を行うボビンやボビンレス治具等)まで移動する線材に張力を付与するテンション装置において、
前記線材が内部を通過する開口を備えた保持部材と、
前記開口内に気体を給送する給送手段とを有し、
前記開口内に給送された気体は、前記保持部材に対して相対移動する前記線材に対して抵抗を付与することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のテンション装置は、前記線材が内部を通過する開口を備えた保持部材と、前記開口内に気体を給送する給送手段とを有し、前記開口内に給送された気体は、前記保持部材に対して相対移動する前記線材に対して抵抗を付与するので、固体同士の摩擦に頼らず、気体の抵抗を用いて線材にテンションを与えることができるため、細い線材に微小なテンションを付与することも可能になる。
【0016】
前記給送手段は、前記開口内に給送する気体の量又は速度を調整可能となっていると、線材に与えるテンションを任意に調整できるので好ましい。
【0017】
前記保持部材は、前記線材をボビンに供給するためのノズルに組み付けられていると、巻線を行うボビンとテンション装置との距離が狭まり、その間のワイヤ長さも最小限に抑えることができ、ワイヤーイナーシャーも最小にする事が出来る、更に巻線機のコンパクト化を図れるので好ましい。
【0018】
前記給送手段は、前記ノズル内に給送する気体の方向を調整可能となっていると、前記ノズルに線材を通過させやすくなるので好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明による実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は、本発明による実施の形態にかかるテンション装置を含むノズル周辺の斜視図である。図2、3は、本実施の形態のノズルの断面図である。本実施の形態のテンション装置は、図4に示す巻線機(巻線機を複数並列に並べた多軸巻線機を含む)に用いることができるが、プーリを用いたテンション装置は不要である。尚、本実施の形態で用いる線材の径はφ0.1mm以下であるものとする。
【0020】
図1において、ボビンBは、不図示のモータの回転軸122の先端に取り付けられているが、(回転)駆動部である回転軸122は、軸線方向には移動しない。回転軸122に近接して、XYZ移動機構133が設けられている。XYZ移動機構133は、モータ133aによりZ方向に移動可能なステージ133zと、ステージ133z上に載置されモータ133bによりY方向に移動可能なステージ133yと、ステージ133y上に載置されモータ133cによりX方向に移動可能な細長いステージ133xとを有している。ステージ133xの先端には、中空筒状体140が取り付けられている。XYZ移動機構133は、図示の形態に限られない。
【0021】
図2、3において、ステージ133xは、中空筒状体140が挿通された開口133dと、開口133dの周囲に形成された環状の空気室133eとを有している。空気室133eは、ステージ133xの側面に形成された径孔133pを介して外部と連通している。径孔133pにはコネクタCが挿入されており、コネクタCにホースHを接続することで、外部の空気圧源150から空気室133eに、圧力又は流量が調整された空気が供給されるようになっている(図1参照)。空気圧源150が給送手段を構成する。
【0022】
保持部材である中空筒状体140は、中央を貫通する貫通孔(開口)141と、貫通孔141に向かって外部から斜め上方に延在する上方斜孔142と、貫通孔141に向かって外部から斜め下方に延在する下方斜孔143とを有している。中空筒状体140の下端には、細いチューブ状のノズル139が同軸に取り付けられている。尚、中空筒状体140の開口141の内径は、線材Wの外径の2〜30倍であると好ましい。
【0023】
ステージ133xに対して、中空筒状体140は相対移動可能となっており、図2に示す状態では、上方斜孔142に空気室133e内が開口し、下方斜孔143はステージ133xの内側面で遮蔽される。一方、図3に示す状態では、下方斜孔143に空気室133e内が開口し、上方斜孔142はステージ133xの内側面で遮蔽される。
【0024】
本実施の形態の動作について説明する。まず、初めて中空筒状体140内に線材Wを通過させる場合、ステージ133xに対して中空筒状体140を移動させ、図3に示す状態となるようにする。ここで、空気圧源150よりホースH、コネクタCを介して空気室133e内に給送すると、上方斜孔142はステージ133xの内側面で遮蔽されているので、開放した下方斜孔143のみから空気が中空筒状体140の貫通孔141内に供給される。すると、図3に示すように、貫通孔141内には下方に向かう気体の流れが生じる。そこで、中空筒状体140の上部に線材Wの端部をセットすると、気流により貫通孔141内に吸い込まれることとなる。線材Wはきわめて細いので、手作業で中空筒状体140に挿通することが困難であり、このように自動的にセットできると作業の手間が省ける。
【0025】
更に、ステージ133xに対して中空筒状体140を移動させ、図2に示す状態となるようにする。ここで、空気圧源150よりホースH、コネクタCを介して空気室133e内に給送すると、下方斜孔143はステージ133xの内側面で遮蔽されているので、開放した上方斜孔142のみから空気が中空筒状体140の貫通孔141内に供給される。すると、図2に示すように、貫通孔141内には上方に向かう気体の流れが生じる。
【0026】
巻線時には、中空筒状体140を通りノズル139の下端から突き出した線材Wの端部を、不図示のカットアンドホールド機構で把持した後、ノズル139が、ボビンBのフランジに形成されたいずれかの端子T(ここでは中央)の周囲を移動することで、線材Wを端子Tの周囲に巻き付ける、いわゆるからげ動作を行う。
【0027】
その後、カットアンドホールド機構が線材Wを釈放し、回転軸122を回転させることで、線材WをボビンBの外周面に巻き付けてゆくが、このとき、貫通孔141内を通過する線材Wには、上方に向かう空気流により抵抗が与えられ、所望のテンションを付与されるようになっている。気体による抵抗の付与は、線材Wを摩滅させることがなく、線材に係合するプーリ等も最小限で済むため、構成の簡素化を図れる。更に、ノズル139にテンション装置(中空筒状体140)を連結することで、巻線を行うボビンとテンション装置との距離が狭まり、その間のワイヤ長さも最小限に抑えることができ、加えてコンパクトな巻線機を提供できる。
【0028】
ノズル139は、中空筒状体140と一体的にボビンBの回転数に応じてXYZ移動機構133により軸線方向に往復移動させられる。それにより、ボビンBの外周面に既に巻き付いている線材Wの側面と、これから巻き付けようとする線材Wの側面とが密着するように複数層に巻き付けられる。
【0029】
巻線が終了すれば、ノズル139が端子T(例えば一番端)の周囲を移動することで、からげ動作が行われ、その後ノズル139から出ている線材Wを、カットアンドホールド機構でカットすることで、コイルの製造が完了する。
【0030】
尚、空気圧源150から中空筒状体140に供給される空気は、一定ではなく、例えば回転軸122の回転速度又は加速度に同期して、流量を制御できるようにすると好ましい。より具体的には、回転軸122の加速中には、中空筒状体140内に供給される空気量を抑えて線材Wのテンションを制限し、切断が生じないようにしたり、回転軸122の減速中には、中空筒状体140内に供給される空気量を増大させて線材Wのテンションを高めて、弛みを抑制したりすることもできる。
【0031】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定して解釈されるべきではなく、適宜変更・改良が可能であることはもちろんである。例えば、線材Wにテンションを付与するために中空筒状体に供給するものは、空気に限らず液体であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による実施の形態にかかるテンション装置を含むノズル周辺の斜視図である。
【図2】本実施の形態にかかる中空筒状体140の断面図である。
【図3】本実施の形態にかかる中空筒状体140の断面図である。
【図4】処理装置の一例である巻線機の斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
122 回転軸
133 移動機構
133a モータ
133b モータ
133c モータ
133d 開口
133e 空気室
133p 径孔
133x ステージ
133y ステージ
133z ステージ
139 ノズル
140 中空筒状体
141 貫通孔
142 上方斜孔
143 下方斜孔
150 空気圧源
B ボビン
C コネクタ
H ホース
T 端子
W 線材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材の供給源から線材の処理部まで移動する線材に張力を付与するテンション装置において、
前記線材が内部を通過する開口を備えた保持部材と、
前記開口内に気体を給送する給送手段とを有し、
前記開口内に給送された気体は、前記保持部材に対して相対移動する前記線材に対して抵抗を付与することを特徴とするテンション装置。
【請求項2】
前記給送手段は、前記開口内に給送する気体の量又は速度を調整可能となっていることを特徴とする請求項1に記載のテンション装置。
【請求項3】
前記保持部材は、前記線材をボビンに供給するためのノズルに組み付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のテンション装置。
【請求項4】
前記給送手段は、前記ノズル内に給送する気体の方向を調整可能となっていることを特徴とする請求項3に記載のテンション装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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