説明

ディスポーザブル型穿刺器具

【課題】ばね部材を圧縮した位置にランセットを係止した穿刺準備位置への保持と、係止解除による穿刺作動とを、確実に且つ安定した作動で行わせることが出来る新規な構造のディスポーザブル型穿刺器具を提供すること。
【解決手段】 本発明のディスポーザブル型穿刺器具10,100では、ハウジング12及びランセット14と別体の係止リング72を採用し、この係止リング72のみを回動操作することで、ばね部材16で付勢されて穿刺準備位置へ保持させたランセット14の係止を解除して穿刺作動させることができる。また、穿刺作動させるための操作力が、ランセット14に対して横方向に及ぼされることが回避されることから、ランセット14の中心軸のズレに起因する引っ掛かりや他部材への摩擦力の増大が防止されて確実に且つ安定した穿刺作動が実現され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚を穿刺して、少量の血液を採取するために用いられる穿刺器具に係り、特に、1回の使用で廃棄されるディスポーザブル型穿刺器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療目的で、少量の血液を自己採取しなければならない場合がある。例えば、糖尿病患者は、血糖レベルを定期的にチェック(血糖自己測定:SMBG)するために、患者自身が、自己の血液を採取する必要がある。このような血液の自己採取を安全且つ確実に行うことができるように、従来から、穿刺器具が用いられている。特に、感染防止の目的で、1回限りの使用で廃棄されるディスポーザブル型の穿刺器具が提供されている。
【0003】
かかる穿刺器具は、一般に、ハウジングに収容されたランセットをばね部材で付勢して、ランセットの先端部に設けた穿刺体をハウジングから突出させて穿刺作動させるようになっている。具体的には、特表2007−521031号公報(特許文献1)に記載されているように、ランセットをハウジング内に係止せしめた状態下で、ハウジングの操作部材を押してランセットより奥方に配したばね部材を圧縮変形させるようになっており、ばね部材の圧縮力が増大して係止が外れた時点でランセットがハウジングから突出して穿刺作動されるようになっている。
【0004】
ところが、このような従来構造の穿刺器具では、ランセットのハウジング内への係止が外れるのに必要とされるばね部材の圧縮力を精度良く設定することが難しかった。それ故、ばね部材が充分に圧縮されていないのにランセットの係止が外れて穿刺作動されるために、充分な穿刺力が及ぼされずに血液の滲出量が不足したり、反対に操作部材を強く押してもランセットの係止が外れずに穿刺作動を行い難い場合もあった。
【0005】
なお、特表2007−536008号公報(特許文献2)や特許第3964457号公報(特許文献3)には、ばね部材を圧縮変形させるための押圧操作部材に係止解除用の当接部を設け、該押圧操作部材が所定位置まで達した際に、かかる当接部が、ハウジングに係止されたランセットの係止片に当接して係止解除する構造が提案されている。しかし、これらの穿刺器具では、ばね部材を圧縮変形させることに加えてランセットの係止片を変形させて係止解除させるために必要な力を、押圧操作部材に及ぼさなければならず、操作力が大きくなってしまうことが避けられなかった。
【0006】
また、国際公開第2005/110225号パンプレット(特許文献4)や米国特許公開第2005/0070945号明細書(特許文献5)には、ランセットのハウジングへの係止片を横方向から押圧することで係止を外して突出作動させる構造も開示されているが、ランセットに設けた係止片に対して横方向からの押圧力が及ぼされることで、ランセットの中心軸がズレて他部材に引っ掛かったり、他部材に押し付けられて突出作動時の摩擦抵抗が大きくなることで、ランセットの突出作動時の動きが阻害されるおそれがあった。
【0007】
また一方、特許第3993529号公報(特許文献6)には、ランセットをハウジングに対して周方向に回転可能にして、ハウジング内面に形成した座面に対するランセットの係止を、ランセットの回転作動で解除する構造も開示されているが、ランセットに回転力を及ぼしてランセットを回転させると、ランセットの変形や変位によって係止の解除や突出作動の安定性を充分に確保し難くなるおそれがあり、特にばね部材で付勢された状態でランセットだけを回転させることが難しく、ばね部材にまで変形が及ぼされて付勢作動に悪影響がでるおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2007−521031号公報
【特許文献2】特表2007−536008号公報
【特許文献3】特許第3964457号公報
【特許文献4】国際公開第2005/110225号パンプレット
【特許文献5】米国特許公開第2005/0070945号明細書
【特許文献6】特許第3993529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、ばね部材を圧縮した位置にランセットを係止した穿刺準備位置への保持と、係止解除による穿刺作動とを、確実に且つ安定した作動で行わせることが出来る新規な構造のディスポーザブル型穿刺器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、ハウジングに収容されたランセットをばね部材で付勢し、該ランセットの先端部に設けた穿刺体を該ハウジングから突出させて穿刺作動させるディスポーザブル型穿刺器具において、前記ハウジング内に係止リングを配設し、前記ランセットが該係止リングを貫通して突出方向に変位可能とすると共に、該ランセットに係止突部を設けて、該係止突部の該係止リングへの係止作用により、前記ばね部材を圧縮変形させて該ランセットが該ハウジングの奥方の穿刺準備位置に保持されるようにする一方、該係止リングを回動させることにより該係止リングへの前記係止突部の係止を解除して該ランセットを前記ばね部材で突出方向に変位させて穿刺作動させる操作部材を設けたことを特徴とする。
【0011】
本態様の穿刺器具では、ハウジング及びランセットと別体の係止リングを採用し、この係止リングを回動操作することで、ばね部材で付勢されて穿刺準備位置へ保持させたランセットの係止を解除して穿刺作動させることができる。それ故、穿刺準備位置で予め圧縮されたばね部材により、ランセットに対して安定した付勢力が及ぼされて穿刺作動され得る。また、穿刺作動させるための操作力が、ランセットに対して横方向に及ぼされることが回避されることから、ランセットの中心軸のズレに起因する引っ掛かりや他部材への摩擦力の増大が防止されて安定した穿刺作動が実現される。しかも、回動操作される係止リングは、ばね部材で付勢されたランセットと異なり、それだけを容易に回動させることが出来るから、穿刺作動の操作を容易に且つ安定して行うことが可能となる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載のディスポーザブル型穿刺器具において、穿刺作動後において、前記係止リングの前記ランセットに対する周方向の相対位置が保たれて、該ランセットの前記係止突部における該係止リングへの係止解除状態が保たれることにより、該係止突部の該係止リングへの再係止が防止されるものである。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載のディスポーザブル型穿刺器具において、前記ランセットに再使用防止突部を設け、前記係止突部の係止が解除されて前記ランセットが穿刺作動された前記係止リングの回動位置において、該ランセットを前記ハウジングの奥方に押し込んで変位させると該再使用防止突部が該係止リングに当接して該係止リングに対する該ランセットの奥方への相対変位が制限されて、該係止突部の該係止リングへの再係止が防止されるものである。
【0014】
本態様の穿刺器具によれば、再使用防止の機構が係止リングを利用して実現され得る。特に、穿刺作動に際して係止リングが回動変位されることを利用して、穿刺作動後の係止リングの回動位置で係止リングに当接する再使用防止突部をランセットに設けたことにより、少ない部品点数と簡単な構造で再使用を確実に防止する機構を実現し得た。
【0015】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載のディスポーザブル型穿刺器具において、前記係止リングが前記ハウジングの奥方への変位を許容されており、前記ランセットが穿刺作動された該係止リングの回動位置において、該ランセットを該ハウジングの奥方に押し込んで変位させると、前記再使用防止突部が該係止リングに当接して該ランセットと共に該係止リングも奥方に変位するものである。
【0016】
本態様の穿刺器具によれば、ハウジングの先端側からランセットを押し込むことにより、ランセットの係止突部を強制的に係止リングの奥方まで移動させて係止リングに係止させようとしても、係止リングがランセットと共に奥方に変位してしまうことから、再使用が一層確実に防止され得る。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れか1態様に記載のディスポーザブル型穿刺器具において、前記係止リングの前記ハウジングに対する回動を阻止する誤操作防止機構を設けたものである。
【0018】
本態様の穿刺器具においては、係止リングの回動を阻止することで予期しない穿刺作動を防止できるのであり、例えばばね手段で付勢されたランセットの突出を直接に阻止する場合に比して、周方向に付勢されていない係止リングの回動阻止は強度の小さな部材で簡単に実現可能である。
【0019】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載のディスポーザブル型穿刺器具において、前記ランセットの先端部に装着されて前記穿刺体を覆うキャップが設けられており、該キャップの装着状態下で該キャップと該ランセットとの何れかを介して前記係止リングが前記ハウジングに対して回転不能に係合されて前記誤作動防止機構が構成されていると共に、該キャップを取り外すことでかかる係合が解除されて該係止リングの回動が許容されるものである。
【0020】
本態様の穿刺器具では、穿刺作動に際して取り外されるキャップを利用して、誤作動防止機構が解除されることから、誤作動防止機構が不用意に解除されてしまうことが防止されると共に、穿刺作動時には特別な操作を必要とすることなく誤作動防止機構が解除され得る。
【0021】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れか1態様に記載のディスポーザブル型穿刺器具において、前記ランセットを前記ハウジングに対して周方向変位を規制しつつ突出方向に案内する案内機構が設けられているものである。
【0022】
本態様の穿刺器具では、係止リングの回動に伴ってランセットが連れ回りしてしまうことが確実に防止されて、係止リングの回動操作による穿刺作動が一層確実に行われ得ると共に、ランセットの突出による穿刺作動の安定性の更なる向上も図られ得る。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、係止リングを回動操作することで、ばね部材で付勢されて穿刺準備位置へ保持させたランセットの係止を解除して穿刺作動させることができるから、穿刺作動させるための操作力がランセットに対して横方向に及ぼされることがなく、ランセットの中心軸のズレに起因する引っ掛かりや他部材への摩擦力の増大が防止されて、目的とする穿刺作動が安定して実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具の標準状態を示す全体平面図。
【図2】図1に示された穿刺器具の分解斜視図。
【図3】図1のIII−III断面図。
【図4】図3のIV−IV断面図。
【図5】図3のV−V断面図。
【図6】図2の要部拡大図。
【図7】図1に示された穿刺器具を構成する係止リングの斜視図。
【図8】図1に示された標準状態または穿刺準備状態における係止リングの作用を説明するための後面図。
【図9】図1に示された標準状態または穿刺準備状態における係止リングの作用を説明するための前面図。
【図10】図1に示された穿刺器具の穿刺準備状態を示す、図3に対応する縦断面図。
【図11】図10のXI−XI断面図。
【図12】図1に示された穿刺器具の穿刺作動を説明するための、図5に対応する横断面図。
【図13】図12に示された穿刺作動状態における係止リングの作用を説明するための後面図。
【図14】図12に示された穿刺作動状態における係止リングの作用を説明するための前面図。
【図15】図1に示された穿刺器具の穿刺作動状態を示す、図3に対応する縦断面図。
【図16】図15のXVI−XVI断面図。
【図17】図1に示された穿刺器具の穿刺後を示す、図3に対応する縦断面図。
【図18】図17のXVIII−XVIII断面図。
【図19】図1に示された穿刺器具の再使用防止の作動を説明するための、図3に対応する縦断面図。
【図20】図19のXX−XX断面図。
【図21】本発明の第2の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具の標準状態を示す縦断面図。
【図22】図21のXXII−XXII断面図。
【図23】図21のXXIII−XXIII断面図。
【図24】図21に示された穿刺器具の分解斜視図。
【図25】図21に示された標準状態または穿刺準備状態における係止リングの作用の説明図。
【図26】図21に示された穿刺準備状態における係止リングの作用を説明するための後方斜視図。
【図27】図21に示された穿刺器具の穿刺準備状態を示す、図21に対応する縦断面図。
【図28】図21に示された穿刺器具の穿刺作動を説明するための、図23に対応する横断面図。
【図29】図28に示された穿刺作動状態または穿刺後の状態における係止リングの作用の説明図。
【図30】図28に示された穿刺作動状態における係止リングの作用を説明するための後方斜視図。
【図31】図21に示された穿刺器具の穿刺作動状態を示す、図21に対応する縦断面図。
【図32】図21に示された穿刺器具の穿刺後を示す、図21に対応する縦断面図。
【図33】図21に示された穿刺器具の再使用防止の作動を説明するための、図21に対応する縦断面図。
【図34】図33のXXXIV−XXXIV断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0026】
先ず、図1には、本発明の一実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具10の平面図が示されており、その分解斜視図、縦断面図及び横断面図が、図2〜5に示されている。なお、図1,3,4,5は、何れも、市場でユーザーに商品として提供される状態(標準状態)での穿刺器具10を示している。かかる穿刺器具10は、ハウジング12に対して、ランセット14と圧縮コイルばね(ばね部材)16が収容されており、ランセット14から針キャップ18を外してハウジング12の操作片20を押操作することで、ランセット14がハウジング12から突出して穿刺作動するようになっている。なお、以下の説明中、特に断りのない限り、中心軸方向とはハウジング12及びランセット14の中心軸方向(図1中の左右方向)をいい、ランセットの14の突出方向となる図1中の左方向を前方、右方向を後方という。
【0027】
より詳細には、ハウジング10は、何れも樹脂成形品からなるハウジング本体22とハウジング口体24によって構成されている。ハウジング本体22は、深底の略有底円筒形状とされており、その開口部分に対して略円筒形状のハウジング口体24が固定的に組み付けられている。
【0028】
ハウジング本体22の底壁には、内面中央から内方に突出するばね座26が設けられている。また、ハウジング本体22の筒壁には、内周面上に突出して軸方向に直線的に延びる複数本の案内突条28が設けられている。そして、これら複数本の案内突条28により、ハウジング本体22の筒壁内面において、軸直角方向で対向位置する一対のガイドレール30,30が形成されている。
【0029】
また、ハウジング本体22の筒壁には、底壁側部分よりも僅かに拡径された開口側部分に位置して、操作部材としての操作片20が形成されている。この操作片20は、ハウジング本体22の周壁に形成された貫通窓34内に配されて、ハウジング本体22に対して部分的に連結されている。そして、ハウジング本体22の外側から操作片20を手指で押すことにより、かかる連結部の弾性変形に基づいて、操作片20がハウジング本体22の内方に向けて変位されるようになっている。
【0030】
さらに、ハウジング本体22の筒壁の開口周縁部には、外周面上に突出して周方向に延びる係合リブ36が一体形成されている。一方、ハウジング口体24の軸方向後端側には、外周を周方向に延びる大径の係合リング38が一体形成されている。なお、係合リング38は、ハウジング口体24の外周面上で周上の複数箇所に突設された連結脚部40によって、ハウジング口体24に連結支持されている。
【0031】
そして、ハウジング本体22の開口部分にハウジング口体24が組み合わされ、ハウジング口体24の係合リング38に対してハウジング本体22の係合リブ36が係合されることで、ハウジング本体22にハウジング口体24が組み付けられている。なお、かかる組付状態下では、係合リブ36の係合リング38に対する係合作用で、ハウジング本体22に対してハウジング口体24が軸方向に位置決め固定されていると共に、係合リブ36の連結脚部40への係合作用でハウジング本体22に対してハウジング口体24が周方向でも位置決め固定されている。
【0032】
また、ハウジング口体24は、係合リング38の内周側で中心軸上を後方に向かって筒状に延び出しており、それによって、ハウジング本体22内に入り込む支持筒部42が形成されている。また、ハウジング口体24の外周面上に突設された連結脚部40は、支持筒部42の外周面上にまで軸方向に所定長さで延び出して形成されている。更にまた、ハウジング口体24の内周面には、前方側の開口部近くに位置する、一対のキャップ係止用突起47,47が、軸直角方向で対向位置して突出形成されている。
【0033】
さらに、ハウジング口体24の内周面には、一対の第一案内溝44,44と、一対の第二案内溝46,46とが、それぞれ径方向で対向位置して軸方向に平行に延びて形成されている。これら第一案内溝44,44と第二案内溝46,46は、何れも、ハウジング口体24の軸方向中間部分から支持筒部42の内周面にまで延びており、支持筒部42の後方端部に開口されている。
【0034】
特に本実施形態では、一対の第一案内溝44,44が対向する径方向と、一対の第二案内溝46,46が対向する径方向とが、互いに直交している。また、第一案内溝44は、第二案内溝46に比して、その周方向幅寸法と径方向深さ寸法とが、何れも大きくされており、支持筒部42では、第一案内溝44が支持筒部42の周壁を貫通してスリット形状とされている。
【0035】
そして、このようにハウジング本体22とハウジング口体24から構成されたハウジング12には、その内部空間に対してランセット14が収容状態で組み込まれている。なお、ハウジング口体24は、穿刺後の血液溜まりを目視可能とするために透明または半透明とすることが好適である。
【0036】
かかるランセット14は、インサート成形品であって、ロッド形状を有する合成樹脂製のランセットハブ50に対して、その中心軸上に穿刺針52が埋設固着されている。そして、ランセットハブ50の先端部中央から前方に向かって穿刺針52の先端が突設されている。
【0037】
また、ランセットハブ50の後端部には、周方向に延びる環状支持突部を備えたばね座54が形成されている。更に、ランセットハブ50の後端部分の外周面上には、軸直角方向両側に突出する一対のガイド突起56,56が、一体形成されている。一方、ランセットハブ50の前端部分の外周面上には、軸直角方向両側に突出する一対の再使用防止突部58,58が一体形成されている。更に、かかる一対の再使用防止突部58,58よりも所定寸法だけ軸方向後方に位置して、ランセットハブ50の外周面上で軸直角方向両側に突出する一対の係止突部60,60が一体形成されている。
【0038】
ここにおいて、一対の再使用防止突部58,58の突出方向と、一対の係止突部60,60の突出方向とは、互いに異ならされている。特に本実施形態では、一対の再使用防止突部58,58の突出方向と、一対の係止突部60,60の突出方向とが、互いに中心軸回りで90度異ならされており、また、一対の再使用防止突部58,58の突出方向が、一対のガイド突起56,56の突出方向と、中心軸回りで同じ方向に設定されている。
【0039】
さらに、ランセットハブ50の先端側には、針キャップ18が設けられている。この針キャップ18は、ロッド形状とされており、穿刺針52が突設されたランセットハブ50の先端から同一中心軸上に延び出して一体成形されている。ランセットハブ50と針キャップ18との境界部分は括れ状に外径寸法が小さくされたねじ切部64とされており、ランセットハブ50に対して針キャップ18を中心軸回りに捩じってねじ切部64で離脱させることで、針キャップ18を手作業でランセットハブ50から取り外すことが出来るようになっている。そして、針キャップ18をランセットハブ50から取り外すことで、針キャップ18で覆われていた穿刺針52の先端部を露出させ得るようになっている。
【0040】
また、図6に示されているように、針キャップ18の先端部分は、扁平な摘み部66とされており、この摘み部66の後端部分には、幅方向両側部分において、それぞれ、突起68と舌片状の弾性爪部70とが軸方向で対向位置して突出形成されている。
【0041】
そして、かかるランセット14は、ハウジング本体22に対してランセットハブ50の後端側が差し入れられ、ハウジング口体24に対して針キャップ18が挿通された状態で、ハウジング12の中心軸上に配設されて組み付けられている。また、かかるランセット14のハウジング12への組み付けに際しては、圧縮コイルばね16と係止リング72とがハウジング12内に組み付けられて装着されている。
【0042】
すなわち、圧縮コイルばね16は、ハウジング本体22の底部に収容されて中心軸上に配されており、その後方端部がハウジング本体22のばね座26に嵌められて位置決めされていると共に、その前方端部がランセットハブ50のばね座54に嵌め合わされている。これにより、かかる圧縮コイルばね16が、ハウジング本体22の底部とランセットハブ50の後端部との軸方向対向面間に介装されており、ランセットハブ50が軸方向後方(ハウジング本体22の奥方)に変位されることで圧縮変形させられ、圧縮変形に伴う付勢力がランセットハブ50をハウジング本体22から前方に押し出す方向に及ぼされるようになっている。
【0043】
一方、係止リング72は、図6〜9にも示されているように、略円形のリング形状を有する樹脂成形品であり、ハウジング口体24の支持筒部42に外挿されて回動可能に装着されている。なお、係止リング72には、前方に向かって突出する一対の当接脚部74,74が一体形成されており、かかる当接脚部74が、支持筒部42において周上で隣り合う連結脚部40,40間に差し入れられている。そして、係止リング72が回動した際、当接脚部74が連結脚部40に対して周方向で当接することにより、支持筒部42上での係止リング72の周方向の回動許容範囲が45度よりも小さく設定されている。
【0044】
また、係止リング72には、後方端部に位置して内フランジ状の係合部75が一体形成されており、この係合部75の内周面には、一対の第一通過溝76,76と、一対の第二通過溝78,78とが、それぞれ径方向で対向位置して軸方向に平行に延びて形成されている。これら第一通過溝76,76と第二通過溝78,78は、何れも、係合部75の軸方向全長に亘って直線的に延びている。
【0045】
更にまた、係合部75の内径寸法は、ランセットハブ50及び針キャップ18の外径寸法よりも僅かに大きくされており、それらランセットハブ50及び針キャップ18に対して係止リング72が外挿装着されている。また、係合部75の第一通過溝76は、ランセットハブ50の再使用防止突部58よりも僅かに大きな断面形状とされており、かかる再使用防止突部58が第一通過溝76内を軸方向に移動可能とされている。また一方、係合部75の第二通過溝78は、ランセットハブ50の係止突部60よりも僅かに大きな断面形状とされており、かかる係止突部60が第二通過溝78内を軸方向に移動可能とされている。
【0046】
また、係止リング72では、一対の第一通過溝76,76が対向する径方向と一対の第二通過溝78,78が対向する径方向との為す角度(交角)が、ランセットハブ50において一対の再使用防止突部58,58が対向する径方向と一対の係止突部60,60が対向する径方向との為す角度(交角)と異ならされている。特に本実施形態では、一対の第一通過溝76,76が対向する径方向と一対の第二通過溝78,78が対向する径方向とが、相互に略60度で交差するようにされている。
【0047】
これにより、図8,9からも明らかなように、係止リング72に対してランセットハブ50が挿通された状態下で、ランセットハブ50の一対の再使用防止突部58,58が係止リング72の一対の第一通過溝76,76に位置合わせされて軸方向への通過が許容された周方向の相対位置では、ランセットハブ50の一対の係止突部60,60が係止リング72の一対の第二通過溝78,78に対して位置ずれ状態にあり、係止突部60,60が係止リング72に係止されて軸方向前方への移動が阻止されるようになっている。一方、ランセットハブ50の一対の係止突部60,60が係止リング72の一対の第二通過溝78,78に位置合わせされて軸方向への通過が許容された状態下では、ランセットハブ50の一対の再使用防止突部58,58が係止リング72の一対の第一通過溝76,76に対して位置ずれ状態にあり、再使用防止突部58,58が係止リング72に係止されて係止リング72に対するランセットハブ50の軸方向後方への相対移動が阻止されるようになっている。
【0048】
なお、ランセットハブ50における一対の再使用防止突部58,58と一対の係止突部60,60とは、中心軸方向で係止リング72における係合部75の厚さ寸法より僅かに大きな距離だけ離れている。これにより、係合部75の軸方向前方に再使用防止突部58,58が外れて位置し且つ係合部75の軸方向後方に係止突部60,60が外れて位置した状態下、ランセットハブ50に外挿された係止リング72をランセットハブ50に対して回動させることができるようになっている。そして、この係止リング72の回動により、一対の再使用防止突部58,58と一対の係止突部60,60との何れか一方を、選択的に、第一通過溝76,76または第二通過溝78,78に対して位置合わせして、軸方向への通過変位を許容し得るようになっている。
【0049】
また、係止リング72の外周面には、一対の押圧片80,80が、径方向両側に突出して一体形成されている。この押圧片80は、係止リング72の軸方向視において不等辺直角三角形状を有しており、その斜辺に相当する面が、係止リング72の中心軸回りで傾斜した押圧傾斜面82とされている。そして、図3及び図5に示されているように、これらの押圧片80,80は、係止リング72を支持筒部42に装着した状態下で、ハウジング本体12の操作部20の内方に位置するように位置合わせされている。
【0050】
このようにして、圧縮コイルばね16及び係止リング72と共にランセット14をハウジング12に組み込むことによって、本実施形態の穿刺器具10が構成されている。なお、ハウジング12に組み込まれたランセット14は、ランセットハブ50に突設されたガイド突起56,56が、ランセット14を突出方向に案内する案内機構としてのガイドレール30,30に差し入れられており、ランセット14のハウジング12に対する周方向変位である中心軸回りの回転を阻止された状態で軸方向の移動が許容されている。
【0051】
また、ユーザーに提供される商品としての標準状態では、図4に示されているとおり、ハウジング口体24のキャップ係止用突起47,47が、それぞれ、針キャップ18に形成された突起68と弾性爪部70の間で軸方向に挟まれて係止されており、針キャップ18の摘み部66がハウジング口体24から外方に所定長さで突出する状態で、ランセット14がハウジング12に対して軸方向で位置決めされている。
【0052】
かかる標準状態では、図3に示されているとおり、ランセット14は、圧縮コイルばね16を圧縮変形させて、ランセットハブ50の係止突部60,60が係止リング72よりも更に後方に位置するまで、ハウジング本体22の奥方まで押し込まれている。そして、かかる状態下、図4に示されているように、ランセットハブ50の再使用防止突部58,58は、係止リング72の第一通過溝76,76と、ハウジング口体24の支持筒部42の第一案内溝44,44との間に跨がって位置されている。即ち、係止リング72の第一通過溝76とハウジング口体24の第一案内溝44とが、再使用防止突部58で係合されることによって、係止リング72がハウジング口体24に対して周方向で相対回転不能に係合されて誤操作防止機構が構成されている。
【0053】
また、この位置決め状態下、図5に示されているように、係止リング72の押圧片80の押圧傾斜面82が、操作部20の内方に対向位置している。そして、操作部20を手指でハウジング12内に押し込むことで、操作部20の周方向一方の端部が押圧傾斜面82に押し付けられ、押圧傾斜面82の傾斜角度に応じて発揮される分力作用に基づいて、操作部20の押圧力が係止リング72に対して回転力に変換されて及ぼされるようになっている。尤も、図3,4に示された標準状態では、前述のとおり係止リング72のハウジング12に対する回転が阻止されていることから、操作部20を誤って押圧しても、穿刺器具10が予期せずに穿刺作動することはない。
【0054】
[穿刺準備状態]
次に、上述の如き標準状態で提供された穿刺器具10を用いて穿刺作動させる操作を説明するが、それには先ず、図3,4に示された標準状態の穿刺器具10において、そのハウジング12を片手で把持し、他方の手で針キャップ18を摘まみ、針キャップ18を回転させる。これにより、針キャップ18の突起68と弾性爪部70を、ハウジング口体24のキャップ係止用突起47から離脱させると共に、ランセットハブ50から針キャップ18をねじ切部64でねじ切って、針キャップ18をハウジング口体24から抜き取る。このような操作により、穿刺器具10が、標準状態から、図10,11に示されている穿刺準備状態とされる。
【0055】
この穿刺準備状態とされた穿刺器具10では、針キャップ18のハウジング口体24への軸方向の位置決めが解除されたことで、ランセットハブ50が、圧縮コイルばね16の付勢力で軸方向前方に移動させられる。そして、ランセットハブ50の係止突部60が、係止リング72の係合部75の後端面に当接して軸方向前方への変位が阻止されることとなる。この係止突部60の係止リング72への係止作用により、ランセット14が穿刺準備位置に保持されることとなる。
【0056】
また、この位置までランセットハブ50が前方に移動されることで、ランセットハブ50の再使用防止突部58,58は、係止リング72の第一通過溝76,76への係合位置から前方に外れて、ハウジング口体24の第一案内溝44,44だけに係合して位置させられる。
【0057】
このように、穿刺準備状態では、ランセットハブ50の再使用防止突部58,58と係止突部60,60が、係止リング72の第一通過溝76,76と第二通過溝78,78に対して、軸方向前方及び後方にそれぞれ外れて非係合状態とされていることにより、ハウジング12内において係止リング72の回転が許容されている。
【0058】
[穿刺作動状態]
それ故、穿刺準備状態から穿刺作動させて穿刺作動状態とするには、図12に示されているように、穿刺準備状態にある穿刺器具10を把持して操作部20を手指で押し込めば良い。操作部20を押し込んで係止リング72の押圧傾斜面82に押し付けることで、係止リング72が中心軸回りでハウジング12及びランセット14に対して回転する。そして、図13,14に示されているように、係止リング72の後端面に当接されていたランセットハブ50の係止突部60,60に対して、係止リング72の第二通過溝78,78が位置合わせされると、係止突部60,60の係止リング72による軸方向の変位阻止力が解除され、係止突部60,60が係止リング72の第二通過溝78,78を通って軸方向前方への変位が許容される。
【0059】
その結果、図15,16に示されているように、ランセット14が圧縮コイルばね16の付勢力に基づいてハウジング12内を軸方向前方に勢い良く移動する。そして、ランセット14のガイド突起56,56が係止リング72の後端面に当接するまでランセット14が軸方向前方に移動することで、ランセット14の先端の穿刺針52が、ハウジング口体24の先端開口部から外方に所定長さで突出して、穿刺作動が実現されるのである。
【0060】
[穿刺後]
なお、上述の穿刺作動に際しては、圧縮コイルばね16の付勢力によって圧縮コイルばね16の自由長を超えてランセット14が軸方向前方に移動する。その際、圧縮コイルばね16の軸方向両端部は、ハウジング本体22の底部とランセット14の後端部とにそれぞれ固着されていることから、穿刺針52がハウジング口体24から突出した穿刺時において、ランセット14に対して圧縮コイルばね16の復元力がハウジング12内に引き戻す方向に及ぼされる。
【0061】
その結果、ハウジング口体24から穿刺針52が突出する穿刺作動が瞬間的に行われ、穿刺後には、図17,18に示されているように、速やかにランセット14がハウジング12内に引き戻されて穿刺針52の針先がハウジング口体24内に収納されることとなる。
【0062】
[再使用防止]
また、上述の如き穿刺後には、図17,18に示されているようにランセット14が、自由長とされた圧縮コイルばね16で位置決めされた軸方向位置に保持されることとなる。また、操作部20で回動された係止リング72も、図13,14に示されている如き回動後の位置のままとされる。即ち、穿刺後には係止リング72に回転力が及ぼされずに係止解除状態とされた回動位置に保たれていることから、ランセット14が押し込まれても、係止突部60は第二通過溝78内を移動するだけであり、係止突部60が係止リング72に対して係止されない。それ故、穿刺後に、たとえ操作部20を操作してもランセット14が軸方向前方に突出する穿刺作動は再現されない。
【0063】
加えて、穿刺後に、ハウジング12の前方開口部から線材等を差し入れてランセット14をハウジング12の奥方に押し込むことで強制的に再使用を試みた場合でも、図13,14に示されているように、ランセット14における再使用防止突部58,58と係止突部60,60との周方向の相対位置が、係止リング72における第一通過溝76,76と第二通過溝78,78との周方向の相対位置に比して、異ならされていることから、再使用がより確実に防止され得る。
【0064】
すなわち、ハウジング12の奥方にランセット14を強制的に押し込むに際して、たとえランセット14の係止突部60,60を第二通過溝78,78に対して周方向で位置合わせすることが出来て、係止突部60,60を係止リング72より奥方まで移動させ得たとしても、その時点で、既に、再使用防止突部58,58が第一通過溝76,76に対して位置ずれしている。それ故、図19,20に示されているように、そこから更にランセット14を押し込むと、再使用防止突部58,58が係止リング72の係合部75の前端面に当接して、係止リング72もランセット14と一緒にハウジング12の奥方に移動するだけで、係止リング72に対してランセット14を再び係止させて図8〜11に示されている如き穿刺準備状態とすることが実質的に不可能である。
【0065】
特に本実施形態では、係止リング72が、ハウジング口体24の奥方向に位置して、ハウジング口体24の支持筒部42より大径とされて該支持筒部42に外挿配置されている。それ故、ハウジング口体24の前方開口部から覗き込んでも、係止リング72を視認することが殆ど出来ず、従って、ハウジング口体24の小さな前方開口部を通じて、ランセット14を押し込みつつ同時に係止リング72を回転変位させることなど、実質的に不可能である。
【0066】
また、ランセット14は、ガイド突起56,56のガイドレール30,30への係合作用で、ハウジング12に対する中心軸回りの回転が阻止されていることから、ランセット14を回転させて係止リング72に相対回転作用を及ぼすこともできない。ましてや、上述のとおり、係止リング72は、ハウジング本体22の奥方への移動が許容されていることから、ハウジング口体24の前方開口部から差し入れた線材等で係止リング72を回転させようとしても、線材等の係止リング72に対する軸方向の当接反力を得ることさえ困難である。
【0067】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、その具体的な記載によって限定されるものではない。例えば、別構造の係止リングを採用したディスポーザブル型穿刺器具を、図21〜34において、本発明の第2の実施形態として例示する。なお、本実施形態のディスポーザブル型穿刺器具100において、第1の実施形態と同様な構造とされた部材及び部位については、それぞれ、図中に第1の実施形態と同じ符合を付することにより、それらの詳細な説明を省略する。
【0068】
本実施形態の穿刺器具100は、その分解図が図24に示されていると共に、市場でユーザーに商品として提供される標準状態が図21〜23に示されているように、第1の実施形態に比して、ランセットハブ50に突設された一対の再使用防止突部(58,58)を備えていない。なお、本実施形態では、第1の実施形態における一対の再使用防止突部(58,58)と略同じ位置に、一対の回転阻止突部102,102が形成されている。
【0069】
また、それに対応して、係止リング72における係合部75の形状が、第1の実施形態と異なっている。具体的には、内フランジ状の係合部75には、略1/4周に亘る一対の切欠部104,104が、径方向で対向位置して形成されている。なお、係止リング72の係合部75の後端面には、肉厚が部分的に切除された一対の肉欠部106,106が、径方向で対向位置して形成されている。そして、係止リング72の係合部75の後端面に位置する、肉欠部106の境界線上の段差面によって、押圧傾斜面82が構成されている。即ち、第1の実施形態において係止リングの外周面上に突設された押圧片80,80に代えて、本実施形態では肉欠部106,106が設けられており、かかる肉欠部106の境界線上の段差面で構成された押圧傾斜面82によって、ハウジング12に設けられた操作部20の押し込み力の分力が係止リング72に対して回転力として及ぼされるようになっているのである。
【0070】
そして、図21〜23に示された標準状態において、針キャップ18のハウジング口体24への係止によりランセット14がハウジング12に対して軸方向で位置決めされた状態下では、係止突部60が係合部75の後端面から軸方向後方に離れて位置している一方、図25にも示されているように、回転阻止突部102,102が、係合部75,75内に位置している。かかる状態下、各回転阻止突部102の周方向両端部が、各切欠部104の周方向端面に対して、中心軸回りで対向位置している。これにより、係止リング72が中心軸回りで回転すると、その係合部75の切欠部104に対して、ランセット14の回転阻止突部102が当接するようになっている。また、ランセット14は、そのガイド突起56,56がハウジング本体22のガイドレール30,30に差し入れられて、中心軸回りの回転が阻止されている。それ故、標準状態では、回転阻止突部102,102の切欠部104,104に対する当接およびガイド突起56,56がガイドレール30,30に差し入れられて、中心軸回りの回転が阻止される誤操作防止機構により、係止リング72の回転が、ランセント14を介してのハウジング12への係合作用によって阻止されているのである。
【0071】
次に、上述の如き標準状態で提供された穿刺器具100を用いて穿刺作動させるには、第1の実施形態と同様に針キャップ18をランセット本体22からねじ切ってハウジング口体24から抜き取ることにより、図26、27に示されている如き穿刺準備状態とする。この穿刺準備状態の穿刺器具100では、第1の実施形態と同様に、針キャップ18によるランセットハブ50の位置決めが解除されて、ランセットハブ50が、圧縮コイルばね16の付勢力で軸方向前方に移動させられ、係止リング72の係合部75の後端面に対して、ランセットハブ50の係止突部60,60が当接した状態となる。
【0072】
また、この位置までランセットハブ50が前方に移動されることで、ランセットハブ50の回転阻止突部102,102が、係止リング72の係合部75から前方に外れ、それによって、係止リング72のハウジング12内での回転が許容される。
【0073】
それ故、かかる穿刺準備状態において、第1の実施形態と同様に操作部20をハウジング12の内方に押し込むと、操作部20が係止リング72の押圧傾斜面82に押し付けられ、回転方向の分力によって係止リング72が中心軸回りでハウジング12及びランセット14に対して回転される。これにより、図28〜30に示されているように、係止リング72の係合部75の後端面に当接されていたランセットハブ50の係止突部60,60が、係止リング72の切欠部104,104に位置合わせされると、ランセットハブ50に及ぼされていた軸方向の変位阻止力が解除され、係止突部60,60が係止リング72の切欠部104,104を通って軸方向前方へ変位許容される。
【0074】
その結果、図31に示されているように、ランセット14が圧縮コイルばね16の付勢力に基づいてハウジング12内を軸方向前方に勢い良く移動し、第1の実施形態と同様に穿刺針52がハウジング12の前方開口部から瞬間的に突出することで、穿刺作動が実現されるのである。なお、本実施形態では、ハウジング本体22の筒部の内周面には、複数条の位置決めリブ108が、圧縮コイルばね16が配設される底部側を軸方向に延びて突設されている。そして、これら複数条の位置決めリブ108により、圧縮コイルばね16がハウジング本体22内の中心軸上で安定位置して伸縮変形されるようになっている。
【0075】
また、図32に示されているように、穿刺針52の針先がハウジング口体24内に収納された穿刺後では、操作部20で回動された係止リング72が、図29,30に示されている如き回動後の位置のままとされる。それ故、穿刺後に、図33,34に示されているように、たとえランセット14をハウジング12の奥方に押し込むことで強制的に再使用を試みた場合でも、ランセット14の係止突部60,60が係止リング72の切欠部104,104を通じてハウジング本体22の奥方に移動するだけで、係止リング72に対してランセット14を再び係止させて図25〜27に示されている如き穿刺準備状態とすることが実質的に不可能である。
【0076】
特に本実施形態では、ランセット14のハウジング12に対する中心軸回りの回転が、ガイド突起56,56がガイドレール30,30へ差し入れられることで阻止されていることから、押し込んだランセット14を回転させて係止リング72に係止させることも出来ない。それ故、穿刺後に再び穿刺準備状態とするには、ハウジング口体24の小さな前方開口部を通じて、ランセット14を押し込みつつ同時に係止リング72を回転変位させることが必要とされていることから、再使用が一層困難となっている。
【0077】
なお、上述の第1及び第2の実施形態の穿刺器具10,100では、何れも、ハウジング12内に、ランセット14に対して突出力と引込力の両方を及ぼす圧縮コイルばね16が1つだけ配設されていたが、例えば、ランセット14に対して突出方向の付勢力を及ぼすばね部材と引込方向の付勢力を及ぼすばね部材とを各別に設ける等しても良い。
【0078】
また、穿刺体として、例示の如き穿刺針52に代えて、ブレード等を用いることもできる。
【0079】
更にまた、標準状態において望まないランセット14の突出作動を防止するために、第1及び第2の実施形態に示されている如き係止リング72のハウジング14に対する回転を阻止する誤操作防止機構を採用する他、例えば、操作部20の内方に差し入れられる等して操作部20のハウジング12への押し込み方向の変位自体を阻止する誤操作防止機構などを採用することも可能である。
【0080】
なお、前記実施形態では、ランセット14が再使用防止突部58または回転阻止突部102のいずれかとガイド突起56で係止リング72とハウジング12に各々係止されることで、係止リング72がハウジング12に対して回転不能に係合されて誤作動防止機構が構成されていたが、かかるランセット14に代えて、キャップを用いて、キャップに係止リング72とキャップ係止用突起47に各々係止される再使用防止突部または回転阻止突部のいずれかとガイド突起を形成して係止リング72がハウジング12に対して回転不能に係合されて誤作動防止機構が構成されるようにしてもよい。
【0081】
また、標準状態または穿刺準備状態の際に、係止リング72が、不意にハウジング口体24から外れて軸方向後方に移動することを防止するために、操作片20の内面側(ハウジング12の内部空間側)に、係止リング72の離脱防止用の突部を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0082】
10,100:ディスポーザブル型穿刺器具、12:ハウジング、14:ランセット、16:圧縮コイルばね(ばね部材)、18:針キャップ(キャップ)、20:操作部(操作部材)、30:ガイドレール(案内機構)44:第一案内溝(誤操作防止機構)、52:穿刺針(穿刺体)、56:ガイド突起(誤操作防止機構)、58:再使用防止突部(誤操作防止機構)、60:係止突部(誤操作防止機構)、72:係止リング、76:第一通過溝(誤操作防止機構)、78:第二通過溝(誤操作防止機構)、102:回転阻止突部(誤操作防止機構)、108:位置決めリブ(案内機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに収容されたランセットをばね部材で付勢し、該ランセットの先端部に設けた穿刺体を該ハウジングから突出させて穿刺作動させるディスポーザブル型穿刺器具において、
前記ハウジング内に係止リングを配設し、前記ランセットが該係止リングを貫通して突出方向に変位可能とすると共に、
該ランセットに係止突部を設けて、該係止突部の該係止リングへの係止作用により、前記ばね部材を圧縮変形させて該ランセットが該ハウジングの奥方の穿刺準備位置に保持されるようにする一方、
該係止リングを回動させることにより該係止リングへの前記係止突部の係止を解除して該ランセットを前記ばね部材で突出方向に変位させて穿刺作動させる操作部材を設けた
ことを特徴とするディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項2】
穿刺作動後において、前記係止リングの前記ランセットに対する周方向の相対位置が保たれて、該ランセットの前記係止突部における該係止リングへの係止解除状態が保たれることにより、該係止突部の該係止リングへの再係止が防止される請求項1に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項3】
前記ランセットに再使用防止突部を設け、前記係止突部の係止が解除されて前記ランセットが穿刺作動された前記係止リングの回動位置において、該ランセットを前記ハウジングの奥方に押し込んで変位させると該再使用防止突部が該係止リングに当接して該係止リングに対する該ランセットの奥方への相対変位が制限されて、該係止突部の該係止リングへの再係止が防止される請求項1又は2に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項4】
前記係止リングが前記ハウジングの奥方への変位を許容されており、前記ランセットが穿刺作動された該係止リングの回動位置において、該ランセットを該ハウジングの奥方に押し込んで変位させると、前記再使用防止突部が該係止リングに当接して該ランセットと共に該係止リングも奥方に変位する請求項3に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項5】
前記係止リングの前記ハウジングに対する回動を阻止する誤操作防止機構を設けた請求項1〜4の何れか1項に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項6】
前記ランセットの先端部に装着されて前記穿刺体を覆うキャップが設けられており、該キャップの装着状態下で該キャップと該ランセットとの何れかを介して前記係止リングが前記ハウジングに対して回転不能に係合されて前記誤作動防止機構が構成されていると共に、該キャップを取り外すことでかかる係合が解除されて該係止リングの回動が許容される請求項5に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項7】
前記ランセットを前記ハウジングに対して周方向変位を規制しつつ突出方向に案内する案内機構が設けられている請求項1〜6の何れか1項に記載のディスポーザブル型穿刺器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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