説明

ディレードコーキング方法

超重質原油供給源から誘導された石油コークスは、炉の下流側でコーカーフィードに対して水または水/軽油の混合物を添加することによって、より急冷し易いものにすることができる。通常揮発性である液体を高温コーカーフィードに対しこのように添加した結果得られるコークス製品は、なおも比較的高密度であるが、よりもろく、通常は緻密で比較的自由に流動する顆粒状の形をしている。コークスはドラム内での均一な急冷をさらに受け易く、したがって、コークスピット内でまたはその後コークスを取扱い輸送する時点での爆発の危険性および火災の危険性が減少した状態で切断し放出させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディレードコーキング方法に関し、より具体的には、コークスピット内または後続する輸送および取扱い中に発火する傾向をもたないコークスを製造するためのディレードコーキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディレードコーキングは、重油を有用なより軽質の製品へと転換するために製油所において使用される複数のタイプのプロセスの1つである。ディレードコーカーにおいては、重油フィードは連続作動式プロセス炉内で加熱されて限定的範囲の熱分解を起こし、その後このフィードが大きい縦型円筒容器またはコーキングドラム内に入り、この内部でコーキング反応が発生する。「ディレード」コーカーという用語は、コーキング反応が炉内で発生せずむしろ油がコークスドラムに入るまで遅延されるという事実を意味している。コークスドラム内では、大きな油分子がさらに熱分解されて、追加のより軽質の製品と残留コークスを形成し、こうして容器は満たされる。より軽質の炭化水素は、蒸気としてドラムから流出し、さらに燃料製品へと加工される。次第にコークスは、ドラムがコークスでほぼ満杯となるまで、ドラム内に蓄積する。ドラムがほぼ満たされた時点で、炉からの高温油は空のコークスドラムへと導かれ、その間に満杯のドラムからコークスが取り出される。コークス取出しサイクルには、ドラムを冷却し減圧するステップ(又は工程)、スチームでそれをパージして残留炭化水素蒸気を除去するステップ、ドラムの上面および底面ヘッド(閉塞装置)を開放するステップそして次に高圧水ランスまたは機械式カッターを用いてドラムからコークスを取り出すステップが関与する。コークスはドラムの底面からピット内に落下し、そこで水がドレンされ、コンベヤがコークスを貯蔵庫または軌道車まで運搬する。ドラムは次に閉鎖され、別のコーキングサイクルのために準備完了の状態となる。
【0003】
ディレードコーカー用の原材料は典型的には、通常常圧蒸留塔および減圧塔を含む原油分留ユニット内で分離される原油の最も重質の(沸点が最も高い)留分である。形成されるコークスの性質は、コーカー原材料の特性ならびにコーカー内で使用される作動条件により大幅に左右される。結果として得られるコークスは一般に価値の低い副産物として考えられるが、そのグレードに応じて、燃料(燃料用コークス)、アルミニウム製造用電極(アノード用コークス)として一定の価値を有し得る。一般に、ディレードコーカーは、異なる価値、外観および物性を有する3つのタイプのコークスを生成すると考えられている。最も一般的であるのは、ニードルコークス、スポンジコークスおよびショットコークスである。ニードルコークスは、3種類の中で最も高品質であり、これには特に高い価格が設定されている。さらに熱処理をした時点で、ニードルコークスは高い導電率(および低い熱膨張係数)を有し、電気アーク鋼の生産における電極の製造に使用される。それは硫黄分および金属が少なく、多くの場合、接触分解装置および熱分解タール由来のスラリーおよびデカントオイル(decant oil)などの芳香族原材料をより多く含むさらに高品質のコーカー原材料の一部から生産される。典型的には、それは残油タイプのフィードのコーキングでは形成されない。より品質の低いコークスであるスポンジコークスは、有意な量のアスファルテン、ヘテロ原子および金属を有するさらに品質の低い製油所コーカー原材料から製油所内で形成されることが最も多い。硫黄および金属含有量が充分低い場合、スポンジコークスをアルミニウム産業向けのアノードの製造のために使用することができる。硫黄および金属含有量がこの用途にとって高すぎる場合、コークスを燃料として使用することができる。「スポンジコークス」という名称はその多孔質でスポンジ様の外観に由来する。減圧残油原材料を使用する従来のディレードコーキングプロセスは典型的にスポンジコークスを生産し、これは、ドリリングおよびウォータージェット技術を含めた広範な取出しプロセスを必要とする凝集塊として生産される。
【0004】
ショットコークスは、最も低品質のコークスとみなされている。「ショットコークス」という名称は、典型的には直径約1〜約10mmの範囲内のその球形または卵形のボール様形状に由来する。ショットコークスは、他のタイプのコークスと同様、特にスポンジコークスとの混和物の中で、時として直径1フィート超のさらに大きい塊へと凝集する傾向をもつ。これにより、製油所の機器および加工上の問題がひき起される可能性がある。ショットコークスは、通常、最低品質の高樹脂−アスファルテンフィードから製造され、特にセメントキルンおよび製鋼業において使用するための優れた高硫黄燃料供給源を構成している。スポンジコークスとショットコークスの間のモルフォロジーを有するコークスを意味する「トランジションコークス」と呼ばれる別のコークスも存在する。例えば、ほぼスポンジ様の外見を有するものの小さなショット球体が明らかに離散的形状で形成し始めているコークスである。「トランジションコークス」という用語は同様に、スポンジコークスと結合したショットコークスの混合物をも意味する。
【0005】
時に遭遇することのある別タイプのコークスは、一般にその高い密度のため「高密度コークス」と呼ばれる。それは、ベネズエラのオリノコ重油帯(Orinoco Heavy Oil Belt)に由来するものなどの重質原油およびタールサンドに由来するものなどの非常に低比重(重質)のフィードを使用した結果としてもたらされる。これらの高密度コークスは加工がむずかしい。すなわち、ドラムから切り出すのがむずかしく、取り扱いの容易な粒子を直ちに形成せず、多くの場合、大きく重い巨石様の集合体を形成する。特有の問題は、その密度のため、高密度コークスを、ショットコークスさらにはスポンジコークスのような要領で容易に急冷することができないという点にある。スポンジコークスはその表面積のために、サイクルの急冷段階中にコークスが水を吸収でき、こうして比較的均一に冷えるようになっている。換言すると、ショットコークスはサイズが小さいため、原則的に少なくともこの製品を許容可能な程度の短時間で急冷することができる。しかしながら、このプロセスの結果、ドラム内に存在する2つ以上の種類のコークス製品のコークスモルフォロジー組合せが発生した場合、急冷は不均一になるかもしれず、ドリリングが始まるか底辺ヘッダーを通してコークスが放出された時点で爆発と放出が起こり得る。この点において非常に重質の油から生産された高密度コークスは、重く高密度で非多孔質であるためにコークス塊に急冷水がうまく進入するのを妨げる傾向を有する。こうして特に燃料製品の需要を満たすために増々多くの重質原油が精製されるにつれて、急冷が緩慢である結果もたらされる問題にさらに頻繁に遭遇する傾向が見られるために高密度コークスは極めて厄介である。急冷されていないコークスは、自然発生的なコークスピット火災を発生させるかもしれず、荷船上に塔載した場合、コークス荷船に火災を発生させることから、特に危険である。この問題は、高密度コークスを形成する重油フィードから他の多くのフィードよりも大きい割合のコークスが生産され、こうして問題の範囲および重大性を悪化させるという事実によって、増幅される。
【0006】
急冷可能なコークスは、高密度で多孔率の低いコークス形態と比べてより均等に冷えるので、ドラムの高温とコークス火災を回避するまたは最小限にするために、ディレードコーカードラム内で冷却し急冷可能な重油からコークス製品を生産する能力を有することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
今回本出願人は、炉の下流側でコーカーフィードに対して水または水/軽油の混合物を添加することによって、超重質原油供給源から誘導された石油コークスをより急冷し易いものにすることができるということを見出した。通常揮発性である液体を高温コーカーフィードに対しこのように添加した結果得られるコークス製品は、なおも比較的高密度であるが、よりもろく、通常は緻密で顆粒状の形をしているコークスをもたらす。このコークスはドラム内での均一な急冷を受け易く、したがって、コークスピット内でまたはその後コークスを取扱い輸送する時点での爆発の危険性および火災の危険性が減少した状態で切断し放出(又は排出)させることができる。
【0008】
本発明によると、超重質油フィードから急冷性が改善されたコークスを生産するためのディレードコーキング方法は、最高520℃までのコーキング温度に、5〜20°のAPI比重を有する重質原油から誘導された石油残油フィードを加熱するステップ(又は工程)と;水を含む揮発性液体を加熱した残油中に注入するステップと;ディレードコーキングドラム内で残油をコーキングし、この残油からコーキング蒸気生成物が収集されドラム内で塊としてコークス製品が形成されるステップと;ドラム内でコークスの塊を急冷して固体コークス製品を生産するステップと、を含む。
【0009】
この方法におけるステップの通常の順序は以下の通りである。すなわち、重質原油由来の残油フィードを第1の加熱ゾーン内で、残油が圧送可能液体(pumpable liquid:ポンプで送ることが可能な液体)である油温まで加熱する;その後残油を炉に移行させ、そこでこの残油を最高520℃のディレードコーキングに適した温度までさらに加熱する;加熱した残油を、移送ライン内を炉からディレードコーキングドラムまで導く;水を含む揮発性液体を、移送ライン内で加熱した残油中に注入する;加熱した残油をコーキングドラム内でコーキングし、コーキング中に生成された蒸気生成物を塔頂留出物(overhead:又はオーバーヘッド)として除去して、ドラム内で塊として急冷性コークス製品を形成し、このコークス塊はドラム内で急冷し;急冷したコークスを切断し、その後、急冷済みの固体製品としてドラムから取り出す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ディレードコーカーユニット内でモリチャル(Morichal)の砂貯留層由来の合成原油から誘導された減圧残油を加工して生産された高密度コークスの光学画像である。
【図2】添加物無しでモリチャル(Morichal)の砂貯留層由来の合成原油から誘導された減圧残油から生産された高密度非多孔質コークスの光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、超重質原油供給源から生産される重油フィードのディレードコーキングで遭遇する問題に対処することに向けられている。このタイプの原油供給源は、より軽質で加工(又は処理)が容易な原油の供給がさらに減少し、よりコスト高になっていくかまたはより貴重な用途のために使用されていくにつれて、燃料生産において使用される頻度が高くなってきている。この種の原油供給源は、カナダ(Canada)(アサバスカ、アルバータ(Athabasca、Alta.))、トリニダード(Trinidad)、南カリフォルニア(Southern California)(ラブレア(La Brea)ロサンゼルス(Los Angeles))、マッキトリック(McKittrick)(ベーカーズフィールド、カリフォルニア(Bakersfield、California))、カーピンテリア(Carpinteria)(サンタバーバラ郡、カリフォルニア(Santa Barbara County、California))、ベルムデス湖(Lake Bermudez)(ベネズエラ(Venezuela))のタールサンド、タールピットおよびピッチレーキなどのタールサンドおよびテキサス(Texas)、ペルー(Peru)、イラン(Iran)、ロシア(Russia)およびポーランド(Poland)の類似の埋蔵物を含む。これらのうち、現時点で商業的に最も有意であるのは、ベネズエラのタールサンド帯、特にオリノコ(Orinocoタール帯およびこの地帯のセロネグロ(Cerro Negro)部分である。これらの油田に由来する原油は一般に、典型的には5〜20°APIの範囲内、多くの場合6〜15°、そして一部のものは8〜12°APIの範囲内である低いAPI比重(低い水素含有量)を特徴とする。例としては、8.5°APIのセルロネグロ(Cerro Negro)瀝青および、モリチャル(Morichal)(8〜8.5°API)、ホボ(Jobo)(8〜9°API)、ピロン(Pilon)(13°API)およびテムブラドール(Temblador)(19°API)油田由来の原油がある。これらの超重質油は通常は、交互スチーム浸透法を含めた従来の強化型回収方法によって生産される。これらの油のうち最も重質のタイプ、例えばモリチャル(Morichal)およびホボ(Jobo)原油は、通常、井戸の先端において、ガスオイル(又は軽油)またはより軽質の原油または加工済み石油留分、例えば重質ナフサ、蒸留留出物(distillate:留出液、蒸留液又は留分)またはコーカーガスオイルおよびコーカーナフサを含む熱分解産物で希釈されて、その高い粘度が低下させられパイプラインによるその輸送が容易になっており、例えばモリチャルセグレガシオ(Morichal Segregatio)(12.5°API)として公知の商業ブランド、またはピロンセグリゲージョン(Pilon Segregation)(13.5°API)として販売されているピロン(Pilon)とテンブラドール(Temblador)のブレンドまたはその地域から産生された全ての原油が隣接するサントーム(San Tome)地域からのより軽質の原油と17°APIまで希釈されているピロン(Pilon)ブレンドなどの合成原油としてのその販売仕様を達成している。希釈剤として使用可能な留分は、それ自身、ビスブレーキング、ディレードコーキングなどの熱分解プロセスにより生産されてもよい。
【0012】
これらの原油は、従来の精製技術によって、所望のさらに価値の高い炭化水素製品へと加工(又は処理)されてもよい。通常、希釈された合成原油備蓄に対して行なわれる加工には、脱塩とそれに続く常圧および減圧蒸留が含まれ、希釈剤を含む軽質最終生成物を除去し、沸点の高い残留留分を残し、これは次にさらに加工されてより軽質の製品を生産することができる。ディレードコーキングおよびフルードコーキングは、これらの残留留分を転換するために特に適しているが、これは、残油分解用に特異的に設計されているのでないかぎりその高いCCRが通常、接触分解作業中に余剰のコークスを被着させるからである。これらの原油供給源から誘導された重油フィードが商業向サイズのユニット(典型的には底面が円錐形断面を有する直径8mを超えるドラム)内でのディレードコーキングに付される場合、例えばドラム内で約100または150kPag(15または22psig)超の中圧そして約400〜500℃(750〜930°F)例えば415℃(780°F)の温度という正規のコーキング条件下で、大量の非常に高密度で、硬質で、非多孔質のコークスが結果として得られる。ドラム内のコークス塊密度は、スポンジコークスおよびショットコークスの両方について典型的なディレードコーカーコークス密度が830〜930kg/m(52〜58lb/ft)であるのに対して、典型的に1000kg/m(62lb/ft)および通常1040〜1120kg/m(65〜70lb/ft)の範囲内にある。以上で指摘したように、これらのコークスが形成する硬質の塊は、適切に急冷することそしてドラムから取り出すことが困難であり、たとえ取り出された場合でも長い冷却期間が経過してしまうまでひきつづき火災の危険性を呈する。APIが最も低い原油から誘導された残留フィード、特に10°未満のAPI密度を有する残留フィードを加工する場合、そして最も顕著には9°API以下の原油から誘導されたフィード例えば共に8〜8.5°APIの範囲内にあるモリチャル(Morichal)およびセルロネグロ(Cerro Negro)原油供給源からのフィードの場合、この問題は特に顕著である。
【0013】
非常に重質の原油供給源由来のディレードコーカーフィードは、残留タイプのフィード、すなわち約500℃未満の沸点を有する成分の含有量が最小限であるフィードである。一般にフィードは、525〜550℃(975〜1025°F)の範囲内またはそれを超える初留点、約20°以下のAPI比重そして約20〜40重量パーセントのコンラドソン残留炭素分含有量を有する。大部分の場合において、コーカーフィードは、脱塩、常圧蒸留、真空蒸留を含めた通常のプロセスにより非常に重質の原油供給源の1つから生産された減圧残油である。
【0014】
フィードは典型的には、通常は管状炉である加熱炉の中で約480℃〜約520℃(895〜970°F)の温度まで加熱することによりディレードコーキングに付され、その後、ドラムの基部にある入口を通ってドラムに入る移送ラインを通してコーキングドラムへと放出(又は排出)される。炉内の圧力は典型的には約350〜3500kPag(約50〜550psig)であるが、ドラム内の圧力は通常、揮発性物質を塔頂留出物として取出すことができるように比較的低く、典型的には約100〜550kPag(約15〜80psig)である。ドラム内の典型的な作動温度は約420℃〜475℃(790〜890°F)の間である。高温原材料は、コーカードラム内で一定の時限(「コーキング時間」)にわたり熱分解し続け、コークス塊を通して連続して上昇し塔頂留出物として収集される揮発性炭水化物製品で主として構成されている揮発性物質を解放する。揮発性製品は、コーカーガス、ガソリン、蒸留留出物、軽質軽油および重質軽油留分の回収及び蒸留用のコーカー精留塔に送られる。製品ストリーム内に存在する重質コーカーガスオイルの一部分を、リサイクルのために精留塔から捕捉し、新鮮なフィード(コーカーフィード成分)と組合せ、かくして、コーカー加熱器またはコーカー炉の投入物を形成させることができる。大部分の場合において、新鮮な重油フィードは、フィード中に残留する軽質最終生成物をストリッピングすると同時にドラムからの製品を分留するというその機能から組合せ塔とも呼ばれるコーカー精留塔を通してコーカーユニット内に導入される。新鮮なフィードは通常ドラム蒸気のレベルよりも高いレベルで塔の中に入り、コーキング蒸気と流入するフィードの間の直接的熱交換を提供する。低いドラム圧および低いリサイクル体積が、重質フィードでの最適な作動のためには好適である。約150kPag(約22psig)未満の圧力が好適であるが、多くの既存のユニットは、150〜350kPag(約22〜50psig)の範囲内の圧力で作動する。このフィードでは、1:20〜1:4のリサイクル比(リサイクル:新鮮なフィード)が通常適切である。
【0015】
これらの重質フィードから生産されたコークスの急冷性は、加熱器を通過した後にコーカーフィード内に水を単独でまたは軽油を合わせて注入することにより増強される。したがって、水または水/軽油は、加熱器コイル出口で、加熱器とドラムの間の移送ライン内で、または直接ドラムの本体内にまたは多数の場所で添加可能である。したがって、大まかに言って、注入場所におけるフィードの温度は典型的には約480〜520℃(895〜970°F)である。これは、水および軽油を気化させるのに充分高温であるが、通常移送ライン内で完全な気化は発生しない。これは移送ライン内の流速のため通常移送ライン内での滞留時間は短く、そのためフィード/水/軽油混合物がドラム内に入る時までは注入される液滴への熱伝導およびその結果としての気化が不完全になるためである。
【0016】
水は単独で加熱されたフィード内に注入されてもよいし、または重油コーカーフィード内への水の均一な混合を容易にするため、炭化水素担体(carrier:キャリア又は搬送材料)として作用する軽油の中に乳化または分散されてもよい。ナフサまたはケロシン留分などの炭化水素担体分への水溶液の混合を促進するために、わずかな量の界面活性剤を添加してもよい。あるいは、そのままのアルコールあるいは軽油を伴うアルコールなどの相互溶媒と、水および軽油とを混合してもよい。
【0017】
水単独の使用は、高密度コークスの急冷性において知覚できるほどの改善を生み出すのに充分であるが、水を追加量の軽油と共に添加してかなり粘度の高い重油フィード中へのより均一な分散を促進してもよい。使用してよい軽油はナフサまたは蒸留留出物であり得る。ナフサは軽質または重質ナフサであってよく、典型的に、200℃未満そして大部分の場合において150℃(300°F)未満のエンドポイント(end point:又は終点)を有する。使用してよい蒸留留出物(留出液、蒸留液又は留分)は、製油所ナフサより高い初留点および400または500℃(750または930°F)未満、大部分の場合において350℃(660°F)未満のエンドポイントを有する。
【0018】
フィード中に注入される水または水と油の合計量は典型的に、フィードの体積に基づいて約0.5〜5v/vパーセント、大部分の場合0.5〜2v/vパーセントである。最終的コークス製品の均一性を改善するためには軽油の存在が好ましいとはいえ、経済的な理由から、急冷性の所望の改善をもたらすためには水に依存して、水に対する軽油の相対量を制限することが通常は好ましい。注入される液体中の水に対する油の量は通常10〜50v/vパーセントであり、油についての上限は主として経済的な判断に基づき選択される。最終的コークス製品中の均一な構造および急冷性を促進するためには、典型的に20〜50v/vパーセントの範囲内の量が適切である。
【0019】
加熱された残油中の注入された液体の気化は、結果として、コークスの性質を部分的に変化させ、コークスをより顆粒性で急冷し易いものにする。コーカードラム内に入るストリームの温度低下が達成される。シミュレーションにより、コイルとドラムの間の通常予想される低下に加えて炉の出口とドラムの入口の間に約5〜8℃(10〜15°F)の公称低下が予測される。実際の作動では、急冷性コークスを生産するのに通常適している水または水と油の量を用いた場合に典型的におよそ5℃(9°F)のさらに小さい低下が通常観察される。より大きい体積の水または水/油を使用すると、ドラム内に入るストリームの温度のより大きな低下が達成されるかもしれず、相応してドラム内のコーキング速度は減少し、このことは場合によって、コークスの性質の変化に寄与し得る。したがって、加熱器の下流側でのフィード中への水および/または軽油の注入は、加熱器内で使用される温度とは独立してドラム入口温度およびドラム内のコーキング速度を制御する方法を提供する。
【0020】
水または水と油の組み合わせは、耐火性ライニングの施こされたクイル(quill)の使用を通してまたは他の適切な技術によって、残油流内に注入可能である。例えばコークスドラム底面入口インジェクタを設置してコークスドラム内部に遮るもののないジェットを生成することができる。移送ライン内または加熱器の上流側での高エネルギー混合かまたは静的混合装置の使用によって、添加物流体の分散を補助してもよいが、通常、これは、加熱器の後の単純なフィードクイルよりも問題の多いものであることがわかる。残油フィード中への液体の均一な分散が、不均質なコークスモルフォロジー形成部域を回避するために望ましい。すなわち、コークスドラム内にコークスが実質的に自由に流動している場所とコークスが実質的に自由に流動していない他の部域があることは望ましくない。
【0021】
水または水油組合せが炉とドラムの間の移送ライン内でフィード中に導入される場合、注入ノズルまたはクイルは好ましくは、パイプ/移送ラインの中心線流内に液体を送出するように構成されるべきである。移送ライン内で高温が優勢であることを考慮して、注入ノズルまたは注入クイルには、好ましくは、注入された液体への速すぎる熱伝導そしてその結果としてフィードストリーム内に入る前のノズル内部で溶液が気化するのを防ぐために、断熱性サーマルスリーブが具備される。
【0022】
重質原油由来のフィードと共に炭酸塩添加物を使用することによって生成されるコークスは添加物の無い状態でディレードコーキングにより生産されるコークスと著しく異なる特性を有する。図1は、一部の場合においてはドラムから切出された場合に巨石と言えるほど大きいものであり得る大きな集合体である従来の高密度コークス製品の全体形状を示している。図2及び3は、高密度コークスの顕微鏡写真を示す。図2に示された高密度コークス構造と従来のショットコークスおよびスポンジコークスの間の比較については、Siskinらの論文「Chemical Approach to Control Morphology of Coke Produced in Delayed Coking」、Energy & Fuels、2006、2117−2124を参照のこと。この論文の図3および4Bに示されたショットコークスは、小さい異方性流ドメインを伴うモザイク構造内の小さな空隙の比較的均一な細かいパターン(それぞれ2〜10μm、2〜3μm)を示し、図4Aのスポンジコークスは、より大きい割れ目および10〜50μmのサイズ範囲内の流動ドメインを有する。図2の高密度コークスは、空隙が小さく数もそれほど多くない構造を有する。これとは対照的に、水または水と軽油を添加して生産されたコークスは顆粒状であり、ほとんどもろいものであり得る。それは、ドラム内で急冷され切断された時点で容易に壊れ、取扱いおよび輸送が容易にできる製品を形成する。この製品は実質的に自由流動性であり、切断後ドラムから容易に取り出すことができるにせよ、その密度は通常、水または水/油の添加が無く生産されたコークスのものに匹敵するものである。より高密度のコークスはドラム内で占有する体積が小さく、したがって各作動サイクル中により大きな体積のフィードを加工できるようにするという点で、密度の保持は有利である。重要なことにコークスは許容可能な時間内、すなわち同じドラム内でスポンジコークスが必要とする時間に匹敵する時間内で、ドラム内で有効に急冷することができる。このことで今度は、コークスピット火災が結果として発生せずコークスがその後発火しないというさらに大きい保証と共にコークスを放出することが可能になる。
【実施例】
【0023】
実施例1
予備加熱ゾーンの温度が285〜295℃で、炉出口の温度が486℃、コーキングドラムの温度が400〜415℃である直径8m(26ft)の商業用コークスドラムを用いたディレードコーキングにより、オリノコ(Orinoco)重油帯由来の残油を加工した。移送ライン内への液体注入無しで重油フィードを使用して、ギザギザの縁部が観察されるかなり高密度のコークスを生産した。コークス密度は1,041kg/mであり、残油フィードの体積に対する生産されたコークスの体積は、コークス0.31m/フィードm(コークス1.94ft/フィードbbl)と測定された。図2に示される通り、60倍の倍率で観察した場合、コークスは多孔率の極めて低いものあった。
【0024】
結果は、下表1に要約されている。
【0025】
実施例2−3
炉の後の移送ライン内でフィードに対し水と38APIナフサを同体積ずつ(フィードに対し合計1.3体積パーセント)添加して、オリノコ(Orinoco)残油をディレードコーキングに付した。この結果として、実施例1の高密度コークスよりも機械的に軟質である独特の予想外の顆粒状コークスが得られたが、コークス密度は1,041kg/mにとどまった。フィードに対するコークス体積はコークス0.30〜0.32m/フィードm(コークス2.2ft/フィードbbl)であった。
【0026】
結果は、下表1に要約されている。
【0027】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)5〜20°のAPI比重を有する重質原油から誘導された石油残油フィードを、最高520℃までのコーキング温度に加熱する工程;
(b)水を含む揮発性液体を、前記加熱された残油中に注入する工程;
(d)ディレードコーキングドラム内で前記残油をコーキングし、この残油からコーキング蒸気生成物を収集し前記ドラム内で塊としてコークス製品を形成する工程;
(e)前記ドラム内で前記コークスの塊を急冷して固体コークス製品を生産する工程
を含むディレードコーキング方法。
【請求項2】
前記残油フィードがオリノコ重油(Orinoco Heavy Oil)原油から誘導された常圧残油または減圧残油を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記残油フィードが、6〜15°のAPI比重を有する重質原油から誘導された減圧残油を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記残油フィードが、8〜10°のAPI比重を有する重質原油から誘導された減圧残油を含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記残油フィードが、6〜9°のAPI比重を有する重質原油から誘導された減圧残油を含む請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記揮発性液体が、水および最高400℃までのエンドポイントを有する軽質炭化水素油を含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記揮発性液体が、水および最高200℃までのエンドポイントを有するナフサを含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記揮発性液体が、水および最高150℃までのエンドポイントを有するナフサを含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記揮発性液体が、水および最高350℃までのエンドポイントを有する蒸留留出物を含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(a)第1の加熱ゾーン内で、5〜20°のAPI比重を有する重質原油から誘導された石油残油フィードを、前記残油が圧送可能液体となる温度に加熱する工程;
(b)最高520℃までのコーキング温度に、炉内でさらに前記残油を加熱する工程;
(c)移送ライン内を、炉からディレードコーキングドラムに、前記加熱した残油を導く工程;
(d)前記移送ライン内で前記加熱した残油中に、水を含む揮発性液体を注入する工程;
(e)前記コーキングドラム内の前記加熱した残油をコーキングに付し、前記コーキング中に生産された蒸気製品を塔頂留出物として除去し、前記ドラム内で塊として急冷性コークスを形成する工程;
(f)前記ドラム内で前記コークス塊を急冷して固体コークス製品を生産する工程;
(g)前記ドラムから前記急冷したコークス製品を取り出す工程
を含むディレードコーキング方法。
【請求項11】
前記残油フィードがオリノコ重油(Orinoco Heavy Oil)原油から誘導された常圧残油または減圧残油を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記残油フィードが、6〜15°のAPI比重を有する重質原油から誘導された減圧残油を含む請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記残油フィードが、8〜10°のAPI比重を有する重質原油から誘導された減圧残油を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記残油フィードが、6〜9°のAPI比重を有する重質原油から誘導された減圧残油を含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記揮発性液体が、水および最高400℃までのエンドポイントを有する軽質炭化水素油を含む請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記揮発性液体が、水および最高200℃までのエンドポイントを有するナフサを含む請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記揮発性液体が、水および最高150℃までのエンドポイントを有するナフサを含む請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記揮発性液体が、水および最高500℃までのエンドポイントを有する蒸留留出物を含む請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記ドラムの前記温度が400〜500℃である請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記残油フィードが、オリノコ重油(Orinoco Heavy Oil)原油から誘導された常圧残油または減圧残油を含む請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−532961(P2012−532961A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519710(P2012−519710)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/041290
【国際公開番号】WO2011/005918
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】