説明

デオキシニバレノールを分解する新規微生物

【課題】デオキシニバレノールを直接分解処理できる新規微生物の提供、及び該新規微生物を利用したデオキシニバレノールを分解処理する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】Nocardioides属に属し、デオキシニバレノールに対して分解能を有することを特徴とする新規微生物WSN05-2菌株(FERM AP-21227)、新規微生物LS1菌株(FERM AP-21223)、新規微生物SS1菌株(FERM AP-21225)、新規微生物SS2菌株(FERM AP-21226)を提供する。またNocardioides属に属する微生物を用いて、デオキシニバレノールを分解処理することを特徴とするデオキシニバレノールの分解処理方法であり、更に本発明は、Nocardioides属に属する微生物に加えて、alpha-proteobacteriaに属する新規微生物RS1菌株とを併用して、デオキシニバレノールを分解処理することを特徴とするデオキシニバレノールの分解処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デオキシニバレノールを分解する新規微生物、及びデオキシニバレノールの分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ムギ類を始めとする穀類に広く感染する赤かび病菌Fusarium graminearumが産生するデオキシニバレノール(Deoxynivalenol、以下デオキシニバレノールと略称することがある。)、ニバレノール、T−2トキシンは、トリコテセン系マイコトキシンであり、ムギ生産地帯で大きな問題となっている。中でもデオキシニバレノールは、各国のムギ生産地帯で発生しているマイコトキシン汚染の主要因であり、摂取すると嘔吐、下痢などの急性中毒を引き起こすことから、世界的に本毒素の対策が喫緊の課題となっている。我が国でも平成14年5月に、厚生労働省においてコムギ粒の暫定基準濃度が1.1ppm以下と定められた。
【0003】
従来この対策としては、化学的手法により赤かび病菌を制御する方法が用いられてきた。また近年は植物体に残存する化学農薬の危険性が指摘されることから、微生物農薬がより安心で安全な植物病害防除剤として注目されている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。またバチルス・ズブチリスに属する菌株が産生するアイツリンAのフザリウムに対する増殖抑制効果を利用し、当該菌株の培養液で農産物を処理する方法が提案されている(特許文献3を参照。)。
【0004】
しかしデオキシニバレノールはトリコテセン骨格の構造を有し、121℃ 20分の加圧高温処理に対しても安定である。そのため、一旦赤かび病菌が発生した植物体においては、赤かび病を殺菌剤等で防除した後であっても、罹病した植物体の穂等に残存する。さらにデオキシニバレノール の特徴として、赤かび病が感染した植物体においては、発病したムギ粒等だけではなく、無病徴のムギ粒等にも蓄積される。このため、発病の有無にかかわらず、赤かび病菌汚染にされたムギ粒に蓄積されたデオキシニバレノールを低減する技術が求められている。
【0005】
そのためにデオキシニバレノールを直接除去する方法として、食品のレベルで物理的吸着により不活性化または排除する、家畜が食べてもそのまま排泄可能なカビ毒吸着剤(特許文献4を参照。)や、マイコトキシンを吸着除去する金属酸化物粒子複合体(特許文献5を参照。)が提案されている。
【0006】
しかし食品となる以前に、直接穀物等に付着したデオキシニバレノールを除去することが望まれており、デオキシニバレノール分解微生物の探索が進められている。デオキシニバレノール分解微生物としては、現在のところ、土壌から分離されたグラム陰性菌Agrobacterium-Rhyzobiumグループの1細菌が報告されているが、本細菌は酵母エキスを加えた富栄養培地で生育されたものであり、デオキシニバレノールのみを栄養源として生育するかは明らかではない(非特許文献1を参照。)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−206212号公報
【特許文献2】特開2003−192515号公報
【特許文献3】特開平5−85911号公報
【特許文献4】特表2002−512011号公報
【特許文献5】特表2004−500214号公報
【非特許文献1】Shima J. et. al (1997) Appl. Environ. Microbiol., 63: 3825-3830
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、デオキシニバレノールを直接分解処理できる新規微生物の提供、及び該新規微生物を利用したデオキシニバレノールを分解処理する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ムギ栽培圃場におけるムギの植物表皮、及びムギの根圏に生息する微生物の中から、各国のムギ生産地帯で大きな問題となっているマイコトキシン汚染の主要因であるデオキシニバレノール を効率よく分解することができる菌株を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
<1>すなわち本発明は、Nocardioides属に属し、デオキシニバレノールに対して分解能を有することを特徴とする新規微生物WSN05-2菌株(FERM AP-21227)、新規微生物LS1菌株(FERM AP-21223)、新規微生物SS1菌株(FERM AP-21225)、新規微生物SS2菌株(FERM AP-21226)を提供することである。
<2>更に本発明は、Nocardioides属に属する微生物を用いて、デオキシニバレノールを分解処理することを特徴とするデオキシニバレノールの分解処理方法であり、前記Nocardioides属に属する微生物として、前記新規微生物を用いることが好ましい。
<3>更に本発明は、前記Nocardioides属に属する微生物に加えて、さらにalpha-proteobacteriaに属し、デオキシニバレノールに対して分解能を有することを特徴とする新規微生物RS1菌株(FERM AP-21224)を用いて、デオキシニバレノールを分解処理することを特徴とするデオキシニバレノールの分解処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の新規微生物は、熱に安定で、難分解性であるデオキシニバレノールを分解することができる。さらに、本発明の新規微生物を使用したデオキシニバレノールの分解処理方法によれば、穀類等に蓄積されたデオキシニバレノールを直接分解処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、Nocardioides属に属し、デオキシニバレノールに対して分解能を有することを特徴とする新規微生物WSN05-2菌株(FERM AP-21227)、新規微生物LS1菌株(FERM AP-21223)、新規微生物SS1菌株(FERM AP-21225)、新規微生物SS2菌株(FERM AP-21226)を提供することであり、更に前記微生物を用いて、デオキシニバレノールを分解処理する方法である。以下本発明について詳説する。
【0013】
本発明のWSN05-2菌株は、ムギ栽培圃場におけるムギの根を含む根圏土壌から採取されたもので、16S rRNA遺伝子をDNA DATABANK of JAPAN(以下DDBJと略記する。)において、BLAST検索により相同性を調べた結果、Nocardioides sp. AN3株と100%の相同性を示すが、該Nocardioides sp. AN3株は種の記載がないことから、本WSN05-2菌株はあたらな種の可能性がある、新規微生物である。本各菌株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(以下FERMと略称する。)に、受領番号AP−21227として寄託されている。
【0014】
更に本発明の菌株であるWSN05-2菌株は、グラム染色による光学顕微鏡観察により、グラム陽性の球菌で、Nocardioides属細菌の特徴を示す。また本菌株は、GYM寒天培地、ジャガイモ半合成寒天培地、普通寒天培地で培養すると、いずれも円形の白色ないし乳白色のコロニーを形成する。
【0015】
本発明の菌株であるWSN05-2菌株は、デオキシニバレノールを唯一の炭素源とする無機塩液体培地で、デオキシニバレノールを分解しつつ増殖し、100 mg/Lのデオキシニバレノールを、77時間後に検出限界以下にまで低減させることができる。
【0016】
本WSN05-2菌株の培養は、ジャガイモ半合成寒天培地、または普通寒天培地によることが好ましく、中でもジャガイモ半合成寒天培地が好ましい。また培養条件としては20〜30℃が好ましい。
【0017】
本発明のLS1菌株は、ムギ栽培圃場におけるムギの葉から採取されたもので、16S rRNA遺伝子をDNA DATABANK of JAPAN(以下DDBJと略記する。)において、BLAST検索により相同性を調べた結果、Nocardioides kribbensis KSL-6株と97%の相同性の相同性を示し、新規微生物である。本各菌株は、FERMに受領番号AP−21223として寄託されている。
【0018】
更に本発明の菌株であるLS1は、グラム染色による光学顕微鏡観察により、グラム
陽性の球菌で、Nocardioides属細菌の特徴を示し、ジャガイモ半合成寒天培地及び普通寒天培地で培養すると、いずれも円形で光沢のある乳白色のコロニーを形成する。
【0019】
本LS1菌株もデオキシニバレノールを唯一の炭素源とする無機塩液体培地で、デオキシニバレノールを分解しつつ増殖し、100 mg/Lのデオキシニバレノールを120時間後に検出限界以下にまで低減させることができる。
【0020】
本発明のLS1菌株の培養は、ジャガイモ半合成寒天培地、または普通寒天培地によることが好ましく、中でもジャガイモ半合成寒天培地が好ましい。また培養条件としては20〜30℃が好ましい。
【0021】
本発明のSS1菌株は、ムギ栽培圃場におけるムギの根を含む根圏土壌から採取されたもので、16S rRNA遺伝子をDNA DATABANK of JAPAN(以下DDBJと略記する。)において、BLAST検索により相同性を調べた結果、Nocardioides sp. AN3株と99%の相同性を示し、新規微生物である。本各菌株は、FERMに、受領番号AP−21225として寄託されている。
【0022】
更に本発明の菌株であるSS1菌株は、グラム染色による光学顕微鏡観察により、グラム陽性の球菌で、Nocardioides属細菌の特徴を示し、またGYM寒天培地、ジャガイモ半合成寒天培地、普通寒天培地で培養すると、いずれも円形で、やや透明な白色ないし乳白色のコロニーを形成する。
【0023】
本SS1菌株は、デオキシニバレノールを唯一の炭素源とする無機塩液体培地で、デオキシニバレノールを分解しつつ増殖し、デオキシニバレノールに対して分解能力を有し、100 mg/Lのデオキシニバレノールを、77時間後に検出限界以下にまで低減させることができる。
【0024】
本発明のSS1菌株の培養は、ジャガイモ半合成寒天培地、または普通寒天培地によることが好ましく、中でもジャガイモ半合成寒天培地が好ましい。また培養条件としては20〜30℃が好ましい。
【0025】
本発明のSS2菌株は、ムギ栽培圃場におけるムギの根を含む根圏土壌から採取されたもので、16S rRNA遺伝子をDNA DATABANK of JAPAN(以下DDBJと略記する。)において、BLAST検索により相同性を調べた結果、Nocardioides simplex と95%の相同性を示し、新規微生物である。本菌株は、FERMに、受領番号AP−21226として寄託されている。図1に、本発明の菌株の16S rRNA遺伝子の配列に基づく系統樹を示す。
【0026】
更に本発明の菌株であるSS2菌株は、グラム染色による光学顕微鏡観察により、グラム陽性の球菌で、Nocardioides属細菌の特徴を示し、また1/4GYM寒天培地、ジャガイモ半合成寒天培地、および普通寒天培地で培養すると、円形で、光沢のない、乳白色のコロニーを形成する。
【0027】
本発明の菌株であるSS2菌株は、いずれもデオキシニバレノールを唯一の炭素源とする無機塩液体培地で、デオキシニバレノールを分解しつつ増殖し、100 mg/Lのデオキシニバレノールを、150時間後に検出限界以下にまで低減させることができる。
【0028】
本発明のSS2菌株の培養は、ジャガイモ半合成寒天培地、または普通寒天培地によることが好ましく、中でもジャガイモ半合成寒天培地が好ましい。また培養条件としては20〜30℃が好ましい。
【0029】
前記の通り本発明のWSN05-2菌株、LS1菌株、SS1菌株、SS2菌株はいずれも、それぞれ単独で、又は該菌株を組合せ使用することにより、デオキシニバレノールを分解することができるが、さらに本発明は、前記WSN05-2菌株、LS1菌株、SS1菌株、SS2菌株のいずれか1以上の菌株と、alpha-proteobacteriaに属し、デオキシニバレノールに対して分解能を有することを特徴とする新規微生物RS1菌株とを併せて用いることにより、一層の効果を上げることができる。
【0030】
前記RS1菌株は、前記WSN05-2菌株、SS1菌株、SS2菌株と同様に、ムギの根を含む根圏土壌から採取、分離されたもので、16S rRNA遺伝子の塩基配列のデータベース相同性検索により、alpha-proteobacteriaのAminobacter aminovoransに94%の相同性を示す、Aminobacterに近縁の新種の微生物である。本RS1菌株は、FERMに受領番号AP−21224として寄託され、また特願第2007-058335号として特許出願されている。
【0031】
前記RS1菌株は、グラム染色による光学顕微鏡観察により、グラム陰性の短桿菌で、alpha-proteobacteriaに属する細菌の特徴を示し、また普通寒天培地、ジャガイモ半合成寒天培地で培養すると、円形で、光沢がある乳白色のコロニーを形成する。
【0032】
前記RS1菌株は、デオキシニバレノールを唯一の炭素源とする無機塩培地で、デオキシニバレノールを分解しつつ増殖する。100 mg/Lのデオキシニバレノールを添加した際、50時間後に検出限界以下にまで低減させることができる。
【0033】
前記RS1菌株と、前記WSN05-2菌株、LS1菌株、SS1菌株、SS2菌株のいずれか1以上とを併せて用いることにより、デオキシニバレノールの分解に一層の効果を上げることができる。
【実施例】
【0034】
〔実施例1:WSN05-2菌株〕
<根圏よりの分離>
ムギ栽培圃場においてムギの根を含む根圏土壌を採取し、該採取試料約1gを、下記表1に示す培地組成の無機塩培地1000mLにデオキシニバレノール100mgを加えた、デオキシニバレノールを唯一の炭素源とする培地(以下CDM培地という。)において、28℃で、振とう条件にて集積培養を行った。5〜7日間、CDM培地で培養後、培溶液から100μLを取り、更に新鮮なCDM培地に移し変え、同様の条件で振とう培養した。この操作を数回繰り返し、分解活性の再現性を確認した。
【0035】
【表1】

【0036】
前記集積培養において、デオキシニバレノール分解活性の見られた集積培養サンプルを、100倍に希釈した普通寒天培地(培地組成:水1 L当たり、肉エキス;0.03 g, ペプトン;0.05 g、寒天:15gを添加。以下NA培地という。)に塗末し28℃にて培養した。前記NA培地上に菌のコロニーが形成されたら、該コロニーを釣菌し、マイクロプレート分光光度計(TECAN社製、GENios)を使用して、波長610nmにおける吸光度が0.1になるように5mLの滅菌水に懸濁した。
【0037】
<選抜した菌RS1のデオキシニバレノール分解能と菌の増殖>
該懸濁液5mLを、前記CDM培地に接種し、28℃で振とう培養し、以下の増殖の判定及びデオキシニバレノールの抽出に供試した。前記懸濁液をCDM培地に接種した時を、以下のデオキシニバレノールの濃度測定における培養開始時(培養0時間後)とした。また、上記培養期間中、菌の増殖およびデオキシニバレノール濃度を測定するため、120μLの菌液を12時間ごとに回収した。
【0038】
<増殖の判定及びデオキシニバレノールの抽出>
菌の増殖量を吸光度で測定した。前記120μLの菌液を、96ウェルプレートに入れ、前記マイクロプレート分光光度計により、波長595nmにおける吸光度を測定した。測定終了後、120μLある菌液のうち100μLに、500μLの酢酸エチルと400μLの飽和食塩水を加えて、タッチミキサーによる攪拌を行い、その後分層した有機溶媒層を回収することにより、デオキシニバレノールの抽出を行った。前記酢酸エチルと飽和食塩水による抽出を3回繰り返した後、該抽出物を遠心エバポレーター(EYELA,CVE-200D 40℃ 20分)によって、有機溶媒層を完全に除去し、デオキシニバレノール抽出物を得た。
【0039】
<HPLCによるデオキシニバレノールの分析>
前記デオキシニバレノール抽出物を、100μLのメタノールで懸濁し、逆相HPLC分析に供した。HPLC(東ソーHPLCシステム、ポンプ:CCPM-II、検出器:UV-8020、カラム:C18M 4E (Shodex)、検出波長:220 nm、移動相:メタノール:水=15:85、流速:1 mL/ 1 min)にて分析し、培養液中に残存していたデオキシニバレノールの濃度を検量線から求めた。培養開始時(培養0時間後)と培養60時間経過後の分析によって得られたクロマトグラムを図2に示す。
【0040】
図2より、培養開始時におけるデオキシニバレノールは面積が438 mV×sec で、5.8分のピークで示されているが、これに比較して培養60時間経過後のデオキシニバレノールは面積が82.2 mV×secと、培養開始時の18.8%となっており、それに対しデオキシニバレノール分解産物由来のピークが4.1分に現れている。このことから本発明のWSN05-2菌株は、デオキシニバレノールを唯一の炭素源として増殖し、ほかの化合物へと代謝することのできる細菌であることが解る。
【0041】
また培養開始後、培養77時間経過後までの、デオキシニバレノール残存濃度を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2より、53時間経過後は、デオキシニバレノールは1/2以下になり、67時間経過後には1ppmになった。さらに77時間後には、検出限界以下にまで低減した。
【0044】
<菌学的性質及び生理学的性質>
本発明のWSN05-2菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析を行った。該菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号1に示す。さらに本発明の菌株について系統学的分類を行うため、既知微生物の塩基配列のデータベース上で、解析により得られた塩基配列のDNAデータベース相同性検索を行ったところ、WSN05-2菌株は、Nocardioides sp. AN3株と100%の相同性を示すことが明らかとなった。図1に、本発明の菌株の16S rRNA遺伝子の配列に基づく系統樹を示す。
【0045】
本発明のWSN05-2菌株について、グラム染色を行い光学顕微鏡で観察を行ったところ、グラム陽性の球菌で、Nocardioides属細菌の特徴を示していた。
【0046】
<培養特性>
本発明のWSN05-2菌株について、1/4GYM寒天培地(培地組成;Glucose;4g、Yeast extract;4g、Malt extract;10g、Peptone (NZ-amine);1g、NaCl;2g、MgSO4・5H2O;50 mg、CuSO4・5H2O;1.6 mg、FeSO4・5H2O;2.5mg、MnSO4・4H2O;1.2mg、CaCl2 ;5mg、ZnSO4・5H2O;3mg、全体で1000mlとし、NaOHでpH7.2に調整。以下GYM寒天培地という。)の上に25℃で培養すると、5日目に直径1mm程度の円形、全縁、ドーム型、表面平滑、光沢あり、やや透明、白色のコロニーを形成した。
【0047】
ジャガイモ半合成寒天培地(培地組成:ジャガイモ300gの煎汁、peptone;5g、sucrose;20g、Na2HPO4・12H2O;2g、Ca(NO3)2;0.5g、Agar;15gを入れ、全体で1000mlとした。以下PSA培地という。)の上に25℃で培養すると、5日目に直径1mm程度の円形、全縁、ドーム型、表面平滑、光沢あり、乳白色のコロニーを形成する。
【0048】
また前記NA平板培地上に25℃で培養すると、5日目に直径0.5mm程度の円形、全縁、ドーム型、表面平滑、光沢あり、やや透明、乳白色のコロニーを形成する。1/100NA培地上に25℃で培養すると、3日目に直径0.5mm程度の円形、全縁、ドーム型、表面平滑、光沢あり、やや透明、白色のコロニーを形成するが、3日目以降、コロニーの直径は拡大しない。
【0049】
<ムギ粒でのデオキシニバレノール分解能試験(1)>
本発明のWSN05-2菌株について、前記CDM培地で25℃2日間培養した後、該懸濁液を、波長610nmにおける吸光度が4となるように滅菌水に懸濁して、その菌懸濁液を作製した。一方ムギ粒約300粒を前記CDM培地に浸漬し、その後1時間風乾し、ムギ粒表面にデオキシニバレノールが付着したムギ粒を作製した。
【0050】
前記デオキシニバレノール付着ムギ粒60粒に、前記の菌懸濁液、各600μLを接種し、よく撹拌したのちに、プラスチック容器に入れ、25℃で静置し、デオキシニバレノールの残存量を経時的に測定した。結果を表3に示す。
【0051】
<ムギ粒でのデオキシニバレノール分解能試験(2)>
前記デオキシニバレノール分解能試験(1)における前記CDM培地に換えて、前記PS液体培地で培養した以外はデオキシニバレノール分解能試験(1)と同様にして、デオキシニバレノール分解能試験(2)を実施した。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3より、デオキシニバレノールは、デオキシニバレノールを添加したCDM培地による培養菌では、3日目までに23%まで、7日目には3%まで減少し、一方PS液体培地による培養菌では、3日目までに70%まで、7日目には48%まで減少した。デオキシニバレノールを添加したCDM培地による培養菌が、PS液体培地による培養菌に比較して、効果的にデオキシニバレノールを低減する。
【0054】
〔実施例2: LS1菌株〕
<葉圏よりの分離>
ムギ栽培圃場においてムギの葉を採取し、該採取試料約0.1gを、実施例1と同様に、根圏よりの分離、選抜した菌のデオキシニバレノール分解能と菌の増殖、増殖の判定及びデオキシニバレノールの抽出、HPLCによるデオキシニバレノールの分析を行い、分解活性の確認を行った。培養開始時(培養0時間後)と培養77時間経過後の分析によって得られたクロマトグラムを図3に示す。
【0055】
図3より、培養開始時におけるデオキシニバレノールは5.8分のピークで示されているが、培養77時間経過後のデオキシニバレノールは3%まで減少した。このことから本発明のLS1菌株は、デオキシニバレノールを唯一の炭素源として増殖し、ほかの化合物へと代謝することのできる細菌であることが解る。
【0056】
また培養開始後、培養77時間経過後までの、デオキシニバレノール残存濃度を表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
表4より、53時間経過後は、デオキシニバレノールは半減し、67時間経過後には35ppmになった。さらに77時間後には、3ppmにまで低減した。
【0059】
<菌学的性質及び生理学的性質>
本発明のLS1菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析を行った。該菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号2に示す。さらに本発明の菌株について系統学的分類を行うため、既知微生物の塩基配列のデータベース上で、解析により得られた塩基配列のDNAデータベース相同性検索を行ったところ、LS1菌株は、Nocardioideskribbensis KSL-6株と97%の相同性の相同性を示し、新規な菌株であることが明らかとなった。図1に、本発明の菌株の16S rRNA遺伝子の配列に基づく系統樹を示す。
【0060】
本発明のLS1菌株について、グラム染色を行い光学顕微鏡で観察を行ったところ、グラム陽性の球菌で、Nocardioides属細菌の特徴を示していた。
【0061】
<培養特性>
本発明のLS1菌株について、前記PS寒天培地上に25℃で培養すると、5日目に直径0.5mm、10日で直径1mm程度の円形、全縁、ドーム型、表面平滑、光沢あり、乳白色のコロニーを形成する。また、黄色〜褐色の色素を産生する。前記1/100NA培地上に25℃で培養すると、3日目に直径0.5mmの円形、全縁、ドーム型、表面平滑、光沢あり、乳白色のコロニーを形成する。3日目以降、コロニーの直径は拡大しない。本発明のLS1菌株は、NA寒天培地上では生育しなかった。
【0062】
<ムギ粒でのデオキシニバレノール分解能試験(1)>
本発明のLS1菌株について、前記CDM培地で25℃2日間培養した後、該懸濁液を、波長610nmにおける吸光度が4となるように滅菌水に懸濁して、その菌懸濁液を作製した。一方ムギ粒約300粒を前記CDM培地に浸漬し、その後1時間風乾し、ムギ粒表面にデオキシニバレノールが付着したムギ粒を作製した。
【0063】
前記デオキシニバレノール付着ムギ粒60粒に、前記の菌懸濁液、各600μLを接種し、よく撹拌したのちに、プラスチック容器に入れ、25℃で静置し、デオキシニバレノールの残存量を経時的に測定した。結果を表5に示す。
【0064】
<ムギ粒でのデオキシニバレノール分解能試験(2)>
前記デオキシニバレノール分解能試験(1)における前記CDM培地に換えて、前記PS液体培地で培養した以外はデオキシニバレノール分解能試験(1)と同様にして、デオキシニバレノール分解能試験(2)を実施した。結果を表5に示す。
【0065】
【表5】

【0066】
表5より、デオキシニバレノールは、デオキシニバレノールを添加したCDM培地による培養菌では、3日目までに6%まで、7日目には1%以下にまで減少し、一方PS液体培地による培養菌では、3日目までに62%まで、7日目には35%まで減少した。デオキシニバレノールを添加したCDM培地による培養菌が、PS液体培地による培養菌に比較して、効果的にデオキシニバレノールを低減する。
【0067】
〔実施例3: SS1菌株〕
<根圏よりの分離>
ムギ栽培圃場において、ムギの根を含む根圏土壌を採取し、該採取試料約1gを、実施例1と同様に、根圏よりの分離、選抜した菌のデオキシニバレノール分解能と菌の増殖、増殖の判定及びデオキシニバレノールの抽出、HPLCによるデオキシニバレノールの分析を行い、分解活性の確認を行った。培養開始時(培養0時間後)と培養150時間経過後の分析によって得られたクロマトグラムを図4に示す。
【0068】
図4より、培養開始時におけるデオキシニバレノールは5.8分のピークで示されているが、培養150時間経過後のデオキシニバレノールは検出限界以下にまで分解されている。このことから本発明のSS1菌株は、デオキシニバレノールを唯一の炭素源として増殖し、ほかの化合物へと代謝することのできる細菌であることが解る。
【0069】
また培養開始後、培養77時間経過後までの、デオキシニバレノール残存濃度を表6に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
表6より、43時間経過後は、デオキシニバレノールは半減し、67時間経過後には3ppmにまで減少し、さらに77時間後には、検出限界以下にまで低減した。
【0072】
<菌学的性質及び生理学的性質>
本発明のSS1菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析を行った。該菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号3に示す。さらに本発明の菌株について系統学的分類を行うため、既知微生物の塩基配列のデータベース上で、解析により得られた塩基配列のDNAデータベース相同性検索を行ったところ、SS1菌株は、Nocardioidessp. AN3株と99%の相同性を示し、新規な菌株であることが明らかとなった。図1に、本発明の菌株の16S rRNA遺伝子の配列に基づく系統樹を示す。
【0073】
本発明のSS1菌株について、グラム染色を行い光学顕微鏡で観察を行ったところ、グラム陽性の球菌で、Nocardioides属細菌の特徴を示していた。
【0074】
<培養特性>
本発明のSS1菌株の培養は、1/4GYM寒天培地上に25℃で培養すると、5日目に直径0.5mm、10日で直径1mm程度の円形、全縁、ドーム型、表面平滑、光沢あり、やや透明、白色のコロニーを形成する。PS寒天培地上に25℃で培養すると、5日目に直径0.5mm、10日で直径1mm程度の円形、全縁、ドーム型、表面平滑、光沢あり、乳白色のコロニーを形成する。NA培地上に25℃で培養すると、7日目に直径0.5mm程度の円形、全縁、ドーム型、表面平滑、光沢あり、透明または半透明、乳白色のコロニーを形成する。1/100NA培地上に25℃で培養すると、3日目に直径0.5mmの円形、全縁、ドーム型、表面平滑、光沢あり、やや透明、白色のコロニーを形成するが、3日目以降、コロニーの直径は拡大しない。
【0075】
〔実施例4: SS2菌株〕
<根圏よりの分離>
ムギ栽培圃場において、ムギの根を含む根圏土壌を採取し、該採取試料約1gを、実施例1と同様に、根圏よりの分離、選抜した菌のデオキシニバレノール分解能と菌の増殖、増殖の判定及びデオキシニバレノールの抽出、HPLCによるデオキシニバレノールの分析を行い、分解活性の確認を行った。培養開始時(培養0時間後)と培養70時間経過後の分析によって得られたクロマトグラムを図5に示す。
【0076】
図5より、培養開始時におけるデオキシニバレノールは5.8分のピークで示されているが、培養70時間経過後のデオキシニバレノールは20 ppmにまで分解され、150時間後には検出限界以下にまで分解された。このことから本発明のSS2菌株は、デオキシニバレノールを唯一の炭素源として増殖し、ほかの化合物へと代謝することのできる細菌であることが解る。
【0077】
また培養開始後、培養77時間経過後までの、デオキシニバレノール残存濃度を表7に示す。
【0078】
【表7】

【0079】
表7より、処理後53時間後には、デオキシニバレノールは半減し、77時間後には、5ppmまで減少した。
【0080】
<菌学的性質及び生理学的性質>
本発明のSS2菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析を行った。該菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号4に示す。さらに本発明の菌株について系統学的分類を行うため、既知微生物の塩基配列のデータベース上で、解析により得られた塩基配列のDNAデータベース相同性検索を行ったところ、SS2菌株は、Nocardioides simplex と95%の相同性を示し、新規な菌株であることが明らかとなった。図1に、本発明の菌株の16S rRNA遺伝子の配列に基づく系統樹を示す。
【0081】
本発明のSS2菌株について、グラム染色を行い光学顕微鏡で観察を行ったところ、グラム陽性の球菌で、Nocardioides属細菌の特徴を示していた。
【0082】
<培養特性>
本発明のSS2菌株の培養は、1/4GYM寒天培地上に25℃で培養すると、5日目に直径0.5mm、10日で直径1mm程度の円形、全縁、中央がくぼんだドーム型、粗面、光沢なし、乳白色のコロニーを形成する。PS寒天培地上に25℃で培養すると、5日目に直径0.5mm、10日で直径1mm程度の円形、全縁、中央がくぼんだドーム型、粗面、光沢なし、乳白色のコロニーを形成する。1/100NA培地上に25℃で培養すると、3日目に直径0.5mmの円形、全縁、ドーム型、粗面、光沢なし、乳白色のコロニーを形成するが、3日目以降、コロニーの直径は拡大しない。本発明のSS2菌株はNA培地上では生育しなかった。
【0083】
〔実施例5: RS1菌株〕
<RS1菌株のデオキシニバレノール分解能>
本発明のRS1菌株について、実施例1と同様に、選抜した菌のデオキシニバレノール分解能と菌の増殖、増殖の判定及びデオキシニバレノールの抽出、HPLCによるデオキシニバレノールの分析を行い、分解活性の確認を行った。結果を表8に示す。
【0084】
【表8】

【0085】
表8より、17時間経過後は、デオキシニバレノールは1/5になり、40時間経過後には1ppmになった。さらに50時間後には、検出限界以下にまで低減した。
【0086】
〔実施例6:各菌株のデオキシニバレノール分解特性比較〕
前記Nocardioides属に属するWSN05-2菌株、LS1菌株、SS1菌株、SS2菌株の分解活性をあらためて表9に示す。
【0087】
【表9】

【0088】
表8と表9の比較から、alpha-proteobacteriaに属するRS1菌株は、Nocardioides属に属するWSN05-2菌株、LS1菌株、SS1菌株、SS2菌株の各菌株に比較して、デオキシニバレノールの低減効果が早く、一方Nocardioides属に属する各菌株は長期間活性を示す。したがって前記RS1菌株とNocardioides属に属するWSN05-2菌株、LS1菌株、SS1菌株、SS2菌株の各菌株とを併用することにより、いっそう効果的にデオキシニバレノールを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のデオキシニバレノール分解菌は、デオキシニバレノールそのものに作用するために、本発明のデオキシニバレノール分解菌を用いることにより赤かび病の発病の有無にかかわらず、穀物等に蓄積されたデオキシニバレノールを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の菌株の16S rRNA遺伝子の配列に基づく系統樹である。
【図2】WSN05-2菌株の分光分析によって得られたクロマトグラム図である。
【図3】LS1菌株の分光分析によって得られたクロマトグラム図である。
【図4】SS1菌株の分光分析によって得られたクロマトグラム図である。
【図5】SS2菌株の分光分析によって得られたクロマトグラム図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nocardioides属に属し、デオキシニバレノールに対して分解能を有することを特徴とする新規微生物WSN05-2菌株(FERM AP−21227)。
【請求項2】
Nocardioides属に属し、デオキシニバレノールに対して分解能を有することを特徴とする新規微生物LS1菌株(FERM AP−21223)。
【請求項3】
Nocardioides属に属し、デオキシニバレノールに対して分解能を有することを特徴とする新規微生物SS1菌株(FERM AP−21225)。
【請求項4】
Nocardioides属に属し、デオキシニバレノールに対して分解能を有することを特徴とする新規微生物SS2菌株(FERM AP−21226)。
【請求項5】
Nocardioides属に属する微生物を用いて、デオキシニバレノールを分解処理することを特徴とするデオキシニバレノールの分解処理方法。
【請求項6】
前記Nocardioides属に属する微生物が、請求項1に記載の微生物である請求項5に記載のデオキシニバレノールの分解処理方法。
【請求項7】
前記Nocardioides属に属する微生物が、請求項2に記載の微生物である請求項5に記載のデオキシニバレノールの分解処理方法。
【請求項8】
前記Nocardioides属に属する微生物が、請求項3に記載の微生物である請求項5に記載のデオキシニバレノールの分解処理方法。
【請求項9】
前記Nocardioides属に属する微生物が、請求項4に記載の微生物である請求項5に記載のデオキシニバレノールの分解処理方法。
【請求項10】
前記Nocardioides属に属する微生物が、請求項1ないし請求項4に記載の微生物のいずれか1以上である請求項5に記載のデオキシニバレノールの分解処理方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項4に記載のいずれか1以上の微生物に加えて、さらに
alpha-proteobacteriaに属し、デオキシニバレノールに対して分解能を有する新規微生物RS1菌株(FERM AP−21224)を用いて、デオキシニバレノールを分解処理することを特徴とするデオキシニバレノールの分解処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−220184(P2008−220184A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58563(P2007−58563)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年10月27日〜10月30日 日本微生物生態学会主催の「第22回日本微生物生態学会」に文書をもって発表
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【Fターム(参考)】