説明

デジタルオシロスコープ

【課題】スキューを明解に表示し高精度なデスキュー調整を実現するとともに、デスキュー調整結果確認の判断がより正確に行えるデジタルオシロスコープを提供すること。
【解決手段】アナログ入力信号をA/D変換器でデジタルデータに変換して波形データとしてデータメモリに格納するとともに、必要に応じてこれら波形データに対して測定目的に応じたデータ処理を行い、これら波形データやデータ処理結果が表示処理部を介して表示部に表示されるように構成されたデジタルオシロスコープにおいて、
前記表示処理部は、少なくとも波形表示モードとX−Y表示モードとX−Y表示画面解析モードとデスキュー処理モードが選択設定できることを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデジタルオシロスコープに関し、詳しくは、スキュー(時間差)測定の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルオシロスコープは、アナログ入力信号をA/D変換器でデジタルデータに変換して波形データとしてデータメモリに格納するとともに、必要に応じてこれら波形データに対して測定目的に応じた演算処理を行い、これら波形データや演算結果をラスタースキャン式の表示部に表示するように構成されたものであり、かつてのアナログオシロスコープに代わる一般的な波形測定装置として広く用いられている。
【0003】
このようなデジタルオシロスコープの活用例として、測定対象回路における電圧信号と電流信号間のスキューを測定し、波形の注目部分のスキューが所望の値になるように調整するデスキューが行われている。この場合、一方の測定チャネルに測定対象回路における電圧信号が入力され、他方の測定チャネルに電流信号が入力される。
【0004】
図6は、電圧信号と電流信号の振幅が等しく立下り時間が等しい場合の波形例図であって、(A)はデスキュー前を示し、(B)はデスキュー後を示している。デスキュー前の電圧信号と電流信号の立下り波形は時間軸方向に沿ってずれているが、デスキュー後の両信号の立下り波形は重なり合って一致している。
【0005】
図7は、電圧信号と電流信号の振幅が等しく立下り時間が異なる場合の波形例図であって、(A)はデスキュー前を示し、(B)はデスキュー後を示している。デスキュー前の電圧信号と電流信号の立下り波形の肩部分は時間軸方向に沿ってずれているが、デスキュー後の両信号の立下り波形の肩部分は重なり合って一致している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tech−On!「デジタル・オシロスコープ活用入門 第5回 パワー回路とデジタル・オシロ」[online]、2007年9月26日、日本テクトロニクス、[2009年3月2日検索]、インターネット<URL:http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070916/139208/>
【0007】
非特許文献1には、スイッチング電源のスイッチングデバイスとして用いられるパワーMOS FETの特性測定方法が記載されている。
【0008】
非特許文献1の図6にはスキューを含んだ2信号の例が示され、非特許文献1の図7にはデスキューによって補正された2信号の例が示されている。
【0009】
また、非特許文献1の図10には電源立ち上げ時の電圧と電流波形をX−Y表示させた例が示され、非特許文献1の図12には負荷変動時の電圧と電流波形をX−Y表示させた例が示されている。
【0010】
ところで、高速信号を高精度に測定するためには、前述のように、デジタルオシロスコープにおける測定チャネル間のスキューを高精度に補正するデスキューが必要不可欠である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、現状では、表示画面に表示される実際の波形を目視観測し、位相差の有無を判断している。自動的にデスキューを行う治具やソフトウェアも実用化されているが、それらに基づくデスキュー結果の確認は、作業者自身が目視観測で行っている。このため、たとえば図7に示したように2波形の立下り時間が異なる場合には、正確なデスキューを行うことは困難である。
【0012】
本発明は、このような問題を解決するものであり、その目的は、スキューを明解に表示し高精度なデスキュー調整を実現するとともに、デスキュー調整結果確認の判断がより正確に行えるデジタルオシロスコープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
アナログ入力信号をA/D変換器でデジタルデータに変換して波形データとしてデータメモリに格納するとともに、必要に応じてこれら波形データに対して測定目的に応じたデータ処理を行い、これら波形データやデータ処理結果が表示処理部を介して表示部に表示されるように構成されたデジタルオシロスコープにおいて、
前記表示処理部は、少なくとも波形表示モードとX−Y表示モードとX−Y表示画面解析モードとデスキュー処理モードが選択設定できることを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のデジタルオシロスコープにおいて、
前記表示処理部は、さらに波形表示とX−Y表示を合成した合成表示モードを含むことを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明は、
アナログ入力信号をA/D変換器でデジタルデータに変換して波形データとしてデータメモリに格納するとともに、必要に応じてこれら波形データに対して測定目的に応じたデータ処理を行い、これら波形データやデータ処理結果が表示処理部を介して表示部に表示されるように構成されたデジタルオシロスコープにおいて、
前記表示処理部は、
横軸を時間軸とし縦軸を振幅軸として各測定チャネルの波形を表示する通常の波形表示画面を生成する波形表示画面生成部と、
2系統の測定チャネルのX−Y波形を表示するX−Y表示画面を生成するX−Y表示画面生成部と、
このX−Y表示画面に表示されるX−Y特性線の端部に付加表示されるスキューの大きさに対応した線分に基づき、2系統の測定チャネル間のスキューの状況を解析するX−Y表示画面解析部と、
このX−Y表示画面解析部の解析結果に基づき前記2系統の測定チャネル間のスキューを補正するデスキュー処理部、
を有することを特徴とする。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項3記載のデジタルオシロスコープにおいて、
前記表示処理部は、さらに波形表示とX−Y表示を合成した合成表示画面を生成する合成表示画面生成部を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、2系統の測定チャネルのスキューを明解に表示でき、高精度なデスキュー調整を実現できるとともに、デスキュー調整結果確認の判断がより正確に行える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】図1の表示処理部7の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図3】電圧信号と電流信号の振幅が等しく立下り時間が等しい場合のX−Y表示画面例図である。
【図4】電圧信号と電流信号の振幅が等しく立下り時間が異なる場合のX−Y表示画面例図である。
【図5】本発明に基づく合成表示画面例図である。
【図6】電圧信号と電流信号の振幅が等しく立下り時間が等しい場合の波形例図である。
【図7】電圧信号と電流信号の振幅が等しく立下り時間が異なる場合の波形例図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示すブロック図である。
【0020】
図1において、各測定チャネルCH1〜CH4の入力端子1に入力されるアナログ入力信号は、アッテネータ2でプリアンプ3が扱える所定のレベルに調整され、A/D変換器4に入力される。
【0021】
プリアンプ3は、オフセット設定に応じたオフセット電圧を加算した後、垂直軸感度設定に応じた利得でアナログ入力信号を増幅し、各測定チャネルの帯域制限設定に応じて帯域制限された信号をA/D変換器4に入力する。
【0022】
A/D変換器4は、プリアンプ3から入力されるアナログ入力信号を所定のサンプリング周期でデジタル信号に変換してデータメモリ5に入力する。
【0023】
データ処理部6は、データメモリ5に対して各種の波形パラメータの演算処理などを行い、これらの演算処理結果を表示処理部7に入力する。
【0024】
表示処理部7は、データ処理部6の演算処理結果を波形として表示するための波形表示データを生成し、表示部8に表示する。
【0025】
動作モード設定部9は、表示処理部7の動作モードを設定するものであり、オペレータは以下の動作モードを選択設定できる。
1)波形表示モード
2)X−Y表示モード
3)合成表示モード
4)X−Y表示画面解析モード
5)デスキュー処理モード
【0026】
図2は、表示処理部7の具体的な構成例を示すブロック図である。
図2において、波形表示画面生成部71は、図6および図7に示すような横軸を時間軸とし縦軸を振幅軸として各測定チャネルの波形を表示する通常の波形表示画面を生成するものであり、1)の波形表示モードを実行する。
【0027】
X−Y表示画面生成部72は、図3および図4に示すようなX入力をたとえば測定チャネルCH1の電圧信号としY入力をたとえば測定チャネルCH2の電流信号としてこれら2系統の測定チャネルのX−Y波形を表示するX−Y表示画面を生成するものであり、2)のX−Y表示モードを実行する。なお、図3は電圧信号と電流信号の振幅が等しく立下り時間が等しい場合のX−Y表示画面を示し、図4は電圧信号と電流信号の振幅が等しく立下り時間が異なる場合のX−Y表示画面を示している。
【0028】
合成表示画面生成部73は、図5に示すように図6および図7に示す通常の波形表示画面と図3および図4に示すX−Y表示画面を共通の画面に合成して表示する合成表示画面を生成するものであり、3)の合成表示モードを実行する。
【0029】
なお、このような合成表示モードは、デスキュー処理を自動で実行させるのにあたり、たとえば図4のように立下り時間が異なる場合には、画面に表示される波形上で合わせこむべきポイントを任意に選択指定することができる。
【0030】
X−Y表示画面解析部74は、図3(A)および図4(A)に示すX−Y表示画面に基づき、測定チャネルCH1とCH2間のスキューの状況を解析把握する。具体的には、実線で示す実測値に基づくX−Y特性線L1と2点鎖線で示す測定チャネルCH1とCH2の信号の振幅が等しい場合の傾斜角45度の理想特性線L2との注目部分における差分を求め、測定チャネルCH1とCH2間の注目部分におけるスキューの大きさを特定する。
【0031】
図3および図4に示すX−Y表示画面において、X入力(測定チャネルCH1:電圧信号)のみ立下り始めるとX−Y特性線L1の上端部にスキューの大きさに対応した所定長の水平方向の線分が付加表示され、Y入力(測定チャネルCH2:電流信号)のみ立下り始めるとX−Y特性線L1の上端部にスキューの大きさに対応した所定長の垂直方向の線分が付加表示され、X入力とY入力が同時に立下り始めるとX−Y特性線L1の上端部には付加線分が表示されなくなる。
【0032】
本実施例では、図3および図4に示すX−Y表示画面の破線の円で囲んだ電圧信号および電流信号の立下りの肩部分に注目する。(A)においては、いずれもスキューの存在を示す水平方向の線分が付加表示されていて、X入力(測定チャネルCH1:電圧信号)のみ立下り始めていることを示している。そして、(B)においては、いずれも水平方向の付加線分はなく、スキューがデスキュー処理により補正されてX入力とY入力が同時に立下り始めていることを示している。
【0033】
デスキュー処理部75は、X−Y表示画面解析部74の解析結果に基づき、X入力とY入力が表示画面上において同時に立下り始めるように、上記のようなデスキュー処理を実行する。具体的には、X−Y表示画面解析部74の解析結果から得られる注目部分の付加線分情報が零になるように、デジタルオシロスコープの測定チャネルCH1またはCH2の時間軸方向の表示波形の位置を自動または手動調整する。
【0034】
このようなデスキュー処理を行うことにより、デジタルオシロスコープにおける測定チャネル間のスキューを高精度に補正することができ、デジタルオシロスコープにおける測定チャネル間のスキューを零にした状態で、所定測定信号間の位相差など、各種波形パラメータを精度よく測定できる。
【0035】
また、振幅の異なる信号間のスキューを補正するのにあたり、従来の波形表示のみでは的確に判断することは難しいが、X−Y表示を用いることにより判断基準が増え、高精度かつ容易なスキュー補正(デスキュー)が可能になる。
【0036】
特に、図7に示すように2波形の立下り時間が異なる場合、図7のような表示波形のみではスキューの有無判断が難しいが、図4のようなX−Y表示を用いることにより、実線で示す実測値に基づくX−Y特性線L1の端部における水平方向または垂直方向の付加線分の有無を確認すればよく、きわめて簡単確実にスキューの有無を判断できる。
【0037】
なお、上記実施例では、2系統の測定チャネルが電圧信号と電流信号の例を示したが、これに限るものではなく、互いに関連する2系統の各種の信号測定に有用である。
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、スキューを明解に表示し高精度なデスキュー調整を実現するとともに、デスキュー調整結果確認の判断がより正確に行えるデジタルオシロスコープが実現できる。
【符号の説明】
【0039】
1 入力端子
2 アッテネータ
3 プリアンプ
4 A/D変換器
5 データメモリ
6 データ処理部
7 表示処理部
71 波形表示画面生成部
72 X−Y表示画面生成部
73 合成表示画面生成部
74 X−Y表示画面解析部
75 デスキュー処理部
8 表示部
9 動作モード設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ入力信号をA/D変換器でデジタルデータに変換して波形データとしてデータメモリに格納するとともに、必要に応じてこれら波形データに対して測定目的に応じたデータ処理を行い、これら波形データやデータ処理結果が表示処理部を介して表示部に表示されるように構成されたデジタルオシロスコープにおいて、
前記表示処理部は、少なくとも波形表示モードとX−Y表示モードとX−Y表示画面解析モードとデスキュー処理モードが選択設定できることを特徴とするデジタルオシロスコープ。
【請求項2】
前記表示処理部は、さらに波形表示とX−Y表示を合成した合成表示モードを含むことを特徴とする請求項1記載のデジタルオシロスコープ。
【請求項3】
アナログ入力信号をA/D変換器でデジタルデータに変換して波形データとしてデータメモリに格納するとともに、必要に応じてこれら波形データに対して測定目的に応じたデータ処理を行い、これら波形データやデータ処理結果が表示処理部を介して表示部に表示されるように構成されたデジタルオシロスコープにおいて、
前記表示処理部は、
横軸を時間軸とし縦軸を振幅軸として各測定チャネルの波形を表示する通常の波形表示画面を生成する波形表示画面生成部と、
2系統の測定チャネルのX−Y波形を表示するX−Y表示画面を生成するX−Y表示画面生成部と、
このX−Y表示画面に表示されるX−Y特性線の端部に付加表示されるスキューの大きさに対応した線分に基づき、2系統の測定チャネル間のスキューの状況を解析するX−Y表示画面解析部と、
このX−Y表示画面解析部の解析結果に基づき前記2系統の測定チャネル間のスキューを補正するデスキュー処理部、
を有することを特徴とするデジタルオシロスコープ。
【請求項4】
前記表示処理部は、さらに波形表示とX−Y表示を合成した合成表示画面を生成する合成表示画面生成部を含むことを特徴とする請求項3記載のデジタルオシロスコープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−203967(P2010−203967A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51018(P2009−51018)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)