デジタル可変容量回路
【課題】スイッチ用MOSトランジスタの周辺回路の影響を排除して、デジタル可変容量回路のQ値を向上させる。
【解決手段】容量セルC1と直列にスイッチ用MOSトランジスタS1が接続されており、制御端子V1の電位は、PチャネルMOSトランジスタP1と、NチャネルMOSトランジスタN1を介して与えられる。NチャネルMOSトランジスタN1と直列に、可変抵抗として機能するNチャネルMOSトランジスタN2を挿入し、制御端子V1がローレベルの電位となったときに、その抵抗値を増大させ、NチャネルMOSトランジスタN1を主回路から切り離す。
【解決手段】容量セルC1と直列にスイッチ用MOSトランジスタS1が接続されており、制御端子V1の電位は、PチャネルMOSトランジスタP1と、NチャネルMOSトランジスタN1を介して与えられる。NチャネルMOSトランジスタN1と直列に、可変抵抗として機能するNチャネルMOSトランジスタN2を挿入し、制御端子V1がローレベルの電位となったときに、その抵抗値を増大させ、NチャネルMOSトランジスタN1を主回路から切り離す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として半導体集積回路の内部に設けられたデジタル可変容量回路に関するものであり、特に回路のQ値(共振先鋭度)を向上させることを目的としたものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来から用いられているデジタル可変容量回路の第1の基本構成を示す回路図である。図1において、C1,C2,...Cnは容量セルであり、各容量セルの一端(図面上の下側端子)と接地電位との間には、スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snが各々接続されている。ここでは、スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snには、それぞれNチャネルMOSトランジスタが用いられている。スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snの各ゲート端子は、容量を可変するための制御端子として機能する。スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snは、制御端子V1,V2,...Vnにハイレベルの電位(通常は電源電位)が与えられると導通する。逆に、制御端子V1,V2,...Vnにローレベルの電位(通常は0V)が与えられると遮断状態となる。例えば、制御端子V1にハイレベルの電位を与えて、スイッチ用MOSトランジスタS1を導通状態とすれば、容量セルC1が端子Pと接地電位間に接続される。逆に、制御端子V1にローレベルの電位を与えて、スイッチ用MOSトランジスタS1を遮断状態とすれば、容量セルC1は浮遊状態となり、回路から切り離される。すなわち、制御端子V1,V2,...Vnの電位を各々適宜設定して、n個のスイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snを選択的に導通させることにより、端子Pと接地電位との間に得られる容量の値を可変することができる。なお、スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snの各ソース端子(図面上の下側端子)の接続先は、接地電位には限られない。また、ソース端子の接続先の電位によっては、スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...SnはPチャネルMOSトランジスタに置換されることもある。
【0003】
次に、図2は、従来から用いられているデジタル可変容量回路の第2の基本構成を示す回路図である。図2においては、各容量セルC1,C2,...Cnの他の一端(図面上の上側端子)と端子Pとの間にスイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snが各々接続されている。ここでも、スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snは、NチャネルMOSトランジスタであるものと仮定しているが、端子Pに与えられる電位によっては、PチャネルMOSトランジスタに置換されることもある。通常、半導体集積回路内に容量セルを形成した場合、下層側の電極と半導体基板(サブストレート)との間に寄生容量が生じる。そこで、下層側の電極を、図2のように接地電位に接続してしまえば、寄生容量に信号電流が流れることがなくなり、実質的に寄生容量の影響を排除できる。すなわち、図2の回路は、寄生容量の存在が問題となる場合に利用される。図2の回路の動作は、基本的に図1と同様であるので、説明を省略する。
【0004】
このようなデジタル可変容量回路は、容量値の調節が必要とされる各種の回路で使用されている。その例として、特許文献1または特許文献2を挙げることができる。これら文献では、いずれも水晶発振回路の周波数調整の目的でデジタル可変容量が用いられている。
【0005】
【特許文献1】特許第3421747号公報(図11)
【特許文献2】特開2002−64332号公報(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、図1に示したデジタル可変容量回路においては、可変容量のQ値が低下してしまう問題点があった。その理由を以下に説明する。
【0007】
デジタル可変容量回路が半導体集積回路の内部に設けられた場合、制御端子V1,V2,...Vnに外部から直接的に電位が与えられることはまれであり、通常は半導体集積回路内部に設けられたゲート回路を介して間接的に電位が与えられる。例えば、図1におけるスイッチ用MOSトランジスタS1の周辺回路は図7に示すような構成となる。ここでは、制御端子V1は、NOTゲートI1を介して電位を与えられている。I1はNOTゲートに限られず、NANDゲート、NORゲートなど、回路の仕様に応じて適宜異なるものが用いられるが、ここでは説明を簡単にするために、NOTゲートであることを仮定する。
【0008】
いま、図7において、スイッチ用MOSトランジスタS1を遮断状態とすることを考える。NOTゲートI1の入力V1’にハイレベルの電位を与えると、PチャネルMOSトランジスタP1は遮断状態、NチャネルMOSトランジスタN1は導通状態となるから、制御端子V1の電位はローレベルとなる。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1は遮断状態となる。このとき、導通状態にあるNチャネルMOSトランジスタN1のオン抵抗RN1が回路に悪影響を及ぼす。
【0009】
図8は、その理由を説明するための図であり、上述したようにスイッチ用MOSトランジスタS1が遮断された状態での等価回路を簡易的に示したものである。図示したように、スイッチ用MOSトランジスタS1のゲート端子とドレイン端子(図面上の上側端子)との間には、端子間容量Cgdが存在する。(説明を簡略化するため、他の端子間容量については図示および説明を割愛する。)スイッチ用MOSトランジスタS1は、オン抵抗を下げるためにある程度広いチャネル幅を有しているのが普通であり、それゆえ端子間容量Cgdも無視できない値となる。この端子間容量Cgdを介して、NチャネルMOSトランジスタN1のオン抵抗RN1が回路に接続される。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1が遮断された状態であっても、端子Pから容量セルC1側を見たときのインピーダンスは無限大とならず、抵抗成分を含んだ有限の容量性インピーダンスを示す。このため、デジタル可変容量回路全体のインピーダンスにも抵抗成分が現れ、回路全体のQ値(共振先鋭度)が低下してしまう。例えば、先の特許文献1および2のように、水晶発振回路に本回路が適用された場合についていえば、Q値の低下は発振余裕度の低下や位相ノイズの増加といった不具合を招く。
【0010】
NチャネルMOSトランジスタN1のオン抵抗が十分に低ければ、この問題は緩和されるが、そのためには、当該トランジスタのチャネル幅を広げざるを得ない。これは半導体集積回路のチップサイズを増加させてしまうため、一般的に好ましくない。
【0011】
一方、NOTゲートI1の入力V1’にローレベルの電位を与えると、PチャネルMOSトランジスタP1は導通状態、NチャネルMOSトランジスタN1は遮断状態となるから、制御端子V1の電位はハイレベルとなる。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1は導通状態となる。この状態においては、容量セルC1の下端(図面上の下側端子)が、ほぼ接地電位になることから、導通状態にあるPチャネルMOSトランジスタP1のオン抵抗が主回路に影響を及ぼす心配はない。
【0012】
先と同様の課題は、図2に示したデジタル可変容量回路においても存在する。図9は、図2におけるスイッチ用MOSトランジスタS1の周辺回路例を示している。ここでも、制御端子V1は、NOTゲートI1を介して電位を与えられるものと仮定する。
【0013】
図9において、まず、スイッチ用MOSトランジスタS1を遮断状態とすることを考える。NOTゲートI1の入力V1’にハイレベルの電位を与えると、PチャネルMOSトランジスタP1は遮断状態、NチャネルMOSトランジスタN1は導通状態となるから、制御端子V1の電位はローレベルとなる。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1は遮断状態となる。このとき、導通状態にあるNチャネルMOSトランジスタN1のオン抵抗RN1が回路に悪影響を及ぼす。
【0014】
図10は、その理由を説明するための図であり、上述したようにスイッチ用MOSトランジスタS1が遮断された状態での等価回路を簡易的に示したものである。図示したように、スイッチ用MOSトランジスタS1のゲート端子とドレイン端子との間には、端子間容量Cgdが存在する。(説明を簡略化するため、他の端子間容量については図示および説明を割愛する。)この端子間容量Cgdを介して、NチャネルMOSトランジスタN1のオン抵抗RN1が回路に接続される。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1が遮断された状態であっても、端子Pから容量セルC1側を見たときのインピーダンスは無限大とならず、抵抗成分を含んだ有限の容量性インピーダンスを示す。このため、デジタル可変容量回路全体のインピーダンスにも抵抗成分が現れ、回路全体のQ値が低下してしまう。
【0015】
次に、図9において、スイッチ用MOSトランジスタS1を導通状態とすることを考える。先と逆に、NOTゲートI1の入力V1’にローレベルの電位を与えると、PチャネルMOSトランジスタP1が導通状態、NチャネルMOSトランジスタN1が遮断状態となるから、制御端子V1の電位はハイレベルとなる。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1は導通状態となる。このとき、導通状態にあるPチャネルMOSトランジスタP1のオン抵抗RP1が回路に悪影響を及ぼす。
【0016】
図11は、その理由を説明するための図であり、上述したようにスイッチ用MOSトランジスタS1が導通した状態での等価回路を簡易的に示したものである。図10の場合と同様に、スイッチ用MOSトランジスタS1の端子間容量Cgdを介して、PチャネルMOSトランジスタP1のオン抵抗RP1が回路に接続される。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1が導通した状態では、端子Pから容量セルC1側を見たときのインピーダンスは、単純に容量セルC1がもつ容量性リアクタンスのみとならず、抵抗成分を含んだ容量性インピーダンスを示す。このため、デジタル可変容量回路全体のインピーダンスにも抵抗成分が現れ、回路全体のQ値が低下してしまう。
【0017】
このように、図2に示したデジタル可変容量の場合においては、スイッチ用MOSトランジスタS1が遮断状態、導通状態のいずれの状態であっても制御端子V1に接続されたMOSトランジスタのオン抵抗の影響が生じてしまい、回路全体のQ値低下の問題はより深刻である。PチャネルトランジスタP1とNチャネルMOSトランジスタN1の双方のオン抵抗を下げれば、この問題は緩和されるが、そのためには双方のトランジスタのチャネル幅を広げざるを得ない。これは、半導体集積回路のチップサイズを大幅に増加させてしまうため、非常に好ましくないことである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のデジタル可変容量回路は、上記した課題を解決すべく以下の構成とした。
【0019】
すなわち、少なくとも一つの容量セルと、前記容量セルのそれぞれに直列接続されたスイッチ用MOSトランジスタとを含み、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子には、ハイレベルの電位を与える第1のPチャネルMOSトランジスタとローレベルの電位を与える第1のNチャネルMOSトランジスタが接続されたデジタル可変容量回路において、前記第1のNチャネルMOSトランジスタと直列に第1の可変抵抗素子を接続し、前記ゲート端子がローレベルの電位となったときに、前記第1の可変抵抗素子の抵抗値を増大させる。あるいは、前記第1のPチャネルMOSトランジスタと直列に第2の可変抵抗素子を設け、前記ゲート端子がハイレベルの電位となったときに、前記第2の可変抵抗素子の抵抗値を増大させる。
【0020】
上記構成によれば、第1または第2の可変抵抗素子によって、第1のPチャネルMOSトランジスタ、または第1のNチャネルMOSトランジスタを等価的に浮遊状態に近づけ、主回路から切り離すことができる。このため、従来のデジタル可変容量回路の課題であったQ値の低下を防止することが可能となる。
【0021】
ここで、前記第1の可変抵抗素子として、第2のNチャネルMOSトランジスタを設け、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子がローレベルの電位となったときに、前記第2のNチャネルMOSトランジスタのゲート−ソース端子間に、該MOSトランジスタの閾値電圧に概略等しい電圧を与える構成とすることができる。あるいは、前記第2の可変抵抗素子として、第2のPチャネルMOSトランジスタを設け、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子がハイレベルの電位となったときに、前記第2のPチャネルMOSトランジスタのゲート−ソース端子間に、該MOSトランジスタの閾値電圧に概略等しい電圧が与えられる構成とすることができる。このような構成によれば、第1または第2の可変抵抗素子を容易に実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のデジタル可変容量回路の実施形態を、以下に説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の請求項1乃至3に関し、実施例1として、図1に示したデジタル可変容量回路の基本構成に本発明を適用した例を説明する。図3は、実施例1に関わる本発明のデジタル可変容量回路の部分構成を示しており、図1におけるスイッチ用MOSトランジスタS1に周辺回路を付加した回路図である。すなわち、同図は、図7に示した従来のデジタル可変容量回路の部分構成と対比されるものである。図3において、NチャネルMOSトランジスタN1と制御端子V1との間には、NチャネルMOSトランジスタN2が挿入されている。そのゲート端子Vxは、NチャネルMOSトランジスタN3を介して電源電位に接続され、また、PチャネルMOSトランジスタP3を介して接地電位に接続されている。NチャネルMOSトランジスタN3のゲート端子とPチャネルMOSトランジスタのゲート端子は、双方とも制御端子V1に接続されている。
【0024】
次に、図3の回路の動作を説明する。最初に、NチャネルMOSトランジスタN3とPチャネルMOSトランジスタP3の動作について述べておく。制御端子V1が電源電位であるとき、PチャネルMOSトランジスタP3は遮断状態となり、NチャネルMOSトランジスタN3は導通状態となる。これにより、端子Vxの電位は電源電位に近づいていく。しかし、端子Vxの電位がVdd−Vthにまで上昇すると(ここで、Vddは電源電位、VthはMOSトランジスタの閾値電圧を表す)、NチャネルMOSトランジスタN3のゲート−ソース端子間電圧は閾値電圧Vthを下回り、同トランジスタは遮断状態に転ずる。このため、端子Vxの電位はVdd−Vthに維持される。逆に、制御端子V1が接地電位であるとき、NチャネルMOSトランジスタN3は遮断状態となり、PチャネルMOSトランジスタP3は導通状態となる。これにより、端子Vxの電位は接地電位に近づいていく。しかし、端子Vxの電位がVthにまで下降すると、PチャネルMOSトランジスタP3のソース−ゲート端子間電圧は閾値電圧Vthを下回り、同トランジスタは遮断状態に転ずる。このため、端子Vxの電位はVthに維持される。以上説明したように、NチャネルMOSトランジスタN3とPチャネルMOSトランジスタP3は、制御端子V1の電位に対して、Vthだけずれた電位を端子Vxに供給する機能をもつ。
【0025】
図3において、スイッチ用MOSトランジスタS1を遮断状態とすることを考える。そのためには、入力V1’にハイレベルの電圧を与える。このとき、PチャネルMOSトランジスタP1は遮断状態、NチャネルMOSトランジスタN1は導通状態となる。また、制御端子V1の電位が、これ以前に電源電位に維持されていたとすれば、端子Vxの電位はVdd−Vthとなっている。通常、閾値電圧Vthは、Vdd/2よりも低い値であるので、このとき、NチャネルMOSトランジスタN2は導通状態となる。したがって、制御端子V1の電位は接地電位へと転じ、スイッチ用MOSトランジスタS1は遮断状態となる。一方、制御端子V1の電位変化に伴って、端子Vxの電位はVthへと変化する。すなわち、導通状態にあったNチャネルMOSトランジスタN2は、導通状態と遮断状態とのちょうど境界となる状態へと遷移する。このような状態では、NチャネルMOSトランジスタN2は、非常に高い抵抗値をもつ抵抗器とみなされる。この高抵抗によって、NチャネルMOSトランジスタN1は、等価的に制御端子V1から切り離される。これにより、NチャネルMOSトランジスタN1のオン抵抗RN1がどのような値であろうとも、主回路に影響を与えることはない。したがって、従来のデジタル可変容量回路の欠点であったQ値の低下は生じない。
【0026】
一方、スイッチ用MOSトランジスタS1を導通状態としたときは、背景技術の説明においても述べたように、元よりQ値が低下する心配がない。したがって、図3の回路動作も、図7に示した従来のデジタル可変容量回路と何ら変わっていない。
【0027】
なお、直列接続された2個のNチャネルMOSトランジスタN1とN2の接続順序は、図4に示したように、図3と逆であってもよいことは自明である。
【実施例2】
【0028】
次に、本発明の請求項4乃至6に関し、実施例2として、図2に示したデジタル可変容量回路の基本構成に本発明を適用した例を説明する。図5は、実施例2に関わる本発明のデジタル可変容量回路の部分構成を示しており、図2におけるスイッチ用MOSトランジスタS1に周辺回路を付加した回路図である。すなわち、同図は、図9に示した従来のデジタル可変容量回路の部分構成と対比されるものである。図5において、PチャネルMOSトランジスタP1と制御端子V1との間には、PチャネルMOSトランジスタP2が挿入されている。また、NチャネルMOSトランジスタN1と制御端子V1との間には、実施例1と同じく、NチャネルMOSトランジスタN2が挿入されている。PチャネルMOSトランジスタP2のゲート端子とNチャネルMOSトランジスタN2のゲート端子は互いに接続されており、その接続点である端子Vxは、NチャネルMOSトランジスタN3を介して電源電位に接続され、また、PチャネルMOSトランジスタP3を介して接地電位に接続されている。NチャネルMOSトランジスタN3のゲート端子とPチャネルMOSトランジスタのゲート端子は、双方とも制御端子V1に接続されている。
【0029】
次に、図5の回路の動作を説明する。NチャネルMOSトランジスタN3とPチャネルMOSトランジスタP3の動作については、既に実施例1で説明を加えた通りである。また、スイッチ用MOSトランジスタS1を遮断状態としたときに、NチャネルMOSトランジスタN2の効果によってQ値の低下が防止される点についても、実施例1で説明したと同様である。したがって、ここでは、スイッチ用MOSトランジスタS1を導通状態としたときの動作についてのみ説明する。
【0030】
図5において、スイッチ用MOSトランジスタS1を導通状態とするためには、入力V1’にローレベルの電位を与える。このとき、PチャネルMOSトランジスタP1は導通状態、NチャネルMOSトランジスタN1は遮断状態となる。また、制御端子V1の電位が、これ以前に接地電位に維持されていたとすれば、端子Vxの電位はVthとなっている。通常、閾値電圧Vthは、Vdd/2よりも低い値であるので、このとき、PチャネルMOSトランジスタP2は導通状態となる。したがって、制御端子V1の電位は電源電位へと転じ、スイッチ用MOSトランジスタS1は導通状態となる。一方、制御端子V1の電位変化に伴って、端子Vxの電位はVdd−Vthへと変化する。つまり、PチャネルMOSトランジスタP2のソース−ゲート端子間電圧は、Vthへと向かう。すなわち、導通状態にあったPチャネルMOSトランジスタP2は、導通状態と遮断状態とのちょうど境界となる状態へと遷移する。このような状態では、PチャネルMOSトランジスタP2は、非常に高い抵抗値をもつ抵抗器とみなされる。この高抵抗によって、PチャネルMOSトランジスタP1は、等価的に制御端子V1から切り離される。これにより、PチャネルMOSトランジスタP1のオン抵抗RP1がどのような値であろうとも、主回路に影響を与えることはない。したがって、従来のデジタル可変容量回路の欠点であったQ値の低下は生じない。
【0031】
なお、直列接続された2個のPチャネルMOSトランジスタP1とP2、および直列接続された2個のNチャネルMOSトランジスタN1とN2の接続順序は、図6に示したように、それぞれ図5と逆であってもよいことは自明である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、容量値の調節が必要とされる各種の回路で利用可能である。とりわけ、背景技術の説明においても例示したように、水晶発振回路の周波数調整の目的に応用して好適である。他の利用例としては、インダクタと組み合わせて、無線通信システムの同調回路を構成する場合にも大変有用である。この場合、デジタル可変容量回路のQ値が向上することにより、通信品質を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】デジタル可変容量回路の第1の基本構成を示す回路図。
【図2】デジタル可変容量回路の第2の基本構成を示す回路図。
【図3】本発明のデジタル可変容量回路の第1の部分構成を示す回路図。
【図4】本発明のデジタル可変容量回路の第1の部分構成の変形例を示す回路図。
【図5】本発明のデジタル可変容量回路の第2の部分構成を示す回路図。
【図6】本発明のデジタル可変容量回路の第2の部分構成の変形例を示す回路図。
【図7】従来のデジタル可変容量回路の第1の部分構成を示す回路図。
【図8】従来のデジタル可変容量回路の第1の部分構成に関わる等価回路図。
【図9】従来のデジタル可変容量回路の第2の部分構成を示す回路図。
【図10】従来のデジタル可変容量回路の第2の部分構成に関わる等価回路図。
【図11】従来のデジタル可変容量回路の第2の部分構成に関わる等価回路図。
【符号の説明】
【0034】
C1,C2,...Cn 容量セル
S1,S2,...Sn スイッチ用MOSトランジスタ
V1,V2,...Vn 制御端子
P1,P2,P3 PチャネルMOSトランジスタ
N1,N2,N3 NチャネルMOSトランジスタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として半導体集積回路の内部に設けられたデジタル可変容量回路に関するものであり、特に回路のQ値(共振先鋭度)を向上させることを目的としたものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来から用いられているデジタル可変容量回路の第1の基本構成を示す回路図である。図1において、C1,C2,...Cnは容量セルであり、各容量セルの一端(図面上の下側端子)と接地電位との間には、スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snが各々接続されている。ここでは、スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snには、それぞれNチャネルMOSトランジスタが用いられている。スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snの各ゲート端子は、容量を可変するための制御端子として機能する。スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snは、制御端子V1,V2,...Vnにハイレベルの電位(通常は電源電位)が与えられると導通する。逆に、制御端子V1,V2,...Vnにローレベルの電位(通常は0V)が与えられると遮断状態となる。例えば、制御端子V1にハイレベルの電位を与えて、スイッチ用MOSトランジスタS1を導通状態とすれば、容量セルC1が端子Pと接地電位間に接続される。逆に、制御端子V1にローレベルの電位を与えて、スイッチ用MOSトランジスタS1を遮断状態とすれば、容量セルC1は浮遊状態となり、回路から切り離される。すなわち、制御端子V1,V2,...Vnの電位を各々適宜設定して、n個のスイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snを選択的に導通させることにより、端子Pと接地電位との間に得られる容量の値を可変することができる。なお、スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snの各ソース端子(図面上の下側端子)の接続先は、接地電位には限られない。また、ソース端子の接続先の電位によっては、スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...SnはPチャネルMOSトランジスタに置換されることもある。
【0003】
次に、図2は、従来から用いられているデジタル可変容量回路の第2の基本構成を示す回路図である。図2においては、各容量セルC1,C2,...Cnの他の一端(図面上の上側端子)と端子Pとの間にスイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snが各々接続されている。ここでも、スイッチ用MOSトランジスタS1,S2,...Snは、NチャネルMOSトランジスタであるものと仮定しているが、端子Pに与えられる電位によっては、PチャネルMOSトランジスタに置換されることもある。通常、半導体集積回路内に容量セルを形成した場合、下層側の電極と半導体基板(サブストレート)との間に寄生容量が生じる。そこで、下層側の電極を、図2のように接地電位に接続してしまえば、寄生容量に信号電流が流れることがなくなり、実質的に寄生容量の影響を排除できる。すなわち、図2の回路は、寄生容量の存在が問題となる場合に利用される。図2の回路の動作は、基本的に図1と同様であるので、説明を省略する。
【0004】
このようなデジタル可変容量回路は、容量値の調節が必要とされる各種の回路で使用されている。その例として、特許文献1または特許文献2を挙げることができる。これら文献では、いずれも水晶発振回路の周波数調整の目的でデジタル可変容量が用いられている。
【0005】
【特許文献1】特許第3421747号公報(図11)
【特許文献2】特開2002−64332号公報(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、図1に示したデジタル可変容量回路においては、可変容量のQ値が低下してしまう問題点があった。その理由を以下に説明する。
【0007】
デジタル可変容量回路が半導体集積回路の内部に設けられた場合、制御端子V1,V2,...Vnに外部から直接的に電位が与えられることはまれであり、通常は半導体集積回路内部に設けられたゲート回路を介して間接的に電位が与えられる。例えば、図1におけるスイッチ用MOSトランジスタS1の周辺回路は図7に示すような構成となる。ここでは、制御端子V1は、NOTゲートI1を介して電位を与えられている。I1はNOTゲートに限られず、NANDゲート、NORゲートなど、回路の仕様に応じて適宜異なるものが用いられるが、ここでは説明を簡単にするために、NOTゲートであることを仮定する。
【0008】
いま、図7において、スイッチ用MOSトランジスタS1を遮断状態とすることを考える。NOTゲートI1の入力V1’にハイレベルの電位を与えると、PチャネルMOSトランジスタP1は遮断状態、NチャネルMOSトランジスタN1は導通状態となるから、制御端子V1の電位はローレベルとなる。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1は遮断状態となる。このとき、導通状態にあるNチャネルMOSトランジスタN1のオン抵抗RN1が回路に悪影響を及ぼす。
【0009】
図8は、その理由を説明するための図であり、上述したようにスイッチ用MOSトランジスタS1が遮断された状態での等価回路を簡易的に示したものである。図示したように、スイッチ用MOSトランジスタS1のゲート端子とドレイン端子(図面上の上側端子)との間には、端子間容量Cgdが存在する。(説明を簡略化するため、他の端子間容量については図示および説明を割愛する。)スイッチ用MOSトランジスタS1は、オン抵抗を下げるためにある程度広いチャネル幅を有しているのが普通であり、それゆえ端子間容量Cgdも無視できない値となる。この端子間容量Cgdを介して、NチャネルMOSトランジスタN1のオン抵抗RN1が回路に接続される。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1が遮断された状態であっても、端子Pから容量セルC1側を見たときのインピーダンスは無限大とならず、抵抗成分を含んだ有限の容量性インピーダンスを示す。このため、デジタル可変容量回路全体のインピーダンスにも抵抗成分が現れ、回路全体のQ値(共振先鋭度)が低下してしまう。例えば、先の特許文献1および2のように、水晶発振回路に本回路が適用された場合についていえば、Q値の低下は発振余裕度の低下や位相ノイズの増加といった不具合を招く。
【0010】
NチャネルMOSトランジスタN1のオン抵抗が十分に低ければ、この問題は緩和されるが、そのためには、当該トランジスタのチャネル幅を広げざるを得ない。これは半導体集積回路のチップサイズを増加させてしまうため、一般的に好ましくない。
【0011】
一方、NOTゲートI1の入力V1’にローレベルの電位を与えると、PチャネルMOSトランジスタP1は導通状態、NチャネルMOSトランジスタN1は遮断状態となるから、制御端子V1の電位はハイレベルとなる。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1は導通状態となる。この状態においては、容量セルC1の下端(図面上の下側端子)が、ほぼ接地電位になることから、導通状態にあるPチャネルMOSトランジスタP1のオン抵抗が主回路に影響を及ぼす心配はない。
【0012】
先と同様の課題は、図2に示したデジタル可変容量回路においても存在する。図9は、図2におけるスイッチ用MOSトランジスタS1の周辺回路例を示している。ここでも、制御端子V1は、NOTゲートI1を介して電位を与えられるものと仮定する。
【0013】
図9において、まず、スイッチ用MOSトランジスタS1を遮断状態とすることを考える。NOTゲートI1の入力V1’にハイレベルの電位を与えると、PチャネルMOSトランジスタP1は遮断状態、NチャネルMOSトランジスタN1は導通状態となるから、制御端子V1の電位はローレベルとなる。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1は遮断状態となる。このとき、導通状態にあるNチャネルMOSトランジスタN1のオン抵抗RN1が回路に悪影響を及ぼす。
【0014】
図10は、その理由を説明するための図であり、上述したようにスイッチ用MOSトランジスタS1が遮断された状態での等価回路を簡易的に示したものである。図示したように、スイッチ用MOSトランジスタS1のゲート端子とドレイン端子との間には、端子間容量Cgdが存在する。(説明を簡略化するため、他の端子間容量については図示および説明を割愛する。)この端子間容量Cgdを介して、NチャネルMOSトランジスタN1のオン抵抗RN1が回路に接続される。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1が遮断された状態であっても、端子Pから容量セルC1側を見たときのインピーダンスは無限大とならず、抵抗成分を含んだ有限の容量性インピーダンスを示す。このため、デジタル可変容量回路全体のインピーダンスにも抵抗成分が現れ、回路全体のQ値が低下してしまう。
【0015】
次に、図9において、スイッチ用MOSトランジスタS1を導通状態とすることを考える。先と逆に、NOTゲートI1の入力V1’にローレベルの電位を与えると、PチャネルMOSトランジスタP1が導通状態、NチャネルMOSトランジスタN1が遮断状態となるから、制御端子V1の電位はハイレベルとなる。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1は導通状態となる。このとき、導通状態にあるPチャネルMOSトランジスタP1のオン抵抗RP1が回路に悪影響を及ぼす。
【0016】
図11は、その理由を説明するための図であり、上述したようにスイッチ用MOSトランジスタS1が導通した状態での等価回路を簡易的に示したものである。図10の場合と同様に、スイッチ用MOSトランジスタS1の端子間容量Cgdを介して、PチャネルMOSトランジスタP1のオン抵抗RP1が回路に接続される。すなわち、スイッチ用MOSトランジスタS1が導通した状態では、端子Pから容量セルC1側を見たときのインピーダンスは、単純に容量セルC1がもつ容量性リアクタンスのみとならず、抵抗成分を含んだ容量性インピーダンスを示す。このため、デジタル可変容量回路全体のインピーダンスにも抵抗成分が現れ、回路全体のQ値が低下してしまう。
【0017】
このように、図2に示したデジタル可変容量の場合においては、スイッチ用MOSトランジスタS1が遮断状態、導通状態のいずれの状態であっても制御端子V1に接続されたMOSトランジスタのオン抵抗の影響が生じてしまい、回路全体のQ値低下の問題はより深刻である。PチャネルトランジスタP1とNチャネルMOSトランジスタN1の双方のオン抵抗を下げれば、この問題は緩和されるが、そのためには双方のトランジスタのチャネル幅を広げざるを得ない。これは、半導体集積回路のチップサイズを大幅に増加させてしまうため、非常に好ましくないことである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のデジタル可変容量回路は、上記した課題を解決すべく以下の構成とした。
【0019】
すなわち、少なくとも一つの容量セルと、前記容量セルのそれぞれに直列接続されたスイッチ用MOSトランジスタとを含み、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子には、ハイレベルの電位を与える第1のPチャネルMOSトランジスタとローレベルの電位を与える第1のNチャネルMOSトランジスタが接続されたデジタル可変容量回路において、前記第1のNチャネルMOSトランジスタと直列に第1の可変抵抗素子を接続し、前記ゲート端子がローレベルの電位となったときに、前記第1の可変抵抗素子の抵抗値を増大させる。あるいは、前記第1のPチャネルMOSトランジスタと直列に第2の可変抵抗素子を設け、前記ゲート端子がハイレベルの電位となったときに、前記第2の可変抵抗素子の抵抗値を増大させる。
【0020】
上記構成によれば、第1または第2の可変抵抗素子によって、第1のPチャネルMOSトランジスタ、または第1のNチャネルMOSトランジスタを等価的に浮遊状態に近づけ、主回路から切り離すことができる。このため、従来のデジタル可変容量回路の課題であったQ値の低下を防止することが可能となる。
【0021】
ここで、前記第1の可変抵抗素子として、第2のNチャネルMOSトランジスタを設け、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子がローレベルの電位となったときに、前記第2のNチャネルMOSトランジスタのゲート−ソース端子間に、該MOSトランジスタの閾値電圧に概略等しい電圧を与える構成とすることができる。あるいは、前記第2の可変抵抗素子として、第2のPチャネルMOSトランジスタを設け、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子がハイレベルの電位となったときに、前記第2のPチャネルMOSトランジスタのゲート−ソース端子間に、該MOSトランジスタの閾値電圧に概略等しい電圧が与えられる構成とすることができる。このような構成によれば、第1または第2の可変抵抗素子を容易に実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のデジタル可変容量回路の実施形態を、以下に説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の請求項1乃至3に関し、実施例1として、図1に示したデジタル可変容量回路の基本構成に本発明を適用した例を説明する。図3は、実施例1に関わる本発明のデジタル可変容量回路の部分構成を示しており、図1におけるスイッチ用MOSトランジスタS1に周辺回路を付加した回路図である。すなわち、同図は、図7に示した従来のデジタル可変容量回路の部分構成と対比されるものである。図3において、NチャネルMOSトランジスタN1と制御端子V1との間には、NチャネルMOSトランジスタN2が挿入されている。そのゲート端子Vxは、NチャネルMOSトランジスタN3を介して電源電位に接続され、また、PチャネルMOSトランジスタP3を介して接地電位に接続されている。NチャネルMOSトランジスタN3のゲート端子とPチャネルMOSトランジスタのゲート端子は、双方とも制御端子V1に接続されている。
【0024】
次に、図3の回路の動作を説明する。最初に、NチャネルMOSトランジスタN3とPチャネルMOSトランジスタP3の動作について述べておく。制御端子V1が電源電位であるとき、PチャネルMOSトランジスタP3は遮断状態となり、NチャネルMOSトランジスタN3は導通状態となる。これにより、端子Vxの電位は電源電位に近づいていく。しかし、端子Vxの電位がVdd−Vthにまで上昇すると(ここで、Vddは電源電位、VthはMOSトランジスタの閾値電圧を表す)、NチャネルMOSトランジスタN3のゲート−ソース端子間電圧は閾値電圧Vthを下回り、同トランジスタは遮断状態に転ずる。このため、端子Vxの電位はVdd−Vthに維持される。逆に、制御端子V1が接地電位であるとき、NチャネルMOSトランジスタN3は遮断状態となり、PチャネルMOSトランジスタP3は導通状態となる。これにより、端子Vxの電位は接地電位に近づいていく。しかし、端子Vxの電位がVthにまで下降すると、PチャネルMOSトランジスタP3のソース−ゲート端子間電圧は閾値電圧Vthを下回り、同トランジスタは遮断状態に転ずる。このため、端子Vxの電位はVthに維持される。以上説明したように、NチャネルMOSトランジスタN3とPチャネルMOSトランジスタP3は、制御端子V1の電位に対して、Vthだけずれた電位を端子Vxに供給する機能をもつ。
【0025】
図3において、スイッチ用MOSトランジスタS1を遮断状態とすることを考える。そのためには、入力V1’にハイレベルの電圧を与える。このとき、PチャネルMOSトランジスタP1は遮断状態、NチャネルMOSトランジスタN1は導通状態となる。また、制御端子V1の電位が、これ以前に電源電位に維持されていたとすれば、端子Vxの電位はVdd−Vthとなっている。通常、閾値電圧Vthは、Vdd/2よりも低い値であるので、このとき、NチャネルMOSトランジスタN2は導通状態となる。したがって、制御端子V1の電位は接地電位へと転じ、スイッチ用MOSトランジスタS1は遮断状態となる。一方、制御端子V1の電位変化に伴って、端子Vxの電位はVthへと変化する。すなわち、導通状態にあったNチャネルMOSトランジスタN2は、導通状態と遮断状態とのちょうど境界となる状態へと遷移する。このような状態では、NチャネルMOSトランジスタN2は、非常に高い抵抗値をもつ抵抗器とみなされる。この高抵抗によって、NチャネルMOSトランジスタN1は、等価的に制御端子V1から切り離される。これにより、NチャネルMOSトランジスタN1のオン抵抗RN1がどのような値であろうとも、主回路に影響を与えることはない。したがって、従来のデジタル可変容量回路の欠点であったQ値の低下は生じない。
【0026】
一方、スイッチ用MOSトランジスタS1を導通状態としたときは、背景技術の説明においても述べたように、元よりQ値が低下する心配がない。したがって、図3の回路動作も、図7に示した従来のデジタル可変容量回路と何ら変わっていない。
【0027】
なお、直列接続された2個のNチャネルMOSトランジスタN1とN2の接続順序は、図4に示したように、図3と逆であってもよいことは自明である。
【実施例2】
【0028】
次に、本発明の請求項4乃至6に関し、実施例2として、図2に示したデジタル可変容量回路の基本構成に本発明を適用した例を説明する。図5は、実施例2に関わる本発明のデジタル可変容量回路の部分構成を示しており、図2におけるスイッチ用MOSトランジスタS1に周辺回路を付加した回路図である。すなわち、同図は、図9に示した従来のデジタル可変容量回路の部分構成と対比されるものである。図5において、PチャネルMOSトランジスタP1と制御端子V1との間には、PチャネルMOSトランジスタP2が挿入されている。また、NチャネルMOSトランジスタN1と制御端子V1との間には、実施例1と同じく、NチャネルMOSトランジスタN2が挿入されている。PチャネルMOSトランジスタP2のゲート端子とNチャネルMOSトランジスタN2のゲート端子は互いに接続されており、その接続点である端子Vxは、NチャネルMOSトランジスタN3を介して電源電位に接続され、また、PチャネルMOSトランジスタP3を介して接地電位に接続されている。NチャネルMOSトランジスタN3のゲート端子とPチャネルMOSトランジスタのゲート端子は、双方とも制御端子V1に接続されている。
【0029】
次に、図5の回路の動作を説明する。NチャネルMOSトランジスタN3とPチャネルMOSトランジスタP3の動作については、既に実施例1で説明を加えた通りである。また、スイッチ用MOSトランジスタS1を遮断状態としたときに、NチャネルMOSトランジスタN2の効果によってQ値の低下が防止される点についても、実施例1で説明したと同様である。したがって、ここでは、スイッチ用MOSトランジスタS1を導通状態としたときの動作についてのみ説明する。
【0030】
図5において、スイッチ用MOSトランジスタS1を導通状態とするためには、入力V1’にローレベルの電位を与える。このとき、PチャネルMOSトランジスタP1は導通状態、NチャネルMOSトランジスタN1は遮断状態となる。また、制御端子V1の電位が、これ以前に接地電位に維持されていたとすれば、端子Vxの電位はVthとなっている。通常、閾値電圧Vthは、Vdd/2よりも低い値であるので、このとき、PチャネルMOSトランジスタP2は導通状態となる。したがって、制御端子V1の電位は電源電位へと転じ、スイッチ用MOSトランジスタS1は導通状態となる。一方、制御端子V1の電位変化に伴って、端子Vxの電位はVdd−Vthへと変化する。つまり、PチャネルMOSトランジスタP2のソース−ゲート端子間電圧は、Vthへと向かう。すなわち、導通状態にあったPチャネルMOSトランジスタP2は、導通状態と遮断状態とのちょうど境界となる状態へと遷移する。このような状態では、PチャネルMOSトランジスタP2は、非常に高い抵抗値をもつ抵抗器とみなされる。この高抵抗によって、PチャネルMOSトランジスタP1は、等価的に制御端子V1から切り離される。これにより、PチャネルMOSトランジスタP1のオン抵抗RP1がどのような値であろうとも、主回路に影響を与えることはない。したがって、従来のデジタル可変容量回路の欠点であったQ値の低下は生じない。
【0031】
なお、直列接続された2個のPチャネルMOSトランジスタP1とP2、および直列接続された2個のNチャネルMOSトランジスタN1とN2の接続順序は、図6に示したように、それぞれ図5と逆であってもよいことは自明である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、容量値の調節が必要とされる各種の回路で利用可能である。とりわけ、背景技術の説明においても例示したように、水晶発振回路の周波数調整の目的に応用して好適である。他の利用例としては、インダクタと組み合わせて、無線通信システムの同調回路を構成する場合にも大変有用である。この場合、デジタル可変容量回路のQ値が向上することにより、通信品質を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】デジタル可変容量回路の第1の基本構成を示す回路図。
【図2】デジタル可変容量回路の第2の基本構成を示す回路図。
【図3】本発明のデジタル可変容量回路の第1の部分構成を示す回路図。
【図4】本発明のデジタル可変容量回路の第1の部分構成の変形例を示す回路図。
【図5】本発明のデジタル可変容量回路の第2の部分構成を示す回路図。
【図6】本発明のデジタル可変容量回路の第2の部分構成の変形例を示す回路図。
【図7】従来のデジタル可変容量回路の第1の部分構成を示す回路図。
【図8】従来のデジタル可変容量回路の第1の部分構成に関わる等価回路図。
【図9】従来のデジタル可変容量回路の第2の部分構成を示す回路図。
【図10】従来のデジタル可変容量回路の第2の部分構成に関わる等価回路図。
【図11】従来のデジタル可変容量回路の第2の部分構成に関わる等価回路図。
【符号の説明】
【0034】
C1,C2,...Cn 容量セル
S1,S2,...Sn スイッチ用MOSトランジスタ
V1,V2,...Vn 制御端子
P1,P2,P3 PチャネルMOSトランジスタ
N1,N2,N3 NチャネルMOSトランジスタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの容量セルと、前記容量セルのそれぞれに直列接続されたスイッチ用MOSトランジスタとを含み、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子には、ハイレベルの電位を与える第1のPチャネルMOSトランジスタとローレベルの電位を与える第1のNチャネルMOSトランジスタが接続されたデジタル可変容量回路において、
前記第1のNチャネルMOSトランジスタと直列に第1の可変抵抗素子が接続されており、前記ゲート端子がローレベルの電位となったときに、前記第1の可変抵抗素子の抵抗値が増大することを特徴とするデジタル可変容量回路。
【請求項2】
前記第1の可変抵抗素子として、第2のNチャネルMOSトランジスタを設け、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子がローレベルの電位となったときに、前記第2のNチャネルMOSトランジスタのゲート−ソース端子間には、該MOSトランジスタの閾値電圧に概略等しい電圧が与えられることを特徴とする請求項1記載のデジタル可変容量回路。
【請求項3】
前記第1の可変抵抗素子として、第2のNチャネルMOSトランジスタを設け、前記第2のNチャネルMOSトランジスタのゲート端子と電源電位との間には第3のNチャネルMOSトランジスタが接続され、前記第2のNチャネルMOSトランジスタのゲート端子と接地電位との間には第3のPチャネルMOSトランジスタが接続され、前記第3のNチャネルMOSトランジスタのゲート端子と、前記第3のPチャネルMOSトランジスタのゲート端子は、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子と接続されていることを特徴とする請求項1記載のデジタル可変容量回路。
【請求項4】
少なくとも一つの容量セルと、前記容量セルのそれぞれに直列接続されたスイッチ用MOSトランジスタとを含み、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子には、ハイレベルの電位を与える第1のPチャネルMOSトランジスタとローレベルの電位を与える第1のNチャネルMOSトランジスタが接続されたデジタル可変容量回路において、
前記第1のPチャネルMOSトランジスタと直列に第2の可変抵抗素子が接続されており、前記ゲート端子がハイレベルの電位となったときに、前記第2の可変抵抗素子の抵抗値が増大することを特徴とするデジタル可変容量回路。
【請求項5】
前記第2の可変抵抗素子として、第2のPチャネルMOSトランジスタを設け、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子がハイレベルの電位となったときに、前記第2のPチャネルMOSトランジスタのゲート−ソース端子間には、該MOSトランジスタの閾値電圧に概略等しい電圧が与えられることを特徴とする請求項4記載のデジタル可変容量回路。
【請求項6】
前記第2の可変抵抗素子として、第2のPチャネルMOSトランジスタを設け、前記第2のPチャネルMOSトランジスタのゲート端子と電源電位との間には第3のNチャネルMOSトランジスタが接続され、前記第2のNチャネルMOSトランジスタのゲート端子と接地電位との間には第3のPチャネルMOSトランジスタが接続され、前記第3のNチャネルMOSトランジスタのゲート端子と、前記第3のPチャネルMOSトランジスタのゲート端子は、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子と接続されていることを特徴とする請求項1記載のデジタル可変容量回路。
【請求項1】
少なくとも一つの容量セルと、前記容量セルのそれぞれに直列接続されたスイッチ用MOSトランジスタとを含み、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子には、ハイレベルの電位を与える第1のPチャネルMOSトランジスタとローレベルの電位を与える第1のNチャネルMOSトランジスタが接続されたデジタル可変容量回路において、
前記第1のNチャネルMOSトランジスタと直列に第1の可変抵抗素子が接続されており、前記ゲート端子がローレベルの電位となったときに、前記第1の可変抵抗素子の抵抗値が増大することを特徴とするデジタル可変容量回路。
【請求項2】
前記第1の可変抵抗素子として、第2のNチャネルMOSトランジスタを設け、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子がローレベルの電位となったときに、前記第2のNチャネルMOSトランジスタのゲート−ソース端子間には、該MOSトランジスタの閾値電圧に概略等しい電圧が与えられることを特徴とする請求項1記載のデジタル可変容量回路。
【請求項3】
前記第1の可変抵抗素子として、第2のNチャネルMOSトランジスタを設け、前記第2のNチャネルMOSトランジスタのゲート端子と電源電位との間には第3のNチャネルMOSトランジスタが接続され、前記第2のNチャネルMOSトランジスタのゲート端子と接地電位との間には第3のPチャネルMOSトランジスタが接続され、前記第3のNチャネルMOSトランジスタのゲート端子と、前記第3のPチャネルMOSトランジスタのゲート端子は、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子と接続されていることを特徴とする請求項1記載のデジタル可変容量回路。
【請求項4】
少なくとも一つの容量セルと、前記容量セルのそれぞれに直列接続されたスイッチ用MOSトランジスタとを含み、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子には、ハイレベルの電位を与える第1のPチャネルMOSトランジスタとローレベルの電位を与える第1のNチャネルMOSトランジスタが接続されたデジタル可変容量回路において、
前記第1のPチャネルMOSトランジスタと直列に第2の可変抵抗素子が接続されており、前記ゲート端子がハイレベルの電位となったときに、前記第2の可変抵抗素子の抵抗値が増大することを特徴とするデジタル可変容量回路。
【請求項5】
前記第2の可変抵抗素子として、第2のPチャネルMOSトランジスタを設け、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子がハイレベルの電位となったときに、前記第2のPチャネルMOSトランジスタのゲート−ソース端子間には、該MOSトランジスタの閾値電圧に概略等しい電圧が与えられることを特徴とする請求項4記載のデジタル可変容量回路。
【請求項6】
前記第2の可変抵抗素子として、第2のPチャネルMOSトランジスタを設け、前記第2のPチャネルMOSトランジスタのゲート端子と電源電位との間には第3のNチャネルMOSトランジスタが接続され、前記第2のNチャネルMOSトランジスタのゲート端子と接地電位との間には第3のPチャネルMOSトランジスタが接続され、前記第3のNチャネルMOSトランジスタのゲート端子と、前記第3のPチャネルMOSトランジスタのゲート端子は、前記スイッチ用MOSトランジスタのゲート端子と接続されていることを特徴とする請求項1記載のデジタル可変容量回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−149925(P2007−149925A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341676(P2005−341676)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
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