説明

デジタル家電製品及びデジタル家電システム

【課題】効率的に使用しているかどうか的確に判定することができるデジタル家電製品を提供する。
【解決手段】デジタル家電製品のユーザ利用度と該デジタル家電製品の消費電力を組にして記録して蓄積する計測部と、組を個々のユーザを特徴づける多変量データとし、比較対象とする母集団における個々のユーザの位置づけを、ユーザの使用状況を示すエコ指標として計算する計算部と、計算された前記個々のユーザの位置をエコ指標として表示する表示部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パソコンやテレビなど情報家電に代表されるデジタル家電製品及びデジタル家電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
稼働時の消費電力を測定したり、利用期間内の消費電力量を計算して表示する機能を搭載する家電製品が上市されている。また、消費電力を測定可能な電源タップを使用して対象となる家電製品の消費電力を測定することが可能である。
【0003】
テレビジョン受像機の省電力を達成するための提案が知られている(例えば、特許文献1参照。)。これは、液晶テレビにおいて、期間内の消費電力量を計算する手段を提案し、ユーザが設定した期間内の節電目標値を達成するように、自動的に液晶パネルのバックライトの輝度の低減を勧めたり、電源OFFしたりする節電手段を提供するものである。
【0004】
しかしながら、消費電力の値だけでは、対象の家電製品において妥当な値であるかどうかの判定は困難である。つまり、ある期間内の消費電力量は、ユーザが対象製品を適切に使用した結果、妥当に消費されたものなのか、または、不適切な使用や無駄な使用によって消費された分を含むのかは、定かではない。
【0005】
一方、エネルギーの使用を合理化する目的で、経済産業省はエネルギーの消費効率を示す指標であるエネルギー消費効率を製品分野毎に定めており、製品を販売するメーカーに、カタログ等において、その表示を義務づけている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−79076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、同じテレビジョン受像機のユーザであっても、見たい番組が週や月毎に異なるように、ユーザの実際の使い方は千差万別であり、定量的に消費電力量のメドを立てるのは難しい。また、省電力の為とはいえ、見たい番組の視聴を我慢することは本質的な解決とは言えない。
【0008】
特許文献1記載の技術は、消費電力量の削減を達成するか否かに焦点を当てるもので、誰も視聴していないにも関わらず電源がONとなっている場合など、効率的に使用しているかどうかについては関心が払われていない。そして、省電力の為に、ユーザの希望する使用に支障を来すという問題があった。
【0009】
一方、製品分野毎の指標となるエネルギー消費効率は、各種家電製品等におけるモデル的な使用法に基づいて定められる指標であり、個々のユーザの使用方法の効率性、あるいは非効率性について言及するものではない。
【0010】
そこで、本発明は、上記した問題に鑑みてなされたもので、デジタル家電製品が効率よく使用されているか否かを判別できるエコ指標を組み込んだデジタル家電製品及びデジタル家電システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、デジタル家電製品のユーザ利用度と該デジタル家電製品の消費電力を組にして記録して蓄積する計測部と、前記組を個々のユーザを特徴づける多変量データとし、比較対象とする母集団における個々のユーザの位置づけを、ユーザの使用状況を示すエコ指標として計算する計算部と、計算された前記個々のユーザの位置をエコ指標として表示する表示部と、を備えたことを特徴とするデジタル家電製品が提供される。
【0012】
また、本発明の別の一態様によれば、サーバとこのサーバに繋がるCPUを有したデジタル家電製品から成るデジタル家電システムであって、前記デジタル家電製品は、ユーザ利用度と消費電力を組にして記録して蓄積する計測部と、前記組を前記サーバに送信する送信部と、前記サーバで計算されたエコ指標を受け取って表示する表示部とを備え、
前記サーバは、前記デジタル家電製品から送られた前記組を集計して蓄積し、母集団分布を求める集計部と、前記組を個々のユーザを特徴づける多変量データとし、比較対象とする母集団における個々のユーザの位置づけをユーザの使用状況を示すエコ指標として計算する計算部と、を備えたことを特徴とするデジタル家電システムが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、デジタル家電製品を効率的に使用しているかどうか的確に判定することができる。また、各ユーザは、同種製品のユーザ全体と比べた自分の使用状況及び使用の傾向を確認できるので、省エネの動機付け、省エネ行動を主体的に行いやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るデジタル家電システムの構成を示す構成図である。
【図2】エコ指標の表示処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】二次元ヒストグラムを示す図である。
【図4】エコ指標分布グラフの一例を示すグラフである。
【図5】週毎のエコ指標分布から平均値を求めて、一か月分の推移を棒グラフで表示した例を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係るデジタル家電製品の構成を示す構成図である。
【図7】エコ指標の表示処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0016】
(第1の実施形態)
第1の実施形態は、本発明をデジタル家電製品であるノートパソコンに適用した実施形態について説明する。
まず、用語の定義について説明する。
【0017】
「ユーザ利用度」とは、対象となるデジタル家電製品の効率的な使用を示す指標である。ユーザ利用度は、対象となるデジタル家電製品により評価方法が異なる。例えば、パソコンの「ユーザ利用度」は、CPUの使用率とするのが好適である。「CPU使用率」は、CPUがどの程度使用されているかを示す値で、実行中のソフトウェアがCPUを占有している時間の割合で示される。一般に、パソコンにインストールされるオペレーティングシステムによってCPU使用率が把握できるので、得られるCPU使用率をユーザ利用度として使用するのが好適である。したがって、「ユーザ利用度」は、0〜1(0%〜100%)の値となる。
【0018】
「消費電力」は、例えば、パソコンが動作しているときに消費する電力である。
【0019】
「エコ指標」について、一般的には、『持続可能社会にどれだけ近いか、あるいは、遠いかを評価する指標』として理解されているが、指標自体をどのように作るかについては、各種の研究がなされている。本発明では、「エコ指標」について、以下のように定義する。
【0020】
(1)同じ「ユーザ利用度」であれば、「消費電力」が小さいほど、エコ指標が高い。
(2)同じ「消費電力」であれば、「ユーザ利用度」が高いほど、エコ指標が高い。
エコ指標の算出については、後述する。
【0021】
(システム概要)
図1は、デジタル家電システムの構成を示す構成図である。
【0022】
デジタル家電システムは、ネットワークに繋がれたノートパソコン10と、サーバ20から構成されている。ノートパソコン10は、埋め込まれたセンサによって消費電力が測定可能で、且つCPU使用率が測定可能で、一定間隔で測定したこれらの測定値の組をサーバ20に送信する手段を有している。ノートパソコン10は、例えば、ユーザ使用時の消費電力とCPU使用率とを3分毎の一定間隔で測定し、ローカルのハードディスクに蓄積する。例えば、一週間毎の一定期間に蓄積した上記の情報を、ネットワークを介してサーバ20に送信する。
【0023】
サーバ20は、ノートパソコン10が送付した、消費電力とCPU使用率の測定情報を集計し、集計結果を基づいて個別のノートパソコン10のエコ指標を計算する。サーバ20は、ユーザから送られてきた情報を集計し、その集計結果から個別のユーザのエコ指標を求めて、各ユーザにフィードバックする。
【0024】
次に、デジタル家電システムの内部構成について説明する。
【0025】
ノートパソコン10は、計測蓄積部11と、送受信部12と、表示部13を具備している。計測蓄積部11は、消費電力とCPU使用率との組を一定間隔で計測し、時系列データとして記録する。送受信部12は、一定期間毎に計測蓄積部11で記録したデータを圧縮し、サーバ20側へ送信する。サーバ20側からエコ指標を受信し、表示部13に渡す。表示部13は、送受信部12から渡されたエコ指標を表示する。
【0026】
サーバ20は、送受信部21と、集計部22と、指標計算部23と記憶装置24を具備している。送受信部21は、ノートパソコン10からデータを受信し、集計部22と指標計算部23へ渡す。 さらに、指標計算部23から引き渡したエコ指標をノートパソコン10側の送受信部12に送る。 集計部22は、記憶装置24に記憶されている全ノード集計データから今までの累積データをロードし、送受信部21から新たに渡されたデータを累積データに追加した後、記憶装置24に記憶している全ノード集計データを更新する。指標計算部23は、全ノード集計データを基にして、送受信部21から渡されたユーザのデータをエコ指標に変換し、送受信部21に返す。
【0027】
(処理全体の流れ)
次に、以上のように構成されたシステムにおける消費電力とCPU使用率の計測結果から、エコ指標を表示部13で表示するまでの一連の処理を説明する。
【0028】
図2は、エコ指標の表示処理の流れを示すフローチャートである。
【0029】
まず、ユーザ側であるノートパソコン10において、データの計測と送信を行う(ステップS21)。計測蓄積部11は、消費電力とユーザ利用度を一定間隔で計測し、時系列データとして保存する。送受信部12は、一定期間毎に計測蓄積部11からデータをロードし、消費電力とユーザ利用度を軸とした二次元ヒストグラムに変換した後に、ネットワークを経由して、サーバの送受信部21に送信する。
【0030】
次に、サーバ側の処理として、各ユーザの計測データの集計を行う(ステップS22)。具体的には、サーバの送受信部21は、ユーザから送られたデータのフォーマットを解析し、2次元ヒストグラムを集計部22に渡す。集計部22は、各ユーザの2次元ヒストグラムを全ノード集計データに追加する。
【0031】
次に、サーバ側の処理として、エコ指標の計算を行う(ステップS23)。具体的には、指標計算部23は、サーバ送受信部21から渡されたユーザの計測データからエコ指標を計算し、送受信部21を通して、エコ指標をユーザにフィードバックする。
【0032】
次に、ユーザ側であるノートパソコン10は、エコ指標の表示を行う(ステップS24)。表示部13は、サーバ20から送り返したエコ指標を送受信部12から受信し、表示する。エコ指標の表示方法については、例えば、「エコ指標分布グラフ」、「エコ指標の推移(エコ指標の代表値の棒グラフ)」が好適であるが、詳細については後述する。
【0033】
(情報の取得方法)
次に、情報の取得方法の詳細について説明する。
【0034】
パソコン稼働中に起動しているアプリケーションにより、ユーザ利用度と消費電力の値を一定時間間隔で取得し、ハードディスクに格納する。
【0035】
ユーザ利用度(CPU使用率) については、以下のように取得する。一般に、オペレーティングシステムはCPU時間を計測する関数を提供している。例えば、Windows(登録商標)オペレーティングシステムの場合は、パフォーマンスデータ ヘルパ(PDH) APIと呼ばれる関数を利用して、一定間隔に稼働中の全プロセスが費やしたCPU時間を知ることができる。これを用いてCPUが稼働した割合(CPU使用率)を計算し、ユーザ利用度とする。CPUの数が複数の場合は、各CPU使用率の平均を取るなどして、単一の指標とする。
【0036】
消費電力については、以下のように取得する。動作時のシステム全体の実効消費電力を測定するセンサをノートパソコン10に埋め込む。アプリケーションは同センサのドライバを経由して、現在時刻の値を取得する。
【0037】
取得した消費電力とCPU使用率は、例えば、表1に示すようなファイル形式で格納する。
【表1】

【0038】
(情報の送信)
ユーザ10側の送受信部12は、計測蓄積部11で計測したデータを一定期間に、消費電力とユーザ利用度を軸とする二次元ヒストグラムに圧縮し、サーバ20側に送信する。
【0039】
二次元ヒストグラムの形式については、情報を保持するヒストグラムは等分割とし、また、測定対象の値を十分にカバーできる最大値と最小値の固定値を設定する。例えば、本実施形態で示すヒストグラムでは、消費電力の最大値を、対象製品であるノートパソコン10製品の具体的な最大消費電力(例えば、45W)とし、最小値を0Wとする。ユーザ利用度(CPU使用率)の最大値は1(100%)、最小値は0(0%)とする。
【0040】
また、情報の精度を保つためには、ヒストグラムの階級数は実際の数値範囲に沿って設定する必要がある。本実施形態では、消費電力とCPU使用率とも30階段の設定で十分であるので、そのように設定している。尚、情報を保持するヒストグラムは等分割とする場合に限ることはなく、非等分割とすることもできる。例えば、データの分布が正規分布のように1か所に固まる性質があるような場合には、非等分割とする方がより効率的にデータを保持できる。
【0041】
次に、二次元ヒストグラムを構成する軸の向きの取り方について説明する。本発明では、エコ指標を上述のように定義しているので、エコ指標が高く評価される方向に向かって、ヒストグラムの階級番号の値が大きくなるように座標軸を定める。
【0042】
すなわち、同じユーザ利用度であれば、消費電力が小さいほど、エコ指標が高いことから、消費電力の軸については、消費電力の最大値を含む領域に最小の階級番号1を割り当て、消費電力が小さい値をとるにつれて、階級番号が大きくなるように割り当てる。また、同じ消費電力であれば、ユーザ利用度が高いほど、エコ指標が高いことから、ユーザ利用度の軸については、ユーザ利用度の最小値を含む領域に最小の階級番号1を割り当て、ユーザ利用度が大きい値をとるにつれて、階級番号が大きくなる方向で割り当てる。
【0043】
尚、ヒストグラムの軸の方向の設定は、サーバ20において、後述する集計結果の累積分布を求める際に必要となるもので、情報の取得・送信の段階においては、どのように集計しても、後で任意の形式にヒストグラムを変換することが可能である。つまり、この段階でこの形式に構成することは、必ずしも必要ではない。但し、本実施形態では、説明上、この段階でヒストグラムの軸の方向を定め、後の段階でデータ変換する必要をなくすようにしている。
【0044】
以上の手順により、表1の形式の時系列データから、図3のようなヒストグラムを得ることができる。縦軸はCPU使用率、横軸は消費電力を表わし、両者のクロクした枡目は各階級におけるデータ数を表わしている。ここで、CPU使用率と消費電力のそれぞれの階級数30は、次のように対応する。
【表2】

【0045】
表2に示す目盛に従って、計測データを全て階級番号の組に置き換える。
【0046】
例えば、表1の一番目のレコード(CPU使用率:15.99、消費電力:18.21)は、表2のCPU使用率がヒストグラムの13.3〜16.6に該当し、階級番号5に相当する。消費電力はヒストグラムの19.5〜18.1に該当し、階級番号18に相当する。故に、ヒストグラムの階級番号CPU使用率:5、消費電力:18の頻度を1加算する。同様にして、二番目のレコード(CPU使用率:20.38、消費電力:17.03)は、CPU使用率:7、消費電力:19の階級に加算される。この要領で、全ての計測結果を2次元ヒストグラムに変換する。次に、送信データのフォーマットについて説明する。送信データは、ヘッダ部、ヒストグラムヘッダ部とヒストグラム情報部から構成される。 ヘッダ部には、ユーザ情報として、例えば、デジタル機器の機種名及びデータの計測期間が書かれる。表3は、ヘッダ部に記載される情報の一例を示す。
【表3】

【0047】
ヒストグラムヘッダ部には、ヒストグラムのスペックが記載される。スペックとしては、例えば、各指標の最大値、最小値及び等分する階級数である。表4は、ヒストグラムヘッダ部に記載される情報の一例を示す。
【表4】

【0048】
ヒストグラム情報部には、ヒストグラムの各非零要素を記載する。非零要素としては、例えば、頻度、座標情報がある。頻度は、その座標の組み合わせのデータの出現数である。座標情報は、消費電力とCPU使用率の値をヒストグラムに変換後の、それぞれの階級番号である。
【0049】
具体的には、消費電力とCPU使用率の時系列情報の組を二次元ヒストグラムで表現したものから、ヒストグラム中の各非零階級の頻度と、その二次元座標とを一つのレコードとして、以下の形式の表5に示すように変換する。
【表5】

【0050】
(集計方法)
次に、ユーザの計測データの集計について説明する。ある一人のユーザの一定期間、例えば、一週間分のデータ(2次元ヒストグラム)をUkとする。ここで、kは、サーバ20へのデータの到着順を表わす番号である。
【0051】
今までにサーバ20に届いた一週間分のデータをn件とするとき、これらのデータU1,U2,・・・,Uk・・・,Unの集計結果を全ノードの集計データSとする。集計データSの構造は、ユーザ側で計測データを送信するときに使用する2次元ヒストグラムと同じ構造を使用する。
【0052】
消費電力の階級番号iをとし、CPU使用率の階級番号をjとするとき、Ukの各階級の頻度をuk(i,j)で表す。集計データSの各階級の頻度s(i,j)は、以下の式1によって計算することができる。
【数1】

【0053】
ノートパソコン10の電源がオフになっている期間は測定しないため、ユーザから送られるデータ数(期間内に測定した消費電力とCPU使用率の組の数)は、ユーザの利用頻度や一回毎の使用時間によって変わることが考えられる。そのため、実際の運用では、式1で求めた全体分布は、パソコンのCPU使用率が高いユーザのデータが支配的になる恐れがある。そのような懸念がある場合には、例えば、モンテカルロ手法を用いて、データ件数を調節することも容易に可能である。
【0054】
全ノードの集計データSの構造について説明する。集計データSは、ヘッダ部、ヒストグラムヘッダ部とヒストグラム情報部から構成される。ヘッダ部は、基本情報であって、例えば、機種名、集計期間などである。表6は、基本情報の一例を示すものである。
【表6】

【0055】
ヒストグラムヘッダ部は、ヒストグラムのスペックであって、例えば、各指標の最大値、最小値、階級数である。表7は、 ヒストグラムのスペックの一例を示すものである。
【表7】

【0056】
ヒストグラム情報部は、ヒストグラムの各非零要素であって、例えば、頻度、座標情報である。消費電力とCPU使用率の時系列情報を二次元ヒストグラムに変換したあと、各非零要素の頻度、座標情報を一つのレコードとする。表8は、ヒストグラムの各非零要素の一例を示すものである。
【表8】

【0057】
(エコ指標)
次に、エコ指標について説明する。
k番目に到着したデータUkのエコ指標Ekは、0と1の間の値からなる集合{e1、e2、・・・em}として表現される。ここで、各要素eiは、Ukに含まれる消費電力とCPU使用率の各組から計算される。また、要素の数mは、Ukに含まれる頻度uk(i,j)の総和であり、以下の式2から得られる。
【数2】

【0058】
次に、全ノードの集計データSを用いて、エコ指標Ekを求める方法を説明する。
一般に、累積分布関数は、確率密度関数を積分することによって求められる。離散データを扱う場合にも同様であるが、実際の計算は、ヒストグラムの頻度の和をとることによって、近似的な計算とすることが可能である。全ノードの集計データSが今まで送られた全てのデータの分布とするとき、それを基づいて求めた累積分布関数をエコ累積分布関数Fとする。全データ数をNとすると、式3で表わされる。
【数3】

また、確率密度関数f(i,j)は、式4で表わされる。
【数4】

さらに、aを消費電力の階級番号、bをCPU使用率の階級番号とすると、エコ累積分布関数F(a,b)は、式5で表わされる。
【数5】

【0059】
本実施形態では、いずれの階級番号も30としており、a=30、b=30のときは、F(a,b)は最大値1となる。また、任意のa、 bに対して0≦F(a,b) ≦1である。
【0060】
(エコ指標の計算)
k番目に到着したデータUkに含まれる消費電力とCPU使用率の組(a,b)がm個あるとき、Ukは式6で表せる。
【数6】

エコ指標Ekは、エコ累積分布関数F(a,b)を使って、式7で求めることができる。
【数7】

すなわち、エコ指標Ekは、m個のスカラー値の集合である。以下では、簡単にするため、Ekのx番目の要素F(ax,bx)をexと表現するものとする。
【0061】
上述したヒストグラムでは、消費電力については、それが小さい値であるほど、大きい階級番号を割り当てた。一方、CPU使用率については、それが大きい値ほど、大きな階級番号を割り当てた。したがって、エコ指標Ekの各要素exは、消費電力が小さく、かつCPU使用率が高いほど、1に近づく値をもつことを意味する。一方、各要素exは、消費電力が大きく、かつCPU使用率が小さいほど、0に近づく値をもつことを意味する。
【0062】
すなわち、エコ指標Ekは、0と1の間の値をもつデータの分布として表現されるものであり、その分布が、その期間における当該ノートパソコン10の、データをサーバ20に送付した全ユーザの中での相対的な電力の有効利用度を表している。
【0063】
(エコ指標のフィードバック)
以上のように求めたエコ指標Ekの各要素exは、ヒストグラムの形に変換し、ユーザにフィードバックする。0と1の間を30等分割し、階級番号が上昇する方向で値が大きくなるように軸を取る。エコ指標は、ヘッダ部、ヒストグラムヘッダ部とヒストグラム情報部からなるデータ構造で格納し、ユーザのノートパソコン10に送り返す。
【0064】
ヘッダ部は、測定期間であって、データの一例を表9に示す。
【表9】

【0065】
ヒストグラムヘッダ部は、ヒストグラムのスペックであって、例えば、各指標の最大値、最小値及び階級数である。表10は、ヒストグラムのスペックの一例を示す。
【表10】

【0066】
ヒストグラム情報部は、ヒストグラムの各非零要素であって、頻度、座標情報が該当する。指標計算部で求めたエコ指標の分布をヒストグラムに変換し、非零要素の頻度、座標情報を一つのレコードとして、表の形で表現する。表11は、ヒストグラムの各非零要素の一例である。
【表11】

【0067】
次に、表示部13で表示する、「エコ指標分布グラフ」と「エコ指標の推移(エコ指標の代表値の棒グラフ)」について説明する。
【0068】
(エコ指標分布グラフ)
エコ指標分布グラフは、送られたエコ指標分布を表すものである。エコ指標Ekは離散的なもので、属性をより見やすくするため、統計の手法(カーネル密度推定)を利用し、エコ指標Ekの確率密度関数を求め、連続的なグラフで表示するのが好適である。
【0069】
図4は、エコ指標分布グラフの一例を示すグラフである。エコ指標分布グラフの横軸は、エコ指標を表わし、式5のエコ累積分布関数で求められる値の範囲(0と1の間)とする。1に近づくほど、消費電力の効率が良いことを示す。エコ指標分布グラフの縦軸は、確率密度で、ある区間内の分布が全体に対する割合を示す(0〜100%)。
【0070】
図4に示すエコ指標分布グラフは、二つの分布パターンA,Bを示している。
パターンAは、グラフは全体的な形状として、エコ指標が右よりの形をしている。つまり、0と0.5の間よりも0.5と1の間に分布した部分が多く、全体的にエコ指標が高いといえる。これにより、すべてのユーザの中で、このグラフのパターンを得たユーザの利用効率が、相対的に高いことを示している。
【0071】
このグラフにはピークが三つあるが、パソコンの動作状態が単一でなく、いくつかの点を中心に広く分布していることが分かる。これは、例えば、CPUの負荷の掛け方の異なるアプリケーションを、いずれも頻度高く使用していることが推測される。
【0072】
パターンBは、グラフが左に寄ったところに高い山があることから、全体的な消費電力の効率が、全ユーザの位置付けの中で、低いと判断できる。また、グラフの分散が小さいので、パソコンがほぼ単一モードで動作したことが分かり、ユーザの使用方法がかなり一定していることが推測される。
【0073】
このように、エコ指標分布グラフの形状から、ユーザの利用状況がどのようなものであったかに関する幅広い知見が得られる。
【0074】
(エコ指標の代表値の棒グラフ)
エコ指標の代表値の棒グラフは、エコ指標代表値の推移を表わすもので、送られたエコ指標分布を蓄積し、一定期間、例えば、一週間分のデータから一つの統計的な代表値(平均値など)を求め、その推移をユーザに表示する。
【0075】
図5は、週毎のエコ指標分布から平均値を求めて、一か月分の推移を棒グラフで表示した例を示す。ユーザはこのグラフを見ることにより、一か月の使用実績に基づくエコ指標の平均値の変化を確認できる。例えば、ユーザが電源をONにしたまま放置している時間が減っている傾向にあるとか、またはUSBなどの周辺機器を使わず、消費電力が減少する傾向にある、などの結果を表している。
【0076】
第1の実施形態は、デジタル家電製品としてノートパソコンを例としたが、ネットワーク機能を持つ他のデジタル家電製品にも適用可能である。また、エコ指標の表示には、本体にディスプレイ装置を直接組み込むか、テレビやパソコンモニタなどの表示装置と繋ぐインターフェースを備える構成が必要となる。後者はハードディスクレコーダーやテレビゲーム機などのシステムが考えられる。
【0077】
本実施形態によれば、パソコンを効率的に使用しているかどうか的確に判定することができる。また、各ユーザは、同種製品のユーザ全体と比べた自分の使用状況及び使用の傾向を確認することができる。
【0078】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、ネットワークに繋がるサーバで、ユーザのエコ指標を計算したが、第2の実施形態では、ネットワーク機能を持たないデジタル家電製品を対象にし、ユーザのエコ指標の計算機能をその製品の内部に組み込んでいる。すなわち、「消費電力」と「ユーザ利用度」の計測、エコ指標の計算及びエコ指標表示の機能を、全て家電製品の内部に組み込む構成である。
【0079】
図6は、第2の実施形態に係るシステムの内部構成を示す。デジタル家電製品60は、計測蓄積部61と、指標計算部62と、指標表示部63を備えている。計測蓄積部61は、消費電力とユーザ利用度を計測し、時系列データとして記録するものである。 指標計算部62は、周期毎に、計測蓄積部61で記録した時系列データから期間内のエコ指標を計算して(組み込んだ累積分布関数を利用する)、指標表示部63に引き渡す。 指標表示部63は、指標計算部62から渡されたエコ指標を表示する。
【0080】
(処理全体の流れ)
次に、以上のように構成されたシステムにおける消費電力とCPU使用率の計測結果から、エコ指標を表示部13で表示するまでの一連の処理を説明する。
【0081】
図7は、エコ指標の表示処理の流れを示すフローチャートである。
まず、計測蓄積部61は、一定間隔で、例えば3分毎に製品使用時の消費電力と使用度合を計測し、デジタル家電製品60本体のストレージ(図示しない)に蓄積する(ステップS71)。
【0082】
次いで、指標計算部62は、周期毎に、例えば一週間毎に蓄積したデータを元にエコ指標を計算し、結果を指標表示部63に渡す(ステップS72)。
【0083】
指標表示部63は、渡されたエコ指標をデジタル家電製品60本体のディスプレイ装置(図示しない)で表示する(ステップS73)。
【0084】
(データの計測)
消費電力とユーザ利用度の取得方法は、第1の実施形態と同様である。表1のような時系列データをデジタル家電製品60本体のストレージに蓄積する。
【0085】
(エコ指標の計算)
累積分布関数に基づいて、計測した消費電力とユーザ利用度から、エコ指標を計算するコンセプトは第1の実施形態と同じだが、ネットワーク機能を備えないため、実装上では、以下の異なる点がある。
【0086】
(エコ累積分布関数)
本実施形態では、出荷の前に予めにエコ累積分布関数を製品に組み込む方法を使用する。第1の実施形態では、サーバを介して同製品の各ユーザの使用状況を集計し(全ノードの集計データ)、それを基づいてエコ累積分布関数を求めたが、本実施形態では、製造段階での実験結果に基づいてエコ累積分布関数を求める。
【0087】
累積分布関数の元となる全ノードの集計データは、一種の分布で、対象となる家電製品がある時間内に、あり得る「消費電力」と「ユーザ利用度」との組み合わせ(ユーザの利用パターン)がどのように(時間内に各利用パターンの割合)に存在するかいう情報を表している。
【0088】
(1)ユーザの利用パターン。ユーザの利用パターンは、ユーザ側で操作できる機能によって決められる。例えば、ハードディスクレコーダーの場合は、主に操作待ち、再生と録画の動作モードがある。操作待ちとは、電源を入れた状態での再生と録画以外の作動状態を指す。それぞれをM1,M2,M3とする。
(2)時間内の割合。一定時間内に、各ユーザの利用パターンが現れる割合を示す。例えば、ユーザが平均的に1週間にハードディスクレコーダーを20時間使用する。その内訳は、録画が10時間、再生が7時間、操作待ちが3時間とするとき、それぞれの割合は、P(M1)=10/20, P(M2)=7/20, P(M3)=3/20で求められる。
【0089】
製品のテスト段階で、製品の各機能をうまく作動しているかどうかの検証を行う。このとき、機能テストの同時に、各ユーザの利用パターンMiでの消費電力とユーザ利用度合を計測することが可能である。一方、時間内の割合P(Mi)は、市場調査や顧客の声を得た大多数なユーザの使用傾向から推測する。
【0090】
各Miでの消費電力とユーザ利用度合と、それぞれ時間内の割合P(Mi)を取得したあと、P(Mi)を積分することでエコ累積分布関数F(Mi)を求める。
【0091】
具体的には、
各Miを第1の実施形態で定めたエコ指標の基準に従って、小さい方から大きい順に並べ替える。つまり、任意のMiとMi+1がある時、それぞれの消費電力とユーザ利用度合を(xi,yi)と(xi+1,yi+1)で表すと、次の式8が成立する。
【数8】

ここでは、(xi,yi)をMiの基準値と呼ぶ。
Miを値が小さい方から大きい方へ向かって積分して、各Mjでのエコ指標値を次の式9で求める。
【数9】

【0092】
(エコ指標Ekの計算)
ある一定期間内で計測した消費電力とユーザ利用度との時系列データの組は、{(c1,d1),(c2,d2),…(cn,dn)}とするとき(nは利用期間内のデータ件数)、全ての組を製品の各Mjの基準値、(xi,yi)と比較し、それぞれ(cj,dj)の計測時刻で最も近いユーザの利用パターンMjを推定する。さらに、式9を利用して、エコ指標Ekに含む、(cj,dj)に対応する要素ejの値を計算する。
【0093】
(エコ指標のデータフォーマット)
求めたエコ指標はヒストグラムに変換する必要がないため、時系列データを表12のような形式で表示部に渡す。
【表12】

【0094】
エコ指標の表示方法は、第1の実施形態と同様のため、説明を省略する。
本実施形態によれば、ネットワークに繋がなくても、デジタル家電製品を効率的に使用しているかどうか的確に判定することができる。また、各ユーザは、同種製品のユーザ全体と比べた自分の使用状況及び使用の傾向を確認することができる。
【0095】
なお、本発明は上記の実施形態のそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0096】
10…ノートパソコン、11…計測蓄積部、12…送受信部、13…表示部、20…サーバ、21…送受信部、22…集計部、23…指標計算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル家電製品のユーザ利用度と該デジタル家電製品の消費電力を組にして記録して蓄積する計測部と、
前記組を個々のユーザを特徴づける多変量データとし、比較対象とする母集団における個々のユーザの位置づけを、ユーザの使用状況を示すエコ指標として計算する計算部と、
計算された前記個々のユーザの位置をエコ指標として表示する表示部と、
を備えたことを特徴とするデジタル家電製品。
【請求項2】
前記個人の位置は、母集団の分布を多重積分によって得た累積分布関数で求めることを特徴とする請求項1記載のデジタル家電製品。
【請求項3】
前記エコ指標は、同じユーザ利用度であれば消費電力が小さいほど、前記エコ指標が高く、同じ消費電力であればユーザ利用度が高いほど、前記エコ指標が高い、と関係付けて定義することを特徴とする請求項1記載のデジタル家電製品。
【請求項4】
前記デジタル家電製品はCPUを有し、前記ユーザ利用度は、前記CPUの使用率であることを特徴とする請求項1記載のデジタル家電製品。
【請求項5】
サーバとこのサーバに繋がるCPUを有したデジタル家電製品から成るデジタル家電システムであって、
前記デジタル家電製品は、
ユーザ利用度と消費電力を組にして記録して蓄積する計測部と、
前記組を前記サーバに送信する送信部と、
前記サーバで計算されたエコ指標を受け取って表示する表示部とを備え、
前記サーバは、
前記デジタル家電製品から送られた前記組を集計して蓄積し、母集団分布を求める集計部と、
前記組を個々のユーザを特徴づける多変量データとし、比較対象とする母集団における個々のユーザの位置づけをユーザの使用状況を示すエコ指標として計算する計算部と、
を備えたことを特徴とするデジタル家電システム。
【請求項6】
前記個々のユーザの位置は、母集団の分布を多重積分によって得た累積分布関数で求めることを特徴とする請求項5記載のデジタル家電システム。
【請求項7】
前記エコ指標は、同じユーザ利用度であれば消費電力が小さいほど、前記エコ指標が高く、同じ消費電力であればユーザ利用度が高いほど、前記エコ指標が高い、と関係付けて定義することを特徴とする請求項5記載のデジタル家電システム。
【請求項8】
前記デジタル家電製品はCPUを有し、前記ユーザ利用度はCPUの使用率であることを特徴とする請求項5記載のデジタル家電システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−180686(P2011−180686A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42299(P2010−42299)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】