説明

データ収集方法、キット及び腫瘍マーカー

【課題】癌の診断、予想又は予後の指標として用いることのできる被験体中の癌細胞の存在データを収集するデータ収集方法を提供すること。
【解決手段】被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定することにより、前記被験体中の癌細胞の存在データを収集する、データ収集方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ収集方法、キット及び腫瘍マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
アネキシンは、真核生物の異なる組織と細胞型に偏在して発現するカルシウム依存性リン脂質結合タンパクであり、少なくとも10種類以上のファミリーメンバーが知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、アネキシンは、ホスフォリパーゼA阻害活性、抗凝固活性、カルシウム選択性チャンネル阻害活性を有しており、さらに、細胞骨格タンパクに対して結合すること、細胞膜と小胞の集合に関与することなどが知られている。
【0003】
アネキシンと疾患との関連においては、多発性硬化症の発症又は実験的神経炎の発症に伴って、アネキシン濃度が増加することが認められている。また、アネキシンに対する循環自己抗体の発生及びレベルを測定し、癌の診断、予想又は予後の指標として用いることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−535309号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Benz,J. and Hofmann,A., 1997年, Biol.Chem., 378巻, 177−183頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、癌の診断、予想又は予後の指標として用いることのできる被験体中の癌細胞の存在データを収集するデータ収集方法を提供することを目的とする。本発明はまた、そのようなデータ収集方法に用いられる新規な腫瘍マーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、膵臓癌等の癌患者及び健常者から得た血清検体中のアネキシンに対する自己抗体のレベルには有意差がないことを見出した一方で、驚くべきことに、アネキシンとその自己抗体との複合体のレベルに有意差があることを見出した。本発明はこの新規な知見に基づくものである。
【0008】
すなわち、本発明は、被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定することにより、上記被験体中の癌細胞の存在データを収集する、データ収集方法を提供する。
【0009】
アネキシンとアネキシンに対する自己抗体とから形成される複合体の存在量は、膵臓癌等の癌患者において有意に増加する。したがって、被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定することにより、被験体中に膵臓癌等の癌に由来する癌細胞が存在するかどうかを判定するための基礎となるデータを収集することができる。このデータは、癌の診断、予想又は予後の指標として用いることができる。
【0010】
上記被験体中の癌細胞の存在データは、上記複合体の存在量が、上記被験体とは異なる被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量より多いとのデータとすることができる。
【0011】
上記検体は、血液由来検体であることが好ましい。検体を血液由来検体とすることにより、献血、定期健康診断又は人間ドック等における血液検査の一項目として上記被験体中の癌細胞の存在データを収集することも可能となる。これにより、膵臓癌等の癌の早期発見に役立つデータとすることができる。
【0012】
上記癌は膵臓癌とすることができる。
【0013】
アネキシンとその自己抗体との複合体の存在量の測定は、アネキシンとその自己抗体との複合体に、アネキシンに対する試薬抗体と自己抗体に特異的に結合する結合物質とを作用させて、上記アネキシンとその自己抗体との複合体、試薬抗体及び結合物質からなる免疫複合物を形成させ、その免疫複合物の存在量を測定することにより行われるものとすることができる。免疫複合物の存在量の測定をこのようにして行うことにより、検体中にアネキシン又はその自己抗体が単独で存在しているものによる測定値への寄与を排除して、アネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を特異的に測定することができ、より正確なデータの収集が可能となる。
【0014】
上記試薬抗体又は結合物質が標識成分で標識されたものであり、上記免疫複合物の存在量の測定が、その標識成分を測定することにより行われるものとすることが好ましい。これにより、より簡便にデータの収集を行うことが可能となる。
【0015】
また、上記試薬抗体が水不溶性担体に結合しており、上記結合物質が標識成分で標識されたものとすることができる。さらに、上記結合物質は抗IgG抗体とすることができる。さらにまた、上記標識成分は酵素又は放射性物質とすることができる。
【0016】
本発明はまた、アネキシンとその自己抗体との複合体からなる腫瘍マーカーを提供する。アネキシンとその自己抗体との複合体は、膵臓癌等の癌患者においてその存在量が有意に増加するものであるため、腫瘍マーカーとして利用することができる。さらに、上記腫瘍マーカーは、膵臓癌マーカーとして利用することができる。
【0017】
本発明は更に、アネキシンに対する試薬抗体と、アネキシンの自己抗体に特異的に結合する結合物質とを含む、検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定するためのキットを提供する。本発明のキットはこのような構成を有していることにより、検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を特異的に測定することができる。また、上記検体としては、血液由来検体であることが好ましい。
【0018】
本発明はまた、検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体を免疫測定する、癌診断補助のための当該複合体の免疫測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被験体中の癌細胞の存在データを収集するデータ収集方法が提供される。本発明のデータ収集方法によって収集されたデータは、被験体が膵臓癌などの癌に罹患しているかどうかを判定するためのデータとして用いることができ、癌の診断、予想又は予後の指標として有用である。
【0020】
また、本発明により、アネキシンとその自己抗体との複合体からなる腫瘍マーカーが提供される。この複合体は特に担癌患者の血中に高値に出現するため、新規な腫瘍マーカーとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】健常者、慢性膵炎患者及び膵臓癌患者の血清中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定した結果を示すグラフである。
【図2】健常者及び膵臓癌患者の血清中内のアネキシンに対する自己抗体の存在量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
本発明のデータ収集方法は、被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定することにより、前記被験体中の癌細胞の存在データを収集するものである。
【0024】
本発明のデータ収集方法は、最終的な診断を補助するための人体のデータ収集方法であり(手術、治療、診断のプロセスは含まれていない)、当該データを適用することにより、医師が癌の存在を早期に発見することを助け、早期に治療へと移行することが可能となる。また、当該データは、治療前若しくは治療後の癌の診断、予想又は予後の指標として用いることもできる。
【0025】
本明細書において「被験体中の癌細胞の存在データ」とは、被験体に癌細胞が存在することを示唆する、又は示すデータを意味する。そのようなデータとしては、例えば、被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量が、前記被験体とは異なる被験体(以下、「対照被験体」ともいう。)から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量より多いとのデータとすることができる。
【0026】
対照被験体には、データ収集の対象となっている被験体とは異なる被験体を採用すればよい。また、そのような対照被験体としては、癌を罹患していない被験体であることが好ましく、健常者であることがより好ましい。
【0027】
対照被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量は、被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量の測定と同様にして行うことができる。また、被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量の測定に先立って予め測定しておいてもよく、同時に測定してもよく、後から測定してもよい。
【0028】
複数の対照被験体について上記存在量を測定し、その平均値、標準偏差等の統計データを、対照被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量とすることもできる。このような統計データを採用することにより、「被験体中の癌細胞の存在データ」をより精度よく収集することが可能となる。
【0029】
検体としては、生体由来の試料が好適で、特に、血液由来検体が好適であり、血液由来検体としては、全血、血漿、血清を例示できる。
【0030】
被験体は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0031】
癌の種類としては、特に限定されるものではなく、例えば、咽頭癌、喉頭癌、甲状腺癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、胆嚢癌、膵臓癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌が挙げられる。
【0032】
本明細書において、「アネキシンとその自己抗体との複合体」とは、アネキシンタンパク質とアネキシンタンパク質に対する自己抗体とが抗原抗体反応により結合した複合体を意味し、本明細書では単に「複合体」と記載することもある。また、自己抗体とは、自己の体内に存在する物質に対して自己の体内で産生される抗体のことをいう。
【0033】
アネキシンとしては、アネキシンタンパク質ファミリーのメンバーであればよい。例えば、アネキシンとして、アネキシンA1、アネキシンA2、アネキシンA5とすることができる。
【0034】
検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定する方法には、タンパク質とそのタンパク質に対する抗体との複合体を測定する方法として当該技術分野で一般的に用いられている方法を応用することができる。例えば、検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体に、アネキシンに対する試薬抗体及び自己抗体に特異的に結合する結合物質を作用させて、複合体、試薬抗体及び結合物質とが結合して形成される免疫複合物(単に、「免疫複合物」ともいう。)の存在量を測定することによって行うことができる。
【0035】
アネキシンに対する試薬抗体(単に、「試薬抗体」ともいう。)としては、アネキシンタンパク質と特異的に結合する抗体であって、試薬として用いられるものが使用できる。試薬抗体の産生動物種は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等のいずれでもよく、また試薬抗体の免疫グロブリン種は、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれでもよい。また、試薬抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及びこれらの断片(抗原と結合能を有するもので、例えば、H鎖、L鎖、Fab、F(ab’)等)のいずれでもよい。このような試薬抗体は、アネキシン全長タンパク質又はその断片ペプチドを抗原として、上記した産生動物種に免疫して、その免疫動物から抗血清として得ることができ、また、免疫動物からの脾細胞とミエローマ細胞とを融合して、その融合細胞の中から、アネキシンに対する抗体を産生する融合細胞をスクリーニングして、得られるハイブリドーマからモノクローナル抗体として得ることもできる。また、アネキシンに対する試薬抗体は、抗アネキシン抗体として市販されており、それらの市販品を使用することもできる。
【0036】
アネキシンに対する自己抗体に特異的に結合する結合物質(単に、「結合物質」ともいう。)とは、アネキシンに対する自己抗体と結合可能な物質であればよい。この様な結合物質としては、抗IgG抗体、プロテインA、プロテインG、試薬としてのアネキシン抗原を用いることができ、そのうち、抗IgG抗体が好ましい。
【0037】
試薬としてのアネキシン抗原を用いる場合、アネキシンに対する自己抗体と抗原抗体反応しうる抗原であれば特に限定しないが、アネキシン全長タンパク質、アネキシン全長タンパク質の変異体(アネキシンに対する自己抗体と抗原抗体反応しうるものであり、かつ、アネキシン全長タンパク質と90%以上のアミノ酸配列の相同性を有するタンパク質又はアネキシン全長タンパク質のアミノ酸配列から1個若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加したアミノ酸配列を有するタンパク質)、アネキシンの断片ペプチドであってアネキシンの自己抗体と抗原抗体反応しうるペプチドを例示できる。アネキシン全長蛋白質は、例えば、Abnova社より入手可能であるが、全アミノ酸配列が既知であるので、アネキシン全長タンパク質やその変異体は、遺伝子組換え技術によっても合成できる。アネキシンの断片ペプチドを用いるときは、アネキシン全長タンパク質を酵素分解等によって各種のペプチド断片に切断して作成してもよいし、市販の自動ペプチド合成装置を用いても容易に作成することができる。また、標的のアネキシンの断片ペプチドを遺伝子組み換え技術によっても作成することができる。そのようにして得られたアネキシン全長タンパク質の変異体や断片ペプチドを、アネキシンに対する自己抗体と反応させ抗原抗体反応をするものを選択して試薬としてのアネキシン抗原として用いることができる。上記した各ペプチド断片の全体のほか、その一部も使用できるし、それらの混合物も使用でき、これらも試薬としてのアネキシン抗原に包含される。
【0038】
検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体に、試薬抗体及び結合物質を作用させると、アネキシンとその自己抗体との複合体、試薬抗体及び結合物質とからなる免疫複合物が生成する。その免疫複合物を測定するには、試薬抗体又は結合物質のいずれかを標識成分で標識し、生成する免疫複合物中の標識成分を測定することによって、免疫複合物を測定するのが好ましい。
【0039】
標識成分としては、酵素、放射性物質、蛍光物質、化学発光物質等、当該技術分野において常用される標識成分を使用することができるが、これらの中でも酵素や放射性物質が好ましい。
【0040】
標識するための酵素としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ウシ小腸アルカリフォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ等の酵素免疫分析法(EIA)に常用される酵素を適宜使用することができる。また、これらの酵素に適合しEIAで常用される発色基質が適宜使用される。発色基質としては、例えばHRPの場合は、3,3′,5,5′−テトラメチルベンジジン(TMBZ)、TMBZ・HCl、TMBZ・PS、ABTS、o−フェニレンジアミン、p−ヒドロキシフェニル酢酸等が使用され、アルカリフォスファターゼの場合は、p−ニトロフェニルフォスフェート、4−メチルウンベリフェリルフォスフェート等が使用され、β−ガラクトシダーゼの場合は、o−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド、4−メチルウンベリフェリルβ−D−ガラクトピラノシド等が使用される。
【0041】
標識するための放射性物質としては放射性ヨウ素原子等を、蛍光物質としてはFITCやローダミン等を、化学発光物質としてはルミノール等を例示することができる。
【0042】
標識成分を用いる場合、例えば、検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体に、水不溶性担体に結合している試薬抗体を作用させ、次いで、標識成分で標識された結合物質を作用させて、免疫複合物を生成させ、その免疫複合物に結合している標識成分を測定することにより測定することが好ましい。また逆に、検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体に、水不溶性担体に結合している結合物質を作用させ、次いで、標識成分で標識された試薬抗体を作用させて、免疫複合物を生成させ、その免疫複合物に結合している標識成分を測定することによりその複合体を測定することもできる。
【0043】
水不溶性担体と結合物質又は試薬抗体との結合は、タンパク質を固相面に結合させる既知の方法を用いて容易に行うことができる。例えば、水不溶性担体としては、通常、ビーズ、マイクロプレート、チューブ等が用いられる。これらの固相面に結合物質又は試薬抗体を結合する方法としては、物理吸着、化学結合等既知の固定化技術が適宜利用できる。
【0044】
例えば、このようにして水不溶性担体と結合させた試薬抗体に、アネキシンとその自己抗体との複合体とを含む検体を接触させると、複合体中のアネキシン部分と試薬抗体とが結合する。さらに、その結合物に対し、標識成分で標識された結合物質(例えば、標識抗IgG抗体)を作用させると、複合体中の自己抗体部分と結合物質とが結合し、免疫複合物が生成する。その結果、生成した免疫複合物に含まれる標識成分を測定することにより、検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体を測定することができる。
【0045】
検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定する方法の典型的な例を以下に示す。
【0046】
プレートに抗アネキシン抗体を加え、低温例えば4℃で静置して感作し、その後、PBS等の洗浄液で洗浄する。次いで、そのプレートをBSAでコーティングし、抗アネキシン抗体ELISAプレートを作成する。希釈した検体を抗アネキシン抗体ELISAプレートに加え、加温例えば37℃で静置し、次いでPBS等の洗浄液で洗浄をする。得られるプレートのウェルにHRP標識された抗ヒトIgG抗体を加え、加温例えば37℃で静置する。次いで、ウェルをPBS等の洗浄液で洗浄した後、TMBZを加え、例えば室温で静置した後、反応停止剤として1N硫酸を加える。吸光度はマイクロプレートリーダー(BioRad社製)を用いて、波長450nmにて吸光度を測定する。吸光度の値と予め作成しておいた検量線から、アネキシンとその自己抗体との複合体の値を求める。
【0047】
本発明の腫瘍マーカーは、アネキシンとその自己抗体の複合体からなるものである。この複合体は特に担癌患者の血中に高値に出現するため、新規な腫瘍マーカーとして有用である。この腫瘍マーカーは膵臓癌マーカーとして用いることもできる。
【0048】
本発明の腫瘍マーカーは、単独で用いてもよいし、他の公知の腫瘍マーカーと組み合わせて用いてもよい。例えば、膵臓癌マーカーとして用いる場合、膵臓癌の腫瘍マーカーとして知られているCA19−9、CEA、Dupan−2等と組み合わせて用いることができる。
【0049】
本発明のキットは、アネキシンに対する試薬抗体及びアネキシンに対する自己抗体に特異的に結合する結合物質を含む。このキットは、本発明のデータ収集方法に好ましく用いることができる。キットに含まれるアネキシンに対する試薬抗体、アネキシンに対する自己抗体に特異的に結合する結合物質としては、上述した試薬抗体及び結合物質と同じものを好ましく用いることができる。すなわち、例えば、アネキシンに対する試薬抗体及びアネキシンに対する自己抗体に特異的に結合する結合物質の一方を水不溶性担体に結合させた形態で、他方を標識成分で標識した形態で、キットの試薬成分とすることができる。その他の試薬成分として、界面活性剤、緩衝剤等の当該技術分野においてEIA等の免疫測定法で常用されるものを適宜、加えてもよい。
【0050】
本発明は、膵臓癌等の癌患者においてアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量が増加する、という新規な知見に基づいている。したがって、本発明はまた、被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定することにより、前記被験体中の癌を検出する検出方法とすることもできる。本発明はさらに、検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体を免疫測定する、癌診断補助のための当該複合体の免疫測定方法とすることができる。本発明の免疫測定方法として、上述した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定する方法を全て好ましく使用できる。
【実施例】
【0051】
健常者(46例)、慢性膵炎患者(18例)、及び膵臓癌患者(49例)から採取した血清検体について、アネキシンA1とその自己抗体との複合体(実施例1)、及びアネキシンA1に対する自己抗体(比較例1)を、以下に説明するようにして測定し、有意差検定を行った。
【0052】
[実施例1]アネキシンA1とその自己抗体との複合体の測定
(方法)
(1)抗アネキシンA1抗体ELISAプレートの作成
ELISAプレート(Nunc社製,Maxisorp)に抗アネキシンA1抗体(Abnova社製,5μg/mL,100μL/well)を1晩4℃静置して感作し、その後、0.05%Tween20を含むPBS(200μL/well)で3回洗浄を行った。次いで、1.5%BSA、10%サッカロースを含むPBS(200μL/well)で1晩コーティングし、抗アネキシンA1抗体ELISAプレートを作成した。
(2)アネキシンA1とその自己抗体との複合体の測定
検出抗体としてHRP標識された抗ヒトIgG抗体(Zymed社製)を、0.05%Tween20を含むPBSにて4000倍に希釈したものを用いた。サンプル血清はPBSにて100倍に希釈した。その希釈したサンプルを抗アネキシンA1抗体ELISAプレートに100μL/wellずつ加え、1時間37℃で静置し、その後、0.05%Tween20を含むPBS(200μL/well)で3回洗浄を行った。得られたプレートのウェルに希釈したHRP標識された抗ヒトIgG抗体を100μL/wellずつ加え、30分間37℃で静置した。次いで、0.05%Tween20を含むPBS(200μL/well)で3回洗浄した後、TMBZを100μL/wellずつ加え、10分間室温で静置の後、反応停止剤として100μL/wellの1N硫酸を加えた。吸光度はマイクロプレートリーダー(BioRad社製)を用いて、波長450nmにて測定を行った。
【0053】
(結果)
実施例1の結果を図1に示す。アネキシンA1とその自己抗体との複合体の存在量は、膵臓癌患者検体群において、健常者群や慢性膵炎患者群と比較して、それぞれ、p<0.01、p<0.05で有意に増加した。また、健常者群と慢性膵炎患者群との間で有意差は確認できなかった。
【0054】
[比較例1]アネキシンA1に対する自己抗体の測定
(方法)
(1)アネキシンA1のELISAプレートの作成
水不溶性担体としてELISAプレート(Nunc社製,Maxisorp)を用い、それにアネキシンA1(Abnova社製5μg/mL,100μL/well)を1晩4℃静置して感作し、その後、0.05%Tween20を含むPBS(200μL/well)で3回洗浄を行った。次いで、1.5%BSA、10%サッカロースを含むPBS(200μL/well)で1晩コーティングしてアネキシンA1のELISAプレートを作成した。
(2)アネキシンA1に対する自己抗体の測定
各サンプル血清はPBSにて100倍に希釈し、それを100μL/wellずつアネキシンA1のELISAプレートに加え、1時間37℃で静置し、その後、そのプレートを、0.05%Tween20を含むPBS(200μL/well)で3回洗浄した。そのプレートもHRP標識免疫グロブリン(HRP標識されたanti−HumanIgG(Zymed社製)を0.05%Tween20を含むPBSにて4000倍に希釈したもの)を100μL/wellずつ加え、30分間37℃で静置した。次いで、そのプレートを、0.05%Tween20を含むPBS(200μL/well)で3回洗浄した後、TMBを100μL/wellずつ加え、10分間室温で静置の後、反応停止剤として100μL/wellの1N硫酸を加えた。吸光度はマイクロプレートリーダー(BioRad社製)を用いて、波長450nmにて測定を行った。
【0055】
(結果)
結果を図2に示す。アネキシンA1に対する自己抗体の測定では、膵臓癌患者検体群は、健常者群と比較して有意差は確認できなかった。
【0056】
以上の実施例より、アネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定することにより、膵臓癌患者を判別できることが明らかとなった。また、膵臓癌患者と慢性膵炎患者との比較から、上記複合体は癌患者で特異的に増加することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定することにより、前記被験体中の癌細胞の存在データを収集する、データ収集方法。
【請求項2】
前記被験体中の癌細胞の存在データは、
前記複合体の存在量が、前記被験体とは異なる被験体から採取した検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量より多いとのデータである、請求項1に記載のデータ収集方法。
【請求項3】
前記検体が血液由来検体である、請求項1又は2に記載のデータ収集方法。
【請求項4】
前記癌が膵臓癌である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のデータ収集方法。
【請求項5】
アネキシンとその自己抗体との複合体の存在量の測定が、
アネキシンとその自己抗体との複合体に、アネキシンに対する試薬抗体と自己抗体に特異的に結合する結合物質とを作用させて、前記アネキシンとその自己抗体との複合体、試薬抗体及び結合物質からなる免疫複合物を形成させ、
該免疫複合物の存在量を測定することにより行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のデータ収集方法。
【請求項6】
前記試薬抗体又は結合物質が標識成分で標識されたものであり、
前記免疫複合物の存在量の測定が、前記標識成分を測定することにより行われる、請求項5に記載のデータ収集方法。
【請求項7】
前記試薬抗体が水不溶性担体に結合しており、かつ前記結合物質が標識成分で標識されたものである、請求項6に記載のデータ収集方法。
【請求項8】
前記結合物質が、抗IgG抗体である、請求項5〜7のいずれか一項に記載のデータ収集方法。
【請求項9】
前記標識成分が、酵素又は放射性物質である、請求項6〜8のいずれか一項に記載のデータ収集方法。
【請求項10】
アネキシンとその自己抗体との複合体からなる腫瘍マーカー。
【請求項11】
前記腫瘍が膵臓癌である、請求項10に記載の腫瘍マーカー。
【請求項12】
アネキシンに対する試薬抗体と、アネキシンの自己抗体に特異的に結合する結合物質とを含む、検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体の存在量を測定するためのキット。
【請求項13】
前記検体が血液由来検体である、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
検体中のアネキシンとその自己抗体との複合体を免疫測定する、癌診断補助のための当該複合体の免疫測定方法。

【図1】
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【図2】
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