説明

トウバンドの製造方法及びトウバンドの製造装置

【課題】複数本のトウ糸条から均一なトウバンドを形成してトウバンドの開繊均一性を向上させるとともに、形成したトウバンドに十分な捲縮を安定して付与でき、優れた開繊均一性及び加工安定性を有するトウバンドを製造できるトウバンドの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明により、複数本のアセテートフィラメントを集束してアセテートトウ糸条を作製し、同アセテートトウ糸条を複数本集束することによりトウバンドを製造するトウバンドの製造方法において、前記アセテートトウ糸条の作製後に同トウ糸条に水分を付与し、その水分率を5%以上20%以下とすること、水分が付与された前記アセテートトウ糸条を複数本帯状に集束してトウバンドを形成すること、前記トウバンドに水分を付与すること、及び前記水分を付与したトウバンドに捲縮を付与すること、を含んでなることを特徴とするトウバンドの製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、十分な捲縮が付与されており、且つ開繊均一性に優れたトウバンドを製造する製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、トウバンドの製造においては、先ず紡糸口金の多数の紡糸孔からフィラメントが曳糸され、得られたフィラメントは紡糸口金からフィードローラーに至る間に幅が3.0〜15.0mm程度の繊維集合体に配列される。このような繊維集合体はトウ糸条と呼ばれる。そして、このトウ糸条を複数本集束して帯状に形成した後、得られた帯状の繊維束に捲縮を付与することにより、トウバンドを製造することができる。このようにして製造されたトウバンドは、例えばタバコフィルター用のトウなどに用いられる。
【0003】
一般的に、上記のようなトウバンドの製造においては、トウ糸条やトウバンドに対して油剤付与が行われている。例えば、フィラメントを集束して得られたトウ糸条に油剤付与を行うことにより、トウ糸条の集束性、平滑性、制電性等を向上させ、また紡糸工程での製造安定化を図ることができる。さらに、トウ糸条又はトウバンドへの油剤付与は、例えばトウバンドを開繊してタバコフィルター等へ加工する際に製品品位を向上させ、毛羽立ちなどによるトラブルの発生を防止する点からも極めて重要なことである。
【0004】
油剤付与を行う方法の一例として、例えば特開2002−155422号公報(特許文献1)には、合成繊維トウの製造方法が開示されている。特許文献1に記載されている合成繊維トウの製造方法によれば、合成繊維トウを製造するに際して、紡糸口金により紡糸された紡糸糸条にオイリングローラーを用いて油剤を付与した後、集束ガイドで他の糸条と合糸して延伸及び熱処理が行われる。さらに、熱処理が行われた直後に仕上げ油剤を合成繊維トウに噴霧して付与し、その後、該合成繊維トウに捲縮を付与することが行われている。特許文献1では、このように合成繊維トウに捲縮を付与する前に噴霧により油剤が付与されることにより、延伸トウに均一に且つ効率的に油剤を付与できるとしている。
【特許文献1】特開2002−155422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば上記特許文献1に記載されているような油剤付与の方法を用いてアセテートトウ糸条を集束してトウバンドを製造する場合、アセテートトウ糸条からトウバンドを形成する際に、トウ糸条の集束時に糸条の位置ずれが生じてトウバンドの形成が不均一となってしまい、トウバンドの開繊均一性が悪くなるという問題があった。
【0006】
また一方、このようなアセテートトウ糸条の位置ずれを防いで均一なトウバンドを形成しようと試みると、トウバンドを形成した後、捲縮加工する際に捲縮を十分に付与することが困難になるという問題があった。この場合、トウバンドに十分な捲縮を付与するには捲縮加工の処理条件を強めることが必要となるが、この処理条件の強化により捲縮付与時にトウバンドを構成している繊維が損傷を受けるという弊害が生じる。その結果、例えばトウバンドをその後タバコフィルターなどに加工するときに糸塵が大量に発生してしまい、トウバンドの加工安定性が低下するといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、複数本のアセテートトウ糸条を集束してトウバンドを製造するに際し、複数本のトウ糸条から均一なトウバンドを形成してトウバンドの開繊均一性を向上させるとともに、形成したトウバンドに十分な捲縮を安定して付与でき、優れた開繊均一性及び加工安定性を有するトウバンドを製造することができるトウバンドの製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意実験及び検討を繰り返した。その結果、以下のようなことが明らかとなった。すなわち、アセテート繊維は、一般的に親水性素材であり、その水分率(含水率)により強伸度やヤング率などの物性が大きく変化する。しかしながら、従来のトウバンドの製造では、アセテートトウ糸条やトウバンドに単に油剤又は油剤を水中に分散したエマルジョン油剤を付与するだけであり、アセテートトウ糸条を作製してからトウバンドへ捲縮を付与するまでの間で繊維の水分率を適正に保つことが行われていなかった。そのため、例えばアセテートトウ糸条を集束してトウバンドを形成する際やトウバンドへの捲縮付与を行う際に、それぞれの処理に適した繊維の水分率を確保することができず、アセテートトウ糸条の位置ずれが生じてトウバンドの開繊均一性を低下させたり、また、十分な捲縮付与が困難になるという前述のような問題が生じることがわかった。
【0009】
そこで、本発明者等は、トウバンドの製造を行う際に、アセテートトウ糸条を作製してからトウバンドへ捲縮を付与するまでの間で、繊維の水分率を各処理に応じて適切に制御することができれば、アセテートトウ糸条の位置ずれを防いで均一なトウバンドを形成するとともにトウバンドに十分な捲縮を安定して付与でき、優れた開繊均一性及び加工安定性を有するトウバンドが製造可能であることを見出して、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明のトウバンドの製造方法は、複数本のアセテートフィラメントを集束してアセテートトウ糸条を作製し、同アセテートトウ糸条を複数本集束することによりトウバンドを製造するトウバンドの製造方法において、前記アセテートトウ糸条の作製後に同トウ糸条に水分を付与し、その水分率を5%以上20%以下とすること、水分が付与された前記アセテートトウ糸条を複数本帯状に集束してトウバンドを形成すること、前記トウバンドに水分を付与すること、及び前記水分を付与したトウバンドに捲縮を付与すること、を含んでなることを最も主要な特徴とするものである。なお、本発明において、アセテートとは、酢化度が45%以上59.5%未満であるジアセテートをいう。
【0011】
特に、上記本発明のトウバンドの製造方法は、トウバンドに十分な捲縮を安定して付与するために、水分が付与された前記トウバンドの水分率を20%以上50%以下とすることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明では、アセテートトウ糸条からトウバンドを形成するときに、アセテートトウ糸条の揺動を防止するとともにトウ糸条の切断を防止して均一なトウバンドを形成するために、連続して複数本のアセテートトウ糸条を集束しトウバンドを形成すること、一方向に走行する前記アセテートトウ糸条を所要の摺接面を有するガイドの前記摺接面を摺接走行させること、及び前記ガイドの上流側近傍におけるトウ糸条の張力T1と前記ガイドの下流側近傍におけるトウ糸条の張力T2との張力差(T2−T1)を100gf以上200gf未満に張力調整することを含んでなることが好ましい。
【0013】
次に、本発明のトウバンドの製造装置は、複数本のアセテートフィラメントを集束してアセテートトウ糸条を作製し、同アセテートトウ糸条を複数本集束することによりトウバンドを製造するトウバンドの製造装置であって、少なくとも、前記アセテートトウ糸条の水分率が5%以上20%以下となるように水分を付与する第1水分付与装置と、水分が付与された複数本のアセテートトウ糸条を帯状に集束してトウバンドを形成するトウバンド形成手段と、前記形成手段により形成されたトウバンドに水分を付与する第2水分付与装置と、水分が付与された前記トウバンドに捲縮を付与する捲縮付与装置と、を備えてなることを最も主要な特徴となしている。
【0014】
また、本発明では、トウバンドに水分を安定して付与するために、前記第2水分付与装置は、前記トウバンドに接触する水分付与ガイドを有してなり、同水分付与ガイドはトウバンドの幅方向を規制する一対のフランジ部と、同一対のフランジ部間に開口したスリットとを有し、同スリットを介してトウバンドに液体が付与されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のトウバンドの製造方法は、先ず、アセテートフィラメントを集束してアセテートトウ糸条を作製した後に、トウ糸条に水分を付与してトウ糸条の水分率を5%以上20%以下とし、その水分が付与されたアセテートトウ糸条を複数本帯状に集束してトウバンドを形成する。これにより、トウバンドを形成する際にトウ糸条の走行張力を高くしてトウ糸条の揺動を防ぐとともに、アセテートトウ糸条やトウ糸条中のアセテートフィラメントに切断が生じるのを防止することができるため、均一なトウバンドを形成することができる。さらに、本発明では、形成したトウバンドにその後ある程度の水分を付与してから捲縮を付与することにより、トウバンドに十分な捲縮を安定して与えることができる。
【0016】
すなわち、本発明によれば、トウ糸条への所定の水分付与とトウバンドへの水分付与とを行うことにより、トウ糸条を作製してからトウバンドを形成するまでの処理、及びトウバンドに捲縮を付与する処理のそれぞれの処理に適した水分率を確保できるため、均一な開繊均一性を有するトウバンドを形成することができ、且つ十分な捲縮付与を安定して行うことができる。したがって、本発明のトウバンドの製造方法によって製造されたトウバンドは、十分な捲縮が付与されており、優れた開繊均一性及び加工安定性を有するものとなる。
【0017】
またこのとき、水分が付与されたトウバンドの水分率を20%以上50%以下とすることにより、捲縮加工時にトウバンドに十分な捲縮を均一に且つ安定して付与することができる。
【0018】
さらに、本発明において、連続して複数本のアセテートトウ糸条を集束しトウバンドを形成し、一方向に走行するアセテートトウ糸条を所要の摺接面を有するガイドの摺接面を摺接走行させ、且つ、ガイドの上流側近傍及び下流側近傍におけるトウ糸条の張力T1及びT2との張力差(T2−T1)を100gf以上200gf未満に張力調整することにより、トウバンドを作製する際のトウ糸条の揺動をより一層防ぐことができる。また、このような張力調整により、フィラメント及びトウ糸条が切断するのもより確実に防止することができる。これにより、開繊均一性が一層優れているトウバンドを得ることが可能となる。
【0019】
次に、本発明のトウバンドの製造装置は、少なくとも、アセテートトウ糸条の水分率が5%以上20%以下となるように水分を付与する第1水分付与装置と、水分が付与された複数本のアセテートトウ糸条を帯状に集束してトウバンドを形成するトウバンド形成手段と、形成手段により形成されたトウバンドに水分を付与する第2水分付与装置と、水分が付与されたトウバンドに捲縮を付与する捲縮付与装置とを備えている。本発明のトウバンドの製造装置がこのような構成を有することにより、前記本発明の製造方法に従ってトウバンドを製造することが可能であり、十分な捲縮が付与されていて、優れた開繊均一性及び加工安定性を有するトウバンドを安定して製造できるトウバンド製造装置となる。
【0020】
また、トウバンドに水分を付与する第2水分付与装置が、トウバンドに接触する水分付与ガイドを有してなり、その水分付与ガイドはトウバンドの幅方向を規制する一対のフランジ部と、その一対のフランジ部間に開口したスリットとを有し、スリットを介してトウバンドに液体が付与されてなることにより、トウバンドが適切な水分率となるように水分をトウバンドに安定して付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。ここで、図1は、本実施形態に係るトウバンドの製造装置の一例を模式的に示す説明図である。また、図2は、第1水分付与装置の一例を模式的に示す説明図である。なお、これら図1及び図2は、本発明の実施形態を解り易く説明する為に模式的に示したものであり、本発明はこれらの構成に基づいて何ら限定されるものではない。
【0022】
図1に示した本実施形態に係るトウバンドの製造装置10は、紡糸口金1より紡糸された複数本のアセテートフィラメントを集束してアセテートトウ糸条2を作製し、このアセテートトウ糸条2を複数本集束することによりトウバンドの製造を行うトウバンドの製造装置である。
【0023】
また、上記トウバンドの製造装置10は、アセテートトウ糸条2の水分率が5%以上20%以下となるように水分を付与する第1水分付与装置3と、水分が付与された複数本のアセテートトウ糸条2´を帯状に集束してトウバンド5を形成するトウバンド形成手段9と、トウバンド形成手段9により形成されたトウバンド5に水分を付与する第2水分付与装置6と、水分が付与されたトウバンド5´に捲縮を付与する捲縮付与装置7とを備えている。さらに、本実施形態の製造装置10には、第1水分付与装置3で水分付与された複数のアセテートトウ糸条2´からトウバンド5が円滑に形成できるように、フィードローラ4とガイド8とが設置されている。
【0024】
第1水分付与装置3としては、走行するアセテートトウ糸条2の水分率が5%以上20%以下となるように水分を付与することができれば、特に限定されるものではなく、公知の装置を改良して用いることが可能である。本実施形態に用いる第1水分付与装置の一例としては、例えば従来一般的に用いられている紡糸装置ではアセテートトウ糸条2が水平面に対して垂直に走行していることから、図2に示したようなローラー方式の第1水分付与装置(トウ糸条水分付与装置)3を用いることができる。
【0025】
この図2に示した第1水分付与装置3は、アセテートトウ糸条2に付与する液体13を収容する樋状の液受け11と、この液受け11に満たされた液体13に一部が浸漬するように配置され、アセテートトウ糸条2に接触して回転する円筒状のローラー12とを有するローラー方式の水分付与装置である。
【0026】
このとき、第1水分付与装置3では、アセテートトウ糸条2の水分率が5%以上20%以下となるよう水分を均一に付与するために、円筒状のローラー12はその表面に液体13を均一に保持することができる多孔質ローラーであることが好ましい。このような多孔質ローラーの材質としては、例えば吸水率6〜9%の吸水性能を有するセラミック等を用いることができる。
【0027】
なお、本実施形態において、多孔質ローラーの吸水率とは、例えば以下のようにして測定することができるものである。例えば、多孔質ローラーを110±5℃の通風乾燥機内に1時間静置した後、乾燥剤入りのデシケーター中で徐冷を行う。徐冷後、多孔質ローラーの重さα(g)を秤量する。次に、この多孔質ローラーを水中に1分間浸漬した後に引き上げて、多孔質ローラー表面の液滴を軽く拭き取る。その後直ちに、その多孔質ローラーの重さβ(g)を秤量する。そして、測定した多孔質ローラーの重さα及びβ(g)から、多孔質ローラーの吸収率を下式で算出する。
吸水率=(β−α)/α×100%
【0028】
また、上記第1水分付与装置3では、アセテートトウ糸条2に水分を付与すると同時に油剤も付与できるように、例えば、液受け11に収容する液体13として、鉱物油などの油剤成分を界面活性剤と混合して水中に分散させたエマルジョン油剤を用いることができる。本実施形態では、アセテートトウ糸条2に油剤を付与するために、第1水分付与装置3とは別に油剤の付与装置を設置することもできる。しかしながら、上記のように液体13としてエマルジョン油剤を用いれば、水分及び油剤の付与をアセテートトウ糸条2に同時に行うことができ、作業性、生産性、工程管理等の点で好適である。
【0029】
本実施形態のトウバンドの製造装置10では、上記のような第1水分付与装置3を用いて、例えば円筒状のローラー12の回転数や液受け11に収容する液体(エマルジョン油剤)13の水分比率などを調節することによって、アセテートトウ糸条2の水分率が5%以上20%以下となるように安定して水分を付与することができる。
【0030】
一方、上記トウバンド製造装置10の第2水分付与装置6は、トウバンド5の水分率が適切な値となるように(例えば、トウバンド5の水分率が20%以上50%以下となるように)、水分をトウバンド5に付与するものであり、その構成は特に限定されるものではなく、公知の装置を改良して用いることが可能である。
【0031】
このような第2水分付与装置は、例えば、トウバンド5に接触してその幅方向を規制する水分付与ガイドを有している。この水分付与ガイドは、トウバンドの幅方向を規制する一対のフランジ部と、その一対のフランジ部間に開口したスリットとを有しており、また水分付与ガイドの一端には配管を介して液体供給手段となるギアポンプが接続されている。このギアポンプから供給される液体を水分付与ガイドの内部に供給することにより、フランジ部間に開口したスリットを介してトウバンドに水分を付与することができる。このとき、例えばギアポンプから水分付与ガイドに供給される液体の供給量や、供給される液体中の水分比率などを調節することによって、トウバンド5が所定の水分率となるように水分を安定して付与することができる。
【0032】
また、第2水分付与装置6では、トウバンド5に水分を付与すると同時に油剤も付与できるように、例えば、トウバンド5に油剤成分を水中に分散させたエマルジョン油剤を与えることができる。本実施形態では、トウバンド5に油剤を付与するために、例えば第2水分付与装置6とは別に油剤の付与装置を設置することも可能である。しかしながら、上記のようにエマルジョン油剤を用いることにより、水分及び油剤の付与を同時に行うことができ、作業性、生産性、工程管理等の点で好適である。
【0033】
この第2水分付与装置6は、走行するトウバンド5の表面側又は裏面側の何れか一方に設置すれば良く、それによって、トウバンド5に安定して水分付与を行うことができる。しかしながら、本実施形態は、これに限定されず、例えば第2水分付与装置6をトウバンド5の表面及び裏面にそれぞれ1つ、又は2つ以上設置することも可能である。
【0034】
次に、本実施形態に係るトウバンドの製造方法について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態に係るトウバンドの製造方法では、先ず紡糸口金1から吐出された複数本のアセテートフィラメントを集束して、幅が3mm〜15mm程度のアセテートトウ糸条2を作製する。得られたアセテートトウ糸条2は、第1水分付与装置3により水分率が5%以上20%以下となるように水分が付与される。
【0035】
この第1水分付与装置3では、例えば図2を参照しながら上記で説明したように、円筒状のローラー12の一部がアセテートトウ糸条2に付与する液体(エマルジョン油剤)13に浸漬している。そして、このローラー12が、アセテートトウ糸条2と接触しながらトウ糸条2の走行方向に対して対向する方向に回転することにより、アセテートトウ糸条2に水分を付与することができる。
【0036】
本実施形態では、このように第1水分付与装置3を用いてトウ糸条2に水分を付与する際に、例えば円筒状のローラー12の回転数や液受け11に収容するエマルジョン油剤の水分比率などを調節することによって、アセテートトウ糸条2の水分率が5%以上20%以下となるように水分付与を行う。
【0037】
アセテートトウ糸条2の水分率が5%未満の場合、例えばトウ糸条2がガイド8やトウバンド形成手段9と接触した際に摩擦抵抗が非常に大きくなり、アセテートトウ糸条2やトウ糸条2中のアセテートフィラメントに切断が生じてしまう。一方、アセテートトウ糸条2の水分率が20%を超える場合、トウ糸条2の走行張力が大きく低下する。このようにトウ糸条2の走行張力が低下すると、トウバンド5を形成する際にトウ糸条2が揺動してトウ糸条2の集束が不均一となり、トウバンド5を均一に形成することができない。その結果、製造されるトウバンド5の開繊均一性を低下させてしまう。
【0038】
したがって、上記のように第1水分付与装置3でアセテートトウ糸条2に水分を付与して、アセテートトウ糸条2の水分率を5%以上20%以下とすることにより、アセテートトウ糸条2やアセテートフィラメントに切断が生じるのを防止できる。また同時に、トウ糸条2の走行張力を高くできるため、トウバンド5を形成する際のトウ糸条2の揺動を防止し、均一なトウバンド5を形成することができる。これにより、トウバンド5の開繊均一性を向上させることができる。
【0039】
また、第1水分付与装置3では、アセテートトウ糸条2に水分だけを付与することができるが、例えば前述のように、液受け11にエマルジョン油剤を収容しておくことにより、アセテートトウ糸条2に水分とともに油剤も同時に付与することができる。これにより、トウ糸条の集束性、平滑性、制電性等を向上させ、且つ各工程での製造安定化を図ることができる。さらに、このような油剤付与を行うことは、例えばトウバンドを開繊してタバコフィルター等へ加工する際に製品品位を向上させ、毛羽立ちなどによるトラブルの発生を防止する点でも極めて重要である。
【0040】
次に、第1水分付与装置3で水分が付与されたアセテートトウ糸条2´は、フィードローラー4を介して所要の摺接面を有するガイド8に連続的に搬送され、一方向に走行するアセテートトウ糸条2´をガイド8の摺接面を摺接走行させることによりトウ糸条2´の走行方向をトウバンド5の形成に適した方向に向ける。そして、所定の方向に走行するアセテートトウ糸条2´は、トウバンド形成手段9において他の紡糸口金から作製された複数本のアセテートトウ糸条2と連続して帯状に集束することにより、トウバンド5を形成する。
【0041】
本実施形態では、このとき、ガイド8の上流側近傍におけるトウ糸条の張力T1と下流側近傍におけるトウ糸条の張力T2との張力差(T2−T1)を100gf以上に張力調整することが好ましい。上記ガイド8でアセテートトウ糸条2の走行方向を変える際に、ガイド8における上流側近傍と下流側近傍間のトウ糸条の張力差(T2−T1)を100gf以上にすることにより、アセテートトウ糸条2の揺動を効果的に防ぐことができ、より均一なトウバンド5を形成することができる。
【0042】
一方、トウ糸条2の走行張力が過剰に大きくなると、アセテートトウ糸条2やアセテートフィラメントに切断が発生することがあり、好ましくない。そのため、ガイド8を挟んだ上流側近傍と下流側近傍との間におけるトウ糸条の張力差(T2−T1)は200gf未満にすることが望ましい。
【0043】
続いて、上記のようにしてトウバンド形成手段9によりトウバンド5を形成した後、第2水分付与装置6を用いてトウバンド5に水分の付与を行う。このようにトウバンド5の形成後に水分をさらに付与することにより、捲縮付与装置7で捲縮加工を行う際に、トウバンド5に十分な捲縮を安定して付与することができる。
【0044】
このとき、第2水分付与装置6によるトウバンド5への水分付与は、水分が付与されたトウバンド5´の水分率が20%以上50%以下となるように行うことが好ましい。トウバンド5´に含有される水分は、捲縮加工時に可塑剤として作用する。そのため、トウバンド5´の水分率が20%未満と低いときは、トウバンド5´に捲縮加工を行っても例えばタバコフィルター用のトウバンドとしての十分な捲縮が得られ難い。この場合、トウバンドに十分な捲縮を付与するために捲縮加工の処理条件を強める必要があるが、このように捲縮加工の処理条件を強めてしまうと、トウバンドを構成している繊維が損傷を受け易く、タバコフィルターの加工を行うときに発生する糸塵量が増大してしまう。
【0045】
一方、トウバンド5´の水分率が50%を超えると、捲縮加工を行う際に捲縮付与装置7でトウバンド5から余分な水分が絞られるために排水量が大幅に増大してしまう。また、このように捲縮付与装置7で水分が絞られることにより、トウバンド5の捲縮均一性が損なわれる恐れもある。したがって、上記のように第2水分付与装置6により、トウバンド5の水分率が20%以上50%以下となるように水分付与を行うことにより、捲縮加工時にトウバンドに十分な捲縮を均一に且つ安定して付与することができる。
【0046】
このような第2水分付与装置6による水分付与では、例えば水分付与ガイドのスリットを介して供給される液体の供給量や、供給される液体中の水分比率などを調節することによって、トウバンド5が所定の水分率となるように水分を安定して付与することができる。
【0047】
また、本実施形態では、第2水分付与装置6でトウバンド5に水分付与する際に、油剤の付与も行うことができる。例えば、第2水分付与装置6でトウバンド5にエマルジョン油剤を与えることにより、トウバンド5に水分と油剤を同時に付与することができる。このようにトウバンド5に油剤を付与することにより、捲縮加工時に受けるトウバンドの損傷を低減することができる。
【0048】
なお、本実施形態において、前述したアセテートトウ糸条2の油剤付与及びトウバンド5への油剤付与は、特に限定されるものではなく、必要に応じて油剤付与の要否を適宜決定することができる。また、このように油剤付与を行う場合、トウバンド5への最終的な油剤付与量が1.0%程度となるようにすることが好ましい。例えば、前段のアセテートトウ糸条2への油剤付与を、油剤付与量が0〜0.8%、好ましくは0.2〜0.7%となるように行い、また後段のトウバンド5への油剤付与を、油剤付与量が0.2〜1.0%、好ましくは0.3〜0.8%となるように行うことができる。
【0049】
また上記では、アセテートトウ糸条2の油剤付与及びトウバンド5への油剤付与は、エマルジョン油剤を用いて水分付与と同時に行っているが、これに限定されるものではない。例えば第1水分付与装置3及び第2水分付与装置6とは別に油剤付与装置を設置して、水分付与とは別途に油剤付与を行うことも可能である。
【0050】
そして、上記のようにしてトウバンド5に水分付与を行った後、その水分を付与したトウバンド5´に捲縮付与装置7を用いて捲縮加工を行うことによって、トウバンド5´に十分な捲縮を安定して付与することができる。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、第1水分付与装置3及び第2水分付与装置6を用いてトウバンドの製造を行うことにより、アセテート繊維の水分率を、アセテートトウ糸条を作製してからトウバンドを形成するまでの処理と、トウバンドに捲縮を付与する処理のそれぞれの処理に適するように制御することができる。
【0052】
これにより、アセテートトウ糸条を集束してトウバンドを形成する際には、フィラメント及びトウ糸条が切断するのを防止するとともにトウ糸条の揺動を防いで均一なトウバンドを作製することができ、トウバンドの開繊均一性を向上させることができる。また、得られたトウバンドに捲縮を付与する際には、トウバンドに十分な捲縮を均一に且つ安定して付与することができるため、例えばその後トウバンドをタバコフィルターなどに加工するときに、糸塵の発生量を低減して安定した加工を行うことができる。すなわち、本実施形態のトウバンドの製造方法によって、十分な捲縮が付与されており、且つ優れた開繊均一性及び加工安定性を有するトウバンドを安定して製造することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明のより具体的な実施形態として、実施例及び比較例を挙げて詳細に説明する。なお、この実施例において、各特性値の測定は以下の方法に従って実施した。
【0054】
(トウ糸条の水分率)
トウ糸条の水分率は、カールフィッシャー法による測定を行って求めた。
先ず、第1水分付与装置3を通過した後のトウ糸条2´をフィードローラー4に巻きつかせ、冶具を用いてフィードローラー4から綛状のサンプル用トウ糸条を採取する。ここでトウ糸条2´がフィードローラー4上に巻き取られている間、トウ糸条2の第1水分付与装置3に対する接触状態が変化しないようにガイドなどを用いて糸道を規制した。またフィードローラー4から採取したサンプル用トウ糸条は、水分が蒸発しないように素早く樹脂製の袋に入れた。
【0055】
次に、上記で採取したサンプル用トウ糸条から約5gのトウ糸条試料を分取し、秤量した(Ag)。その後、トウ糸条試料を塩化メチレンとメタノールとの混合溶剤(容積比は、塩化メチレン:メタノール=17:3)20mlに浸漬し、20〜30分間放置した後にスターラーで溶解した。得られた溶液にビューレットからカールフィッシャー試薬を滴下し、電位差滴定装置の電位差がゼロとなって10秒間経過したときを終点とし、カールフィッシャー試薬の消費量を読み取り記録した(Bml)。また白試験(ブランクテスト)として、塩化メチレンとメタノールとの混合溶剤20mlを上記と同様に電位差滴定し、カールフィッシャー試薬の消費量を読み取り記録した(Cml)。
【0056】
一方、トウ糸条試料の固形分重量を求めるため、上記と同様にしてトウ糸条試料を約5g採取、秤量した(Dg)。次に、このトウ糸条試料をソックスレー抽出管に入れ、ジエチルエーテルを入れた丸底抽出フラスコを取り付けた後、エーテルが沸騰を弱く保つ程度に抽出浴で加熱して1時間抽出を行った。抽出が終了した後、トウ糸条試料を固く絞ってから秤量瓶に入れ、温度85℃以上、真空度70〜76mmHgの真空蒸気乾燥器で1時間乾燥させた。その後、得られたトウ糸条試料を、予め105±3℃に加熱した通風乾燥機でさらに1時間乾燥させた。乾燥後、トウ糸条試料を徐冷してから秤量し、試料の固形分重量を求めた(Eg)。
【0057】
上記のようにして求めたA〜Eの各数値を用いて、次式により固形分重量に対する水分重量としてトウ糸条の水分率を算出した。なお次式のFは、カールフィッシャー試薬の力価であり、水1gの滴定に対して必要なカールフィッシャー試薬の容量を表す係数である。本実施例では、事前に水分既知の塩化メチレンとメタノールとの混合溶剤(容積比は、塩化メチレン:メタノール=17:3)を電位差滴定しておくことにより、Fの値を予め求めておいた。
トウ糸条の水分率(%)=F×(B−C)×D/E/A×100
【0058】
(トウバンドの水分率)
トウバンドが捲縮付与装置(クリンパー)にて捲縮付与されている状態から、走行しているトウバンドが切断しない程度にニップロール圧力とフラッパー圧力とを低下させ、さらに捲縮付与装置に噴霧している冷却水を瞬間的に停止した。この状態で、捲縮付与装置から搬出されてくる捲縮が付与されたトウバンドを採取した。採取したトウバンドは、乾燥を防止するためにすぐに樹脂製の袋に入れた。採取したトウバンドの水分率は、トウ糸条の場合と同様に、カールフィッシャー法による測定を行って求めた。
【0059】
(トウバンドの開繊均一性)
トウバンドの開繊均一性を評価するために、捲縮が付与されたトウバンドを搬送用ローラーで引き上げて、一定の綾振周期で平板状のダンボール上に2〜3層程度で積載した。この2〜3層に積載したトウバンドを開繊評価用サンプルとして使用した。
【0060】
この開繊評価用サンプルを評価試験機にて模擬的に開繊処理した後、その開繊したトウバンドの均一状態を目視で観察し、粗密斑を生じている部分の幅及び認識される粗密差の程度によって以下のような4段階でトウバンドの開繊均一性についての評点を付けた。このとき、評点1又は2の評価を受けたトウバンドは、開繊均一性に優れた良質のトウバンドであった。
評点1:全体的に均一な開繊状態である。著しい粗密差はなく、開繊幅に対して粗密斑を生じている部分の幅が5%未満である。
評点2:開繊後のトウバンドに著しい粗密差はなく、かつ開繊幅に対して粗密斑を生じている部分の幅が5%以上10%未満である。
評点3:開繊後のトウバンドに軽微な粗密差がある、もしくは著しい粗密差はないが、開繊幅に対して粗密斑を生じている部分の幅が10%以上15%未満である。
評点4:開繊後のトウバンドが、評点3に至らない不均一な開繊状態である。
【0061】
(トウバンドの捲縮率)
JIS L 1015(1999)、8.12.2に記載の方法に従って、トウバンドの捲縮率を測定した。この捲縮率の測定において、40%以上の捲縮率を示したトウバンドを合格として評価した。
【0062】
(糸塵量)
捲縮が付与されたトウバンドを一定時間囲い箱に積載した後、圧縮、梱包を行ってサンプルベールを作製した。作製したサンプルベールは、梱包後2週間以上静置した後に開梱し、プラグ巻上試験を行った。このプラグ巻上試験では、ハウニ社製プラグマシン「KDF−3」にて巻上速度600m/分で1時間巻上を行い、フード付きの開繊ブース(容積:約115,000cm3)に蓄積した糸塵重量を測定した。
【0063】
(実施例1)
図1に示したトウバンドの製造装置10を用いて、先ず紡糸口金1における1ノズル当たりの単繊維が350フィラメント、単繊維繊度が3.0dtexの条件でアセテートトウ糸条2を作製した。
【0064】
次に、フィードローラー4の直前に設置した第1水分付与装置3を用いて、トウ糸条2にエマルジョン油剤を付与した。この第1水分付与装置3は、円筒状のローラー12として直径50mm、吸水率6〜9%の多孔質セラミック製ローラーを具備し、また液受け11には水が95重量%、油剤成分が3.8重量%、界面活性剤が1.2重量%の組成からなるエマルジョン油剤が満たされている。そして、第1水分付与装置3の円筒状のローラー12をアセテートトウ糸条2に接触させ、トウ糸条2の走行方向に対して対向する方向に100rpmとなる回転条件で回転させることによって、トウ糸条2に水分と油剤とを付与した。このとき、第1水分付与装置3で水分が付与されたアセテートトウ糸条2´の水分率は15%であった。
【0065】
第1水分付与装置3で水分が付与されたアセテートトウ糸条2´は、フィードローラー4及びガイド8を介してトウバンド形成手段9に連続的に搬送され、トウバンド形成手段9にて33本のアセテートトウ糸条2を集束してトウバンド5を形成した。このとき、ガイド8の上流側近傍におけるトウ糸条の張力T1と下流側近傍におけるトウ糸条の張力T2との張力差(T2−T1)を測定したところ、張力差(T2−T1)の平均値は125gfであった。
【0066】
続いて、トウバンド形成手段9で形成したトウバンド5に、捲縮付与装置7の直前に設置された第2水分付与装置6でエマルジョン油剤の付与を行った。このとき、第2水分付与装置6は、トウバンド5に接触するセラミック製の水分付与ガイドを有している。この水分付与ガイドには、トウバンドの走行方向を縦幅(T)、トウバンドの幅方向を横幅(W)とする長方形に開口したスリットが形成されている。実施例1において、水分付与ガイドに形成されているスリットの縦幅Tは0.35mm、横幅Wは19mmであり、またスリットの横幅(W)とフランジ部間の幅(L)との比W/Lは0.95であった。また、第2水分付与装置6でエマルジョン油剤が付与されたトウバンド5´の水分率を測定したところ、その水分率は35%であった。
【0067】
その後、エマルジョン油剤が付与されたトウバンド5´に、捲縮付与装置7で捲縮を付与した。そして、この実施例1で製造したトウバンドについて、開繊均一性の評価と、捲縮率及び糸塵量の測定を行った。その結果、実施例1のトウバンドにおける開繊均一性は評点1であり、またトウバンドの捲縮率は41.5%、1時間あたりの糸塵量は0.15gであった。
【0068】
(実施例2)
実施例2では、上記実施例1と同じ製造装置を用いて、第2水分付与装置6でトウバンドに付与する水分量を実施例1よりも少なくしてエマルジョン油剤の付与を行い、それ以外については上記実施例1と同じ処理条件となるようにしてトウバンドの製造を行った。この実施例2において、トウ糸条2´の水分率は15%であり、また張力差(T2−T1)の平均値は125gfであった。一方、第2水分付与装置6でエマルジョン油剤が付与されたトウバンド5´の水分率を測定したところ、その水分率は19%であった。
【0069】
そして、実施例2で得られたトウバンドについて、開繊均一性の評価と、捲縮率及び糸塵量の測定を行った。その結果、実施例2のトウバンドにおける開繊均一性は評点1であり、またトウバンドの捲縮率は41.2%、1時間あたりの糸塵量は0.40gであった。
【0070】
(実施例3)
実施例3では、上記実施例1で用いた製造装置において、第1水分付与装置として図2のようなローラー方式の水分付与装置の代わりにセラミック製の水分付与ガイドを用いた。この第1水分付与装置として使用したセラミック製の水分付与ガイドは、トウ糸条の幅方向を規制する一対のフランジ部と、その一対のフランジ部間に長方形に開口したスリットとを有している。また、この水分付与ガイドに形成されているスリットの縦幅Tは0.35mm、横幅Wは4mmであり、またスリットの横幅(W)とフランジ部間の幅(L)との比W/Lは0.80であった。
【0071】
このように第1水分付与装置としてセラミック製の水分付与ガイドを用いたこと以外は上記実施例1と同じ処理条件となるようにしてトウバンドの製造を行った。この実施例3において、トウ糸条2´の水分率は15%、張力差(T2−T1)の平均値は125gf、またトウバンド5´の水分率は35%であった。
【0072】
そして、実施例3で得られたトウバンドについて、開繊均一性の評価と、捲縮率及び糸塵量の測定を行った。その結果、実施例3のトウバンドにおける開繊均一性は評点2であり、またトウバンドの捲縮率は41.0%、1時間あたりの糸塵量は0.20gであった。
【0073】
(実施例4)
実施例4では、上記実施例1で用いた製造装置において、第2水分付与装置として水分付与ガイドの代わりに、噴霧式のエマルジョン油剤付与装置を用いた。それ以外については上記実施例1と同じ処理条件となるようにしてトウバンドの製造を行った。この実施例4において、トウ糸条2´の水分率は15%、張力差(T2−T1)の平均値は125gf、またトウバンド5´の水分率は35%であった。
【0074】
そして、実施例4で得られたトウバンドについて、開繊均一性の評価と、捲縮率及び糸塵量の測定を行った。その結果、実施例4のトウバンドにおける開繊均一性は評点2であり、またトウバンドの捲縮率は41.6%、1時間あたりの糸塵量は0.25gであった。
【0075】
(比較例1)
比較例1では、上記実施例1と同じ製造装置を用いたが、第1水分付与装置3において円筒状のローラー12の回転条件を150rpmに設定して、トウ糸条2にエマルジョン油剤を付与した。このとき、第1水分付与装置3で水分が付与されたアセテートトウ糸条2´の水分率は21%であった。また、比較例1において、ガイド8の上流側近傍におけるトウ糸条の張力T1と下流側近傍におけるトウ糸条の張力T2との張力差(T2−T1)を測定したところ、張力差(T2−T1)の平均値は98gfであった。
【0076】
続いて、トウバンド形成手段9にて33本のアセテートトウ糸条2を集束してトウバンド5を形成した後、第2水分付与装置6でトウバンド5にエマルジョン油剤の付与を行った。このとき、エマルジョン油剤が付与されたトウバンド5´の水分率を測定したところ、その水分率は38%であった。
【0077】
その後、エマルジョン油剤が付与されたトウバンド5´に捲縮付与装置7で捲縮を付与し、得られたトウバンドについて、開繊均一性の評価と、捲縮率及び糸塵量の測定を行った。その結果、比較例1のトウバンドにおける開繊均一性は評点3であり、またトウバンドの捲縮率は41.0%、1時間あたりの糸塵量は0.36gであった。
【0078】
(比較例2)
比較例2では、上記比較例1で用いた製造装置において、第2水分付与装置として水分付与ガイドの代わりに、噴霧式のエマルジョン油剤付与装置を用いた。それ以外については上記比較例1と同じ処理条件となるようにしてトウバンドの製造を行った。この比較例2において、トウ糸条2´の水分率は21%、張力差(T2−T1)の平均値は98gf、またトウバンド5´の水分率は38%であった。
【0079】
そして、比較例2で得られたトウバンドについて、開繊均一性の評価と、捲縮率及び糸塵量の測定を行った。その結果、比較例2のトウバンドにおける開繊均一性は評点4であり、またトウバンドの捲縮率は41.1%、1時間あたりの糸塵量は0.35gであった。
【0080】
(比較例3)
比較例3では、上記実施例1で用いた製造装置から第2水分付与装置6を省いて、トウバンド形成手段9でトウバンド5を形成した後、エマルジョン油剤の付与を行わずにトウバンド5に捲縮付与装置7で設定条件を種々変更させて捲縮を付与した。この比較例3において、トウ糸条2´の水分率は15%、張力差(T2−T1)の平均値は125gfであった。また、捲縮付与装置7の直前でトウバンド5の水分率を測定したところ、その水分率は14%であった。上記以外の条件については実施例1と同じ処理条件となるようにしてトウバンドの製造を行った。
【0081】
そして、この比較例3で得られたトウバンドについて、開繊均一性の評価と、捲縮率及び糸塵量の測定を行った。その結果、比較例3のトウバンドにおける開繊均一性は評点2であった。また、トウバンドの捲縮率は、捲縮付与装置7で設定条件を種々変更させても37.2%以下であった。また、捲縮率が37.2%であったトウバンドにおける1時間あたりの糸塵量は0.45gであった。
【0082】
以下の表1に上記実施例1〜4及び比較例1〜3の各製造条件と製造したトウバンドの評価結果をまとめて表す。
【0083】
【表1】

【0084】
上記表1に示したように、実施例1〜4のトウバンドは、優れた捲縮率と開繊均一性を有していることがわかる。一方、比較例1及び2のトウバンドは、トウ糸条の水分率が本発明の範囲よりも高かったため、トウバンドの形成が不均一となり、トウバンドの開繊均一性が低下した。また、比較例3のトウバンドは、捲縮付与前にトウバンドへの水分付与を行わなかったため、捲縮付与装置で十分な捲縮を与えることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、タバコフィルター等の加工に用いられるトウバンドの製造に有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明のトウバンドの製造装置の一例を模式的に示す説明図である。
【図2】図2は、第1水分付与装置の一例を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0087】
1 紡糸口金
2、2´ アセテートトウ糸条
3 第1水分付与装置
4 フィードローラ
5、5´ トウバンド
6 第2水分付与装置
7 捲縮付与装置
8 ガイド
9 トウバンド形成手段
10 トウバンドの製造装置
11 液受け
12 円筒状のローラー
13 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のアセテートフィラメントを集束してアセテートトウ糸条を作製し、同アセテートトウ糸条を複数本集束することによりトウバンドを製造するトウバンドの製造方法において、
前記アセテートトウ糸条の作製後に同トウ糸条に水分を付与し、その水分率を5%以上20%以下とすること、
水分が付与された前記アセテートトウ糸条を複数本帯状に集束してトウバンドを形成すること、
前記トウバンドに水分を付与すること、及び
前記水分を付与したトウバンドに捲縮を付与すること、
を含んでなることを特徴とするトウバンドの製造方法。
【請求項2】
水分が付与された前記トウバンドの水分率を20%以上50%以下とすることを含んでなる請求項1記載のトウバンドの製造方法。
【請求項3】
連続して複数本のアセテートトウ糸条を集束しトウバンドを形成すること、一方向に走行する前記アセテートトウ糸条を所要の摺接面を有するガイドの前記摺接面を摺接走行させること、及び前記ガイドの上流側近傍におけるトウ糸条の張力T1と前記ガイドの下流側近傍におけるトウ糸条の張力T2との張力差(T2−T1)を100gf以上200gf未満に張力調整することを含んでなる請求項1又は2記載のトウバンドの製造方法。
【請求項4】
複数本のアセテートフィラメントを集束してアセテートトウ糸条を作製し、同アセテートトウ糸条を複数本集束することによりトウバンドを製造するトウバンドの製造装置であって、
少なくとも、前記アセテートトウ糸条の水分率が5%以上20%以下となるように水分を付与する第1水分付与装置と、
水分が付与された複数本のアセテートトウ糸条を帯状に集束してトウバンドを形成するトウバンド形成手段と、
前記形成手段により形成されたトウバンドに水分を付与する第2水分付与装置と、
水分が付与された前記トウバンドに捲縮を付与する捲縮付与装置と、
を備えてなることを特徴とするトウバンドの製造装置。
【請求項5】
前記第2水分付与装置は、前記トウバンドに接触する水分付与ガイドを有してなり、同水分付与ガイドはトウバンドの幅方向を規制する一対のフランジ部と、同一対のフランジ部間に開口したスリットとを有し、同スリットを介してトウバンドに液体が付与されてなる請求項4記載のトウバンドの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−144176(P2006−144176A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337004(P2004−337004)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】