説明

トナー用バインダー樹脂、トナー、及び現像剤

【課題】カーボンニュートラルな材料であるセルロースを用いて、そのセルロースの新規な用途(すなわち、良好なトナー用のバインダー樹脂)を提供すること。また、軟化温度が低いセルロース誘導体を含むことにより、低い混練温度で混練可能なトナー及び画像の定着温度を低下し得る現像剤、および該トナー及び現像剤を与え得るトナー用バインダー樹脂を提供すること。
【解決手段】セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ
を有するセルロース誘導体を含む、トナー用バインダー樹脂。
A)下記一般式(1)で表される構造を含む基
B)アシル基:−CO−RB(RBは炭化水素基を表す。)


(一般式(1)中、nは2又は3を示し、RAは炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真、静電記録、静電印刷等における静電荷像を現像するための現像剤に好適に用いられるトナー用バインダー樹脂、トナー、及び該トナーを用いた静電荷現像に有用な現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トナーに含有されるバインダー樹脂には石油を原料として得られる各種合成樹脂が使用されている。例えば、ポリエステル、スチレンーメタクリル酸ブチル共重合体などが用いられている。ところで、石油、石炭、天然ガス等の化石資源は、長年月の間、地中に固定されてきた炭素を主成分とするものである。このような化石資源、又は化石資源を原料とする製品を燃焼させて、二酸化炭素が大気中に放出された場合には、本来、大気中に存在せずに地中深くに固定されていた炭素を二酸化炭素として急激に放出することになり、大気中の二酸化炭素が大きく増加し、これが地球温暖化の原因となっている。したがって、化石資源である石油を原料とする前述の樹脂は、バインダー樹脂としては、優れた特性を有するものであるものの、化石資源である石油を原料とするものであるため、地球温暖化の防止の観点からは、その使用量の低減が望ましい。
【0003】
一方、植物由来の樹脂は、元々、植物が大気中の二酸化炭素と水とを原料として光合成反応によって生成したものである。そのため、植物由来の樹脂を焼却して二酸化炭素が発生しても、その二酸化炭素は元々、大気中にあった二酸化炭素に相当するものであるから、大気中の二酸化炭素の収支はプラスマイナスゼロとなり、結局、大気中のCOの総量を増加させない、という考え方がある。このような考えから、植物由来の樹脂は、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と称されている。石油由来の樹脂に代わって、カーボンニュートラルな材料を用いることは近年の地球温暖化を防止する上で急務となっている。
【0004】
ところで、カーボンニュートラルの観点から、植物由来の樹脂として、脂肪族系ポリエステル系樹脂、特にポリ乳酸系樹脂などが盛んに検討されている。この樹脂の用途の一例として、トナー用バインダー樹脂、ホットメルト接着剤などが開示されている(例えば、特許文献1、2)。しかし、ポリ乳酸の軟化点は170℃であり、これをそのままトナー用バインダー樹脂に用いるには軟化点が高すぎ、使用しにくいという問題がある。
一方、セルロース誘導体について、エーテル結合とエステル結合を含むようなセルロース誘導体が開示されている(特許文献3〜6)が、これらの文献には、トナー用バインダーとしての用途は一切開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3785011号公報
【特許文献2】特開平5−339557号公報
【特許文献3】特開2007−99876号公報
【特許文献4】特許第3973904号公報
【特許文献5】特開平5−255401号公報
【特許文献6】特開2002−275379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、カーボンニュートラルなトナーとして、セルロースを使用することに初めて着目した。しかし、セルロースの剛直な構造に由来する高い軟化点、及び高い酸素原子含率に由来する親水性のため、トナー用のバインダー樹脂のようなバインダー材料としては不適と考えられ、市販の熱可塑性セルロース誘導体を用いたトナー用バインダー樹脂への応用例は皆無である。
本発明の目的は、カーボンニュートラルな材料であるセルロースを用いて、そのセルロースの新規な用途(すなわち、良好なトナー用のバインダー樹脂)を提供することである。また、軟化温度が低いセルロース誘導体を含むことにより、低い混練温度で混練可能なトナー及び画像の定着温度を低下し得る現像剤、及び該トナー及び現像剤を与え得るトナー用バインダー樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、セルロースの分子構造に着目して検討した結果、セルロースの中でも特定構造のセルロースは有効な溶融特性を発揮でき、更に、その溶融特性を発揮するセルロースは軟化温度が低いトナー用バインダー樹脂の提供が可能であることを見出した。本発明のトナー用バインダー樹脂を用いることにより、低い混練温度で混練が可能となり製造適性に優れたトナーを見出した。また、本発明のトナーを用いた現像剤は低温で画像の定着が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題は以下の手段により達成することができる。
〔1〕
セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ
を有するセルロース誘導体を含む、トナー用バインダー樹脂。
A)下記一般式(1)で表される構造を含む基
B)アシル基:−CO−RB(RBは炭化水素基を表す。)
【0008】
【化1】

【0009】
(一般式(1)中、nは2又は3を示し、RAは炭化水素基を表す。)
〔2〕
前記一般式(1)のnが2である、〔1〕に記載のトナー用バインダー樹脂。
〔3〕
前記RA及びRBが、それぞれ独立に炭素数1〜3の炭化水素基である、〔1〕又は〔2〕に記載のトナー用バインダー樹脂。
〔4〕
前記RA及びRBが、それぞれ独立にメチル基又はエチル基である、〔1〕〜〔3〕のいずれか一つに記載のトナー用バインダー樹脂。
〔5〕
前記RA及びRBが、ともにメチル基である、〔1〕〜〔4〕のいずれか一つに記載のトナー用バインダー樹脂。
〔6〕
前記セルロース誘導体の数平均分子量が1,000〜100,000である、〔1〕〜〔5〕のいずれか一つに記載のトナー用バインダー樹脂。
〔7〕
前記セルロース誘導体の数平均分子量が3,000〜50,000である、〔1〕〜〔6〕のいずれか一つに記載のトナー用バインダー樹脂。
〔8〕
前記セルロース誘導体の数平均分子量が3,000〜30,000である、〔1〕〜〔7〕のいずれか一つに記載のトナー用バインダー樹脂。
〔9〕
前記セルロース誘導体が、ヒドロキシアルキルセルロースをアシル化することにより得られたセルロース誘導体である、〔1〕〜〔8〕のいずれか一つに記載のトナー用バインダー樹脂。
〔10〕
〔1〕〜〔9〕のいずれか一つに記載のトナー用バインダー樹脂を含むトナー。
〔11〕
更に、着色剤、離型剤、及び帯電制御剤を含有する、〔10〕に記載のトナー。
〔12〕
〔10〕又は〔11〕に記載のトナーと、キャリアとを含む現像剤。
【発明の効果】
【0010】
軟化温度が低いトナー用バインダー樹脂の提供が可能であり、該トナー用バインダー樹脂を用いることにより、低い混練温度で混練が可能な製造適性に優れたトナーを提供することができる。
更に、画像の定着性に優れた現像剤を提供することができる。
また、植物由来の樹脂であるため、温暖化防止に貢献できる素材として、従来の石油由来の樹脂に代替できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
〔トナー用バインダー樹脂〕
本発明のトナー用バインダー樹脂は、
セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ
を有するセルロース誘導体を含む。
A)下記一般式(1)で表される構造を含む基
B)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
【0012】
【化2】

【0013】
(一般式(1)中、nは2又は3を示し、RAは炭化水素基を表す。)
【0014】
すなわち、本発明におけるセルロース誘導体は、セルロース{(C10}に含まれる水酸基の水素原子の少なくとも一部が、前記A)一般式(1)で表される構造を含む基、及び前記B)アシル基(−CO−R)により置換されている。
より詳細には、本発明におけるセルロース誘導体は、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有する。
【0015】
一般式(2)
【化3】

【0016】
上記式において、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、A)一般式(1)で表される構造を含む基、又はB)アシル基(−CO−RB)を表す。nは2又は3を示し、RA及びRBは、炭化水素基を表す。但し、R、R、及びRの少なくとも一部が一般式(1)で表される構造を含む基を表し、R、R、及びRの少なくとも一部がアシル基(−CO−RB)を表す。
【0017】
本発明のセルロース誘導体は、上記のようにβ−グルコース環の水酸基の少なくとも一部がA)一般式(1)で表される構造を含む基、及びB)アシル基(−CO−RB)によってエーテル化及びエステル化されていることにより、従来のセルロース誘導体と比べ、大幅に低い軟化温度を示し、優れた溶融特性を発現することができる。
【0018】
そのため、このセルロース誘導体は、ホットメルト型接着剤、コーディング剤、塗料、熱転写用積層体のようなバインダー材料としても利用することができ、特にトナー用バインダー樹脂として有用である。更には、セルロースは完全な植物由来成分であるため、カーボンニュートラルであり、環境に対する負荷を大幅に低減することができる。
【0019】
なお、本発明にいう「セルロース」とは、多数のグルコースがβ−1,4−グリコシド結合によって結合した高分子化合物であって、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基が無置換であるものを意味する。また、「セルロースに含まれる水酸基」とは、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基を指す。
【0020】
前記セルロース誘導体は、その全体のいずれかの部分に前記A)一般式(1)で表される構造を含む基、及びB)アシル基(−CO−R)を含んでいればよく、同一の繰り返し単位からなるものであってもよいし、複数の種類の繰り返し単位からなるものであってもよい。また、前記セルロース誘導体は、ひとつの繰り返し単位において前記A)〜B)の置換基をすべて含有する必要はない。
より具体的な態様としては、例えばセルロース誘導体が有する脂肪族オキシ基が2種である場合、以下の態様が挙げられる。
(1)R、R及びRの一部が、A)一般式(1)で表される構造を含む基で置換されている繰り返し単位と、R、R及びRの一部が、B)アシル基(−CO−RB)で置換されている繰り返し単位、から構成されるセルロース誘導体。
(2)ひとつの繰り返し単位のR、R及びRのいずれかがA)一般式(1)で表される構造を含む基及びB)アシル基(−CO−RB)で置換されている(すなわち、ひとつの繰り返し単位中に前記A)〜B)の置換基をすべて有する)同種の繰り返し単位から構成されるセルロース誘導体。
(3)置換位置や置換基の種類が異なる繰り返し単位が、ランダムに結合しているセルロース誘導体。
また、セルロース誘導体の一部には、無置換の繰り返し単位(すなわち、前記一般式(1)において、R、R及びRすべてが水素原子である繰り返し単位)を含んでいてもよい。
【0021】
前記A)一般式(1)で表される構造を含む基において、RAは炭化水素基を表す。RAは、脂肪族基及び芳香族基のいずれでもよい。脂肪族基である場合は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。脂肪族基及び芳香族基としては、前記のものが挙げられる。
Aとしては、例えばアルキル基又はアリール基である。アルキル基又はアリール基としては、具体的には炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基又はエチル基であり、最も好ましくはメチル基である。
nは2であることが好ましい。
【0022】
前記A)一般式(1)で表される構造を含む基は、アルキレンオキシ基を複数含んでいてもよいし、1つだけ含むものであってもよい。より具体的には前記A)の基は、下記一般式(1’)で表すことができる。
一般式(1’)
【0023】
【化4】

【0024】
(一般式(1’)中、R及びnは一般式(1)におけるR及びnと同義であり、好ましい範囲も同様である。n’は1以上である。)
【0025】
n’の上限は特に限定されず、アルキレンオキシ基の導入量等により変わるが、例えば10程度である。
本発明のセルロース誘導体において、A)一般式(1)で表される構造を含む基としては、アルキレンオキシ基を1つだけ含む基(上記式一般式(1’)においてn’が1である基)と、アルキレンオキシ基を2以上含む基(上記一般式(1’)においてn’が2以上である基)とが混合して含まれていてもよい。
【0026】
B)アシル基(−CO−RB)において、RBは炭化水素基を表す。RBが表す炭化水素基としては、前記RAで挙げたものと同様のものを適用することができる。RBの好ましい範囲も前記RAと同様である。
A及びRBが、それぞれ独立に炭素数1〜3の炭化水素基であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、RA及びRBが、ともにメチル基であることが更に好ましい。
【0027】
セルロース誘導体中のA)一般式(1)で表される構造を含む基を含む基及びB)アシル基(−CO−R)の置換位置、並びにβ−グルコース環単位当たりの各置換基の数(置換度)は特に限定されない。
【0028】
例えば、A)一般式(1)で表される構造を含む基を含む基の置換度DSa(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対するA)アシル基とアルキレンオキシ基を含む基の数)は、0<DSaであることが好ましい。0<DSaであることにより、溶融開始温度を低くできるので、熱成形をより容易に行うことができる。
B)アシル基(−CO−R)の置換度DSb(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対するB)アシル基の数)は、0.1<DSbであることが好ましく、0.1<DSb<2.0であることがより好ましい。
【0029】
また、セルロース誘導体中に存在する無置換の水酸基の数も特に限定されない。水素原子の置換度DSh(重合単位中、2位、3位及び6位の水酸基が無置換である割合)は0〜1.5の範囲とすることができ、好ましくは0〜0.6とすることができる。DShを0.6以下とすることにより、バインダー樹脂の流動性を向上させることができる。
【0030】
また、本発明におけるセルロース誘導体は、前記A)一般式(1)で表される構造を含む基を含む基、及びB)アシル基(−CO−RB)以外の置換基を有しても良い。有してもよい置換基の例としては、例えばヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエトキシエチル基、ヒドロキシエトキシエトキシエチル基、が挙げられる。よって、セルロース誘導体が有するすべての置換基の各置換度の総和は3であるが、(DSa+DSb+DSh)は3以下である。また、軟化温度の低下の観点から、DSa+DSbは2〜3であることが好ましく、2.5〜3であることがより好ましい。
【0031】
また、前記A)の基におけるアルキレンオキシ基の導入量はモル置換度(MS:グルコース残基あたりの置換基の導入モル数)で表される(セルロース学会編集、セルロース辞典P142)。アルキレンオキシ基のモル置換度MSは、0<MSであることが好ましく、1.5≦MSであることがより好ましい。MSが1.5以上(1.5≦MS)であることにより、軟化温度を低下させることができ、バインダー材料に好適なセルロース誘導体が得られる。MSの上限値としては6であることが好ましい。軟化温度の低下の観点で、MSが1〜6であることが好ましく、1.5〜3であることがより好ましい。
【0032】
セルロース誘導体の分子量は、数平均分子量(Mn)が1,000〜100,000の範囲が好ましく、3,000〜50,000の範囲が更に好ましく、3,000〜30,000の範囲が最も好ましい。また、質量平均分子量(Mw)は、1,000〜1000,000の範囲が好ましく、5,000〜300,000の範囲が更に好ましく、5,000〜150,000の範囲が最も好ましい。この範囲の平均分子量とすることにより、バインダー樹脂の軟化温度を低下させることができる。
分子量分布(MWD)は1.1〜10の範囲が好ましく、1.5〜6の範囲が更に好ましく、1.5〜5の範囲が最も好ましい。この範囲の分子量分布とすることにより、バインダー樹脂の軟化温度を低下させることができる。
本発明における、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)及び分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができる。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めることができる。
【0033】
セルロース誘導体の重合度は、3〜200の範囲が好ましい。この範囲の重合度とすることにより、トナー用バインダー樹脂の軟化温度を低下させることができる。
【0034】
また、本発明におけるセルロース誘導体の軟化温度は60〜150℃の範囲が好ましく、80〜130℃の範囲が更に好ましい。
この範囲であれば、定着性、保存性及び耐久性の観点からトナー用バインダー樹脂として用いることができる。
なお、軟化温度とはフローテスター(島津製作所製)を用いて、得られたみかけ粘度10(Pa・S)のときの温度であることを意味する。
【0035】
本発明のトナー用バインダー樹脂(以下、単に「バインダー樹脂」と称する場合がある)は前記セルロース誘導体以外のポリマーを含んでいてもよく、前記セルロース誘導体以外のポリマーとしては、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーのいずれも用い得るが、接着性の点から熱可塑性ポリマーが好ましい。セルロース誘導体以外のポリマーの具体例としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー(エチレン−プロピレンブロックコポリマーなど)、ポリブテン−1及びポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート及びその他の芳香族ポリエステル等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン12等のポリアミド、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ポリアセタール(ホモポリマー及び共重合体を含む)、ポリウレタン、芳香族及び脂肪族ポリケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性澱粉樹脂、ポリメタクリル酸メチルやメタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS樹脂、AES樹脂(エチレン系ゴム強化AS樹脂)、ACS樹脂(塩素化ポリエチレン強化AS樹脂)、ASA樹脂(アクリル系ゴム強化AS樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、無水マレイン酸−スチレン共重合体、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素系ポリマー、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリイミドなどを挙げることができる。
また、各種アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体及びそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、ジエン系ゴム(例えば、1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(例えば、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合させたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエン又はイソプレンとの共重合体、ブチルゴム、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、その他ポリウレタン系やポリエステル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマー等も挙げられる。
【0036】
更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するもの、ビニル基などを有するもの、あるいは各種の平均粒径を有するものや、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成されるいわゆるコアシェルゴムと呼ばれる多層構造重合体なども使用することができ、更にシリコーン化合物を含有したコアシェルゴムも使用することができる。
これらのポリマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明のトナー用バインダー樹脂における前記セルロース誘導体の含有量は、全バインダー樹脂100質量部に対して、30〜100質量部であることが好ましい。
【0037】
〔セルロース誘導体の製造方法〕
本発明におけるセルロース誘導体の製造方法は特に限定されず、セルロースを原料とし、セルロースに対しエーテル化及びエステル化することにより本発明のセルロース誘導体を製造することができる。セルロースの原料としては限定的でなく、例えば、綿、リンター、パルプ等が挙げられる。
好ましい製造方法の態様は、例えば、ヒドロキシアルキル基:−C2n−OHを有するセルロースエーテルに例えば酸クロライド又は酸無水物等を反応させることにより、エステル化(アシル化)する工程を含む方法によって行うものである。
また、別の態様として、セルロースにアルキレンオキサイドを作用させた後、更に酸クロライド又は酸無水物等を反応させることにより、エステル化する工程を含む方法も挙げられる。
酸クロライドを反応させる方法としては、例えばCellulose 10;283−296,2003に記載の方法を用いることができる。
【0038】
本発明におけるセルロース誘導体はヒドロキシアルキルセルロースをアシル化することにより得ることが好ましく、ヒドロキシアルキル基を有するセルロースエーテルとしては、具体的には、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。好ましくは、ヒドロキシエチルセルロースである。
【0039】
酸クロリドとしては、前記A)に含まれるアシル基及びB)アシル基に対応したカルボン酸クロライドを使用することができる。カルボン酸クロリドとしては、例えば、アセチルクロライド、プロピオニルクロライド、ブチリルクロリド、イソブチリルクロリド、ペンタノイルクロリド、2−メチルブタノイルクロリド、3−メチルブタノイルクロリド、ピバロイルクロリド、ヘキサノイルクロリド、2−メチルペンタノイルクロリド、3−メチルペンタノイルクロリド、4−メチルペンタノイルクロリド、2,2−ジメチルブタノイルクロリド、2,3−ジメチルブタノイルクロリド、3,3−ジメチルブタノイルクロリド、2−エチルブタノイルクロリド、ヘプタノイルクロリド、2−メチルヘキサノイルクロリド、3−メチルヘキサノイルクロリド、4−メチルヘキサノイルクロリド、5−メチルヘキサノイルクロリド、2,2−ジメチルペンタノイルクロリド、2,3−ジメチルペンタノイルクロリド、3,3−ジメチルペンタノイルクロリド、2−エチルペンタノイルクロリド、シクロヘキサノイルクロリド、オクタノイルクロリド、2−メチルヘプタノイルクロリド、3−メチルヘプタノイルクロリド、4−メチルヘプタノイルクロリド、5−メチルヘプタノイルクロリド、6−メチルヘプタノイルクロリド、2,2−ジメチルヘキサノイルクロリド、2,3−ジメチルヘキサノイルクロリド、3,3−ジメチルヘキサノイルクロリド、2−エチルヘキサノイルクロリド、2−プロピルペンタノイルクロリド、ノナノイルクロリド、2−メチルオクタノイルクロリド、3−メチルオクタノイルクロリド、4−メチルオクタノイルクロリド、5−メチルオクタノイルクロリド、6−メチルオクタノイルクロリド、2,2−ジメチルヘプタノイルクロリド、2,3−ジメチルヘプタノイルクロリド、3,3−ジメチルヘプタノイルクロリド、2−エチルヘプタノイルクロリド、2−プロピルヘキサノイルクロリド、2−ブチルペンタノイルクロリド、デカノイルクロリド、2−メチルノナノイルクロリド、3−メチルノナノイルクロリド、4−メチルノナノイルクロリド、5−メチルノナノイルクロリド、6−メチルノナノイルクロリド、7−メチルノナノイルクロリド、2,2−ジメチルオクタノイルクロリド、2,3−ジメチルオクタノイルクロリド、3,3−ジメチルオクタノイルクロリド、2−エチルオクタノイルクロリド、2−プロピルヘプタノイルクロリド、2−ブチルヘキサノイルクロリド等が挙げられる。
【0040】
酸無水物としては、例えば前記A)に含まれるアシル基及びB)アシル基に対応したカルボン酸無水物を使用することができる。このようなカルボン酸無水物としては、例えば、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物、オクタン酸無水物、2−エチルヘキサン酸無水物、ノナン酸無水物等が挙げられる。
【0041】
そのほかの具体的な製造条件等は、常法に従うことができる。例えば、「セルロースの事典」131頁〜164頁(朝倉書店、2000年)等に記載の方法を参考にすることができる。
【0042】
〔トナー〕
本発明のトナーは、本発明のトナー用バインダー樹脂を含む。すなわち、バインダー樹脂として上記で説明したセルロース誘導体を含有しており、定着性、保存性、耐久性、帯電性、溶融特性等の各種特性を満たす目的で他の成分を含んでいてもよい。
【0043】
トナーに含まれる他の成分の割合は、特に限定されない。
本発明のトナーは、トナーに対してトナー用バインダー樹脂を好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60〜90質量%含有することができる。また、トナー用バインダー樹脂に対して、好ましくはセルロース誘導体を20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60〜100質量%含有することができる。上記の範囲とすることにより、トナーの混練温度を低下することができる。
【0044】
他の成分としては例えば、着色剤、離型剤、帯電制御剤、外添剤、前記セルロース誘導体以外のポリマー、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、可塑剤、難燃助剤、加工助剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。
本発明のトナーは、更に、着色剤、離型剤、及び帯電制御剤を含有することが好ましい。
【0045】
前記着色剤としては、公知の顔料及び染料を使用することができる。例えば、カーボンブラック、酸化銅、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭、非磁性フェライト、マグネタイト、黄鉛、亜鉛黄、黄色酸化鉄、カドミウムイエロー、クロムイエロー、ハンザイエロー、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエロー(G、GR)、スレンイエロー、キノリンイエロー、パーメネントイエローNCG、赤色黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジGK、ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀、ウオッチヤングレッド、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ブリリアンカーミン(3B、6B)、デイポンオイルレッド、ピラゾロンレッド、ローダミンBレーキ、レーキレッドC、ローズベンガル、エオキシンレッド、アリザリンレキーキ、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、ファストスカイブルー、インダスレンブルーBC、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、カルコオイルブルー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、マラカイトグリーンオクサレレートナー、マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、酸化クロム、クロムグリーン、ピグメントグリーン、マラカイトグリーンレーキ、ファイナルイエローグリーンG、亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛、バライト粉、炭酸バリウム、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイト、ニグロシン染料等が挙げられる。
【0046】
前記着色剤の前記トナーにおける含有量は、特に制限はないが、バインダー樹脂100質量部に対して1〜20質量部添加されることが好ましい。
【0047】
前記離型剤としては、公知の離型剤を用いることができる。例えば、カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、ポリプロピレン、ポリエチレン、サゾールワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、脂肪酸エステル、モンタン酸エステル等が挙げられる。
【0048】
前記離型剤の融点は、保存性の観点から、40℃〜160℃が好ましく、50℃〜120℃がより好ましい。前記融点が40℃未満では、耐熱保存性に悪影響を与えることがあり、160℃を超えると、低温での定着時コールドオフセットを起こしやすいことがある。
【0049】
前記離型剤の前記トナーにおける含有量は、特に制限はないが、バインダー樹脂100質量部に対して、3〜20質量部であることが好ましい。含有量が3質量部以上では高温でのホットオフセットを抑制することができ、20質量部以下であれば、帯電性に悪影響を及ぼすことがない。
【0050】
前記帯電制御剤としては、特に制限はないが、例えば、トリフェニルメタン系染料、モリブデン酸キレート顔料、ローダミン系染料、アルコキシ系アミン、4級アンモニウム塩、アルキルアミド、リンの単体及びリン系化合物、タングステンの単体及びタングステン系化合物、フッ素系活性剤、サリチル酸の金属塩、サリチル酸誘導体の金属塩などが挙げられる。
【0051】
前記帯電制御剤の前記トナーにおける含有量は、バインダー樹脂100質量部に対し、0.1〜10質量部が好ましく、0.2〜5質量部がより好ましい。含有量が0.1質量部未満では、帯電制御性が得られず、10質量部を超えるとトナーの帯電性が大きくなりすぎ、現像剤の流動性低下や画像濃度の低下をまねくことがある。
【0052】
前記外添剤としては、特に制限はないが、例えば、シリカ微粒子、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、チタニア、アルミナ、酸化スズ、酸化アンチモン、フッ素ポリマーなどが挙げられる。
【0053】
前記外添剤の添加量は、前記トナーに対し、0.1質量%〜5質量%が好ましく、0.3質量%〜3質量%がより好ましい。
【0054】
本発明のトナーは、可塑剤を含有してもよい。これにより、溶融特性をより一層向上させることができる。可塑剤としては、例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤及びエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0055】
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が挙げられる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸若しくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0056】
グリセリン系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレート及びグリセリンモノアセトモノモンタネート等が挙げられる。
【0057】
多価カルボン酸系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコールなどのアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、及びセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0058】
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロック及び/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、及び末端エーテル変性化合物等が挙げられる。
【0059】
エポキシ系可塑剤とは、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリドなどを指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
【0060】
その他の可塑剤の具体例としては、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール等が挙げられる。
【0061】
前記可塑剤の添加量は、前記トナーに対し、0.1質量%〜30質量%が好ましく、0.3質量%〜20質量%がより好ましい。
【0062】
本発明のトナーの体積平均粒径は4〜9μmであることが好ましく、5〜8μmであることがより好ましい。トナーの体積平均粒径がこの範囲であれば、画像形成の際の光沢性、画像再現性の点で好ましい。
【0063】
〔現像剤〕
本発明の現像剤は、本発明のトナー及びキャリアを含む。
キャリアとしては、鉄・フェライト等の磁性材料粒子のみで構成される非被覆キャリア、磁性材料粒子表面を樹脂等によって被覆した樹脂被覆キャリアのいずれを使用してもよい。具体的には、マグネタイトの表面をシリコーン樹脂によって被覆したキャリアを挙げることができる。このキャリアの平均粒径は体積平均粒径で30〜150μmが好ましい。
現像剤におけるトナーの含有量は、現像剤中、1質量%〜20質量%が好ましく、1質量%〜10質量%がより好ましい。
現像剤におけるキャリアの含有量は、現像剤中、70質量%〜99質量%が好ましく、90質量%〜99質量%がより好ましい。
【実施例】
【0064】
<合成例1:アセトキシエチルアセチルセルロース(C−1)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた3Lの三ツ口フラスコにヒドロキシエチルセルロース(商品名SP−600;ダイセル化学工業製)70g、酢酸700mL、無水酢酸175mL、アセトニトリル700mLを計りとり、室温で攪拌した。反応系が均一に分散したことを確認した後、メタンスルホン酸8.4mLをゆっくりと滴下し、系の温度を50℃〜60℃に昇温した。このまま12時間攪拌した後、反応系の温度を室温まで冷却した。反応溶液を水10Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を70℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(C−1)(アセトキシエチルアセチルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(79.5g)。
【0065】
<合成例2:アセトキシエチルアセチルセルロース(C−2)の合成>
合成例1の反応時間を9時間に変えた以外は、合成例1と同様にして、目的のセルロース誘導体(アセトキシエチルアセチルセルロース)を白色粉体として得た(80.8g)。
【0066】
<合成例3:アセトキシエチルアセチルセルロース(C−3)の合成>
合成例1の反応時間を6時間に変えた以外は、合成例1と同様にして、目的のセルロース誘導体(アセトキシエチルアセチルセルロース)を白色粉体として得た(83.1g)。
【0067】
<合成例4:アセトキシエチルアセチルセルロース(C−4)の合成>
合成例1の反応時間を3時間に変えた以外は、合成例1と同様にして、目的のセルロース誘導体(アセトキシエチルアセチルセルロース)を白色粉体として得た(85.1g)。
【0068】
<合成例5:アセトキシエチルアセチルセルロース(C−5)の合成>
合成例1の反応時間を3時間に変え、メタンスルホン酸量を4.2mLに変えた以外は、合成例1と同様にして、目的のセルロース誘導体(アセトキシエチルアセチルセルロース)を白色粉体として得た(87.8g)。
【0069】
<合成例6:アセトキシエチルアセチルセルロース(C−6)の合成>
合成例1のヒドロキシエチルセルロースを商品名AL−15(住友精化製)に変えた以外は、合成例1と同様にして、目的のセルロース誘導体(アセトキシエチルアセチルセルロース)を白色粉体として得た(79.1g)。
【0070】
<合成例7:アセトキシエチルアセチルセルロース(C−7)の合成>
実施例1のヒドロキシエチルセルロースを商品名AL−15(住友精化製)に変え、反応時間を6時間に変えた以外は、合成例1と同様にして、目的のセルロース誘導体(アセトキシエチルアセチルセルロース)を白色粉体として得た(82.4g)。
【0071】
<合成例8:アセトキシプロピルアセチルセルロース(C−8)の合成>
合成例1のヒドロキシエチルセルロースをヒドロキシプロピルセルロース(Aldrich製)に変えた以外は、合成例1と同様にして、目的のセルロース誘導体(アセトキシプロピルアセチルセルロース)を白色粉体として得た(81.5g)。
【0072】
<合成例9:プロピオニルエチルプロピオニルセルロース(C−9)の合成>
合成例1の無水酢酸を無水プロピオン酸に変えた以外は、合成例1と同様にして、目的のセルロース誘導体(プロピオニルエチルプロピオニルセルロース)を白色粉体として得た(83.8g)。
【0073】
<合成例10:ブチリルオキシエチルブチリルセルロース(C−10)の合成>
合成例1の無水酢酸を無水酪酸に変えた以外は、合成例1と同様にして、目的のセルロース誘導体(ブチリルオキシエチルブチリルセルロース)を白色粉体として得た(85.9g)。
【0074】
なお、以上で得られた化合物について、セルロースに含まれる水酸基(R、R及びR)に置換された官能基の種類、並びにDSa+DSb、MSは、Cellulose Communication 6,73−79(1999)に記載の方法を利用して、H−NMRにより観測及び決定した。
【0075】
<セルロース誘導体の分子量測定>
得られたセルロース誘導体について、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、を測定した。これらの測定方法は以下の通りである。
[分子量及び分子量分布]
数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いた。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めた。GPC装置は、HLC−8220GPC(東ソー社製)を使用した。
【0076】
数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)及び置換度をまとめて表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
上記表中、セルロース誘導体(C−1)〜(C−7)における“A)アシル基とアルキレンオキシ基とを含む基”はいずれも下記式(1−1)の構造を含む基であり、セルロース誘導体(C−8)における“A)アシル基とアルキレンオキシ基とを含む基”は下記式(1−2)であり、セルロース誘導体(C−9)における“A)アシル基とアルキレンオキシ基とを含む基”はいずれも下記式(1−3)の構造を含む基であり、セルロース誘導体(C−10)における“A)アシル基とアルキレンオキシ基とを含む基”はいずれも下記式(1−4)の構造を含む基である。
【0079】
【化5】

【0080】
<セルロース誘導体(C−1)の軟化温度測定>
得られたセルロース誘導体(C−1)について、フローテスター(島津製作所製)を用いて樹脂の軟化温度を測定した。それぞれの軟化温度を表2に示す。なお、樹脂の軟化温度とは、フローテスターを用いて、荷重100Kgにて、昇温速度5℃/min、ダイ直径1.0mmの条件で、昇温したときの樹脂の粘度が10(Pa・S)になった温度(℃)である。
【0081】
<セルロース誘導体(C−2)〜(C−10)の軟化温度測定>
得られたセルロース誘導体(C−2)〜(C−10)について、(C−1)と同様に、フローテスターを用いて樹脂の軟化温度を測定した。それぞれの軟化温度を表2に示す。
【0082】
<参考例1〜3セルロース誘導体(H−1)〜(H−3)の軟化温度測定>
セルロース誘導体(C−1)〜(C−10)の比較化合物として、(H−1)(イーストマンケミカル製:セルロースアセテートプロピオネート、製品名CAP482−0.5)、(H−2)(東京化成工業製:エチルセルロース−10cp)、(H−3)(ダイセル化学工業製:ヒドロキシエチルセルロース、製品名SP−600)について、(C−1)と同様にフローテスターを用いて、樹脂の軟化温度を測定した。それぞれの軟化温度を表2に示す。
【0083】
<セルロース誘導体の熱分解開始温度測定>
セルロース誘導体(C−1)〜(C−10)及び比較化合物(H−1)〜(H−3)について、熱分解開始温度を測定した。これらの測定方法は以下の通りである。それぞれの熱分解開始温度を表2に示す。
【0084】
[熱分解開始温度]
熱質量/示差熱分析装置(Seiko Instruments Inc.製)を用い、窒素雰囲気下にて10℃/minで昇温したときのサンプルの2%質量減少温度を測定し、熱分解開始温度とした。
【0085】
【表2】

【0086】
上記表の結果から明らかなように、比較化合物である市販のセルロースエステル(H−1)やセルロースエーテル(H−2)及び原料のSP−600(H−3)では軟化温度が160℃以上と高いのに対し、本発明にかかるセルロース誘導体(C−1)〜(C−10)は、軟化温度150℃以下とバインダー樹脂として好ましい溶融特性を有することが分かる。
【0087】
<実施例1トナー(T−1)の作成>
合成例1で得られたバインダー樹脂(C−1)を100質量部、カルナウバワックス(セラリカ野田製)3質量部、カーボンブラック(三菱化学製、C44)5質量部、帯電制御剤(オリエント化学工業製、E−84)1質量部をニ軸混練機(テクノベル社製)を用いて、100℃で混練した。次いで、機械式粉砕機(日本ニューマチック工業製)にて、微粉砕した後、気流分級機(日本ニューマチック工業製)で分級し、体積平均粒径6.8μmのトナー一次粒子を作製した。
【0088】
<実施例2〜10トナー(T−2)〜(T−10)の作成>
実施例1において、バインダー樹脂を(C−2)〜(C−10)に変え、混練温度を表3に示す温度に変えた以外は実施例1と同様にして、トナー(T−2)〜(T−10)を作製した。
【0089】
<比較例1〜3トナー(TH−1)〜(TH−3)の作成>
実施例1において、バインダー樹脂を(H−1)〜(H−3)に変え、混練温度を表3に示す温度に変えた以外は実施例1と同様にして、トナー(TH−1)〜(TH−3)を作製した。
【0090】
<トナーの体積平均粒径>
トナーの体積平均粒径は、測定装置としてはマルチサイザーll型(ベックマンコールタール社製)を用い、電解液はISOTON―ll(ベックマンコールタール社製)を使用した。結果を表3に示す。
【0091】
測定法としては、分散剤として界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの5%水溶液2ml中に測定試料を0.5〜50mg加える。これを前記電解液100〜150ml中に添加した。試料を懸濁させた電解液を超音波分散機で1分間分散処理を行い、前記マルチサイザーll型により、体積平均粒径を測定した。結果を表3に示す。
【表3】

【0092】
上記表の結果から明らかなように、比較化合物である市販のセルロースエステル(H−1)やセルロースエーテル(H−2)、(H−3)を用いたトナーでは混練温度が170℃以上と高いのに対し、セルロース誘導体(C−1)〜(C−10)を用いた実施例1〜10のトナーは、混練温度が150℃以下と低く、トナーの作成温度として好ましい混練温度で混練が可能であることが分かる。
【0093】
上記表の結果から明らかなように、比較化合物である市販のセルロースエステル(H−1)やセルロースエーテル(H−2)ではトナーの体積平均粒径が8μm以上と大きいのに対し、セルロース誘導体(C−1)〜(C−10)を含む本実施例1〜10のトナーの体積平均粒径は、7.8μm以下とトナーとして好ましい体積平均粒径であることが分かる。これは、セルロース誘導体(C−1)〜(C−10)が低分子量体であること、及びA)アシル基とアルキレンオキシ基とを含む基のような比較的長鎖の分子構造を含むことに由来する。
【0094】
<現像剤の作製>
体積平均粒径60μm、磁化55emu/gのマグネタイト(75emu/g〜120emu/g)芯材を用い、流動床式コーティング装置を用いてシリコーン樹脂(信越化学工業製、KR206)をコーティングし、電気炉にて300℃で3時間の条件にて焼成し、キャリアを作製した。得られたキャリア95質量部に対し、表3の実施例1〜10、比較例1及び2のトナー5質量部を攪拌機にて混合し、現像剤1〜12を作製した。
【0095】
<現像剤の定着方法>
DocuCentreColor400CP(富士ゼロックス製)の改造機(定着器を外して未定着画像を出力できるようにしたもの)に前記現像剤を入れて、トナー載り量が1.0g/mとなるように調整した未定着画像(40mm×40mmのソリッド)を作製した。次いで、オフライン定着ベンチを用いて、定着部材の表面温度を120℃から200℃まで段階的に上昇させながら、前記未定着画像を順次定着した。
【0096】
<定着下限温度>
画像の定着性の評価は、転写紙(富士ゼロックス製P紙)にベタ画像で1.0±0.05mg/cmのトナーが現像されるように調整を行い、定着下限温度を測定した。なお、定着下限温度は、得られた定着画像をパットで擦った後の画像濃度の残存率が70%以上となる定着ベルト温度をもって定着下限温度とした。結果を表4に示す。
(評価基準)
◎: 定着下限温度が130℃未満
○: 定着下限温度が130℃以上170℃未満
×: 定着下限温度が170℃以上
【0097】
【表4】

【0098】
上記表の結果より、トナー(TH−1)及び(TH−2)では定着下限温度が170℃以上と高いに対し、トナー(T−1)〜(T−10)では定着下限温度が170℃未満と現像剤として良好であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ
を有するセルロース誘導体を含む、トナー用バインダー樹脂。
A)下記一般式(1)で表される構造を含む基
B)アシル基:−CO−RB(RBは炭化水素基を表す。)
【化1】

(一般式(1)中、nは2又は3を示し、RAは炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)のnが2である、請求項1に記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項3】
前記RA及びRBが、それぞれ独立に炭素数1〜3の炭化水素基である、請求項1又は2に記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項4】
前記RA及びRBが、それぞれ独立にメチル基またはエチル基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項5】
前記RA及びRBが、ともにメチル基である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項6】
前記セルロース誘導体の数平均分子量が1,000〜100,000である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項7】
前記セルロース誘導体の数平均分子量が3,000〜50,000である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項8】
前記セルロース誘導体の数平均分子量が3,000〜30,000である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項9】
前記セルロース誘導体が、ヒドロキシアルキルセルロースをアシル化することにより得られたセルロース誘導体である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のトナー用バインダー樹脂を含むトナー。
【請求項11】
さらに、着色剤、離型剤、及び帯電制御剤を含有する、請求項10に記載のトナー。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のトナーと、キャリアとを含む現像剤。