説明

トナー用結着樹脂

【課題】トナーの低温定着性及び保存性を維持しつつ、耐久性を向上させることができるトナー用結着樹脂及びその製造方法、並びに該結着樹脂を含有した電子写真用トナーを提供すること。
【解決手段】リグニン系化合物の存在下で、カルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合して得られる、トナー用結着樹脂、該トナー用結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー、並びにリグニン系化合物の存在下で、カルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合する工程を含む、トナー用結着樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられるトナー用結着樹脂及びその製造方法並びに該結着樹脂を含有した電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マシンの高速化、省エネ化に伴い、低温定着性に優れたトナーが要求されている。そこで、低温定着性に対する試みとして、トナー用結着樹脂としてポリエステルが多数検討されている。
【0003】
一方で、植物資源から原料とするリグニン系化合物についても検討されている。
【0004】
特許文献1には、自然な色の茶色を安価に得られるとともに、耐環境性、カブリを課題として、フェニルプロパン骨格を有する化合物を配合したことを特徴とするカラートナーが開示されている。
【0005】
特許文献2には、定着時に充分な耐オフセット性、低温定着性を有し、しかも定着ローラーへの巻き付きが発生しないことを課題として、結着剤成分としてリグニン及びセルロースをエステル化処理、またはエーテル化処理した樹脂を含有することを特徴とする静電荷像現像用トナーが開示されている。
【0006】
特許文献3には、画像品質を低下させることなく、製造時及び廃棄時における環境負荷が極めて低い電子写真用トナーを課題として、分解性ポリマーからなる結着樹脂、植物系天然ワックスからなる離型剤、食品用色素からなる着色剤、及び天然鉱物からなる帯電制御剤を含有することを特徴とする電子写真用トナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−83069号公報
【特許文献2】特開平5−216271号公報
【特許文献3】特開2008−129188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、マシンの高速化に対応したトナーには、低温定着性及び保存性とともに耐久性のさらなる向上が望まれる。
【0009】
本発明の課題は、トナーの低温定着性及び保存性を維持しつつ、耐久性を向上させることができるトナー用結着樹脂及びその製造方法、並びに該結着樹脂を含有した電子写真用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
〔1〕 リグニン系化合物の存在下で、カルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合して得られる、トナー用結着樹脂、
〔2〕 前記〔1〕記載のトナー用結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー、並びに
〔3〕 リグニン系化合物の存在下で、カルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合する工程を含む、トナー用結着樹脂の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のトナー用結着樹脂を含有した電子写真用トナーは、トナーの低温定着性、保存性とともに、耐久性に優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のトナー用結着樹脂は、リグニン系化合物の存在下で、カルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合して得られるものであり、トナーの低温定着性及び保存性を維持しつつ、耐久性を向上させることができる。これは、リグニン系化合物は、後述するように、水酸基、カルボキシ基等の官能基を有する、3次元網目構造の高分子化合物であり、カルボン酸成分又はアルコール成分と部分的に縮重合することが可能で、ポリエステル樹脂を該化合物で高分子量化させているためトナーの耐久性が向上すると推定される。また、本発明の製造方法によれば、リグニン系化合物は、アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合により生成するポリエステルへ微分散もし易く、その結果トナーの硬度が向上し、トナーの耐久性が向上すると推定される。
【0013】
リグニンは、植物や木材等の木質を構成する3成分(リグニン、セルロース及びヘミセルロース、これらを総じてリグノセルロースと称する)のうちの1つで、式(I)又は式(II):
【0014】
【化1】

【0015】
(炭素原子に結合する元素又は置換基は、独立して、−H、−OH、−SOHあるいは=O等であってもよく、−C−C−及び/又は−C−Cは不飽和結合であってもよい。)
で表されるような、メトキシ基を有するヒドロキシフェニルプロパンを基本骨格とする構成単位が縮合してできた高分子化合物である。
【0016】
本発明に用いられるリグニン系化合物は、リグノセルロース化合物を原料とし、これからセルロースを除去した後の残渣分などの形態で得られる化合物を示す。セルロースはリグノセルロース化合物から完全に除去されている必要はない。このようなリグニン系化合物では、セルロースの除去方法及び残渣の回収方法などによってリグニンの形態が変化するので、リグニン系化合物に含まれるリグニン由来の成分は異なってくるが、上記のリグニン基本骨格を有している。従って、リグニン系化合物は、リグニン又はリグニン由来の成分を含んだ化合物である。なお、リグニンを含有するリグノセルロース化合物は、木粉、木材チップ、おが屑、廃材、端材、樹皮等の木質化合物、ワラ、パガス、稲、籾殻、ビートパルプ等の各種植物化合物が挙げられる。また、古紙等の紙、パルプ類なども用いることができる。
【0017】
本発明で用いられるリグニン系化合物には、例えば、リグニン誘導体、リグノフェノール誘導体、リグノセルロース分解生成物などのリグニン系化合物が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0018】
リグニン誘導体は、リグノセルロース化合物を蒸解することにより得られる、蒸解リグニンであり、蒸解液の種類により、「クラフトリグニン」、「リグニンスルホン酸」、「ソーダ法による蒸解リグニン」、「亜硫酸法による蒸解リグニン」、「酢酸蒸解リグニン」、「蒸煮爆砕リグニン」、「オルガノソルブリグニン」等が挙げられる。
【0019】
「クラフトリグニン」は、水酸化ナトリウムと硫酸ナトリウムの混合水溶液を蒸解液として高温でリグノセルロース化合物を蒸解して得られる。「リグニンスルホン酸」は、リグノセルロース化合物を中性または弱アルカリ性の亜硫酸塩溶液で高温で蒸解して得られる。「ソーダ法による蒸解リグニン」は、水酸化ナトリウムの水溶液を蒸解液としてリグノセルロース化合物を蒸解して得られる。「亜硫酸法による蒸解リグニン」は、亜硫酸液を蒸解液として高温でリグノセルロース化合物を蒸解して得られる。「酢酸蒸解リグニン」は、リグノセルロース化合物を酢酸及び塩酸を用いて高温蒸煮して得られる。「蒸煮爆砕リグニン」は、高圧の飽和水蒸気で処理し、瞬時に圧力を開放して得られる。また、「オルガノソルブリグニン」は、アルコール類、酢酸エチル、酢酸を主とする低分子有機酸、フェノール類、エタノールアミン等の有機溶剤を用いて蒸解して得られるものである。
【0020】
リグノフェノール誘導体は、リグニンを含有するリグノセルロース化合物にフェノール誘導体を添加した後、濃酸を添加して得られるフェノール誘導体相(有機相)と濃酸相(水相)とからなる相分離系のうちのフェノール誘導体相から得られるものである。リグノセルロース化合物をフェノール誘導体で処理することにより、リグノセルロース化合物中のリグニンがリグノフェノール誘導体として抽出される。このようなリグノフェノール誘導体を製造する方法については、特開平9−278904号公報、特開2001−131201号公報などに開示されている。
【0021】
リグノフェノール誘導体を製造するための原料であるフェノール誘導体としては、フェノール、クレゾール、アルキルフェノール、メトキシフェノール、ナフトールなどの1価のフェノール類;カテコール、レゾルシン、ハイドロキノンなどの2価のフェノール類;ピロガロールなどの3価のフェノール類等が挙げられる。また、水溶性物質の抽出に用いる濃酸としては、例えば、濃度65重量%以上の硫酸、85重量%以上のリン酸、38重量%以上の塩酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸等が挙げられる。
【0022】
リグノセルロース分解生成物とは、リグニンを含有するリグノセルロース化合物を酸触媒またはアルカリ触媒存在下でフェノール化合物、多価アルコール、環状エステル等を用いて分解処理して得られるものである。あるいは、リグノセルロース化合物をヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸、アミノアルコール等の化合物を用いて分解処理して得られるものである。かかるリグノセルロース分解生成物を製造する方法については、特開平4−106128号、特開2000−325921号、特開2001−354774号公報などに開示されている。
【0023】
分解処理で用いる酸触媒としては、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、三フッ化ホウ素等が挙げられる。アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどの金属水酸化物;炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩;アンモニア、モノエタノールアミンなどのアミン類等が挙げられる。
【0024】
上述のようなリグニン系化合物は、分子中にフェノール性及びアルコール性水酸基、カルボキシ基などの官能基を有する高分子化合物であり、縮重合反応の製造に用いることができる。
【0025】
フェノール性の水酸基は、フェノール性の水酸基が結合する炭素原子に隣接する炭素原子にメトキシ基が結合しているため、通常より、反応性は高いと推定される。
【0026】
これらの中で、好ましいリグニン系化合物としては、前述のリグノセルロース化合物を蒸解することにより得られる蒸解リグニンであり、例えば、リグニンの市販品としては、リグノスーパーA(河野新素材開発(株)製:ソーダ法による蒸解リグニン)、リグノスーパーD(河野新素材開発(株)製:リグニンスルホン酸)、バニレックスRN,HW,N,2000N(日本製紙ケミカル(株)製:リグニンスルホン酸)、パールレックスNP,DP(日本製紙ケミカル(株)製:リグニンスルホン酸)、サンエキスP252(日本製紙ケミカル(株)製:リグニンスルホン酸)、バニオールNDP,ODP(日本製紙ケミカル(株)製:変性リグニンスルホン酸)等が挙げられる。
【0027】
リグニン系化合物の重量平均分子量は、高分子量化によるトナーの耐久性を向上させるの観点から、好ましくは1,000〜500,000、より好ましくは2,000〜200,000、さらに好ましくは3,000〜100,000である。
【0028】
一方、高分子量化によるトナー耐久性を向上させるとともに、アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合により生成するポリエステル中へのリグニン系化合物の分散性を向上させ、トナーの帯電性を安定させる観点からは、リグニン系化合物の重量平均分子量は、好ましくは300〜500,000、より好ましくは300〜200,000、より好ましくは300〜100,000、より更に好ましくは300〜50,000、さらにより好ましくは500〜50,000である。
【0029】
リグニン系化合物の重量平均分子量は、分子量は蒸解の条件(温度、時間)を調整すること等で適宜調整することができる。また、蒸解で得られたリグニン系化合物からアルコール等の有機溶媒で低分子量体を抽出することもできる。
【0030】
本発明に用いられるアルコール成分としては、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物及び/又は脂肪族ジオールを含有していることが好ましい。
【0031】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は、トナーの保存性の観点から好ましい。
【0032】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は、式(III):
【0033】
【化2】

【0034】
(式中、R1O及びOR1はオキシアルキレン基であり、R1はエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表される化合物が好ましい。式(III)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0035】
前記ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、トナーの保存性の観点から、アルコール成分中、好ましくは20〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは50〜100モル%である。
【0036】
脂肪族ジオール、好ましくは炭素数2〜8、より好ましくは炭素数2〜6の脂肪族ジオールは、トナーの低温定着性の観点から好ましい。
【0037】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、ネオペンチルグリコール、2,3-ブタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ヘキサンジオール、3,4-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0038】
それらの中で、トナーの低温定着性と保存安定性とに優れる観点から、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールが好ましい。かかる脂肪族ジオールは、低温定着性と保存性の観点から、炭素数3〜8が好ましく、炭素数3〜6がより好ましく、具体的な好適例としては、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール等が挙げられる。
【0039】
脂肪族ジオールの含有量は、トナーの低温定着性の観点から、アルコール成分中、好ましくは20〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは50〜100モル%である。
【0040】
その他のアルコールとして、グリセリン、ペンタエリスリトール、及びトリメチロールプロパン等の3価以上のアルコールを用いてもよい。
【0041】
カルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸化合物及び/又は脂肪族ジカルボン酸化合物が好ましい。本発明においては、カルボン酸、酸無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等の誘導体等を含め、総称してカルボン酸化合物という。
【0042】
フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸化合物は、トナーの低温定着性、保存性及び帯電立ち上がり性のバランスの観点から好ましい。
【0043】
カルボン酸成分中、芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性及び保存性の観点から、好ましくは20〜100モル%、より好ましくは30〜90モル%、さらに好ましくは40〜80モル%である。
【0044】
脂肪族ジカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられ、これらの中では、トナーの低温定着性及び保存性の観点から、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜8のジカルボン酸化合物が好ましく、フマル酸化合物がより好ましい。なお、脂肪族ジカルボン化合物とは、前記の如く、脂肪族ジカルボン酸、その無水物及びそのアルキル(炭素数1〜3)エステルを指すが、これらの中では、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0045】
カルボン酸成分中、脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性の観点から、好ましくは20〜100モル%、より好ましくは30〜90モル%、さらに好ましくは40〜80モル%である。
【0046】
その他のカルボン酸化合物として、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸;ロジン;フマル酸、マレイン酸又はアクリル酸等で変性されたロジン等が挙げられる。
【0047】
本発明において、カルボン酸成分は、分子量を上げ、トナーの低温定着性及び保存性を高める観点から、3価以上の多価カルボン酸化合物、好ましくはトリメリット酸化合物、より好ましくは無水トリメリット酸を含有していることが望ましい。3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、0.1〜30モル%が好ましく、1〜25モル%がより好ましく、5〜25モル%がさらに好ましい。
【0048】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、分子量の調整や耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0049】
本発明の結着樹脂は、前記リグニン系化合物の存在下で、カルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合して得られる。
【0050】
リグニン系化合物の使用量は、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性の観点から、カルボン酸成分とアルコール成分の合計量100重量部に対して、好ましくは5〜200重量部であり、より好ましくは5〜100重量部であり、さらに好ましくは10〜100重量部であり、よりさらに好ましくは10〜80重量部であり、よりさらに好ましくは15〜40重量部である。
【0051】
また、アルコール成分に対するリグニン系化合物の使用量は、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性の観点から、アルコール成分100重量部に対して、好ましくは2〜200重量部であり、より好ましくは5〜150重量部であり、さらに好ましくは10〜130重量部であり、よりさらに好ましくは20〜120重量部であり、よりさらに好ましくは30〜120重量部である。
【0052】
リグニン系化合物は、縮重合反応の開始時から反応系に存在していても、反応途中で反応系に添加してもよい。例えば、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させた後、リグニン系化合物を添加し、さらに縮重合反応させてもよく、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させた後、リグニン系化合物と3価以上の多価アルコール及び/又は3価以上の多価カルボン酸化合物とを添加し、さらに縮重合反応させてもよい。
【0053】
リグニン系化合物は、アルコール成分中での分散性が高いため、リグニン系化合物とアルコール成分との混合物(具体的には混合分散物)と、カルボン酸成分とを混合して縮重合させることがトナーの耐久性の観点から好ましく、より好ましくはリグニン系化合物とアルコール成分との混合物中に、カルボン酸成分を添加して縮重合させることが反応性と取り扱い性とトナーの耐久性の観点から好ましい。
【0054】
リグニン系化合物とアルコール成分の少なくとも一部と混合すればよく、カルボン酸成分を添加する前のリグニン系化合物とアルコール成分との混合重量比(リグニン系化合物/アルコール成分)は、好ましくは2/100〜10/1であり、より好ましくは5/100〜3/1であり、さらに好ましくは10/100〜2/1であり、よりさらに好ましくは20/100〜1/1である。
【0055】
リグニン系化合物とアルコール成分とを混合する温度は、リグニン系化合物の分散性の観点から、好ましくは20〜150℃、より好ましくは50〜140℃である。混合する際には、攪拌することが好ましい。攪拌には、例えば、アンカー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。混合物にカルボン酸成分を混合する際の混合物の温度も、好ましくは20〜150℃、より好ましくは50〜140℃である。
【0056】
カルボン酸成分とアルコール成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、トナーの低温定着性、保存性、耐久性の観点から、0.5〜1.3が好ましく、0.6〜1.1がより好ましい。
【0057】
縮重合反応は、錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒の存在下、不活性ガス雰囲気中にて、好ましくは160〜250℃、より好ましくは200〜250℃の温度で行うことが好ましい。
【0058】
錫化合物としては、例えば、酸化ジブチル錫が知られているが、本発明では、ポリエステル中での触媒の分散性を良好にし、トナーの帯電を安定させる観点から、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。
【0059】
Sn-C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物が、樹脂のガラス転移点を上昇させ、トナーの保存性を向上させる観点より好ましい。
【0060】
Sn-O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、酢酸錫(II)、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ラウリル酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);オクチロキシ錫(II)、ラウロキシ錫(II)、ステアロキシ錫(II)、オレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられ、これらの中では、トナーの耐久性及び触媒能の点から、(R2COO)2Sn(ここでR2は炭素数5〜19のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(R3O)2Sn(ここでR3は炭素数6〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるアルコキシ錫(II)及びSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(R2COO)2Snで表される脂肪酸錫(II)及び酸化錫(II)がより好ましく、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)及び酸化錫(II)がさらに好ましい。
【0061】
チタン化合物の具体例としては、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C37O)2〕、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート〔Ti(C4102N)2(C37O)2〕、チタンジペンチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C511O)2〕、チタンジエチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C25O)2〕、チタンジヒドロキシオクチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(OHC816O)2〕、チタンジステアレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C1837O)2〕、チタントリイソプロピレートトリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)(C37O)3〕、チタンモノプロピレートトリス(トリエタノールアミネート)〔Ti(C6143N)3(C37O)〕等が挙げられ、これらの中では触媒の分解性を抑制し、エステル縮重合の反応性を高めて、トナーの耐久性を向上する観点から、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート及びチタンジペンチレートビストリエタノールアミネートが好ましく、これらは、例えばマツモト交商(株)の市販品としても入手できる。
【0062】
他の好ましいチタン化合物の具体例としては、テトラ-n-ブチルチタネート〔Ti(C49O)4〕、テトラプロピルチタネート〔Ti(C37O)4〕、テトラステアリルチタネート〔Ti(C1837O)4〕、テトラミリスチルチタネート〔Ti(C1429O)4〕、テトラオクチルチタネート〔Ti(C817O)4〕、ジオクチルジヒドロキシオクチルチタネート〔Ti(C817O)2(OHC816O)2〕、ジミリスチルジオクチルチタネート〔Ti(C1429O)2(C817O)2〕等が挙げられ、これらの中ではテトラステアリルチタネート、テトラミリスチルチタネート、テトラオクチルチタネート及びジオクチルジヒドロキシオクチルチタネートが好ましい。これらは、例えばハロゲン化チタンを対応するアルコールと反応させることにより得ることができ、又は、ニッソー社等の市販品としても入手できる。
【0063】
エステル化触媒の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分の合計量100重量部に対して、0.01〜2.0重量部が好ましく、0.1〜1.5重量部がより好ましく、0.2〜1.0重量部がさらに好ましい。ここで、エステル化触媒の存在量とは、縮重合反応に供した触媒の全配合量を意味する。
【0064】
本発明において、互いに隣接する3個の炭素原子に結合した水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有するピロガロール化合物をエステル化触媒とともに助触媒として用いることが、本発明に用いられる芳香族化合物の反応性を高め、トナーの保存性を向上させる観点から好ましい。
【0065】
ピロガロール化合物としては、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4-テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられ、これらの中では、得られる樹脂の耐久性の観点から、式(IV):
【0066】
【化3】

【0067】
(式中、R4〜R6はそれぞれ独立して、水素原子又は−COOR7(R7は水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数2〜12のアルケニル基を示す)を示す)
で表される化合物が好ましい。式中、R7の炭化水素基の炭素数は、1〜8が好ましく、反応活性の観点から、炭素数1〜4がより好ましい。式(IV)で表される化合物のなかでは、R4及びR6が水素原子、R5が水素原子又は−COOR7である化合物がより好ましい。具体例としては、ピロガロール(R4〜R6:水素原子)、没食子酸(R4及びR6:水素原子、R5:−COOH)、没食子酸エチル(R4及びR6:水素原子、R5:−COOC25)、没食子酸プロピル(R4及びR6:水素原子、R5:−COOC37)、没食子酸ブチル(R4及びR6:水素原子、R5:−COOC49)、没食子酸オクチル(R4及びR6:水素原子、R5:−COOC817)、没食子酸ラウリル(R4及びR6:水素原子、R5:−COOC1225)等の没食子酸エステル等が挙げられる。トナーの保存性の観点からは、没食子酸及び没食子酸エステルが好ましい。
【0068】
縮重合反応におけるピロガロール化合物の存在量は、縮重合反応に供されるアルコール成分とカルボン酸成分の合計100重量部に対して、トナーの保存性の観点から、0.001〜1.0重量部が好ましく、0.005〜0.4重量部がより好ましく、0.01〜0.2重量部がさらに好ましい。ここで、ピロガロール系化合物の存在量とは、縮重合反応に供したピロガロール系化合物の全配合量を意味する。
【0069】
ピロガロール化合物は、エステル化触媒の助触媒として働いていると考えられる。ピロガロール化合物とともに用いられるエステル化触媒としては、錫化合物、チタン化合物、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、及び2酸化ゲルマニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属触媒が好ましい。
【0070】
ピロガロール化合物とエステル化触媒の重量比(ピロガロール化合物/エステル化触媒)は、トナーの保存性の観点から、0.01〜0.5が好ましく、0.03〜0.3がより好ましく、0.05〜0.2がさらに好ましい。
【0071】
本発明の結着樹脂は、アルコール成分とカルボン酸成分の縮重合によるポリエステルと、リグニン系化合物とを含む樹脂であり、リグニン系化合物は、ポリエステル中に微分散しており、部分的にポリエステルと縮重合していると考えられる。
【0072】
なお、ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい
【0073】
ポリエステル変性樹脂としては、例えば、ポリエステル・ポリアミド、ポリエステルがウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル、及びポリエステル成分とビニル系樹脂成分を含む2種以上の樹脂成分を有する複合樹脂等が挙げられる。
【0074】
ポリエステル成分とビニル系樹脂成分とを有する複合樹脂は、それぞれの樹脂を必要に応じて開始剤等の存在下に溶融混練する方法、それぞれの樹脂を溶剤に溶解させ混合する方法、それぞれの樹脂の原料モノマー混合物を重合させる方法等の、いずれの方法により製造されたものでもよい。好ましくは、前記ポリエステル成分の原料モノマー及びビニル系樹脂成分の原料モノマーを用いて、縮重合反応と付加重合反応とを行う方法により得られる樹脂(特開平7−98518号公報)である。具体的には、縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーに加えて、さらに縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物(両反応性モノマー)を用いて得られるハイブリッド樹脂(縮重合系樹脂と付加重合系樹脂とが部分的に両反応性モノマーを介して結合した樹脂)であることが好ましい。両反応性モノマーとしては、分子内に、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシル基、より好ましくはカルボキシル基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸及びフマル酸がより好ましい。
【0075】
ビニル系樹脂成分の原料モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン化合物;エチレン、プロピレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン類;ブタジエン等のジオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸のアルキル(炭素数1〜18)エステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のエチレン性モノカルボン酸のエステル;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のビニリデンハロゲン化物;N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物類等が挙げられる。反応性、粉砕性及び帯電安定性の観点から、スチレン、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、及びメタクリル酸メチルが好ましく、スチレン及び/又は(メタ)アクリル酸のアルキルエステルが、ビニル系樹脂成分中、50重量%以上含有されていることが好ましく、より好ましくは80〜100重量%である。
【0076】
なお、ビニル系樹脂成分の原料モノマーを重合させる際には、重合開始剤、架橋剤等を必要に応じて使用してもよい。
【0077】
ビニル系樹脂成分の原料モノマーに対するポリエステル成分の原料モノマーの重量比(ポリエステル成分の原料モノマー/ビニル系樹脂成分の原料モノマー)は、ポリエステル成分により連続相を形成する観点から、好ましくは55/45〜95/5、より好ましくは60/40〜95/5、さらに好ましくは70/30〜90/10である。なお、両反応性モノマーはポリエステル成分の原料モノマーとする。
【0078】
本発明の結着樹脂の軟化点は、トナーの定着性、保存性及び耐久性の観点から、90〜160℃が好ましく、100〜150℃がより好ましく、105〜145℃がさらに好ましい。
【0079】
本発明の結着樹脂を軟化点の高い樹脂(高軟化点樹脂)と低い樹脂(低軟化点樹脂)とを両方用いること、即ち、リグニン系化合物を軟化点の高い樹脂と低い樹脂とに用いることが、トナーの低温定着性と保存性と耐久性の観点から好ましいが、少なくとも高軟化点樹脂にリグニン系化合物を用いることが、耐久性の観点から好ましい。
【0080】
高軟化点樹脂と低軟化点樹脂との軟化点の差は、好ましくは10℃以上、より好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは20〜60℃であることが好ましい。
【0081】
高軟化点樹脂の軟化点は、好ましくは125〜160℃、より好ましくは130〜150℃であり、低軟化点樹脂の軟化点は、好ましくは90℃以上、125℃未満、より好ましくは90〜110℃である。高軟化点樹脂の低軟化点樹脂に対する重量比(高軟化点樹脂/低軟化点樹脂)は、1/3〜3/1が好ましく、1/2〜2/1がより好ましい。
【0082】
ガラス転移点は、トナーの定着性、保存性及び耐久性の観点から、45〜85℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。
【0083】
帯電立ち上がり性の観点から、酸価は、5〜90mgKOH/gが好ましく、10〜80mgKOH/gがより好ましく、10〜70mgKOH/gがさらに好ましく、水酸基価は、1〜80mgKOH/gが好ましく、8〜60mgKOH/gがより好ましく、8〜55mgKOH/gがさらに好ましい。
【0084】
本発明の結着樹脂を用いることにより、トナーの低温定着性と保存性を維持しつつ、耐久性に優れた電子写真用トナーが得られる。
【0085】
本発明のトナーには、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の結着樹脂、例えば、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂が併用されていてもよいが、本発明のポリエステル系樹脂の含有量は、結着樹脂中、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%であることがさらに好ましい。
【0086】
本発明のトナーには、さらに、着色剤、離型剤、荷電制御剤、荷電制御樹脂、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0087】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0088】
離型剤としては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、シリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナバロウワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス等のワックスが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0089】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0090】
離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、結着樹脂中への分散性の観点から、0.5〜10重量部が好ましく、1〜8重量部がより好ましく、1.5〜7重量部がさらに好ましい。
【0091】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0092】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロン N-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(ヘキスト社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業社製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成社製)等が挙げられる。
【0093】
また、負帯電性の荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」(以上、オリエント化学工業社製)、「T-77」(保土谷化学工業社製)、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」(保土谷化学工業社製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット社製);サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「E-304」(以上、オリエント化学工業社製)、「TN-105」(保土谷化学工業社製);銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(ヘキスト社製)、ニトロイミダゾール誘導体;有機金属化合物、例えば「TN105」(保土谷化学工業社製)等が挙げられる。
【0094】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電立ち上がり性の観点から、結着樹脂100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.01〜5重量部がより好ましく、0.3〜3重量部がさらに好ましく、0.5〜3重量部がよりさらに好ましく、1〜2重量部がよりさらに好ましい。
【0095】
本発明には、帯電性を向上させるために、荷電制御樹脂を含有することが好ましい。荷電制御樹脂としては、スチレン系樹脂が好ましく、トナーの正帯電性発現の観点からは、4級アンモニウム塩基含有スチレン系樹脂が好ましく、トナーの負帯電性発現の観点からは、スルホン酸基含有スチレン系樹脂が好ましい。
【0096】
4級アンモニウム塩基含有スチレン系樹脂としては、式(Va):
【0097】
【化4】

【0098】
(式中、R8は水素原子又はメチル基を示す)
で表される単量体、式(Vb):
【0099】
【化5】

【0100】
(式中、R9は水素原子又はメチル基、R10は炭素数1〜12のアルキル基を示す)
で表される単量体、及び式(Vc):
【0101】
【化6】

【0102】
(式中、R11は水素原子又はメチル基、R12及びR13はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表される単量体又はその4級化物を含有する単量体混合物の重合により得られる4級アンモニウム塩基含有スチレンアクリル系樹脂がより好ましい。予め単量体を4級化してもよく、重合後に4級化してもよい。4級化剤としては、塩化メチル、ヨウ化メチル等のハロゲン化アルキル、硫酸ジエチル、硫酸ジ-n-プロピル等が挙げられる。
【0103】
式(Va)で表される単量体としては、好ましくはR8が水素原子であるスチレン、式(Vb)で表される単量体としては、R9が好ましくは水素原子であり、R10が好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。式(Vb)で表される単量体の具体例としては、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。式(Vc)で表される単量体としては、好ましくはR11がメチル基、R12及びR13がメチル基又はエチル基である単量体、より好ましくはR11、R12及びR13がメチル基であるメタクリル酸ジメチルアミノエチルが、それぞれ望ましい。
【0104】
4級アンモニウム塩基含有スチレン系樹脂において、単量体混合物中の式(Va)で表される単量体の含有量は、好ましくは60〜97重量%、より好ましくは70〜90重量%であり、式(Vb)で表される単量体の含有量は、好ましくは1〜33重量%、より好ましくは5〜20重量%であり、式(Vc)で表される単量体又はその4級化物の含有量は、好ましくは2〜35重量%、より好ましくは5〜20重量%であることが望ましい。
【0105】
式(Va)〜(Vc)で表される単量体を用いて得られる4級アンモニウム塩基含有スチレン系樹脂の具体例としては、アクリル酸ブチル・N,N-ジエチル-N-メチル-2-(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウム・スチレン共重合体等が挙げられる。
【0106】
スルホン酸基含有スチレン系樹脂としては、前記の式(Va)で表される単量体、式(Vb)で表される単量体、及びスルホン酸基含有単量体を含有する単量体混合物を重合することにより得られるスルホン酸基含有スチレン系樹脂が好ましい。
【0107】
スルホン酸基含有モノマーとしては、(メタ)アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸が挙げられる。具体的には、アクリル酸2-エチルヘキシル・2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸・スチレン共重合物等が挙げられる。
【0108】
スルホン酸基含有スチレン系樹脂において、単量体混合物中の式(Va)で表される単量体の含有量は、好ましくは60〜97重量%、より好ましくは70〜90重量%であり、式(Vb)で表される単量体の含有量は、好ましくは1〜33重量%、より好ましくは5〜20重量%であり、スルホン酸基含有モノマーの含有量は、好ましくは2〜35重量%、より好ましくは5〜20重量%であることが望ましい。
【0109】
4級アンモニウム塩基含有スチレン系樹脂及びスルホン酸基含有スチレン系樹脂のいずれにおいても、単量体混合物の重合は、例えば、単量体混合物をアゾビスジメチルバレロニトリル等の重合開始剤の存在下で不活性ガス雰囲気下、50〜100℃に加熱することにより、行うことができる。なお、重合法としては、溶液重合、懸濁重合又は塊状重合のいずれでもよいが、好ましくは溶液重合である。
【0110】
スチレン系樹脂の軟化点は、トナーの低温定着性の観点から、100〜140℃が好ましく、110〜130℃がより好ましい。
【0111】
荷電制御樹脂として含有されるスチレン系樹脂の使用量は、トナーの帯電性発現の観点から、結着樹脂100重量部に対して、3〜40重量部が好ましく、4〜30重量部がより好ましく、5〜20重量部がさらに好ましい。
【0112】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。一方、トナーの小粒径化の観点からは、重合法によるトナーが好ましい。
【0113】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、3〜15μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0114】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、無機微粒子を外添剤として用いるのが好ましい。具体的には、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、及び酸化亜鉛からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられ、これらの中では、シリカが好ましく、埋め込み防止の観点から、比重の小さいシリカが含有されているのがより好ましい。
【0115】
シリカは、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであるのが好ましい。
【0116】
シリカを疎水化する方法としては、シリカ粒子の表面のシラノール基を好ましくは炭素数1〜12のアルキルシリル基(例えば、メチルシリル基、ヘキシルシリル基等)等の疎水基により修飾するか、または、疎水性樹脂により表面を被覆することが好ましい。
【0117】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、オルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシラン、オルガノジシラザン、環状オルガノポリシラザン、線状オルガノポリシロキサン等が例示され、具体的には、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらの中ではヘキサメチルジシラザン及びジメチルジクロロシランが好ましい。
【0118】
外添剤の平均粒径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、10〜250nmであり、10〜200nmが好ましく、15〜90nmがより好ましい。
【0119】
外添剤の含有量は、外添剤で処理する前のトナー粒子100重量部に対して、好ましくは0.05〜5重量部であり、より好ましくは0.1〜3重量部であり、さらに好ましくは0.3〜3重量部である。
【0120】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0121】
〔リグニン系化合物の重量平均分子量(Mw)〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により分子量分布を測定し、重量平均分子量を求める。
<試料溶液の調製>
DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)10mlにリグニン系化合物を20mg、溶解させる。次いで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター(住友電気工業(株)製、FP-200)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
<測定条件>
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液として60mmol/L H3PO4と50mmol/L LiBrを添加したN,N-ジメチルホルムアミドを、毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー社製のA-500(5.0×102)、F-10(9.64×104)、F-850(8.42×106)、Pressure Chemical社製(4.0×103、3.0×104、9.29×105))を標準試料として作成したものを用いる。
測定装置:HLC-8120GPC(東ソー社製)
分析カラム:α-M+α-M(東ソー社製)
【0122】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0123】
〔樹脂のガラス転移点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0124】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0125】
〔樹脂の水酸基価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。
【0126】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0127】
〔外添剤の平均粒径〕
平均粒径は、個数平均粒径を指し、外添剤の走査型電子顕微鏡(SEM)写真から測定した、500個の粒子の粒径の平均値をいう。長径と短径がある場合は長径を指す。
【0128】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0129】
樹脂製造例1〔樹脂A1〜A8、A15〕
窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに、表1、2に示すアルコール成分とリグニン系化合物とを混合・攪拌し、リグニン系化合物を120℃、1時間で分散後、同温度で、テレフタル酸及びエステル化触媒を入れ、窒素雰囲気下、昇温し、180℃で1時間保温した後に180℃から230℃まで10℃/hrで昇温し、その後230℃で10時間縮重合反応させた。さらに、表1、2に示す無水トリメリット酸を添加して、200℃で反応させ、10kPaにて表1、2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、ポリエステルを得た。
【0130】
樹脂製造例2〔樹脂A9、A10〕
窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに、表2に示すアルコール成分とリグニン系化合物とを混合・攪拌し、リグニン系化合物を120℃、1時間で分散後、同温度で、テレフタル酸及びエステル化触媒を入れ、窒素雰囲気下、230℃で10時間縮重合反応させ、さらに230℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。さらに、表2に示す無水トリメリット酸を添加して、200℃で反応させ、10kPaにて表2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、ポリエステルを得た。
【0131】
樹脂製造例3〔樹脂A11、A12〕
表2に示す無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びエステル化触媒を、窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、180℃で1時間保温した後に180℃から230℃まで10℃/hrで昇温し、その後230℃で10時間縮重合反応させた。さらに、表2に示す無水トリメリット酸を添加して、200℃で反応させ、10kPaにて表2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、ポリエステルを得た。
【0132】
樹脂製造例4〔樹脂A13〕
表2に示す無水トリメリット酸以外の原料及びエステル化触媒を、窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で10時間縮重合反応させ、さらに230℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。さらに、表2に示す無水トリメリット酸を添加して、200℃で反応させ、10kPaにて表2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、ポリエステルを得た。
【0133】
樹脂製造例5〔樹脂H1〕
窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに、表3に示すアルコール成分とリグニン系化合物とを混合・攪拌し、リグニン系化合物を120℃、1時間で分散後、同温度で、無水トリメリット酸以外のポリエステルの原料モノマー及びエステル化触媒を入れ、窒素雰囲気下、160℃まで昇温した。その後、表に示す両反応性モノマー(アクリル酸)、スチレン系樹脂の原料モノマー及び重合開始剤の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させた後、230℃で10時間縮重合反応させ、さらに230℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。その後、表3に示す無水トリメリット酸を添加し、200℃、10kPaにて表3に記載の軟化点に達するまで反応を行って、ハイブリッド樹脂を得た。
【0134】
樹脂製造例6〔樹脂H2〕
窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに表3に示すアルコール成分とリグニン系化合物とを混合・攪拌し、リグニン系化合物を120℃、1時間で分散後、同温度で、無水トリメリット酸以外のポリエステルの原料モノマー及びエステル化触媒を入れ、窒素雰囲気下、160℃まで昇温した。その後、表に示す両反応性モノマー(アクリル酸)、スチレン系樹脂の原料モノマー及び重合開始剤の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させた後、230℃で10時間縮重合反応させ、さらに230℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。その後、表3に示す無水トリメリット酸を添加し、200℃、10kPaにて表3に記載の軟化点に達するまで反応を行って、ハイブリッド樹脂を得た。
【0135】
樹脂製造例7〔樹脂A14〕
窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに、表2に示す無水トリメット酸及びリグニン系化合物以外の原料モノマーを仕込み、窒素雰囲気下、昇温し、180℃で1時間保温した後に180℃から230℃まで10℃/hrで昇温し、その後230℃で10時間縮重合反応させた。その後、180℃に冷却し、表2に示すリグニン系化合物を投入し、180℃、1時間攪拌した。その後、表2に示す無水トリメリット酸を添加して、200℃まで昇温し、200℃で1時間常圧にて反応させた後、10kPaにて表2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、ポリエステルを得た。
【0136】
【表1】

【0137】
【表2】

【0138】
【表3】

【0139】
〔リグニン系化合物〕
リグノスーパーA:河野新素材開発(株)製、Mw:15,000
リグノスーパーD:河野新素材開発(株)製)、Mw:15,000
バニレックスRN:日本製紙ケミカル(株)製)、Mw:25,000
パールレックスNP:日本製紙ケミカル(株)製)、Mw:17,000
リグノスーパーA抽出物:Mw:900
【0140】
〔上記リグノスーパーA抽出物の抽出方法〕
メタノール100gにリグノスーパーA 10gを添加し、25℃にて2時間攪拌を行った。この分散液をろ過し(ろ紙:ADVANTEC 5C)、ろ液をエバポレーターにてメタノールを除去した。このリグノスーパーA抽出物の重量平均分子量は900であった。
【0141】
実施例1〜22及び比較例1〜3
表4に示す結着樹脂100重量部、着色剤、荷電制御剤、離型剤、荷電制御樹脂(実施例19のみ)及びその他の添加剤(比較例3のみ)を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を二軸押出機により溶融混練し、冷却後、ハンマーミルを用いて1mm程度に粗粉砕した。得られた粗粉砕物をエアージェット方式の粉砕機(IDS-2型、日本ニューマチック(株)製)により微粉砕後、分級し、体積中位粒径(D50)が7.5μmのトナー粒子を得た。
【0142】
得られたトナー粒子100重量部に、表4に示す外添剤を添加し、ヘンシェルミキサーで混合することにより、トナーを得た。
【0143】
表4に記載の原料は以下の通り。
【0144】
〔着色剤〕
A:黒色顔料「Regal 330R」(キャボット社製)、カーボンブラック
B:イエロー顔料「Paliotol Yellow D1155」(BASF社製)、ピグメント・イエロー185
C:マゼンタ顔料「スーパーマゼンタR」(大日本インキ化学工業社製)、ピグメント・レッド122
D:シアン顔料「Toner Cyan BG」(クラリアント社製)、ピグメント・ブルー15:3
【0145】
〔荷電制御剤〕
A:負帯電性荷電制御剤「ボントロン S-34」(オリエント化学工業社製、アゾ金属化合物)
B:正帯電性荷電制御剤「ボントロン N-04」(オリエント化学工業社製)
【0146】
〔離型剤〕
A:ポリプロピレンワックス「NP-105」(三井化学社製)、融点:140℃
【0147】
〔荷電制御樹脂〕
A:「FCA-701PT」(藤倉化成社製)、正帯電性荷電制御樹脂、4級アンモニウム塩基含有スチレンアクリル系共重合体、軟化点:123℃
【0148】
〔その他の添加剤〕
A:「リグノスーパーA」(河野新素材開発(株)製)、Mw:15,000
【0149】
〔外添剤〕
A:「アエロジル R-972」(日本アエロジル(株)製)、平均粒径:16nm、疎水化処理剤:DMDS
B:疎水性シリカ「TG-C243」(キャボット社製)、平均粒径:100nm、疎水化処理剤:OTES+HMDS)
【0150】
試験例1〔低温定着性〕
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良(但し、実施例19の評価については、非磁性一成分現像方式プリンター「HL−2040」(ブラザー工業社製)を改造した装置)し、総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度390mm/sec)で、100℃から240℃へと10℃ずつ順次上昇させながら、各温度で未定着画像の定着試験を行った。定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社、幅:18mm、JISZ-1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前)が最初に90%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とし、以下の評価基準に従って、低温定着性を評価した。結果を表4に示す。なお、定着試験に用いた紙は、シャープ(株)製のCopyBond SF-70NA(75g/m2)である。
【0151】
〔評価基準〕
A:最低定着温度が150℃未満である。
B:最低定着温度が150℃以上、170℃未満である。
C:最低定着温度が170℃以上である。
【0152】
試験例2〔保存性〕
トナー4gを温度55℃、湿度60%の環境下で72時間放置した。放置後、トナー凝集の発生程度を目視にて観察し、以下の評価基準より保存性を評価した。結果を表4に示す。
【0153】
〔評価基準〕
A:48時間後及び72時間後も凝集は全く認められない。
B:48時間後で凝集は認められないが72時間後ではわずかに凝集が認められる。
C:48時間後で凝集は認められないが72時間後では明らかに凝集が認められる。
【0154】
試験例3〔耐久性〕
「ページプレスト N-4」(カシオ計算機社製、定着:接触定着方式、現像:非磁性一成分現像方式、現像ロール径:2.3cm)にトナーを実装し、温度32℃、湿度85%の環境下にて黒化率5.5%の斜めストライプのパターンを連続して印刷した。途中、500枚ごとに黒ベタ画像を印字し、画像上のスジの有無を確認した。印刷は、画像上にスジが発生した時点で中止し、最高5000枚まで行った。画像上にスジが目視にて観察された時点までの印字枚数を、現像ロールにトナーが融着・固着したことによりスジが発生した枚数とし、以下の評価基準に従って、耐久性を評価した。即ち、スジの発生しない枚数が多いほど、トナーの耐久性が高いものと判断できる。結果を表4に示す。
【0155】
〔評価基準〕
A:スジが5000枚の印刷で発生せず
B:スジが2000枚以上5000枚未満の印刷で発生
C:スジが2000枚未満の印刷で発生
【0156】
【表4】

【0157】
以上の結果より、リグニン系化合物の存在下でアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られた結着樹脂を含有した実施例1〜22のトナーは、比較例1〜3のトナーと対比して、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性のいずれもが良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明のトナー用結着樹脂は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられるトナーの結着樹脂として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン系化合物の存在下で、カルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合して得られる、トナー用結着樹脂。
【請求項2】
リグニン系化合物の重量平均分子量が300〜500,000である、請求項1記載のトナー用結着樹脂。
【請求項3】
カルボン酸成分とアルコール成分との合計量100重量部に対して、リグニン系化合物の使用量が5〜200重量部である、請求項1又は2記載のトナー用結着樹脂。
【請求項4】
アルコール成分が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物及び/又は脂肪族ジオールを含有してなる、請求項1〜3いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項5】
カルボン酸成分が、芳香族ジカルボン酸化合物及び/又は脂肪族ジカルボン酸化合物を含有してなる、請求項1〜4いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載のトナー用結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー。
【請求項7】
リグニン系化合物の存在下で、カルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合する工程を含む、トナー用結着樹脂の製造方法。
【請求項8】
リグニン系化合物とアルコール成分との混合物と、カルボン酸成分とを混合して縮重合させる、請求項7記載のトナー用結着樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−95738(P2011−95738A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222423(P2010−222423)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】