説明

トナー用結着樹脂

【課題】優れた低温定着性を保ちつつ、保存性及び耐久性に優れたトナーとなり得るトナー用結着樹脂、及びその結着樹脂を含む電子写真用トナー、並びにそのトナーの製造方法を提供する。
【解決手段】炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と、セバシン酸化合物を90.0〜99.8モル%及び1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物を合計で0.2〜2.0モル%含有するカルボン酸成分と、を縮重合させて得られる結晶性ポリエステルを含有する、トナー用結着樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等に用いられるトナー用結着樹脂、及びその結着樹脂を含む電子写真用トナー、並びにそのトナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性ポリエステルは、ポリエチレン等の他の結晶性樹脂と異なり、非晶質ポリエステルとの相容性が高く、分散が容易であるという特徴や、結晶部分が発現する明確な融点を有するという特徴により、トナーの低温定着性向上に適した結着樹脂として、近年注目されている。
特許文献1には、低温定着が可能であると共に、適正な摩擦帯電量が得られる電子写真用トナーとして、結晶性樹脂の含有量が50重量%以上であり、特定の電気抵抗及び特定の摩擦帯電量を有する電子写真用トナーが開示されており、結晶性ポリエステルの原料のカルボン酸成分として、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸が具体例として挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−191623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と、セバシン酸化合物を主成分として含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとを含むトナー用結着樹脂を含有するトナーは、低温定着性に優れる反面、保存性及び耐久性に課題がある。
特許文献1には、結晶性ポリエステルを含むトナー用樹脂は開示されているが、上記の問題点及びその解決手段については何ら開示されていない。
【0005】
本発明は、優れた低温定着性を保ちつつ、保存性及び耐久性に優れたトナーとなり得るトナー用結着樹脂、及びその結着樹脂を含む電子写真用トナー、並びにそのトナーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、カルボン酸成分として、セバシン酸化合物、1,9−ノナンジカルボン酸化合物、及び1,10−デカンジカルボン酸化合物を特定量用いて得られる結晶性ポリエステル含有するトナー用結着樹脂が、前記課題を解決することを見出した。すなわち、本発明は、下記[1]〜[3]に関する。
[1]炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と、セバシン酸化合物を90.0〜99.8モル%及び1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物を合計で0.2〜2.0モル%含有するカルボン酸成分と、を縮重合させて得られる結晶性ポリエステルを含有する、トナー用結着樹脂。
[2]前記[1]に記載のトナー用結着樹脂を含有する、電子写真用トナー。
[3]下記工程1〜3を含む、電子写真用トナーの製造方法。
工程1:炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と、セバシン酸化合物を90.0〜99.8モル%及び1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物を合計で0.2〜2.0モル%含有するカルボン酸成分と、を縮重合させて、結晶性ポリエステルを得る工程
工程2:工程1で得られた結晶性ポリエステルを水系媒体中に分散させて、結晶性ポリエステルの水系分散液を得る工程
工程3:工程2で得られた結晶性ポリエステルの水系分散液と非晶質ポリエステルの水系分散液とを混合し凝集させて、樹脂粒子の水系分散液を得る工程
【発明の効果】
【0007】
本発明のトナー用結着樹脂を含むトナーは、優れた低温定着性を保ちつつ、保存性及び耐久性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と、セバシン酸化合物を主成分として含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとを含むトナー用結着樹脂を含有するトナーは、低温定着性に優れる反面、保存性、耐久性に課題がある。これは、トナー中の結晶性ポリエステルの結晶性の状態に原因があると考えられる。
即ち、結着樹脂中の結晶性ポリエステルの結晶化度が低いと、結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルの界面においてポリエステル同士が相溶し、結晶性ポリエステルが低融点化することで保存性が低下すると考えられる。
逆に、結着樹脂中の結晶性ポリエステルの結晶化度が高いと、結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルの界面が完全分離し、界面同士の接着性が低くなることで、界面での分離が誘発され、界面で粉砕し易くなり、結晶性ポリエステルがトナー表面に露出することで、耐久性が低下すると考えられる。
特に、結晶性ポリエステルの水系分散液と非晶質ポリエステルの水系分散液とを混合し凝集させる製造方法では、溶融混練法と異なり、凝集工程でせん断力が低く、相溶性を調整することが困難である。
本発明では、カルボン酸成分として、1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物を用いているが、これらの化合物が、結晶性ポリエステルの結晶化度と非晶質ポリエステルとの相溶性を適度に調整していると考えられる。
つまり、カルボン酸成分として、セバシン酸成分を90.0〜99.8モル%、主成分のセバシン酸成分と近い構造である1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物を合計で0.2〜2.0モル%用い、炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と縮重合して得られる結晶性ポリエステルは、結晶性を高く維持したまま、非晶質ポリエステルとの相溶性を高めることができるため、得られるトナー用結着樹脂は、低温定着性、保存性、及び耐久性に優れたトナーとなり得ると考えられる。
【0009】
[結晶性ポリエステル]
本発明に用いられるトナー用結晶性ポリエステルは、炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と、セバシン酸化合物を90.0〜99.8モル%及び1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物を合計で0.2〜2.0モル%含有するカルボン酸成分と、を縮重合させて得られる。
【0010】
ここで、ポリエステル等の樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最大ピーク温度との比、即ち、「軟化点(℃)/吸熱の最大ピーク温度(℃)」で定義される結晶性指数によって表され、一般にこの結晶性指数が1.4を超えると樹脂は非晶質であり、0.6より小さいときは結晶性が低く非晶質部分が多い。
本発明において、「結晶性ポリエステル」とは、結晶性指数が0.6〜1.4、好ましくは0.8〜1.2、更に好ましくは0.9〜1.1であるポリエステルをいう。また、「非晶質ポリエステル」とは、結晶性指数が1.4より大きいか、0.6未満、好ましくは1.4より大きく4以下、より好ましくは1.5〜3であるポリエステルをいう。
上記の吸熱の最大ピーク温度とは、実施例に記載する測定方法の条件下で観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度のことを指す。吸熱の最大ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば、その吸熱の最大ピーク温度を結晶性樹脂(結晶性ポリエステル)の融点とし、軟化点との差が20℃を超えるピークは非晶質ポリエステルのガラス転移に起因するピークとする。
前記樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率により調整することができる。
【0011】
(アルコール成分)
本発明では、アルコール成分として、トナーの低温定着性、保存性、及び耐久性を向上させる観点から、炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールを用いる。
炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等が挙げられる。
これらの中でも、トナーの低温定着性、保存性の観点から、炭素数4〜6の直鎖脂肪族ジオールが好ましく、結晶性を向上させ、トナーの保存性を向上させる観点からは、α,ω−直鎖アルカンジオールが好ましい。これらの観点から、1,6−ヘキサンジオールがより好ましい。
【0012】
上記炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールの含有量は、結晶性ポリエステルの結晶性をより高め、トナーの低温定着性、保存性、及び耐久性を向上させる観点から、アルコール成分中、好ましくは70〜100モル%、より好ましくは80〜100モル%、更に好ましくは95〜100モル%である。
また、炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオール中のα,ω−直鎖アルカンジオールの含有量は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70〜100モル%、更に好ましくは90〜100モル%、より更に好ましくは99〜100モル%である。
【0013】
上記以外のアルコール成分としては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオ−ル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等を含む下記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の3価以上のアルコールが挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
上記式(I)中、Rは、炭素数2又は3のアルキレン基を示す。x及びyは、正の数を示し、xとyの和は、好ましくは1〜16、より好ましくは1.2〜10、更に好ましくは1.5〜5である。
【0016】
(カルボン酸成分)
本発明では、カルボン酸成分として、トナーの低温定着性、保存性、及び耐久性を向上させる観点から、セバシン酸化合物を90.0〜99.8モル%含有する。
なお、本発明においては、カルボン酸、及びその酸無水物、並びにそのアルキル(炭素数1〜3)エステル等の誘導体等を、カルボン酸化合物と総称する。なお、アルキルエステルのアルキル基は炭素数に含めない。そのため、セバシン酸化合物とは、セバシン酸、及びセバシン酸無水物、並びにセバシン酸のアルキル(炭素数1〜3)エステル等の誘導体等を意味する。
セバシン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、90.0〜99.8モル%であるが、好ましくは95.0〜99.8モル%、より好ましくは98.0〜99.8モル%である。当該含有量が90.0モル%未満であると、トナーの低温定着性、保存性、及び耐久性が低下する。また、99.8モル%を超えると、1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物の含有量が不足し、トナーの耐久性が劣る。
【0017】
また、本発明では、カルボン酸成分として、トナーの低温定着性、保存性、及び耐久性の観点から、1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物を合計で0.2〜2.0モル%含有する。
1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物の合計含有量は、トナーの低温定着性、保存性、及び耐久性の観点から、カルボン酸成分中、0.2〜2.0モル%であるが、好ましくは0.2〜1.5モル%、より好ましくは0.3〜1.0モル%である。当該含有量が0.2モル%未満であると、結晶性ポリエステルの結晶性が高くなりすぎ、非晶質ポリエステルとの相溶性が低下してトナーの耐久性が大きく低下する。一方、2.0モル%を超えると、結晶性ポリエステルの結晶性が低下し、トナーの保存性が大きく低下する。また、当該範囲から外れると、トナーの低温定着性も少なからず低下する。
なお、1,9−ノナンジカルボン酸化合物及び1,10−デカンジカルボン酸化合物は、どちらか一方を単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0018】
1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物の合計含有量とセバシン酸化合物とのモル比(1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物の合計含有量/セバシン酸化合物)は、トナーの保存性、耐久性の観点から、好ましくは0.2/99.8〜2/90、より好ましくは0.3/99.7〜2/95、更に好ましくは0.3/99.7〜2/98である。
【0019】
なお、本発明では、上記以外のカルボン酸成分を併用することができる。例えば、炭素数2〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸化合物、3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
炭素数2〜7の脂肪族ジカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸等;ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸等の炭素数10〜20のアルキル基又は炭素数10〜20のアルケニル基で置換されたコハク酸;それらの酸の無水物及びそれらの酸のアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。
3価以上の多価カルボン酸化合物としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等の芳香族カルボン酸、及びこれらの酸無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等の誘導体が挙げられる。
【0020】
アルコール成分とカルボン酸成分とのモル比(アルコール成分/カルボン酸成分)は、トナーの低温定着性、保存性、及び耐久性の観点から、好ましくは0.83〜0.99、より好ましくは0.87〜0.98、更に好ましくは0.90〜0.97である。
なお、上記アルコール成分とカルボン酸成分とから得られる結晶性ポリエステルの製造方法については後述の通りである。
【0021】
[結晶性ポリエステルの物性]
以上のようにして得られる結晶性ポリエステルは、トナー用の結晶性ポリエステルとして有用である。本発明で用いられる結晶性ポリエステルの物性は以下の通りである。
結晶性ポリエステルの数平均分子量は、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性の観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは3,000以上、更に好ましくは4,000以上である。ただし、結晶性ポリエステルの生産性を考慮すると、数平均分子量は、好ましくは8,000以下、より好ましくは7,000以下、更に好ましくは6,000以下である。上記観点から、本発明の結晶性ポリエステルの数平均分子量は、好ましくは1,000〜8,000、より好ましくは3,000〜7,000、更に好ましくは4,000〜6,000である。
なお、本発明において、結晶性ポリエステルの数平均分子量は、クロロホルム可溶分を測定した値をいい、具体的には実施例に示された方法により測定した値をいう。
【0022】
結晶性ポリエステルの軟化点は、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性の観点から、好ましくは60〜120℃、より好ましくは60〜100℃、更に好ましくは62〜90℃、より更に好ましくは64〜80℃である。
結晶性ポリエステルの融点は、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性の観点から、好ましくは60〜120℃、より好ましくは62〜100℃、更に好ましくは62〜90℃、より更に好ましくは64〜80℃である。
【0023】
また、結晶性ポリエステルの融点と接線値との差(融点−接線値)は、好ましくは3.0℃〜3.9℃、より好ましくは3.1〜3.8℃、更に好ましくは3.2〜3.6℃である。
なお、ここでいう結晶性ポリエステルの接線値とは、後述する実施例で測定した値を意味する。結晶性ポリエステルの融点と接線値との差が3.0℃以上であれば、トナーの耐久性に優れ、また、3.9℃以下であれば、トナーの保存性に優れる。結晶性ポリエステルの融点と接線値との差が上記範囲であれば、結晶性ポリエステルの結晶化度が適度に調整されるため、トナーの耐久性、保存性に優れると考えられる。
【0024】
結晶性ポリエステルの酸価は、トナー粒子の円形度を高めて、トナーの転写性を向上させる観点から、20mgKOH/g以上が好ましく、トナーの保存性、及び環境安定性を向上させる観点から、70mgKOH/g以下が好ましく、これらの観点から、好ましくは20〜70mgKOH/g、より好ましくは20〜50mgKOH/gが、更に好ましくは22〜40mgKOH/gである。
結晶性ポリエステルの水酸基価は、残存アルコールモノマー量を減少させ、トナーの環境安定を向上させる観点から、好ましくは5mgKOH/g以下、より好ましくは4mgKOH/g以下、更に好ましくは3mgKOH/g以下である。
【0025】
なお、本発明において、上述の結晶性ポリエステルの軟化点、融点、接線値、酸価、及び水酸基価は、後述する実施例に示された方法により測定した値をいう。
また、結晶性ポリエステルの数平均分子量、軟化点、融点、接線値、酸価、及び水酸基価は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる。
【0026】
[非晶質ポリエステル]
本発明のトナー用結着樹脂に含有される非晶質ポリエステルは、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られる縮重合系樹脂であることが好ましい。このような非晶質ポリエステルとしては、下記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を70〜100モル%含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステルであることがトナーの保存性、耐久性の観点から好ましい。
【0027】
【化2】

【0028】
上記式(I)中、Rは、炭素数2又は3のアルキレン基を示す。x及びyは、正の数を示し、xとyの和は、好ましくは1〜16、より好ましくは1.2〜10、更に好ましくは1.5〜5である。
【0029】
前記ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、トナーの保存性、及び耐久性の観点から、非晶質ポリエステルのアルコール成分中、好ましくは70〜100モル%、より好ましくは80〜100モル%、更に好ましくは90〜100モル%、より更に好ましくは実質的に100モル%である。
また、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
アルコール成分に含有され得るビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物以外のアルコールとしては、炭素数2〜10の脂肪族ジオールが好ましく、炭素数2〜10の脂肪族ジオールがより好ましい。具体的な化合物としては、結晶性ポリエステルに用いられるものが挙げられる。
また、前記結晶性ポリエステルに用いられるのと同様の3価以上のアルコールを例示することができる。
【0031】
(カルボン酸成分)
非晶質ポリエステルのカルボン酸成分は、トナーの転写性、保存性、耐久性の観点からの芳香族ジカルボン酸化合物を含有することが好ましい。芳香族ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸化合物が好ましい。
芳香族ジカルボン酸化合物を含有する場合、その含有量は、カルボン酸成分中、好ましくは30〜95モル%、より好ましくは40〜90モル%、更に好ましくは50〜85モル%である。
【0032】
また、当該カルボン酸成分としては、結晶性ポリエステルとの相溶性を向上させ、トナーの保存性、耐久性の観点から、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数2〜20のアルケニル基を有するコハク酸化合物が好ましい。このようなコハク酸化合物としては、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸等の炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸及びそれらの酸無水物、並びにそれらのアルキルエステル等の誘導体等が好ましく、ドデセニルコハク酸及びその無水物がより好ましい。
上記コハク酸化合物を含有する場合、その含有量は、トナーの低温定着性の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは3〜30モル%、より好ましくは5〜25モル%、更に好ましくは7〜22モル%である。
【0033】
上記ジカルボン酸化合物以外の使用し得る2価のカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸等の炭素数2〜10(好ましくは炭素数4〜10、より好ましくは炭素数4〜8)の脂肪族ジカルボン酸;それらの酸の無水物及びそれらの酸のアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
上記炭素数2〜10の脂肪族ジカルボン酸を含有する場合、その含有量は、トナーの低温定着性の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは5〜50モル%、より好ましくは10〜40モル%、更に好ましくは10〜35モル%である。
また、トナーの耐久性の観点から、3価以上の多価カルボン酸化合物を用いることが好ましく、具体的には前記結晶性ポリエステルに用いられるのと同様のものを例示することができ、トリメリット酸化合物が好ましい。
3価以上の多価カルボン酸化合物を含有する場合、その含有量は、トナーの耐久性の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは3〜40モル%、より好ましくは5〜35モル%、更に好ましくは5〜30モル%である。
なお、上記アルコール成分とカルボン酸成分とから得られる非晶質ポリエステルは、後述の結晶性ポリエステルの製造方法と同じ方法で製造することができる。
【0034】
[非晶質ポリエステルの物性]
非晶質ポリエステルの数平均分子量は、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性の観点から、好ましくは1,000〜6,000、より好ましくは2,000〜5,000、更に好ましくは2,500〜4,500である。なお、非晶質ポリエステルの数平均分子量は、テトラヒドロフラン可溶分を測定した値をいい、具体的には実施例に示された方法により測定した値をいう。
【0035】
非晶質ポリエステルの軟化点は、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性の観点から、好ましくは70〜180℃、より好ましくは80〜150℃、更に好ましくは90〜130℃である。
非晶質ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性の観点から、好ましくは45〜80℃、より好ましくは50〜75℃、更に好ましくは55〜70℃である。
非晶質ポリエステルの酸価は、水系分散液とした時のトナー粒子の円形度を高めて、トナーの転写性に優れる観点から、好ましくは10〜70mgKOH/g、より好ましくは15〜50mgKOH/g、更に好ましくは20〜40mgKOH/gである。
なお、本発明において、これら非晶質ポリエステルの軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、実施例に示された方法により測定した値をいう。
また、数平均分子量、軟化点、ガラス転移温度及び酸価は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる。
【0036】
[変性非晶質ポリエステル]
本発明で用いられる非晶質ポリエステルには、変性非晶質ポリエステルも含まれる。
変性非晶質ポリエステルとしては、例えば、樹脂がウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル、及びポリエステル成分を含む2種以上の樹脂を有するハイブリッド樹脂等が挙げられる。
非晶質ポリエステルとして、前記ポリエステル樹脂とその変性非晶質ポリエステルは、いずれか一方でも、両者が併用されてもよく、具体的には、ポリエステル、及び/又はポリエステルとスチレン系樹脂とを有するハイブリッド樹脂であってもよい。
【0037】
[トナー用結着樹脂]
結着樹脂中における結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとの重量比(結晶性ポリエステル/非晶質ポリエステル)は、トナーの低温定着性、保存性、及び耐久性の観点から、好ましくは5/95〜25/75、より好ましくは5/95〜20/80、更に好ましくはで8/92〜17/83である。当該重量比が5/95以上であれば、トナーの低温定着性が優れ、25/75以下であれば、トナーの低温定着性、保存性、及び耐久性が良好となる。
本発明のトナー用結着樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルとは異なる公知の樹脂、例えば、ポリエステル、スチレン−アクリル樹脂等のスチレン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂を含有していてもよい。
【0038】
また、本発明の電子写真用トナーにおいて、本発明のトナー用結着樹脂の含有量は、全結着樹脂中、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上、より更に好ましくは実質的に100重量%である。
【0039】
[トナーの製造方法]
本発明のトナーの製造方法には、特に制限は無いが、結晶性ポリエステルを含む水系分散液と非晶質ポリエステルを含む水系分散液とを凝集工程に付すことにより得ることができ、具体的には下記工程1〜3を含む製造方法が挙げられる。
工程1:炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と、セバシン酸化合物を90.0〜99.8モル%及び1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物を合計で0.2〜2.0モル%含有するカルボン酸成分と、を縮重合させて、結晶性ポリエステルを得る工程
工程2:工程1で得られた結晶性ポリエステルを水系媒体中に分散させて、結晶性ポリエステルの水系分散液を得る工程
工程3:工程2で得られた結晶性ポリエステルの水系分散液と非晶質ポリエステルの水系分散液とを混合し凝集させて、樹脂粒子の水系分散液を得る工程
【0040】
また、本発明の電子写真用トナーの製造方法は、上記工程3の後に、更に合一工程である、下記工程4を含むことが好ましい。
工程4:工程3で得られた凝集粒子の水系分散液を合一工程に付すことにより合一粒子の水系分散液を得る工程
【0041】
<工程1>
工程1は、結晶性ポリエステルを得る工程である。以下、結晶性ポリエステルの製造方法について詳述するが、後述する工程3で用いる非晶質ポリエステルについても同様の方法で製造することができる。
本発明のトナー用結着樹脂に含まれる結晶性ポリエステルは、少なくとも上述のアルコール成分及びカルボン酸成分を縮重合反応に付すことで得ることができる。この縮重合反応は、エステル化触媒の存在下で行うことが好ましく、トナーの保存性、耐久性の高い結晶性ポリエステルを得る観点から、エステル化触媒とピロガロール化合物の共存在下で行うことがより好ましい。
縮重合に好適に用いられるエステル化触媒としては、チタン化合物及びSn−C結合を有していない錫(II)化合物が挙げられ、これらはそれぞれ単独で使用又は両者を併用することができる。
【0042】
チタン化合物としては、Ti−O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアシルオキシ基を有する化合物がより好ましい。
チタン化合物の具体例としては、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C37O)2〕、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート〔Ti(C4102N)2(C37O)2〕、チタンジペンチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C511O)2〕、チタンジエチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C25O)2〕、チタンジヒドロキシオクチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(OHC816O)2〕、チタンジステアレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C1837O)2〕、チタントリイソプロピレートトリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)1(C37O)3〕、及びチタンモノプロピレートトリス(トリエタノールアミネート)〔Ti(C6143N)3(C37O)1〕等が挙げられる。これらの中でも、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート、及びチタンジペンチレートビストリエタノールアミネートが好ましい。なお、これらのチタン化合物は、例えば、株式会社マツモト交商の市販品としても入手可能である。
【0043】
Sn−C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn−O結合を有する錫(II)化合物、Sn−X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく挙げられ、Sn−O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
Sn−O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、ジ酢酸錫(II)、ジオクタン酸錫(II)、ジラウリル酸錫(II)、ジステアリン酸錫(II)、及びジオレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);ジオクチロキシ錫(II)、ジラウロキシ錫(II)、ジステアロキシ錫(II)、及びジオレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するジアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が挙げられる。
【0044】
Sn−X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられる。これらの中では、帯電立ち上がり効果及び触媒能の点から、(R1COO)2Sn(式中、R1は、炭素数5〜19のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(R2O)2Sn(式中、R2は、炭素数6〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるジアルコキシ錫(II)、及びSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(R1COO)2Snで表される脂肪酸錫(II)及び酸化錫(II)がより好ましく、ジオクタン酸錫(II)、ジステアリン酸錫(II)、及び酸化錫(II)が更に好ましい。
上記チタン化合物及び錫(II)化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
上記エステル化触媒の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、好ましくは0.01〜1重量部、より好ましくは0.1〜0.6重量部である。
【0045】
また、ピロガロール化合物は、互いに隣接する3個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有するものであり、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられる。
縮重合反応におけるピロガロール化合物の存在量は、縮重合反応に供されるアルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、好ましくは0.001〜1重量部、より好ましくは0.005〜0.4重量部、更に好ましくは0.01〜0.2重量部である。ここで、ピロガロール化合物の存在量とは、縮重合反応に供したピロガロール化合物の全配合量を意味する。
ピロガロール化合物とエステル化触媒の重量比(ピロガロール化合物/エステル化触媒)は、樹脂の耐久性の観点から、好ましくは0.01〜0.5、より好ましくは0.03〜0.3、更に好ましくは0.05〜0.2である。
【0046】
触媒は、縮重合反応の反応率(理論反応水量の排出時を反応率100%とした場合に、排出された反応水量から計算された縮重合反応の反応率。以下同じ。)が70%以上になった時に加えることが、トナーの低温定着性の観点から好ましい。
また、触媒を添加後に、縮重合反応の反応率が85%以上(好ましくは90%以上)進んだところで、12kPa以下(好ましくは10kPa以下)の減圧下で、好ましくは減圧時間1時間以上、より好ましくは1〜10時間、更に好ましくは1〜5時間縮重合反応させることが、トナーの低温定着性の観点から好ましい。
【0047】
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合反応は、例えば、錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒、重合禁止剤等の存在下、不活性ガス雰囲気中で行うことができ、温度条件は、120〜250℃が好ましく、最終到達温度としては、180〜250℃が好ましく、190〜230℃がより好ましい。
縮重合反応の終点は、原料として用いられるアルコール成分とカルボン酸成分とから計算される理論反応水量の排出量を100重量%として、排出された反応水量から求められる反応率が好ましくは90〜100重量%、より好ましくは95〜100重量%である。
【0048】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた結晶性ポリエステルを含む水系分散液を得る工程である。該工程2の説明において、工程3で使用する非晶質ポリエステルを含む水系分散液を得る方法についても併せて説明する。
本発明において、「水系」とは、有機溶剤等の溶剤を含有していてもよいが、水を好ましくは50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは99重量%以上含有するものをいう。また、以下、単に「樹脂」と記載する場合には、結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルの両方を指す。
結晶性ポリエステルを含む水系分散液又は非晶質ポリエステルを含む水系分散液は、結晶性ポリエステル又は非晶質ポリエステル、有機溶剤及び水、更に必要に応じて中和剤や界面活性剤を混合し、攪拌した後、蒸留等によって有機溶剤を除去することにより得られる。好ましくは、結晶性ポリエステル又は非晶質ポリエステル及び必要に応じて界面活性剤を有機溶剤に溶解した後、水、更に必要に応じて中和剤を混合する。なお、混合物を攪拌する際には、アンカー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。
【0049】
有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノール、及びイソブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びジエチルケトン等のケトン系溶媒;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、及びジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチルが挙げられる。これらの中でも、結晶性ポリエステル又は非晶質ポリエステルの分散性、及びトナーの耐久性の観点から、メチルエチルケトン、酢酸エチルが好ましい。
【0050】
中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ金属;アンモニア、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、及びトリブチルアミン等の有機塩基が挙げられる。
【0051】
界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル系、スルホン酸塩系、リン酸エステル系、カルボン酸系(例えばアルキルエーテルカルボン酸塩等)等のアニオン性界面活性剤;アミン塩型、第4級アンモニウム塩型等のカチオン性界面活性剤;後述の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
界面活性剤を使用する場合、その使用量は、結晶性ポリエステル又は非晶質ポリエステル100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部である。
【0052】
結晶性ポリエステル又は非晶質ポリエステルと混合する際に用いる有機溶剤の使用量は、結晶性ポリエステル又は非晶質ポリエステル100重量部に対して、好ましくは100〜1,000重量部、より好ましくは150〜500重量部である。
結晶性ポリエステル又は非晶質ポリエステルと混合する際に用いる水の使用量は、有機溶剤100重量部に対して、好ましくは100〜1,000重量部、より好ましくは200〜600重量部である。
結晶性ポリエステル又は非晶質ポリエステルを有機溶剤と混合(溶解)する際の温度は、好ましくは30〜90℃、より好ましくは40〜80℃である。
結晶性ポリエステル含む水系分散液及び非晶質ポリエステルを含む水系分散液の固形分濃度は、適宜水を加えることにより、好ましくは3〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%、更に好ましくは7〜15重量%である。
【0053】
また、前記有機溶剤を使用せずに、非イオン性界面活性剤と混合することにより、分散液とすることもできる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類;ポリオキシエチレンオレイルエーテル、及びポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、及びポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタンエステル類;ポリエチレングルコールモノラウレート、ポリエチレングルコールモノステアレート、及びポリエチレングルコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類;オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。また、非イオン性界面活性剤にアニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤を併用してもよい。
【0054】
非イオン性界面活性剤の曇点は、常圧、水中で樹脂を微粒化させる場合には、好ましくは70〜105℃、より好ましくは80〜105℃である。
非イオン性界面活性剤の使用量は、樹脂の融点を下げる観点から、結晶性ポリエステル又は非晶質ポリエステル100重量部に対して、5重量部以上が好ましく、トナーに残存する非イオン性界面活性剤を制御する観点からは、80重量部以下が好ましい。したがって、これらを両立させる観点から、非イオン性界面活性剤の使用量は、結晶性ポリエステル又は非晶質ポリエステル100重量部に対して、好ましくは5〜80重量部、より好ましくは10〜70重量部、更に好ましくは20〜60重量部である。
【0055】
結晶性ポリエステル又は非晶質ポリエステルを含む水系分散液中の結晶性ポリエステル粒子又は非晶質ポリエステル粒子の体積中位粒径(D50)は、工程3で均一に凝集させる観点から、好ましくは50〜1,000nm、より好ましくは50〜500nm、更に好ましくは50〜300nm、より更に好ましくは80〜200nmである。なお、各粒子の体積中位粒径(D50)は、レーザー回折型粒径測定機等により測定でき、具体的には実施例に示された測定方法が挙げられる(以下同じ)。
【0056】
<工程3>
工程3は、工程2で得られた結晶性ポリエステルを含む水系分散液と、非晶質ポリエステルを含む水系分散液とを混合し凝集させて、凝集粒子の水系分散液を得る工程である。
工程3においては、更に例えば着色剤、荷電制御剤、離型剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、及び老化防止剤等の添加剤を添加してから凝集工程に付してもよい。該添加剤は、水系分散液としてから使用することもできる。
【0057】
着色剤としては、特に制限はなく公知の着色剤が挙げられ、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、カーボンブラック、無機系複合酸化物、クロムイエロー、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、スレンイエロー、キノリンイエロー、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ウオッチヤングレッド、パーマネントレッド、ブリリアンカーミン3B、ブリリアンカーミン6B、デュポンオイルレッド、ピラゾロンレッド、リソールレッド、ローダミンBレーキ、レーキレッドC、ベンガル、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、カルコオイルブルー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、及びマラカイトグリーンオクサレート等の種々の顔料;アクリジン系、キサンテン系、アゾ系、ベンゾキノン系、アジン系、アントラキノン系、インジコ系、チオインジコ系、フタロシアニン系、アニリンブラック系、ポリメチン系、トリフェニルメタン系、ジフェニルメタン系、チアジン系、及びチアゾール系等の各種染料が挙げられる。これらの着色剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
着色剤を添加する場合、その添加量は、結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルの総量100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部、更に好ましくは2〜8重量部である。
【0058】
荷電制御剤としては、クロム系アゾ染料、鉄系アゾ染料、アルミニウムアゾ染料、及びサリチル酸金属錯体等が挙げられる。これらの荷電制御剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
荷電制御剤を添加する場合、その添加量は、結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルの総量100重量部に対して、好ましくは0.1〜8重量部、より好ましくは0.3〜7重量部、更に好ましくは0.5〜4重量部である。
【0059】
離型剤としては、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、及びステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナバロウワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、及びホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、及びフィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス等のワックス;ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス及びシリコーン類等が挙げられる。これらの離型剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、好ましくは60〜140℃、より好ましくは60〜100℃である。
離型剤を添加する場合、その添加量は、結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルの総量100重量部に対して、樹脂中への分散性の観点から、好ましくは0.5〜10重量部、より好ましくは1〜8重量部、更に好ましくは1〜7重量部である。
【0060】
結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとの好ましい混合重量比は、前述のトナー用結着樹脂に関する記載中に示した重量比の通りである。
凝集工程において、系内の固形分濃度は、均一な凝集を起こさせるために、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%、更に好ましくは5〜20重量%である。
【0061】
凝集工程における系内のpHは、混合液の分散安定性と、樹脂粒子の凝集性とを両立させる観点から、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜9、更に好ましくは3〜8である。
凝集工程における系内の温度は、混合液の分散安定性と、樹脂粒子の凝集性とを両立させる観点から、「結着樹脂の軟化点−60℃」(軟化点より60℃低い温度、以下同様)以上、且つ結着樹脂の軟化点以下であることが好ましい。本発明では、結着樹脂として結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとを用いるので、結晶性ポリエステルの軟化点と非晶質ポリエステルの軟化点を加重平均した温度を、結着樹脂の軟化点とする。
【0062】
凝集工程においては、凝集を効果的に行うために凝集剤を添加することができる。凝集剤としては、有機系では、4級塩のカチオン性界面活性剤、及びポリエチレンイミン等が用いられ、無機系では、無機金属塩、無機アンモニウム塩及び2価以上の金属錯体等が用いられる。
無機金属塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、及び硫酸アルミニウム等の金属塩;ポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム、及び多硫化カルシウム等の無機金属塩重合体が挙げられる。無機アンモニウム塩としては、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。
凝集剤を添加する場合、その添加量は、トナーの耐環境特性の観点から、結着樹脂100重量部に対して、好ましくは60重量部以下、より好ましくは55重量部以下、更に好ましくは50重量部以下である。
凝集剤は、水系媒体に溶解させて添加することが好ましく、凝集剤の添加時及び添加終了後は十分攪拌することが好ましい。
【0063】
工程3においては、結晶性ポリエステルを含む水系分散液及び非晶質ポリエステルを含む水系分散液と、必要に応じて用いられる各種添加剤との混合物を、均一に分散させる観点から、好ましくは結着樹脂の軟化点未満の温度、より好ましくは「該軟化点−30℃」以下の温度で分散処理を行う。具体的には、好ましくは65℃以下、より好ましくは55℃以下であり、また、媒体の流動性及び樹脂の水系分散液の製造エネルギーの観点から、分散処理は0℃より高い温度で行なうことが好ましく、10℃以上で行うことがより好ましい。
これらの観点から、好ましくは0〜65℃、より好ましくは10〜55℃程度の温度で攪拌して分散処理する等の通常の方法により、均一な樹脂分散液を調製することができる。
【0064】
分散処理の方法としては、ウルトラディスパー(浅田鉄工株式会社製、商品名)、エバラマイルダー(株式会社荏原製作所製、商品名)、及びTKホモミクサー(プライミクス株式会社製、商品名)等の高速攪拌混合装置;高圧ホモゲナイザー(株式会社イズミフードマシナリ製、商品名)、ミニラボ8.3H型(Rannie社製、商品名)に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー;マイクロフルイダイザー(Microfluidics 社製、商品名)、及びナノマイザー(ナノマイザー株式会社製、商品名)等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等が挙げられる。
【0065】
工程3で得られる凝集粒子の体積中位粒径(D50)は、続く工程4で均一に合一させ、トナー粒子を製造する観点から、好ましくは1〜10μm、より好ましくは2〜8μm、更に好ましくは3〜7μmである。
【0066】
<工程4>
工程4は、工程3で得られた凝集粒子の水系分散液を合一工程に付すことにより合一粒子の水系分散液を得る工程である。本発明の電子写真用トナーの製造方法においては、当該工程を含むことが好ましい。
本工程において、必要に応じて凝集停止剤を加えた後、合一工程に付すことが好ましい。
凝集停止剤としては、界面活性剤を用いることが好ましく、アニオン性界面活性剤を用いることがより好ましい。アニオン性界面活性剤としては、アルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、及び直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0067】
工程4では、前記工程3で得られた凝集粒子を、加熱することにより合一させることができる。また、この合一工程の際、凝集粒子が沈降しない速度で攪拌しながら行うことが好ましい。
工程4における系内の温度は、目的とするトナーの粒径、粒度分布、形状制御及び粒子の融着性の観点から、「結着樹脂の軟化点−30℃」以上、「該軟化点+10℃」以下が好ましく、「該軟化点−25℃」以上、「該軟化点+10℃」以下がより好ましく、「該軟化点−20℃」以上、「該軟化点+10℃」以下が更に好ましい。具体的な系内の温度としては、好ましくは70〜100℃、より好ましくは70〜90℃である。
【0068】
[電子写真用トナー]
前記工程3又は4により得られた樹脂粒子を、適宜、ろ過等の固液分離工程、洗浄工程、乾燥工程に供することにより、本発明の電子写真用トナー(単にトナーと称することがある)を得ることができる。
洗浄工程では、トナーとして十分な帯電特性及び信頼性を確保する目的から、トナー表面の金属イオンを除去するため、酸を用いることが好ましい。また、添加した非イオン性界面活性剤も洗浄により完全に除去することが好ましく、非イオン性界面活性剤の曇点以下での水系溶液での洗浄が好ましい。洗浄は複数回行うことが好ましい。
また、乾燥工程では、振動型流動乾燥法、スプレードライ法、冷凍乾燥法、フラッシュジェット法等、任意の方法を採用することができる。トナーの乾燥後の水分含量は、帯電性の観点から、好ましくは1.5重量%以下、更には1.0重量%以下に調整することが好ましい。
【0069】
以上のようにして得られたトナーには、外添剤として流動化剤等の助剤をトナー粒子表面に添加してもよい。外添剤としては、表面を疎水化処理したシリカ微粒子、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子、酸化セリウム微粒子、及びカーボンブラック等の無機微粒子;ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、及びシリコーン樹脂等のポリマー微粒子等、公知の微粒子が使用できる。
外添剤の個数平均粒子径は、好ましくは4〜200nm、より好ましくは8〜100nm、更に好ましくは10〜50nmである。外添剤の個数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて求められる。
【0070】
外添剤を添加する場合、その添加量は、トナーの低温定着性、光沢性及び耐久性の観点から、外添剤による処理前のトナー100重量部に対して、好ましくは0.8〜5重量部、より好ましくは1〜5重量部、更に好ましくは1.5〜4重量部である。ただし、外添剤として疎水性シリカを用いる場合は、外添剤による処理前のトナー100重量部に対して、疎水性シリカを好ましくは0.8〜5重量部、より好ましくは1〜3.8重量部用いることで、前記所望の効果が得られる。
【0071】
[電子写真用トナーの物性]
本発明の電子写真用トナーの円形度は、トナーの転写性の観点から、好ましくは0.910〜0.980、より好ましくは0.925〜0.980、更に好ましくは0.935〜0.975である。なお、トナー粒子の円形度は、実施例に記載の方法により測定した値をいう。また、トナー粒子の円形度は、投影面積と等しい円の周囲長/投影像の周囲長の比で求められる値であり、粒子が球形であるほど円形度が1に近い値となる値である。
【0072】
また、トナーの体積中位粒径(D50)は、トナーの高画質化及び生産性の観点から、好ましくは1〜10μm、より好ましくは2〜8μm、更に好ましくは3〜7μmである。
トナーの軟化点は、低温定着性の観点から、好ましくは80〜160℃、より好ましくは80〜150℃、更に好ましくは90〜140℃である。
トナーのガラス転移温度は、低温定着性の観点から、好ましくは45〜80℃、より好ましくは50〜70℃である。
本発明の電子写真用トナーは、一成分系現像剤として、又はキャリアと混合して二成分系現像剤として使用することができる。
【実施例】
【0073】
以下の実施例及び比較例において、特記しない限り「部」は「重量部」を示し、「%」は「重量%」を示す。
また、各例により得られた樹脂の各物性値については、以下の方法により測定した。
(樹脂の軟化点)
フローテスター(株式会社島津製作所製、商品名「CFT−500D」)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0074】
(樹脂の吸熱の最大ピーク温度、融点)
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、商品名「Q−100」)を用いて、室温(20℃)から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した試料をそのまま1分間静止させ、その後、昇温速度10℃/分で、180℃まで昇温しながら測定した。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最大ピーク温度とし、最大ピーク温度と軟化点との差が20℃以内であれば、上記吸熱の最大ピーク温度をその樹脂の融点とした。
(結晶性ポリエステルの接線値)
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、商品名「Q−100」)を用いて、室温(20℃)から降温速度10℃/分で−10℃まで冷却した試料をそのまま1分間静止させた。さらに、昇温温度10℃/分で、200℃まで昇温した後、その温度から降温速度10℃/分で−30℃まで冷却した試料を、昇温速度10℃/分で昇温しながら測定した。そして、測定した融点以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度を接線値とした。
【0075】
(樹脂の数平均分子量)
以下の方法により、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量分布を測定し、数平均分子量を算出した。
(1)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mlになるように、ポリエステルをクロロホルムに溶解させた。次いで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター(住友電気工業社製、商品名「FP−200」)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とした。
(2)分子量分布測定
溶解液としてクロロホルムを1ml/分の流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させた。そこに、試料溶液100μlを注入して測定を行った。試料の分子量は、あらかじめ作製した検量線に基づき算出した。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製の単分散ポリスチレン;2.63×103、2.06×104、1.02×105(重量平均分子量)、ジーエルサイエンス株式会社製の単分散ポリスチレン;2.10×103、7.00×103、5.04×104(重量平均分子量))を標準試料として作成したものを用いた。
測定装置:HLC−8220(商品名、東ソー社製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(商品名、東ソー社製)
【0076】
(樹脂の酸価)
樹脂の酸価は、JIS K 0070の方法に基づき測定した。ただし、測定溶媒のみJIS K 0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、結晶性ポリエステル:アセトンとクロロホルムの混合溶媒(アセトン:クロロホルム2:8(容量比))、非晶性ポリエステル:アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0077】
(樹脂の水酸基価)
樹脂の水酸基価は、JIS K 1557に基づき下記条件で測定した。
・試料量:2g
・アセチル化試薬:無水酢酸65mLとピリジン935mLとを混合した溶液10mL
・触媒:なし
・反応温度:99℃
・反応時間:2時間
・溶媒:アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))
・滴定液:0.5mol/L KOHエタノール溶液
【0078】
(非晶質ポリエステルのガラス転移温度)
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、商品名「Q−100」)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0079】
<結晶性ポリエステル(樹脂A〜L)の製造>
製造例1〜12
表1に示す配合量のポリエステル系樹脂成分の単量体を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、加熱して140℃で6時間反応させた後、200℃まで10℃/時間(h)で昇温しつつ反応させた。その後、200℃にて反応率80%まで反応させた後、2−エチルヘキサン酸錫を20g加えて、更に200℃にて2時間反応を行った。その後、更に8kPaにて2時間反応を行い、結晶性ポリエステル(樹脂A〜L)を得た。得られた樹脂A〜Lの測定した各種物性値を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
<非晶質ポリエステル(樹脂a、b)の製造>
製造例13
表2に示す無水トリメリット酸以外の原料並びに2−エチルヘキサン酸錫40g没食子酸1水和物2gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、230℃で8時間かけて反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させた。その後、210℃にて無水トリメリット酸を加え、表2の軟化点に達するまで反応させ、非晶質ポリエステル(樹脂a)を得た。得られた樹脂aの測定した各種物性値を表2に示す。
製造例14
表2に示す原料並びに2−エチルヘキサン酸錫40g、没食子酸1水和物2gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、230℃で8時間かけて反応させた後、8.3kPaにて、表2の軟化点に達するまで反応させ、非晶質ポリエステル(樹脂b)を得た。得られた樹脂bの測定した各種物性値を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
<各種分散液の調製>
各種分散液の調製に際し、ポリエステルの中和度、分散液の固形分、分散液中のメチルエチルケトン量、及び各種粒子の体積中位粒径(D50)は、以下の記載に基づいて調整、もしくは測定した。
【0084】
(ポリエステルの中和度)
ポリエステルの中和度(%)は、下記式によって求めることができる。
中和度={[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/〔[樹脂の酸価(KOHmg/g)×樹脂の重量(g)]/(56×1000)〕}×100
【0085】
(分散液の固形分)
赤外線水分計(株式会社ケツト科学研究所製、商品名「FD−230」)を用いて、分散液5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)にてウェットベースの水分%を測定する。固形分は下記式にしたがって算出した。
固形分(%)=100−M
M:ウェットベース水分%=[(W−W0)/W]×100
W:測定前の試料重量(初期試料重量)
0:測定後の試料重量(絶対乾燥重量)
【0086】
(分散液中のメチルエチルケトン量)
得られた分散液を、容量1000mLのポリエチレン製容器(密閉)に500g入れ、50℃のウオーターバス中に、該分散液温度が50℃になるまで静置した。50℃になった後、さらに10分間静置した。その後北川式ガス検知管を取り付けた北川式真空法ガス採取器(光明理化学工業株式会社製、商品名「AP−20型」)によって、ポリエチレン容器内のヘッドスペースガスを100mL採取し、1.5分間静置し、メチルエチルケトン量を定量した。
【0087】
(樹脂粒子、着色剤微粒子、離型剤微粒子及び荷電制御剤微粒子の体積中位粒径(D50))
レーザー回折型粒径測定機(株式会社堀場製作所製、商品名「LA−920」)を用いて、測定用セルに蒸留水を加え、吸光度が適正範囲になる濃度で体積中位粒径(D50)を測定した。
【0088】
〔結晶性ポリエステルの水系分散液の調製〕
攪拌装置、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた5L容の容器に、メチルエチルケトン600gを投入し、上記製造例1〜12で得た各結晶性ポリエステル(樹脂A〜L)200gを70℃にて添加し、結晶性ポリエステルを溶解させた。
得られた各溶液に、5%水酸化カリウム水溶液を結晶性ポリエステルの中和度が70%となるように調整して添加し、続いてイオン交換水2500gを添加した後、250r/minの攪拌速度で、減圧下、70℃でメチルエチルケトンを30ppm以下まで留去した。結晶性ポリエステルの水系分散液の固形分濃度を測定し、固形分濃度が10重量%になるようにイオン交換水を加えて、結晶性ポリエステルの分散液を得た。
得られた結晶性ポリエステルの分散液中に分散する樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は、いずれも約0.2μmであった。
【0089】
〔非晶質ポリエステルの水系分散液の調製〕
攪拌装置、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた5L容の容器に、メチルエチルケトン600g、アニオン性界面活性剤として「Kao Akypo RLM-100」(花王株式会社製、成分;ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸)2gを投入し、上記製造例13、14で得た非晶質ポリエステル(樹脂a、b)200gを50℃にて添加し、非晶質ポリエステルを溶解させた。
得られた溶液に、水酸化カリウムを非晶質ポリエステルの中和度が90%となるように調整して添加し、続いてイオン交換水2000gを添加した後、250r/minの攪拌速度で、減圧下、50℃以下の温度でメチルエチルケトンを30ppm以下まで留去した。非晶質ポリエステルの水系分散液の固形分濃度を測定し、固形分濃度が10重量%になるようにイオン交換水を加えて、非晶質ポリエステルの分散液を得た。
得られた非晶質ポリエステルの分散液中に分散する樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は、いずれも約0.2μmであった。
【0090】
〔着色剤分散液の調製〕
着色剤として、銅フタロシアニン(大日精化工業株式会社製、商品名「ECB−301」)50g、ノニオン性界面活性剤(花王株式会社製、商品名「エマルゲン(登録商標)150」)5g、及びイオン交換水200gを混合し、銅フタロシアニンをホモジナイザーを用いて10分間分散させて、着色剤微粒子を含有する着色剤分散液を得た。着色剤微粒子の体積中位粒径(D50)は120nmであった。
【0091】
〔離型剤分散液の調製〕
離型剤として、パラフィンワックス(日本精蝋株式会社製、商品名「HNP9」、融点:85℃)50g、カチオン性界面活性剤(花王株式会社製、商品名「サニゾール(登録商標)B50」)5g、及びイオン交換水200gを95℃に加熱して、ホモジナイザーを用いて、パラフィンワックスを分散させた後、圧力吐出型ホモジナイザーで分散処理し、離型剤微粒子を含有する離型剤分散液を得た。離型剤微粒子の体積中位粒径(D50)は550nmであった。
【0092】
〔荷電制御剤分散液の調製〕
荷電制御剤として、サリチル酸金属錯体(オリエント化学工業株式会社製、商品名「ボントロンE−84」)50g、ノニオン性界面活性剤(花王株式会社製、商品名「エマルゲン(登録商標)150」)5g、及びイオン交換水200gを混合し、ガラスビーズを使用し、サンドグラインダーを用いて10分間分散させて、荷電制御剤微粒子を含有する荷電制御剤分散液を得た。荷電制御剤微粒子の体積中位粒径(D50)は500nmであった。
【0093】
<トナーの製造>
実施例1
結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとの重量比が表3に記載の割合となるように各分散液を混合した樹脂分散液300g、着色剤分散液8g、離型剤分散液6g、荷電制御剤分散液2g及び脱イオン水52gを2L容の容器に入れた。
次に、カイ型の攪拌機で100r/minの攪拌下、室温で6.2重量%硫酸アンモニウム水溶液146gを30分かけて滴下した。その後、攪拌しながら昇熱し、50℃になった時点で50℃に固定し、3時間保持した(この際のpHは5.8であった)。これにより凝集粒子を形成させた後、凝集停止剤としてポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸ナトリウム水溶液(固形分28重量%)4.2gを脱イオン水37gで希釈した希釈液を添加した。
次いで80℃まで0.16℃/minで昇温し、80℃になった時点から1時間80℃を保持した後、加熱を終了した。これにより合一粒子を形成させた後、室温まで徐冷し、吸引ろ過工程、洗浄工程及び乾燥工程を経て、トナー粒子を得た。
次に、トナー粒子100重量部に対して2.0重量部の疎水性シリカ「NAX−50」(商品名、日本アエロジル株式会社製、個数平均粒子径40nm)、1.5重量部の疎水性シリカ「R972」(商品名、日本アエロジル株式会社製、個数平均粒子径16nm)を、10Lヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)に、ST(上羽根)−A0(下羽根)型の攪拌羽根を装着して、3000rpmにて2分間攪拌して外添処理を行い、トナーを得た。
【0094】
実施例2〜8、比較例1〜6
結晶性ポリエステル、並びに配合量を表3に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0095】
実施例1〜8、比較例1〜6により得られたトナーについて、以下の方法にて各種評価を行った。その評価結果を表3に示す。
(トナー粒子の円形度)
5重量%ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製、商品名「エマルゲン109P」)水溶液5mlにトナー50mgを添加し、超音波分散機(共和医理科株式会社製、製品名「KS−140B」)にて1分間分散させたのち、蒸留水20mlを添加し、さらに超音波分散機にて1分間分散させトナーの分散液を得た。得られた分散液を下記の測定装置により、分析し、トナー粒子の円形度を測定した。
・測定装置:フロー式粒子像分析装置(シスメックス株式会社製、商品名「FPIA−3000」)
・測定モード:HPF測定モード
【0096】
(トナーの低温定着性)
複写機「AR−505」(商品名、シャープ社製)内の定着機を装置外で定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、未定着で画像出しを行った(印字面積:2cm×12cm、付着量:0.5mg/cm2)。総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(300mm/sec)を用い、定着ロールの温度を、90℃から240℃へ5℃ずつ順次定着温度を上昇させながら、定着温度に達するまで、各温度で定着紙に未定着画像を定着させた。なお、定着紙には、「CopyBond SF−70NA」(商品名、シャープ社製、75g/m2)を使用した。
500gの荷重をかけた底面が15mm×7.5mmの砂消しゴムで、定着機をとおして定着された画像を5往復擦り、擦る前後の光学反射密度について反射濃度計「RD−915」(商品名、マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(擦り後/擦り前)が最初に80%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とした。そして、最低定着温度を基に、以下の評価基準に従って、トナーの低温定着性を評価した。
5:最低定着温度が120℃未満である。
4:最低定着温度が120以上、125℃未満である。
3:最低定着温度が125以上、130℃未満である。
2:最低定着温度が130以上、135℃未満である。
1:最低定着温度が135℃以上である。
【0097】
(トナーの保存性)
トナー10gを半径12mmの円筒型容器に入れ、上から100gの重りをのせ、50℃湿度60%の環境下で24時間保持した。パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)に、上から順に、篩いA(目開き250μm)、篩いB(目開き150μm)、篩いC(目開き75μm)の3つの篩を重ね合わせて設置し、篩いA上に加圧させたトナー10gを乗せて60秒間振動を与えた。篩いA上に残存したトナー質量WA(g)を、篩いB上に残存したトナー質量WB(g)を、篩いC上に残存したトナー質量WC(g)を、それぞれ測定し、下記式に従って算出される値(α)を基に、以下の評価基準に従って、トナーの流動性加圧保存性を評価した。
α=100−(WA+WB×0.6+WC×0.2)/10×100
5:αが90〜100である。
4:αが80以上、90未満である。
3:αが70以上、80未満である。
2:αが60以上、70未満である。
1:αが60未満である。
【0098】
(トナーの耐久性)
非磁性一成分現像装置「MicroLine5400」(商品名、沖データ社製)にトナー120gを実装し、25℃、湿度50%の環境下で、0.3%の印字率で耐久試験を行った。耐久性はベタ画像を印字し、1000枚毎にベタ画像を印字し、ブレードフィルミングに起因する白スジの発生がないかを観察して、トナーの耐久性を評価した。白スジの発生が確認された時点で試験を中止し、最高5,000まで行った。評価は、5,000枚まで白スジの発生がないことをもって、評価5とした。
5:5,000枚までスジの発生はなく、耐刷枚数は5,000枚以上である。
4:耐刷枚数が3,000枚以上、5,000枚未満である。
3:耐刷枚数が2,000枚以上、3,000枚未満である。
2:耐刷枚数が1,000枚以上、2,000枚未満である。
1:耐刷枚数が1,000枚未満である。
【0099】
(トナーの環境安定性)
非磁性一成分現像装置「MicroLine9300PS」(商品名、沖データ社製)にトナーを実装し、印字した画像の印字率5%の画像を、25℃、湿度50%の環境下で、20枚印刷した後、再度、印字した画像の光学反射密度を反射濃度計「RD−915」(商品名、マクベス社製)を用いて測定した。
さらに、25℃、90%の環境下で、トナーを実装したまま装置を4時間放置後、印字率5%の画像を20枚印刷した後、再度光学反射密度を反射濃度計「RD−915」(商品名、マクベス社製)を用いて測定した。両者の画像濃度の差を算出し、以下の評価基準に従って、トナーの環境安定性を評価した。
5:画像濃度差が0.1未満である。
4:画像濃度差が0.1以上、0.2未満である。
3:画像濃度差が0.2以上、0.3未満である。
2:画像濃度差が0.3以上、0.4未満である。
1:画像濃度差が0.4以上である。
【0100】
(トナーの転写性)
カラープリンター「MICROLINE 5400」(商品名、沖データ社製)にトナーを実装して、ベタ画像を印刷した。この際、ベタ画像の感光体上のトナー量を0.40〜0.50mg/cm2に調整し、ベタ画像の印字途中でマシンを停止させ、転写部を通過した後の感光体にメンディングテープを貼付して、転写されず感光体上に残存したトナーをメンディングテープに移し取り、感光体からメンディングテープを剥離した。剥離したメンディングテープと未使用のメンディングテープの色相をX−Riteで測定した。両者の色相差ΔEを算出し、以下の評価基準に従って、トナーの転写性を評価した。
5:ΔEが2.0未満である。
4:ΔEが2.0以上4.0未満である。
3:ΔEが4.0以上6.0未満である。
2:ΔEが6.0以上8.0未満である。
1:ΔEが8.0以上である。
【0101】
【表3】

【0102】
表3の結果から、実施例1〜8の本発明のトナー用結着樹脂を含有したトナーは、比較例1〜6に比べて、優れた低温定着性を保ちつつ、保存性及び耐久性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のトナー用結着樹脂を含有するトナーは、優れた低温定着性を保ちつつ、保存性及び耐久性に優れているため、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等に用いられる電子写真用トナーとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と、セバシン酸化合物を90.0〜99.8モル%及び1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物を合計で0.2〜2.0モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルを含有する、トナー用結着樹脂。
【請求項2】
結晶性ポリエステルの水酸基価が5mgKOH/g以下である、請求項1に記載のトナー用結着樹脂。
【請求項3】
結晶性ポリエステルの酸価が20〜70mgKOH/gである、請求項1又は2に記載のトナー用結着樹脂。
【請求項4】
下記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を70〜100モル%含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られる非晶質ポリエステルを含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のトナー用結着樹脂。
【化1】

(式中、Rは、炭素数2又は3のアルキレン基を示す。x及びyは、正の数を示し、xとyの和は1〜16である。)
【請求項5】
非晶質ポリエステルを含有し、結着樹脂中における結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとの重量比(結晶性ポリエステル/非晶質ポリエステル)が、5/95〜25/75である、請求項1〜4のいずれかに記載のトナー用結着樹脂。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のトナー用結着樹脂を含有する、電子写真用トナー。
【請求項7】
下記工程1〜3を含む、電子写真用トナーの製造方法。
工程1:炭素数2〜10の直鎖脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と、セバシン酸化合物を90.0〜99.8モル%及び1,9−ノナンジカルボン酸化合物と1,10−デカンジカルボン酸化合物を合計で0.2〜2.0モル%含有するカルボン酸成分と、を縮重合させて、結晶性ポリエステルを得る工程
工程2:工程1で得られた結晶性ポリエステルを水系媒体中に分散させて、結晶性ポリエステルの水系分散液を得る工程
工程3:工程2で得られた結晶性ポリエステルの水系分散液と非晶質ポリエステルの水系分散液とを混合し凝集させて、樹脂粒子の水系分散液を得る工程

【公開番号】特開2012−194259(P2012−194259A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56723(P2011−56723)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】