説明

トランスおよび超音波ソナーセンサ

【課題】トランスにおける磁気シールド性能を高く保ちつつも、インダクタンスの可変量を広く取れるようにする。
【解決手段】トランス4では、ベース41に固定され、ベース41に面する下つば部421と、下つば部421よりも細いと共にコイル43が巻かれる巻線部423とを有するコイル用固定コア42を設け、また、コイル用固定コア42の下つば部421に接触しながらコイル用固定コア42の周囲を取り囲んでベース41に固定される外側固定コア44を設け、また、コイル用固定コア42から見てベース41とは反対側において外側固定コア44に取り付けられると共に、外側固定コア44に対して移動可能になっていることでコイル用固定コア42までの距離が可変となっているキャップコア45を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスおよび超音波ソナーセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波ソナーセンサのマイクロフォンに出力する信号および当該マイクロフォンから受けた信号の電圧変換を行うトランスとして、インダクタンスが可変なトランスが用いられている(例えば、特許文献1参照)
具体的には、特許文献1に記載のトランスは、コイルが巻かれる固定コアと、固定コアを取り囲む可動コアとを有し、固定コアを上下に移動させることで、トランスのインダクタンスを変化させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−4905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トランスは、超音波の微弱な受信信号を検知するようになっているため、外乱である磁気ノイズによる起電力の発生をできるだけ抑えたいという要請がある。しかし、引用文献1に記載のようなトランスでは、固定コアの下側のつば部と可動コアの下端部との間に空隙ができ、この空隙から外乱である磁気ノイズが入り込んでしまう可能性が高くなる。すなわち、磁気シールド性能が低下する。そのため、磁気シールド性能を補強するために、二重のシールドケースを設けなくてはならなくなり、部品点数が増大してしまう。
【0005】
また、引用文献1には、磁気シールド性能を維持するため、可動コアの移動範囲を制限し、固定コアの下側のつば部と可動コアの下端部とを常に摺接させる旨が記載されている。しかし、このようにした場合は、可動コアの可動範囲を固定コアの下側のつば部の厚みの程度しか確保できず、その結果、トランスのインダクタンスの可変量が僅かなものになってしまう。
【0006】
このように、従来は、トランスにおける磁気シールド性能の向上とインダクタンスの可変量の増大との間に二律背反の関係があった。本発明はこの点に鑑み、トランスにおける磁気シールド性能を高く保ちつつも、インダクタンスの可変量を広く取れるような技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、ベース(41)と、前記ベース(41)に固定され、前記ベース(41)に面する下つば部(421)と、前記下つば部(421)よりも細いと共にコイル(43)が巻かれる巻線部(423)とを有するコイル用固定コア(42)と、前記コイル用固定コア(42)の下つば部(421)に接触または隙間が極小になるよう近接して前記コイル用固定コア(42)の周囲を取り囲んで前記ベース(41)に固定される外側固定コア(44、44’)と、前記コイル用固定コア(42)から見て前記ベース(41)とは反対側において前記コイル用固定コア(42)を覆うように前記外側固定コア(44、44’)に取り付けられると共に、前記外側固定コア(44、44’)に対して移動可能になっていることで前記コイル用固定コア(42)までの距離が可変となっているキャップコア(45、45’)と、を備えたトランスである。
【0008】
このように、コイル用固定コア(42)を取り囲む外側固定コア(44、44’)がベース(41)に対して固定され、外側固定コア(44、44’)がコイル用固定コア(42)の下つば部(421)に接触、又は隙間が極小になっているので、コイル用固定コア(42)、外側固定コア(44、44’)、キャップコア(45、45’)が常に閉磁路構造を維持することができ、その結果、磁気シールド性を高く維持することができる。また、常に閉磁路構造を維持しつつも、その閉磁路構造を構成するキャップコア(45、45’)を移動させることで、コイル用固定コア(42)とキャップコア(45、45’)までの距離が変化し、トランスのインダクタンスが変化する。
【0009】
このとき、キャップコア(45、45’)の可動範囲は、下つば部(421)の厚みに制限されないので、閉磁路構造を損なわずにキャップコア(45、45’)の可動範囲を広くすることが可能である。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のトランスにおいて前記外側固定コア(44、44’)は、前記ベース(41)に対して垂直に立設されており、前記コイル用固定コア(42)は、前記下つば部(421)から見て前記ベース(41)の反対側にあると共に前記巻線部(423)を介して前記下つば部(421)に繋がる上つば部(422)を備え、前記上つば部(422)は、前記巻線部(423)よりも太く前記下つば部(421)よりも細いことを特徴とする。
【0011】
このようになっていることで、上つば部(422)を外側固定コア(44、44’)から離すことができ、その結果、キャップコア(45、45’)の位置がトランスのインダクタンスに及ぼす影響を大きくすることができ、その結果、キャップコア(45、45’)を動かすことによるトランスのインダクタンスの変化量を大きくすることができる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のトランスにおいて、前記ベース(41)には、リード端子(47a〜47d)が挿入されており、前記下つば部(421)には、切り欠き(421a〜421d)または孔が設けられており、前記リード端子(47a〜47d)の前記ベース(41)から突出する一端が前記切り欠き(421a〜421d)または孔を通って前記コイル(43)に接続していることを特徴とする。
【0013】
このように、下つば部(421)に切り欠き(421a〜421d)または孔が設け、その切り欠き(421a〜421d)または孔にリード端子(47a〜47d)を通すことで、下つば部(421)と外側固定コア(44、44’)とが接触、又は隙間が極小になっていても、コイル(43)とリード端子(47a〜47d)を接続することができる。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記外側固定コア(44’)は、前記ベース(41)に対して立設されて前記コイル用固定コア42を取り囲む本体部(44a)と、前記本体部(44a)の内周面から内側に伸びる絞り部(44b)と、を備え、前記絞り部(44b)の内周面は、円形となっており、かつ、雌ねじが形成され、前記キャップコア(45’)の外周面は、前記絞り部(44b)の前記内側端部と同じ半径の円形となっており、当該外周には、前記雌ねじに嵌合する雄ねじが形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のトランスである。
【0015】
このように、ネジ構造でキャップコア(45)を移動させる場合において、外側固定コア(44)に絞り部(44b)を設け、その絞り部(44b)の内周面にキャップコア(45)を取り付けるようになっていれば、絞り部(44b)の分だけキャップコア(45)の半径を小さくすることができ、その結果、ねじ廻しのためにキャップコア(45)を回転させる際に、キャップコア(45)にかかる応力を低減することができる。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、車両に搭載される超音波ソナーセンサであって、請求項1ないし4のいずれか1つに記載のトランス(4)と、マイクロフォン(2)とを備えた超音波ソナーセンサである。
【0017】
車載環境では、外部からの磁気ノイズが発生し易いので、上記のような磁気シールド性能の高いトランス(4)を用いることが望ましい。
【0018】
なお、上記および特許請求の範囲における括弧内の符号は、特許請求の範囲に記載された用語と後述の実施形態に記載される当該用語を例示する具体物等との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る超音波ソナーセンサ1の斜視図である。
【図2】超音波ソナーセンサ1の断面図である。
【図3】基板3上の回路の一例を示す図である。
【図4】超音波ソナーセンサ1の回路構成の一例を示す図である。
【図5】トランス4の平面図である。
【図6】図5のVI−VI断面図である。
【図7】図5のVII−VII断面図である。
【図8】シールドケース46を省略した状態のトランス4の平面図である。
【図9】シールドケース46およびキャップコア45を省略した場合のトランス4の平面図である。
【図10】第2実施形態におけるトランス4の平面図である。
【図11】第2実施形態におけるトランス4のXI−XI断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図1〜図9を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係る超音波ソナーセンサ1の斜視図であり、図2は、超音波ソナーセンサ1の断面図である。
【0021】
この超音波ソナーセンサ1は、車両の前端のコーナー部等に取り付けられ、超音波を用いて車両の外部の障害物までの距離を検出する装置であり、超音波を送受信するためのマイクロフォン2と、マイクロフォン2に接続される各種回路が配設された基板3を備えている。また、図3に示すように、基板3上には、上記回路の一部として、電圧変換用のトランス4が設けられている。
【0022】
図4に、この超音波ソナーセンサ1の電気回路構成を示す。マイクロフォン2は、周知の圧電素子であり、この図に示すように、等価回路で表すとコンデンサC0、C1、インダクタンスL1、および抵抗R1から成り、高電圧(50Vから80Vまでのいずれか)の短パルス(12パルスから23パルスまでのいずれか)が印加されると超音波を送出し、また、超音波を受信するとそれに応じた信号を回路側に出力するようになっている。超音波の送信時にマイクロフォン2に印加される短パルスは、図4中のIC5によって生成され、トランス4によって昇圧された後、マイクロフォン2に印加される。
【0023】
このような超音波ソナーセンサ1において、超音波の送信時に発生する残響を小さくするために、トランス4のインダクタンスL2を調整することが従来から行われている。具体的には、図2に示された回路のうち、マイクロフォン2以外の回路である駆動回路の並列共振周波数Fpと、マイクロフォン2の直列共振周波数F0が等しくなるよう、トランス4のインダクタンスL2を調整する。
【0024】
ここで、駆動回路の並列共振周波数Fpおよびマイクロフォン2の直列共振周波数F0は、以下のように表される。
Fp=1/(2π(L2×(C2+C0))1/2
F0=1/(2π(L1×C1)1/2
本実施形態のトランス4は、このようなインダクタンスの調整を可能としつつも、磁気シールド性能を高く維持できるように構成されている。以下、このトランス4の構成について、図5〜図9を用いて説明する。図5は、トランス4の平面図であり、図6は、図5のVI−VI断面図であり、図7は、図5のVII−VII断面図であり、図8は、シールドケース46を省略した状態のトランス4の平面図であり、図9は、シールドケース46およびキャップコア45を省略した場合のトランス4の平面図である。
【0025】
これらの図に示すように、トランス4は、ベース41、コイル用固定コア42、コイル43、外側固定コア44、キャップコア45、シールドケース46、4本のリード端子47a〜47d、およびそれらリード端子47a〜47dをそれぞれ覆う被覆部48a〜48dを備えている。
【0026】
ベース41は、液晶ポリマー等の熱可塑性絶縁樹脂から成り、扁平な四角形状に成形されている。またベース41の成型時には、ベース41の上面にコイル用固定コア42のための取付孔が設けられる。また、ベース41には、4つのリード端子47a〜47dおよびリード端子47a〜47dを被覆する被覆部48a〜48dがインサートされる。つまり、ベース41のインサート成形によってベース41、リード端子47a〜47d、被覆部48a〜48dが組み付けられる。この際、リード端子47a〜47dの両端はベース41の外部に突出した状態となる。リード端子47a〜47dの材質としては、例えばリン青銅を用いる。
【0027】
コイル用固定コア42は、フェライト製であり、ベース41に面する円盤形状の下つば部421と、下つば部421から見て上側(ベース41の反対側)の端部にある円盤形状の上つば部422と、下つば部421と上つば部422の間で下つば部421および上つば部422を繋ぐと共に下つば部421および上つば部422よりも細い円柱形状の巻線部423と、を有している。
【0028】
また、図9に示すように、下つば部421には、4つの切り欠き421a〜421dが設けられている。この切り欠き421a〜421dは、リード端子47a〜47dが通ることができる程度の大きさとなっている。
【0029】
更にコイル用固定コア42は、図6に示すように、下つば部421からベース41側に突出する突出部424を有している。この突出部424がベース41の取付孔に埋め込まれて、更に、コイル用固定コア42とベース41が接着剤で固定されることにより、コイル用固定コア42がベース41に対して垂直に立設した状態になる。
【0030】
なお、下つば部421、上つば部422、巻線部423、突出部424は互いに同軸に設けられ、下つば部421の外周半径は、上つば部422の外周半径よりも大きくなっている。
【0031】
コイル43は、コイル用固定コア42の巻線部423の外周面に巻かれており、コイル43から2つの1次コイル用リード部と2つの2次コイル用リード部が引き出されている。そして、リード端子47a〜47dのベース41から突出する各一端が下つば部421の切り欠き421a〜421dのそれぞれを貫通し、これら1次コイル用リード部および2次コイル用リード部のそれぞれは、それらリード端子47a〜47dの端部に絡げられ、かつ、半田付け等で接続されている。
【0032】
より具体的には、4本のリード端子47a〜47dのうち、リード端子47aの一端が切り欠き421aを通って2次コイル用リード部のうち一本に接続し、リード端子47cの一端が切り欠き421cを通って2次コイル用リード部のうちもう一本に接続し、リード端子47bの一端が切り欠き421bを通って1次コイル用リード部のうち一本に接続し、リード端子47dの一端が切り欠き421dを通って1次コイル用リード部のうちもう一本に接続している。
【0033】
なお、コイル43が巻線部423に巻かれた状態においても、コイル43および巻線部423よりも、上つば部422の方が太くなっており、かつ、下つば部421の方が太くなっている。
【0034】
外側固定コア44は、コイル用固定コア42と同様のフェライト製であり、形状は、円筒形状となっている。この外側固定コア44は、下端部(ベース41に近い側の端部)がベース41に設けられた溝に埋め込まれた状態で、接着剤でベース41に固定されている。この状態で、外側固定コア44は、コイル用固定コア42の側面の周囲を、コイル用固定コア42の下端から上端まで、取り囲むように配置されている。
【0035】
また、外側固定コア44の内周面の下端部は、コイル用固定コア42の下つば部421の外周面全体(ただし切り欠き421a〜421dは除く)に接触しながら下つば部421を取り囲んでいる。具体的には、外側固定コア44の内周半径は下つば部421の外周半径と同じか、下つば部421の外周半径より僅かに大きい。
【0036】
キャップコア45は、コイル用固定コア42と同様のフェライト製の円盤であり、コイル用固定コア42の上端にある上つば部422の更に上方(上つば部422から見てベース41とは反対側)かつ外側固定コア44の内側において、外側固定コア44の内周面に対して密着するように接触して取り付けられている。
【0037】
このように、コイル用固定コア42の下つば部421に外側固定コア44が接触し、又は、下記閉磁路構造が形成される程度に隙間が極小(具体的には、例えば外形が一辺5mmの略立方体のトランス4においては、0.4mm以下、すなわち、外形の一辺に対して10分の1以下の隙間)となるように近接しており、更に、外側固定コア44の上方の開口部をキャップコア45が塞ぐことで、キャップコア45がコイル用固定コア42の上方を覆っている。したがって、キャップコア45→外側固定コア44→コイル用固定コア42の下つば部421→コイル用固定コア42の巻線部423→コイル用固定コア42の上つば部422→キャップコア45という経路から成る閉磁路構造(または閉磁束構造)が形成される。
【0038】
また、キャップコア45は、外側固定コア44に対して移動可能に取り付けられている。具体的には、キャップコア45の外周面には雄ねじ(図示せず)が上端から下端まで形成され、外側固定コア44の内周面には上記雄ねじと噛み合う雌ねじ(図示せず)が形成され、キャップコア45を回転させることで、キャップコア45が外側固定コア44の内周に沿って上下に移動する。これにより、キャップコア45からコイル用固定コア42の上端部(本実施形態では上つば部422)までの最短距離が可変となる。これにより、トランス4のインダクタンスが変化する。具体的には、キャップコア45からコイル用固定コア42の上端部までの最短距離が長くなるほど、トランス4のインダクタンスが小さくなる。
【0039】
また、図8に示すように、キャップコア45の上面(ベース41とは反対側の面)には、十字型の溝が形成されている。この十字型の溝にドライバを差し込んで廻すことで、キャップコア45を容易に回転させることができ、その回転方向に応じて、キャップコア45を上方または下方に移動させ、それにより、トランス4のインダクタンスを調整することができる。
【0040】
なお、キャップコア45の可動範囲は、外側固定コア44の内周面に設けられる雌ねじの上下方向(ベース41の板面に垂直な方向)の長さによって決まる。したがって、どれほどキャップコア45の可動範囲を長くとっても、キャップコア45−外側固定コア44−コイル用固定コア42の閉磁路構造は損なわれず、したがって、高い磁気シールド性能が維持されつつ、トランス4のインダクタンスの調整幅が大きくなる。
【0041】
キャップコア45の可動範囲としては、例えば、図6に示すように、キャップコア45からコイル用固定コア42の上端部(上つば部422)までの最短距離をaとし、上つば部422から外側固定コア44までの最短距離をbとすると、a=bとなる位置を中心として上下に広がる位置範囲を、キャップコア45の可動範囲としてもよい。
【0042】
このようにすることで、キャップコア45を動かすことで、a<bにもなり、a>bにもなる。a<bの場合は、キャップコア45の位置変化に対してトランス4のインダクタンスが敏感に変化するので、インダクタンスの可変範囲が広くなる。他方、a>bの場合は、上つば部422からキャップコア45の間の磁路よりも、上つば部422から外側固定コア44への磁路の影響の方が大きくなり、その結果、キャップコア45の位置変化に対してトランス4のインダクタンスが鈍感になるので、インダクタンスを調整する作業者にしてみれば、インダクタンスの微調整が容易になる。
【0043】
また、シールドケース46は、銅製であり、コイル用固定コア42、コイル43、外側固定コア44、キャップコア45を取り囲むように、ベース41に対して折り曲げ加工で固定される。このようなシールドケース46により、キャップコア45の上部も覆われるため、トランス4の磁気シールド性能が更に高くなる。また、物理的にも外側固定コア44、キャップコア45を保護できるので、外側固定コア44、キャップコア45の割れ欠けを防止することができる。なお、このシールドケース46は、キャップコア45を移動させてトランス4のインダクタンスを調整した後、トランス4に取り付ける。
【0044】
以上説明した通り、本実施形態のトランス4では、ベース41に固定され、ベースに面する下つば部421と、下つば部421よりも細いと共にコイル43が巻かれる巻線部423とを有するコイル用固定コア42を設け、また、コイル用固定コア42の下つば部421に接触、又は隙間が極小になりコイル用固定コア42の周囲を取り囲んでベース41に固定される外側固定コア44を設け、また、コイル用固定コア42から見てベース41とは反対側において外側固定コア44に取り付けられると共に、外側固定コア44に対して移動可能になっていることでコイル用固定コア42までの距離が可変となっているキャップコア45を設けている。
【0045】
このように、コイル用固定コア42を取り囲む外側固定コア44がベース41に対して固定され、外側固定コア44がコイル用固定コア42の下つば部421に接触、又は隙間が極小になっているので、コイル用固定コア42、外側固定コア44、キャップコア45が常に閉磁路構造を維持することができ、その結果、磁気シールド性を高く維持することができる。従って、引用文献1に記載のトランスのように、二重のシールドを設ける必要がない。
【0046】
また、常に閉磁路構造を維持しつつも、その閉磁路構造を構成するキャップコア45を移動させることで、コイル用固定コア42とキャップコア45までの距離が変化し、トランスのインダクタンスが変化する。このとき、キャップコア45の可動範囲は、下つば部421の厚みに制限されないので、閉磁路構造を損なわずにキャップコア45の可動範囲を広くすることが可能である。
【0047】
これに対し、引用文献1には、磁気シールド性能を維持するため、可動コアの移動範囲を制限し、固定コアの下側のつば部と可動コアの下端部とを常に摺接させる旨が記載されている。しかし、このようにした場合は、可動コアの可動範囲を固定コアの下側のつば部の厚みの程度しか確保できず、その結果、トランスのインダクタンスの可変量が僅かなものになってしまう。
【0048】
この点について、引用文献1では、近時のトランスの特性のばらつきが非常に小さいので、インダクタンスの可変範囲が狭くても問題ない旨記載されているが、これはあくまでもトランス単体のばらつきに限った話であって、トランスと一緒に用いる装置(例えばマイクロフォン)のばらつきに対応させる場合や、異なる種類の装置(例えば異なる共振周波数を有するマイクロフォン)のいずれにも同じトランスを用いる場合等には、やはりトランス自体のインダクタンスの可変範囲を広げることが望ましい。
【0049】
また、外側固定コア44は、ベース41に対して垂直に立設されており、コイル用固定コア42は、下つば部421から見てベース41の反対側にあると共に巻線部423を介して下つば部421に繋がる上つば部422を備え、上つば部422は、巻線部423よりも太く前記下つば部421よりも細くなっている。
【0050】
このようになっていることで、上つば部422を外側固定コア44から離すことができ、その結果、キャップコア45の位置がトランスのインダクタンスに及ぼす影響を大きくすることができ、その結果、キャップコア45を動かすことによるトランスのインダクタンスの変化量を大きくすることができる。
【0051】
また、ベース41には、リード端子47a〜47dが挿入されており、下つば部421には、切り欠き421a〜421dまたは孔が設けられており、リード端子47a〜47dのベース41から突出する一端が切り欠き421a〜421dまたは孔を通ってコイル43に接続している。
【0052】
このように、下つば部421に切り欠き421a〜421dまたは孔が設け、その切り欠き421a〜421dまたは孔にリード端子47a〜47dを通すことで、下つば部421と外側固定コア44とが常に接触、又は隙間が極小になっていても、コイル43とリード端子47a〜47dを接続することができる。
【0053】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。本実施形態と第1実施形態の違いは、トランス4の構造のみである。図10に、本実施形態のトランス4の平面図を示し、図11に、図10のXI−XI断面図を示す。本実施形態のトランス4が第1実施形態のトランス4と異なる点は、第1実施形態の外側固定コア44、キャップコア45、シールドケース46が、それぞれ外側固定コア44’、キャップコア45’、シールドケース46’に置き換わったことであり、他の部品構成は第1実施形態と同じである。
【0054】
まず、外側固定コア44’は、第1実施形態の外側固定コア44の同様の材質および構成となっている本体部44aに加え、絞り部44bを備えている。絞り部44bは、本体部44aと一体に形成され、本体部44aの内周面の上端部から内側に伸びた穴あき円盤形状となっている。この本体部44aの中央の孔を形成する内周面は、円形となっており、かつ、上端から下端まで雌ねじが形成されている。
【0055】
また、キャップコア45’は、材質は第1実施形態と同じであり、形状も円盤形状であり上面にドライバ用の溝が設けられているという点では同じであるが、その外周面の半径が第1実施形態のキャップコア45よりも短く、本体部44aの内周面の半径と同じになっている。そして、キャップコア45’の外周面には、絞り部44bの雌ねじと噛み合う雄ねじが上端から下端まで形成されている。
【0056】
そして、このキャップコア45’は、コイル用固定コア42の上端にある上つば部422の更に上方(上つば部422から見てベース41とは反対側)かつ絞り部44bの内側において、絞り部44bの内周面に対して密着するように接触して取り付けられている。
【0057】
このように、コイル用固定コア42の下つば部421に外側固定コア44が接触、又は隙間が極小になっており、更に、外側固定コア44’の上方の開口部をキャップコア45’が塞ぐことで、キャップコア45’がコイル用固定コア42の上方を覆っている。したがって、キャップコア45’→外側固定コア44→コイル用固定コア42の下つば部421→コイル用固定コア42の巻線部423→コイル用固定コア42の上つば部422→キャップコア45’という経路から成る閉磁路構造(または閉磁束構造)が形成される。
【0058】
そして、キャップコア45’を回転させることで、キャップコア45’が絞り部44bの内周に沿って上下に移動する。これにより、キャップコア45’からコイル用固定コア42の上端部(本実施形態では上つば部422)までの最短距離が可変となる。これにより、トランス4のインダクタンスが変化する。
【0059】
また、キャップコア45’の上面の十字型の溝にドライバを差し込んで廻すことで、キャップコア45’を容易に回転させることができ、その回転方向に応じて、キャップコア45を上方または下方に移動させ、それにより、トランス4のインダクタンスを調整することができる。
【0060】
なお、キャップコア45’の上限の可動範囲は、絞り部44bの厚みと、キャップコア45’の厚みの2倍とを総和した長さとなる。したがって、どれほどキャップコア45’の可動範囲を長くとっても、キャップコア45’−外側固定コア44’−コイル用固定コア42の閉磁路構造は損なわれず、したがって、高い磁気シールド性能が維持されつつ、トランス4のインダクタンスの調整幅が大きくなる。キャップコア45’の可動範囲は、第1実施形態のキャップコア45’と同様、a=bとなる位置を中心として上下に広がる位置範囲としてもよい。
【0061】
なお、キャップコア45’の半径とコイル用固定コア42の上つば部422の半径とは同じであるとする。このようにすることで、キャップコア45’の下つば部421に対向する面積は、第1実施形態のキャップコア45が下つば部421に対向する面積と同じになるので、第1実施形態と同様、キャップコア45’の位置がトランス4のインダクタンスに十分に反映される。
【0062】
また、シールドケース46’は、シールドケース46の天面(ベース41から最も遠い面)の中央部が円形に切り取られた形状となっている。この切り取られた円形の半径は、キャップコア45’の半径よりも大きい。したがって、シールドケース46’がトランス4に組み付けられた状態においても、キャップコア45’の溝部にドライバを当てて回転させることで、キャップコア45’の位置を調整することができ、その際、シールドケース46’がキャップコア45’の移動の邪魔にならない。
【0063】
このように、ネジ構造でキャップコア45を移動させる場合において、外側固定コア44’に絞り部44bを設け、その絞り部44bの内周面にキャップコア45を取り付けるようになっていれば、絞り部44bの分だけキャップコア45の半径を小さくすることができ、その結果、ねじ廻しのためにキャップコア45を回転させる際に、キャップコア45にかかる応力を低減することができる。
【0064】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の各発明特定事項の機能を実現し得る種々の形態を包含するものである。
【0065】
例えば、第1実施形態において、シールドケース46は必ずしも必要ではない、シールドケース46を省略した構成としてもよい。この場合でも、キャップコア45、外側固定コア44、コイル用固定コア42の閉磁路構造により、高い磁気シールド性能が実現する。また、シールドケース46を省略した分だけ、製造コストを抑えることができる。
【0066】
また、第1実施形態において、シールドケース46を第2実施形態のシールドケース46’に置き換えてもよい。このように、第1実施形態でも、天面に孔を有するシールドケース46’を採用することで、シールドケース46’がトランス4に組み付けられた状態においても、キャップコア45の溝部にドライバを当てて回転させることで、キャップコア45の位置を調整することができ、その際、シールドケース46’がキャップコア45の移動の邪魔にならない。
【0067】
また、コイル用固定コア42の下つば部421においてリード端子47a〜47dを通すための切り欠き421a〜421dは、4つの孔に置き換えてもよい。このようにすることで、下つば部421の全周を外側固定コア44に接触、又は隙間を極小にさせることができ、より磁気シールド性能を向上することができる。
【0068】
また、上記各実施形態では、キャップコア45、45’を可動とするための構造として、ネジ構造を採用しているが、キャップコア45、45’を可動とするための構造としてネジ構造以外の構造を用いるようになっていてもよい。例えば、キャップコア45の上端部に外側固定コア44よりも広いつば部が形成され、このつば部と外側固定コア44の間にスペーサを配置することで、キャップコア45の位置決めを行い、必要に応じて、スペーサの高さを変化させる(例えば、異なる高さのスペーサに取り替える)ことで、キャップコア45を可動としてもよい。
【0069】
キャップコア45、45’の可動範囲は、上記のようなものに限らす、求められるインダクタンスの可変範囲に応じて適宜変更(設計変更)すればよい。
【0070】
また、キャップコア45、45’の材質は、上記実施形態に記載の材質に限らず、求められるインダクタンス範囲に応じた材質にずればよい。
【0071】
また、キャップコア45、45’が上つば部422に対向する面積は、上記実施形態に記載の材質に限らず、求められるインダクタンス範囲に応じた面積に調整(設計変更)すればよい。
【0072】
また、上記各実施形態では、トランス4は超音波ソナーセンサ1の一部として用いられているが、他の用途に用いられるようになっていてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 超音波ソナーセンサ
2 マイクロフォン
3 基板
4 トランス
41 ベース
42 コイル用固定コア
43 コイル
44、44’ 外側固定コア
44a 本体部
44b 絞り部
45、45’ キャップコア
46、46’ シールドケース
421 下つば部
422 上つば部
423 巻線部
424 突出部
47a〜47d リード端子
421a〜421d 切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース(41)と、
前記ベース(41)に固定され、前記ベース(41)に面する下つば部(421)と、前記下つば部(421)よりも細いと共にコイル(43)が巻かれる巻線部(423)とを有するコイル用固定コア(42)と、
前記コイル用固定コア(42)の下つば部(421)に接触または近接して前記コイル用固定コア(42)の周囲を取り囲んで前記ベース(41)に固定される外側固定コア(44、44’)と、
前記コイル用固定コア(42)から見て前記ベース(41)とは反対側において前記コイル用固定コア(42)を覆うように前記外側固定コア(44、44’)に取り付けられると共に、前記外側固定コア(44、44’)に対して移動可能になっていることで前記コイル用固定コア(42)までの距離が可変となっているキャップコア(45、45’)と、を備えたトランス。
【請求項2】
前記外側固定コア(44、44’)は、前記ベース(41)に対して垂直に立設されており、
前記コイル用固定コア(42)は、前記下つば部(421)から見て前記ベース(41)の反対側にあると共に前記巻線部(423)を介して前記下つば部(421)に繋がる上つば部(422)を備え、
前記上つば部(422)は、前記巻線部(423)よりも太く前記下つば部(421)よりも細いことを特徴とする請求項1に記載のトランス。
【請求項3】
前記ベース(41)には、リード端子(47a〜47d)が挿入されており、
前記下つば部(421)には、切り欠き(421a〜421d)または孔が設けられており、前記リード端子(47a〜47d)の前記ベース(41)から突出する一端が前記切り欠き(421a〜421d)または孔を通って前記コイル(43)に接続していることを特徴とする請求項1または2に記載のトランス。
【請求項4】
前記外側固定コア(44’)は、前記ベース(41)に対して立設されて前記コイル用固定コア42を取り囲む本体部(44a)と、前記本体部(44a)の内周面から内側に伸びる絞り部(44b)と、を備え、
前記絞り部(44b)の内周面は、円形となっており、かつ、雌ねじが形成され、
前記キャップコア(45’)の外周面は、前記絞り部(44b)の前記内側端部と同じ半径の円形となっており、当該外周には、前記雌ねじに嵌合する雄ねじが形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のトランス。
【請求項5】
車両に搭載される超音波ソナーセンサであって、
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のトランス(4)と、マイクロフォン(2)とを備えた超音波ソナーセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−49238(P2012−49238A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188314(P2010−188314)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)