説明

トランス脂肪酸含有量の低いマーガリンおよびショートニング

【課題】
エステル交換の様な特殊工程を経ることなく製造でき、高融点油脂による粗大結晶化や口溶けの悪化がなく、経日的な安定性にも優れ、且つ、トランス脂肪酸含有量が低いマーガリン、ショートニングを提供すること。
【解決手段】
20℃で液体である油脂を30%以上含有し、且つ、
(A):炭素数が16〜22の飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上
(B):炭素数が8〜14の飽和脂肪酸および炭素数が16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上
であり、(A)および(B)の総モル量において、(A)のモル比率が0.3〜0.9、(B)のモル比率が0.1〜0.7、エステル化率が40%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するマーガリン、ショートニング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス脂肪酸の含有量が低く、安定性に優れたマーガリン、ショートニングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、マーガリンおよびショートニングでは、好ましい硬さ、広い温度範囲での良好な可塑性、クリーミング性等を得るために、天然の動植物油脂に水素添加油脂を配合することが一般的に行われている。水素添加油脂を配合する方法は、マーガリン、ショートニングの融点を上昇させる典型的な方法であるが、完全水素添加油脂以外の水素添加油脂、即ち部分水素添加油脂には、通常、構成脂肪酸中にトランス脂肪酸が10〜50重量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス脂肪酸が殆ど存在せず、動物由来の油脂に10重量%未満含まれているにすぎない。トランス脂肪酸は、血液中のLDLコレステロールや中性脂肪の増加を促し、心臓血管病を引き起こすことが示唆されている。そのため、トランス脂肪酸を含まない、あるいは低減したマーガリン、ショートニングが望まれている。
【0003】
トランス脂肪酸を含まない、あるいは低減したマーガリン、ショートニング等の可塑性油脂組成物を得る方法としては、天然油脂を分別することによって得られる分別油脂を、適宜配合する方法(特許文献1)が行われているが、この方法では、好ましい硬さ、広い温度範囲での可塑性等を自由に設定することが難しい。例えば、液体油や分別軟部油等の低融点油脂に、極度硬化油や分別硬部油等の高融点油脂を配合するだけでは、広い温度域での可塑性を得るために、多量の高融点油脂を配合する必要があり、極めて口溶けの悪いものとなってしまう。更に、好ましい硬さを出すために、ラード、牛脂、パーム油等の高融点の天然油脂を用いた場合、これらの高融点の天然油脂は、粗大結晶化を生じやすい油脂であるため、製造後経日的に硬さが変化したり、滑らかさが低下して、ざらついた食感となってしまう。また、その他の方法としては、分別油脂と極度硬化油からなる油脂配合物をリパーゼによりエステル交換して部分的水素添加油脂の代替として利用する方法(特許文献2)、部分的水素添加油脂に液体油、パーム油系油脂を加えた油脂配合物をエステル交換し、トランス脂肪酸を低減した油脂として利用する方法(特許文献3)がある。しかし、この方法では、エステル交換を行うための反応設備が必要であり、また、リパーゼ等の高価な触媒を使用し、反応制御も行わねばならず、操作が煩雑で、コストが上昇するという問題点があった。
【0004】
【特許文献1】特開2004−121114号公報
【特許文献2】特開2006−160906号公報
【特許文献3】特開2005−120386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明では、エステル交換の様な特殊工程を経ることなく低コストで簡単に製造でき、高融点油脂による粗大結晶化や口溶けの悪化がなく、経日的な安定性にも優れ、且つ、トランス脂肪酸含有量が低いマーガリン、ショートニングおよび、これを用いてなる外観、食感の良好な食品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、マーガリン、ショートニングに油脂を30%以上含有させて、高融点油脂の使用量を減らし、特定の脂肪酸組成を有したポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させることで、上記課題が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、20℃で液体である油脂を30%以上含有させ、更に、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸に、(A)炭素数が16〜22の飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上と、(B)炭素数が8〜14の飽和脂肪酸および炭素数が16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上と、を有し、構成脂肪酸(A)および(B)の総モル量において、構成脂肪酸(A)のモル比率が0.3〜0.9、構成脂肪酸(B)のモル比率が0.1〜0.7、となるポリグリセリン脂肪酸エステルであり、そのエステル化率が40%以上であって、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させることを特徴としたマーガリンやショートニングに関する。
【0008】
本発明は、前記マーガリンまたはショートニングを用いてなる食品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トランス脂肪酸含有量が低く、高融点油脂による粗大結晶化や口溶けの悪化がなく、経日的に、高融点油脂が沈殿したり、液体油が分離する等の固液分離を生じることもない安定性に優れたマーガリン、ショートニングおよび、これを用いてなる食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施形態に基づき以下に説明する。本実施形態のポリグリセリン脂肪酸エステルは、所定の脂肪酸を構成脂肪酸とし、その構成脂肪酸のモル比率が限定されたものとなっている。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数が16〜22の飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上と、炭素数が8〜14の飽和脂肪酸および炭素数が16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上とを有している。
【0011】
炭素数が16〜22の飽和脂肪酸、炭素数が8〜14の飽和脂肪酸、および炭素数が16〜22の不飽和脂肪酸は、この炭素数および飽和または不飽和の条件に当てはまるものであれば、特に限定されるものではないが、主として直鎖脂肪酸が選択される。炭素数が16〜22の飽和脂肪酸には、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸等が、炭素数が8〜14の飽和脂肪酸には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸が、炭素数16〜22の不飽和脂肪酸には、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸が、例示される。
【0012】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸中における各脂肪酸のモル比率は、
(A):炭素数が16〜22の飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上、
(B):炭素数が8〜14の飽和脂肪酸および炭素数が16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上、
であり、(A)および(B)の総モル量において、(A)のモル比率が0.3〜0.9、(B)のモル比率が0.1〜0.7、となる必要がある。特に、(A)のモル比率が0.6〜0.9であることがより好適である。
【0013】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンは、その平均重合度が限定されるものではないが、2〜20であると良い。ここで、平均重合度は、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)である。詳しくは、次式(式1)および(式2)から平均重合度が算出される。
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
上記(式2)中の水酸基価とは、ポリグリセリンに含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのポリグリセリンに含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。
【0014】
本実施形態のポリグリセリン脂肪酸エステルは、エステル化率が高まるほど、油脂組成物の固液分離防止効果および油脂組成物中での分散性が高まることになるので、エステル化率が40%以上である必要がある。ここで、エステル化率とは、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、このポリグリセリンが有する水酸基数(n+2)、ポリグリセリンに付加している脂肪酸のモル数(M)としたとき、(M/(n+2))×100=エステル化率(%)で算出される値である。なお、水酸基価とは、上述の水酸基価と同様に算出される値である。
【0015】
本実施形態のポリグリセリン脂肪酸エステルは、公知のエステル化反応により製造することができる。例えば、脂肪酸とポリグリセリンとを水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒の存在下におけるエステル化反応により製造することができる。エステル化反応は、仕込んだ脂肪酸のほぼ全てがエステル化するまで反応させる。即ち、遊離の脂肪酸が殆どなくなるまで十分に反応させる。
【0016】
本実施形態におけるマーガリン、ショートニングに用いられる20℃で液体の油脂は、30%以上含有させる必要があり、より好ましくは50%以上含有させると良い。20℃で液体の油脂とは、限定されるものではないが、例えば大豆油、ナタネ油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、綿実油、ぶどう種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、かぼちゃ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、オリーブ油、カラシ油、米油、米糠油、小麦麦芽油、サフラワー油、ひまわり油およびこれらの分別油脂が例示される。更に、ジグリセライドおよび/またはモノグリセライドが含有または調合されているものであっても良い。また、油脂にはステロールやステロールエステル等が任意に含有されていても良い。その他油脂として、パーム油、パーム核油、カカオ脂、ヤシ油、ラード、乳脂、鶏脂、牛脂およびこれらの分別油脂を適宜使用することができる。
【0017】
本実施形態におけるマーガリン、ショートニングには必要に応じ、一般的にマーガリン、ショートニングに使用されている他の原料、例えば、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、リン脂質等の乳化剤、トコフェロール、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル、茶抽出物等の酸化防止剤、カロチン等の着色料、脱脂粉乳、クリーム等の乳成分、蔗糖、液糖、はちみつ、ブドウ糖、果糖、黒糖、麦芽糖、乳糖、水飴、ソルビトール、エリスリトール、異性化液糖、ショ糖結合飴、オリゴ糖、トレハロース、ヘミセルロース等の糖類、水、食塩、酸味料、調味料、香料、重合リン酸塩等の乳化安定剤、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、化工澱粉、澱粉等の増粘安定剤等を、適宜使用することができる。
【0018】
本実施形態のポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したマーガリン、ショートニングは、経日的な油脂の粗大結晶化や固液分離が抑えられるため、可塑性、展延性、ショートニング性、クリーミング性等の物理的性質が好適に付与されてなり、食品に使用することが可能である。
【0019】
本実施形態におけるポリグリセリン脂肪酸エステルは、その使用量の増加と共により多くの液体の油脂を配合でき、高融点油脂による口溶けの悪化や固液分離を抑制できる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの使用量は、油脂組成物中、0.01〜10.0重量%となる量であると良く、より好ましくは0.5重量%以上である。
【0020】
本実施形態のマーガリン、ショートニングは、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が少量であるので、食品の風味の悪化が抑えられる。本発明のマーガリン、ショートニングを利用してなる食品としては、通常のマーガリン、ショートニングを用いる食品であれば、特に限定はないが、具体的には、食パン、菓子パン、デニッシュ・ペストリー、パイ、シュー、ドーナツ、ケーキ、クッキー、ワッフル、マフィン、ハードビスケット、スコーン等のベーカリー製品に使用することができる。また、これらの用途における本発明のマーガリン、ショートニングの使用量は、使用用途により異なるものであり、特に限定されるものではない。
【0021】
以下に実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。尚、実施例及び比較例において、平均重合度が10のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#750」を、平均重合度が6のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#500」を、平均重合度が4のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#310」を使用した。
【0022】
<実施例1>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとカプリン酸82.6g、ベヘン酸326.4gから成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率90%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0023】
<実施例2>
平均重合度が4のポリグリセリン100gとミリスチン酸103.0g、ベヘン酸307.3gから成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率70%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0024】
<実施例3>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとオレイン酸81.2g、ベヘン酸391.7gから成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率90%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0025】
<実施例4>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとステアリン酸86.3g、ベヘン酸310.0g、オレイン酸85.7gから成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率95%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0026】
<実施例5>
平均重合度が6のポリグリセリン100gとラウリン酸38.4g、ステアリン酸54.5g、ベヘン酸195.8gから成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率60%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0027】
<実施例6>
平均重合度が4のポリグリセリン100gとカプリン酸53.3g、ステアリン酸263.8g、ベヘン酸105.3gから成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率80%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0028】
<比較例1>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとパルミチン酸81.9gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率20%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0029】
<比較例2>
平均重合度が6のポリグリセリン100gとパルミチン酸102.4g、ステアリン酸を113.6gから成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率50%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0030】
以上の実施例および比較例のポリグリセリン脂肪酸エステルを表1に示した。尚、表1中、モル比率は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の全モル量に対する各構成脂肪酸の比率である。表1に示したポリグリセリン脂肪酸エステルを次の試験例1に基づき、マーガリンでの安定性に対する効果を確認した。
【0031】
【表1】

【0032】
[試験例1]
マーガリンの安定性
表2に示す配合に従い、精製パーム油と大豆油からなる原料油脂に対して実施例および比較例のエステルを1重量%含有させた油脂組成物とし、80℃まで加温、溶解したものを油相とした。一方、水に食塩、脱脂粉乳、大豆レシチン、香料を加えて溶解し、70℃まで加温したものを水相とした。油相中に水相を徐々に加えて油中水型に乳化した後、通常のマーガリン製造工程に従い、冷却、捏和によりマーガリンを調製した。次いで、マーガリンを容器に充填し、20℃のインキュベータ内にて1日保存後、状態を目視にて確認した。また、表3に示すナタネ極度硬化油と大豆油を原料油脂とした配合のマーガリンについても同様に、各実施例および比較例のエステルを1重量%含有させてマーガリンを調製し、20℃のインキュベータ内にて1日保存後、状態を目視にて確認した。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
試験例1の評価を、マーガリンの状態を基準に次の通り行った。
◎:固液分離は全く見られなく、均一な状態である。
○:表面に斑点上の液体油が若干見られる。
△:表面にかなりの液体油が見られる。
×:固液分離が発生し、完全に分離している。
試験例1の結果を表4に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
表4に示す通り、比較例1、2のエステルを添加したマーガリンは、固液分離が生じた。一方、本願発明のポリグリセリン脂肪酸エステルである実施例のエステルを添加したマーガリンは何れも固液分離が生じておらず、均一で滑らかな状態であった。
【0038】
次に、以下の試験例2に基づき、実施例および比較例のエステルを添加して調製したマーガリンを用いて、ロールパンを焼成し、得られたロールパンの内相のキメ、食感について確認試験を行う。
【0039】
[試験例2]
表5に示す配合に従い、強力粉、薄力粉、砂糖、イーストフード、食塩、脱脂粉乳を混合後、イースト、全卵を加えミキシングする。その後、実施例および比較例のマーガリンを加え、28℃になるよう捏上げ、50分予備発酵をさせる。続いて、パンチ後、フロアタイム30分で発酵を行い、分割し、ベンチタイム30分後、成形してホイロ38℃・50分、焼成200℃・10分でロールパンを作成する。このロールパンの内相のキメ、食感について確認試験を行う。この試験の代表結果を表6に示す。
【0040】
【表5】

【0041】
試験例2の評価を、ロールパンの内相のキメ、食感を基準に次の通り行う。
○:良好
△:やや劣る
×:劣る
【0042】
【表6】

【0043】
表6に示す通り、固液分離を生じていた比較例1のマーガリンを用いたロールパンは内相のキメが悪く、食感は硬いものとなる。一方、本願発明のポリグリセリン脂肪酸エステルである実施例のエステルを添加したマーガリンを用いたロールパンは内相のキメが良好で、ソフトで柔らかい食感となる。
【0044】
続いて、表1に示した実施例および比較例のエステルを以下の試験例3に基づき、ショートニングでの安定性に対する効果を確認した。
【0045】
[試験例3]
ショートニングの安定性
80℃に加熱した精製パーム油と大豆油を30:70の割合で混合し、これに実施例および比較例のエステルを1重量%、3重量%含有させ、80℃まで加熱、溶解した後、通常のショートニング製造工程に従い、冷却、捏和し、ショートニングを得た。次いで、ショートニングを容器に充填し、20℃のインキュベータ内にて1日テンパリングを行った後、状態を目視にて確認した。また、ナタネ極度硬化油と大豆油を3:97の割合で混合し、実施例および比較例のエステルを1重量%、3重量%含有させて調製したショートニングについても、20℃のインキュベータ内にて1日テンパリングを行った後、状態を目視にて確認した。
【0046】
試験例3の評価を、ショートニングの状態を基準に次の通り行った。
◎:固液分離は全く見られなく、均一な状態である。
○:表面に斑点上の液体油が若干見られる。
△:表面にかなりの液体油が見られる。
×:固液分離が発生し、完全に分離している。
試験例3の結果を表7に示す。
【0047】
【表7】

【0048】
表7に示す通り、比較例1、2は固液分離を生じていた。一方、本願発明のポリグリセリン脂肪酸エステルである実施例のエステルを添加したショートニングは何れも固液分離が生じておらず、均一で滑らかな状態であった。
【0049】
次に、以下の試験例4に基づき、実施例および比較例のエステルを3重量%添加して調製したショートニングを用いて、バターケーキを焼成し、得られたバターケーキの内相のキメ、食感について確認試験を行った。
【0050】
[試験例4]
ケーキ生地の作成は表8に示す配合に従い、シュガーバッター法に準じて行った。したがって、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加して調製したショートニングを数分間攪拌後、砂糖を加えて比重が0.8になるまで攪拌した。次に、全卵を4回に分けて加え、均一に混合されるまで攪拌した。これに、薄力粉、ベーキングパウダー、水を加え均一になるまで攪拌し、ケーキ生地とした。このケーキ生地をパウンド型に入れ、オーブンで約50分間焼成し、バターケーキを作成した。得られたバターケーキの内相のキメ、食感について確認試験を行った。この試験の代表結果を表9に示す。
【0051】
【表8】

【0052】
試験例4の評価を、バターケーキの内相のキメ、食感を基準に次の通り行った。
○:良好
△:やや劣る
×:劣る
【0053】
【表9】

【0054】
表9に示す通り、固液分離を生じていた比較例のショートニングを用いたバターケーキは内相のキメが悪く、食感は硬いものとなった。一方、本願発明のポリグリセリン脂肪酸エステルである実施例のエステルを添加したショートニングを用いたバターケーキは内相のキメが良好で、ソフトで柔らかい食感となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃で液体である油脂を30%以上含有し、且つ、下記条件を満たすポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するマーガリンおよびショートニング。
ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸および構成脂肪酸中における各脂肪酸のモル比率が、
(A):炭素数が16〜22の飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上
(B):炭素数が8〜14の飽和脂肪酸および炭素数が16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上であり、(A)および(B)の総モル量において、(A)のモル比率が0.3〜0.9、(B)のモル比率が0.1〜0.7、エステル化率が40%以上。
【請求項2】
請求項1に記載のマーガリンまたはショートニングを用いてなる食品。

【公開番号】特開2008−125358(P2008−125358A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310029(P2006−310029)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】