説明

トランス

【課題】 1次コイルの外周部に2重捲にした2次コイルを配設したトランスにおいて、1次コイルに対する冷却効果を高めることのできるトランスを提供する。
【解決手段】 一対のE型コア2a、2bの磁芯部10にボビン5を介して1次コイル3と2次コイル4とを2重捲きに配設する。1次コイル3と2次コイル4との間には、スペーサ7を配設し、ボビン5とE型コア2a、2bとの間には間隙12を形成する。また、ボビン5の捲き軸5a及びフランジ部5bには、それぞれ複数の貫通孔6を形成する。隙間12及び貫通孔6に樹脂材18を充填することで、特に、1次コイル3に対する冷却効果を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、1次コイルの外周部に、1次コイルと同芯状に2次コイルを配設したトランスにおける冷却構成に関し、特に、1次コイルに対する冷却効果を高めたトランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から発熱したトランスを冷却する構成が各種提案されている。1次コイルの外周部に2次コイルを配設したトランスでは、コアを機械的に放熱板に接触させることでトランスの発熱を低減させている構成(特許文献1参照)が提案されている。また、トランスを収納した容器内に冷却油を充満させた構成(特許文献2参照)なども提案されている。
【0003】
特許文献1に記載されたトランスを本願発明における従来例1として、図7には一部を切り欠いた正面図を示している。図7に示すように、1次コイル31と2次コイル32とを捲装させたフェライトコア33の端面には、不図示の貫通孔を有した平面状の突起34が設けられている。平面状の突起34は、クリップまたは貫通孔に通したネジ等によって外部の放熱板と機械的に接触固定できる構成となっている。フェライトコア33と放熱板とを機械的に接触させて固定することで、フェライトコア33における放熱効果を向上させ、トランスの発熱を低減している。
【0004】
特許文献2に記載された電子レンジ用の高圧トランスファーマの冷却装置を本願発明における従来例2として、図8には容器内に収納した高圧トランスファーマの斜視図を示している。図8に示すように、符号43で示す1次コイルと2次コイルとがE型のコア44に挿入されている。1次コイルと2次コイルとを収納したE型のコア44にはI型のコア45が溶接されており、高圧トランスフォーマ40を構成している。
高圧トランスフォーマ40は容器41とカバー42とで構成される空間内に収納され、高圧トランスフォーマ40を収納した空間内には冷却油46が注入されている。
【特許文献1】実願平3−103886号(実開平5−53218号)のCD−ROM
【特許文献2】特開2003−332148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すトランスでは、トランスの冷却は主として放熱板を介して行われている。放熱板に接触したコア部の冷却は、ある程度行われるにしても、放熱板に接触したコア部から離れた部位、特に、1次コイル31で発生した熱を冷却するには、放熱板によるコアの冷却だけでは足りず、コアの内を通過する空気によって行わなければならない。しかしながら、コアの内を通過する空気によって行われる1次コイル31の冷却は、僅かなものでしかなかった。
【0006】
特許文献2に記載された冷却装置では、冷却油46を介して冷却を行うので、1次コイルや2次コイルに対しても、図8の手前側と奥側との両側端面側で冷却液が面接触することができ、両コイルの冷却を行うことができる。しかし、特許文献2に記載された冷却装置は、1次コイルと2次コイルとがコア44に対して直列状態に配された構成となっており、1次コイルの外周面の外側に2次コイルを2重捲で配設しているものではない。
【0007】
このため、仮に、1次コイルの外周面の外側に2次コイルを2重捲にしたトランスを容器41内に収納したとしても、冷却液と面接触することができるのは、2次コイルの側面側だけとなってしまう。また、冷却液を1次コイルの周囲に亘って流すことができる構成については、特に考慮されていないため、1次コイルを冷却することは難しかった。
【0008】
このように、従来のトランスでは、コアの冷却や2次コイルの冷却は行うことができたが、2層構造の内側に配されている1次コイルの冷却を充分に行い得るトランスは提案されていなかった。
本願発明では、1次コイルの外周部に2重捲にした2次コイルを配設したトランスにおいて、1次コイルに対する冷却効果を高めることのできるトランスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の課題は請求項1〜3に記載された各発明により達成することができる。
即ち、本願発明では、1次コイルの外周面から所定の間隙を離間して、前記1次コイルと同芯状に2次コイルを配設したトランスであって、前記1次コイルを捲装してコアに収納されるボビンが、その捲き軸及びフランジ部にそれぞれ複数の貫通孔を形成してなることを最も主要な特徴となしている。
【0010】
また、本願発明では、1次コイルと前記2次コイルとの間の間隙を調整するスペーサを配設することを主要な特徴となしている。
更に、本願発明では、1次コイルと2次コイルとコアとの間、及びボビンに形成した貫通孔にそれぞれ伝熱性の良い樹脂材等を充填してなることを主要な特徴となしている。
【発明の効果】
【0011】
本願発明では、1次コイルを捲装してコアに収納されるボビンに、その捲き軸及びフランジ部にそれぞれ複数の貫通孔を形成しているので、複数の貫通孔を介して冷却液や冷却用空気を1次コイルに対して広く供給することができる。また、複数の貫通孔を介して伝熱性の良い樹脂材等を注入して、1次コイルの周面から内部まで樹脂材を浸透させることもできる。
【0012】
これによって、1次コイルで発生した熱を、冷却液や冷却用空気を介して取り出すことができるようになり、また、注入した伝熱性の良い樹脂材等を介して1次コイルで発生した熱を外部に取り出すことができるようになる。これによって、1次コイルに対する冷却効果を大いに高めることができる。
【0013】
また、1次コイルと前記2次コイルとの間の間隙を、スペーサを用いて調整することができるので、トランスにおける漏れインダクダンスを任意に調整することができるようになる。
【0014】
更に、1次コイルと2次コイルとコアとの間、及びボビンに形成した貫通孔にそれぞれ熱伝導率の高い樹脂材等を充填することで、樹脂材等を介してトランス内で発生した熱を外部に放出し易くなり、1次コイルの冷却と合わせてトランス全体の冷却効果を高めることができる。一般に樹脂材は、空気に比べて熱伝導率の高いので、樹脂材を用いるだけでも、空冷状態よりも冷却効果を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本願発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本願発明におけるトランスの構成としては、以下で説明する形状、配置構成以外にも本願発明の課題を解決することができる形状、配置構成であれば、それらの形状、配置構成を採用することができるものである。
【0016】
以下では、EE型のトランスを例に挙げて本願発明の説明を行っていくが、本願発明は、EE型に限定されて適用されるものではなく、EI型のトランスなどの1次コイルの外周部に2重捲にした2次コイルを配設したトランスに対しても、好適に適用することができる。このため、本願発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、多様な変更が可能である。
【実施例】
【0017】
図1は、本願発明の実施形態に係わるトランスの斜視図である。図2は、トランスを真横に輪切りした図1のII−II断面図であり、図3は、トランスを縦に切断した図1のIII−III断面図である。
【0018】
図1〜図3で示すように、閉磁路構造のE型コア2a、2bの磁芯部10に、1次コイル3と2次コイル4とを配設する。1次コイル3は磁芯部10に装着されるボビン5に捲装されるとともに、1次コイル3の外周部に配設したスペーサ7には2次コイル4が捲装されている。
【0019】
ボビン5は、図4の斜視図に示すような一対のフランジ部5bと捲き軸5aとを有する形状に構成されている。また、ボビン5は、特に図4で示すように、捲き軸5aとフランジ部5bとにそれぞれ複数個の貫通孔6が形成されている。
【0020】
図1〜図3で示すように、E型コア2a、2bは、磁芯部10と外側部11及び磁芯部10と外側部11とを接続する上底面部9を備えた構成となっている。上底面部9は、図1で示すように、フランジ部5bの露呈面積が大きくなるように外側部11側から磁芯部10に向かって絞られた形状に構成されている。
【0021】
磁芯部10にボビン5を装着することで、図2、図3で示すように磁芯部10に対して同芯状に1次コイル3と2次コイル4とを2重捲きに配設することができる。このとき、ボビン5とE型コア2a、2bとの間に間隙12が形成されるように配設することができる。間隙12としては、ボビン5の捲き軸5aと磁芯部10との間、ボビン5のフランジ部5bと上底面部9との間、及び2次コイル4の外周面とE型コア2a、2bの外側部11との間に形成することができるが、これらの各間隙の大きさは、等しい間隙寸法として形成することも、異なる間隙寸法として構成することもできる。
【0022】
また、1次コイル3と2次コイル4との間は、スペーサ7によって調整することができる。スペーサ7の厚さは、どの程度の漏れインダクダンスを設計しておくかに基づいて、漏れインダクダンスを求める計算式等を用いて予め設定しておくことができる。
【0023】
1次コイル3、2次コイル4としては、例えば、ポリウレタンエナメル線等を用いることができる。1次コイル3は、コイル捲き線機等を用いてボビン5に捲き付けておくことができる。また、2次コイル4としては、コイル捲き線機等を用いてスペーサ7に捲き付けておくことも、ボビン5に捲装した1次コイル3に装着したスペーサ7に対して、コイル捲き線機等を用いて捲き付けておくこともできる。
【0024】
また、必要に応じて、ボビン5に装着した1次コイル3及び2次コイル4に対して、含浸用樹脂を用いて含浸処理を施しておくこともできる。含浸用樹脂としては、公知のものを使用することができるが、絶縁性、硬化性、熱伝導性等の観点から、無溶剤型熱硬化樹脂、例えば、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル系樹脂などを用いることができる。
【0025】
図5、図6に示すように、1次コイル3、2次コイル4を装着して完成したトランス1は、トランス1に対する冷却を行うため、密閉状態にすることができるケース15内の空間部16に収納される。ケース15内には樹脂材18が充填され、ケース15内に充填された樹脂材18は、ボビン5の捲き軸5aと磁芯部10との間、ボビン5のフランジ部5bと上底面部9との間、及び2次コイル4の外周面とE型コア2a、2bの外側部11との間にそれぞれ形成された間隙12内に浸入することになる。また、樹脂材18を用いる代りに、熱伝導率の高い放熱グリスなどを用いておくこともできる。
【0026】
特に、ボビン5の捲き軸5aと磁芯部10との間、ボビン5のフランジ部5bと上底面部9との間に浸入した樹脂材18は、ボビン5に形成した貫通孔6内やスペーサ7内に浸入することができる。これにより、E型コア2a、2bの周囲以外にも、1次コイル3及び2次コイル4も樹脂材18によって覆うことができる。
【0027】
これにより、1次コイル3及び2次コイル4で発生した熱は、E型コア2a、2bを伝わって放熱されると共に、樹脂材18を介して外部に放熱することができる。したがって、特に、1次コイル3で発熱した熱を効率的に冷却することができる。
【0028】
樹脂材18としては、公知のものを使用することができるが、絶縁性、硬化性、熱伝導性等の観点から、無溶剤型熱硬化樹脂、例えば、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル系樹脂などを用いることができる。
【0029】
上述した例では、ケース15内にトランス1を配設した後に、樹脂材18を充填する例を説明した。しかし、ボビン5に形成した貫通孔6内やスペーサ7内に樹脂材18を強制的に浸入させて充填するため、予め真空吸引させながらトランス1に対して樹脂材18を注入しておくこともできる。この場合には、樹脂材18が充填されたトランス1をケース15内に配設することになる。
【0030】
ケース15内に配設したトランス1に樹脂材18を充填した状態は、図5及び図6に示している。図5は、ケース15内に収納したトランス1の縦断面図を示しており、図6は、ケース15を仮想線で示した斜視図を示している。
【0031】
尚、図1〜図6において、1次コイル3及び2次コイル4における電線の端子部の図示は省略しているが、各コイルの端子部としては、従来から公知の方法で、ケース15の外部まで配線することができる。また、ケース15は、容器本体と同容器本体に取り付けられる蓋部とから構成されているが、蓋部の構成は省略して示している。また、容器本体又は蓋部には、ケース15内に樹脂材18を充填する充填口、ケース15内の空気を逃がす排気口等が形成されてはいるが、これらの構成は、本願発明の特徴部を構成するものではないので図示を省略している。これらの構成としては、従来から公知の各種構成を採用することができる。
【0032】
また、ボビン5とE型コア2a、2bとの間に間隙12を形成する方法としては、従来から公知の適宜の方法を採用することができるものである。例えば、間隙12を形成するボビン5側に、間隙12の寸法を有するポッチ、突起等を形成しておくことも、間隙12の幅を有するスペーサを用いることなどにより、間隙12の寸法を規制させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本願発明は、本願発明の技術思想を適用することができる装置等に対しては、本願発明の技術思想を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】トランスの斜視図である。(実施例)
【図2】図1のII―II断面図である。(実施例)
【図3】図1のIII―III断面図である。(実施例)
【図4】ボビンの斜視図である。(実施例)
【図5】ケース内に収納したトランスの縦断面図である。(実施例)
【図6】ケース内に収納したトランスの斜視図である。(実施例)
【図7】トランスの一部を切り欠いた断面図である。(従来例1)
【図8】容器内に収納した高圧トランスファーマの斜視図である。(従来例2)
【符号の説明】
【0035】
1・・・トランス、2a、2b・・・E型コア、3・・・1次コイル、4・・・2次コイル、5・・・ボビン、6・・・貫通孔、7・・・スペーサ、9・・・上底部、10・・・磁芯部、11・・・外側部、12・・・間隙、15・・・ケース、18・・・樹脂材、31・・・1次コイル、32・・・2次コイル、33・・・フェライトコア、34・・・突起、40・・・トランスフォーマ、41・・・容器、43・・・1次コイル、2次コイル、44・・・E型コア、45・・・I型コア、46・・・冷却油。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次コイルの外周面から所定の間隙を離間して、前記1次コイルと同芯状に2次コイルを配設したトランスであって、
前記1次コイルを捲装してコアに収納されるボビンが、その捲き軸及びフランジ部にそれぞれ複数の貫通孔を形成してなることを特徴とするトランス。
【請求項2】
前記1次コイルと前記2次コイルとの間の間隙を、所望の間隙に調整するスペーサが配設されてなることを特徴とする請求項1記載のトランス。
【請求項3】
前記1次コイルと前記2次コイルと前記コアとの間、及び前記ボビンに形成された貫通孔にそれぞれ伝熱性のよい樹脂材等が充填されてなることを特徴とする請求項1又は2記載のトランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−153293(P2008−153293A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337293(P2006−337293)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】