説明

トランス

【課題】工数を低減することができるとともに、特性のばらつきを抑制することができるトランスを提供すること。
【解決手段】本発明のトランス1は、複数のコイル21と、外周に該複数のコイル21が巻回されたコア3とを有する。複数のコイル21は、柔軟性を有する絶縁体2の表面に、該複数のコイル21をそれぞれ構成する複数の導体パターン210が並列して形成されたフレキシブル基板20を、コア3の外周に巻回してなる。また、複数の導体パターン210は、それぞれの長さが異なるよう形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力電圧を変圧するためのトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばDC−DCコンバータ等には、入力電圧を変圧するためのトランスが備え付けられている。
そして、図6に示すように、従来のトランス9は、複数の導体線920からなる複数のコイル921と、外周に該複数のコイル921が巻回されたコア93とを有する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−47571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来のトランス9には、以下のような問題がある。すなわち、複数のコイル921をコア93の外周に巻回するに当たっては、コア93を取り巻くよう複数回にわたって導体線920を巻きつける必要がある。さらに、コイル921同士の絶縁を図るため、コイル921と絶縁フィルム922とを交互に巻回する必要がある。それゆえ、コイル921の本数や巻き数が増えるに従って、トランス9の製造過程における工数が増大してしまうおそれがある。
また、導体線920の巻き方によっては、コイル92の巻き数や電流の経路に偏りが生じてしまい、その結果、トランス9の特性がばらついてしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、工数を低減することができるとともに、特性のばらつきを抑制することができるトランスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数のコイルと、外周に該複数のコイルが巻回されたコアとを有するトランスであって、
上記複数のコイルは、柔軟性を有する絶縁体の表面に、上記複数のコイルをそれぞれ構成する複数の導体パターンが並列して形成されたフレキシブル基板を、上記コアの外周に巻回してなることを特徴とするトランスにある(請求項1)。
【0007】
本発明の作用効果について説明する。
上記複数のコイルは、該複数のコイルを構成する複数の導体パターンを形成したフレキシブル基板を、上記コアの外周に巻回してなる。すなわち、あらかじめ形成したフレキシブル基板をコアの外周に巻回することにより、複数のコイルのすべてを同時にコアの外周に巻回することができる。それゆえ、コアの外周にコイルを容易に巻回することができるとともに、トランスの製造過程における工数を低減することができる。
【0008】
また、上記フレキシブル基板は、表面に導体パターンを形成した絶縁性のある絶縁体からなるため、コイルと絶縁フィルム等とを交互に巻回してコイルを絶縁する必要がない。それゆえ、コイルの本数や巻き数が増えても、トランスの製造過程における工数が増大することを十分に抑制することができる。
【0009】
また、フレキシブル基板を形成するに際して導体パターンのピッチや形成長さを十分に調整し、かつフレキシブル基板を精度良くコアに巻回することにより、コイルの巻き数や電流の経路に偏りを生じにくくすることができる。これにより、特性のばらつきが生じにくいトランスを容易に得ることができる。
【0010】
このように、本発明によれば、工数を低減することができるとともに、特性のばらつきを抑制することができるトランスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明(請求項1)における上記トランスは、例えば、DC−DCコンバータ等に備え付けられ、入力電圧の変圧を行う。
上記コアとして、例えば、フェライトからなるものを用いることができる。
上記フレキシブル基板に用いる上記絶縁体として、例えば、ポリイミド等からなるものを用いることができる。
【0012】
また、上記複数の導体パターンは、それぞれの長さが異なるよう形成されていることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記複数の導体パターンの巻き数を互いに異ならせることができる。これにより、種々の用途・機能に応じたトランスを容易に作製することができる。
【0013】
また、上記フレキシブル基板は、内側に上記コアの少なくとも一部を挿通するための挿通孔を有するボビンに巻きつけることが好ましい(請求項3)。
この場合には、フレキシブル基板をボビンに巻きつけることにより、コイルを容易に巻回することができる。その結果、生産効率良くトランスを作製することができる。
【0014】
また、上記複数の導体パターンのうち少なくとも一部の上記導体パターンは、上記フレキシブル基板を貫通するよう形成されたスルーホールを介して上記絶縁体の両面にわたって形成することもできる(請求項4)。
この場合には、低コストのトランスを作製することができる。すなわち、絶縁体の両面に導体パターンを形成する構成と、その片面のみに導体パターンを形成する構成とを比較すると、同じ巻き数のコイルを構成するに際して、前者の方がフレキシブル基板の所要部分を短くすることができる。それゆえ、フレキシブル基板の材料コストを低減することができ、ひいてはトランスの製造コストを低減することができる。
【0015】
また、上記複数の導体パターンは、上記フレキシブル基板において互いに平行となるように直線状で形成されており、上記導体パターンの形成方向に上記フレキシブル基板が巻回されることが好ましい(請求項5)。
この場合には、導体パターンを容易に形成することができる。その結果、フレキシブル基板、ひいてはトランスを生産効率良く作製することができる。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
本発明の実施例に係るトランスについて、図1〜図3を用いて説明する。
本例のトランス1は、図1に示すように、複数のコイル21と、外周に該複数のコイル21が巻回されたコア3とを有する。
複数のコイル21は、図1〜図3に示すように、柔軟性を有する絶縁体2の表面に、該複数のコイル21をそれぞれ構成する複数の導体パターン210が並列して形成されたフレキシブル基板20を、コア3の外周に巻回してなる。
【0017】
本例のトランス1について詳細に説明する。
本例におけるトランス1は、例えば、DC−DCコンバータ等に備え付けられ、入力電圧の変圧を行う。
本例のトランス1は、上述したように、複数のコイル21とコア3とを有する。
【0018】
コア3は、図1に示すように、互いにE字形状に形成された一対のコア部材31からなる。
該コア部材31は、平板状に形成された底面部311と、該底面部311の端縁から垂直に立ち上がる側面部312と、底面部311の略中央において側面部312の形成方向と同方向に突出形成された中央磁脚313とを有する。
【0019】
そして、コア3は、一対のコア部材31の側面部312の先端部同士を互いに当接させた状態で対向させてなるとともに、互いの中央磁脚313の先端部同士を対向させて両者の間にエアギャップ5を形成してなる。
コア部材313として、例えば、フェライトからなるものを用いることができる。
【0020】
フレキシブル基板20に用いる絶縁体2として、例えば、ポリイミド等からなるものを用いることができる。
フレキシブル基板20は、図1に示すように、内側にコア3の一部を挿通するための挿通孔40を有するボビン4に巻きつけてある。すなわち、コイル21は、フレキシブル基板20を図3に示す矢印Xの方向にボビン4に巻きつけてなる。
また、本例では、ボビン4の挿通孔40には、コア部材31に設けられた中央磁脚313が挿通されている。
ボビン4は、例えば、樹脂等からなるものを用いることができる。
【0021】
本例において、複数の導体パターン210は、それぞれの長さが異なるよう形成されている。具体的には、図2に示すように、長さが種々異なる導体パターン210が3つ形成されている。
該3つの導体パターン210はそれぞれ、絶縁体2の長手方向に形成されており、その両端から同一方向に直角に折れ曲がって、絶縁体2の一つの長辺215にまで達している。すなわち、本例における導体パターン210は、図2に示すように、略コの字形状に形成されている。
絶縁体2の一つの長辺215に配される導体パターン210の端部213、214は、図1に示すように、それぞれ接続端子6と接続されている。そして、該接続端子6を介して導体パターン210に電流が流れることにより、コイル21に通電される。
【0022】
次に、コイル21について説明する。なお、以下では説明の便宜上、3つの導体パターン210のうち、長さが最も長い導体パターン210を第一導体パターン210a、その次に長い導体パターン210を第二導体パターン210b、長さが最も短い導体パターン210を第三導体パターン210cと呼ぶこととする。
【0023】
本例においては、複数のコイル21のうち、図1に示すように、上記第一導体パターン210aと上記第三導体パターン210cとが、それぞれ通電により磁束を発生させる一次コイル211を構成している。
上記第二導体パターン210bは、一次コイル211への通電により生じる磁束を打ち消すように電流が流れる二次コイル212を構成している。
【0024】
ここで、第一導体パターン210aは3つの導体パターン210のうち最も長いため、図1に示されるように、これによって構成される一次コイル211は3つのコイル21のうち最も巻き数が多くなっている。一方、第三導体パターン210cは3つの導体パターン210のうち最も短いため、これによって構成される一次コイル211は3つのコイル21のうち最も巻き数が少なくなっている。
【0025】
なお、本例においては、上述したように、複数の導体パターン210はフレキシブル基板20の長手方向に平行に、かつ、複数の導体パターン210が互いに平行となるよう直線状に形成したが、例えば図4に示すように、それぞれの導体パターン210を平行に形成しつつも、フレキシブル基板20の長手方向に対して斜めに形成することもできる。
【0026】
次に、本例のトランスの作製手順について説明する。
まず、例えば、柔軟性を有し銅箔が施された略長方形状の絶縁体2の表面に、例えばエッチング等によりコイル21の本数分である3本の導体パターン210を印刷する。このとき、導体パターン210同士のピッチや形成長さ等を十分に調整しておくことで、所望の特性を有するコイル21を容易に得ることができる。
次いで、上記ペーストを乾燥させることにより、上記フレキシブル基板20が形成される。
【0027】
次いで、かかるフレキシブル基板20を、図3に示す矢印Xの向きにボビン4の外周に巻きつけていく。このとき、フレキシブル基板20の巻き始めの部分を正確に固定しておくとよい。具体的には、フレキシブル基板20における長手方向の端縁、すなわち巻き始めの部分をボビン4の軸方向に平行となるように固定する。そして、あとはボビン4にフレキシブル基板20を機械的に巻きつけていく。これにより、導体パターン210同士のピッチや巻き数を容易に所望のものとすることができる。
【0028】
次いで、一対のコア部材31の中央磁脚313をボビン4の中央部に形成された貫通孔40に挿通していく。このとき、一対のコア部材31の互いの中央磁脚313の先端部同士の間には、図1に示すようなエアギャップ5が形成される。
そして、中央磁脚313を貫通孔40に挿通していき、側面部312の先端部同士を当接されることにより本例のトランス1が作製される。
【0029】
次に、本例の作用効果について説明する。
複数のコイル21は、該複数のコイル21を構成する複数の導体パターン210を形成したフレキシブル基板2を、コア3の外周に巻回してなる。すなわち、あらかじめ形成したフレキシブル基板20をコア3の外周に巻回することにより、複数のコイル21のすべてを同時にコア3の外周に巻回することができる。それゆえ、コア3の外周にコイル21を容易に巻回することができるとともに、トランス1の製造過程における工数を低減することができる。
【0030】
また、フレキシブル基板20は、表面に導体パターン210を形成した絶縁性のある絶縁体2からなるため、コイル21と絶縁フィルム等とを交互に巻回してコイル21を絶縁する必要がない。それゆえ、本例によれば、コイル21の本数や巻き数が増えても、トランス1の製造過程における工数が増大することを十分に抑制することができる。
【0031】
また、フレキシブル基板20を形成するに際して導体パターン210のピッチや形成長さを十分に調整し、かつフレキシブル基板20を精度良くコア3に巻回することにより、コイル21の巻き数や電流の経路に偏りを生じにくくすることができる。これにより、特性のばらつきが生じにくいトランス1を容易に得ることができる。
【0032】
また、複数の導体パターン210は、それぞれの長さが異なるよう形成されているため、導体パターン210の形成長さを種々変更することにより、複数の導体パターン210の巻き数を互いに異ならせることができる。これにより、種々の用途・機能に応じたトランス1を容易に作製することができる。
【0033】
また、フレキシブル基板20は、内側にコア3の少なくとも一部を挿通するための挿通孔40を有するボビン4に巻きつけるため、コイル21を容易に巻回することができる。その結果、生産効率良くトランス1を作製することができる。
【0034】
また、複数の導体パターン210は、フレキシブル基板20において互いに平行となるように直線状で形成されており、導体パターン210の形成方向にフレキシブル基板20が巻回されるため、導体パターン210を容易に形成することができる。これにより、フレキシブル基板2、ひいてはトランス1を生産効率良く作製することができる。
【0035】
このように、本例によれば、工数を低減することができるとともに、特性のばらつきを抑制することができるトランスを提供することができる。
【0036】
(実施例2)
本例は、図5に示すように、複数の導体パターン210のうち少なくとも一部の導体パターン210が、フレキシブル基板20を貫通するよう形成されたスルーホール200を介して絶縁体2の両面にわたって形成されているフレキシブル基板20の例である。
【0037】
なお、例えば、第一導体パターン210aだけを絶縁体2の両面に形成することもできるし、すべての導体パターン210について絶縁体2の両面に形成することもできる。
また、スルーホール200には、例えば、銅等の導体が充填され、あるいは成膜されている。
なお、本例において使用した符号は、図1において用いた符号に準ずる。
その他は、実施例1と同様である。
【0038】
本例の場合には、低コストのトランス1を作製することができる。すなわち、絶縁体2の両面に導体パターン210を形成する構成と、その片面のみに導体パターン210を形成する構成とを比較すると、同じ巻き数のコイル21を構成するに際して、前者の方がフレキシブル基板2の所要部分を短くすることができる。それゆえ、フレキシブル基板2の材料コストを低減することができ、ひいてはトランス1の製造コストを低減することができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1における、トランスの縦断面図。
【図2】実施例1における、フレキシブル基板の平面図。
【図3】実施例1における、フレキシブル基板をボビンに巻回する状態を示す斜視図。
【図4】実施例1における、導体パターンの形成方法の別形態を示すフレキシブル基板の上面図。
【図5】実施例2における、導体パターンが絶縁体の両面に形成されているフレキシブル基板の断面図。
【図6】従来例における、トランスの縦断面図。
【符号の説明】
【0040】
1 トランス
2 絶縁体
20 フレキシブル基板
21 コイル
210 導体パターン
3 コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコイルと、外周に該複数のコイルが巻回されたコアとを有するトランスであって、
上記複数のコイルは、柔軟性を有する絶縁体の表面に、上記複数のコイルをそれぞれ構成する複数の導体パターンが並列して形成されたフレキシブル基板を、上記コアの外周に巻回してなることを特徴とするトランス。
【請求項2】
請求項1において、上記複数の導体パターンは、それぞれの長さが異なるよう形成されていることを特徴とするトランス。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記フレキシブル基板は、内側に上記コアの少なくとも一部を挿通するための挿通孔を有するボビンに巻きつけてあることを特徴とするトランス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記複数の導体パターンのうち少なくとも一部の上記導体パターンは、上記フレキシブル基板を貫通するよう形成されたスルーホールを介して上記絶縁体の両面にわたって形成されていることを特徴とするトランス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記複数の導体パターンは、上記フレキシブル基板において互いに平行となるよう直線状に形成されており、上記導体パターンの形成方向に上記フレキシブル基板が巻回されることを特徴とするトランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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