説明

トランス

【課題】一次・二次バイファイラ巻コイルが嵩だかに巻き太ることを無くして全体形状の大型化、電気抵抗の増大、漏れインダクタンスの増加及び一次・二次コイル間の電磁的結合性の低下を無くし、冷却性能を向上させて過度の温度上昇を無くす。
【解決手段】内層巻線・外層巻線を形成する2本の絶縁被覆平角銅線3と両銅線間に介在させる絶縁テープ4とを重ね合わせてスパイラルに巻回する一次・二次バイファイラ巻コイル1を、一半部1aと他半部1bとに2分して相互逆方向に巻回するとともに、一半部の内層巻線5aの内端と他半部の外層巻線5bの内端、一半部の外層巻線6aの内端と他半部の内層巻線6bの内端とを交差するS字状乃至ほぼS字状のジョイント部7を介して各々一連に電気的に連繋させ、一半部の内層巻線の外端と他半部の外層巻線の外端、一半部の外層巻線の外端と他半部の内層巻線の外端をそれぞれ外方へ伸出させて一次・二次コイルの一方と他方の引出線9,10とし、一半部と他半部との間に空冷用の隙間12を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流用のトランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の大電流用のトランスでは、しばしば電気絶縁塗料を塗布した平角銅線(以下、絶縁被覆平角銅線という。)によるエッジワイズコイルが使用されており、この場合の一次コイルと二次コイルとの巻き重ねは、双方をバイファイラ巻にするか、各々を同径・同ピッチで個別に巻いた後に互いに螺合状に組み合わせるか、或いは、径を異にして個別に巻いた後に相互に内外に組み合わせることで形成されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照、特許文献3の従来例参照)。
【0003】
しかし、エッジワイズコイルは、円筒型のヘリカルコイルの一種であって、帯状の絶縁被覆平角銅線に対して幅方向に一定の曲率で曲げ加工を施すため、その絶縁被覆平角銅線の外縁側が伸びて該部の絶縁被覆に亀裂、浮き、剥がれなどの損傷が生じ易く、一旦損傷が発生すると修復は極めて困難である。たとえ修復できたとしても絶縁性能や電磁的性能が悪くなる虞がある。そして、その絶縁被覆の損傷は絶縁被覆平角銅線の幅が広くなればなるほど度合いが増すので、表皮効果の少ない薄くて幅の広い絶縁被覆平角銅線を使用することなどは到底できない。勿論、角筒型コイルを形成しようとすれば、鋭く曲がる隅角部においてその絶縁被覆の損傷は一層激しくなる。
【0004】
一次・二次のエッジワイズコイルを、先ず、絶縁被覆の無い裸の平角銅線により個別に形成し、その後、各々に電気絶縁塗料による絶縁被覆を施して組み合わせれば、そのような不都合を回避することはできるが、既に形作られた裸のエッジワイズコイルに後ほど絶縁被覆を一様に薄く斑もなく施すことは難しく、工程が煩雑になり、コスト高を招く。
【0005】
また、径を異にして個別に巻いた後に相互に内外に組み合わせる場合には、一次・二次コイル間の密接の度合いが悪くなるので、漏れインダクタンスの増加、コイル間の電磁的結合性の低下という不都合も生じる。
【0006】
従来の大電流用のトランスでは、その他に絶縁被覆平角銅線をロール巻に巻回したスパイラル(渦巻)コイルも使用されており、この場合、一次コイルと二次コイルの双方をバイファイラ巻にしたものと、一次コイルと二次コイルを個別に巻いて絶縁シートを介して隣接させたものが知られている(例えば、特許文献3の従来例、特許文献4の実施例3参照)。
【0007】
しかしながら、スパイラルコイルにおいて一次コイルと二次コイルとをバイファイラ巻にしようとすれば、一次・二次コイル用の各絶縁被覆平角銅線とこれらの銅線間に介在させる絶縁テープとを重ね合わせてスパイラルに巻回しなければならないので、単線の場合の2倍の厚さで巻進むことになり、1巻きごとの線長も電気抵抗も単線の場合の2倍のピッチで増えて行くこととなる。したがって、巻き終わったコイルはかなり嵩だかに巻き太りを生じて、全体形状の大型化、電気抵抗の増大、漏れインダクタンスの増加及び一次・二次コイル間の電磁的結合性の低下を伴い、トランスとしての性能が悪くなる。
【0008】
一次コイルと二次コイルを個別にスパイラルに巻いて絶縁シートを介して隣接させた場合、バイファイラ巻に比べて遥かに漏れインダクタンスが大きくなり、一次・二次コイル間の結合性も悪くなる。また、一次・二次コイル間を可能な限り密接させる必要があるため、コイルに発生する抵抗熱が逃げ難くなるので、過度の温度上昇についての問題も生じて、高周波大電流用のトランスにはあまり適し得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−103624号公報
【特許文献2】特開平11−340068号公報
【特許文献3】特開2002−43131号公報
【特許文献4】特開平6−53043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の問題を全て解決しようとするものであり、大電流用の高周波トランスにも支障なく適合させることができるようにし、巻線時における絶縁被覆平角銅線の絶縁被覆の損傷を皆無にして難なく所要の良好な絶縁性能が得られるようにし、表皮効果による悪影響の少ない薄くて広幅の絶縁被覆平角銅線をも使用できるようにして良好な電磁的性能を確保できるようにし、円型のコイルだけでなく角型のコイルも支障なく簡単に容易に実現できるようにし、絶縁被覆平角銅線によるスパイラルコイルにおいて一次コイルと二次コイルとをバイファイラに巻回するものではあっても嵩だかに巻き太るのを無くし、嵩だかな巻き太りによる全体形状の大型化、電気抵抗の増大、漏れインダクタンスの増加及び一次・二次コイル間の電磁的結合性の低下を無くし、更には、冷却性能を向上させて過度の温度上昇を無くし、しかも、設計、製作の容易性、量産性、品質の均一性、小型化、簡潔化、コストダウンが得られるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の目的を達成するため、このトランスに係る第1の課題解決手段は、内層巻線・外層巻線を形成する2本の絶縁被覆平角銅線と両銅線間に介在させる絶縁テープとを重ね合わせてスパイラルに巻回する一次・二次バイファイラ巻コイルを、一半部と他半部とに2分して相互逆方向に巻回するとともに、一半部の内層巻線の内端と他半部の外層巻線の内端、一半部の外層巻線の内端と他半部の内層巻線の内端とを交差するS字状乃至ほぼS字状のジョイント部を介して各々一連に電気的に連繋させ、かつ、上記一半部の内層巻線の外端と上記他半部の外層巻線の外端、上記一半部の外層巻線の外端と上記他半部の内層巻線の外端をそれぞれ外方へ伸出させて一次・二次コイルの一方と他方の引出線とし、更に、上記一半部と上記他半部との間に空冷用の隙間を設けて成るものである。
【0012】
また、第2の課題解決手段は、上述の第1の課題解決手段に係るトランスにあって、上記一次・二次バイファイラ巻コイルの一乃至複数を各々空冷用の空間を隔てて配し、また、複数の上記一次・二次バイファイラ巻コイルは上記一次コイル同士・上記二次コイル同士で直列・並列のいずれか一方乃至双方に電気的に接続させる構成として成るものである。
【0013】
上記第1及び第2の課題解決手段による作用は、次の通りである。すなわち、上記構成とすることにより、一次・二次バイファイラ巻コイルの一半部における内層巻線が他半部における外層巻線に連なり、かつ、その一半部における外層巻線が他半部における内層巻線に連なるから、一次コイルと二次コイルとはどちらも半々の内層巻線と外層巻線とを等しく共有し、巻線の長さ及び重なり具合が共通するものとなって、電気抵抗もインダクタンスも均一化し、複数の一次・二次バイファイラ巻コイルの間での電気的・磁気的性能も均等化する。そして、この一次・二次バイファイラ巻コイルでは、その一半部と他半部との2分により、嵩だかに巻き太ることが無くなり、これに伴い電気抵抗や漏れインダクタンスが低く抑えられ、一次・二次コイル間の電磁的結合性が増大する。また、一半部と他半部との間の空冷用の隙間、一次・二次バイファイラ巻コイル間及びコイル周辺の空冷用の空間が冷却空気の自然対流や強制通風による空冷を可能にして温度上昇を低減し、絶縁被覆平角銅線が表皮効果による直流抵抗を低減する。
【発明の効果】
【0014】
したがって、本発明によれば、大電流用の高周波トランスにも支障なく適合させることができ、巻線時における絶縁被覆平角銅線の絶縁被覆の損傷を皆無にして難なく所要の良好な絶縁性能を得ることができ、表皮効果による悪影響の少ない薄くて広幅の絶縁被覆平角銅線をも支障なく使用できて良好な電気的・電磁的性能を確保することができ、円型のコイルだけでなく角型のコイルも難なく簡単に容易に実現することができ、また、絶縁被覆平角銅線によるスパイラルコイルにおいて一次コイルと二次コイルとをバイファイラに巻回するものではあっても嵩だかに巻き太ることを無くすことができ、嵩だかな巻き太りによる全体形状の大型化、電気抵抗の増大、漏れインダクタンスの増加及び一次・二次コイル間の電磁的結合性の低下を無くすことができ、更には、冷却性能を向上させて過度の温度上昇を無くすことができ、しかも、設計、製作の容易性、量産性、品質の均一性、小型化、簡潔化、コストダウンを得ることができて、所期の目的を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態を示すトランスの側面図
【図2】同トランスの平面図
【図3】同トランスの一次・二次バイファイラ巻コイルの正面図
【図4】同一次・二次バイファイラ巻コイルの背面図
【図5】同一次・二次バイファイラ巻コイルの側面図
【図6】同一次・二次バイファイラ巻コイルの平面図
【図7】同一次・二次バイファイラ巻コイルの図3A−A線の断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図7に基づいて説明する。
【0017】
図1、図2において、1は、角型に形成した一次・二次バイファイラ巻コイル、1a,1bは、該一次・二次バイファイラ巻コイルの一半部と他半部、2は、複数の一次・二次バイファイラ巻コイル1を装着したコアである。
【0018】
図示の各一次・二次バイファイラ巻コイル1は、図3〜図7に示すように、それぞれ2本の絶縁被覆平角銅線3とこれらの絶縁被覆平角銅線間に介在させる2条の絶縁テープ4とを交互に重ね合わせてスパイラルに巻回しており、そして、この一次・二次バイファイラ巻コイル1は、一半部1aと他半部1bとに2分して相互逆方向に巻回するとともに、一半部1aの内層巻線5aの内端と他半部1bの外層巻線6bの内端、一半部1aの外層巻線6aの内端と他半部1bの内層巻線5bの内端を、それぞれ上下に交差するほぼS字状のジョイント部7を介して一連一体に電気的に連繋させて一次コイル8と二次コイル10を形成し、また、一半部1aの内層巻線5aの外端と他半部1bの外層巻線6bの外端をそれぞれ外方へ伸出させて一次コイル8の両端の引出線9,9を形成し、かつ、一半部1aの外層巻線6aの外端と他半部1bの内層巻線5aの外端をそれぞれ外方へ伸出させて二次コイル10の両端の引出線11,11を形成している。更に、一半部1aと他半部1bとの間には空冷用の隙間12を設けている。
【0019】
なお、一次・二次バイファイラ巻コイル1の巻回に当たっては、2本の絶縁被覆平角銅線3の中間部において、それぞれ予めS字状乃至ほぼS字状のジョイント部7,7を形成して上下に交差させておき、次いで、一半部1aと他半部1bとを内端側から外端側へと相互逆向きに巻回するとよい。ジョイント部7,7には絶縁性能を向上させるために絶縁テープを巻き付けてもよい。また、一半部1aと他半部1bとの間にはその空冷用の隙間12を維持確保させるために便宜上複数のスペーサを介入させてもよい。絶縁テープ4は紙製でも合成樹脂製でもよい。
【0020】
一次・二次バイファイラ巻コイル1は、コア2に対しヨーク部13との間に冷却用の空間14を保有させて一乃至複数を装着するが、図1、図2は複数を装着した場合を示しており、ヨーク部13との間の他、一次・二次バイファイラ巻コイル1相互間にもそれぞれ冷却用の空間15を保有させて装着している。そして、一次コイル8同士、二次コイル10同士で、引出線9,9、引出線11,11を以て直列・並列のいずれか一方乃至双方に電気的に接続させるものとしている。例えば、一次コイル8同士を直列に、二次コイル10同士を並列に電気的に接続させれば、同じ入出力において一次コイル側を高電圧に、二次コイル側を大電流に対応させることができる。
【0021】
如上の構成であるから、上述の作用・効果を奏する。
【符号の説明】
【0022】
1 一次・二次バイファイラ巻コイル
1a 一半部
1b 他半部
2 コア
3 絶縁被覆平角銅線
4 絶縁テープ
5a 一半部の内層巻線
5b 他半部の内層巻線
6a 一半部の外層巻線
6b 他半部の外層巻線
7 ジョイント部
8 一次コイル
9 一次コイルの引出線
10 二次コイル
11 二次コイルの引出線
12 冷却用の隙間
13 ヨーク部
14 冷却用の空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層巻線・外層巻線を形成する2本の絶縁被覆平角銅線と両銅線間に介在させる絶縁テープとを重ね合わせてスパイラルに巻回する一次・二次バイファイラ巻コイルを、一半部と他半部とに2分して相互逆方向に巻回するとともに、一半部の内層巻線の内端と他半部の外層巻線の内端、一半部の外層巻線の内端と他半部の内層巻線の内端とを交差するS字状乃至ほぼS字状のジョイント部を介して各々一連に電気的に連繋させ、かつ、上記一半部の内層巻線の外端と上記他半部の外層巻線の外端、上記一半部の外層巻線の外端と上記他半部の内層巻線の外端をそれぞれ外方へ伸出させて一次・二次コイルの一方と他方の引出線とし、更に、上記一半部と上記他半部との間に空冷用の隙間を設けたことを特徴とするトランス。
【請求項2】
上記一次・二次バイファイラ巻コイルの一乃至複数を各々空冷用の空間を隔てて配し、また、複数の上記一次・二次バイファイラ巻コイルは上記一次コイル同士・上記二次コイル同士で直列・並列のいずれか一方乃至双方に電気的に接続させる構成とした請求項1記載のトランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−138830(P2011−138830A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296433(P2009−296433)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(391032819)株式会社アイキューフォー (7)
【Fターム(参考)】