説明

トランス

【課題】小型化、部品点数の低減、組み付け工数の低減を図ることができるトランスを提供すること。
【解決手段】互いに絶縁された第1コイル10と第2コイル20とを巻回軸方向に積層してなるトランス1。第1コイル10は、第1コイル10を被覆した絶縁フィルム11と共に被覆コイル体100を構成している。被覆コイル体100は、巻回軸方向に複数層配置されている。第2コイル20は、一対の被覆コイル体100の間に積層配置されている。被覆コイル体100と第2コイル20とは、互いに接着剤によって接着されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに絶縁された2つのコイルを巻回軸方向に積層してなるトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
DC−DCコンバータ等に用いられるトランスとしては、図30に示すごとく、互いに絶縁された高圧側コイル91と低圧側コイル92とを互いに巻回軸方向に積層配置したものがある。そして、積層配置された高圧側コイル91及び低圧側コイル92は、コア93によって巻回軸方向の両側から挟みこまれている。このコア93によって、高圧側コイル91及び低圧側コイル92の内外周にわたって磁路を形成している。
【0003】
かかるトランス9において、高圧側コイル91と低圧側コイル92とコア93との間のそれぞれの絶縁を図るように、絶縁部材からなるボビンが、これらの間に配置されている。しかし、ボビンを配置すると、その分、トランス9の体格の大型化、部品点数の増加、組み付け工数の増加を招くこととなる。
薄型化を目的としたトランス9の構成としては、樹脂基板の上下面にパターン形成すると共に絶縁層911にて被覆された高圧側コイル91と、その上下に積層配置された低圧側コイル92とを備えた構成が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−303857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のトランス9は、導体板を打ち抜いて形成された低圧側コイル92が、高圧側コイル91の上下に配された構造を備えるため、低圧側コイル92とコア93との間の絶縁を図るためにボビン94を結局配置せざるを得ない。その結果、トランス9の体格の小型化、部品点数の低減、組み付け工数の低減を実現することが困難となる。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、小型化、部品点数の低減、組み付け工数の低減を図ることができるトランスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、互いに絶縁された第1コイルと第2コイルとを巻回軸方向に積層してなるトランスであって、
上記第1コイルは、該第1コイルを被覆した絶縁フィルムと共に被覆コイル体を構成しており、
該被覆コイル体は、上記巻回軸方向に複数層配置されており、
上記第2コイルは、一対の上記被覆コイル体の間に積層配置されていることを特徴とするトランスにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0008】
上記トランスにおいて、上記被覆コイル体は、上記第1コイルを絶縁フィルムによって被覆してなる。それゆえ、上記被覆コイル体そのものの厚みを小さくすることができる。そして、上記第2コイルは、一対の上記被覆コイル体の間に積層配置されている。それゆえ、第2コイルと一対の第1コイルとの積層体の厚みは、これらのコイルの厚みと絶縁フィルムの厚みとの和とすることができ、充分に薄くすることができる。
【0009】
また、第2コイルは、一対の被覆コイル体によって挟持されている。そのため、被覆コイル体の絶縁フィルムによって、第1コイルのみならず、第2コイルがコアと接触することも防ぐことができる。
その結果、ボビンを用いることなく、第1コイルと第2コイルとの間の絶縁、及び第1コイル及び第2コイルとコアとの間の絶縁を確保することができる。それゆえ、ボビンを用いない分、トランスの小型化、部品点数の低減、組み付け工数の低減を図ることができる。
【0010】
以上のごとく、本発明によれば、小型化、部品点数の低減、組み付け工数の低減を図ることができるトランスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における、トランスの断面図。
【図2】実施例1における、被覆コイル体と第2コイルとの積層状態の断面図。
【図3】実施例1における、被覆コイル体の製造方法の断面説明図。
【図4】実施例1における、トランスの展開斜視図。
【図5】実施例1における、折り畳む前の連結コイルシートの平面図。
【図6】図5のA−A線矢視断面図。
【図7】実施例1における、折り畳む前の連結コイルシートにおける幅広導体板の平面図。
【図8】実施例1における、折り畳む前の連結コイルシートにおける幅狭導体板の平面図。
【図9】実施例1における、連結コイルシートを折り畳んで2つの被覆コイル体を積層した状態の平面図。
【図10】図9のB−B線矢視断面図。
【図11】実施例1における、放熱板に搭載されたトランスの平面図。
【図12】実施例1における、放熱板の端子台に固定された第2コイルの連結端子部の断面図。
【図13】実施例2における、被覆コイル体と第2コイルとの積層状態の断面図。
【図14】実施例2における、折り畳む前の連結コイルシートとこれに接着した第2コイルの平面図。
【図15】実施例3における、トランスの断面図。
【図16】実施例3における、被覆コイル体と第2コイルとの積層状態の断面図。
【図17】実施例3における、折り畳む前の連結コイルシートの平面図。
【図18】実施例4における、折り畳む前の連結コイルシートの平面図。
【図19】実施例4における、被覆コイル体と第2コイルとの積層状態の断面説明図。
【図20】実施例4における、4個の被覆コイル体を連結した連結コイルシートの平面図。
【図21】実施例4における、4層の被覆コイル体と3層の第2コイルとの積層状態の断面説明図。
【図22】実施例4における、5個の被覆コイル体を連結した連結コイルシートの平面図。
【図23】実施例4における、5層の被覆コイル体と4層の第2コイルとの積層状態の断面説明図。
【図24】実施例5における、2個の積層体6の積層状態の断面説明図。
【図25】実施例6における、トランスの断面図。
【図26】実施例7における、連結コイルシートの平面図。
【図27】実施例8における、連結コイルシートの平面図。
【図28】実施例9における、一対のコイル端子を連結方向と平行にした連結コイルシートの平面図。
【図29】実施例9における、一方のコイル端子を連結方向と平行にした折り畳む前の連結コイルシートの平面図。
【図30】背景技術における、トランスの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記トランスは、例えば電気自動車やハイブリッド自動車における高圧電源から低圧電源への充電の際に電圧を降圧させるためのトランスとして用いることができる。
上記絶縁フィルムとしては、例えばポリイミドやエポキシ等の樹脂フィルムを用いることができる。また、絶縁フィルムは、第1コイルをその巻回軸方向の両面から挟みこむように配置されると共に、外周側及び内周側において互いに圧着された状態とすることによって、第1コイルを被覆することができる。
また、上記第1コイル及び上記第2コイルは、例えば金属板を打ち抜くことによって形成することができる。
また、上記第1コイル及び上記第2コイルのいずれか一方を一次コイルとし、他方を二次コイルとすることができる。そして、上記第1コイル及び上記第2コイルのいずれか一方を高圧側コイル、他方を低圧側コイルとすることができる。
【0013】
また、上記被覆コイル体は、上記第1コイルが上記巻回軸方向に複数層積層するように巻回されており、上記第1コイルにおける上記巻回軸方向に隣り合う部位同士の間にも、上記絶縁フィルムが介在していることが好ましい(請求項2)。この場合には、第1コイルの巻き数を容易に増やすことができる。
【0014】
また、上記被覆コイル体及び上記第2コイルは環状に形成されており、上記絶縁フィルムの内周端縁は上記第2コイルの内周端縁よりも内周側に配置され、上記絶縁フィルムの外周端縁は上記第2コイルの外周端縁よりも外周側に配置されていることが好ましい(請求項3)。この場合には、上記被覆コイル体及び上記第2コイルの内周側と外周側に配置されるコアに対して、第2コイルよりも、被覆コイル体の絶縁フィルムがコアに近接することとなる。これにより、第2コイルがコアに接触することを効果的に防ぎ、その絶縁を容易に確保することができる。
【0015】
また、上記被覆コイル体と上記第2コイルとは、互いに接着剤によって接着されていることが好ましい(請求項4)。この場合には、上記被覆コイル体と上記第2コイルとを一体化した状態とすることができる。それゆえ、トランスを組み立てる際、コアに上記被覆コイル体及び上記第2コイルを組み付ける作業を容易に行うことができる。また、第1コイルと第2コイルを互いに接着することで、第1コイルまたは第2コイルの発熱を第2コイルまたは第1コイルに効果的に伝えることができる。それゆえ、第1コイルまたは第2コイルの温度を容易に低減させることができる。
【0016】
また、複数の上記被覆コイル体が互いに直列に連結されて連結コイルシートを構成しており、複数の上記被覆コイル体を連結する連結部において上記連結コイルシートを厚み方向に折り返すことによって、上記複数の被覆コイル体を上記巻回軸方向に積層配置してなり、上記連結部には、複数の上記被覆コイル体にそれぞれ内蔵された上記第1コイルを連結する導体が配置されていることが好ましい(請求項5)。この場合には、第1コイルと絶縁フィルムとによって効率的に被覆コイル体を形成することができる。また、複数の被覆コイル体を一体化して連結コイルシートとすることによって、トランスの組み立て時における取り扱いが容易となる。
【0017】
また、上記連結コイルシートにおける複数の上記被覆コイル体のうちの連結方向の両端に配置された端部被覆コイル体から、連結方向及び上記巻回軸方向の双方に直交する方向へ、一対のコイル端子が突出していることが好ましい(請求項6)。この場合には、コイル端子の形状や突出量を自由に設計しやすく、所望の形状とし易くなる。
【0018】
また、上記第1コイル及び上記第2コイルは環状に形成されており、上記トランスは、上記第1コイル及び上記第2コイルの内側を上記巻回軸方向に貫通する貫通部を少なくとも有するコアを備え、上記絶縁フィルムは、上記第2コイルの内周面と上記貫通部の外周面との間に配置される内方延設部を備えていることが好ましい(請求項7)。この場合には、第2コイルとコアとの間の絶縁の確保を上記絶縁フィルムによって図ることができる。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるトランスにつき、図1〜図10を用いて説明する。
本例のトランス1は、図1、図4に示すごとく、互いに絶縁された第1コイル10と第2コイル20とを巻回軸方向に積層してなる。
図1、図2に示すごとく、第1コイル10は、該第1コイル10を被覆した絶縁フィルム11と共に被覆コイル体100を構成している。
被覆コイル体100は、巻回軸方向に2層配置されている。
第2コイル20は、一対の被覆コイル体100の間に積層配置されている。
【0020】
本例のトランス1は降圧用のトランスであって、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車の高圧電源から低圧電源への充電の際に電圧を降圧させるためのトランスとして用いることができる。
そして、上記第1コイル10は高圧側コイルであり、上記第2コイル20は低圧側コイルである。
【0021】
第1コイル10及び第2コイル20は、それぞれ略円環状に形成されている。そして、被覆コイル体100も略円環状に形成されている。
図1、図4に示すごとく、トランス1は、第2コイル20と一対の被覆コイル体100との積層体6を、フェライト等の磁性体からなるコア3と共に組み立ててなる。コア3は、上記積層体6における巻回軸方向の両側にそれぞれ配される一対の分割コア30からなる。各分割コア30は、第2コイル20及び被覆コイル体100の内側を貫通する貫通部となる中央磁脚31と、第2コイル20及び被覆コイル体100の外側に配される一対の側方磁脚32とを備えている。
【0022】
第1コイル10は、金属板を打ち抜いてコイル形状に形成された2つのコイル板を、その厚み方向に積層配置すると共に、両者の端部を接続して構成してある。つまり、第1コイル10は、図2、図7、図8に示すごとく、配線幅の大きい幅広導体板12と、その半分以下の配線幅の幅狭導体板13とを、絶縁フィルム11を介して積層してなる。図8に示すごとく、幅狭導体板13は、2巻分を内周側と外周側とに渦巻き状に形成し、これらを幅広導体板12に対して対向させている。つまり、1巻分の幅広導体板12と2巻分の幅狭導体板13とが、互いに厚み方向(巻回軸方向)に積層されている。そして、幅広導体板12の一端と、幅狭導体板13の一端とを互いに溶接等によって電気的に接続している。したがって、一つの被覆コイル体100には、第1コイル10が3巻分形成されている。
【0023】
図2に示すごとく、第1コイル10における巻回軸方向に隣り合う部位同士、すなわち、幅広導体板12と幅狭導体板13との間にも、絶縁フィルム11が介在している。つまり、被覆コイル体100を形成するにあたっては、図3に示すごとく、絶縁フィルム11、幅狭導体板13、絶縁フィルム11、幅広導体板12、絶縁フィルム11、の順に積層し、3枚の絶縁フィルム11を、幅広導体板12及び幅狭絶縁体13の内側と外側とにおいて圧着する。また、内周側の幅狭導体板13と外周側の幅狭導体板13との間においても、絶縁フィルム11同士を圧着する。また、内周側の幅狭導体板13と外周側の幅狭導体板13との間を含め、導体板と絶縁フィルム11との間の空間には、接着剤112が充填され、絶縁フィルム11は導体板に接着されている。
なお、幅狭導体板13と幅広導体板12とは、上述のごとく溶接等によって接合されており、この接合部は、中央の絶縁フィルム11を貫通している。
【0024】
図5〜図10に示すごとく、2つの被覆コイル体100は、互いに直列に連結されて連結コイルシート4を構成している。連結コイルシート4は、図9、図10に示すごとく、2つの被覆コイル体100を連結する連結部41を厚み方向に折り返すことによって2つの被覆コイル体100を巻回軸方向に積層配置してなる。連結部41には、2つの被覆コイル体100にそれぞれ内蔵された第1コイル10を連結する導体(連結導体板411)が配置されている。この連結導体板411は、図8に示すごとく、上記幅狭導体板13と一体的に形成されている。すなわち、一枚の金属板から2つの幅狭導体板13と連結導体板411とが一体的に打ち抜いて形成されている。
【0025】
また、幅広導体板12、幅狭導体板13、及び連結導体板411は、略同等の厚みを有し、第2コイル20を構成する導体板よりも厚みが小さい。具体的に、第1コイル10を構成する導体板(幅広導体板12、幅狭導体板13、連結導体板411)の板厚は、0.3〜0.5mmであり、第2コイル20を構成する導体板の板厚は、1〜2mmである。
【0026】
図5に示すごとく、連結コイルシート4における2つの被覆コイル体100から、連結方向及び巻回軸方向の双方に直交する方向へ、一対のコイル端子14が突出している。また、一対のコイル端子14は、同じ方向へ突出している。また、コイル端子14は、絶縁フィルム11から露出している。また、図7に示すごとく、コイル端子14は幅広導体板12と一体的に設けられており、図8に示すごとく、連結導体板411は幅狭導体板13と一体的に設けられている。
【0027】
絶縁フィルム11は、コイル端子14を除いて、第1コイル10の全体を被覆している。つまり、第1コイル10は、厚み方向の両主面のみならず、内周端縁及び外周端縁も、絶縁フィルム11によって被覆されている。また、2つの第1コイル10を連結する連結導体板41も絶縁フィルム11によってその全周を覆われている。絶縁フィルム11としては、例えばポリイミド等の樹脂フィルムを用いることができる。
【0028】
連結部41によって電気的に直列接続された一対の被覆コイル体100における第1コイル10は、全体の巻数が6巻となっている。また、図9、図10に示すごとく、連結コイルシート4を連結部41において折り畳んで一対の被覆コイル体100を重ねた状態において、一対の第1コイル10の巻方向は同一方向となっている。
【0029】
また、図2、図4に示すごとく、第2コイル20は、金属板を略円環状に打ち抜いた2枚の導体板を、互いの間に隙間を設けた状態で、厚み方向に重ねて構成されている。これにより、第2コイル20の巻数は2巻となっている。
また、第2コイル20の直径は、被覆コイル体100の直径よりも小さく、第2コイル20の外周端縁は、絶縁フィルム11の外周端縁よりも内側に配されている。また、第2コイル20の内周端縁は、絶縁フィルム11の内周端縁よりも径方向外側に配されている。すなわち、第2コイル20は、被覆コイル体100の絶縁フィルム11から、外周側にも内周側にも突出しないように配置されている。また、第2コイル20と第1コイル10とは、巻回軸方向から見たときに両者の外周端縁及び内周端縁が互いにほぼ一致するように配されている。
【0030】
また、図11に示すごとく、トランス1は、放熱板7の上に搭載されており、図12に示すごとく、第2コイル20において放熱板7と熱的に接続されている。一対の第2コイル20はそれぞれ、略円環状部分から、連結端子部23とコイル端子24とを突出させている。一対の第2コイル20は、連結端子部23において互いに重ね合わされると共に、ネジ22によって、放熱板7における端子台71に締結されている。これにより、一対の第2コイル20は、連結端子部23において、互いに電気的に接続されると共に、放熱板7に固定され、また、放熱板7と熱的に接続されることとなる。なお、放熱板7は、例えば、内部に冷却媒体を流通させる冷却器の壁部とすることができる。
【0031】
また、上記のように連結端子部23において一対の第2コイル20が接続されることにより、両者が一体化され、各第2コイル20におけるそれぞれのコイル端子24が、出力端子となる。また、第2コイル20の連結端子部23は、放熱板7を介して接地されることとなる。
【0032】
第2コイル20のコイル端子24と連結端子部23とは、略円環状部から略同一方向に突出している。図11に示すごとく、巻回軸方向から見たとき、第2コイル20のコイル端子24と連結端子部23とは、コア3に対して互いに同じ側に突出している。
また、第2コイル20のコイル端子24及び連結端子部23は、第1コイル10の一対のコイル端子14と反対側に突出している。すなわち、巻回軸方向から見たとき、第2コイル20のコイル端子24及び連結端子部23は、コア3に対して、第1コイル10のコイル端子14と反対側に突出している。
【0033】
また、図1、図2に示すごとく、第1コイル10は、幅広導体板12側を第2コイル20に対向させるように、第2コイル20と積層されている。つまり、被覆コイル体100は、放熱板7に直接接続された第2コイル20に対して、幅広導体板12が絶縁フィルム11を介して接触するように、配設されている。
【0034】
次に、本例の作用効果につき説明する。
トランス1において、被覆コイル体100は、第1コイル10を絶縁フィルム11によって被覆してなる。それゆえ、被覆コイル体100そのものの厚みを小さくすることができる。そして、第2コイル20は、一対の被覆コイル体100の間に積層配置されている。それゆえ、第2コイル20と一対の第1コイル10との積層体6の厚みは、これらのコイルの厚みと絶縁フィルム11の厚みとの和とすることができ、充分に薄くすることができる。
【0035】
また、第2コイル20は、一対の被覆コイル体100によって挟持されている。そのため、被覆コイル体100の絶縁フィルム11によって、第1コイル10のみならず、第2コイル20がコア3と接触することも防ぐことができる。
その結果、ボビンを用いることなく、第1コイル10と第2コイル20との間の絶縁、及び第1コイル10及び第2コイル20とコア3との間の絶縁を確保することができる。それゆえ、ボビンを用いない分、トランス1の小型化、部品点数の低減、組み付け工数の低減を図ることができる。
【0036】
また、連結部41において連結コイルシート4を厚み方向に折り返すことによって、2つの被覆コイル体100を巻回軸方向に積層配置してなる。これにより、第1コイル10と絶縁フィルム11とによって効率的に被覆コイル体100を形成することができる。また、2つの被覆コイル体100を一体化して連結コイルシート4とすることによって、トランス1の組み立て時における取り扱いが容易となる。
【0037】
また、連結コイルシート4における2つの被覆コイル体100から、連結方向及び巻回軸方向の双方に直交する方向へ、一対のコイル端子14が突出している。これにより、コイル端子14の形状や突出量を自由に設計しやすく、所望の形状とし易くなる。
また、被覆コイル体100は、第1コイル10が巻回軸方向に2層積層するように巻回されており、第1コイル10における巻回軸方向に隣り合う部位同士の間(幅広導体板12と幅狭導体板13との間)にも、絶縁フィルム11が介在している。これにより、第1コイル10の巻き数を容易に増やすことができる。
【0038】
また、被覆コイル体100の絶縁フィルム11の内周端縁は第2コイル20の内周端縁よりも内周側に配置され、絶縁フィルム11の外周端縁は第2コイル20の外周端縁よりも外周側に配置されている。これにより、被覆コイル体100及び第2コイル20の内周側と外周側に配置されるコア3に対して、第2コイル20よりも、被覆コイル体100の絶縁フィルム11がコア3に近接することとなる。これにより、第2コイル20がコア3に接触することを効果的に防ぎ、その絶縁を容易に確保することができる。
【0039】
また、被覆コイル体100は、放熱板7に直接接続された第2コイル20に対して幅広導体板12側を対向させるように積層してなる。被覆コイル体100における第1コイル10における2巻の幅狭導体板13側を第2コイル20に対向させるよりも、1巻の幅広導体板12を第2コイル20に対向させた方が、第1コイル10から第2コイル20への伝熱面積を大きくすることができる。これにより、第1コイル10の熱を、放熱板7に熱的に直接接触した第2コイル20を介して放熱板7に効率的に放熱することができる。
【0040】
また、図11に示すごとく、巻回軸方向から見たとき、第2コイル20のコイル端子24及び連結端子部23は、第1コイル10の一対のコイル端子14と反対側に突出している。これにより、第1コイル10と第2コイル20との間の電気的絶縁をより確実にすることができる。
また、巻回軸方向から見たとき、第2コイル20のコイル端子24と連結端子部23とは、コア3に対して互いに同じ側に突出している。これにより、コイル端子24と連結端子部23との間に配線される第2コイル20の本体部分を、略環状に形成することが容易となり、導体板の材料取りを容易かつ歩留まり良く行うことができる。
【0041】
また、第1コイル20は、1巻分の幅広導体板12と2巻分の幅狭導体板13とが、互いに厚み方向(巻回軸方向)に積層されている。これにより、第1コイル10の巻き数を効率的に稼ぐことができる。すなわち、図8に示すごとく、幅狭導体板13のように径方向に複数巻とすると、内周側に巻かれた導体板の一端が、径方向の内側に入ってしまうため、仮にその一端からコイル端子24を引き出したり、導体連結板411を引き出したりしようとすると、導体板を厚み方向に引き出す必要がある。このとき、単に厚み方向に導体板を引き出すだけではスペースを有効活用し難い。そこで、幅狭導体板13に対して、厚み方向に幅広導体板12(図7)を積層した構成とすることにより、径方向内側にある幅狭導体板13の一端を、幅広導体板12の一端に接続することができる。これにより、いずれも外側に引き出すことのできる幅広導体板12の他端と幅狭導体板13の他端とを、一対のコイル端子24及び導体連結板411とすることが可能となる。その結果、第1コイル10のコンパクト化を図りつつその巻き数を稼ぐことができる。
【0042】
以上のごとく、本例によれば、小型化、部品点数の低減、組み付け工数の低減を図ることができるトランスを提供することができる。
【0043】
(実施例2)
本例は、図13、図14に示すごとく、被覆コイル体100と第2コイル20とが互いに接着剤5によって接着されている例である。
本例においては、図14に示すごとく、連結コイルシート4における一方の主面に、接着剤5を介して、2つの第2コイル20が接着される。そして、この連結コイルシート4を、連結部41において、第2コイル20を接着した側の主面が内側となるように折り畳む。これにより、図13に示すように、一対の被覆コイル体100の間に第2コイル20が挟持された状態となる。この状態の被覆コイル体100及び第2コイル20をコア3(図1、図4参照)と組み合わせることで、トランス1を得ることができる。
その他は、実施例1と同様である。
【0044】
本例の場合には、被覆コイル体100と第2コイル20とを一体化した状態とすることができる。それゆえ、トランス1を組み立てる際、コア3に被覆コイル体100及び第2コイル20を組み付ける作業を容易に行うことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0045】
(実施例3)
本例は、図15〜図17に示すごとく、絶縁フィルム11が、第2コイル20の内周面とコア3の貫通部(中央磁脚31)の外周面との間に配置される内方延設部111を備えている例である。
【0046】
すなわち、図16、図17に示すごとく、被覆コイル体100は、絶縁フィルム11を、第1コイル10及び第2コイル20の内周端縁よりも大きく内側に突出させた内方延設部111を備える。すなわち、被覆コイル体100を形成する際、第1コイル10を厚み方向から複数の絶縁フィルム11にて挟み込んだ後、第1コイル10の外周側と内周側とにおいて複数の絶縁フィルム11を圧着する。このとき、第1コイル10の内側の開口部を覆うように配される絶縁フィルム11を残しておく。そして、この部分の絶縁フィルム11に、図17に示すように放射状の切込を入れて、内方延設部111とする。これにより、この部分の絶縁フィルム11(内方延設部111)が、巻回軸方向に折り曲げられやすくなる。
【0047】
この状態において、図16に示すごとく、第2コイル20と一対の被覆コイル体100とを積層し、図15に示すごとく、巻回軸方向の両側から一対の分割コア30によって挟み込む。このとき、分割コア30の中央磁脚31が、それぞれの被覆コイル体100の内方延設部111を第2コイル20の内側へ押し込むように変形させる。その結果、中央磁脚31と第2コイル20の内周面との間に、絶縁フィルム11の一部である内方延設部111が介在することとなる。
その他は、実施例1と同様である。
【0048】
本例の場合には、第2コイル20とコア3との間の絶縁の確保を絶縁フィルム11によって図ることができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0049】
(実施例4)
本例は、図18、図19に示すごとく、3個の被覆コイル体100を連結させて連結コイルシート4を構成した例である。
本例においては、3個の被覆コイル体100が一直線上に配置され、連結部41によって連結して、連結コイルシート4が構成されている。そして、この連結方向の両端に配置された端部被覆コイル体101から、連結方向及び巻回軸方向の双方に直交する方向へ、一対のコイル端子14が突出している。一対のコイル端子14は、互いに同じ方向に突出している。
【0050】
そして、上記のように構成された連結コイルシート4を、2か所の連結部41においてそれぞれ折り畳んで、図19に示すごとく、3個の被覆コイル体100が巻回軸方向に重なるように積層する。このとき、2か所の連結部41における折り畳み方向は、互いに逆向きである。そして、積層方向に隣り合う被覆コイル体100の間に、第2コイル20がそれぞれ挟持される。
その他は、実施例1と同様である。
【0051】
また、連結コイルシート4における被覆コイル体100の連結個数は、自由に設定することができ、例えば、図20、図21に示すように4個とすることもできるし、図22、図23に示すように5個とすることもできるし、或いはそれ以上とすることもできる。
このように、所望のトランス1の仕様に応じて、被覆コイル体100の個数を任意に変更することができ、連結コイルシート4における被覆コイル体100の連結個数も任意に設定することができる。
これにより、所望のトランスを、容易に製造することができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0052】
(実施例5)
本例は、図24に示すごとく、第2コイル20とその巻回軸方向の両側から挟持した一対の被覆コイル体100との積層体6を、2個、巻回軸方向に積層配置した、トランス1の例である。
すなわち、実施例1のトランス1における第2コイル20と一対の被覆コイル体100との積層体6(図2参照)を、巻回軸方向に積層配置し、これをコア3の内側に配置して、本例のトランス1が構成される。
【0053】
一対の積層体6は、互いに電気的に接続されていない。すなわち、一方の積層体6における被覆コイル体100の第1コイル10と、他方の積層体6における被覆コイル体100の第1コイル10とは、互いに電気的に接続されていない。また、一方の積層体6における第2コイル20と、他方の積層体6における第2コイル20とは、互いに電気的に接続されていない。
その他は、実施例1と同様である。
【0054】
本例の場合には、互いに独立した二つのトランス機能を、共通のコア3を用いて実現することができる。その結果、全体として、より小型化、部品点数の低減を図りやすくなる。
【0055】
(実施例6)
本例は、図25に示すごとく、第2コイル20を1層とした例である。
すなわち、実施例1においては、第2コイル20を2枚の導体板を重ねて2層にした構成を示したが、本例においては、導体板を1枚とし、第2コイル20を1層とした。なお、第2コイル20の層数は、特に限定されるものではなく、所望の層数に設定することができる。
その他は、実施例1と同様の構成、作用効果を奏する。
【0056】
(実施例7)
本例は、図26に示すごとく、実施例4に示した連結コイルシート4において、コイル端子14を、端部被覆コイル体101のみならず、他の被覆コイル体100からも突出させた例である。
本例においては、連結されたすべての被覆コイル体100に対して1個ずつのコイル端子14を設けている。これらのコイル端子14は、連結方向及び巻回軸方向の双方に直交する方向へ、互いに同じ方向に突出している。
なお、連結コイルシート4における端部被覆コイル体101以外の被覆コイル体100については、そのすべてにコイル端子14を設けてもよいし、一部にコイル端子14を設けてもよい。
その他は、実施例1と同様である。
【0057】
本例の場合には、中間タップを備えたトランス1における第1コイル10の巻線構造を容易に形成することができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0058】
(実施例8)
本例は、図27に示すごとく、被覆コイル体100の形状を略長方形の環状とした例である。
すなわち、実施例1〜7においては、被覆コイル体100の形状を略円環状とした例を示したが、被覆コイル体100の形状は、これに限られない。
本例においては、第1コイル10及び第2コイル20も略四角形状の環状としている。そして、連結コイルシート4は、略四角形の環状の一対の被覆コイル体100を連結して一体化してなる。
その他は、実施例1と同様である。
【0059】
本例の場合にも、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
なお、被覆コイル体100の形状は、略円環状、略四角形の環状以外にも、例えば略楕円形の環状、略六角形の環状等、種々の形状とすることができる。
【0060】
(実施例9)
本例は、図28、図29に示すごとく、連結コイルシート4において、少なくとも一方のコイル端子14を、被覆コイル体100から、連結方向に平行な方向へ突出させた例である。
すなわち、図28に示す連結コイルシート4は、一対のコイル端子14を、連結部41に沿って、連結方向に平行に、被覆コイル体100から突出させている。また、この例においては、一対のコイル端子14は、互いに向き合う方向に突出している。ただし、一対のコイル端子14の突出方向を互いに反対側を向くようにしてもよいし、同一方向に向くようにしてもよい。
【0061】
また、図29に示す連結コイルシート4は、一方のコイル端子14を、連結部41に沿って、連結方向に平行に、被覆コイル体100から突出させ、他方のコイル端子14は、実施例1(図17参照)と同様に、連結部41による連結方向に直交する方向に突出している。
その他は、実施例1と同様である。
【0062】
本例の場合には、コイル端子14を構成するための導体板を、幅広導体板12の近傍において形成しやすいため、一枚の導体板から幅広導体板12と共にコイル端子14を採取するにあたり、その材料取りを効率的に行うことができる。かかる観点からは、特に、図28に示した連結コイルシート4の構成がより好ましいが、得ようとするコイル端子14の形状や配置をも考慮して、図29に示す構成とすることも考えられる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0063】
また、上記実施例においては、第1コイル10を高圧側コイル、第2コイル20を低圧側コイルとした例を示したが、第1コイル10を低圧側コイル、第2コイル20を高圧側コイルとすることもできる。
【符号の説明】
【0064】
1 トランス
10 第1コイル
100 被覆コイル体
11 絶縁フィルム
20 第2コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに絶縁された第1コイルと第2コイルとを巻回軸方向に積層してなるトランスであって、
上記第1コイルは、該第1コイルを被覆した絶縁フィルムと共に被覆コイル体を構成しており、
該被覆コイル体は、上記巻回軸方向に複数層配置されており、
上記第2コイルは、一対の上記被覆コイル体の間に積層配置されていることを特徴とするトランス。
【請求項2】
請求項1に記載のトランスにおいて、上記被覆コイル体は、上記第1コイルが上記巻回軸方向に複数層積層するように巻回されており、上記第1コイルにおける上記巻回軸方向に隣り合う部位同士の間にも、上記絶縁フィルムが介在していることを特徴とするトランス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のトランスにおいて、上記被覆コイル体及び上記第2コイルは環状に形成されており、上記絶縁フィルムの内周端縁は上記第2コイルの内周端縁よりも内周側に配置され、上記絶縁フィルムの外周端縁は上記第2コイルの外周端縁よりも外周側に配置されていることを特徴とするトランス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のトランスにおいて、上記被覆コイル体と上記第2コイルとは、互いに接着剤によって接着されていることを特徴とするトランス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のトランスにおいて、複数の上記被覆コイル体が互いに直列に連結されて連結コイルシートを構成しており、複数の上記被覆コイル体を連結する連結部において上記連結コイルシートを厚み方向に折り返すことによって、上記複数の被覆コイル体を上記巻回軸方向に積層配置してなり、上記連結部には、複数の上記被覆コイル体にそれぞれ内蔵された上記第1コイルを連結する導体が配置されていることを特徴とするトランス。
【請求項6】
請求項5に記載のトランスにおいて、上記連結コイルシートにおける複数の上記被覆コイル体のうちの連結方向の両端に配置された端部被覆コイル体から、連結方向及び上記巻回軸方向の双方に直交する方向へ、一対のコイル端子が突出していることを特徴とするトランス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のトランスにおいて、上記第1コイル及び上記第2コイルは環状に形成されており、上記トランスは、上記第1コイル及び上記第2コイルの内側を上記巻回軸方向に貫通する貫通部を少なくとも有するコアを備え、上記絶縁フィルムは、上記第2コイルの内周面と上記貫通部の外周面との間に配置される内方延設部を備えていることを特徴とするトランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2012−216761(P2012−216761A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−272495(P2011−272495)
【出願日】平成23年12月13日(2011.12.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】