説明

トリアリルイソシアヌレートの貯蔵方法

【課題】冬場における貯蔵中に凍結固化しないようにするためのTAICの貯蔵方法を提供する。
【解決手段】トリアリルイソシアヌレートとシランカップリング剤とを混合して両者の組成物として貯蔵する。本発明の好ましい態様においては、シランカップリング剤の使用割合がトリアリルイソシアヌレートに対する値として、5〜30重量%であり、シランカップリング剤がγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアリルイソシアヌレートの貯蔵方法に関する。以下、トリアリルイソシアヌレート(イソシアヌル酸トリアリル)を「TAIC」と表記する。
【背景技術】
【0002】
TAICは、耐熱性と耐薬品性に優れた架橋剤として有用であり、電子材料、液晶、半導体、太陽電池などの幅広い分野での使用が期待される。例えば、プリント配線基板、すなわち、集積回路、抵抗器、コンデンサー等の多数の電子部品を表面に固定し、その部品間を配線で接続することで電子回路を構成する板状またはフィルム状の部品においては、液体や気体などの物質が部品の内部に入り込まないようにするための封止材として、TAICの使用が提案されている(特許文献1)。斯かる提案において、TAICは、常温で粘性液体(融点26℃)であるため、液状封止材として使用されている。また、その濡れ性の向上のために、シランカップリング剤が添加されている。また、TAICは、架橋性高分子の架橋剤としても使用されている(特許文献2)。
【0003】
ところで、TAICは融点が26℃であることから、冬場における貯蔵中に凍結固化し、特に、比較的大型の容器(ドラム缶)にて貯蔵した場合は、加熱溶融に相当の時間が掛かる不具合がある。更に、TAICは、取扱い温度が低くなると、急激に粘度が上がり、操作性が悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−115840号公報
【特許文献2】特開2006−036876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、冬場における貯蔵中に凍結固化しないようにするためのTAICの貯蔵方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、シランカップリング剤はTAICの使用の際に濡れ性向上剤として添加されているが、このシランカップリング剤をTAICの使用に先立ってTAICの貯蔵の際に添加するならば、TAICの融点が低下し、TAICの冬場における貯蔵中の凍結固化を防止できるとの知見を得、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明は、上記の知見を基に完成されたものであり、その要旨は、トリアリルイソシアヌレートとシランカップリング剤とを混合して両者の組成物として貯蔵することを特徴とするトリアリルイソシアヌレートの貯蔵方法に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、TAICの冬場における貯蔵中の凍結固化を防止できるため、冬場において、加熱溶融の作業なしでTAICを取り扱うことが出来、また、貯蔵されたTAICは、高粘度を呈していないため、取り扱う際の操作性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
先ず、本発明の対象となるTAICについて説明する。TAICの工業的製造方法としては、次の3つの方法が知られている。
【0011】
(1)2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン(塩化シアヌル)とアリルアルコールとを反応させてトリアリルシアヌレート(以下、「TAC」と表記する)を得、これを転移反応させる製造方法(TAC転移法)。
【0012】
(2)アクリルクロライドとシアン酸ソーダとを反応させてアリルイロシアネート得、これを三量化する製造方法(シアン酸ソーダ法)。
【0013】
(3)塩基触媒存在下にアクリルクロライドとイソシアヌル酸(シアヌル酸の互変異性体)とを反応させる製造方法(イソシアヌル酸法)。
【0014】
本発明の対象となるTAICは、上記のいずれの方法よるTAICであってもよい。ところで、TAICの不純物については未だ報告されていないようであるが、金属腐食の原因となるような不純物は可能な限り除去する必要が好ましい。本発明においては、上記の観点から、次のようなTAICが推奨される。TAIC中の不純物の種類はTAICの製造法によって異なるため、本発明の対象となる好ましいTAICについて、製造法ごとに説明する。
【0015】
[TAC転移法によるTAIC]
転移法によるTAICは、例えば、次の反応ルートに従い、2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン(塩化シアヌル)とアリルアルコールとを反応させてトリアリルシアヌレート(TAC)を得(JACS.73巻.2986−2990(1951))、これを転移反応させることにより得ることが出来る(特公平4−6570号公報)。
【0016】
【化1】

【0017】
本発明者は、転移法によるTAIC中の不純物について、鋭意検討した結果、次のような知見を得た。
【0018】
(1)TACを原料として得られるTAIC中の不純物は原料であるTAC中にも存在する。そして、TAC中に含まれる不純物は、以下の化学式(I)、(II)及び(III)で表される。
【0019】
【化2】

【0020】
化学式(I)のRおよびRは、塩素原子またはアリルオキシ基を表すが、少なくとも一つは塩素原子を表す。化学式(III)のR、R、Rのうちの任意の一つは塩素原子を表し、任意の二つはアリルオキシ基を表す。
【0021】
(2)化学式(I)及び(III)で表される化合物はバルビツール酸の塩素化物(2,4,5,6−テトラクロロピリミジン)のアリル体である。これらの生成原因は以下のように考えられる。すなわち、塩化シアヌルは、通常、青酸の塩素化で得られるクロルシアンの三量化で製造されるが、原料の青酸中にアセチレン等の不純物が存在する場合は以下の化学式(IV)のテトラクロロバルビツールが生成する。そして、上記の2,4,5,6−テトラクロロピリミジンとアリルアルコールの反応により、不純物として前述の化学式(I)及び(III)の有機塩素化合物が生成する。
【0022】
【化3】

【0023】
(3)化学式(II)の有機塩素化合物は、塩化シアヌルとアリルアルコールの反応副生成物と推定される。
【0024】
(4)化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物は、水中で除々に加水分解し、塩素イオンを生じるため腐食の原因になるのに対し、化学式(III)の有機塩素化合物は殆ど加水分解されないため腐食の原因とはならない。従って、腐食原因物質は化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物であると特定される。
【0025】
(5)化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物を含むTACを原料としてTAICを製造すると、(I)はTAIC中に残存し腐食の原因となる。すなわち、化学式(II)の有機塩素化合物は、TAICの製造過程および精製工程で分解もしくは除去されるため、TAIC中の腐食原因物質は実質的に化学式(I)の有機塩素化合物のみとなる。そして、TAC中の腐食原因物質は水洗や蒸留で除去することは不可能であるが、特定条件下での加水分解により除去することが可能であり、除去した後に転移反応を行なうならば、腐食原因物質の少ないTAICが製造可能である。
【0026】
従って、本発明においては、前記の化学式(I)で表される有機塩素化合物を含有し且つその含有量が100ppm以下であるTAICが推奨される。化学式(I)で表される有機塩素化合物の含有量は、好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下である。
【0027】
上記のTACの製造、すなわち、塩化シアヌルとアリルアルコールとの反応は、塩基性触媒(例えば水酸化ナトリウム)存在下に加熱することにより行われる。通常、反応溶媒量のアリルアルコールと所定量の塩基性触媒および水とから成る溶液に室温で塩化シアヌルを添加して所定時間撹拌を行ってTACを生成させる。反応条件の詳細は前述の「JACS.73巻.2986−2990(1951)」の記載を参照することが出来る。ここで得られた粗TACは、前述の化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物を含む。通常、化学式(I)の有機塩素化合物の含有量は100〜250ppm、化学式(II)の有機塩素化合物の含有量は500〜1,000ppmである。
【0028】
TACを分解させずに前述の化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物のみを選択的に加水分解させるため、低濃度の強塩基水溶液中、比較的低い温度条件下で粗TACを処理する。具体的には次のように行う。
【0029】
すなわち、先ず、TACの生成反応液から、析出した塩(例えば塩化ナトリウム)を濾過し、回収した濾液を濃縮し、油状物として、粗TACを回収する。次いで、通常30〜80℃、好ましくは30〜60℃の温度条件下、通常0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の強塩基水溶液中で粗TAC(上記の油状物)を撹拌処理する。処理時間は、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間である。処理条件が上記の各範囲未満の場合は、前述の化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物の加水分解が困難となり、処理条件が上記の各範囲未満の場合は、TACが加水分解される恐れがある。
【0030】
前記のTAICの製造、すなわち、TACの転移反応は、触媒の存在下に加熱処理することにより行われるが、反応条件の詳細は前述の特公平4−6570号公報の記載を参照することが出来る。好ましい態様においては、反応溶媒(例えばキシレン)中、銅触媒の存在下で転移反応を行なう。反応温度は、通常100〜150℃、好ましくは120〜140℃である。反応後、減圧下に反応溶媒を留去して油状物を回収し、この油状物を減圧蒸留することにより、TAICの結晶を得ることが出来る。
【0031】
[シアン酸ソーダ法またはイソシアヌル酸法によるTAIC]
本発明者は、転移法によるTAIC中の不純物について、鋭意検討した結果、次のような知見を得た。
【0032】
(1)シアン酸ソーダ法やイソシアヌル酸法で得られるTAICには、不純物の1つとして化学式(V)で表される有機塩素化合物が含まれているが、この有機塩素化合物は、水中で除々に加水分解し、塩素イオンを生じるため腐食の原因となる。
【0033】
【化4】

(化学式(I)の波線の結合は、シス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物を示す。以下、同じ。)
【0034】
(2)化学式(V)で表される有機塩素化合物は、シアン酸ソーダとアリルクロライド中に不純物として含まれている化学式(VI)で表される1,3−ジクロロプロペンとの反応で生成する。また、シアヌール酸と1,3−ジクロロプロペンとの反応でも生成する。
【0035】
【化5】

【0036】
(3)化学式(V)で表される有機塩素化合物は、蒸留などの分離手段で除去することが出来ないが、化学式(VI)で表される1,3−ジクロロプロペンは、アリルクロライドの蒸留精製により容易に分離することが出来る。
【0037】
従って、本発明においては、前記の学式(V)で表される有機塩素化合物を含有し且つその含有量が500ppm以下であるTAICが推奨される。
【0038】
上記のTACの製造、基本的には、公知のシアン酸ソーダ法またはイソシアヌル酸法によって製造される。
【0039】
シアン酸ソーダ法は、アクリルクロライドとシアン酸ソーダとを反応させてアリルイロシアネート得、これを三量化する方法である。反応条件の詳細は例えば特公昭58−35515号公報の記載を参照することが出来るが、好ましい態様においては、シアン酸ソーダ、塩化カルシウム、臭化カリウム、DMFからなる溶液にアリルクロライドを滴下し、その後、0.5〜5時間、100〜150℃で反応熟成を行う。
【0040】
イソシアヌル酸法は、塩基触媒存在下にアクリルクロライドとイソシアヌル酸とを反応させる方法である。反応条件の詳細は例えば米国特許第3965231号明細書の記載を参照することが出来るが、好ましい態様においては、イソシアヌール酸、DMF,トリエチルアミンからなる溶液にアリルクロライドを滴下し、その後、0.5〜5時間、100〜150℃で反応熟成を行う。
【0041】
上記の何れの場合においても原料として1,3−ジクロロプロペンの含有量(シス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物としての含有量)が200ppm以下であるアリルクロライドを使用することが重要である。
【0042】
通常、工業用アリルクロライドには、プロピルクロライド、1,2−ジクロロプロペン、1,3−ジクロロプロパン、1,3−ジクロロプロペン類などの不純物が含まれている。1,3−ジクロロプロペンの含有量が200ppm以下であるアリルクロライドは、工業用アリルクロライドを精密蒸留することにより得ることが出来る。精密蒸留に使用する蒸留塔の理論段数は、通常50段以上、好ましくは60〜90段であり、また、還流比は、通常5以上、好ましくは7〜10である。1,3−ジクロロプロペンの含有量(シス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物としての含有量)は、好ましくは100ppm以下である。
【0043】
次に、本発明で使用するシランカップリング剤について説明する。シランカップリング剤としては、ビニル基や(メタ)アクリロキシ基のような不飽和基、ハロアルキル基、アミノ基、メルカプト基及びエポキシ基から選ばれる基とともに、アルコキシ基、アシル基のような加水分解可能な基を有するシランカップリング剤を挙げることができる。これらの具体例としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。これらの中では、特にγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好適に使用される。
【0044】
TAICとシランカップリング剤とを混合して両者の組成物を調製する方法は、特に制限されないが、20〜50℃の温度で両者を混合するのがよい。前述の金属腐食の原因となるような不純物を除去して得られるTAICは、何れの方法による場合であっても、最終的には蒸留工程を経て製造される。従って、蒸留工程から回収され且つ比較的に高い温度の状態にあるTAICとシランカップリング剤とを混合するのが簡便である。通常、TAICにシランカップリング剤を添加するが、その逆であってもよい。混合の際の雰囲気は、通常の空気雰囲気であってもよいし、必要に応じて窒素雰囲気としてもよい。混合手段には通常の攪拌機を使用することが出来る。
【0045】
TAICに対するシランカップリング剤の使用割合は、TAICの融点が20℃以下に低下するのに必要な量とされるが、シランカップリング剤の使用割合が余りに多い場合は、TAICの濃度が低下し、そのままでは、封止材や架橋剤としての使用に支障をきたすことがある。従って、シランカップリング剤の使用割合は、TAICに対する値として、通常5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%である。なお、封止材や架橋剤としての使用の観点からして、上記のシランカップリング剤の使用割合が多すぎる場合は本発明に従って貯蔵されたシランカップリング剤含有TAICをマスターバッチとして使用することも出来る。すなわち、使用の際にシランカップリング剤を含有しないTAICで希釈して使用することも出来る。
【0046】
貯蔵設備としては、貯蔵タンク等の専用の設備を使用してもよいし、搬送や取扱を考慮し、例えば18Lの角形金属缶(一斗缶)や200L以上の大型の金属製の缶(ドラム缶)を使用することも出来る。
【0047】
本発明によれば、AICの冬場における貯蔵中の凍結固化を防止できるため、冬場において、加熱溶融の作業なしでTAICを取り扱うことが出来、また、貯蔵されたTAICは、高粘度を呈していないため、取り扱う際の操作性が良好であるという、前述の効果が奏せられる。そして、本発明で推奨する前述のTAICは、金属腐食を惹起する不純物の含有量が少ないため、プリント配線基板の封止材として好適である。また、架橋性エラストマートと混合し、加熱、放射線などにより加硫し、電子材料、半導体、太陽電池材料の封止剤として使用したり、架橋性熱可塑性樹脂と混合して電子線などにより加硫して電線などの被覆に好適に使用される。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例より更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。以下の諸例における分析方法は次の通りである。
【0049】
(1)化学式(I)及び(II)の有機塩素化合物の分析:
この分析はガスクロマトグラフ(面積百分率法)によって行った。表1に分析条件を示す。なお、検出限界は10ppmである。
【0050】
【表1】

【0051】
(2)1,3−ジクロロプロペンの分析:
この分析は、GC−MS(Gas Chromatograph−Mass Spectrometry)によるシングルイオンモニタリング法(SIM法)によって行った。表2に分析条件を示す。なお、検出限界は0.5ppmである。比較例1の場合、1,3−ジクロロプロペンの分析試料は20倍に希釈して使用した。
【0052】
【表2】

【0053】
(3)化学式(V)の有機塩素化合物の分析:
この分析はガスクロマトグラフ(面積百分率法)によって行った。表3に分析条件を示す。なお、検出限界は10ppmである。
【0054】
【表3】

【0055】
比較例製造1:
アリルアルコール100g、NaOH12g、水10gの溶液に室温で塩化シアヌル18.4gを添加した。室温で2時間攪拌し、析出した塩化ナトリウムを濾過し、回収した濾液を濃縮し、油状物を得た。次いで、この油状物を、水洗した後、蒸留精製し、TACの結晶を得た(収率85%)。このTACには、化学式(I)において、Rがアリルオキシ基、Rが塩素原子である有機塩素化合物(2−アリルオキシー4,5,6−トリクロロピリミジン)と、Rが塩素原子、Rがアリルオキシ基である有機塩素化合物(4−アリルオキシー2,5,6−トリクロロピリミジン)との混合物(A)170ppm、化学式(II)の有機塩素化合物(2,6−ジアリルオキシー4−クロロトリアジン)740ppmが含まれていた。
【0056】
次いで、キシレン120g中に上記のTAC24.9gと塩化第2銅水和物3.4gを添加し、120℃で2時間撹拌して転移反応を行った。その後、冷却し、減圧下にキシレンを留去し、油状物を回収した。次いで、0.1Torrの減圧下、115℃で上記の油状物を蒸留し、TAICの結晶を得た(収率90%)。このTAICには前記の有機塩素化合物の混合物(A)120ppm、化学式(II)の有機塩素化合物10ppmが含まれていた。
【0057】
製造例1:
比較例製造1と同様して得た油状物を、5重量%NaOH水溶液中、50℃で2時間、加熱攪拌処理した。次いで、塩酸で中和した後、有機層を分離し、蒸留精製し、TACの結晶を得た(収率84%)。このTACには前記の有機塩素化合物の混合物(A)及び化学式(II)の有機塩素化合物は、何れも、検出されなかった(10ppm未満)。
【0058】
次いで、上記のTACを使用し、比較製造例1と同様に、転移反応以降の操作を行ってTAICを得た(収率90%)。このTAICには前記の有機塩素化合物の混合物(A)及び化学式(II)の有機塩素化合物は、何れも、検出されなかった(10ppm未満)。
【0059】
製造例2:
比較製造例1と同様して得た油状物を、1重量%NaOH水溶液中、50℃で6時間、加熱攪拌処理した。次いで、塩酸で中和した後、有機層を分離し、蒸留精製し、TACの結晶を得た(収率84%)。このTACには前記の有機塩素化合物の混合物(A)が40ppm、化学式(II)の有機塩素化合物が10ppm含まれていた。
【0060】
次いで、上記のTACを使用し、比較製造例1と同様に、転移反応以降の操作を行ってTAICを得た(収率90%)。このTAIC中には前記の有機塩素化合物の混合物(A)10ppmが含まれていた。化学式(II)の有機塩素化合物は検出されなかった(10ppm未満)。
【0061】
比較製造例2:
シアン酸ソーダ100g、塩化カルシウム14g、臭化カリウム13g、DMF500gからなる溶液を120℃に保持し、アリルクロライド(1,3−ジクロロプロペン:シス体140ppm、トランス体140ppmを含む)98gを1時間で滴下した。更に、130℃で3時間、反応熟成した後、100℃で減圧下に溶媒を留去し、油状物を得た。次いで、この油状物について濃塩酸洗浄と水洗浄とを順次に二回繰り返し(温度は何れも60℃)、得られた有機層を減圧蒸留(0.1Torr、115℃)し、粘調液体としてTAC得た(収率90%)。このTAICには化学式(V)の有機塩素化合物が590ppm含まれていた。
【0062】
製造例3:
比較製造例2において、原料のアリルクロライドとして、1,3−ジクロロプロペン(シス体0.1ppm、トランス体0.1ppmを含むアリルクロライドを使用した他は、比較例1と同様にしてTACを製造した(収率91%)。このTAICには一般式(V)の有機塩素化合物は検出されなかった(10ppm未満)。
【0063】
試験例1(TAICの加水分解試験):
前記の各例で得られたTAIC1gと水20gとをテフロン(登録商標)製耐圧容器に入れ、120℃で200時間加熱した後、水中の塩素イオン濃度を測定した。塩素イオン濃度の測定はイオナクロマトグラフ(使用カラム:「DIONEX Ion Pack AS12A」、溶離液:2.7mM−NaCO/0.3mM−NaHCO)で行った。検出限界は1ppmである。結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
試験例2(腐食原因物質の加水分解):
以下に記載の要領に従って、腐食原因物質を合成した後、加速条件下で加水分解を行った。
【0066】
<腐食原因物質:2−アリルオキシー4,5,6−トリクロロピリミジンの合成>
2,4,5,6−テトラクロロピリミジン(東京化成社製)54.04g(0.2361モル)、NaOH12.93g(0.3070モル)、1,4−ジオキサン280gの溶液に40℃でアリルアルコール18.01g(0.3070モル)を2時間かけて適下した。更に、40℃で2.5時間反応し、冷却後、ろ過してジオキサンを真空で留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィ(酢酸エチル/nヘキサン1/1)で精製し、2−アリルオキシー4,5,6−トリクロロピリミジン53.34g(収率93.5重量%)を得た。同定はGC−MS分析によって行った。参考までに、GC−MS分析の測定結果を以下の表5に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
<加水分解>
上記の腐食原因物質5gと水5gを耐圧容器中で140℃、6日間加熱した。得られた加水分解物の塩素イオン濃度は15重量%であった。
【0069】
実施例1及び2:
TAICとして以下の2種類の市販TAIC(1)及び(2)を使用した。
【0070】
<TAIC(1)>
化学式(I)において、Rがアリルオキシ基、Rが塩素原子である有機塩素化合物(2−アリルオキシー4,5,6−トリクロロピリミジン)と、Rが塩素原子、Rがアリルオキシ基である有機塩素化合物(4−アリルオキシー2,5,6−トリクロロピリミジン)との混合物(A)の含有量が120ppm、化学式(II)の有機塩素化合物の含有量が10ppmのTAIC。
【0071】
<TAIC(2)>
化学式(V)で表される有機塩素化合物の含有量が10ppm未満のTAIC。
【0072】
上記の各TAIC100重量部に対し、表7に示す量のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM)を添加し、50℃で30分間撹拌して組成物を得た。得られた各組成物について融点を測定し、その結果を表7に示す。融点測定は−20℃で、組成物を凝固させ、DSCで融点を測定した。測定条件は次の表6に示す通りである。
【0073】
【表6】

【0074】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアリルイソシアヌレートとシランカップリング剤とを混合して両者の組成物として貯蔵することを特徴とするトリアリルイソシアヌレートの貯蔵方法。
【請求項2】
シランカップリング剤の使用割合がトリアリルイソシアヌレートに対する値として、5〜30重量%である請求項1に記載の貯蔵方法。
【請求項3】
シランカップリング剤がγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである請求項1又は2に記載の貯蔵方法。
【請求項4】
トリアリルイソシアヌレートが以下の化学式(I)で表される有機塩素化合物を含有し且つその含有量が100ppm以下であるトリアリルイソシアヌレートである請求項1〜3の何れかに記載の貯蔵方法。
【化1】

(化学式(I)のR及びRは塩素原子またはアリルオキシ基を表し、少なくとも一つは塩素原子を表す。)
【請求項5】
トリアリルイソシアヌレートが以下の化学式(V)で表される有機塩素化合物を含有し且つその含有量が500ppm以下であるトリアリルイソシアヌレートである請求項1〜3の何れかに記載の貯蔵方法。
【化2】

(化学式(V)の波線の結合は、シス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物を示す。)

【公開番号】特開2011−6390(P2011−6390A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116650(P2010−116650)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)