説明

トリアリールアミン骨格を有するビスヒドラゾン化合物、並びにそれを用いた電子写真感光体及び画像形成装置

【課題】高感度、高速応答に優れた電子写真感光体を提供する。
【解決手段】下記一般式[1]で表されるビスヒドラゾン化合物、並びにそれを用いた電子写真感光体及び画像形成装置。


(一般式[1]中、A1〜A6はアリール基を表す。B1〜B4はアリーレン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体の感光層に含有される電荷輸送物質として特別な効果を持ち、トリアリールアミン骨格を有するビスヒドラゾン化合物、並びにそれを用いた電子写真感光体及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、電子写真プロセスすなわち帯電、露光、現像、転写、クリーニング、除電等のサイクルで繰り返し使用されるためその間様々なストレスを受け劣化する。この内、化学的劣化としては、例えば帯電器として普通用いられるコロナ帯電器から発生する強酸化性のオゾンやNOXが感光層にダメージを与えることが挙げられ、繰り返し使用する場合に、帯電性の低下、残留電位の上昇等の電気的安定性の悪化、及びそれに伴う画像不良が起きることがある。これらは、感光層中に多く含まれる電荷輸送物質の化学的劣化に由来するところが大きい。
【0003】
また、近年の電子写真プロセスの高速化に伴い、高感度化、高速応答化が必須となっている。この内、高感度化のためには、電荷発生物質の最適化だけでなく、電荷発生物質とのマッチングの良好な電荷輸送物質の開発が必要であり、高速応答化のためには、高移動度かつ露光時に十分な低残留電位を示す電荷輸送物質の開発が必要である。
【0004】
電子写真法と関連した技術分野では、多くの電荷輸送化合物及び電子輸送化合物が知られている。電荷輸送化合物の非制限的な例としては、例えばピラゾリン誘導体類、フルオレン誘導体類、オキサジアゾール誘導体類、スチルベン誘導体類、エナミン誘導体類、エナミンスチルベン誘導体類、ヒドラゾン誘導体類、カルバゾールヒドラゾン誘導体類、トリアリールアミン類のような(N,N−二置換された)アリールアミン類、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリアセナフチレン又は多重化されたヒドラゾン化合物(少なくとも2つのヒドラゾン基及びトリフェニルアミンのような(N,N−二置換された)アリールアミン及びカルバゾール、ジュロリジン、フェノチアジン、フェナジン、フェノキサジン、フェノキサチイン、チアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、ジベンゾ(1,4)ダイオキシン、チアントレン、イミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾキサゾール、ベンズイミダゾール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、インドール、インダゾール、ピロル、プリン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアゾール、オキサジアゾール、テトラゾール、チアジアゾール、ベンズイソキサゾール、ベンズイソチアゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、チオフェン、チアナフテン、キナゾリン又はシノリンのようなヘテロ環類からなる群から選択された少なくとも2つの置換基を含む。)がある。このように、多くの電荷輸送物質を使用することができるが、特定の電子写真法の技術分野の多様な要求を充足させるためには、さらに他の電荷輸送物質の存在が必要である。
【0005】
その中でも、近年、電気特性に優れているという観点から、電荷輸送物質としてヒドラゾン化合物が良く用いられている。特に、特許文献1〜3に記載されたトリフェニルアミン骨格を持つヒドラゾン化合物を用いた感光体は、比較的速い移動度を有し、近年電子写真方式の複写機、或いはプリンター等の高速化、小型化を実現している。しかしながら、電荷移動物質して従来のヒドラゾン化合物を用いた電子写真感光体は、電子写真感光体として必須の性能である残留電位及び感度の電気特性において、未だ不十分である。そのため、感光体市場に満足されていないのが実状である。
【特許文献1】特開平3−138654号公報
【特許文献2】特許2572650号公報
【特許文献3】特許2917473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる現状に鑑み、本発明は従来の欠点を克服し、高感度、高速応答に優れた電子写真感光体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、電荷輸送物質について鋭意研究を重ねた結果、本発明に係るトリアリールアミン骨格を持つビスヒドラゾン化合物が、前記問題を解決できる電荷輸送物質であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は、下記一般式[1]で表されるトリアリールアミン骨格を有するビスヒドラゾン化合物:
【0008】
【化1】

【0009】
(一般式[1]中、A1〜A6は、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基を表す。B1〜B4は、それぞれ置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。但し、(1)B1〜B4の内、一つは置換基を有する;(2)A1、A2の内、一つは置換基を有し、かつ、A3〜A6の内、一つは置換基を有する;(3)A1、A2の内、一つは置換基を有し、かつ、A3〜A6の内、一つはフェニル基以外のアリール基である;の条件の内、少なくとも何れか一つを満たす。)、に存する。
【0010】
また、本発明の別の要旨は、導電性支持体上に電荷発生物質と電荷輸送物質とを含む感光層を設けた電子写真感光体において、前記電荷輸送物質として、下記一般式[1]で表されるビスヒドラゾン化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体、に存する。
【0011】
【化2】

【0012】
(一般式[1]中、A1〜A6は、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基を表す。B1〜B4は、それぞれ置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。但し、(1)B1〜B4の内、一つは置換基を有する;(2)A1、A2の内、一つは置換基を有し、かつ、A3〜A6の内、一つは置換基を有する;(3)A1、A2の内、一つは置換基を有し、かつ、A3〜A6の内、一つはフェニル基以外のアリール基である;の条件の内、少なくとも何れか一つを満たす。)
【0013】
また、本発明の更に別の要旨は、電子写真感光体と、該電子写真感光体を帯電させる帯電部と、帯電した該電子写真感光体に露光を行ない静電潜像を形成する露光部と、露光により該電子写真感光体上に形成された静電潜像をトナーを用いて現像する現像部とを備えた画像形成装置であって、該電子写真感光体が請求項1に記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置、に存する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高感度、低残留電位であり、しかも高速応答性を優れる電子写真感光体及びそれを有する電子写真装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内であれば種々に変更して実施することができる。
【0016】
本発明のトリアリールアミン骨格を有するビスヒドラゾン化合物は、下記一般式[1]で表される。
【0017】
【化3】

【0018】
前記一般式[1]において、A1、A2はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアリール基を表す。前記アリール基としては、特に限定はされないが6〜20の炭素原子を有するアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナントリル基、ピレニル基が挙げられる。中でも、製造コストの面で、フェニル基、ナフチル基が特に好ましい。フェニル基とナフチル基を比較した場合、製造コストの面に加えて合成のし易さの面で、フェニル基がより好ましい。
【0019】
また、A4〜A6はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアリール基を表す。前記アリール基としては、特に限定はされないが6〜20の炭素原子を有するアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナントリル基、ピレニル基が挙げられる。中でも、製造コスト及び合成のし易さの面で、フェニル基、ナフチル基が特に好ましい。
【0020】
前記一般式[1]において、B1〜B4はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。前記アリーレン基としては、特に限定はされないが、6〜20の炭素原子を有するアリーレン基が好ましく、例えば、ナフチレン基、アントラニレン基、フェナントリレン基、ピレニレン基が挙げられる。中でも、製造コストの面から、ナフチレン基が特に好ましい。また、フェニレン基とナフチレン基を比較した場合、製造コストの面に加えて合成のし易さの面で、フェニレン基がより好ましい。
【0021】
A1〜A6及びB1〜B4の有してもよい置換基としては、特に限定はされないが、1〜10の炭素原子を有する電子供与性の置換基が好ましく、ヘテロ原子を有していても良い。例えば、1〜4の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐のアルキル基・アルケニル基・アルキニル基などの炭化水素基、1〜4の炭素原子を有するアルコキシ基、2〜4の炭素原子を有するアルキルアミノ基、6〜10の炭素原子を有するアリール基などが挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、N, N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、フェニル基、4-トリル基、4-エチルフェニル基、4-プロピルフェニル基、4-ブチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。中でも、電気特性の面から、1〜4の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐の炭化水素基が特に好ましい。
【0022】
A1〜A6の有してもよい置換基の結合位置は直接結合している窒素原子に対して、メタ位又はパラ位が好ましく、パラ位が特に好ましい。B1及びB4の有してもよい置換基の結合位置は直接結合している窒素原子からみてメタ位が好ましく、B2及びB3の有してもよい置換基の結合位置は直接結合している窒素原子からみてオルト位が好ましい。この理由は、合成し易く、且つ、電気特性が良好であるからである。
【0023】
前記一般式[1]において、少なくとも以下の条件の何れか1つを満たすことが必須である。
(1)B1〜B4の内、一つは置換基を有する;
(2)A1、A2の内、一つは置換基を有し、かつ、A3〜A6の内、一つは置換基を有する;
(3)A1、A2の内、一つは置換基を有し、かつ、A3〜A6の内、一つはフェニル基以外のアリール基である;
【0024】
上記条件(1)〜(3)は、複数満たしても良い。条件(1)を満たす場合、好ましくはA1、A2に少なくとも一つは置換基を有するものであり、更に好ましくは(2)を満たすものである。また、条件(2)を満たす場合、単独であっても他の条件を満たしてもよいが、好ましくは条件(1)を満たすものである。また、条件(3)を満たす場合、単独であっても他の条件を満たしてもよいが、好ましくは条件(1)を満たすものである。
【0025】
上記条件(1)〜(3)を1つも満たさないヒドラゾン化合物は、電気特性において、初期帯電圧(V0)及び電位低下(DDR)は良好ではあるが、半減露光エネルギー(E1/2)及び残留電位(Vr)は良好な結果を示さない。この理由は、現在のところ明らかではないが、本発明の構成条件は、以下のことから推定されたものである。
【0026】
ビスヒドラゾン分子のN−B1−B2−N結合を軸に部分Iと部分IIに分割した場合、まず第一に部分Iに電子供与性の置換基がある時、電気特性に強く影響を及ぼすと考えられる。これは、電荷輸送には、部分Iが大きく影響しているためだと考えられる。
【0027】
その中でも、1)アリーレン基B1〜B4に電子供与性置換基を有する、2)前記1)を満たさない場合であっても、1)少なくとも部分IIに電子供与性置換基を有し、且つ、アミン末端のアリール基A3〜A6に電子供与性置換基を有する、2)少なくとも部分IIに電子供与性置換基を有し、且つ、アミン末端のアリール基A3〜A6がフェニル基以外のアリール基である場合に、上記電気特性に対して優れた効果を奏するのである。
【0028】
【化4】

【0029】
一般式[1]で示されるトリアリールアミン骨格を有するビスヒドラゾン化合物の代表例として、次のものが挙げられる。但し、これらの化合物に限定されるものではない。
【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
【化7】

【0033】
【化8】

【0034】
【化9】

【0035】
【化10】

【0036】
【化11】

【0037】
これらのビスヒドラゾン化合物は、公知の方法により容易に合成することが出来る。例えば、本発明の例示化合物CT-1は、次の反応式に従って製造することができる。
【0038】
【化12】

【0039】
まず、αで表されるジアリールアミンをNaNO2で酸化し、βで表されるニトロソ体を合成する。それを亜鉛で還元することにより、γで表されるジアリールヒドラジンを得る。同時に、δで表されるテトラフェニルベンジジン誘導体をビルスマイヤー反応でホルミル化してεで表されるジホルミル体を作り、これにジアリールヒドラジンγを加え、酸性条件下で加熱縮合してΣで表されるヒドラゾン化合物を得る。
【0040】
CT−1を製造する場合、3種の異性体が生成する。この時、CT−1aの生成比が最も高い。CT−2及びCT−3を製造する場合も同様に、3種の異性体が生成する。この時、CT−2a及びCT−3aの生成比が最も高い。このような異性体が生成する理由は、ホルミル化によりδからεを合成する際、置換基の効果によりジホルミル体の異性体が生成するからである。
【0041】
電子写真の技術分野において、有機感光体に含まれた電荷生成化合物は、光を吸収して電子−正孔対を形成する。このような電子及び正孔は、強い電場の下で適当な時間をかけて輸送され、電場を発生させる表面電荷を局所的に放電させることができる。特定領域での電場の放電は、表面電荷パターンを形成し、これは光によって描かれたパターンと本質的に対応する。このような電荷パターンは、トナー付着を誘導するために利用されうる。本実施形態による電荷輸送物質は、電荷輸送、特に、電荷発生化合物によって形成された電子−正孔対からの正孔輸送に効果的である。一部の具体例では、特定の電荷輸送物質が、本実施形態のトリアリールアミン骨格を有するビスヒドラゾン化合物と共に使われることがある。
【0042】
以下に、本発明に用いる電子写真感光体の構成について説明する。本発明の電子写真感光体は、導電性支持体(基体)上に、上述した発明により製造したビスヒドラゾン化合物を含有する感光層を設けたものであれば、その構造は特に制限されないが、電荷発生層と、電荷輸送層が積層された機能分離型の感光体が好ましい。
【0043】
<導電性支持体>
導電性支持体について特に制限は無いが、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫などの導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙等が主として使用される。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。導電性支持体の形態としては、ドラム状、シート状、ベルト状などのものが用いられる。更には、金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性などの制御や欠陥被覆のために、適当な抵抗値を有する導電性材料を塗布したものを用いても良い。
【0044】
また、導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合、陽極酸化被膜を施してから用いても良い。陽極酸化被膜を施した場合には、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。
【0045】
支持体表面は、平滑であっても良いし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理を施したりすることにより、粗面化されていても良い。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものでも良い。また、安価化のためには、切削処理を施さず、引き抜き管をそのまま使用することも可能である。
【0046】
<下引き層>
導電性支持体と後述する感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けても良い。下引き層としては、樹脂、樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したものなどが用いられる。
【0047】
下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子などが挙げられる。これらは一種類の粒子を単独で用いても良いし、複数の種類の粒子を混合して用いても良い。これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコン等の有機物による処理を施されていても良い。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また、複数の結晶状態のものが含まれていても良い。
【0048】
また、金属酸化物粒子の粒径としては種々のものが利用できるが、中でも特性及び液の安定性の面から、平均一次粒径として通常1nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下のものが望ましい。
【0049】
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ニトロセルロース等のセルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸、澱粉、スターチアセテート、アミノ澱粉、ジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物等の有機ジルコニウム化合物、チタニルキレート化合物、チタニルアルコキシド化合物等の有機チタニル化合物、シランカップリング剤などの公知のバインダー樹脂が挙げられる。これらは単独で用いても良く、或いは2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、硬化剤とともに硬化した形で使用してもよい。中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は、良好な分散性、塗布性を示すことから好ましい。
【0050】
下引き層に用いられるバインダー樹脂に対する無機粒子の使用比率は任意に選ぶことが可能であるが、分散液の安定性、塗布性の観点から、通常は10重量%以上、500重量%以下の範囲で使用することが好ましい。
【0051】
下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができるが、感光体特性及び塗布性を向上させる観点から、通常は0.1μm以上、20μm以下の範囲が好ましい。下引き層には、公知の酸化防止剤等を混合しても良い。画像欠陥防止などを目的として、顔料粒子、樹脂粒子等を含有させ用いても良い。
【0052】
<感光層>
感光層の形式としては、電荷発生物質と電荷輸送物質とが同一層に存在し、バインダー樹脂中に分散された単層型と、電荷発生物質がバインダー樹脂中に分散された電荷発生層及び電荷輸送物質がバインダー樹脂中に分散された電荷輸送層の二層からなる機能分離型(積層型)とが挙げられるが、何れの形式であってもよい。
【0053】
また、積層型感光層としては、導電性支持体側から電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層して設ける順積層型感光層と、逆に電荷輸送層、電荷発生層の順に積層して設ける逆積層型感光層とがあり、いずれを採用することも可能であるが、最もバランスの取れた光導電性を発揮できる順積層型感光層が好ましい。
【0054】
<積層型感光層>
(電荷発生層)
積層型感光体(機能分離型感光体)の場合、電荷発生層は、電荷発生物質をバインダー樹脂で結着することにより形成される。
【0055】
電荷発生物質としては、セレニウム及びその合金、硫化カドミウム等の無機系光導電材料と、有機顔料等の有機系光導電材料とが挙げられるが、有機系光導電材料の方が好ましく、特に有機顔料が好ましい。有機顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、スクアレン(スクアリリウム)顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはフタロシアニン顔料又はアゾ顔料であり、更に好ましくはフタロシアニン顔料である。この理由は、電荷発生物質として、高感度を示すものであり、更には、一般式[1]で表されるビスヒドラゾン化合物とのマッチングが良好なためである。
【0056】
電荷発生物質として有機顔料を使用する場合、通常はこれらの有機顔料の微粒子を、各種のバインダー樹脂で結着した分散層の形で使用する。
【0057】
電荷発生物質として無金属フタロシアニン化合物、金属含有フタロシアニン化合物を用いた場合は、比較的長波長のレーザー光、例えば780nm近辺の波長を有するレーザー光に対して高感度の感光体が得られ、またモノアゾ、ジアゾ、トリスアゾ等のアゾ顔料を用いた場合には、白色光、又は660nm近辺の波長を有するレーザー光、もしくは比較的短波長のレーザー光、例えば450nm、400nm近辺の波長を有するレーザーに対して十分な感度を有する感光体を得ることができる。
【0058】
電荷発生物質として有機顔料を使用する場合、特にフタロシアニン顔料又はアゾ顔料が好ましい。フタロシアニン顔料は、比較的長波長のレーザー光に対して高感度の感光体が得られる点で、また、アゾ顔料は、白色光及び比較的短波長のレーザー光に対し十分な感度を持つ点で、それぞれ優れている。
【0059】
電荷発生物質としてフタロシアニン顔料を使用する場合、具体的には無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、スズ、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウムなどの金属又はその酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、アルコキシドなどの配位したフタロシアニン類の各結晶型を持ったもの、酸素原子等を架橋原子として用いたフタロシアニンダイマー類などが使用される。特に、感度の高い結晶型であるX型、τ型無金属フタロシアニン、A型(別称β型)、B型(別称α型)、D型(別称Y型)等のチタニルフタロシアニン(別称:オキシチタニウムフタロシアニン)、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシインジウムフタロシアニン、II型等のクロロガリウムフタロシアニン、V型等のヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型、I型等のμ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体、II型等のμ−オキソ−アルミニウムフタロシアニン二量体が好適である。
【0060】
また、これらフタロシアニンの中でも、A型(別称β型)、B型(別称α型)、及び粉末X線回折の回折角2θ(±0.2゜)が27.1゜、もしくは27.3゜に明瞭なピークを示すことを特徴とするD型(Y型)チタニルフタロシアニン、II型クロロガリウムフタロシアニン、V型及び28.1゜にもっとも強いピークを有すること、また26.2゜にピークを持たず28.1゜に明瞭なピークを有し、かつ25.9゜の半値幅Wが0.1゜≦W≦0.4゜であることを特徴とするヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型μ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体等が特に好ましい。
【0061】
フタロシアニン化合物は単一の化合物のものを用いてもよいし、幾つかの混合又は混晶状態のものを用いてもよい。ここでのフタロシアニン化合物ないしは結晶状態に置ける混合状態としては、それぞれの構成要素を後から混合したものを用いてもよいし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じさせたものでもよい。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。混晶状態を生じさせるためには、特開平10−48859号公報記載のように、2種類の結晶を混合後に機械的に磨砕、不定形化した後に、溶剤処理によって特定の結晶状態に変換する方法が挙げられる。
【0062】
電荷発生物質としてアゾ顔料を使用する場合には、各種ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料が好適に用いられる。好ましいアゾ顔料の例を下記に示す。
【0063】
【化13】

【0064】
【化14】

【0065】
【化15】

【0066】
電荷発生物質として、上記例示の有機顔料を用いる場合には、1種を単独で用いてもよいが、2種類以上の顔料を混合して用いてもよい。この場合、可視域と近赤域の異なるスペクトル領域で分光感度特性を有する2種類以類以上の電荷発生物質を組み合わせて用いることが好ましく、中でもジスアゾ顔料、トリスアゾ顔料とフタロシアニン顔料とを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0067】
電荷発生層に用いるバインダー樹脂は特に制限されないが、例としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、カゼインや、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アルキッド樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂や、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマーなどが挙げられる。これらのバインダー樹脂は、何れか1種を単独で用いても良く、2種類以上を任意の組み合わせで混合して用いても良い。
【0068】
電荷発生層は、具体的に、上述のバインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に、本発明のハロゲン置換インジウムフタロシアニン及び場合によって用いられるその他の電荷発生物質を分散させて塗布液を調製し、これを導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布することにより形成される。
【0069】
塗布液の作製に用いられる溶剤としては、バインダー樹脂を溶解させるものであれば特に制限されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン等の飽和脂肪族系溶媒、トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒、グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等の鎖状又は環状ケトン系溶媒、ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等の鎖状又は環状エーテル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物、リグロイン等の鉱油、水などが挙げられる。これらは何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を併用して用いてもよい。なお、上述の下引き層を設ける場合には、この下引き層を溶解しないものが好ましい。
【0070】
電荷発生層において、バインダー樹脂と電荷発生物質との配合比(重量)は、バインダー樹脂100重量部に対して電荷発生物質が通常10重量部以上、好ましくは30重量部以上、また、通常1000重量部以下、好ましくは500重量部以下の範囲であり、その膜厚は通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、また、通常10μm以下、好ましくは0.6μm以下の範囲である。電荷発生物質の比率が高過ぎると、電荷発生物質の凝集等により塗布液の安定性が低下するおそれがある一方、電荷発生物質の比率が低過ぎると、感光体としての感度の低下を招くおそれがある。
【0071】
電荷発生物質を分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法等の公知の分散法を用いることができる。この際、粒子を0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.15μm以下の範囲の粒子サイズに微細化することが有効である。
【0072】
(電荷輸送層)
積層型感光体の電荷輸送層は、電荷輸送物質を含有するとともに、通常はバインダー樹脂と、必要に応じて使用されるその他の成分とを含有する。このような電荷輸送層は、具体的には、例えば電荷輸送物質等とバインダー樹脂とを溶剤に溶解又は分散して塗布液を作製し、これを順積層型感光層の場合には電荷発生層上に、また、逆積層型感光層の場合には導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布、乾燥して得ることができる。
【0073】
電荷輸送物質としては、上述した本発明により製造したビスヒドラゾン系化合物を用いる。本発明のビスヒドラゾン系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0074】
また、本発明のビスヒドラゾン系化合物に加えて、公知の他の電荷輸送物質を併用してもよい。他の電荷輸送物質を併用する場合、その種類は特に制限されないが、例えばカルバゾール誘導体、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体及びこれらの誘導体が複数結合されたものが好ましい。更に具体的には、特開平2−230255号、特開昭63−225660号、特開昭58−198043号、特公昭58−32372号、及び特公平7−21646号の各公報に記載の化合物が好ましく使用される。これらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。これらの電荷輸送物質は、何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせで併用しても良い。
【0075】
バインダー樹脂は膜強度確保のために使用される。電荷輸送層のバインダー樹脂としては、例えばブタジエン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ビニルアルコール樹脂、エチルビニルエーテル等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、部分変性ポリビニルアセタール、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロースエステル樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等が挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が好ましい。これらのバインダー樹脂は、適当な硬化剤を用いて熱、光等により架橋させて用いることもできる。これらのバインダー樹脂は、何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせで用いても良い。
【0076】
バインダー樹脂と電荷輸送物質との割合は、バインダー樹脂100重量部に対して電荷輸送物質を20重量部以上の比率で使用する。中でも、残留電位低減の観点から30重量部以上が好ましく、更には、繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点から40重量部以上がより好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点から、電荷輸送物質を通常は150重量部以下の比率で使用する。中でも、電荷輸送材料とバインダー樹脂との相溶性の観点から110重量部以下が好ましく、耐刷性の観点から80重量部以下がより好ましく、耐傷性の観点から70重量部以下が最も好ましい。
【0077】
電荷輸送層の膜厚は特に制限されないが、長寿命、画像安定性の観点、更には高解像度の観点から、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは45μm以下、更には30μm以下の範囲とする。
【0078】
<単層型感光層>
単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質に加えて、バインダー樹脂を使用して形成する。具体的には、電荷発生物質と電荷輸送物質と各種バインダー樹脂とを溶剤に溶解又は分散して塗布液を作製し、導電性支持体上(下引き層を設ける場合は下引き層上)に塗布、乾燥して得ることができる。
【0079】
電荷輸送物質及びバインダー樹脂の種類並びにこれらの使用比率は、積層型感光体の電荷輸送層について説明したものと同様である。これらの電荷輸送物質及びバインダー樹脂からなる電荷輸送媒体中に、さらに電荷発生物質が分散される。
【0080】
電荷発生物質は、積層型感光体の電荷発生層について説明したものと同様のものが使用できる。但し、単層型感光体の感光層の場合、電荷発生物質の粒子径を充分に小さくする必要がある。具体的には、通常1μm以下、好ましくは0.5μm以下の範囲とする。
【0081】
単層型感光層内に分散される電荷発生物質の量は、少な過ぎると充分な感度が得られない一方で、多過ぎると帯電性の低下、感度の低下などの弊害があることから、単層型感光層全体に対して通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常10重量%以下、好ましくは8重量%以下の範囲で使用される。
【0082】
また、単層型感光層におけるバインダー樹脂と電荷発生物質との使用比率は、バインダー樹脂100重量部に対して電荷発生物質が通常0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上、また、通常30重量部以下、好ましくは10重量部以下の範囲とする。単層型感光層の膜厚は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下の範囲である。
【0083】
<その他の機能層>
積層型感光体、単層型感光体ともに、感光層又はそれを構成する各層には、成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性などを向上させる目的で、周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤などの添加物を含有させても良い。
【0084】
また、積層型感光体、単層型感光体ともに、上記手順により形成された感光層を最上層、即ち表面層としてもよいが、その上に更に別の層を設け、これを表面層としてもよい。例えば、感光層の損耗を防止したり、帯電器等から発生する放電生成物等による感光層の劣化を防止・軽減すしたりする目的で、保護層を設けても良い。
【0085】
保護層は、導電性材料を適当なバインダー樹脂中に含有させて形成するか、特開平9−190004号、特開平10−252377号各公報に記載のトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する化合物を用いた共重合体を用いることができる。
【0086】
保護層に用いる導電性材料としては、TPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス−(m−トリル)ベンジジン)等の芳香族アミノ化合物、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化錫−酸化アンチモン、酸化アルミ、酸化亜鉛等の金属酸化物などを用いることが可能であるが、これに限定されるものではない。
【0087】
保護層に用いるバインダー樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、シロキサン樹脂等の公知の樹脂を用いることができ、また、特開平9−190004号公報、特開平10−252377号公報の記載のようなトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する骨格と上記樹脂の共重合体を用いることもできる。
【0088】
保護層の電気抵抗は、通常10Ω・cm以上、1014Ω・cm以下の範囲とする。電気抵抗が前記範囲より高くなると、残留電位が上昇しカブリの多い画像となってしまう一方、前記範囲より低くなると、画像のボケ、解像度の低下が生じてしまう。また、保護層は像露光の際に照射される光の透過を実質上妨げないように構成されなければならない。
【0089】
また、感光体表面の摩擦抵抗や、摩耗を低減、トナーの感光体から転写ベルト、紙への転写効率を高める等の目的で、表面層にフッ素系樹脂、シリコン樹脂、ポリエチレン樹脂等、又はこれらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を、表面層に含有させても良い。或いは、これらの樹脂や粒子を含む層を新たに表面層として形成しても良い。
【0090】
<各層の形成方法>
これらの感光体を構成する各層は、含有させる物質を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、支持体上に浸漬塗布、スプレー塗布、ノズル塗布、バーコート、ロールコート、ブレード塗布等の公知の方法により、各層ごとに順次塗布・乾燥工程を繰り返すことにより形成される。
【0091】
塗布液の作製に用いられる溶媒又は分散媒に特に制限は無いが、具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ギ酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等が挙げられる。また、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせ及び種類で併用してもよい。
【0092】
溶媒又は分散媒の使用量は特に制限されないが、各層の目的や選択した溶媒・分散媒の性質を考慮して、塗布液の固形分濃度や粘度等の物性が所望の範囲となるように適宜調製するのが好ましい。例えば、単層型感光体、及び機能分離型感光体の電荷輸送層層の場合には、塗布液の固形分濃度を通常5重量%以上、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、また、通常40重量%以下、好ましくは35重量%以下の範囲とする。また、塗布液の粘度を通常10cps以上、好ましくは50cps以上、また、通常500cps以下、好ましくは400cps以下の範囲とする。
【0093】
また、積層型感光体の電荷発生層の場合には、塗布液の固形分濃度は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲とする。また、塗布液の粘度は、通常0.01cps以上、好ましくは0.1cps以上、また、通常20cps以下、好ましくは10cps以下の範囲とする。
【0094】
塗布液の塗布方法としては、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等が挙げられるが、他の公知のコーティング法を用いることも可能である。
【0095】
塗布液の乾燥は、室温における指触乾燥後、通常30℃以上、200℃以下の温度範囲で、1分から2時間の間、静止又は送風下で加熱乾燥させることが好ましい。また、加熱温度は一定であってもよく、乾燥時に温度を変更させながら加熱を行なっても良い。
【0096】
<画像形成装置>
次に、本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置(本発明の画像形成装置)の実施の形態について、装置の要部構成を示す図1を用いて説明する。但し、実施の形態は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
【0097】
図1に示すように、画像形成装置は、電子写真感光体1,帯電装置2,露光装置3及び現像装置4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5,クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
【0098】
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2,露光装置3,現像装置4,転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
【0099】
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。帯電装置としては、コロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、電圧印加された直接帯電部材を感光体表面に接触させて帯電させる直接帯電装置(接触型帯電装置)帯電ブラシ等の接触型帯電装置などがよく用いられる。直接帯電手段の例としては、帯電ローラ、帯電ブラシ等の接触帯電器などが挙げられる。なお、図1では、帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示している。直接帯電手段として、気中放電を伴う帯電、あるいは気中放電を伴わない注入帯電いずれも可能である。また、帯電時に印可する電圧としては、直流電圧だけの場合、及び直流に交流を重畳させて用いることもできる。
【0100】
露光装置3は、電子写真感光体1に露光を行なって電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LEDなどが挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行なうようにしてもよい。露光を行なう際の光は任意であるが、例えば波長が780nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm〜500nmの短波長の単色光などで露光を行なえばよい。
【0101】
現像装置4は、その種類に特に制限はなく、カスケード現像、一成分絶縁トナー現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像などの乾式現像方式や、湿式現像方式などの任意の装置を用いることができる。図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジなどの容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
【0102】
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄,ステンレス鋼,アルミニウム,ニッケルなどの金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコン樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂などを被覆した樹脂ロールなどからなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
【0103】
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
【0104】
規制部材45は、シリコン樹脂やウレタン樹脂などの樹脂ブレード、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、リン青銅などの金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は5〜500g/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
【0105】
アジテータ42は、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌するとともに、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
【0106】
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写などの静電転写法、圧力転写法、粘着転写法など、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー,転写ローラ,転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙,媒体)Pに転写するものである。
【0107】
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナーなど、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。但し、感光体表面に残留するトナーが少ないか、殆ど無い場合には、クリーニング装置6は無くても構わない。
【0108】
定着装置7は、上部定着部材(定着ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73が備えられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73が備えられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71,72は、ステンレス,アルミニウムなどの金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シートなどが公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71,72は、離型性を向上させる為にシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
【0109】
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
【0110】
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着など、任意の方式による定着装置を設けることができる。
【0111】
以上のように構成された電子写真装置では、次のようにして画像の記録が行なわれる。即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば−600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させても良く、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
【0112】
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行なう。
【0113】
現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、負極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラ44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
【0114】
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行なうことができる構成としても良い。除電工程は、電子写真感光体に露光を行なうことで電子写真感光体の除電を行なう工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。
【0115】
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程などの工程を行なうことができる構成としたり、オフセット印刷を行なう構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
【0116】
なお、電子写真感光体1を、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5、クリーニング装置6、及び定着装置7のうち1つ又は2つ以上と組み合わせて、一体型のカートリッジ(以下適宜「電子写真感光体カートリッジ」という)として構成し、この電子写真感光体カートリッジを複写機やレーザービームプリンタ等の電子写真装置本体に対して着脱可能な構成にしてもよい。この場合、例えば電子写真感光体1やその他の部材が劣化した場合に、この電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することにより、画像形成装置の保守・管理が容易となる。
【実施例】
【0117】
以下、製造例,実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に反しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0118】
<ビスヒドラゾン化合物の製造>
(製造例1:例示化合物CT-1の製造)
窒素雰囲気下、4, 4'-ビス(m-トリルフェニルアミノ)ビフェニル 103 g を、90〜100℃下で、機械攪拌をしながら、N,N−ジメチルホルムアミド(以降、DMFということがある。) 775mlに溶解した。その後、65 ℃まで冷却し、温度を維持しながら、オキシ塩化リン85g をゆっくり滴下し、攪拌後、室温まで冷却した。次いで、トルエンと脱塩水 を添加して1〜2時間攪拌した後、分液した。続いて、有機層中の溶媒を減圧留去した後、テトラヒドロフラン(以降、THFということがある。)を加えた。この溶液をメタノール/水混合溶媒に滴下し、濾過乾燥後、ジホルミル体(収率90%)を黄色い粉末として得た。
【0119】
窒素雰囲気下、p, p'-ジトリルアミン138gを、50 ℃下で、機械攪拌をしながら、酢酸790 mlに溶解した。その後、室温まで冷却し、同温度で亜硝酸ナトリウムの水溶液259 gをゆっくり滴下し、さらに2時間攪拌した後、吸引濾過した。得られた固体を、脱塩水/アセトン混合溶媒で懸洗し濾別した。固体を減圧乾燥し、ニトロソ体(収率93%)を黄色結晶として得た。
【0120】
窒素雰囲気下、得られたニトロソ体35gと亜鉛粉末22gとメタノール200 mlを反応器に加え、室温下で攪拌をしながら、酢酸37 mlをゆっくり滴下した。約2時間後、反応混合物を吸引濾過によって分離し、濾液を前記合成で得たジホルミル体31 gを含有するTHF溶液250mlに滴下した。その後、約1時間加熱環流を続け、室温まで冷却して固体を析出させた。この固体をトルエン/ヘキサン混合溶液で溶解した後、カラムクロマトグラフィーで分離精製し、例示化合物CT-1を黄色い粉末として得た(収率90%)。この化合物の生成について、図2に示した核磁気共鳴スペクトル(300 MHz、Varian Gemini-2000 NMR spectrometer)により確認した。また、この化合物は三種類の異性体が生成する(CT-1a、CT-1b及びCT-1cで表す)。この時、CT−1aの生成比が最も高い。
【0121】
(製造例2:例示化合物CT-3の製造)
窒素雰囲気下、N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミン154 g を、室温下で、機械攪拌をしながら、酢酸791 mlに溶解した。その後、亜硝酸ナトリウム水溶液259 gをゆっくり滴下して攪拌した後、吸引濾過した。得られた固体を、脱塩水/アセトン混合溶媒で懸洗し濾別した。固体を50 ℃下で減圧乾燥し、ニトロソ体(収率90%)を黄色結晶として得た。
【0122】
窒素雰囲気下、得られたニトロソ体38 gと亜鉛粉末22 gとメタノール200 mlを反応器に加え、室温下で攪拌をしながら、酢酸37 mlをゆっくり滴下した。約3時間後、反応混合物を吸引濾過によって分離し、濾液を前記製造例1で得たジホルミル体32 gを含有するTHF溶液に滴下した。約1時間で加熱環流を続け、室温まで冷却し、固体を析出させた。この固体をトルエン/ヘキサン混合溶液で溶解した後、カラムクロマトグラフィーで分離精製し、例示化合物CT-3(収率53%)を黄色い粉末として得た。この化合物の生成について、図3に示した核磁気共鳴スペクトル(300 MHz、Varian Gemini-2000 NMR spectrometer)により確認した。また、この化合物は三種類の異性体が生成する(CT-3a、CT-3b及びCT-3cで表す)。この時、CT−3aの生成比が最も高い。
【0123】
(製造例3:例示化合物CT-6の製造)
窒素雰囲気下、4, 4'-ビス(N, N-ジフェニルアミノ)-ジ(3, 3'-ジメチル)フェニル47 gを、90〜100 ℃下で、機械攪拌をしながら、DMF 300 mlに溶解した。その後、65℃まで冷却し、温度を維持しながら、オキシ塩化リン41gをゆっくり滴下し、攪拌後、室温まで冷却した。次いでトルエンと脱塩水を添加して1〜2時間攪拌した後、分液した。続いて、有機層の溶媒を減圧留去した後、THF溶液を加えた。この溶液をメタノール/水混合溶媒に滴下し、濾別乾燥後、ジホルミル体(収率89%)を黄色い粉末として得た。
【0124】
窒素雰囲気下、N-ニトロソジフェニルアミノ30gと亜鉛粉末24 gとメタノール200 mlを反応器に加え、室温下で攪拌をしながら、酢酸42 mlをゆっくり滴下した。約2時間後、反応混合物を吸引濾過によって分離し、濾液を前記合成で得たジホルミル体29 gを含有するTHF溶液に滴下した。その後、約1時間で加熱環流を続け、室温まで冷却して固体を析出させた。トルエン/ヘキサン混合溶液で溶解した後、カラムクロマトグラフィーで分離精製し、例示化合物CT-6(収率68%)を黄色い粉末として得た。この化合物の生成について、図4に示した核磁気共鳴スペクトル(300 MHz、Varian Gemini-2000 NMR spectrometer)により確認した。
【0125】
(製造例4:例示化合物CT-7の製造)
窒素雰囲気下、4, 4'-ビス(m, p'-ジトリルアミノ)ビフェニル27gを、90〜100 ℃下で、機械攪拌をしながら、DMF 195mlに溶解した。その後、65 ℃まで冷却し、温度を維持しながら、オキシ塩化リン21 gをゆっくり滴下し、攪拌後、室温まで冷却した。次いで、トルエンと脱塩水を添加し攪拌した後、分液した。続いて、有機層中の溶媒を減圧留去し、THF溶液を加えた。この溶液をメタノール/水混合溶媒に滴下し、濾別乾燥後、ジホルミル体(収率87%)を黄緑色粉末として得た。
【0126】
窒素雰囲気下、N-ニトロソジフェニルアミノ9 gと亜鉛粉末7 gとメタノール100 mlを反応器に加え、室温下で攪拌をしながら、酢酸13 mlをゆっくり滴下した。約2時間後、反応混合物を吸引濾過によって分離し、濾液を、前記合成で得たジホルミル体9 gを含有するTHF溶液に滴下した。その後、約1時間で加熱環流を続け、室温まで冷却して固体を析出させた。この固体をトルエン/ヘキサン混合溶液で溶解した後、カラムクロマトグラフィーで分離精製し、例示化合物CT-7(収率83%)を黄色い粉末として得た。この化合物の生成について、図5に示した核磁気共鳴スペクトル(300 MHz、Varian Gemini-2000 NMR spectrometer)により確認した。
【0127】
(製造例5:例示化合物CT-11の製造)
窒素雰囲気下、2, 7-ビス(N, N-ジフェニルアミノ)-9, 9-ジメチル-9H-フルオレン26 gを、DMF350 mlに溶解した。その後、65 ℃まで冷却し、温度を維持しながら、オキシ塩化リン21 gをゆっくり滴下し、攪拌後、室温まで冷却した。次いで、トルエンと脱塩水を添加し攪拌した後、分液した。続いて、有機層中の溶媒を減圧留去し、THFを加えた。この溶液をメタノール/水(v/v= 5:1)に滴下し、濾過乾燥後、ジホルミル体 27 g(収率92%)を黄色い粉末として得た。
【0128】
窒素雰囲気下、N-ニトロソジフェニルアミノ28 gと亜鉛粉末22 g とメタノール200 mlを反応器に加え、室温下で攪拌をしながら、酢酸39 mlをゆっくり滴下した。約2時間後、反応混合物を吸引濾過によって分離し、濾液を、前記合成で得たジホルミル体27 gを含有するTHF溶液に滴下した。その後、約1時間で加熱環流を続け、室温まで冷却して固体を析出させた。この固体を、トルエン/ヘキサン混合溶液で溶解した後、カラムクロマトグラフィーで分離精製し、例示化合物CT-11(収率78%)を黄色い粉末として得た。この化合物の生成について、図6に示した核磁気共鳴スペクトル(300 MHz、Varian Gemini-2000 NMR spectrometer)により確認した。
【0129】
<電子写真感光体の作製>
(実施例1:電子写真感光体A1)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(厚み75μm)の表面にアルミニウム蒸着層(厚み70nm)を形成した導電性支持体を用い、その導電性支持体のアルミニウム蒸着層上に、以下の下引き層用分散液をバーコーターにより、乾燥後の膜厚が1.25μmとなるように塗布し、乾燥させ下引き層を形成した。
【0130】
下引き層用分散液は、次のようにして製造した。即ち、平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、高速流動式混合混練機((株)カワタ社製「SMG300」)に投入し、回転周速34.5m/秒で高速混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1−プロパノールの混合溶媒中でボールミルにより分散させることにより、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、ε−カプロラクタム[下記式(A)で表わされる化合物]/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表わされる化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(C)で表わされる化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(D)で表わされる化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式(E)で表わされる化合物]の組成モル比率が、75%/9.5%/3%/9.5%/3%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行なうことにより、メタノール/1−プロパノール/トルエンの重量比が7/1/2で、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比3/1で含有する、固形分濃度18.0%の下引き層用分散液とした。
【0131】
【化16】

【0132】
別に、A型オキシチタニウムフタロシアニン(CuKα特性X線に対するX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)に9.3°,10.6°,26.3°に回折ピークを示す)10重量部を、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン 150重量部に加え、サンドグラインドミルにて1時間粉砕分散処理を行なった。その後、バインダー樹脂としてのポリビニルブチラール(電気化学工業社製「デンカブチラール #6000C」)の5重量%1,2−ジメトキシエタン溶液100重量部、及び、フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイト社製「PKHH」)の5重量%1,2−ジメトキシエタン溶液100重量部を加えて、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を、上記の導電性支持体の下引き層上に、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるようにバーコーターにより塗布し、乾燥させて電荷発生層を形成した。
【0133】
また、別に、電荷輸送物質として上記製造例1にて得られた例示化合物CT-1を50重量部、バインダー樹脂100重量部、及び、レベリング剤としてシリコーンオイル0.03重量部をテトラヒドロフラン/トルエン=8/2(重量比)混合溶媒640重量部に溶解させて電荷輸送層用塗布液を調製した。なお、バインダー樹脂としては、以下に示す2,2−ビス(4―ヒドロキシ−3―メチルフェニル)プロパンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位A51mol%と、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位B49mol%とからなり、p−t−ブチルフェノールに由来する末端構造を有するポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量30000)を用いた。
【0134】
【化17】

【0135】
【化18】

【0136】
電荷輸送層用塗布液を、前記電荷発生層上に、乾燥後の膜厚が20μmとなるようにフィルムアプリケーターにより塗布し、乾燥させて電荷輸送層を形成して、積層型感光層を有する電子写真感光体A1を製造した。
【0137】
(実施例2:電子写真感光体A2)
例示化合物CT-1に代え、CT-3を電荷輸送物質として使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例としての電子写真感光体A2を得た。
【0138】
(実施例3:電子写真感光体A3)
例示化合物CT-1に代え、CT-6を電荷輸送物質として使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例としての電子写真感光体A3を得た。
【0139】
(実施例4:電子写真感光体A4)
例示化合物CT-1に代え、CT-7を電荷輸送物質として使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例としての電子写真感光体A4を得た。
【0140】
(実施例5:電子写真感光体A5)
例示化合物CT-1に代え、CT-11を電荷輸送物質として使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例としての電子写真感光体A5を得た。
【0141】
(比較例1:電子写真感光体P1)
例示化合物CT-1に代えて、特許文献2に例示された下記の電荷輸送物質Wを使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P1を得た。
【0142】
【化19】

【0143】
(比較例2:電子写真感光体P2)
例示化合物CT-1に代えて、特許文献1に例示された下記の電荷輸送物質Xを使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P2を得た。
【0144】
【化20】

【0145】
(比較例3:電子写真感光体P3)
例示化合物1に代えて、特許文献1に例示された下記の電荷輸送物質Yを使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P3を得た。しかし、塗布液の作成には熱溶解が必要であり、電荷輸送物質Yは溶解性に難があることが確認された。また、感光体の一部に結晶化が見られ、特性の測定に至らなかった。
【0146】
【化21】

【0147】
(比較例4:電子写真感光体P4)
例示化合物1に代えて、特許文献2に例示された下記の電荷輸送物質Zを使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P4を得た。
【0148】
【化22】

【0149】
<電子写真感光体の電気特性評価>
得られた電子写真感光体A1〜A5、P1〜P4の電子写真特性を、感光体評価装置(シンシア-55、ジェンテック社製)を用いて、スタティック方式でそれぞれ以下のようにして測定した。まず、暗所でスコロトロン帯電器により、電子写真感光体を表面電位が、約−(マイナス。以下同じ。)700Vになるよう放電を行ない、一定速度(125mm/sec)で電子写真感光体を通過させて帯電させ、その帯電圧を測定し、初期帯電圧(V0)を求めた。その後、2.5秒間放置したときの電位低下(DDR)を測定した。次に、強度1.0μW/cm2の780nm単色光を照射し、感光体表面電位が、−550Vから−275Vになるまでに要した半減露光エネルギーE1/2(μJ/cm2)と、照射10秒後の残留電位(Vr)を求めた。
【0150】
各電子写真感光体A1〜A5、P1〜P4の評価結果を表1に示す。
【0151】
【表1】

【0152】
(実施例6)
上記例示化合物CT-7を電荷輸送物質として使用し、電荷輸送層の電界強度E = 2e+5(V/cm)、温度21℃下におけるホールドリフト移動度をTOF法により、測定した。
【0153】
(比較例5)
上記実施例6で用いた本特許の新規ビスヒドラゾン化合物CT-7の代わりに、特許文献2に例示された電荷輸送物質aを使用した以外は、実施例と同様にして、ホールドリフト移動度をTOF法により、測定した。
【0154】
【化23】

【0155】
各電子写真感光体A4、P5のホールドリフト移動度を表2に示す。
【0156】
【表2】

【0157】
上記のように、比較例3では、電荷輸送物質Yの溶解性が低く、良好な電子写真感光体を製造することができなかったが、実施例1〜5では、本発明のアリールアミン系化合物である例示化合物CT-1、CT-3、CT-6、CT-7、CT-11が高い溶解性を示し、そのため良好な電子写真感光体A1〜A5を製造することができた。
【0158】
また、表1に示すように、電子写真感光体A1〜A5は電子写真感光体P1、P2、又はP4よりも半減露光エネルギーが小さく、また、照射10秒後の残留電圧Vrが小さい。したがって、本発明のビスヒドラゾン化合物である例示化合物CT-1、CT-3、CT-6、CT-7、CT-11を電荷輸送物質として用いた電子写真感光体A1〜A5は、従来の電荷輸送物質W、X、Y、及びZを用いた電子写真感光体よりも良好な電気特性を示すことが確認された。
【0159】
更に、本発明のビスヒドラゾン化合物である例示化合物CT-7を電荷輸送物質として用いた電子写真感光体A4は、比較例の電荷輸送物質aを用いた電子写真感光体とを比べ、移動度が全く遜色せず、電気特性も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明は、電機写真感光体を必要とする任意の分野で実施することができ、例えば複写機、プリンター、印刷機などに用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】本発明の画像形成装置の一実施態様の要部構成を示す概略図である。
【図2】本発明の例示化合物CT-1の核磁気共鳴スペクトル(300 MHz)である。
【図3】本発明の例示化合物CT-3の核磁気共鳴スペクトル(300 MHz)である。
【図4】本発明の例示化合物CT-6の核磁気共鳴スペクトル(300 MHz)である。
【図5】本発明の例示化合物CT-7の核磁気共鳴スペクトル(300 MHz)である。
【図6】本発明の例示化合物CT-11の核磁気共鳴スペクトル(300 MHz)である。
【符号の説明】
【0162】
1 感光体(電子写真感光体)
2 帯電装置(帯電ローラ;帯電部)
3 露光装置(露光部)
4 現像装置(現像部)
5 転写装置
6 クリーニング装置
7 定着装置
41 現像槽
42 アジテータ
43 供給ローラ
44 現像ローラ
45 規制部材
71 上部定着部材(定着ローラ)
72 下部定着部材(定着ローラ)
73 加熱装置
T トナー
P 記録紙(用紙,媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で表されるトリアリールアミン骨格を有するビスヒドラゾン化合物。
【化1】

(一般式[1]中、A1〜A6は、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基を表す。B1〜B4は、それぞれ置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。但し、(1)B1〜B4の内、一つは置換基を有する;(2)A1、A2の内、一つは置換基を有し、かつ、A3〜A6の内、一つは置換基を有する;(3)A1、A2の内、一つは置換基を有し、かつ、A3〜A6の内、一つはフェニル基以外のアリール基である;の条件の内、少なくとも何れか一つを満たす。)
【請求項2】
導電性支持体上に電荷発生物質と電荷輸送物質とを含む感光層を設けた電子写真感光体において、前記電荷輸送物質として、下記一般式[1]で表されるビスヒドラゾン化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【化2】

(一般式[1]中、A1〜A6は、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基を表す。B1〜B4は、それぞれ置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。但し、(1)B1〜B4の内、一つは置換基を有する;(2)A1、A2の内、一つは置換基を有し、かつ、A3〜A6の内、一つは置換基を有する;(3)A1、A2の内、一つは置換基を有し、かつ、A3〜A6の内、一つはフェニル基以外のアリール基である;の条件の内、少なくとも何れか一つを満たす。)
【請求項3】
電子写真感光体と、該電子写真感光体を帯電させる帯電部と、帯電した該電子写真感光体に露光を行ない静電潜像を形成する露光部と、露光により該電子写真感光体上に形成された静電潜像をトナーを用いて現像する現像部とを備えた画像形成装置であって、該電子写真感光体が請求項1に記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−257071(P2006−257071A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365679(P2005−365679)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】