説明

トリクロロシラン製造装置及び製造方法

【課題】ヒータの劣化を防止しつつポリマーの処理量を多くする。
【解決手段】分解炉2に、分解炉2の内部を加熱する加熱手段11と、分解炉2の内底部を除き内部空間を内側空間と外側空間とに二分する上下方向に沿う中心管体3と、中心管体3の内側空間又は外側空間のいずれか一方の空間にポリマー及び塩化水素を供給する原料供給管4と、他方の空間から反応後のガスを導出する反応ガス導出管6とが設けられ、加熱手段11は、分解炉2の高さ方向の複数箇所で炉本体7の周囲を囲む複数の筒状ヒータ12〜15を有し、分解炉2の内部空間の高さ方向の複数箇所の温度を検出する内部温度検出センサ16〜19の検出結果に基づき筒状ヒータ12〜15の出力を制御するとともに筒状ヒータ12〜15の温度検出する外部温度検出センサ20〜23の検出結果に基づき筒状ヒータ12〜15の出力又は原料の供給を制御する制御部24とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコン製造プロセス、トリクロロシラン製造プロセス又は転換プロセスにおいて発生する高沸点クロロシラン類含有物であるポリマーを分解してトリクロロシランに転換する製造装置に係り、より詳しくは、塩化工程において分離したポリマー、あるいは多結晶シリコンの反応工程の排出ガスから分離したポリマー、又はその排出ガス中の四塩化珪素からトリクロロシランを生成する転換工程から分離したポリマーを分解してトリクロロシランを製造する装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料に用いられる高純度多結晶シリコンは、例えば、トリクロロシラン(三塩化珪素:SiHCl3:TCS)と水素とを混合して原料とし、この混合ガスを反応炉に導入して赤熱したシリコン棒に接触させ、高温下のトリクロロシランの水素還元や熱分解によって上記シリコン棒表面にシリコンを析出させる方法(シーメンス法)によって主に製造されている。また、上記反応炉に導入する高純度のトリクロロシランは、例えば、金属シリコンと塩化水素を流動塩化炉に導入して反応させ、シリコンを塩素化して粗トリクロロシランを生成させ(塩化工程)、これを蒸留精製して高純度のトリクロロシランにしたものが用いられている。
【0003】
多結晶シリコンの製造において、反応炉の排出ガス中には、未反応のトリクロロシランおよび水素と共に副生成物のテトラクロロシラン(四塩化珪素:SiCl:STC)、塩化水素、さらにテトラクロロジシラン(四塩化二珪素:Si22Cl4)やヘキサクロロジシラン(六塩化二珪素:Si2Cl6)などの四塩化珪素よりも沸点の高いクロロシラン類(高沸点クロロシラン類と云う)が含まれている(特許文献1参照)。これらの生成物が含まれる排出ガス中のトリクロロシランを蒸留精製して再度多結晶シリコン製造に利用する方法が行われている。また、その排出ガス中の四塩化珪素と水素による反応で生成した(転換工程)トリクロロシランを含むクロロシラン類を蒸留精製することによりトリクロロシランが得られ、このトリクロロシランを多結晶シリコンの製造に再利用することも行われている。上記流動塩化炉や転換炉の生成ガス中にはトリクロロシラン以外にも塩化水素や四塩化珪素が副生すると共に、高沸点クロロシラン類が副生され含まれている。
【0004】
従来、流動塩化炉や、転換炉の生成ガスおよび反応炉の排出ガスを分離・蒸留した際に生ずるポリマーは加水分解処理して廃棄されている。このため、加水分解および廃棄物処理にコストがかかるという問題がある。
【0005】
また、多結晶シリコンの製造において発生するポリマーを流動反応容器に戻して分解し、トリクロロシランの生成に利用する方法が知られている(特許文献2)。しかし、この方法は流動反応容器に供給したシリコン粉とポリマーが混合されるので、シリコン粉の流動性が低下し、クロロシランへの転換率が低下すると云う問題がある。
【0006】
そこで、本出願人は、特許文献3及び特許文献4により、筒状のヒータで囲った分解炉にポリマーと塩化水素とを供給し、これらをフィンにより混合しながら加熱することにより、トリクロロシランを製造する技術を提案した。これらトリクロロシラン製造装置により、ポリマーを加水分解して廃棄処理する負担を大幅に軽減することができ、また回収したトリクロロシランを再利用することによって原料の使用効率を高め、多結晶シリコンの製造コストを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO02/012122号公報
【特許文献2】特開平01−188414号公報
【特許文献3】特開2010−59042号公報
【特許文献4】特開2010−59043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、多結晶シリコン製造量を増やす場合、それに伴ってポリマーの発生量も増えるため、ポリマー分解の効率化が必要になる。この場合、トリクロロシランへの転換効率が高い特許文献3又は特許文献4記載のトリクロロシラン製造装置において、大量のポリマーを受け入れられるように分解炉を大型化することが考えられるが、その容量の増大に比べると分解炉の内面積の増加は小さいので、分解炉を囲むヒータの伝熱面積の増大には限界がある。そのため、分解炉の分解効率を向上させるためにはヒータの出力を高める必要がある。
また、ポリマーの分解により分解炉の内底部には酸化シリコンが堆積し、この酸化シリコンの堆積物により分解炉の下部の温度が低下し易くなる。分解炉の下部温度が低下すると、ポリマーの分解率が低下するばかりでなく、ポリマーが完全に分解しない状態(塩化水素との反応が十分に行われず、未反応の状態)で堆積物中に残り堆積する。このような完全に分解していない状態のポリマーを含む堆積物を分解炉外に取り出すと空気中の水分との反応が急激に進み、着火等に至るおそれがあるため、これを解消するには、分解炉内の温度を高く設定して確実にポリマーを分解する必要がある。
このためには、ヒータの出力を大きくする必要があるが、ヒータの出力を大きくするとヒータ自体の劣化を早めることになる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ヒータの劣化を防止しつつポリマーの処理量を多くすることができるトリクロロシラン製造装置及び製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のトリクロロシラン製造装置は、高沸点クロロシラン類を含有するポリマーと塩化水素とを分解炉内に導入し、高温下で反応させることにより前記ポリマーを分解してトリクロロシランを製造するトリクロロシラン製造装置であって、前記分解炉内に、該分解炉の内部空間を加熱する加熱手段と、前記分解炉の内底部を除き内部空間を内側空間と外側空間とに二分する上下方向に沿う中心管体と、該中心管体の内側空間又は外側空間のいずれか一方の空間に前記ポリマー及び前記塩化水素を供給する原料供給管と、他方の空間から反応後のガスを導出する反応ガス導出管とが設けられるとともに、前記加熱手段は、前記分解炉の高さ方向の複数箇所で該分解炉の周囲を囲む複数のヒータと、前記分解炉の内部空間の高さ方向の複数箇所の温度を検出する内部温度検出センサと、前記ヒータ又は前記分解炉の外壁面のいずれかの温度を各ヒータに対応した複数箇所で検出する外部温度検出センサと、前記内部温度検出センサの検出結果に基づき前記ヒータの出力を制御するとともに前記外部温度検出センサの検出結果に基づき前記ヒータの出力又は原料の供給を制御する制御部とを有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明のトリクロロシラン製造方法は、高沸点クロロシラン類を含有するポリマーと塩化水素とを分解炉内に導入し、高温下で反応させることにより前記ポリマーを分解してトリクロロシランを製造するトリクロロシラン製造方法であって、前記分解炉の高さ方向の複数箇所に前記分解炉を囲むヒータを設けておき、前記分解炉の内部空間の高さ方向の複数箇所で温度を検出しながら、その検出結果に基づき前記ヒータの出力を制御するとともに、前記ヒータの温度をそれぞれ検出し、その検出結果に基づき前記ヒータの出力又は原料の供給を制御することを特徴とする。
【0012】
本発明においては、分解炉の高さ方向に沿う温度分布に対応するため、分解炉を囲むヒータを高さ方向に複数配置したので、各ヒータを温度分布に応じて適切に出力制御することができる。そして、酸化シリコンの堆積に伴い、下部の温度が低下したときには、下部のヒータの出力を大きくするように制御し、そのヒータの出力が大きい状態が継続する場合には、これを外部温度検出センサにより検出して、その検出結果に基づきヒータの出力を制御するか、原料の供給を制御することにより、ヒータの負荷を軽減して、その劣化を防止することができるとともに、長期間安定した加熱を行うことが可能となる。
【0013】
また、本発明のトリクロロシラン製造装置において、前記ヒータは、前記分解炉の外周面を囲む筒状ヒータと、前記分解炉の外底面を囲む炉底ヒータとを有するとよい。
導入後のポリマー及び塩化水素を、炉底ヒータと筒状ヒータとにより効率的に加熱できるため、それぞれのヒータの出力を抑えることができ、ヒータにかかる負荷を低減することができる。したがって、分解炉の内部の温度変動を低減することができ、ポリマーと塩化水素との反応を安定させることができるので、トリクロロシランの回収率を向上させることができる。
【0014】
また、本発明のトリクロロシラン製造装置において、前記ヒータはアルミニウム青銅によって形成されているとよい。
アルミニウム青銅は耐熱性が高く、長期間高温状態でヒータを稼働させてもヒータの耐久性を維持することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分解炉の内部温度だけでなく、その回りを囲むヒータの温度を監視しながら、各ヒータの出力又は原料の供給量を制御しているので、分解が多く行われる炉本体内部の温度変動を低減させてトリクロロシランの回収率を向上させることができる。また、ヒータの制御に伴い高温になり易い分解炉の下部に設置されるヒータの劣化を防止し、装置の耐久性を維持して長期間の安定した分解を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のトリクロロシラン製造装置の第1実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のトリクロロシラン製造装置のX−X線に沿う横断面図である。
【図3】図1のトリクロロシラン製造装置の分解炉の内底部に酸化シリコンが堆積した状態を示す要部の縦断面図である。
【図4】図1のトリクロロシラン製造装置の運転時における温度検出センサの検出結果の推移を示すグラフである。
【図5】本発明のトリクロロシラン製造装置の第2実施形態を示す縦断面図である。
【図6】図5のトリクロロシラン製造装置の運転時における温度検出センサの検出結果の推移を示すグラフである。
【図7】本発明のトリクロロシラン製造装置に用いられるフィンの変形例を備えた原料供給管を示す正面図である。
【図8】図7の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1〜図4は、本発明の第1実施形態のトリクロロシラン製造装置を示している。このトリクロロシラン製造装置1は、上下方向に沿って配置された分解炉2と、分解炉2の上方から該分解炉2の中心に沿って内底部まで挿入された中心管体3と、この中心管体3の上端部に接続される原料供給管4と、中心管体3の外側に形成される反応室5の上部から反応ガスを導出する反応ガス導出管6とが備えられた構成とされている。
【0018】
分解炉2は、有底筒状に形成され上部フランジ7aを有する炉本体7と、その炉本体7の上部フランジ7aにボルト8により着脱可能に接合された端板9と、炉本体7の周囲から内部を加熱する加熱手段11とから構成されている。なお、炉本体7の内底面7bは球殻状の凹面とされている。
【0019】
加熱手段11は、炉本体7の外周面を囲む複数個(図示例では4個)の筒状ヒータ12〜15を有している。これら筒状ヒータ12〜15は、銅77.0〜92.5%、アルミニウム6.0〜12.0%、鉄1.5〜6.0%、ニッケル7.0%以下、マンガン2.0%以下からなる700℃以上の耐熱温度を有するアルミニウム青銅が用いられ、炉本体7の高さ方向に積み重ねられている。
また、炉本体7の内部には、反応室5の高さ方向の複数箇所の温度を検出する内部温度検出センサ16〜19が設けられている。これら内部温度検出センサ16〜19のうち、最下部の内部温度検出センサ16は、後述する中心管体3の下端開口部3aよりも下方位置の温度を検出するように配置されるのが望ましい。一方、炉本体7の外壁面には、4個の各筒状ヒータ12〜15に対応した位置で炉本体7の壁面の温度を検出する外部温度検出センサ20〜23がそれぞれ設けられている。そして、これら内部温度検出センサ16〜19及び外部温度検出センサ20〜23の検出結果に基づき後述するように筒状ヒータ12〜15の出力又は原料の供給を制御する制御部24が備えられている。これら筒状ヒータ12〜15、内部温度検出センサ16〜19、外部温度検出センサ20〜23及び制御部24により加熱手段11が構成される。
なお、炉本体7の外底面の下方には、外底面に密接する底部断熱材26aが設けられている。この底部断熱材26aとしては、熱伝導率の小さいステンレス鋼等が用いられる。また、筒状ヒータ12〜15の外側には、これら筒状ヒータ12〜15の外面を一括して覆う筒状の断熱材25aが設けられるとともに、筒状ヒータ12の底面及び底部断熱材26aの底面を一括して覆う断熱材26bが設けられている。そして、これら断熱材25a,26bの外側には、枠体25,26が設けられている。
【0020】
中心管体3は、直管状に形成され、分解炉2の端板9に、これを貫通した状態に分解炉2の中心軸Cに沿って垂直に固定されており、この中心管体3において分解炉2の端板9から上方に延びる延長部31に、原料供給管4が接続されている。この原料供給管4は、その先端にポリマー供給管32及び塩化水素供給管33が接続されている。また、中心管体3における端板9からの炉本体7内への挿入長さは、炉本体7の深さよりも短く設定されており、端板9を炉本体7の上部フランジ7aに固定した際に、下端開口部3aが炉本体7の内底面7bから若干離間して配置されるようになっている。
【0021】
また、この分解炉2内に挿入されている部分の中心管体3の外周面と分解炉2の炉本体7の内周面との間の筒状空間が反応室5とされており、この反応室5に面している中心管体3の外周面には複数のフィン34が固定されている。このフィン34は、例えば中心管体3の長さ方向に沿う螺旋状に形成され、その外周端が炉本体7の内周面に近接し、これらの間の隙間が小さく設定されていることにより、ほぼ反応室5の内部を螺旋状の空間に仕切るように設けられている。
なお、前述した内部温度検出センサ16〜19は、端板9から反応室5内に吊り下げ状態に支持された管状シース35内に収容されており、フィン34には、図3に示すように管状シース35を挿通させるための切欠36が設けられる。
反応ガス導出管6は、反応室5を上昇しながら反応したガスを分解炉2の外部へ導出するようになっており、高温の反応ガスを冷却するガス冷却手段、反応ガスを吸引するガス吸引手段(いずれも図示略)に接続されている。
【0022】
また、分解炉2の端板9には、さらに加圧ガス注入管41が接続されるとともに、この端板9から上方に延びる中心管体3の延長部31には、原料供給管4とは別に炉内流体排出管42が接続されている。加圧ガス注入管41は、不活性ガスや窒素等を反応室5内に加圧状態で注入するものであり、炉内流体排出管42は、加圧ガスの注入によって追い出される酸化シリコンを含む炉内流体を中心管体3から排出するためのものである。炉内流体排出管42から排出された酸化シリコンを含む炉内ガスは、酸化シリコンのみ集められて処理される。
【0023】
次に、このトリクロロシラン製造装置1によってポリマーを分解してトリクロロシランを製造する方法について説明する。
塩化工程や反応工程、転換工程で分離されたポリマーには、トリクロロシラン:約1〜3質量%、テトラクロロシラン:約50〜70質量%、Si22Cl4:約12〜20質量%、Si2Cl6:約13〜22質量%、その他の高沸点クロロシラン類:約3〜6質量%が含まれている。
そのポリマーは塩化水素とともにトリクロロシラン製造装置1の分解炉2に導入される。ポリマーと塩化水素の量比はポリマーに対して塩化水素10〜30質量%が好ましい。塩化水素の量が上記量比よりも多いと未反応の塩化水素が増えるので好ましくない。一方、ポリマーの量が上記量比よりも多いと粉末状のシリコンが大量に発生し、系内で閉塞等の問題が生じるため、装置のメンテナンスの負担が増大し、操業効率が大幅に低下する。
【0024】
ポリマーは450℃以上の高温下で塩化水素と反応してトリクロロシランに転換される。炉本体7内の温度、具体的には反応室5内の温度は450℃〜700℃が好ましい。炉内温度が450℃より低いと、ポリマーの分解が十分に進まない。また、炉内温度が700℃を上回ると、生成したトリクロロシランが塩化水素と反応してテトラクロロシランが生じる反応が進み、トリクロロシランの回収効率が低下する傾向があるので好ましくない。
【0025】
なお、ポリマー(高沸点クロロシラン類含有物)には、前述したようにテトラクロロシランより沸点の高い高沸点クロロシラン類、例えばテトラクロロジシラン(SiCl)や六塩化二珪素(SiCl)などが含まれ、ポリマーは、これらにトリクロロシラン、テトラクロロシラン等が含有されたものである。高沸点クロロシラン類からトリクロロシランへの分解反応には、以下の式で示される反応が含まれる。
(1)テトラクロロジシラン(SiCl)の分解反応
SiCl+HCl→SiHCl+SiHCl
SiCl+2HCl→2SiHCl+H
(2)六塩化二珪素(SiCl)の分解反応
SiCl+HCl→SiHCl+SiCl
なお、この反応時に、塩化水素ガス中の水分(HO)がトリクロロシラン、テトラクロロシランと反応すると酸化シリコンが生成される。
SiHCl+2HO→SiO+H+3HCl
SiCl+2HO→SiO+4HCl
【0026】
分解炉2内を筒状ヒータ12〜15によって加熱した状態として、ポリマー及び塩化水素をポリマー供給管32及び塩化水素供給管33から原料供給管4を介して中心管体3に供給すると、これらポリマー及び塩化水素は、中心管体3内で混合流体となって下端開口部3aから反応室5内に供給される。この場合、中心管体3は、筒状の炉本体7内をその長さ方向に沿って配置されているとともに、外周面と一体のフィン34が炉本体7の内周面に近接しているため、炉本体7の外側の筒状ヒータ12〜15からの熱が中心管体3の周囲の反応室5及びフィン34を経由して伝わり、その熱で内部の混合流体が加熱される。中心管体3内の温度は200℃以上の温度、例えば、400℃以上となっており、このため、塩化アルミニウム等の昇華及び高粘性のポリマーの蒸発等が生じ、室温付近で配管内に残存していた固形分や高粘性のポリマーが揮発するため、閉塞は起きにくくなる。
そして、この中心管体3内で混合流体中のテトラクロロシラン等の大部分が蒸発し、そのガスも含めた混合流体が中心管体3の下端開口部3aから反応室5内に導入される。
【0027】
そして、反応室5内に導入された混合流体は、上昇流となって反応室5内を下方から上方に流れるが、この反応室5内には、中心管体3からフィン34が突出して配置されているため、このフィン34の裏面に案内されながら上昇する。このフィン34は螺旋状に形成され、反応室5内の空間を螺旋状に仕切るように配置しているため、混合流体は、フィン34に沿う螺旋流となって攪拌しながら上昇し、その間に炉本体7の内周面、フィン34の表面などから熱を受けて加熱され、反応が促進され、トリクロロシランとなって反応ガス導出管6から外部に導出される。
この反応ガス導出管6から導出されるトリクロロシランを含む反応ガスは、多結晶シリコン製造工程で再利用される。
【0028】
本実施形態のトリクロロシラン製造装置1においては、ポリマーと塩化水素が供給される中心管体3の内部は400℃以上の高温状態であり、この高温状態の中心管体3内でポリマーと塩化水素とを接触あるいは混合することで、昇華や蒸発等の反応が安定して行われ、塩化アルミニウム等の金属塩化物やポリマーが配管等に付着することにより引き起こされる配管の閉塞を防ぐことができるとともに、分解炉2内への原料供給が安定して行われるため、炉本体7内の温度変動を抑制することができ、ポリマーの分解効率を高めることができる。
【0029】
また、このトリクロロシラン製造装置1では、ポリマーと塩化水素とを直管状の中心管体3によって炉本体7の内底部まで案内し、この内底部から中心管体3の周りの反応室5内に導入しており、この反応室5においては、図1の破線矢印で示すように、ポリマーと塩化水素との混合流体がフィン34に接触しながら上部まで中心管体3の周りを螺旋状に移動しながら上昇し、その間に筒状ヒータ12〜15により炉本体7の内周面及びフィン34の表面から熱を受けて加熱される。また、この反応室5は、フィン34によって螺旋状に形成されることから、上下方向の長さに比べて螺旋方向に長い流路となり、したがって反応室5における温度分布もより均一になり、高効率な分解反応を行わせることができる。
【0030】
また、中心管体3が直管状に形成され、ポリマーと塩化水素とを炉本体7の内底部まで速やかに案内するので、これらポリマーと塩化水素とが中心管体3内で反応することが抑えられ、反応に伴って生成される酸化シリコンも中心管体3の内面に付着することは少なくなり、中心管体3内が酸化シリコンによって閉塞状態となる現象を抑制することができる。
【0031】
また、このようにしてトリクロロシランを製造することにより、炉本体7の内底部に図3の鎖線で示すように酸化シリコンSが徐々に堆積してくる。この酸化シリコンSが堆積してくると、これが断熱層となって筒状ヒータ12の熱が伝わりにくくなる。このため、内部温度検出センサのうち、特に、下部に設置されている内部温度検出センサ16により検出される温度が低くなり、その検出結果に対応して、下部の筒状ヒータ12の出力を増大する制御がなされる。
そして、運転の継続により、酸化シリコンSの堆積量が多くなって、下部の筒状ヒータ12の高出力状態が継続したことが外部温度検出センサ20により検出されると、その検出結果に基づき、原料の供給を停止し、筒状ヒータ12〜15の出力も停止して、運転停止状態とする。
【0032】
そして、この分解炉2の運転停止状態において、加圧ガス注入管41から不活性ガス等(例えば、窒素)の加圧ガスを注入すると、その加圧ガスの圧力によって内底部の酸化シリコンSの堆積物が崩壊して、粉砕されながら舞い上げられ、炉内流体排出管42から炉内流体とともに酸化シリコンSを外部に排出することができる。
排出された酸化シリコンSは密閉容器等によって捕集され、酸化シリコン処理系に送られる。なお、中心管体3の下端開口部3a内に若干の酸化シリコンSが付着していたとしても、上記の操作により除去することができるが、中心管体3が直管状であるので、例えば、上方から棒状のものを挿入するなどにより、酸化シリコンSを脱落させることも容易である。
【0033】
図4は、この運転時の内部温度検出センサ16〜19及び外部温度検出センサ20〜23の検出温度を模式的に示したものであり、分解炉2の上部に配置されている各温度検出センサ17〜19はほぼ一定の検出温度を示しているが、下部に配置されている内部温度検出センサ16は、(a)に示すように徐々に検出温度が低下し、それに対応して筒状ヒータ12が出力制御され、内部温度が所定温度範囲に出力制御されることにより、外部温度検出センサ20の検出温度は(b)に示すように上昇する。また、逆に筒状ヒータの出力制御により内部温度が所定温度よりも高くなった場合には、内部検出温度センサ16がそれを検出し、出力制御されて筒状ヒータへの負担が低減される。そして、このような制御を行う中で、ポリマー分解に伴う酸化シリコンの堆積が徐々に進み、筒状ヒータの出力制御を行っても外部温度検出センサ20の検出結果が所定値を超えるようになったら(又は、下回るようになったら)、原料の供給及び筒状ヒータの出力を停止して、運転停止状態とし、炉本体7の底部に溜まった酸化シリコンSの排出作業を行う。二本の破線で示す間が酸化シリコンの排出作業時間を示す。酸化シリコンSが排出された後、運転を再開する際には、下部の筒状ヒータ12も内部温度、外部温度とも他の筒状ヒータ13〜15と同様のほぼ一定の温度に回復する。
なお、上述の内部温度検出センサ16の検出後に行う筒状ヒータ12の出力制御の際に、内部温度検出センサ17〜19において設定された所定値を超えるような場合が生じたときは、各筒状ヒータ12〜15の出力制御が行われ、内部温度が所定温度範囲内になるように制御が行われる。
【0034】
次に、本発明の第2実施形態のトリクロロシラン製造装置について説明する。
図5に示す第2実施形態の多結晶シリコン製造装置60の加熱手段11においては、炉本体7の外周面を囲む複数個(図示例では4個)の筒状ヒータ12〜15の他に、炉本体7の外底面を囲む炉底ヒータ62を有している。これら筒状ヒータ12及び炉底ヒータ62は、第1実施形態のトリクロロシラン製造装置1と同様に、銅77.0〜92.5%、アルミニウム6.0〜12.0%、鉄1.5〜6.0%、ニッケル7.0%以下、マンガン2.0%以下からなる700℃以上の耐熱温度を有するアルミニウム青銅が用いられ、炉本体7の高さ方向に積み重ねられている。
【0035】
また、炉本体7の内部には、反応室5の高さ方向の複数箇所の温度を検出する内部温度検出センサ16〜19が設けられている。一方、炉本体7の外壁面には、炉底ヒータ62と、4個の各筒状ヒータ12〜15とに対応した位置で炉本体の壁面の温度を検出する外部温度検出センサ63,20〜23がそれぞれ設けられている。
なお、炉底ヒータ62の下方には、炉底ヒータ62に密接する底部断熱材26が設けられており、この炉底ヒータ62と筒状ヒータ12〜15の外周面には、これら炉底ヒータ62及び筒状ヒータ12〜15の外面を一括して覆う筒状の枠体25が設けられている。これら底部断熱材26及び枠体25としては、熱伝導率の小さいステンレス鋼等が用いられる。その他の構成は、第1実施形態のものと同じであり、共通部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0036】
第2実施形態のトリクロロシラン製造装置60では、ポリマーと塩化水素とを直管状の中心管体3によって分解炉2の内底部まで案内し、この内底部から中心管体3の周りの反応室5内に導入しており、この反応室5においては、図5の破線矢印で示すようにポリマーと塩化水素との混合流体がフィン34に接触しながら上部まで中心管体3の周りを螺旋状に移動しながら上昇し、その間に炉底ヒータ62及び筒状ヒータ12〜15により炉本体7の内周面及びフィン34の表面から熱を受けて加熱される。また、炉本体7の内部に設けられた内部温度検出センサ16〜19の検出結果に対応して、それぞれのヒータ62,12〜15の出力の制御がなされる。なお、炉本体7の下部に配置された炉底ヒータ62及び筒状ヒータ12の出力は、内部温度検出センサ16の検出結果により制御される。
【0037】
図6は、トリクロロシラン製造装置60の運転時の内部温度検出センサ16〜19及び外部温度検出センサ63,20〜23の検出温度を模式的に示したものである。炉本体7の下部に配置されている内部温度検出センサ16は、ポリマー分解に伴う酸化シリコンの堆積が徐々に進むことで、各ヒータからの熱の伝達が低下し、徐々に検出温度が低下してくる(図6(a))。それに伴う外部温度検出センサ63,20の検出結果により、筒状ヒータ12及び炉底ヒータ62による出力制御が行われ、外部温度検出センサ63,20の検出温度(外部温度)は上昇するが(図6(b))、出力制御を行っても内部温度が上昇せず、検出結果が所定値を超えるようになったら(下回るようになったら)、原料の供給及び筒状ヒータ12、炉底ヒータ62の出力を停止して運転停止状態とし、炉本体7の底部に溜まった酸化シリコンSの排出作業を行う。二本の破線で示す間が酸化シリコンの排出作業時間を示す。酸化シリコンSが排出された後、運転を再開する際には、炉本体7の下部の炉底ヒータ62及び筒状ヒータ12も内部温度、外部温度とも他の筒状ヒータ13〜15と同様のほぼ一定の温度に回復する。
【0038】
第1実施形態のトリクロロシラン製造装置1の運転時の検出温度(図4参照)と比べて、第2実施形態のトリクロロシラン製造装置60の運転時の検出温度(図6参照)は、同じポリマー及び塩化水素流量下、ヒータ所定温度における内部温度、外部温度の推移を示す結果である。ポリマー分解に伴う酸化シリコンの堆積が徐々に進んで、内部温度(内部温度検出センサ16の検出値)が低下するとともに、外部温度検出センサ63,20の検出結果に基づき出力制御が行われているが、その推移の傾向は、図4よりも図6の方が温度低下の傾向が小さい。これは、図5において炉本体7の下部に炉底ヒータ62を設けているため、炉底ヒータ62の出力制御に基づくポリマーへの熱伝達が効率的に行われており、外部温度検出センサ20による筒状ヒータ12の出力制御時の負荷を炉底ヒータ62の出力制御により補っていることから、図4(a)の場合と比べて内部温度低下の割合も急激な状態とならず、徐々に低下する傾向がある。これにより、炉内温度の変動も抑制され、筒状ヒータの外部温度の変動も小さくなることにより(図6(b))、筒状ヒータ12の負荷も軽減されていると考えられる。
このように、本実施形態のトリクロロシラン製造装置60においては、導入後のポリマー及び塩化水素を、炉底ヒータ62で効率的に加熱できるとともに、炉内温度の低下を低減しながら筒状ヒータ12での加熱によるポリマー分解を行うことができるため、トリクロロシランを安定的に回収でき、筒状ヒータの出力制御に伴う負荷を低減することができる。そのため、長期間の安定した運転が可能となる。
【0039】
図7及び図8は、本発明のトリクロロシラン製造装置におけるフィンの変形例を示している。このフィン51は、いわゆるスタティックミキサの構造をなしている。すなわち、このフィン51は、方形の板部材を180°ずつ逆方向に捻ってなる複数のエレメント52が90°ずつ位相をずらした状態で長手方向に交互に設けられた構成とされている。そして、このスタティックミキサ構造のフィン51は、流体が一つのエレメント52を通過するごとに二つに分割される分割作用と、エレメント52の捻れ面に沿って中央部から外側へ、あるいは外側から中央部へと流体が移動させられる混合(又は転換)作用と、一つのエレメント82ごとに回転方向が反転して攪拌される反転作用との複合作用によって流体が攪拌混合されるものである。
このスタティックミキサ構造のフィン51を中心管体3の外周面に設けることにより、反応室5内での攪拌混合を効果的に行うことができ、反応効率をより高めることができる。
なお、このスタティックミキサ構造のフィン51の場合、エレメント52が90°ずらした位置に配置されるので、最低2枚のエレメントが必要であるが、分解炉の容量に応じて5〜20枚のエレメントを設けるとよい。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では炉本体7の外壁面の温度を検出するように外部温度検出センサ20〜23,63を設けたが、筒状ヒータ12〜15及び炉底ヒータ62の温度を直接検出するように設けてもよい。また、ポリマー処理量に応じて筒状ヒータの設置数を適宜増やし、分解炉内部温度の制御や外部温度の制御を細かく行うようにしてもよい。
また、ポリマーの導入量を増やして処理量を向上させるとともに、筒状ヒータへの負担をより低減させるために、炉底ヒータの所定温度範囲の下限値を、筒状ヒータの所定温度範囲の下限値よりも高く設定するとよい。
また、フィンを中心管体3の外周面に固定状態に設けたが、中心管体3との間には隙間をあけ、炉本体7の内周面に固定してもよい。
また、加圧ガス注入管41からの注入ガスが炉本体7の内底面7bまで達し易くするために、その注入方向に存在するフィンに注入方向に沿って孔を設けるようにしてもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、酸化シリコン排出のための炉内流体排出管42を端板9に設けたが、炉本体7の底部に接続して設けてもよい。
また、上記実施形態では、分解炉内を中心管体によって内側空間と外側空間とに区分し、原料を中心管体3の内側空間に送り込んで、反応後のガスを中心管体3の外側空間から排出するようにしたが、逆に、中心管体の外側空間に原料を送り込んで、反応後のガスを中心管体の内側空間から排出するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、フィンを構成する複数のエレメントを連続的に配置したが、断続的に配置したものでもよく、また、直線状、管状のものも含む。例えば、フラットな板状のものを分解炉の長さ方向に間隔を開けて複数配置してもよく、その場合、一部が上下に重なるようにして所定角度ずつずらして配置するとよい。
【符号の説明】
【0042】
1,60 トリクロロシラン製造装置
2 分解炉
3 中心管体
3a 下端開口部
4 原料供給管
5 反応室
6 反応ガス導出管
7 炉本体
7a 上部フランジ
7b 内底面
8 ボルト
9 端板
11,61 加熱手段
12〜15 筒状ヒータ
16〜19 内部温度検出センサ
20〜23,63 外部温度検出センサ
24 制御部
25,26 枠体
25a,26a,26b 断熱材
31 延長部
32 ポリマー供給管
33 塩化水素供給管
34 フィン
35 管状シース
36 切欠
41 加圧ガス注入管
42 炉内流体排出管
51 フィン
52 エレメント
62 炉底ヒータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高沸点クロロシラン類を含有するポリマーと塩化水素とを分解炉内に導入し、高温下で反応させることにより前記ポリマーを分解してトリクロロシランを製造するトリクロロシラン製造装置であって、前記分解炉内に、該分解炉の内部空間を加熱する加熱手段と、前記分解炉の内底部を除き内部空間を内側空間と外側空間とに二分する上下方向に沿う中心管体と、該中心管体の内側空間又は外側空間のいずれか一方の空間に前記ポリマー及び前記塩化水素を供給する原料供給管と、他方の空間から反応後のガスを導出する反応ガス導出管とが設けられるとともに、前記加熱手段は、前記分解炉の高さ方向の複数箇所で該分解炉の周囲を囲む複数のヒータと、前記分解炉の内部空間の高さ方向の複数箇所の温度を検出する内部温度検出センサと、前記ヒータ又は前記分解炉の外壁面のいずれかの温度を各ヒータに対応した複数箇所で検出する外部温度検出センサと、前記内部温度検出センサの検出結果に基づき前記ヒータの出力を制御するとともに前記外部温度検出センサの検出結果に基づき前記ヒータの出力又は原料の供給を制御する制御部とを有することを特徴とするトリクロロシラン製造装置。
【請求項2】
前記ヒータは、前記分解炉の外周面を囲む筒状ヒータと、前記分解炉の外底面を囲む炉底ヒータとを有することを特徴とする請求項1記載のトリクロロシラン製造装置。
【請求項3】
前記ヒータはアルミニウム青銅によって形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のトリクロロシラン製造装置。
【請求項4】
高沸点クロロシラン類を含有するポリマーと塩化水素とを分解炉内に導入し、高温下で反応させることにより前記ポリマーを分解してトリクロロシランを製造するトリクロロシラン製造方法であって、前記分解炉の高さ方向の複数箇所に前記分解炉を囲むヒータを設けておき、前記分解炉の内部空間の高さ方向の複数箇所で温度を検出しながら、その検出結果に基づき前記ヒータの出力を制御するとともに、前記ヒータの温度をそれぞれ検出し、その検出結果に基づき前記ヒータの出力又は原料の供給を制御することを特徴とするトリクロロシラン製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−92005(P2012−92005A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212258(P2011−212258)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】