説明

トリクロロシラン製造装置

【課題】トリクロロシランの分解とポリマーの生成を抑制し、ポリマー除去作業の負担が少なく、トリクロロシランの回収率が高いトリクロロシラン製造装置を提供する。
【解決手段】反応ガスを流通させ、前記反応ガス流通方向上流側が下流側よりも高くなるように配列された複数の伝熱チューブと、前記伝熱チューブを収容して内部に冷却媒体を流通させる円筒状のシェルと、前記伝熱チューブの両端をそれぞれ保持しながら前記シェルの両端を閉鎖する上流側チューブプレートおよび下流側チューブプレートと、内部に冷却媒体を流通させる空間が形成された二重壁構造を有し、前記上流側チューブプレートの上流側を覆い前記伝熱チューブに連通する供給室を形成する上流側ドームと、前記下流側チューブプレートの前記反応ガス流通方向下流側を覆い前記伝熱チューブに連通する回収室を形成する下流側ドームとを有する一次冷却器を備えるトリクロロシラン製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四塩化珪素と水素を反応させてトリクロロシランに転換するトリクロロシラン製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度多結晶シリコンは、例えばトリクロロシラン(SiHCl3)、塩化珪素(SiCl4)、および水素を原料とし、次式[1]に示されるトリクロロシランの水素還元反応、次式[2]に示されるトリクロロシランの熱分解反応によって製造することができる。
【0003】
SiHCl3+H2 → Si+3HCl ・・・[1]
4SiHCl3 → Si+3SiCl4+2H2 ・・・[2]
【0004】
上記製造方法の原料となるトリクロロシランは、金属シリコンに塩化水素を反応させて粗トリクロロシランを製造し、これを蒸留精製して得られる。また、多結晶シリコンの生成反応の排ガスから蒸留分離して回収した四塩化珪素を原料とし、次式[3]に示す水素付加の転換反応によってトリクロロシランを生成させることができる。
【0005】
SiCl4+H2 → SiHCl3+HCl ・・・[3]
【0006】
このトリクロロシランを製造する装置として、特許文献1に記載されている転換反応装置(転化炉)が知られている。この転換反応装置には、発熱体に囲まれ、同心配置の2つの管によって形成された外室と内室の二重室を有する反応室と、この反応室の下部に配置されている熱交換器が設けられている。そして、前記熱交換器を介して反応室に水素と四塩化珪素とを供給する原料ガス供給管路と、反応室から反応生成ガスを排出する排出管路とが接続している。上記熱交換器において、反応室に供給される供給ガスが、反応室から排出される反応生成ガスから熱を伝達されて予熱されると共に、排出される反応生成ガスの冷却が行われるようになっている。
【0007】
また、特許文献2には、四塩化珪素と水素を反応室に導入して600℃〜1200℃の温度で転換反応させることによってトリクロロシランと塩化水素とを含む反応生成ガスを得ることが開示されている。そして、トリクロロシランの製造装置としては、反応室から導出された上記反応生成ガスを、例えば1秒以内に300℃以下にまで達するような冷却速度で急冷する冷却手段を備えたものが提案されている。
【0008】
また、特許文献3には、転換反応によって生成したガスを急冷した後に再加熱して保持することによって、トリクロロシランの回収率を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3781439号公報
【特許文献2】特公昭57−38524公報
【特許文献3】特開2010−132536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のトリクロロシランの製造装置では、反応室下部の熱交換器において、供給された原料ガスと熱交換することによって反応生成ガスの冷却が行われる。しかし、反応生成ガスを冷却する過程で、反応生成ガス中のトリクロロシランが塩化水素と反応して四塩化珪素と水素に分解する上記反応式[3]の逆反応が生じる。従来のような、原料ガスにより冷却する熱交換器による冷却では、冷却速度が遅いため上記逆反応の発生を十分に抑えることはできず、トリクロロシランへの転換率が低下すると云う不都合があった。
【0011】
また、特許文献2に記載されているように、上記逆反応がほとんど生じなくなる300℃以下の温度範囲まで1秒以下の極端に短い時間で反応ガスを急冷することによって、上記反応式[3]の逆反応を抑制することが可能である。しかし、このような極端に短い時間で急冷した場合には、冷却過程において、次式[4]に示すように、反応ガス中に含まれるSiCl2(ジクロロシリレン)がSiCl4と反応してポリマーが副生することが知られている。このSiCl2は、転換反応において高温下で多く生成し、特に1200℃を超える温度下で顕著に生成され、転換炉から抜き出した反応ガスに含まれている。
【0012】
SiCl2+SiCl4 → Si2Cl6 ・・・[4]
【0013】
なお、ポリマーとは、Si2Cl6(クロロジシラン)、Si3Cl8(クロロトリシラン)、Si22Cl4などのように、シリコン2原子以上を含む高次クロロシラン類の総称である。
【0014】
このように、極端に短い時間で急冷した場合には、冷却中のトリクロロシランの分解(式[3]の逆反応)が抑制されて、トリクロロシランの減少量が少なくなるが、ポリマーの生成量が増加し、冷却工程後の配管などにポリマーが堆積するなどの不具合が生じる。一方、冷却速度が遅い場合には、ポリマーの生成量が低減するものの、トリクロロシランの分解が進行してトリクロロシランの回収率が低下する。
【0015】
このように、転換炉から抜き出した反応ガスは、適切な冷却速度にコントロールする必要がある。しかしながら、転換炉から抜き出した反応ガスは1000℃以上の高温度であり、これを急冷する場合、トリクロロシランが分解しやすい600℃以上の高温度域での冷却速度を適切にコントロールすることは難しい。このため、従来はトリクロロシランの回収率を高めることを優先して、過剰な冷却速度で冷却していた。
【0016】
そのため、トリクロロシランの回収率は高いが、急冷によって生じるポリマーの発生を抑制することができず、配管に付着したポリマー除去作業の負担が大きいと云う問題がある。とくに装置の大型化に伴い冷却速度には分布が生じるため、ガス全体の冷却速度を適切にコントロールすることが困難になり、局部的に冷却速度が極端に大きくなる場合がある。このためポリマーの発生を十分抑えることが難しくなる。
【0017】
これに対して、特許文献3には、転換反応によって生成したガスを急冷することによりトリクロロシランの分解を抑制するとともに、再加熱して保持することにより急冷時に生成したポリマーを分解してポリマー転換率を低下させ、トリクロロシランの回収率を向上させることが提案されている。しかしながら、特許文献1,2に開示されている従来の装置ではこのようなプロセスを行うことができなかった。
【0018】
本発明は、上記課題を解決することを目的とし、トリクロロシランの分解とポリマーの生成を効果的に抑制することにより、ポリマー除去作業の負担が少なく、トリクロロシランの回収率が高いトリクロロシラン製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、テトラクロロシランと水素とを含む原料ガスを転換反応させて反応ガスを生成する転換炉と、前記転換炉から供給された前記反応ガスを冷却する冷却装置とを備えるトリクロロシラン製造装置であって、前記冷却装置は、内部を前記反応ガスが流通するとともに、反応ガス流通方向の上流側が下流側よりも高くなるようにかつ互いに略平行となるように配列された複数の伝熱チューブと、これら伝熱チューブを収容するとともに、内部を冷却媒体が流通する円筒状のシェルと、前記伝熱チューブの両端をそれぞれ貫通させて保持するとともに、前記シェルの両端を閉鎖する上流側チューブプレートおよび下流側チューブプレートと、内部に冷却媒体を流通させる空間が形成された二重壁構造を有し、前記上流側チューブプレートの反応ガス流通方向上流側を覆うことにより前記上流側チューブプレートとの間に前記伝熱チューブに連通する供給室を形成する上流側ドームと、前記下流側チューブプレートの反応ガス流通方向下流側を覆うことにより前記下流側チューブプレートとの間に前記伝熱チューブに連通する回収室を形成する下流側ドームとを有する一次冷却器を備える。
【0020】
この製造装置によれば、冷却装置の一次冷却器において、高温の反応ガスを流通させる多数の伝熱チューブを、冷却媒体が流通するシェルに収容して冷却するので、伝熱チューブの総表面積および管径の設定により必要な急冷効果を得ることができ、高転換率でトリクロロシランを得ることができる。また、各伝熱チューブの反応ガス流通方向上流側が下流側よりも高くなるように配列されているので、もし伝熱チューブ内で冷却によりポリマー等の液状物が発生しても出口へ向かって流れ、転換炉へ逆流したり伝熱チューブを閉塞させたりするおそれがない。また、高温の反応ガスにより加熱される供給室が二重壁構造を有する上流側ドームによって形成されているので、二重壁の内側に冷却媒体を流通させることにより供給室壁面を冷却でき、上流側ドームの腐食、劣化を防止することができる。
【0021】
このトリクロロシラン製造装置において、前記伝熱チューブは、伝熱面積Am2と容積Vm3との関係がV/A=0.002m以上0.03m以下となるように設けられていることが好ましい。V/Aがこの範囲となるように伝熱チューブを設けることにより、所望の冷却効果を得られるとともに、伝熱チューブ内でのポリマーによる閉塞が生じにくい。
【0022】
この製造装置において、前記下流側カバーは、内部に熱媒体を流通させる空間が形成された二重壁構造を有することが好ましい。回収室内においてガス温度が低下し過ぎている場合にはポリマーの固着や滞留が発生するおそれがあるが、熱媒体によって下流側カバーを所望の温度に保つことにより、ポリマーの固着や滞留を防止、あるいは発生したポリマーを分解することができる。
【0023】
この製造装置において、さらに、前記転換炉と前記一次冷却器の前記上流側ドームとを接続する接続管と、この接続管の外周面を覆うとともに内部に冷却媒体を流通させる空間が形成された二重被覆管とを有することが好ましい。反応ガスを急冷するために、一次冷却器に対しては高温のガスが供給されるので、腐食性の高温ガスが流通する接続管が腐食、劣化しやすい。これに対して、冷却媒体が流通する二重被覆管で覆うことにより接続管を冷却し、腐食、劣化を防止することができる。
【0024】
また、この製造装置において、前記冷却装置はさらに、前記一次冷却器の前記回収室から排出された冷却ガスを再度加熱昇温する中間反応器を有することが好ましい。トリクロロシランの製造工程において、トリクロロシランの転換率は高温の反応ガスを急冷することにより向上させることができる反面、冷却速度が速すぎるとポリマーが発生してしまい、収率の低下や配管の閉塞などを招くおそれがある。しかしながら、高温のガスを急冷する際に冷却速度等を制御することは難しい。これに対して、冷却ガスを加熱昇温する中間反応器を備えることにより、反応ガスの温度制御が容易となるので、トリクロロシランの分解を抑制しながらポリマーの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、トリクロロシランの分解とポリマーの生成を効果的に抑制できるとともに、ポリマーが発生しても配管を閉塞させたり転換炉に逆流したりすることを防ぐことができるので、ポリマー除去作業の負担が少なく、しかもトリクロロシランの回収率が高いトリクロロシラン製造装置の実現を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】多結晶シリコンの製造工程およびトリクロロシランの製造工程を示す製造プロセス図である。
【図2】多結晶シリコン反応炉の概略を示す斜視図である。
【図3】トリクロロシランの製造工程を示す概念図である。
【図4】トリクロロシランの製造装置に備えられる転換炉を示す断面図である。
【図5】転換反応の反応温度に対する反応ガスの組成の一例(平衡値)を示すグラフである。
【図6】本発明に係るトリクロロシラン製造装置を示す模式図である。
【図7】反応ガスを急冷する第1冷却装置の一部を示す断面図である。
【図8】反応ガスを急冷する第1冷却装置の一部を示す断面図である。
【図9】トリクロロシラン製造装置における反応ガスの温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るトリクロロシラン製造装置100について、実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0028】
トリクロロシラン製造装置100は、多結晶シリコン製造工程に用いられる装置であり、多結晶シリコン製造の際に多結晶シリコン反応炉10から排出された排ガスから回収された四塩化珪素と水素とにより反応ガスを生成する転換炉40と、この反応ガスを冷却する冷却装置50と、冷却後の反応ガスを蒸留してトリクロロシランを回収する蒸留分離装置90とを備え(図1参照)、多結晶シリコンの製造原料として再利用されるトリクロロシランを製造(回収)する装置である。
【0029】
[多結晶シリコン製造工程]
多結晶シリコン製造工程においては、図1に示すように、原料のトリクロロシラン、水素、及び四塩化珪素を含む原料ガスが多結晶シリコン反応炉10に導入されて、多結晶シリコンが製造されるとともに、未反応ガスや副生ガスを含む排ガスが多結晶シリコン反応炉10から排出される。
【0030】
多結晶シリコン反応炉10は、図2に示すように、炉底を構成する基台11と、釣鐘状のベルジャ12とを具備している。基台11には、原料ガスを供給する噴出ノズル13と、反応後の排ガスを排出するガス排出口14と、シリコン芯棒組立体15が設置されている。この多結晶シリコン反応炉10において、赤熱したシリコン芯棒組立体15(約800℃〜1200℃)の表面に接触した原料ガスが下記反応[1][2]に従って反応し、生成したシリコンがシリコン芯棒組立体15の表面に析出し、次第に径の太い多結晶シリコン棒に成長する。
【0031】
SiHCl3+H2 → Si+3HCl ・・・[1]
4SiHCl3 → Si+3SiCl4+2H2 ・・・[2]
【0032】
多結晶シリコン反応炉10から排出される排ガスには、未反応のトリクロロシランおよび水素と共に、副生した塩化水素(HCl)、および四塩化珪素、ジクロロシラン、ヘキサクロロジシランなどのクロロシラン類が含まれる。この排ガスは冷却器20に導かれ、−60℃付近(例えば−65℃〜−55℃)に冷却、凝縮されて液化する。ここで、液化せずにガス状のまま残る水素は分離回収され、精製工程を経て、原料ガスの一部として再び多結晶シリコン反応炉10に供給され再利用される。
【0033】
冷却器20で液化されたクロロシラン類を含む凝縮液は、蒸留装置30に導入される。蒸留装置30においては、トリクロロシランが蒸留分離され、次いで、四塩化珪素が蒸留分離されるとともに、ポリマーが回収される。回収されたトリクロロシランは、多結晶シリコン反応炉10に戻され、原料ガスの一部として利用される。また、回収された四塩化珪素は、H2とともにトリクロロシラン製造装置100に供給ガスとして導入される。トリクロロシラン製造装置100において転換、冷却、蒸留分離などの工程が行われてトリクロロシランが生成され、このトリクロロシランが原料ガスの一部として多結晶シリコン反応炉10に戻されて利用される。
【0034】
[トリクロロシラン製造装置]
トリクロロシラン製造装置100は、図1および図3に示すように、供給ガス中の四塩化珪素と水素とにより反応ガスを生成する転換炉40と、この反応ガスを冷却する冷却装置50と、冷却後の反応ガスを蒸留してトリクロロシランを回収する蒸留分離装置90とを備える。
【0035】
[転換炉]
多結晶シリコン反応炉10の排ガスから冷却器20を経て蒸留装置30により蒸留分離されて得られた四塩化珪素は、水素と共に転換炉40に供給ガスとして導入される。転換炉40では、1000℃以上且つ1900℃以下の温度下で、下記式[3]に示す転換反応によってトリクロロシラン(SiHCl3)が生成される。
SiCl4+H2 → SiHCl3+HCl ・・・[3]
【0036】
図4に転換炉40の断面図を示す。円筒状の転換炉40は、供給ガスを導入するために下部側壁面に設けられた供給口41、転換反応後の反応ガスを排出するために上面中央部に設けられた排気管(接続管)42、排気管42を囲むように設けられた円筒状のヒータ43、及びヒータ43を囲むように設けられた円筒状の仕切り壁44を備える。仕切り壁44の上部には仕切り壁44の円周に沿って開口部45が設けられ、供給ガスを供給口41から排気管42まで導く流路を形成している。なお、ヒータ43や仕切り壁44は、腐食を防止するために、炭化珪素(SiC)でコーティングされていることが好ましい。
【0037】
転換炉40においては、1000℃以上且つ1900℃以下に加熱された供給ガスが転換反応して、トリクロロシラン、ジクロロシリレン、塩化水素および高次シラン化合物を含む反応ガスが生成される。反応ガスは、冷却装置50に導入されて冷却される。転換炉40での供給ガスの加熱温度が1000℃未満であると、転換率や転換速度が小さくなると共に装置が大型になる不都合がある。また、転換炉40での供給ガスの加熱温度が1900℃を超えると、転換率は向上せず、生産設備として不経済である。
【0038】
[転換反応の温度]
ここで、転換炉40における反応温度について説明する。転換反応において、反応温度に対する反応ガスの組成の一例(平衡値)を図5に示す。図示するように、転換反応によって生成するガスには、目的物であるトリクロロシラン(SiHCl3)と共に、未反応のH2、SiCl4、およびHCl、SiCl2、ポリマーなどの副生物が含まれている。
【0039】
図5のグラフに示すように、転換反応におけるSiCl4の転換量(SiCl4の減少変化量)は温度とともに増加するため、転換反応の反応温度は高い方が好ましい。反応温度は、SiHCl3への転換が最大値付近となり、さらにSiCl2への転換も顕著となる1100℃以上とすることがより好ましい。一方、転換反応の反応温度が高い程、その後に続く一次冷却工程でのトリクロロシランの分解(上記反応式[3]の逆反応)の反応速度も大きくなる。このため、転換反応の反応温度が高い場合、一次冷却工程でのトリクロロシランの分解抑制効果が小さくなる。
【0040】
つまり、転換反応工程で高いSiCl4の転換量を得たとしても、一次冷却工程、二次冷却工程を経て最終的に得られるSiCl4の転換量はそれ程大きくはならない。従って、一次冷却工程での急冷効果を十分に発揮させ、冷却後の高いSiCl4転換量を得るためには、最初の転換反応の反応温度は1300℃以下が好ましい。以上のことから、転換反応工程の反応温度は1100℃以上且つ1300℃以下がより好ましい。
【0041】
[冷却装置]
この転換炉40から導入される反応ガスを冷却する冷却装置50は、図6に示すように、所望の速度で反応ガスを冷却する一次冷却工程を行う一次冷却器60と、一次冷却器60で冷却された一次冷却ガスを昇温加熱する昇温加熱部71および保温する温度保持部75を備え中間反応工程を行う中間反応器70と、中間反応器70から供給された昇温ガスを冷却してトリクロロシランを含むクロロシランを液化して分離回収する二次冷却工程を行う二次冷却器80とを備える。
【0042】
[一次冷却器]
一次冷却器60は、反応ガスを急冷するためのいわゆる多管式(シェルアンドチューブ式)熱交換器であり、図7,8に示すように、内部を反応ガスが流通する複数の伝熱チューブ61と、これら伝熱チューブ61を収容する円筒状のシェル62と、各伝熱チューブ61の反応ガス流通方向上流側端部を貫通させる複数の開口部63aを有するとともにシェル62の反応ガス流通方向上流側開口部を閉鎖する円板状の上流側チューブプレート63と、各伝熱チューブ61の反応ガス流通方向下流側端部を貫通させる複数の開口部64aを有するとともにシェル62の反応ガス流通方向下流側開口部を閉鎖する円板状の下流側チューブプレート64と、上流側チューブプレート63の反応ガス流通方向上流側を覆って供給室(ヘッダ)C1を形成する上流側ドーム65と、下流側チューブプレート64の反応ガス流通方向下流側を覆って回収室C2を形成する下流側ドーム66とを有している。
【0043】
この一次冷却器60において冷却される反応ガスには、腐食性のクロロシランや塩化水素が含まれている。このため、一次冷却器60において反応ガスと接触する部分は、耐食性の材料(ステンレス、ニッケル、ニッケル合金、カーボンなど)により形成されている。特に、クロロシランや塩化水素は高温下で高い腐食性を示すため、転換炉40から排出された高温の反応ガスと直接接触し、600℃を超える高温となる部材に関しては、高温で耐食性を示すカーボンやSiCコートカーボンにより形成されることが好ましい。特に高温となる上流側ドーム65は、冷却されることにより腐食が抑制されている。なお、急冷された後の反応ガスと接触する一次冷却器60以降の装置(中間反応器70、二次冷却器80)は、ステンレス鋼などの安価な材料によって構成することができる。
【0044】
転換炉40に接続される上流側ドーム65は、図7に示すように、内部に冷却媒体を流通させる空間が形成された二重壁構造のドーム部65aおよびドーム部65aから突出する管状部(二重被覆管)65bを有する。この上流側ドーム65がシェル62に対して気密状態に固定されることにより、上流側チューブプレート63との間に供給室C1が形成される。また、管状部65bに対して転換炉40の排気管42が挿入状態に配置されることにより、転換炉40と供給室C1とが接続される。
【0045】
上流側ドーム65には、二重壁の内部に連通する冷媒入口65cおよび冷媒出口65dが設けられている。冷媒入口65cは反応ガス流通方向下流側に設けられ、冷媒出口65dは管状部65bの反応ガス流通方向上流部に設けられている。このため、冷媒入口65cから上流側ドーム65の二重壁内部に導入された冷却媒体は、ドーム部65aを冷却した後、より高温の管状部65bを冷却して、冷媒出口65dを通じて二重壁の内部から排出される。
【0046】
管状部65bは、ドーム部65aから突出する二重筒状に形成され、内側に挿入状態に配置された転換炉40の排気管42を冷却する。これにより、高温の反応ガスによる排気管42の腐食が防止される。上流側ドーム65において、反応ガスは、管状部65bに覆われた排気管42を通じて転換炉40から、ドーム部65aにより構成された供給室C1に導入される。
【0047】
供給室C1内において、上流側チューブプレート63の表面には、耐食プレート67が取り付けられている。この耐食プレート67は、クロロシランや塩化水素などを含む腐食性で高温の反応ガスが接触するので、高温での耐食性に優れるカーボンやSiCコートカーボンにより形成され、上流側チューブプレート63を保護している。この耐食プレート67には、上流側チューブプレート63に設けられた開口部63aと連通する開口部67aが設けられている。
【0048】
上流側ドーム65が固定されたシェル62は、円板状の上流側チューブプレート63および下流側チューブプレート64によって両端をそれぞれ閉鎖されており、内部を冷却媒体が流通している。冷却媒体は、シェル62の反応ガス流通方向下流側に設けられた冷媒入口62a(図8参照)からシェル62の内部に供給され、高温の反応ガスが内部を流通する伝熱チューブ61を冷却した後、反応ガス流通方向上流側に設けられた冷媒出口62b(図7参照)を通じてシェル62内から排出される。
【0049】
このシェル62の内部に、複数の伝熱チューブ61が収容されている。各伝熱チューブ61は、上流側チューブプレート63および下流側チューブプレート64の間に各開口部63a,64aに貫通状態に保持され、互いに略平行となるように円筒状のシェル62内に配列されている。なお、各伝熱チューブ61は、反応ガス流通方向上流側が下流側よりも高くなるように傾斜して配置されており、管内壁面に付着した液状物が下流側に流れ落ちるようになっている。
【0050】
図8に示すように、シェル62の反応ガス流通方向下流側には、下流側チューブプレート64を覆うように下流側ドーム66が固定されている。この下流側ドーム66と下流側チューブプレート64との間に、伝熱チューブ61を通じて供給室C1に接続された回収室C2が形成されている。下流側ドーム66には、回収室C2に連通し、中間反応器70に接続された排気管68が取り付けられている。
【0051】
この一次冷却器60において、冷却される反応ガスの温度を測定する温度計は、非接触で装置内部を測定できる温度計であっても、装置内に設置される温度計であってもよい。しかし、装置内を腐食性のガスが流通しているため、装置内部で600℃以上の高温となる部位に温度計を設置する場合は、カーボンまたはSiCコートカーボン製のさや管(スリーブ)を装置内部に挿入し、その中に温度計を挿入設置するとよい。
【0052】
[伝熱チューブの内径と伝熱面積]
この一次冷却器60において所望の急冷効果を得るために、伝熱チューブ61の伝熱面積Am2と冷却器容積(伝熱チューブ61の内容積)Vm3との関係がV/A=0.002m以上0.03m以下となるように設定する。V/Aをこのような範囲に設定することにより、適切な冷却速度が得られ、伝熱チューブ61の閉塞などのトラブルも回避できる。
【0053】
V/Aは、伝熱チューブ61の管太さ(内径)と概ね比例関係にある。このV/Aの値が0.03mよりも大きいと、伝熱面積に対する冷却器容積の大きさが大きいため、冷却速度が低下し、トリクロロシランの分解が進む。一方、V/Aが0.002mよりも小さいと、冷却速度が非常に高く、トリクロロシランの分解は抑制されるが、ガス流路が狭くなる。このため、圧力損失が増大したり、細い伝熱チューブ61で冷却器の製作加工が煩雑になったり、流路が固形物で閉塞しやすいなどの不都合がある。
【0054】
なお、冷却媒体に熱媒油を用いる場合には、広い範囲の温度制御が可能であるが、熱伝達率が低く冷却速度が小さくなりやすいので、小さめのV/Aを使う必要がある。一方、加圧した熱水を使用する場合は、熱伝達率が高く、大きな冷却速度が得られやすいため、やや大きめのV/Aを使い、圧力損失や一次冷却器60の製作加工の煩雑さを減らすことができ有利である。
【0055】
[一次冷却工程]
このように構成された一次冷却器60において、転換炉40から排気管42を通じて供給室C1に導入された反応ガスは、シェル62内で冷却されている伝熱チューブ61内に流入する。この伝熱チューブ61が傾斜して配置されていることにより、伝熱チューブ61内を流通する反応ガスが冷却されて生じたポリマーが伝熱チューブ61内を下方に向けて流れるので、ポリマーを回収しやすく、流路が閉塞しにくい。反応ガスは、シェル62内で冷却されながら伝熱チューブ61内を流れて回収室C2に流入し、排気管68を通じて一次冷却器60から排出され、一次冷却ガスとして中間反応器70に供給される。一次冷却器60は、この一次冷却工程において反応ガスが冷却開始から0.01秒以内に600℃以上かつ2秒以内に500℃以下に冷却されるように構成される。
【0056】
[冷却媒体]
上流側ドーム65の二重壁内およびシェル62内を流通させる冷却媒体として水、油などの液体を用いると、冷却効率が向上する。本実施形態では、好ましくは50℃以上、より好ましくは90℃以上300℃以下の温水または熱媒油を冷却媒体として用い、反応ガスの急冷を行うことができる。冷却媒体が50℃未満であると、ポリマーの沈着が起きやすく、伝熱チューブ61内が閉塞したりするおそれがある。
【0057】
また、冷却媒体として温水または加圧された沸点近傍の温度の水を用い、反応ガスと熱交換を行うことが好ましい。この場合、反応ガスを急冷する際に冷却媒体を水蒸気にして熱回収を行うことができる。たとえば、一次冷却器60のシェル62を通過した冷却媒体から、蒸気発生器、気液分離器などの熱回収器69を用いて回収した水蒸気の熱を、蒸留分離装置90で利用することができる。
【0058】
[中間反応器]
以上説明した一次冷却器60から500℃以下に冷却された一次冷却ガスを供給される中間反応器70は、図6に示すように、一次冷却ガスを100℃程度昇温する昇温加熱部71および昇温されたガスの温度を保つ温度保持部75を備え、中間反応工程を行う。中間反応器70においては、昇温加熱部71と温度保持部75とが分離して備えられることにより、温度制御や滞留時間制御が容易となっている。
【0059】
昇温加熱部71は、管式(外熱加熱)の加熱器であり、加熱容器72と、加熱容器72内に螺旋状に配置された加熱管73と、この加熱管73を加熱するヒータ(図示略)とを備え、加熱された加熱管73内に一次冷却ガスを流通させることにより、一次冷却ガスを昇温する。温度保持部75は、昇温加熱部71で加熱されたガスの温度を所定時間保つための滞留容器であり、外部に保温材が設けられている(図示略)。なお、昇温加熱部71においては、一次冷却ガスを一次冷却器60の出口温度よりも100℃程度(好ましくは100℃以上500℃以下)昇温することが好ましい。
【0060】
なお、一次冷却器60と中間反応器70とを接続する配管は短くして、一次冷却器60から中間反応器70にガスを0.01秒以上3秒以下の間に到達させることが望ましい。これにより一次冷却器60の出口温度を保持することができ、ガス管内にポリマーが付着することを防げる。
【0061】
[中間反応工程]
この中間反応器70において、一次冷却器60から供給された一次冷却ガスは、中間反応器70により到達温度500℃以上950℃以下、より好ましくは550℃以上600℃以下の温度範囲に加熱昇温され、0.01秒以上5秒以下の間保持される。これにより、トリクロロシランの分解を抑制しつつ、一次冷却工程において生成したポリマーを分解することができる。このように、一次冷却工程で急激に反応ガスの温度を低下させた後、温度低下によって生じたポリマーを中間反応工程で分解させると、ポリマーの発生を防ぐことが可能な温度の範囲内で温度管理がしやすい。
【0062】
この中間反応工程における保持温度が500℃未満であると、ポリマーの分解反応が非常に遅く、生成したポリマーを減少させることができない。一方、この保持温度が950℃を超えると、トリクロロシランの分解反応速度が大きくなり、ガス中のトリクロロシラン含有量が減少するだけでなく、ポリマーを生成させるジクロロシリレン(SiCl2)の量が増加して二次冷却工程でポリマーが再び生成されるおそれがある。
【0063】
中間反応工程において、ガスを上記温度範囲に保持する時間は0.01秒以上5秒以下である。この保持時間が0.01秒未満ではポリマーの分解が十分に行われない。一方、保持時間が5秒を超えてもポリマーの分解量は変化せず、むしろ装置が大型化するため不経済である。
【0064】
中間反応工程の好ましい温度範囲は、上述したように550℃以上600℃以下である。この温度範囲では、ポリマーの分解反応が約0.02秒〜約3秒で進行するため、中間反応工程の設備を比較的小型化できるとともに、温度や反応時間のコントロールも容易である。
【0065】
中間反応工程において、一次冷却後の一次冷却ガスを上記温度範囲に上記時間保持することによって、一次冷却工程において生成したポリマーは、ガス中の塩化水素と反応してトリクロロシランや四塩化珪素に分解する。したがって、この中間反応工程によって、ポリマー量を低減することができる。このポリマーの分解反応を下記式[4]〜[7]に示す。
Si2Cl6+HCl → SiCl4+SiHCl3 ・・・[4]
Si2HCl5+HCl → 2SiHCl3 ・・・[5]
Si22Cl4+HCl → SiHCl3+SiH2Cl2 ・・・[6]
Si3Cl8+2HCl → SiCl4+2SiHCl3 ・・・[7]
【0066】
[二次冷却器]
中間反応器70で加熱昇温された昇温ガスを供給される二次冷却器80においては、昇温ガスを冷却してトリクロロシランを含むクロロシランを液化して分離回収する二次冷却工程が行われる。二次冷却器80は、複数の冷却器80A,80B,80C,80D,80Eが直列に接続されており、各冷却器80A〜80Eにおいて適正な範囲の温度の冷却媒体が用いられ、昇温ガスが徐々に冷却されるように構成されている。なお、本実施形態においては5基の冷却器80A〜80Eが接続されているが、冷却器(熱交換器)の数は5基に限定されず、適宜変更してもよい。
【0067】
これらの冷却器80A〜80Eに用いられる冷却媒体としては、高温のものから順に、転換炉40へ供給前の供給ガス、水、ブライン(不凍液)、フレオン(低温冷媒)などが用いられる。二次冷却器80において反応ガス(昇温ガス)流通方向の最上流部に配置された冷却器80Aの構造については、供給室が二重壁構造ではないことを除いて一次冷却器60と略同様であるのでここでは説明を省略する。この冷却器80Aにおいては、転換炉40に供給される前の供給ガスを冷却媒体として用いることにより、昇温ガスの冷却と同時に供給ガスの予熱を行うことができる。
【0068】
冷却器80B〜80Eは、図6に示すように、内部を昇温ガスが流通する複数の伝熱チューブ81と、冷却媒体が流通する内部にこれら伝熱チューブ81を収容する円筒状のシェル82と、各伝熱チューブ81の各端部を貫通状態に保持してシェル82の各開口部を閉鎖する円板状のチューブプレート83,84と、一方のチューブプレート83を覆うことにより伝熱チューブ81に連通するガス供給室85aおよびガス回収室85bを形成する第1ドーム85と、他方のチューブプレート84を覆うことにより液回収室86aを形成する第2ドーム86とを有する。
【0069】
これら冷却器80B〜80Eは、ガス供給室85aおよびガス回収室85bが上方、液回収室86aが下方に位置するように配置される。すなわち、ガス供給室85a、液回収室86aおよびガス回収室85bは、シェル82に収容された伝熱チューブ81を介して連通している。
【0070】
[二次冷却工程]
これら冷却器80B〜80Eにおいて、まず、冷却器80Aで冷却された昇温ガスが冷却器80Bのガス供給室85aに供給される。昇温ガスは、ガス供給室85aに連通する伝熱チューブ81を通じて液回収室86aへと流れる。伝熱チューブ81はシェル82内を流れる冷却媒体によって冷却されているため、伝熱チューブ81を流通する昇温ガスが冷却される。この冷却により発生した凝縮液は、伝熱チューブ81から流れ落ちて液回収室86aに溜まり、次工程の蒸留分離装置90に供給される。
【0071】
一方、非凝縮のガス(H2、塩化水素等)は液回収室86aを経て伝熱チューブ81内へと流入し、ガス回収室85bを通じて排出され、下流側の冷却器80Cのガス供給室85aに供給される。このように、昇温ガスは、各冷却器80A〜80Eで順次冷却された後、昇温ガス流通方向の最下流部に配置された冷却器80Eから500℃未満に冷却された二次冷却ガスとして排出され、精製等の工程を経て多結晶シリコン製造の原料ガスに利用される。
【0072】
この二次冷却工程における昇温ガスの冷却速度は、一次冷却工程での冷却速度よりも遅くてもよく、たとえば100℃/秒以上10000℃/秒以下、より好ましくは500℃/秒以上5000℃/秒以下とする。また、二次冷却工程における冷却到達温度は、500℃未満であればよいが、目的の生成物であるトリクロロシランを含むクロロシラン類を液化させることで反応ガス(昇温ガス)から分離するために、最終的にはたとえば20℃以下−70℃以上に冷却して非凝縮のガス(H2,塩化水素等)と分離した後、トリクロロシランを含む液体を蒸留分離工程に供することができる。
【0073】
二次冷却器80から回収された凝縮液は、トリクロロシランを含むクロロシラン類であり、蒸留分離装置90に供給されてトリクロロシランが蒸留分離される。ここで回収されたトリクロロシランは、多結晶シリコンの製造プロセスに戻され、多結晶シリコンの製造材料として利用される。
【0074】
以上説明したトリクロロシラン製造装置100における反応ガスの温度変化の一例を図9に示す。反応ガスは、転換反応後に一次冷却器60において急冷される(一次冷却工程)。一次冷却工程は短時間であることが好ましく、冷却速度が遅いと転換されたトリクロロシランが四塩化珪素に戻ってしまう。たとえば、図9に示す例では、冷却開始から0.03秒で300℃に到達させている。しかしながら、この冷却速度が速すぎるとポリマーの発生量が増大してしまう。
【0075】
一次冷却工程で急冷されたガスは、300℃程度のような一定以下の低温域ではポリマーが増えることはない。しかしながら、ガスを低温状態で保持すると、発生したポリマーが配管に付着して閉塞等のトラブルの原因となり、また装置が大きくなるので、速やかに中間反応工程に移ることが望ましい。さらに、ポリマーの付着を防ぐために、配管は100℃以上に保温されるのが望ましく、たとえば、図9に示す例では、配管を300℃程度に保つことで、ガス温度は冷却開始から1.2秒まで約300℃に保たれている。一次冷却工程に続き、反応ガス(一次冷却ガス)は中間反応器70において加熱昇温されて保温される(中間反応工程)。たとえば、図9に示す例では、0.33秒間に550℃まで昇温した後、550℃で3秒間保持している。このように昇温加熱状態で保持されることにより、トリクロロシランを四塩化珪素に変えることなく、ガス中のポリマーを分解することができる。
【0076】
次いで、反応ガス(昇温ガス)は、二次冷却器80において再度冷却される(二次冷却工程)。たとえば図9に示す例では、0.27秒間で200℃にまで反応ガスを冷却した後、最終的には−55℃〜−65℃にまで冷却されている。この二次冷却工程において、トリクロロシランを含むクロロシラン類である凝縮液が回収されるとともに、H2や塩化水素等を含む二次冷却ガスが回収される。
【0077】
[冷却時間の算出]
このトリクロロシラン製造装置100において、適切な急冷効果が得られるように一次冷却器60を構成するために、一次冷却器60における反応ガスの冷却時間を算出することが求められる。
まず、一次冷却器60における入口ガス温度ti(K)、最低1点の冷却器内の温度t1,t2,…(K)、ガス流量w(kg/s)を測定する。このとき、一次冷却器60内の温度t1(K)は573〜773K(300〜500℃)の範囲となる場所で測定する。この場所の特定は、運転条件や設計値から計算により予測することも可能であるが、ガスが外に漏れないような構造で複数の測定孔が一定間隔に設けられていれば、さらに適切な位置を特定することもできる。なお、複数の箇所で温度を測定した場合、500℃以下であって最も500℃に近い温度をt1とする。
【0078】
次に、一次冷却器60のガス入口から温度t1を測定する部位までの体積Vo(m3)を測定または算出する。
【0079】
反応ガスを入口ガス温度tiから温度t1に至る冷却に要する時間Tは、以下の式[8]で算出される。
T=V/Fa=Vρa/w ・・・[8]
ただし、ρaは入口ガス温度tiおよび温度t1でのガス密度の算術平均値(kg/m3)、Faは平均体積流量(m3/s)である。
【0080】
一次冷却工程において、反応ガスを入口ガス温度tiからある温度t(≧500℃≧t1)に冷却するのに要する時間θは、以下の式[9]で算出される。ガスの密度は絶対温度に反比例するとすれば、前記式[8]の通り滞留時間θは密度と比例関係にあるので、
θ=a/t+b・・・[9]
ここで、
a=T{ti×ti÷(ti−t1)}・・・[10]
b=−T{t1÷(ti−t1)}・・・[11]
【0081】
このように、これらの式[8]〜[11]により、一次冷却器60において反応ガスがある温度tまで冷却されるための滞留時間θを算出することができる。
【実施例】
【0082】
本発明に係るトリクロロシラン製造装置を用いたトリクロロシラン製造の実施例および比較例について説明する。転換炉出口での反応ガス温度は約1100℃、転換炉への供給原料はH2+SiCl4(モル比H2:SiCl4=2:1)、原料供給量は実施例1〜5および実施例7において0.02kg/s、実施例6および実施例8において0.15kg/sとしてトリクロロシランを製造した場合の、一次冷却器出口での液化・ポリマー滞留および転換率について比較した結果を表1に示す。表中の「冷却材温度」とは、冷却媒体の入口温度と出口温度の平均値を示す。また、表中の「ポリマー転換率」には、一次冷却器出口配管に残留し、安全運転のために排出されたポリマーを含む。
【0083】
【表1】

【0084】
実施例1および実施例7,8は冷却水(平均45℃)、実施例2は温水、実施例3,5,6は加圧された熱水(一部は一次冷却器内で沸騰し、水蒸気として排出)、実施例4は熱媒油を冷却媒体に使用した。そして、実施例1〜6ではV/Aが0.002m以上0.03m以下となるように、実施例7ではV/Aが0.002m未満となるように、実施例8ではV/Aが0.03m以上となるように、第一冷却器を構成した。
【0085】
実施例1,2では、一次冷却器出口で若干量のポリマーが液状となるものの、運転に支障のない程度であった。実施例3〜6では、一次冷却器内部や出口でクロロシラン類やポリマーは液化せず、中間反応器に供給できた。いずれもトリクロロシランへの転換率は高く、ポリマーへの転換率は低く抑えられた。
【0086】
一方、V/Aが小さい実施例7では、冷却速度が速いため、一次冷却器出口でクロロシラン類の一部が液化し、高沸点ポリマーが一次冷却器内や出口配管に残留したものの、トリクロロシランへの転換率は高かった。また、実施例7では、残留したポリマーも合わせたポリマー転換率は実施例1〜6よりも高かった。また中間反応器前で液化したため、中間反応器での温度維持のための加熱量が増加した。また、V/Aが大きい実施例8では、一次冷却器での冷却が遅く、トリクロロシランへの転換率が大きく低下したが、ポリマーの発生量は小さかった。
【0087】
以上説明したように、本発明のトリクロロシラン製造装置によれば、一次冷却器の供給室を冷却することにより、冷却器を形成する上流側ドームの腐食を抑えることができる。また、高温の反応ガスを冷却する伝熱チューブを、反応ガス流通方向下流側が低くなるように傾斜させて配置しているので、冷却により伝熱チューブ内で凝縮液が発生したとしても、この凝縮液を反応ガス流通方向下流側に流して回収することができる。また、V/Aが適切な範囲となるように装置を構成することにより、トリクロロシランへの転換率を向上させながら、ポリマーへの転換率を抑えることができる。したがって、ポリマーの転換炉への逆流を防ぐとともに、ポリマー除去作業の負担を抑えることができ、またトリクロロシランの回収率を向上させることができる。
【0088】
また、一次冷却器において反応ガスの温度を十分に低下させることにより、それ以降の装置におけるガスの腐食性が低下するので、中間反応器および二次冷却器をステンレス鋼などの安価な材質で構成することができる。また、V/Aが適切な範囲となるように装置を構成することにより、高温の反応ガスを急冷してトリクロロシランの分解を抑制するとともに、急冷後に再加熱して温度を保持することにより、急冷時に生成したポリマーを分解してポリマー転換率を低下させ、トリクロロシランの回収率を向上させることができる。
【0089】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。たとえば、前記実施形態では一次冷却器において上流側ドームのみを二重壁構造としたが、下流側ドームも同様に二重壁構造としてもよい。この場合、下流側ドームの内部に熱媒体を流通させることにより、反応ガスの冷却により発生したポリマーを加熱分解でき、回収室におけるポリマー除去作業の負担を軽減できる。
【符号の説明】
【0090】
10 多結晶シリコン反応炉
11 基台
12 ベルジャ
13 噴出ノズル
14 ガス排出口
15 シリコン芯棒組立体
20 冷却器
30 蒸留装置
40 転換炉
41 供給口
42 排気管(接続管)
43 ヒータ
44 仕切り壁
45 開口部
50 冷却装置
60 一次冷却器
61 伝熱チューブ
62 シェル
63 上流側チューブプレート
63a 開口部
64 下流側チューブプレート
64a 開口部
65 上流側ドーム
65a ドーム部
65b 管状部(二重被覆管)
66 下流側ドーム
67 耐食プレート
68 排気管
69 熱回収器
70 中間反応器
71 昇温加熱部
72 加熱容器
73 加熱管
75 温度保持部
80 二次冷却器
80A,80B,80C,80D,80E 冷却器
81 伝熱チューブ
82 シェル
83,84 チューブプレート
85 第1ドーム
85a ガス供給室
85b ガス回収室
86 第2ドーム
86a 液回収室
90 蒸留分離装置
100 トリクロロシラン製造装置
C1 供給室(ヘッダ)
C2 回収室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラクロロシランと水素とを含む原料ガスを転換反応させて反応ガスを生成する転換炉と、前記転換炉から供給された前記反応ガスを冷却する冷却装置とを備えるトリクロロシラン製造装置であって、
前記冷却装置は、
内部を前記反応ガスが流通するとともに、前記反応ガス流通方向上流側が下流側よりも高くなるようにかつ互いに略平行となるように配列された複数の伝熱チューブと、
これら伝熱チューブを収容するとともに、内部を冷却媒体が流通する円筒状のシェルと、
前記伝熱チューブの両端をそれぞれ貫通させて保持するとともに、前記シェルの両端を閉鎖する上流側チューブプレートおよび下流側チューブプレートと、
内部に冷却媒体を流通させる空間が形成された二重壁構造を有し、前記上流側チューブプレートの前記反応ガス流通方向上流側を覆うことにより前記上流側チューブプレートとの間に前記伝熱チューブに連通する供給室を形成する上流側ドームと、
前記下流側チューブプレートの前記反応ガス流通方向下流側を覆うことにより前記下流側チューブプレートとの間に前記伝熱チューブに連通する回収室を形成する下流側ドームと
を有する一次冷却器を備えることを特徴とするトリクロロシラン製造装置。
【請求項2】
前記伝熱チューブは、伝熱面積Am2と容積Vm3との関係がV/A=0.002m以上0.03m以下となるように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のトリクロロシラン製造装置。
【請求項3】
前記下流側カバーは、内部に熱媒体を流通させる空間が形成された二重壁構造を有することを特徴とする請求項1に記載のトリクロロシラン製造装置。
【請求項4】
さらに、前記転換炉と前記一次冷却器の前記上流側ドームとを接続する接続管と、この接続管の外周面を覆うとともに内部に冷却媒体を流通させる空間が形成された二重被覆管とを有することを特徴とする請求項2に記載のトリクロロシラン製造装置。
【請求項5】
前記冷却装置はさらに、前記一次冷却器の前記回収室から排出された冷却ガスを再度加熱昇温する中間反応器を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のトリクロロシラン製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−23398(P2013−23398A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157769(P2011−157769)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】