説明

トリグリセリドの水素化分解用触媒

【課題】ジャトロファ油などのトリグリセライドの水素化分解反応により軽油相当のC15-C18炭化水素混合物を合成する反応において、油/触媒比が10程度の触媒が少ない条件でも、高められた炭化水素への転化率とC15-C18への選択率で水素化分解反応を行うことができる、工業的に有利な新規な触媒を提供する。
【解決手段】周期律表第10族に属する金属もしくはこれを含む化合物と、周期律表第6または7族に属する金属もしくはこれを含む化合物で修飾された、多孔性固体酸化物を含有してなる、トリグリセリドを水素化分解して炭素数15から18の軽油相当の炭化水素を製造する際に用いられる水素化分解用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリグリセリドを水素化分解して炭素数15から18の軽油相当の炭化水素混合物を製造する際に用いられる新規な触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
トリグリセリド構造は炭素数18のカルボン酸3分子とグリセロール1分子から成る油脂類である。具体的には菜種油や非食用のジャトロファ油などは、そのままでは粘性や沸点が軽油として使用に適さないため、加メタノール分解によりモノエステル構造のいわゆるバイオディーゼルに変換して軽油代替燃料として用いられるのが普通である。しかしバイオディーゼルは分子構造中に不飽和結合やカルボン酸構造を有するため、酸化安定性が実用上の問題になっている。近年トリグリセリドを直接水素化分解して、炭素数15から18の炭化水素混合物を得る試みが行われ、この場合には生成物中に不飽和結合やカルボン酸構造を持たないため酸化安定性が高く、石油系軽油とのブレンド基材として期待されている。
【0003】
トリグリセリドの直接水素化分解の触媒として、白金/ゼオライト系が公知である(非特許文献1)が、トリグリセリド/触媒の重量比を1程度で行う必要があり、触媒量の低減が必須となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】”Hydrocarbonsformation from renewable oxygenates such as glycerol and vegetable oil overModified H-ZSM-5 Catalysts”, K. Murata他, PI-46-17, 14ICC in Korea, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、トリグリセリド/触媒比が10程度でも原料のトリグリセリドを直接水素化分解/脱酸素して炭素数15−18の炭化水素混合物を十分な収率で製造することができる新規な触媒系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく種々の触媒群について鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉周期律表第10族に属する金属もしくはこれを含む化合物と、周期律表第6または7族に属する金属もしくはこれを含む化合物で修飾された多孔性固体酸化物を含有してなる、トリグリセリドを水素化分解して炭素数15から18の軽油相当の炭化水素を製造する際に用いられる水素化分解用触媒。
〈2〉多孔性固体酸化物がゼオライト化合物であることを特徴とする〈1〉に記載の水素化分解用触媒。
〈3〉トリグリセリドが、食用油またはジャトロファ油などの油脂類であることを特徴とする〈1〉または〈2〉に記載の水素化分解用触媒。
【発明の効果】
【0007】
本発明の新規な触媒を用いれば、トリグリセリド/触媒比が10程度の条件でも原料のトリグリセリドを直接水素化分解/脱酸素して炭素数15−18の炭化水素混合物を十分な収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のトリグリセリドを直接水素化分解/脱酸素して炭素数15−18の炭化水素混合物を製造する際に用いられる水素化分解用触媒は、周期律表第10族に属する金属もしくはこれを含む化合物と、周期律表第6または7族に属する金属もしくはこれを含む化合物で修飾された多孔性固体酸化物を含有することを特徴とする。
【0009】
多孔性固体酸化物としては、周期律表第10族金属もしくはこれを含む化合物、および周期律表第6または7族に属する金属もしくはこれを含む化合物と共存、またはその表面に金属等の化合物を担持できるものであればいかなる酸化物も含まれるが、一般に触媒担体として知られている金属酸化物(非多孔性であっても多孔性であってもよい)や多孔性酸化物を用いることが好ましい。
【0010】
このような多孔性固体酸化物としては、ゼオライト化合物などが挙げられる。
ゼオライト化合物としては、Y-型、L-型、モルデナイト、フェリエライト、ベータ型、H-ZSM-5などを挙げることができる。
また、ゼオライト化合物以外の多孔性酸化物としては、TS-1、MCM-41、MCM-22、MCM-48、ガロシリケート、などの結晶性メタロシリケート、大口径シリカ化合物などを挙げることができる。
【0011】
また、これらの多孔性酸化物にはチタン、アルミニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、ホウ素、ジルコニウムなどの元素を含有するものや非晶質多孔性シリカ化合物も含まれる。
【0012】
他の多孔性固体酸化物としては、たとえば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリアなどの通常用いられる金属酸化物を硫酸根やタングステン酸等で表面修飾した酸化物が挙げられる。またシリカ−アルミナなどの複合酸化物を硫酸根やタングステン酸で修飾した酸化物を用いることも可能である。この場合、通常のジルコニアなどの金属酸化物に硫酸根や水溶性のタングステン化合物を含浸法にて担持し、100℃で乾燥、さらに焼成することにより得ることができる。この時の焼成温度は300-1500℃、好ましくは500-900℃である。
【0013】
本発明でとりわけ好ましく使用される多孔性固体酸化物は、トリグリセリドを表面に吸着でき、周期律表第10族の金属と、周期律表第6または7族に属する金属の協調効果により高圧の水素を活性化してトリグリセリドの不飽和結合やカルボン酸を水素化/脱酸素し、飽和炭化水素に変換することができる、シリカ/アルミナ比が小さなゼオライト化合物(特にH-ZSM5)や、固体超強酸性を有する硫酸根またはタングステン酸ジルコニアなどを挙げることができる。
【0014】
本発明で用いる多孔性固体酸化物はその使用に当たって、周期律表第10族に属する金属を含む化合物等と、周期律表第6または7族に属する金属を含む化合物等で修飾しておくことが必須である。
周期律表第6または7族に属する金属を含む化合物としては、白金化合物、パラジウム化合物などが挙げられ、白金化合物としては、塩化白金酸、塩化第一白金アンモニウム、塩化第2白金ナトリウム、シアン化第一白金カリウム、ジクロロテトラアンミン白金、テトラミン硝酸白金、ビス−アセチルアセトナト白金、テトラキストリフェニルフォスフィン白金等が挙げられる。パラジウム化合物としては、酢酸パラジウム、ビス−アセチルアセトナトパラジウム、塩化パラジウム、四塩化パラジウムアンモニウム、六塩化パラジウムナトリウム、ジアミノ亜硝酸パラジウム、テトラキストリフェニルフォスフィンパラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム等が挙げられる。
【0015】
多孔性固体酸化物に白金等の化合物を含有させる方法としては、物理混合法や、含浸法、沈殿法、混練法、インシピエントウェットネス法等の従来公知の方法を採用することが出来る。
たとえば、白金等の化合物は、通常、水溶液として固体酸化物に担持される。またアセトン、イソプロパノール、ベンゼンなどの有機溶媒も用いられる。白金等の化合物を含有させたゼオライト酸化物等の焼成温度は、300〜900℃,好ましくは500〜700℃程度である。白金等の担持量は、任意であるが、白金金属として、担体酸化物100g当たり、0.001〜10g、好ましくは0.1〜10gである。これらの添加物は、単独もしくは2種以上の混合物として用いることができる。
【0016】
本発明においては、上述した周期律表第10族に属する金属を含む化合物で修飾された多孔性固体酸化物を、さらに周期律表第6または7族に属する金属を含む化合物素で修飾することが必要である。
すなわち、たとえば、白金等の化合物を担持した焼成後の多孔性固体酸化物(Pt/多孔性固体酸化物)に、さらに第6族又は7族に属する金属を含む化合物で修飾する。第6族又は7族に属する金属を含む化合物としては、レニウム、モリブデン、タングステンを含む化合物などが例示される。この内レニウム化合物が特に好ましい。
レニウム化合物としては、硝酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、塩化物、臭化物などのハロゲン化物、ヘキサクロロレニウム酸カリウムなどのレニウム酸化合物、過レニウム酸アンモニウムなどのレニウム酸塩、デカカルボニル2レニウム(0)、ペンタカルボニルメチルレニウムなどの有機金属レニウム化合物、などが挙げられる。
またモリブデン化合物としては、塩化モリブデンなどのハロゲン化物、4酢酸2モリブデンなどのモリブデン錯化合物、ヘキサカルボニルモリブデン(0)などの有機金属モリブデン類、2モリブデン酸ナトリウム、7モリブデン酸(6-)アンモニウム4水和物などのモリブデン酸カチオン化合物、ドデカボリブドリン酸(3-)30水和物、ドデカモリブドリン酸(3-)アンモニウムなどのドデカモリブド化合物、などが例示される。
タングステン化合物としては、塩化タングステンなどのハロゲン化タングステン、12タングステン酸(10-)アンモニウム10水和物、メタタングステン酸アンモニウム、12タングステン酸(10-)カリウム10水和物などのタングステン酸カチオン化合物、ドデカタングストリン酸(3-)14水和物、ドデカタングストケイ酸(4-)26水和物などのタングストヘテロ酸化合物、ヘキサカルボニルタングステン、ヘキサメチルタングステン(VI)などの有機金属タングステン化合物、などが挙げられる。
これらは単独または併用することもできる。
【0017】
本発明の水素化分解用触媒の調製方法としては,(イ)担体であるゼオライトなどの多孔性固体酸化物に、すべての修飾物質を含む溶液を一度に含浸させる方法,(ロ)上記多孔性固体酸化物に、すべての成分を含む修飾物質溶液を滴下する方法(incipient wetness法),(ハ)上記多孔性固体酸化物と、すべての修飾物質成分を混ねいする方法、(ニ)多孔性固体酸化物に、(i)白金などを担持後に焼成、(ii)さらにレニウムなどの第2金属を担持して調製する方法、などが例示される。(イ)〜(ニ)のいずれの方法において行う焼成温度は、300〜1500℃、好ましくは500〜900℃である。
【0018】
本発明に用いるトリグリセリドは、グリセロールのトリカルボン酸構造を有し、一般的には中性脂肪として著名であるが、本発明では、食用油及び非食用油を主な対象とする。食用油としては、菜種油、ひまわり油、コーン油、大豆油、サラダ油、パーム油、ヤシ油、サフラワー油、オリーブ油などが例示され、また非食用油としては、ジャトロファ油、ナンヨウアブラギリ油、藻油、コパイバ油、ホホバ油、ミルクブッシュ、などが例示される。
【0019】
本発明において、C18の炭化水素を合成するには、前記した触媒の存在下で、トリグリセリドと水素を高圧下で反応させればよい。
この合成反応では、下記の反応式に示されるように、主たる生成物として、C18炭化水素とプロパンと水が得られるが、その他に、一部炭素−炭素結合が解裂したC15からC17の炭化水素も生成する。C15-C18炭化水素は軽油相当の特性を有する。
【化1】

【0020】
炭化水素混合物の生成機構は、現時点では定かではないが、トリグリセリドの水素化、脱酸素、炭素炭素結合の解裂などの複合反応によるものと考えている。
【0021】
本発明の水素化分解触媒を用いてC15-C18の炭化水素混合物を得る反応は、気相及び液相のいずれで行うこともできるが、概して高沸点原料を対象としているため、液相がより好ましい。この場合の反応温度は、50〜600℃、好ましくは200〜350℃の条件下であり、また反応圧力は任意であるが加圧が好ましく、0.01Mpa〜100Mpa、好ましくは0.5MPa〜10MPaである。
雰囲気ガスは不活性ガスまたは水素が用いられ、不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素などを用いることが出来る。しかし反応として水素化を含むため、水素圧下がより好ましく用いられる。水素の使用割合は、トリグリセリド1モル当たり、0.05〜1000モル、好ましくは10〜300モルの割合である。また水素は、窒素、ヘリウム、アルゴンガス等の不活性ガスで希釈して用いることができる。
【0022】
本発明では溶媒を共存させることもでき、溶媒としては、通常の有機溶媒を任意に用いることができるが、水やCO2などの無機溶媒が特に好ましい。この場合の水やCO2の使用割合は、トリグリセリド1モル当たり、1〜2000モル、好ましくは10〜600モルの割合である。トリグリセリドと水などの溶媒との相溶性は良くはないが、反応の進行上何ら影響はない。
【実施例】
【0023】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0024】
実施例1
[Re修飾1wt%Pt/H-ZSM5触媒の調製]
Zeolyst社製H-ZSM-5(Si/Al2比=23)にジクロロテトラアンミン白金(白金換算で1wt%)及び過レニウム酸アンモニウム(レニウム換算で1wt%)を同時に含浸させ、333Kで一晩乾燥、さらに373Kで3時間乾燥後、813Kで6時間空気焼成した。
[ジャトロファ油の水素化分解反応]
こうして得られた1%Re-1%Pt/H-ZSM-5(0.1g)を100mlのオートクレーブに入れ、水素4MPaで加圧し、200℃で5時間水素還元を行った。室温に冷却後、オートクレーブ内をアルゴンガスで置換し、オートクレーブを開け、ジャトロファ油1g(1.12mmol、ジャトロファ油/触媒の重量比=10)および水9g(500mmol)を添加して、水素と窒素の混合ガス(体積比(水素/窒素=84.3/15.7))を全圧6.5MPaにて導入して、543Kで12時間反応させた。反応後の生成物をガスクロマトグラフにより分析したところ,炭化水素への転化率が13.6%またC15-C18選択率が48.0%となった。なお副生物として,メタン、C2-C13及びC19+炭化水素、CO2が検出された。
【0025】
炭化水素への転化率,C15-C18選択率選択率は便宜的に以下のように計算した。
(1)炭化水素への転化率 = [(生成炭化水素中のC原子の総和)/(全炭素導入量)]*100
(2) 炭素選択率 = (当該炭化水素モル x 当該炭化水素中の炭素数) /(全炭化水素中の炭素数)*100.
ここで*は積を表す。他の炭化水素選択率も同様に計算した。
【0026】
比較例1
Reを用いない以外は実施例1と同様にジャトロファ油の水素化分解を行った。その結果、炭化水素への転化率14.2%であったが、C15-C18選択率16.0%と著しく低い結果であった。
【0027】
実施例2−4
Reの担持量を、それぞれ10%、20%、25%とした以外は実施例1と同様に反応させたところ、表1のように、炭化水素への転化率がそれぞれ46.9、79.1、25.5、またC15-C18選択率がそれぞれ88.6、86.1、75.2%となり、触媒性能が改善され、油/触媒重量比10でも、十分に高い触媒性能を発揮できることが分かった。これは触媒使用量を減らせると言う点で、実用上極めて有用である。
【0028】
実施例5
白金の代わりにパラジウム1wt%を用いた以外、実施例1と同様にして触媒調製および反応を行ったところ、炭化水素への転化率67.0%、C15-C18選択率91.2%となり、炭化水素への転化率もC15-C18選択率も白金と遜色ない結果であった。
【0029】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第10族に属する金属もしくはこれを含む化合物と、周期律表第6または7族に属する金属もしくはこれを含む化合物で修飾された、多孔性固体酸化物を含有してなる、トリグリセリドを水素化分解して炭素数15から18の軽油相当の炭化水素を製造する際に用いられる水素化分解用触媒。
【請求項2】
多孔性固体酸化物がゼオライト化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素化分解用触媒。
【請求項3】
トリグリセリドが、食用油またはジャトロファ油などの油脂類であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素化分解用触媒。

【公開番号】特開2010−214253(P2010−214253A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61701(P2009−61701)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】