説明

トリパノソーマ・クルージ感染の検出および診断方法

本発明は、トリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)感染の診断に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)感染の診断に関する。より特定的に本発明は、4つの組換えポリペプチドの新規な組合せを使用するトリパノソーマ・クルージ感染の同定および診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリパノソーマ・クルージ(“T.cruzi”)は、中南米およびメキシコの地域流行病であるシャガス病またはアメリカトリパノソーマ症を引き起こす原生寄生動物である。感染者の多くは、軽症の急性期の後、症状欠如、低寄生虫血症、および、様々なT.クルージ抗原に対する抗体を特徴とする終生の不確定期に入る。しかしながら、慢性T.クルージ感染者のほぼ10から30%は、寄生虫が持続的に存在する結果として心機能不全または胃腸機能不全を発症する。化学療法は、特に慢性感染症に対しては、概してあまり効果がない。流行地域諸国の慢性T.クルージ感染者は千二百万人と推定され、毎年そのうちのほぼ25,000人が典型的には心拍障害またはうっ血性心不全が原因で病死する(参照:Kirchoff,L.V.,“American trypanosomiasis(Chagas’disease) in Tropical Infectious Diseases:Principles,Pathogens and Practice”,R.L.Guerantら,editors,p.1082−1094,Churchill Livingstone,New York 2006)。
【0003】
流行地域においてT.クルージは主として吸血昆虫トリアトマ属によって伝搬される。また、慢性感染者が献血した血液の輸血によって伝搬が生じることもあり、歴史的には血液スクリーニングプログラム実施以前の流行地域諸国ではこの伝搬経路が主力であった(参照:Schunis,G.A.,Clin.Microbiol.Rev.,18:12−29(2000))。T.クルージの伝搬を防止するワクチンは存在しない。最近の数十年間に、シャガス病の流行地域諸国から合衆国への移民が著しく増加した。現在ではほぼ千三百万人のこれら移民が合衆国に在住しており、これらのうちのT.クルージ感染者は推定80,000から120,000人である(参照:Kirchoff,L.V.ら,Transfusion,46:298−304(2006))。かれらの存在が合衆国において輸血に関連した寄生虫伝搬の危険を生み出す。輸血関連シャガス病の5つの例が合衆国で既に報告されており、血液バンク当局は、はるかに多い数の未診断症例が生じている可能性を認めている(参照:Leiby,D.A.ら,N.Engl.J.Med.,341:1237−1239(1999)およびYoung,C.T.,“Transfusion acquired Trypanosoma cruzi infection,” Transfusion,In press(2007))。現在、血液スクリーニングアッセイが食品医薬品局(FDA)によって承認されていないので合衆国の血液資源はT.クルージのスクリーニングを行っていない。従って、T.クルージ感染は米国の血液資源に対する脅威となっている。T.クルージはまた、慢性感染者から得られた臓器の移植によって伝搬される。このような伝搬の多くの記録が流行地域諸国で報告されており、どれだけの人数の未検出者が合衆国に入ったかは明らかでない(参照:Mascola,L.ら,MMWR,55:798−780(2006)およびZayas,C.F.,ら,MMWP,51:210−212(2001))。
【0004】
慢性T.クルージの臨床検査診断は複雑である。血液培養または媒虫診断による寄生虫の証明は、時間がかかり、低感度で、高費用である。対照的に、T.クルージに対する抗体の血清学的アッセイは感染の迅速で廉価な診断に好適である。間接血球凝集反応アッセイ(“IHA”)、間接免疫蛍光アッセイ(“IFA”)および酵素結合免疫吸着剤アッセイ(“ELISA”)のような慣用の検査が流行地域諸国で広く使用されている。たいていは、無菌培養物中で増殖させたT.クルージ上鞭毛虫由来の全抗原性画分または半精製抗原性画分に基づく。慣用のアッセイで未解決の問題は、確定できない擬陽性結果が存在することである。(Almeida,I.C.ら,Transfusion,37:850−857(1997);Kirchoff,L.Vら,Transfusion,46:298−304(2006);およびLeiby,D.A.ら,J.Clin.Microbiol.,38:639−642(2000))。T.クルージに対する抗体を検出するためにどの寄生虫抗原調製物が最適であるかについては意見の一致をみていない。全米保健機構(Pan American Health Organization)などの専門家グループは、並列処理を行う少なくとも2つの異なる方法によって献血された血液を試験することを勧告している(参照:“Control of Chagas Disease”,World Health Organization,Geneva(2000))。この方法は、血液バンクに膨大な業務と経済的負担を負わせることになる。
【0005】
従って当業界では、臨床試験室および血液バンクで使用するための補助的アッセイが要望されている。T.クルージ感染の血清学的診断の信頼できる標準として一様に認められたアッセイは存在しない。PCRに基づくアッセイにはこの役割に必要な感度が不足している(参照:Gomes,M.L.,Am.J.Trop.Med.Hyg.,60:205−210(1999))。極めて高い感度および特異度を有しており結果の解釈も容易な放射性免疫沈降アッセイ(“RIPA”)がほぼ20年前に開発され、合衆国で確認試験として使用するように示唆されてきた(参照:Kirchoff,L.V.ら,J.Infect.Dis.,155:561−564(1987))。RIPAは、現在までに報告された20を超える研究プロジェクトで確認アッセイとして使用されてきたが(参照:Kirchoff,L.V.ら,Transfusion,46:298−304(2006)およびLeiby,D.A.ら,Transfusion,42:549−555(2002))、その感度および特異度の妥当性検査が系統立てて行われたことはない。さらに、RIPAは複雑であるため、研究機関外部で広く使用することは難しい(参照:Leiby,D.A.ら,J.Clin.Microbiol.,38:639−642(2000))。
【0006】
T.クルージに対する抗体用の補助試験としてイムノブロットアッセイも研究された。数年前には、ニトロセルロース膜に結合した上鞭毛虫由来のT.クルージタンパク質抗原画分に基づくイムノブロットアッセイがシャガス病の補助試験として提案された(参照:Mendes,R.P.ら,J.Clin.Microbiol.,35:1829−1834(1997))。T.クルージに感染した哺乳類細胞の培養物中で産生された錐鞭毛虫の排泄−分泌抗原画分(“TESA”)に基づくイムノブロットアッセイにも同様の役割が提案された(参照:Berrizbeitia,M.ら,J.Clin.Microbiol.,44:291−296(2006);Umezawa,E.S.,J.Clin.Microbiol.,34:2143−2147(1996))。これらの2つのアッセイのような培養物由来の抗原に基づくアッセイの重大な欠点は、生きた寄生虫の培養操作に固有のバイオハザードが存在すること、および、これらの複合抗原混合物をロット毎のむらが生じないように産生するのが難しいことである。さらに、これらの試験のうちで確認試験として採用されたものはなく、また、商業用に開発されたものもない。別のアッセイ、すなわち、INNO−LIAシャガスアッセイは、プラスチックストリップ上に7つのT.クルージ単一ドメイン試験バンドを含む。しかしながら、異なる7つの組換え抗原が1つのストリップ上に存在することは感度の限定要因となる。さらに、7つの試験バンドの存在は解釈プロトコルを複雑にする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kirchoff,L.V.,“American trypanosomiasis(Chagas’disease) in Tropical Infectious Diseases:Principles,Pathogens and Practice”,R.L.Guerantら,editors,p.1082−1094,Churchill Livingstone,New York 2006
【非特許文献2】Schunis,G.A.,Clin.Microbiol.Rev.,18:12−29(2000)
【非特許文献3】Kirchoff,L.V.ら,Transfusion,46:298−304(2006)
【非特許文献4】Leiby,D.A.ら,N.Engl.J.Med.,341:1237−1239(1999)
【非特許文献5】Young,C.T.,“Transfusion acquired Trypanosoma cruzi infection,” Transfusion,In press(2007)
【非特許文献6】Mascola,L.ら,MMWR,55:798−780(2006)
【非特許文献7】Zayas,C.F.,ら,MMWP,51:210−212(2001)
【非特許文献8】Almeida,I.C.ら,Transfusion,37:850−857(1997)
【非特許文献9】Leiby,D.A.ら,J.Clin.Microbiol.,38:639−642(2000)
【非特許文献10】“Control of Chagas Disease”,World Health Organization,Geneva(2000)
【非特許文献11】Gomes,M.L.,Am.J.Trop.Med.Hyg.,60:205−210(1999)
【非特許文献12】Kirchoff,L.V.ら,J.Infect.Dis.,155:561−564(1987)
【非特許文献13】Leiby,D.A.ら,Transfusion,42:549−555(2002)
【非特許文献14】Mendes,R.P.ら,J.Clin.Microbiol.,35:1829−1834(1997)
【非特許文献15】Berrizbeitia,M.ら,J.Clin.Microbiol.,44:291−296(2006)
【非特許文献16】Umezawa,E.S.,J.Clin.Microbiol.,34:2143−2147(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、当業界では依然として、高レベルの感度および特異度を示すことができ、解釈が容易であり、スクリーニングアッセイで境界にあるかまたは反応性である臨床標本および血液バンク標本の確認試験として使用するための適切なT.クルージ用アッセイが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要旨
1つの実施態様において、本発明は試験サンプル中のトリパノソーマ・クルージの同定方法に関する。この方法は、
ヒトから採取した試験サンプルを4つの組換えポリペプチドFP3、FP6、FP10およびTcFに接触させる段階と、および
該試験サンプル中に存在する抗体が該組換えポリペプチドの少なくとも2つに結合することを検出する段階と、
を含み、該組換えポリペプチドの少なくとも2つに対する該抗体の該結合の存在が該試験サンプル中のトリパノソーマ・クルージの存在を示す指標となる。
【0010】
上記方法で接触させる試験サンプルは、血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液、尿または他の適切なサンプルでよい。加えて、上記方法は、JL8、TCR27、JL7、TCR39、PEP−2、Ag36、JL9、TCNA、TcLo1.2、TS、TcD、TcE、FCaBP、Tc−28、Tc−40、FL−160、CEA、CRP、TcP2β−C29およびSA85−1.1から成るグループから選択された少なくとも1つの追加の組換えポリペプチドに試験サンプルを接触させる段階をさらに含む。
【0011】
別の実施態様において、本発明は、4つの組換えポリペプチドFP3、FP6、FP10およびTcFと第一対照および第二対照とがその上に固定化された固相に関する。第一対照または第二対照のいずれか一方は他方の対照よりも低い濃度で固相に固定化されている。
【0012】
これらのポリペプチドは個別バンドとして(または、スポットまたはドットとして)固相に配列され得る。この固相は、ニトロセルロース、ナイロン、プラスチックおよび紙または他の適切な固相から成るグループから選択できる。加えて、この固相は、該ポリペプチドがその上に固定化されたストリップでもよい。この固相にはさらに、JL8、TCR27、JL7、TCR39、PEP−2、Ag36、JL9、TCNA、TcLo1.2、TS、TcD、TcE、FCaBP、Tc−28、Tc−40、FL−160、CEA、CRP、TcP2β−C29およびSA85−1.1から成るグループから選択された少なくとも1つの追加の組換えポリペプチドを固定化し得る。
【0013】
また別の実施態様において、本発明は、対象のトリパノソーマ・クルージの診断方法に関する。該方法は、
個別試験バンドの形態で4つの組換えポリペプチドFP3、FP6、FP10およびTcFがその上に固定化されおよび第一対照および第二対照が固定化され第一対照または第二対照のいずれか一方が低対照を構成するように他方の対照よりも低い濃度で固相に固定化されている固相を用い、対象から採取した試験サンプルを固相に接触させる段階と、
固相を少なくとも1つの検出用試薬に接触させる段階と、
各試験バンドのシグナルの存在を同定することによって試験サンプル中に存在する抗体の結合を検出する段階と、
組換えポリペプチド試験バンドで同定されたシグナルの強度を低対照のシグナルの強度に比較する段階と、
を含み、組換えポリペプチド試験バンドで同定されたシグナルの少なくとも1つが低対照の強度と同等の強度を有するという条件を伴うならば、組換えトリパノソーマ・クルージの少なくとも2つの試験バンドのシグナルの同定が該試験サンプル中のT.クルージの存在を示す指標となる。
【0014】
上記方法で接触させる試験サンプルは、血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液、尿またはその他の適切なサンプルでよい。上記方法で使用される固相に固定化されるポリペプチドは個別バンドとして(または、たとえばスポットまたはドットとして)固相に配列され得る。なお、この固相は、ニトロセルロース、ナイロン、プラスチックおよび紙またはその他の適切な固相から成るグループから選択できる。加えて、固相は、該ポリペプチドがその上に固定化されたストリップでよい。この固相にはさらに、JL8、TCR27、JL7、TCR39、PEP−2、Ag36、JL9、TCNA、TcLo1.2、TS、TcD、TcE、FCaBP、Tc−28、Tc−40、FL−160、CEA、CRP、TcP2β−C29およびSA85−1.1から成るグループから選択された少なくとも1つの追加の組換えポリペプチドを固定化し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、代表的イムノブロットストリップを示す。4つの組換え抗原(“rag”)FP3、FP6、FP10およびTcFがT.クルージに対する抗体検出用試験バンドとして使用される。3つのオンボード対照(“CTL”)バンド、すなわち、ヤギ抗−ヒトIgG(“Anti−hIgG”)、hIgG−低(“hIgG−L”)およびhIgG−高(“hIgG−H”)も使用できる。ヤギ抗−ヒトIgGはサンプル添加を確認するために使用され、hIgG−Lはバンド強度のカットオフを設定するために使用され、hIgG−Hは高強度バンドの参照基準として使用される。ストリップを使用して予想される結果を以下のように記述できる。陰性対照では3つのオンボード対照バンドが視認され、試験バンドは視認されない。陽性対照では3つのオンボード対照バンドが視認されることに加えて、4つの試験バンドも視認される。
【図2】図2は、本発明の代表的イムノブロットアッセイにおいて、試験抗原FP3、FP6、FP10およびTcFまたは対照抗原hIgG−H、hIgG−Lまたはヤギ抗−ヒトIgGとの反応性に関して得られた典型的結果を示す。ストリップ1は陰性対照(“NC”)であり、オンボード対照セクションの3つのバンドを示す(Box A);ストリップ2はT.クルージ抗体陽性対照(“PC”)であり、3つのオンボード対照バンド(Box A)に加えて4つの試験バンド(Box B)を示す;ストリップ3から6はオンボード対照バンド(Box A)に加えて1から4つの試験バンド(Box B)を含むサンプルを示す。
【図3】図3は、本発明のイムノブロットアッセイの読取値を解釈するための代表的アルゴリズムの概略図である。試験バンドは組換え抗原FP10、FP6、FP3およびTcFを含む試験バンドである。個々のアッセイのおのおのが有効であるためには、3つのオンボード対照バンドがイムノブロットに含まれており(たとえば、ストリップ上に存在し)、アッセイによって検出されなければならない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
定義
この文中に使用した“抗体”という用語は、免疫グロブリン分子またはその免疫活性部分、すなわち、抗原結合性部分を表す。免疫グロブリン分子の免疫活性部分の例は、抗体をペプシンのような酵素で処理することによって生成できるF(ab)フラグメントおよびF(ab’)フラグメントを含む。本発明に使用できる抗体の例は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、組換え抗体、一本鎖Fvs(“scFv”)、アフィニティ成熟抗体、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、ジスルフィド連結Fvs(“sdFv”)および抗イディオタイプ(“抗−Id”)抗体ならびに上記のいずれかの機能的に活性なエピトープ結合性フラグメントである。
【0017】
この文中に使用した“FP3”という用語は、表1に示す抗原性ドメインおよび配列1の配列に示すアミノ酸配列を有しているT.クルージに由来の組換え融合ポリペプチド(抗原)を表す。FP3の作製方法はたとえば米国特許出願公開No.2004/0132077に記載されており、該特許出願の記載内容は参照によってここに組込まれるものとする。この文中に使用した“FP3”という用語はまた、保存性置換および/または修飾などが違っているこのアミノ酸配列の変異形を包含する。
【0018】
この文中に使用した“FP6”という用語は、表1に示す抗原性ドメインおよび配列2の配列に示すアミノ酸配列を有しているT.クルージに由来の組換え融合ポリペプチド(抗原)を表す。FP6の作製方法はたとえば米国特許出願公開No.2004/0132077に記載されており、該特許出願の記載内容は参照によってここに組込まれるものとする。この文中に使用した“FP6”という用語はまた、保存性置換および/または修飾などが違っているこのアミノ酸配列の変異形を包含する。
【0019】
この文中に使用した“FP10”という用語は、表1に示す抗原性ドメインおよび配列3の配列に示すアミノ酸配列を有しているT.クルージに由来の組換え融合ポリペプチド(抗原)を表す。FP10の作製方法はたとえば米国特許出願公開No.2004/0132077に記載されており、該特許出願の記載内容は参照によってここに組込まれるものとする。この文中に使用した“FP10”という用語はまた、保存性置換および/または修飾などが違っているこのアミノ酸配列の変異形を包含する。
【0020】
この文中に使用した“TcF”という用語は、表1に示す抗原性ドメインおよび配列4の配列に示すアミノ酸配列を有しているT.クルージに由来の組換え融合ポリペプチド(抗原)を表す。TcFの作製方法はたとえば米国特許No.6,419,933に記載されており、該特許の記載内容は参照によってここに組込まれるものとする。この文中に使用した“TcF”という用語はまた、保存性置換および/または修飾などが違っているこのアミノ酸配列の変異形を包含する。
【0021】
【表1】

【0022】
この文中に使用した“対象”および“患者”という用語は互換的に使用されている。この文中に使用した“対象”および“患者”という用語は、ヒトまたは動物を含む哺乳動物を表す。好ましくは対象がヒトである。
【0023】
この文中に使用した“試験サンプル”という用語は、血清、血漿、全血、唾液、脳脊髄液、尿または他の体内流体に由来の生物サンプルまたは対象の適切な試験サンプルを表す。試験サンプルは当業者に公知の常套技術を使用して調製できる。試験サンプルはまた、輸血用血液資源から得られたサンプルを含む。
【0024】
ポリペプチド(たとえば、非限定的に組換え融合ポリペプチドFP3、FP6、FP10およびTcF)に関連してこの文中に使用した“(1つ以上の)変異体”という用語は、5個以下のアミノ酸の置換、欠失または付加によって同定アミノ酸配列から変化したポリペプチドを表す。このような変異体は一般に、ポリペプチド配列を修飾し、修飾ポリペプチドの抗原特性を評価することによって同定できる。ポリペプチド変異体は同定ポリペプチドに対して少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約90%、もっとも好ましくは少なくとも約95%の一致(この文中に記載のような)を示す。この文中に使用した“保存性置換”という用語は、1つのアミノ酸が同様の特性を有している別のアミノ酸に置換しておりその結果としてポリペプチドの二次構造および疎水親水性が実質的に変化しないとペプチド化学の当業者が予想できる置換を表す。一般に、以下のアミノ酸グループの内部における変化は保存性変化を表す:(1)ala、pro、gly、glu、asp、gln、asn、ser、thr;(2)cys、ser、tyr、thr;(3)val、ile、leu、met、ala、phe;(4)lys、arg、his;および(5)phe、tyr、trp、his。付加的または代替的に、変異体はまた、ポリペプチドの抗原特性、二次構造および/または疎水親水性に対する影響が極めて小さいアミノ酸の欠失または付加を含む他の修飾を含み得る。
【0025】
サンプル中のT.クルージの同定方法
本発明は、試験サンプル中のT.クルージに対する抗体の同定方法に関する。方法は、T.クルージに接触したかまたはT.クルージに感染している疑惑のある対象から試験サンプルを採取する段階を含む。必要な試験サンプルの採取後、試験サンプルを4つの組換えポリペプチド(または抗原)FP3、FP6、FP10およびTcFに接触させる。試験サンプルを4つの組換えポリペプチドに接触させた後、試験サンプル中に各ポリペプチドに対する抗体が存在するか否かを判定し、(1)所定のカットオフ値、または、(2)1つ以上の対照から発生したシグナルの強度と比較する。代替実施態様において、血液資源中のT.クルージ感染を検出するためにこの文中に記載の方法を使用する。また別の代替的実施態様において、対象のT.クルージ感染を診断するためにこの文中に記載の方法を使用する。
【0026】
この文中に記載の4つの組換えポリペプチドFP3、FP6、FP10およびTcFを用いて試験サンプル中のT.クルージに対する抗体を検出するために、当業者に公知の様々な異なるアッセイフォーマットを使用できる。たとえば、1つのアッセイフォーマットにおいて、試験サンプルの1つ以上の抗体に結合して該抗体を試験サンプルから除去できるように1つ以上の組換えポリペプチドを固体支持体に固定化する。次に、ポリペプチド/抗体複合体に結合できかつ検出可能な標識を含有している検出可能な標識を使用して結合した1つ以上の抗体を検出できる。あるいは、1つ以上のポリペプチドに結合する抗体を利用する競合アッセイを使用できる。競合アッセイでは、1つ以上のポリペプチドに結合する抗体を検出可能な標識で標識し、試験サンプル中で組換えポリペプチドと共に温置を行って固定化組換えポリペプチドに結合させる。試験サンプルの成分が標識抗体と1つ以上の組換えポリペプチドとの結合をどのぐらい阻害したかという程度が1つ以上の固定化ポリペプチドに対するサンプルの反応性の指標となる。
【0027】
検出可能な標識に関しては、当業界で公知のいかなる検出可能な標識も使用できる。たとえば、検出可能な標識は、放射性標識(たとえば、H、125I、35S、14C、32Pおよび33Pなど)、酵素性標識(たとえば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリペルオキシダーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼなど)、化学発光性標識(たとえば、アクリジニウムエステル類、ルミナール、イソルミノール、チオエステル類、スルホンアミド類、フェナントリジニウムエステル類など)、蛍光標識(たとえば、フルオレセイン(たとえば、5−フルオレセイン、6−カルボキシフルオレセイン、3’6−カルボキシフルオレセイン、5(6)−カルボキシフルオレセイン、6−ヘキサクロロ−フルオレセイン、6−テトラクロロフルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナートなど))、ローダミン、フィコビリタンパク質、R−フィコエリトリン、量子ドット(たとえば、硫化亜鉛を被せたセレン化カドミウム)、温度測定標識または免疫ポリメラーゼ連鎖反応標識でよい。標識類、標識手順および標識の検出に関する概説は、Polak and Van Noorden,Introduction to Immunocytochemistry,2nd ed.,Springer Verlag,N.Y.(1997)、および、Molecular Probes,Inc.,Eugene,Oregonによって刊行されたハンドブックとカタログの統合版であるHaugland,Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals(1996)に見出される。
【0028】
固体支持体は4つの組換えタンパク質が結合できる平均的な当業者に公知のいかなる材料でもよい。使用できる固体支持体の例は、マイクロタイタープレートの試験ウェル、ニトロセルロース、ナイロン、ビーズまたはディスク(ガラス、繊維ガラス、ラテックス、プラスチックまたは紙材料製)、ゲル(たとえば、ポリペプチドを流し込みその後乾燥されるゲル)、または、ストリップ、ディスクもしくはシート(ニトロセルロース、ナイロン、プラスチックまたは紙製)である。本発明の方法に好ましいアッセイフォーマットは、フロースルーフォーマットまたはストリップ試験フォーマットのイムノブロットアッセイである。フロースルーフォーマットまたはストリップ試験フォーマットでは、固体支持体がニトロセルロース、ナイロン、プラスチックまたは紙から製造されたストリップ、ディスクまたはシートの形態である。より好ましくは、この文中に記載の組換えポリペプチドがこのようなストリップ、ディスクまたはシートに固定化される。もっとも好ましくは、組換えタンパク質が平行な個別のバンド、スポットまたはドットとしてストリップ、ディスクまたはシート上に配列される(おのおのが単数の“試験”バンド、スポットまたはドットと表されるか、または、集合的に複数の“試験”バンド、スポットまたはドットと表される。)。組換えタンパク質は、当業界で公知の常套技術、たとえば、該ストリップ、ディスクもしくはシートに組換えタンパク質を噴射する(Bio−Dotから入手できるような噴射器具(たとえば、AJQ3000 Air Jet QuantiまたはRR 4200−Dip Tank,Irvine,CA)の使用)などの全自動技術、または、該ストリップ、ディスクまたはシートに組換えタンパク質をピペット滴下するような手動技術を使用して該ストリップ、ディスクまたはシートに固定化できる。シートを使用する場合、全部の組換えタンパク質をシートに固定化した後、当業界で公知の常套技術によってシートをアッセイに使用するためのストリップに裁断する。ストリップ、ディスクまたはシート上の組換えタンパク質(および、場合により何らかの対照)の位置は重要でない。加えて、ストリップ、ディスクまたはシートは接着、貼り合せなどのような当業界で公知の常套技術を使用してより強力に支持層に固定化できる。支持層はプラスチック、ボール紙などから製造できる。たとえばニトロセルロースのストリップまたはディスクは感圧プラスチックフィルムに貼り合せることができる。さらに、ストリップ、ディスクまたはシートが場合によっては、オンボード対照または試験バンド、スポットもしくはドットの配置に使用される不連続領域に加えて、サンプルの標識に使用される認識領域(図1の“ID#”)を含み、これによって該サンプルを他のサンプルから識別できる(たとえば、名称、番号、英数字符号、バーコードまたは他の適切な手段)。
【0029】
組換えポリペプチド(すなわち、FP3、FP6、FP10およびTcF)は当業者に公知のいずれかの技術(たとえば、当業者に公知の方法であるウェスタンブロット法)を使用して固体支持体に結合または固定化され得る。さらに場合によっては、1つ以上の対照を固体支持体に固定化できる(たとえばイムノブロットアッセイに使用するため、すなわち、フロースルーフォーマットまたはストリップ試験フォーマットで使用するため)。この文中で互換的に使用した“結合した”または“固定化した”という用語は、吸着のような非共有的会合および共有結合(固体支持体上の組換えタンパク質と官能基との間の直接連鎖でもよくまたは架橋剤を介して得られる連鎖でもよい。)の双方を表す。ストリップ、ディスクまたはシートへの吸着による結合が好ましい。このような場合、適切なバッファ中の各組換えポリペプチドおよび場合により何らかの対照の溶液をストリップ、ディスクまたはシートに適切な総時間で接触させることによって吸着させる。接触時間は温度次第で変わるであろうが、約1時間から約24時間までの範囲である。
【0030】
必要ならば、支持体と組換えポリペプチドのヒドロキシル基またはアミノ基のような官能基との双方に反応性の二官能試薬に固体支持体を反応させることによって最初に組換えポリペプチド(および場合により何らかの対照)を固体支持体に共有結合させる。たとえば、適切なポリマーコーティングを有している支持体にベンゾキノンを使用してポリペプチドを結合させてもよく、または、支持体のアルデヒド基とポリペプチドのアミンおよび活性水素との縮合によって結合させてもよい。
【0031】
組換えポリペプチド(および場合により何らかの対照)を支持体に固定化した後、支持体の残りのタンパク質結合部位を普通のやり方でブロックする。平均的な当業者に公知の適切なブロッキング剤を使用できる。たとえば、ウシ血清アルブミン(“BSA”)、リン酸塩緩衝生理食塩水(“PBS”)、カゼインのPBS溶液、トゥイーン20TM(Sigma Chemical Company,St.Louis,Mo)およびその他のブロッキング剤を使用できる。後で乾燥させるゲルを含む支持体を使用する場合には支持体のブロッキングが場合によっては不要であろう。ブロッキングの完了後、支持体を場合によりPBSなどで洗浄し、適切な総時間で乾燥させる(たとえば風乾によって)。乾燥時間は温度次第で変わるであろうが、約1時間から約24時間までの範囲である。
【0032】
固定化した組換えポリペプチド(および場合により1つ以上の対照)を次に試験サンプルと共に温置する。この温置に先立って、試験サンプルをPBSのような適切な希釈剤で希釈するとよい。この温置中に、試験サンプル中に何らかの抗体が存在するならば、これらの抗体は固体支持体上の組換えポリペプチドの1つ以上に結合するであろう。温置期間は一般に、試験サンプル中のT.クルージ抗体の存在を検出できる十分な時間的期間である。好ましくは、温置期間は約15分から約6時間の範囲である。もっとも好ましくは、温置期間は約1時間から約4時間の範囲である。
【0033】
未結合の試験サンプルは、PBSまたはトリスバッファ(たとえば、20mMのトリス、0,15%のトゥイーン20TMおよび0.1%のナトリウムアジドを含有するトリスバッファ)のような適切なバッファで固体支持体を洗浄することによって除去し得る。1種類以上の検出可能試薬を固体支持体に添加できる。適切な検出可能試薬は、固定化ポリペプチド−抗体複合体(および場合により固定化された何らかの対照)に結合し当業者に公知の様々な手段のいずれかによって検出できるいかなる化合物でもよい。好ましくは、検出可能試薬は、検出可能な標識とコンジュゲート形成された結合剤(プロテインA、プロテインG、免疫グロブリン、レシチンまたは遊離抗原等)を含有している。検出可能な標識と結合剤とのコンジュゲート形成は当業者に公知の標準方法を使用して行う。常用の結合剤は、Zymed Laboratories(San Francisco,CA)およびPierce(Rockford,IL)を非限定的に含む複数の市販ソースから様々な検出可能な標識とコンジュゲート形成された形態で購入できる。
【0034】
1つ以上の検出用試薬を固定化ポリペプチド−抗体複合体(および場合により1つ以上の対照)と共に、1つまたは複数の結合抗体(および場合により1つ以上の対照)を検出するために十分な総時間で温置する。適切な温置時間は一般に製造業者の使用説明書から決定する、または、1つの時間的期間中に生じる結合のレベルを検定することによって決定できる。次に未結合の検出用試薬を除去し、結合した検出用試薬は検出可能な標識を使用して検出する。検出可能な標識の検出に使用される方法は、アッセイに使用される検出可能な標識の種類に従属する。たとえば、放射性標識の場合、シンチレーションカウンティングまたはオートラジオグラフ法を使用できる。化学発光性または蛍光性標識の場合には、分光分析法を使用できる。酵素性標識は一般に、基質を(通常は特定の時間的期間で)添加し、次いで反応生成物の分光分析または他の分析を行うことによって検出できる。
【0035】
試験サンプル中のT.クルージ抗体の有無を判定するために、固体支持体に結合維持されている(1つ以上の)検出可能な標識から検出された(1つ以上の)シグナルを所定のカットオフ値に比較する。具体的には、このカットオフ値は、固定化組換えタンパク質をT.クルージ非感染対象から採取したサンプルと共に温置したときに得られた平均シグナルである。一般的に標準偏差が平均よりも3以上高いシグナルを発生する試験サンプルをT.クルージ抗体およびT.クルージ感染に陽性であると考える。
【0036】
あるいは、数値を生成し得る濃度計のような明、暗または色の読取装置を使用するならば、受信動作特性曲線(“ROC”)を使用し、Sackettら,Clinical Epidemiology:A Basic Science for Clinical Medicine,p.106−107(Little Brown and Co,1985)の方法を使用してカットオフ値を決定できる。簡単に説明すると、カットオフ値は、診断テスト結果に関する可能なカットオフ値のおのおのに対応する真陽性率(すなわち、感度)および擬陽性率(すなわち、100%特異度)の対のプロットから決定され得る。左上隅に最も近いプロット上のカットオフ値(すなわち、最大面積を包囲する値)は最も正確なカットオフ値であり、この方法によって決定されたカットオフ値よりも高いシグナルを発生するサンプルは陽性であると考えてよい。あるいは、擬陽性率を最小にするためにカットオフ値をプロットに沿って左にシフトさせてもよい。一般に、この方法によって決定されたカットオフ値よりも高いシグナルを発生するサンプルはT.クルージ感染陽性であると考えられる。好ましくは、4つの組換えタンパク質FP3、FP6、FP10およびTcFのうちの少なくとも2つに抗体結合を示すシグナルの同定が該試験サンプル中のT.クルージ存在を示す指標となる。
【0037】
この文中で先に論議したように、好ましいアッセイフォーマットはイムノブロットアッセイ、すなわち、4つの組換えポリペプチドFP3、FP6、FP10およびTcFがストリップ、ディスクまたはシート、たとえばニトロセルロース、ナイロン、プラスチックまたは紙製のストリップ、ディスクまたはシートに、少なくとも4つの個別試験バンド、スポットまたはドットとして固定化されているフロースルーまたはストリップフォーマットである。これらの4つの組換えポリペプチドのおのおのはこの文中で前述した技術を使用してストリップ、ディスクまたはシート上に固定化できる。場合によっては、これらの4つのポリペプチド(すなわち、FP3、FP6、FP10およびTcF)に加えて別の組換えポリペプチドをストリップ、ディスクまたはシートにさらに含ませてもよい。なお、ストリップ、ディスクまたはシートは、4つの組換えポリペプチドに加えて、個別の試験バンド、スポットまたはドットとしてその上に固定化された少なくとも1つの対照を含有する(おのおのが単数の“オンボード対照”バンド、スポットまたはドットと表される、または、集合的に複数の“オンボード対照”バンド、スポットまたはドットと表される)。ストリップ、ディスクまたはシートは、その上に固定化された2つの不連続個別対照(すなわち、第一対照および第二対照)を含有するのが好ましいと考えられ、もっとも好ましくはストリップ、ディスクまたはシートがその上に固定化された3つの不連続個別対照(すなわち、第一対照、第二対照および第三対照)を含有する。2つ以上の対照が存在するとき、対照は互いに同じものでも異なるものでもよい。好ましくは、対照の少なくとも2つ(たとえば、第一対照および第二対照など)が同じである。対照の2つが同じのとき、ストリップ、ディスクまたはシートに固定化された一方の対照(第一対照もしくは第二対照、3つの対照が存在するときは第一対照もしくは第三対照または第二対照もしくは第三対照)の濃度が、ストリップ、ディスクまたはシートに固定化された他方の対照の濃度よりも高いのが好ましい。他方の対照よりも高い濃度でストリップ、ディスクまたはシートに固定化された対照を“高対照”と呼ぶ。高対照よりも低い濃度でストリップ、ディスクまたはシートに固定化された対照を“低対照”と呼ぶ。ストリップ、ディスクまたはシート上に存在する低対照対高対照の濃度比は約1:2から約1:10、好ましくは約1:5から約1:6にできる。たとえば、第一対照を低対照、第二対照を高対照にするとよい。あるいは、第一対照を高対照、第二対照を低対照にしてもよい。別の例として、ストリップ、ディスクまたはシートが3つの対照、すなわち、低対照、高対照および第三対照(たとえば、サンプル添加の確認に使用できる対照)を含有することもできる。低対照および高対照の双方がヒトIgGであり(この場合低対照対高対照の比は約1:2から約1:10)、第三対照がヤギ抗−ヒトIgGであってもよい。
【0038】
フロースルーフォーマットにおいて、組換えポリペプチドが結合されているストリップ、ディスクまたはシートの一端を試験サンプル含有溶液に浸漬させる。あるいは、ストリップ、ディスクまたはシート全体を希釈剤と共に反応トレーに配置し、次に試験サンプルを反応トレーに加えてもよい。この文中に前述した同じ時間および技術を使用して試験サンプルとストリップとを十分な時間的期間で温置する。未結合の試験サンプルはこの文中に前述した技術を使用して除去できる。このフォーマットにおいては、試験サンプルが膜を通過するときに試験サンプル中の抗体が固定化ポリペプチド(および少なくとも1つの対照)に結合する。少なくとも1種類の検出用試薬(たとえば、この文中で前述したような検出可能な標識含有検出用試薬)を添加できる。少なくとも1種類の検出用試薬は、検出用試薬を含有する溶液がストリップに沿って流れるときに、各ポリペプチドおよび形成されたポリペプチド−抗体複合体に結合する。試験サンプル中のT.クルージ抗体の有無を判定するための結合した検出用試薬の検出は、上述のようにカットオフ値を使用するかまたは以下に詳述するように1つ以上の対照から発生した1つ以上のシグナルを比較することによって行うことができる。
【0039】
上述のように低対照および高対照をフロースルーフォーマットに使用するとき、試験サンプル中のT.クルージ抗体の有無は、ポリペプチド試験バンド(またはスポットまたはシート)のおのおのに存在する検出可能な標識からのシグナルを同定することによって判定するのが好ましい。もし1つのポリペプチドの1つの試験バンドで1つのシグナルが同定されるならば、検出されたこのシグナルの強度を次に低対照バンド(またはスポットまたはシート)および高対照バンド(またはスポットまたはシート)からのシグナルの強度に0から4+の評価段階を使用して比較する。視認できるバンドが全く存在しないとき読取値は0である。低対照バンドおよび高対照バンドの強度をそれぞれ1+(低対照)および3+(高対照)と定義する。低対照バンドと同等の強度をもつ試験バンドを1+と評価する。低対照バンドと高対照バンドとの間の強度をもつバンドを2+と評価する。高対照バンドと同等の強度をもつバンドを3+と評価する。高対照バンドよりも高い強度をもつバンドを4+と評価する。低対照バンドよりも低い強度の不鮮明バンドを+/−と評価する(表2参照)。表3に図解の代表的アルゴリズムに示すように、イムノブロットアッセイの結果として、(1)(低対照、高対照および陰性対照のバンド以外に)視認できるバンドが存在しないか、または、(2)(低対照、高対照および陰性対照のバンド以外に)視認できるバンドが1つだけが存在するならば、試験サンプルをT.クルージ陰性と考える。同じく表3に図解の代表的アルゴリズムに示すように、イムノブロットアッセイの結果として2つ以上の組換えポリペプチドバンドがシグナルを示すならば、以下の分析を行う必要がある。具体的には、もし全部のバンドが低対照よりも弱い強度を示すならば、すなわち、全部のバンドが+/−と評価されたときは、試験サンプルをT.クルージ感染不確定と考える。しかしながら、バンドのうちの少なくとも1つが1+以上と評価されたならば、試験サンプルをT.クルージ陽性と考える。
【0040】
【表2】

【0041】
この文中に記載した4種類よりも多い組換えポリペプチドを使用して上述のアッセイを行うこともできる。使用できる他の組換えT.クルージポリペプチドの例は非限定的に、JL8、TCR27、JL7、TCR39、PEP−2、Ag36、JL9、TCNA、TcLo1.2、TS、TcD、TcE、FCaBP、Tc−28、Tc−40、FL−160、CEA、CRP、TCP2β−C29およびSA85−1.1を含む。これらの各組換えポリペプチドのアミノ酸配列およびその作製方法は当業者に公知である。たとえば、PEP−2、TcDおよびTcEのアミノ酸配列は、米国特許No.6,054,135に開示されている。ポリペプチドJL8、TCR27、TCR39、Ag36、JL9、TCNAおよびFCaBPは、Frasch,A.C.C.ら,“Comparison of genes encoding Trypanosoma cruzi antigens,”Parasitol.Today 7:148−151(1991)に論議されている。ポリペプチドTc−28は、Abate,T.ら,“Cloning and partial characterization of a 28kDa antigenic protein of Trypanosoma cruzi,”Biol.Res.,26:121−130(1993)に論議されている。Tc−40 cDNAのヌクレオチドおよび推定アミノ酸配列は、Lesenechal,M.ら,“Cloning and characterisation of a gene encoding a novel antigen of Trypanosoma cruzi,”Mol.Biochem.Parasitol.,87:193−204(1997)に記載されている。ポリペプチドFL−160およびSA85−1.1は、Centron,M.S.ら,“Evaluation of recombinant trypomastigote surface antigens of Trypanosoma cruzi in screening sera from a population in rural Northeastern Brazil endemic for Chagas disease,”Acta Trop.,50:259−266(1992)に論議されている。ポリペプチドCEAは、Jazin,E.E.ら,“Trypanosoma cruzi exoantigen is a member of a 160 kDa gene family,”Parasitol.,110:61−69(1995)に論議されている。CRPのアミノ酸配列(CRP−10として同定)は、Norris,K.A.ら,“Identification of the gene family encoding the 160−kilodalton Trypanosoma cruzi complement regulatory protein,”Infect Immun 65:349−357(1997)に記載されている。ポリペプチドJL7は、Umezawa,E.S.ら,J.Clinical Microbiology,37:1554−1560(1999)およびCotrim,P.C.ら,J.Clinical Microbiology,28:519−524(1990)に論議されている。ポリペプチドTcLo1.2は、Houghton,R.L.ら,J.Infections Diseases,179:1226−1234(1999)に論議されている。ポリペプチドTcP2β−C29は、Aguirre,S.ら,J.Clin.Microbiology,44(10):3768−3774(Oct 2006)に記載されている。
【0042】
加えて、他の疾患、障害または状態を検出するため、特に他の寄生虫疾患を検出するためのポリペプチド抗原をさらに含むようにイムノアッセイを設計できる。シャガス病(アメリカトリパノソーマ症)を引き起こす寄生虫と同様に、アフリカ睡眠病(アフリカトリパノソーマ症)およびリーシュマニア症を引き起こす寄生虫は5億人におよぶ世界の最貧民にとって命にかかわる疾患の原因となっている。従って場合によっては本発明によるイムノブロットが、アフリカ睡眠病および/またはリーシュマニア症のような他の寄生虫疾患を検出するためのポリペプチドをさらに含む。
【0043】
非限定的な例として本発明の実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0044】
イムノブロットアッセイフォーマット
イムノストリップ調製。ヒトIgG−高濃度(“IgG−H”)、ヒトIgG−低濃度(“IgG−L”)、ヤギ抗−ヒトIgGの溶液(3つのオンボード対照バンド)ならびに組換え抗原(“rAg”)FP10、FP6、FP3およびTcF(4つの試験バンド)の溶液を調製した。具体的には、各タンパク質を、pH7の20mMの3−(N−モルホリノール−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウムバッファに溶解した。Bio−Dot(Irvine,CA)製のマイクロプロセッサ制御XYZ3050計量供給システムを使用し、1cmあたり1マイクロリットルの各タンパク質をニトロセルロース膜シート(0.45ミクロン,5×30cm;Whatman Schleicher & Schell,Keene,NH)の図1に示した相対位置に平行線として噴射した。噴射溶液は以下の濃度を有していた:TcFは75マイクログラム/ml;FP3は0.4マイクログラム/ml;FP6は0.7マイクログラム/ml;FP10は6マイクログラム/ml;ヤギ抗−ヒトIgGは25マイクログラム/ml;IgG−Lは25マイクログラム/mlおよびIgG−Hは15マイクログラム。乾燥後(37℃、30分)、1%のカゼインを含むリン酸塩緩衝生理食塩水(“PBS”)で膜をブロックし、PBS中で数回洗浄し、再度風乾した。最終段階として、膜シートを感圧プラスチックフィルムに貼り合せ、4mm幅のストリップに裁断した。タンパク質の充填量は、陰性対照標本(図2、ストリップ1)がいかなる試験バンドも(対照バンドであるヤギ抗−ヒトIgG、IgG−LおよびIgG−H以外には)呈示せず、陽性対照標本(図2、ストリップ2)が4つの試験バンドを呈示し、どちらの場合にも3つの対照バンドが反応性であるように調整した。反応性サンプルのパネル(図2、ストリップ3から6)は3つの対照バンドに加えて1から4つの試験バンドを呈示した。
【0045】
対照標本。陰性対照は、B型肝炎表面抗原(“HBsAg”)アッセイ、ならびに、B型肝炎ウイルスのコアタンパク質(“HBcore”)、C型肝炎ウイルス(“HCV”)、ヒト免疫不全ウイルス(“HIV”)およびヒトT細胞リンパ親和性ウイルス(“HTLV”)に対する抗体アッセイで陰性を示したカルシウム再沈着正常ヒト血漿であった。T.クルージ抗体陽性対照は、シャガス病と診断された血液ドナーから採取した数単位の血漿のプールから得られた。陽性血漿は、ELISA−I(ラテンアメリカで市販されている溶菌液に基づく試験)、ELISA−II(510(k)で認可された組換え抗原に基づく試験)およびRIPAを含む複数のT.クルージ抗体試験によって陽性を確認した。
【0046】
試験手順。陽性および陰性の対照標本を各処理に含ませた。粒状物質を除去するために予め凍結した血清または血漿のサンプルを試験に先立って1.5mlのエッペンドルフ管で微量遠心した(14,000rpm、5分)。一度も凍結しなかったサンプルは遠心しなかった。1mlの希釈剤とイムノストリップとをイムノブロット反応トレー(Bio−Rad,Hercules,CA)の各トラフに配置し、5分間温置した。各温置段階中は、揺動装置に載せてトラフの中味をゆるやかにかき混ぜた。希釈剤中のストリップを収容した各トラフに20μlのサンプルを加えて、周囲温度で2時間温置し、次いで吸引し、トリスバッファ(pH8.0,20mMのトリス、0.15%のトゥイーン−20および0.1%のナトリウムアジド)で3回洗浄した。1mlのアルカリホスファターゼ共役ヤギ抗−hIgG抗体溶液を各トラフに添加した。1時間の温置後、各トラフを吸引し、3回洗浄した。この後、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート/ニトロブルーテトラゾリウム(“BCIP/NBT”;20ml蒸留水中に1錠;Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)の基質溶液を各ウェルに0.7mlずつ添加し、周囲温度で10分間温置して発色させた。次いで、吸引し、蒸留水で3回洗浄することによって発色を停止させた。その後、ストリップをトラフから取出し、風乾して、目視で読取を行った。アッセイ総時間は約4時間であった。
【0047】
試験結果の解釈。試験標本中のT.クルージ抗体反応性は4つの試験バンドの強度をストリップの頂上部の2つのIgG対照バンドの強度に目視で比較することによって0から4+の評価段階を使用して判定する。視認できるバンドが全く存在しないとき、読取値は0であり、対照バンドIgG−LおよびIgG−Hの強度をそれぞれ1+および3+と定義する。これらの指標に基づいて、ヒトIgG−L対照の強度と同等の強度をもつ試験バンドを1+と評価し、IgG−L対照とIgG−H対照との中間の強度をもつバンドを2+と評価し、IgG−H対照の強度と同等の強度をもつバンドを3+と評価し、IgG−H対照の強度より高い強度をもつバンドを4+と評価する。最後に、IgG−L対照の強度よりも弱い強度をもつ不鮮明なバンドを+/−と評価する。
【0048】
他の血清学的アッセイ。Abbott PRISM(R)シャガスアッセイ(Abbott Laboratories,Abbott Park,IL)は、以前にChang,CDら,Transfusion 46:1737−1744(2006)に記載されたようにして行った。RIPAは、従来の文献に記載されたようにして行った(参照:Kirchoff,L.V.ら,J.Infect.Dis.,155:561−564(1987)およびKirchoff,L.V.ら,Transfusion,46:298−304(2006))。また、すべてのRIPA試験は盲検で行った。
【0049】
シャガス病標本。合計345のT.クルージ抗体陽性ヒト血清または血漿標本は、American Red Cross,Antibody Systems(Hurst,TX)、BioClinical Partners(Franklin,MA)、Biocollections Worldwide,Inc.(Miami,FL)、Boston Biomedica,Inc.(BBI,West Bridgewater,MA)、Goldfinch Diagnostics Inc.(Iowa City,IA)、Teragenix Corp.(Ft.Lauderdale,FL)およびFederal University of Bahia(Salvador,Bahia,Brazil)から入手した。これらの標本は、多くの中南米諸国、メキシコおよび合衆国のT.クルージ感染者から採取した(以下の表3参照)。すべての標本が2または3種類の慣用のT.クルージイムノアッセイ(IHA、IFAおよびELISA)で陽性であり、RIPAでも陽性であった。
【0050】
【表3】

【0051】
無作為ドナー集団。無作為に選択されたドナーから採取した合計500の標本(血清(150)およびEDTA血漿(350))は、Gulf Coast Regional Blood Center(Houston,TX)から得られた。これらの非関連標本は無作為ドナーから収集され、献血施設(donated units)で行った6つの常套試験のいずれかで陽性結果が得られたという理由でこのグループから除去された標本はなかった。全部の標本を収集後10日以内にイムノブロットアッセイおよびAbbott PRISM(R)シャガスアッセイの双方で試験した。Abbott PRISM(R)シャガスアッセイで0.90以上のS/CO値を有していたすべての反応性サンプルをELISA−I、ELISA−IIおよびRIPAで試験した。
【0052】
疑惑のある標本。他の疾患に血清学的に陽性であるかまたは干渉性物質を含有する疑惑のある合計271の保存血清または血漿標本をイムノブロットアッセイにかけた。このグループは以下を保有する個体から採取した標本を含んでいた:サイトメガロウイルス(“CMV”)(n=4)、エプスタイン・バーウイルス(“EBV”)(n=14)、A型肝炎ウイルス(“HAV”)(n=10)、ぜん虫または腸原虫(n=5)、HIV(n=10)、単純疱疹ウイルス(“HSV”)(n=15)、らい病(n=15)、風疹(n=10)、梅毒(n=10)、トキソプラズマ症(n=5)、結核(n=3)、酵母(n=10)、水痘−帯状疱疹ウイルス(“VZV”)(n=10)、ホモリシス(n=20)、高−IgG(n=10)、高−IgM(n=10)、高ビリルビン血症(n=10)、高トリグリセリド血症(n=15)、ワクチン化インフルエンザ(n=15)、多発性骨髄腫(n=15)、多発性硬化症(n=5)、リウマトイド因子(n=15)、ヒト抗−マウス抗体(n=15)、全身性ループス・エリテマトーデス(n=11)およびリーシュマニア症(n=9)。これらの標本は、New York Biologicals(New York,NY)、ProMedDx(Norton,MA)、SeraCare Life Sciences,Inc.(West Bridgewater,MA)およびHemacare Bioscience(Ft.Lauderdale,FL)を含む多くの販売業者から購入した。これらの271のサンプルを本発明のイムノブロットアッセイおよび原形Abbott PRISM(R)シャガスアッセイで試験した。後者で繰り返して反応性であった全部の標本をELISA−I、ELISA−IIで試験し、次いでRIPAでさらに確認した。
【0053】
結果。本発明のイムノブロットアッセイで得られた結果を図1に示す。図1では、3つのオンボード対照バンドおよび4つのrAg(FP10、FP6、FP3およびTcF)試験バンドの位置が明示されている。345のT.クルージ抗体陽性標本の全部がイムノブロットアッセイで2つ以上の試験バンドを呈示した。これらの標本のうちの合計277標本が4つの試験バンドを呈示し、60標本が3つのバンドを呈示し、8標本が2つのバンドを呈示し、注目すべきことに単一バンドを呈示したかまたは完全に陰性であった標本はなかった。陽性サンプルに伴う試験バンドのほとんどがIgG−L対照バンド(1+)以上の強度を示した。なお、345標本全部がAbbott PRISM(R)シャガスアッセイおよびELISA−IIに反応性であった。対照的に、この345標本グループ中のELISA−Iで試験した272標本のうちの6標本は、これら全部がベースラインを上回る0.60から0.89の範囲のS/CO値を有していたにもかかわらず陰性であった(以下の表4参照)。これらの一致を欠くサンプルはRIPAで弱陽性と確認され、イムノブロットアッセイで2または3の試験バンドを呈示し、少なくとも1つのバンド強度が1+以上であった。最初の272の陽性標本の試験で観察されたELISA−Iの検出レベルが低いので、ELISA−IはAbbott PRISM(R)シャガスアッセイに繰り返して反応性のサンプルのクロスチェックには使用したが、新たに取得したシャガス病サンプルに対する他のアッセイとの以後の感度比較からは除外した。
【0054】
【表4】

【0055】
500の無作為ドナー標本を本発明のイムノブロットアッセイおよび原形Abbott PRISM(R)シャガスアッセイで試験した。本発明のイムノアッセイでは、1標本が単一の1+試験バンドを呈示し、他の2つの標本が不鮮明な(+/−)試験バンドを呈示した。これらのサンプルのうちにはAbbott PRISM(R)シャガスアッセイに反応性のサンプルも2つのELISAのいずれかに反応性のサンプルもなかった。従ってこれらのサンプルは、RIPAに送らなかった。これらの標本について3つの比較アッセイで得られた陰性結果を考えると、本発明のイムノブロットアッセイで観察される低い反応性は非特異的であると考えられる。
【0056】
本発明のイムノブロットアッセイで試験した様々な疾患状態または干渉性物質の疑惑のある271標本のうちで、265標本が試験バンドを呈示せず、4標本が単一1+バンドを呈示し、2標本が3つの試験バンドを呈示した。単一試験バンドを呈示した4標本はAbbott PRISM(R)シャガスアッセイで非反応性であった。しかしながら、3つの試験バンドを呈示した標本はAbbott PRISM(R)シャガスアッセイ、ELISA−IおよびELLSA−IIでも反応性であり、RIPAで陽性であると確認された(以下の表5参照)。さらに、以下の表5に示すように、Abbott PRISM(R)シャガスアッセイで0.90を上回るS/CO値を与えた3標本はRIPAによって確認されず、イムノブロットアッセイで試験バンドを示さなかった。
【0057】
【表5】

【0058】
合計1,116となるこれらの3つの標本グループを試験することによって得られた結果に基づいて、イムノストリップに出現する試験バンドのパターンを解釈するために以下のスキームを使用できる:a)バンドなしまたは単一バンド−陰性;b)少なくとも1つのバンドが1+以上の強度をもつ2つ以上のバンド−陽性;c)多数の不鮮明なバンド(+/−)−不確定(図3参照)。
【0059】
このスキームを345のT.クルージ抗体陽性標本で得られた試験バンドのパターンに当てはめると、全部が陽性であると考えられ、従って100%の感度を与えている(345/345)。500の無作為ドナー標本について、497標本は試験バンドを呈示せず、2標本は単一の1+バンドを呈示し、1標本は不鮮明バンド(+/−)を呈示した。従って、全部が陰性であり、確定特異度は100%(500/500)である。結局、このスキームを使用すると、本発明のイムノブロットアッセイは疾患状態または干渉性物質を伴う271標本で100%(269/269)の確定特異度を示した。
【0060】
Abbott PRISM(R)シャガスアッセイおよびイムノブロットアッセイの開発中に、合衆国の無作為ドナーの約42,000の非関連血清および血漿標本を試験し、Abbott PRISM(R)シャガスアッセイで繰り返して反応性であったかまたはグレーゾーンにあった21標本を見出した。このグループの6標本はELISA−IおよびELISA−IIに反応性であり、RIPAによって陽性であると確認された(以下の表6参照)。これらの6標本のうちの5標本はイムノブロットアッセイで3または4つの試験バンドを示し、従って陽性であると解釈された。このグループの6番目の標本#5060はイムノブロットアッセイの開発を始める前に足りなくなったのでイムノブロットアッセイで試験できなかった。
【0061】
【表6】

【0062】
残りの15のAbbott PRISM(R)シャガスアッセイ反応性標本は、そのほとんどが比較的低いS/COを有しており、全部がRIPA陰性であった(以下の表7参照)。全部がELISA−I陰性であったが、ELISA−IIでは2標本が反応性であり、2標本がグレーゾーンに存在した。イムノブロットアッセイでは、これらの15標本のうちの8標本が試験バンドを呈示せず、他の7標本が単一バンドを呈示し、このうちには、図2のストリップ3のような単一FP3バンドを呈示した#1660が含まれていた。従って、上述の解釈スキームを当てはめると15標本全部が陰性であると確定された。
【0063】
【表7】

【0064】
本発明のイムノブロットシャガスアッセイは、4つの試験バンドにだけ反復的および非反復的セグメントを含む14の別々の抗原性ドメインを提供する(表1参照)。この編制は偽陰性反応の危険を顕著に低下させる可能性を保持しており、同時に、図3に示した簡単な解釈スキームを可能にする。この解釈スキームは、上述の陽性および陰性の3つの標本グループを本発明のイムノブロットアッセイにかけて得られた結果を分析することによって開発された。結果は、陽性判定には2つの試験バンドの反応性が必要であることを明らかに示す。抗−T.クルージ抗体の確認に2つの反応性試験バンドが必要な解釈スキームの採用は、HIV(参照:Maldarelli,F.,“Diagnosis of human immunodeficiency virus infection,”p.1506−1527,G.L.Mandell,J.E.BennettおよびR.Dolin(eds.),Principles and Practice of Infectious Diseases,John Wiley & Sons,New York)、および、ライム病(Lyme borreliosis)(参照:Aguero−Rosenfeld,M.E.,Clin.Microbiol.Rev.,18:484−509(2005))を確認するために使用されたウェスタンブロットの解釈と同じ方針であり、また、HCVに対する抗体の組換えイムノブロットアッセイの解釈と同じ方針である(参照:Tobler,L.H.,Transfusion,40:917−923(2000))。これらの3つのアッセイすべてが、特異的感染を陽性同定するために2つ以上の試験バンドを必要とする。
【0065】
なお、T.クルージ抗体陽性であることがわかっている345標本のグループの上述のような本発明のイムノブロットアッセイに関しては、アッセイ感度は100%であった。標本の地理的分散度(前出の表3参照)および高力価予選択が存在しないことを考えるとこの結果は特に重要である。このグループの全部の標本がAbbott PRISM(R)シャガスアッセイおよび組換えELISA−IIに反応性であったが、溶菌液に基づくELISA−Iで試験した272標本のうちの6標本が陰性であった。6標本全部がRIPAで弱陽性であり、これらの結果は、345陽性標本のグループにT.クルージ抗原に対する広範囲の反応性が存在したことおよびイムノブロットアッセイが低力価陽性を検出できることを示唆する。
【0066】
T.クルージ抗体陰性と推定される2つの標本グループでは、図3に示した上述の解釈スキームを使用したときの本発明のイムノブロットアッセイの特異度は100%であった。テキサスから入手した500の無作為ドナー標本は全部がイムノブロットアッセイで陰性であり、Abbott PRISM(R)シャガスアッセイおよび2種類のELISAでも陰性であり、従ってRIPAで試験しなかった。試験した潜在的に交差反応性の271標本のうちの、らい病および腸原虫感染のある患者から採取した2つのブラジル人の標本はイムノブロットアッセイで陽性であり(3つの試験バンド)、また、RIPAを含む他のアッセイでも明らかに陽性であり、従って、それらが真陽性であることを示唆した(前出の表5参照)。合衆国から採取した3標本はAbbott PRISM(R)シャガスアッセイで陽性であり、1標本がELISA−IIで反応性であった。しかしながら、ELISA−IおよびRIPAでは全部が陰性であった。重視すべきは、これらの標本がいずれも本発明のイムノブロットアッセイで試験バンドを呈示しなかったことであり、従って、本発明のイムノブロットアッセイは他のアッセイで不一致の標本を確定するための有効なツールであることが示唆される。結局、この疑惑標本のグループに対するイムノブロットアッセイの確定特異度は100%(269/269)であった。
【0067】
最終標本グループの試験もまた、本発明のイムノブロットアッセイが確認試験として有効であることを示す。上記に説明したように、約42,000の非関連合衆国無作為ドナー標本のうちで21標本がAbbott PRISM(R)シャガスアッセイまたはイムノブロットアッセイで反応性であった。6サンプルは総合的に陽性であり、十分な量が残っていた5サンプルはイムノブロットアッセイで明らかに陽性であり、3または4つの試験バンドを呈示した(前出の表6参照)。他の15標本についてAbbott PRISM(R)シャガスアッセイで得られた結果に関しては(前出の表7参照)、これらの標本全部がAbbott PRISM(R)シャガスアッセイで比較的低いS/COを有しており、ELISA−Iではある程度反応性であったが最終的には陰性であった。15標本のうちの4標本はELIS−IIで反応性であった。重視すべきは、15標本全部がRIPAで陰性であったことであり、また、全部のRIPA試験が盲検であったことも言及に値する。最後に、15標本全部がイムノブロットアッセイで陰性であった。表7から明らかなように、ほぼ半数の標本が何らかの反応性を示したが、図3に示した上述の解釈スキームを使用したときに陽性の標本はなかった。これらの15標本が恐らくは合計42,000試験標本中で最も難題であることを考慮に入れると、これらの標本全部が本発明のイムノブロットアッセイでRIPAの結果に100%一致するように確定されたことは予想外であった。結論として、これらの知見およびこの実施例で試験した他の標本グループを試験することによって得られた知見は、本発明のイムノブロットアッセイが慢性T.クルージ感染の正確な血清学的確認試験を提供できることを示す。
【0068】
本発明が、その目的の実行、また、上記の目的および利点ならびに本発明に固有の目的および利点の獲得に適応可能であることを当業者は容易に理解されるであろう。この文中に記載した分子複合体、方法、手順、処理、分子、具体的化合物は、好ましい実施態様の現在の代表であり、好適例であり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲および要旨を逸脱することなくこの文中に開示した本発明に対する様々な置換および変更が可能であることは当業者に容易に理解されよう。
【0069】
明細書において言及したすべての特許および刊行物は、本発明が所属する分野の当業者のレベルを示す。個々の刊行物のおのおのが具体的かつ個別的に参照によって組込まれるとする指示と同様に、すべての特許および刊行物は参照によってこの文中に組込まれるものとする。
【0070】
この文中に例示的に記載した本発明は、この文中に具体的に開示しなかった1つまたは複数の要素、1つまたは複数の限定が存在しない場合にも適切に実施されるであろう。従って、たとえばこの文中ではどの場合にも“含む”、“本質的にから構成されている”および“から構成されている”という用語は他の2つの用語のいずれかで置換できる。使用した用語および表現は、記述目的で使用したものであって限定目的で使用したものではなく、このような用語および表現を使用することによって図示および記載の特徴に等価の特徴またはその部分を排除する意図はなく、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲内で多様な修正が可能であると理解される。従って、本発明は好ましい実施態様および選択自在な特徴によって具体的に開示されたが、当業者がこの文中に開示された概念の修正および変更を援用できること、および、このような修正および変更は特許請求の範囲に定義された本発明の範囲内に存在すると考えるべきであることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトから採取した試験サンプルを4つの組換えポリペプチドFP3、FP6、FP10およびTcFに接触させる段階と、および
前記試験サンプル中に存在する抗体が前記組換えポリペプチドの少なくとも2つに結合することを検出する段階と、
を含み、前記組換えポリペプチドの少なくとも2つに対する前記抗体の前記結合の存在が前記試験サンプル中のトリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)の存在を示す指標となる、試験サンプル中のトリパノソーマ・クルージの同定方法。
【請求項2】
試験サンプルが血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液および尿から成るグループから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
JL8、TCR27、JL7、TCR39、PEP−2、Ag36、JL9、TCNA、TcLo1.2、TS、TcD、TcE、FCaBP、Tc−28、Tc−40、FL−160、CEA、CRP、TcP2β−C29およびSA85−1.1から成るグループから選択された少なくとも1つの追加の組換えポリペプチドに試験サンプルを接触させる段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
4つの組換えポリペプチドFP3、FP6、FP10およびTcFと、第一対照および第二対照とが固定化されており、第一対照または第二対照のいずれか一方が他方の対照よりも低い濃度で固相に固定化されている固相。
【請求項5】
さらに、JL8、TCR27、JL7、TCR39、PEP−2、Ag36、JL9、TCNA、TcLo1.2、TS、TcD、TcE、FCaBP、Tc−28、Tc−40、FL−160、CEA、CRP、TcP2β−C29およびSA85−1.1から成るグループから選択された少なくとも1つの追加の組換えポリペプチドが固定化されている、請求項4に記載の固相。
【請求項6】
前記固相がニトロセルロース、ナイロン、プラスチックおよび紙から成るグループから選択される、請求項4に記載の固相。
【請求項7】
前記固相は前記ポリペプチドがその上に固定化されたストリップである、請求項4に記載の固相。
【請求項8】
前記ポリペプチドが前記固相に個別バンドとして配列されている、請求項4に記載の固相。
【請求項9】
個別試験バンドの形態で4つの組換えポリペプチドFP3、FP6、FP10およびTcFがその上に固定化されておりおよび第一対照および第二対照が固定化され第一対照または第二対照のいずれか一方が低対照を構成するように他方の対照よりも低い濃度で固定化されている固相を用い、対象から採取した試験サンプルを固相に接触させる段階と、
固相を少なくとも1つの検出用試薬に接触させる段階と、
各試験バンドのシグナルの存在を同定することによって試験サンプル中に存在する抗体の結合を検出する段階と、
組換えポリペプチド試験バンドで同定されたシグナルの強度を低対照のシグナルの強度に比較する段階と、
を含み、組換えポリペプチド試験バンドで同定されたシグナルの少なくとも1つが低対照の強度と同等の強度を有するという条件付きで、少なくとも2つの組換えポリペプチド試験バンドにおけるシグナル同定が前記試験サンプル中のトリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)の存在を示す指標となる、対象のトリパノソーマ・クルージの診断方法。
【請求項10】
試験サンプルが血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液および尿から成るグループから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記固相がニトロセルロース、ナイロン、プラスチックおよび紙から成るグループから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
さらに、JL8、TCR27、JL7、TCR39、PEP−2、Ag36、JL9、TCNA、TcLo1.2、TS、TcD、TcE、FCaBP、Tc−28、Tc−40、FL−160、CEA、CRP、TcP2β−C29およびSA85−1.1から成るグループから選択された少なくとも1つの追加の組換えポリペプチドが固定化されている、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記固相は前記ポリペプチドがその上に固定化されたストリップである、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−507100(P2010−507100A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533515(P2009−533515)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/081735
【国際公開番号】WO2008/051782
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】