説明

トリレンジアミンから形成された金属カルバミン酸塩

本発明は、一般式(I)
【化1】


[但し、式中、R及びRは、同一又は異なり、それぞれ1〜18個の炭素原子を有するアルキル基であり、Mは、アルカリ金属原子である。]
の金属カルバミン酸塩を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリレジアミン(tolylenediamine)から形成された金属カルバミン酸塩(metal carbamates)及びそれらを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルバミン酸塩は古くから知られている。それらは通常、芳香族アミンを化学量論量の塩基及び有機炭酸塩との反応によって製造される。
【0003】
カルバミン酸塩の製造のため、一連の方法は知られている。
【0004】
これらの方法において、例えば、ウラン塩類(US3,763,217)、ヨウ素及び水銀プロモーターを有するアルミニウムターニング(aluminum turnings)(US4,550,188)、亜鉛塩、鉄塩、アンチモン塩及びスズ塩(US4,268,683、US4,268,684、EP391473)等のルイス酸が、触媒として使用される。
【0005】
これらの方法の工業的な使用の不利な点は、時として、低い変換率、低い選択性、又はその両方である。
【0006】
例えば、ルイス酸(触媒として鉛塩)で触媒された方法において、大過剰な炭酸ジアルキル(dialkyl carbonate)(アミン:炭酸塩=1:20)が使用されるとき、高い選択性及び収率が得られている(WO98/55451、WO98/56758)。高過剰の炭酸ジアルキルは多量の再循環流につながる。
【0007】
他のケースにおいて、ウレタン化(urethanization)において形成された尿素が、付加反応において、対応するウレタンに対して熱的に再解離されるとき、ウレタンの高い収率が達成されている(EP048371(触媒:鉛塩、チタン塩、亜鉛塩及びジルコニウム塩)、EP391473(触媒:亜鉛塩))。再解離は、付加的なエネルギー大量消費工程(energy-intensive step)を必要とする。
【0008】
均一系触媒として、ルイス酸を使用する場合の更なる不利な点は、製品中に残存し、不完全にしか除去することができない触媒残留物である。
【0009】
WO2007/015852は、芳香族アミンのウレタン化のためのルイス酸不均一系触媒の使用について記載している。これは、均一系触媒の複雑な除去の手間を省く。結果として生じる変換率は、工業的規模の応用として低過ぎ、不均一系触媒の存続期間(lifetime)の増加に伴って、選択性とともに減少する。
【0010】
ウレタンは、芳香族アミンから、塩基性化合物、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属アルコキシドを使用し、製造されることも知られている。
【0011】
DE3202690は、触媒として少量の金属アルコキシドの存在下で、アニリン及び炭酸ジアルキルの反応による芳香族ウレタンの製造を記載している。実施例に記載された変換率は不十分であり、達成された選択性は工業的な応用として不十分である。
【0012】
Journal of Organic Chemistry、2005年、70号, 2219〜2224頁は、過剰のナトリウムメトキシド(NaOMe)又はカリウムtert−ブトキシド(KOtBu)等の塩基の存在下で、アニリンと大過剰の炭酸ジメチル(40倍過剰)の反応が記載されている。ナトリウムメトキシドの場合、210分の反応後、67%の選択性が得られた。カリウムtert−ブトキシドの場合は、1分後の選択性が、100%と記載されているが、しかしながら、反応時間の増加に伴うN−メチルカルバニレート(N-methylcarbanilate)副産物の形成を通じ、60%に減少する。変換率及び単離収率は記載されていなかった。
【0013】
N−アリールカルバメートは、イソシアネートへ変換させることができる。その工程は一般に知られている。この手段は、ジイソシアネートをホスゲンが含まれていない経路で製造できるようにすることができる。このような工程は、特に脂肪族ジイソシアネートの製造に使用される。
【0014】
芳香族ジイソシアネートの場合は、芳香族化合物の高い反応性のために、一連の副反応が進行するので、ホスゲンが含まれていない工程による製造は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】US3,763,217
【特許文献2】US4,550,188
【特許文献3】US4,268,683
【特許文献4】US4,268,684
【特許文献5】EP391473
【特許文献6】WO98/55451
【特許文献7】WO98/56758
【特許文献8】EP048371
【特許文献9】EP391473
【特許文献10】WO2007/015852
【特許文献11】DE3202690
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry、2005年、70号, 2219〜2224頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、ホスゲンが含まれない工程により、高い選択性、高い収率、及び高い純度で製造することができる、芳香族ジイソシアネートの製造のための開始材料を提供する簡便な手段を見いだすことである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
驚いたことに、純粋な形態のトリレンジアミンに基づいて金属カルバミン酸塩を単離することができることが見出された。プロトン性の化合物(protic compounds)、特に、アルコール又は好ましくは水との反応後、これらは、対応するジウレタン(TDU(トリレンジウレタン))に変換され、その後の工程において、熱分裂によりトリレンジイソシアネート(TDI)に変換され得る。
【0019】
従って、本発明は一般式(I)
【0020】
【化1】

【0021】
[但し、式中、R及びRは、同一又は異なり、それぞれ1〜18個の炭素原子を有するアルキル基であり、Mは、アルカリ金属原子である。]
の金属カルバミン酸塩を提供する。
【0022】
アルキル基は、特に、2〜7個の炭素原子を有するアルキル基が好ましく、分岐、非分岐、又は環状でも良く、特に分岐又は非分岐である。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、R及びR基は同一である。
【0024】
また、本発明は、
a)トリレンジアミンと、
b)一般式(II)
【0025】
【化2】

【0026】
[但し、式中、R及びRは、上記に規定された通り、同一又は異なり、それぞれ1〜18個の炭素原子を有するアルキル基である。]
の炭酸アルキル、及び
c)一般式(III)
M(R
[但し、式中、Mは、アルカリ金属原子であり、
は、R及びRと同じであるか、又はアミド又はアルキルシラジド(alkylsilazide)であり、
nは、1と同等である。]
の金属化合物との反応による、一般式(I)の金属カルバミン酸塩を製造する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態において、アルキル鎖R及び/又はRはヘテロ原子で修飾されている。ヘテロ原子は、ハロゲン原子でも良く、好ましくはフッ素原子及び/又は塩素原子であり、より好ましくはフッ素原子である。他の実施形態においては、ヘテロ原子は、酸素原子である。これらは好ましくは、エーテル基の形態で存在している。
【0028】
及び/又はRは、好ましくは、エチル、プロピル、ブチル、ジ−2−メチルプロピル、ジ−3−メチルブチル、ジ−n−ペンチル、2−メトキシエチル、2−エトキシエチル、又は2,2,2−トリフルオロエチル基である。
【0029】
及びRは、より好ましくは同一である。これは、本発明の生産物(I)の製造過程において、並びにウレタンへの更なる処理、及びそのイソシアネートへの変換の過程において、工程中の生産物がより少ないという利点を有する。
【0030】
一般式(I)の化合物は室温で固体であり、反応溶液から何の問題もなく、高い純度で取り出すことができる。必要に応じて、それらは更なる工程において精製することができる。
【0031】
一般式(I)の化合物は、上述のように、成分a)、b)及びc)の反応により製造される。
【0032】
使用されるトリレンジアミン(TDA)は、いかなる混合比の、いかなる異性体でも良い。2,4−TDA(2,4−トリレンジアミン)及び2,6−TDA(2,6−トリレンジアミン)の使用が好ましい。純粋な異性体、好ましくは純粋な2,4−異性体を使用することができる。また、2,4−TDA含有量が80%の2種の異性体の混合物、及び2,4−TDA含有量が65%の混合物も好ましい。
【0033】
本発明の好ましい実施形態において、炭酸ジアルキルb)は炭酸ジエチル、炭酸ジ−n−プロピル、炭酸ジ−n−ブチル、炭酸ジ−2−メチルプロピル、炭酸ジ−3−メチルブチル、炭酸ジ−n−ペンチル、炭酸ビス−2−メトキシエチル、炭酸ビス−2−エトキシエチル、炭酸ビス−2,2,2−トリフルオロエチルからなる群から選択される。
【0034】
金属化合物c)は、好ましくは、塩基性有機金属化合物、特にアルカリ金属の化合物を含む。それらは、例えば、ナトリウムアミド等のアミド等の窒素原子を含む化合物、又はリチウムヘキサメチルジシラジド等のケイ素原子及び窒素原子を含む化合物であっても良い。
【0035】
塩基は、更に好ましくは、アルカリ金属のアルコキシドを含む。
【0036】
アルカリ金属Mは、好ましくは、リチウム、ナトリウム又はカリウムである。アルコールラジカルは、好ましくは、使用される一般式(II)の炭酸アルキルのものに相当する。
【0037】
一般式(I)の化合物は、好ましくは標準圧力下で、100〜150℃の温度で製造される。その方法の収率は、95〜100%である。
【0038】
反応において、炭酸塩基のアミノ基に対する比は、1:1〜10:1が好ましく、更に好ましくは、2:1〜3:1である。
【0039】
金属化合物c)は、アミノ基に基づいて、好ましくは化学量論量、更に好ましくは、1:1のモル比、即ち、アミノ基ごとに約1モルの塩基の比で使用される。
【0040】
本発明の金属カルバミン酸塩は、記載されたように、水とのプロトン化(protonation)により純粋なTDU(トリレンジウレタン)に変換させることができる。
【0041】
簡便な方法で、純粋な金属カルバミン酸塩を製造でき、本発明の目的が達成されることは、当業者に予測できることではなかった。
【0042】
また、本方法は、大過剰の化合物b)で行う必要はなかった。TDA(トリレンジアミン)の2個のアミノ基の異なる反応性にもかかわらず、2個のアミノ基の均一な変換が認められた。
【0043】
本発明は、以下の実施例によって詳細に説明される。
【実施例】
【0044】
22.4g(0.13mol)の炭酸ジイソブチル、3.9g(0.032mol)の2,4−TDA及び6.5g(0.064mol)のナトリウムイソブトキシドを、撹拌機、内部温度計及びアルゴン供給が装備された250mlの4口フラスコ中に連続して秤量し、そのフラスコを120℃に加熱されたオイルバスに浸漬した。30分後薄層クロマトグラフィにより分析した結果、定量的な変換が認められた。揮発性成分は減圧下で除去した。カルバミン酸ナトリウムの結晶(11.5g)が、98%の収率で得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

[但し、式中、R及びRは、それぞれアルキル基である。]
の金属カルバミン酸塩。
【請求項2】
前記アルキル基R及びRが、それぞれ炭素鎖中に2〜18個の炭素原子を含む請求項1に記載の金属カルバミン酸塩。
【請求項3】
前記アルキル基R及びRが、それぞれ炭素鎖中に2〜7個の炭素原子を含む請求項1に記載の金属カルバミン酸塩。
【請求項4】
前記アルキル基R及びRが、エチル基、プロピル基、ブチル基、ジ−2−メチルプロピル基、ジ−3−メチルブチル基、ジ−n−ペンチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、及び2,2,2−トリフルオロエチル基からなる群から選択される請求項1に記載の金属カルバミン酸塩。
【請求項5】
前記アルキル基が、ヘテロ原子を含む請求項1に記載の金属カルバミン酸塩。
【請求項6】
前記アルキル基が、酸素原子を含む請求項1に記載の金属カルバミン酸塩。
【請求項7】
a)トリレンジアミンと、
b)一般式(II)
【化2】

[但し、式中、R及びRは、それぞれアルキル基である。]
の炭酸アルキル、及び
c)一般式(III)
M(R
[但し、式中、Mは、アルカリ金属原子であり、
は、R及びRと同じであるか、又はアミド又はアルキルシラジドであり、
nは、1と同等である。]
の金属化合物との反応による一般式(I)の金属カルバミン酸塩の製造方法。
【請求項8】
一般式(I)の化合物と水との反応工程を含むトリレンジウレタンの製造方法。

【公表番号】特表2011−515366(P2011−515366A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500209(P2011−500209)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053170
【国際公開番号】WO2009/115539
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】