説明

トルクリミッタおよびその製造方法

【課題】 回転円筒体と、その上部に形成された永久磁石とが所定の位置で確実に一体化されるとともに、温度上昇があっても、永久磁石が割れない、トルクリミッタを提供する。
【解決手段】 トルクリミッタは、合成樹脂製の円筒状外周部を有する第1回転体11と、円筒状内周部を有し、第1回転体11と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体20と、円筒状外周部上に配置された永久磁石16と、円筒状内周部に配置されたヒステリシス材23とを備える。合成樹脂円筒体12の外周部に配置される永久磁石16は、その内周面に凹部17を有し、合成樹脂円筒体12の外周部は、凹部に嵌り込む凸部19を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば複写機やプリンター・ファクシミリ等の給紙分離装置・カラー複写機の転写ベルトの色ずれ防止テンション機構・あるいはオーディオ・ビデオ機器のリール台駆動装置等に用いられるヒステリシス式トルクリミッタおよびその製造方法に関し、特に、製造工程が減り、リードタイムを短縮するトルクリミッタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトルクリミッタが、たとえば、特許第3316793号公報(特許文献1)や特許第3316794号公報(特許文献2)、に記載されている。同公報によれば、トルクリミッタにおいて、永久磁石と永久磁石を保持する摺動性樹脂との固着は、接着剤をもちいて行われている。
【0003】
また、特開2004−239357号公報(特許文献3)や、特開2002−5188号公報(特許文献4)によれば、永久磁石と軸の固着廻り止め手段として、挿入または圧入で物理的に勘合する方法もあった。
【0004】
さらに、特開平10−78043号公報(特許文献5)には、トルクリミッタを構成する第1また第2回転体の少なくとも一方の回転体を合成樹脂で形成し、永久磁石またはヒステリシス材とインサート成形にて一体的に構成したトルクリミッタが開示されている。
【特許文献1】特許第3316793号公報(段落番号0009等)
【特許文献2】特許第3316794号公報(段落番号0008等)
【特許文献3】特開2004−239357号公報(段落番号0011等)
【特許文献4】特開2002−5188号公報(段落番号0011等)
【特許文献5】特開平10−78043号公報(段落番号0019等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の、トルクリミッタにおける、永久磁石やヒステリシス材とそれらを保持する円筒体との固着は上記のように行われていた。摺動性樹脂軸に永久磁石をプライマー塗布を介して接着剤で直接固着する場合は作業性が悪い上、接着強度が低く接着強度にバラツキが発生し信頼性に欠けるという問題点があった。
【0006】
永久磁石に合成樹脂製ロータ軸を圧入する方法や永久磁石の内側と合成樹脂製ロータ軸の外周部にそれぞれ凹凸を設け挿入勘合する方法では、使用中(両回転体がスリップ状態時)にヒステリシス損や渦電流による発熱と熱膨張係数差で、変形、破損、分解、永久磁石の割れ、ガタつき発生等の可能性があり耐久性・信頼性に問題があった。
【0007】
また、トルクリミッタを構成する回転体を合成樹脂で形成し、永久磁石またはヒステリシス材とインサート成形にて単に一体的に構成した場合は、使用中の温度上昇によって、合成樹脂が膨張し、その上に一体的に構成された永久磁石またはヒステリシス材が割れるという問題があった。
【0008】
この発明は上記のような問題点に鑑みてなされたもので、回転円筒体と、その上部に形成された永久磁石またはヒステリシス材とが所定の位置で確実に一体化されるとともに、温度上昇があっても、永久磁石またはヒステリシス材が割れない、トルクリミッタおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る、トルクリミッタは、合成樹脂製の円筒状外周部を有する第1回転体と、円筒状内周部を有し、第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体と、円筒状外周部および円筒状内周部のうちのいずれか一方上に配置された永久磁石と、いずれか他方側に配置されたヒステリシス材とを備える。合成樹脂製の円筒状外周部に配置される永久磁石またはヒステリシス材は、その内周面に凹部を有し、合成樹脂製の円筒状外周部は、凹部に嵌り込む凸部を有していることを特徴とする。
【0010】
合成樹脂製の円筒状外周部に配置される永久磁石またはヒステリシス材は、その内周面に凹部を有し、合成樹脂製の円筒状外周部は、凹部に嵌り込む凸部を有しているため、永久磁石またはヒステリシス材の内周面の凹部と、合成樹脂製の円筒状外周部の凸部とで永久磁石の位置決めが可能であるとともに、使用時には、合成樹脂は、ヒステリシス損や渦電流による発熱で高温となり、膨張するが、この膨張も凹部によって吸収される。
【0011】
その結果、回転円筒体と、その上部に形成された永久磁石またはヒステリシス材とが所定の位置で確実に一体化されるとともに、温度上昇があっても、永久磁石またはヒステリシス材が割れない、トルクリミッタが提供できる。
【0012】
好ましくは、合成樹脂製の円筒状外周部は、永久磁石またはヒステリシス材に対してインサート成形で一体的に形成される。
【0013】
インサート成形された合成樹脂は、軸方向と径方向に収縮するため、永久磁石またはヒステリシス材は、その軸方向端部の凹部に合成樹脂がはまりこんで、永久磁石またはヒステリシス材と合成樹脂とが確実に一体化されるとともに、使用時の合成樹脂の膨張も凹部によって吸収される。
【0014】
さらに好ましくは、凹部は、永久磁石またはヒステリシス材の軸方向の端部に設けられる。
【0015】
さらに好ましくは、第1回転体は、合成樹脂製の円筒の内周部に、金属製円筒体を含む。
【0016】
凹部は、永久磁石またはヒステリシス材の軸方向の内周面の端部に設けられた円周方向の溝であってもよいし、円周方向に間隔を開けて設けられてもよい。
【0017】
上述のように、この発明による構成では、トルクリミッタは、合成樹脂製の円筒状外周部を有する第1回転体と、円筒状内周部を有し、第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体と、円筒状外周部および円筒状内周部のうちのいずれか一方上に配置された永久磁石と、いずれか他方側に配置されたヒステリシス材とを備える。このトルクリミッタの製造方法は、内周面に凹部を有する、永久磁石またはヒステリシス材を準備するステップと、準備された永久磁石またはヒステリシス材の内周部に、円筒状外周部となるべき合成樹脂をインサート成形して、永久磁石またはヒステリシス材と合成樹脂とを一体化するステップとを含む。
【0018】
好ましくは、合成樹脂のインサート成形に先立ち、準備された永久磁石またはヒステリシス材の内周部側に隙間をあけて金属製円筒体を配置するステップと、永久磁石またはヒステリシス材の内周部と金属製円筒体との間の隙間に合成樹脂をインサート成形するステップとを含み、それによって、永久磁石またはヒステリシス材と、合成樹脂と金属製円筒体とを一体成形する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1はこの発明の一実施の形態に係るトルクリミッタ10を示す図である。図1を参照して、トルクリミッタ10は、駆動用のシャフト30に止めネジ31を介して一体的に回転するようにされた、円筒状外周部を有する第1回転体11と、第1回転体11の円筒外周部に対向する円筒内周部を有する第2回転体20とを含む。
【0020】
第1回転体11は、合成樹脂材料で形成された合成樹脂円筒体12と、合成樹脂円筒体12の外周部に設けられた円筒状の永久磁石16とを含み、永久磁石16は、その内周面に凹部17を有し、合成樹脂円筒体12は、凹部17に嵌り込む凸部19を有している。したがって、永久磁石16の内周面の凹部17と、合成樹脂円筒体12の凸部19とで永久磁石16の位置決めが可能であるとともに、使用時には、合成樹脂円筒体12は、ヒステリシス損や渦電流による発熱で高温となり、膨張するが、この膨張も凹部17によって吸収される。
【0021】
その結果、回転円筒体と、その上部に形成された永久磁石またはヒステリシス材とが所定の位置で確実に一体化されるとともに、温度上昇があっても、永久磁石またはヒステリシス材が割れない、トルクリミッタが提供できる。
【0022】
合成樹脂円筒体12と永久磁石16との固着層は、インサート成形して一体に形成されているのが好ましい。合成樹脂円筒体12と永久磁石16とがインサート成形されているため、接着による固着力不足、永久磁石と合成樹脂材料の熱膨張差が起因で発生する永久磁石の割れやがたつきの問題、あるいは、永久磁石を回転体本体に固着するさいの偏芯による外周振れ等の問題が発生しない。
【0023】
その結果、永久磁石の外周振れ精度の良い、加工ばらつきの少ない、優れたトルクリミッタが得られる。
【0024】
また、上記したように、永久磁石16の内径両側面に凹溝17がプレス金型で予め形成されているため、永久磁石16の内側に合成樹脂材料をインサート成形すると強固に固着され、且つ温度上昇による固着部外れ、割れ、ガタつきの無い、且つ、安価でトルク性能と信頼性の高い永久磁石16と一体の第1回転体11が形成される。
【0025】
すなわち、使用時に温度が上昇して永久磁石16よりも合成樹脂円筒体12がより膨張しても、その膨張量は、永久磁石16の端部に設けられた凹溝17で吸収されるため、従来のように永久磁石16が端部において割れるということはない。
【0026】
さらに、金属スリーブの圧入や接着工程が不要で、一回の成形のみで製造できるため、リードタイムが大幅に短縮された。また、金属製軸からの代替が可能で、大幅なコストダウンが図れた。
【0027】
なお、インサート成形で永久磁石16と一体的に構成された第1回転体11は、着磁ヨークを用いて外周に多極着磁を行う。また、第1回転体11の軸受摺動部28,29と第2回転体20の軸受摺動部24,25とは、ともに似かよった合成樹脂材料で形成するため、摺動部24,25、28,29の摩擦抵抗が小さく、優れた摺動性が得られる。
【0028】
第1回転体11の第2回転体20との摺動部28,29には、グリス用凹溝13a、13bが設けられ、そこに、摺動特性向上と摩耗防止のために、必要に応じて液状、グリス状、固体潤滑剤等を潤滑油として添加してもよい。
【0029】
ここで、液状オイルとしては、シリコーンオイル等の合成油、ナフテン系またはパラフィン系の鉱油、作動油等が挙げられる。更に、上記液状オイルと固体潤滑剤との混合グリスを両回転体の摺動部に添加するのも効果的である。固体潤滑剤としては、ふっ素樹脂、二硫化モリプデン、グラファイト、二硫化タングステン、フッ化黒鉛、窒化ほう素、メラミンシアヌレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、金属石鹸等をパウダー化したものが使用できる。
【0030】
永久磁石16としては、フエライト磁石や希土類磁石(焼結磁石、樹脂磁石を含む)が用いられるが、トルクリミッタの小型化、高トルク化の観点から希土類磁石を用いるのが望ましい。希土類としては、Nd−Fe−B磁石、Sm−Fe−N磁石、Sm−Co系磁石等が挙げられる。
【0031】
第2回転体20は、少なくとも摺動部24,25が合成樹脂材料からなる。摺動部24、25を含めて全体を合成樹脂材料で構成してもよく、摺動部24,25以外は他の材料で構成してもよい。第2回転体20は、給紙用リタードローラ27側に設けられた円筒体21と、円筒体21の反対方向の端側に設けられた端部蓋部22と、円筒体21の内周部に、永久磁石16に対向して設けられた半硬質磁石(以下、「ヒステリシス材」という)23とを含む。この円筒状のヒステリシス材は第2回転体20の内周面に圧入によって固定されている。
【0032】
このヒステリシス材23はFe−Cr−Co系、Fe−Co系合金製で継ぎ目の無いシームレス状の円筒体及びマルチフオーミングで丸め加工後、継ぎ目に点溶接を施した円筒体である。
【0033】
第2回転体20の合成樹脂材料としては、摺動性、耐熱性、寸法安定性、そして限界PV値の高いグレード、強度において優れたものが適している。具体的には、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリプチレンテレフタレート樹脂PBT)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂(PI)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフエーテルニトリル樹脂(PEN)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンサルフアイド樹脂(PPS)、ポリフェニレンオキシド樹脂(PPO)、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、アクリロニトル−ブタジェン−スチレン(ABS)等が挙げられる。またこれら合成樹脂材料には摺動性や剛性、限界PV値を上げるためにチタン酸カリウムウイスカー、四フッ化樹脂(PTFE)、固体潤滑剤(グラファイト、二硫化モリブデン等)、オイル、ガラスビーズ等の充填剤を混入して用いても良い。
【0034】
次に、永久磁石16について説明する。図2は、永久磁石16に設けられた凹溝17の詳細を説明するための図である。図2(B)は永久磁石16の軸方向の断面図であり、図2(A)、図2(C)は、図2(B)において、矢印A−A、B−Bで示す部分の矢視図である。
【0035】
図2に示すように、永久磁石16の軸方向の両端部には、円周方向に深さの異なる溝17a、17bが設けられている。ここで、溝17aは、溝17bよりも深く形成されている。永久磁石16の端面からの寸法は、たとえば、溝17aは0.8mmであり、溝17bは0.5mmであり、両者の間に0.3mmの段差が設けられている。
【0036】
このように2段階の凹部17を設けることにより、永久磁石16と合成樹脂円筒体12との熱膨張差を吸収し、高い剛性で固着できるため、後に説明するように、使用条件に基づいた信頼性評価やヒートサイクル評価でも固着の外れ、永久磁石16の割れや、ガタツキが無く、トルク性能と信頼性の高いトルクリミッタが得られる。
【0037】
次に、図2に示した永久磁石16を合成樹脂円筒体12にインサート成形した状態を図3に示す。永久磁石16を合成樹脂円筒体12にインサート成形する方法は次のとおりである。
【0038】
内周面に凹部17を有する、永久磁石16を準備する。次に、永久磁石16の内周部に合成樹脂をインサート成形して合成樹脂円筒体12を形成し、永久磁石16と合成樹脂円筒体12とを一体化し、それによって、第1回転体11の合成樹脂製の外周部を形成する。
【0039】
インサート成形された合成樹脂回転体12は、軸方向(図中矢印Aで示す)に収縮し、図3に示すように、永久磁石16の両端部の溝17にインサート成形された合成樹脂がはまりこんで固着するため、合成樹脂円筒体12上の所定の位置に永久磁石16の位置決めができる。また、溝17a、17bの深さが、円周方向に異なっているため、回り止めの役目を果たし、合成樹脂円筒体12に円周方向の力がかかると、確実に永久磁石16も回転する。また、合成樹脂円筒体12は、軸方向収縮と同時に、径方向にも収縮するが(図中矢印Bで示す)、永久磁石16の固定には全く問題が無い。
【0040】
一方、第1回転体11と第2回転体20とがスリップする使用時には、ヒステリシス損や渦電流による発熱で高温状態になり、膨張する。しかしながら、軸方向、および径方向の収縮や膨張量は、永久磁石16の両端面に設けられた凹溝17a、17bおよび凹溝17aと17bとの段差で吸収保持され、がたつきや偏芯のない強固に固着された信頼性の高い第1回転体11が得られる。しかも、樹脂が径方向に熱膨張しても、凹溝17a、17bによって熱膨張は吸収されるので、永久磁石16が割れることはない。
【0041】
なお、ここでは、永久磁石16の両端部に凹溝17を設けた例について説明したが、これに限らず、一方端側のみに設けてもよい。
【0042】
次に、永久磁石16に設けられる凹溝17の他の例について説明する。図4から図7は、凹溝17の他の例を示す図である。それぞれ、永久磁石16の一方端面のみを示しているが、上記したように、両端面に設けてもよい。
【0043】
図4(B)は、永久磁石16の側面の断面図であり、図4(A)は、図4(B)において矢印A-Aで示した矢視図である。図4を参照して、この例では、永久磁石16の端面に2段の円周方向の溝17c、17dが形成されている。
【0044】
図5(A)は、永久磁石16の端面を示す図であり、図5(B)は、図5(A)において矢印B-Bで示した部分の断面図であり、図5(C)は、図5(A)において矢印C-Cで示した部分の断面図である。
【0045】
図5(A)〜(C)に示すように、ここでは、永久磁石16の円周方向の一部のみ(90度で2箇所)に凹溝17を設けている。
【0046】
図5(D)は、図5(A)と同様に永久磁石16の端部を示す図である。図5(D)に示すように、円周方向に45度で4箇所の凹溝17を設けてもよい。
【0047】
図6(A)は、永久磁石16の端面を示す図であり、図6(B)は、図6(A)において矢印B-Bで示した部分の断面図であり、図6(C)は、図5(A)において矢印C-Cで示した部分の断面図である。
【0048】
この例では、永久磁石16の端面に円周方向の凹溝17が4箇所設けられるとともに、円周方向において90度ごとの4箇所に軸方向に貫通した溝18aが設けられる。
【0049】
図7(A)は、永久磁石16の端面を示す図であり、図7(B)は、図7(A)において矢印B-Bで示した部分の断面図であり、図7(C)は、図7(A)において矢印C-Cで示した部分の断面図である。
【0050】
この例では、永久磁石16の端面に2段の円周方向の溝17c,17dが設けられ、内部に設けられた2段目の円周方向の溝17dの一部は、軸方向に貫通した溝18bにつながっている。
【0051】
次に、このトルクリミッタの耐久試験結果について説明する。図8は、耐久試験結果を示す図である。ここでは、第2回転体20を強制的に静止させ、第1回転体11を次の条件で回転させ、第2回転体20に伝わるトルクを測定した。図において、縦軸はトルクであり、横軸は時間を示す。
【0052】
・走行条件:480rpm×100万サイクル以上
・1サイクル=1.03秒間ON/0.8秒間OFF
図8に示す各データは次の条件で第1および第2回転体を形成したものである。
【0053】
・A:第1回転体は、ポリブチレンテレフタレート樹脂で永久磁石とインサート成形にて一体的に形成されており、第2回転体の摺動部は、ポリアセタール樹脂にチタン酸カリウムウイスカーを混入している。
【0054】
・B:第1回転体は、ポリブチレンテレフタレート樹脂にチタン酸カリウムウイスカーを混入し、永久磁石とインサート成形にて一体的に形成されており、第2回転体の摺動部は、ポリアセタール樹脂にチタン酸カリウムウイスカーを混入している。
【0055】
・C:第1回転体は、摺動性ポリアセタール樹脂で永久磁石とインサート成形にて一体的に形成されており、第2回転体の摺動部はポリアセタール樹脂にチタン酸カリウムウイスカーを混入している。
【0056】
図8を参照して、A,BおよびCとも永久磁石の固着外れや割れ等の問題は無く、100万サイクル経過後もトルク性能に大きな変化が無く、良好な結果が得られた。
【0057】
次に、上記のトルクリミッタにヒートサイクルをかけた場合のヒートサイクル後の緩み(スラスト方向とラジアル方向のガタ)を評価した結果について説明する。ヒートサイクルは、−30℃で2時間保持した後、80℃で2時間保持するという条件を繰り返した。
【0058】
この場合の評価方法は、永久磁石16を保持し、樹脂軸にトルクメータで左右に5kg・cmの捩り荷重を加え、ガタを確認した。また、スラスト方向は、永久磁石16端面を治具で受け、上下から2kgの荷重を加え、ガタを確認した。
【0059】
その結果を図9に示す。図9に示すように、全てのサンプル1〜5について、合成樹脂の円筒状外周部とその上に配置された永久磁石16は、ヒートサイクルを20回行なっても、ガタは無しか、OKでであり、問題を生じなかった。これは永久磁石16の内径の端面に形成された段形状の凹溝17がヒートサイクルによる膨張を吸収していると考えられる。また、合成樹脂の収縮で永久磁石16の端面を挟み付けているため、その力でガタを防いでいるとも考えられる。
【0060】
次に、この発明の他の実施の形態について説明する。図10は、この発明の他の実施の形態を示す図である。図10(B)は、この実施の形態におけるトルクリミッタ40の側面の断面図であり、図10(A)は、図10(B)において、矢印A-Aで示す部分の矢視図であり、先の実施の形態における図3に対応する図である。
【0061】
なお、図10においては、第2回転体20についての図示を省略しているが、摺動部24,25を有する図1に示したのと同様の第2回転体20が設けられる。
【0062】
図10を参照して、この実施の形態においては、第1回転体11は、内周部に金属製円筒体14を有し、この金属製円筒体14の外周部において、永久磁石16との間に合成樹脂15がインサート成形されている。
【0063】
この実施の形態においては、金属製円筒体14と永久磁石16との固着層としては、合成樹脂15をインサート成形して一体に形成されているため、接着や嵌め合い時のクリアランスに起因する永久磁石の偏芯が生じず、トルク性能が優れ、且つ、コストパフォーマンスのあるトルクリミッタを提供できる。
【0064】
ここで用いられる金属製円筒体14は、磁性金属、非磁性金属のいずれでもよく、具体的に例示するならば、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅合金等が好ましい。また、図10に示すように、金属製円筒体14の軸方向の中央部には、円周方向の溝41が形成されており、インサート成形時には、この溝41に合成樹脂15が侵入する。
【0065】
第1回転体11の内周部に金属製円筒体14を用いる点以外は、凹部17を有する永久磁石16の形状や、使用する合成樹脂15(先の実施の形態における合成樹脂円筒体12に対応する)の種類等を含めて先の実施の形態と同様であるので、同一部分の説明は省略し、この実施の形態に特有の部分のみについて以下に説明する。
【0066】
図10を参照して、第1回転体11は、シャフト30に当接する金属製円筒体14と、金属製円筒体14の外周部に設けられた円筒状の永久磁石16とを含み、金属製円筒体14と永久磁石16との固着層として合成樹脂をインサート成形して一体に形成されている。
【0067】
第1回転体11は、図1に示すように、2箇所の摺動部28,29を含み、たとえば、アルミニウムのような金属製材料からなる。2箇所の摺動部28,29には予め固体潤滑剤のコーティングが施されており、金属製円筒体14と永久磁石16の内径の空隙に合成樹脂15をインサート成形するため、金属製円筒体14の固着部外径は、永久磁石16の内径より直径で、たとえば、約1.9mm小さくする。
【0068】
この実施の形態におけるインサート成形の合成樹脂としては、先の実施の形態と同様に、耐熱性、接着性、寸法安定性、高剛性、そして限界PV値の高い材料が適している。
【0069】
この実施の形態においては、第1回転体11の2箇所の摺動部28、29を含む軸体(金属製円筒体14)が熱伝導性の良い金属材料からなるため、トルクリミッタの使用時に発生するヒステリシス掛や渦電流による発熱する温度が金属材料を通じて外部に放出でき、トルクリミッタの温度上昇が抑制できた。
【0070】
次にこの実施の形態係るトルクリミッタの製造方法について図10を参照して説明する。先の実施の形態において説明したように、内周面に凹部17を有する、永久磁石16を準備し、次に、金属製円筒体14を準備する。次いで、永久磁石16の内周部と、準備された金属製円筒体の外周部との間に合成樹脂をインサート成形する。それによって、永久磁石16と、合成樹脂15と、金属製円筒体14とが一体成形される。
【0071】
次に、この実施の形態におけるトルクリミッタの耐久走行試験について説明する。図11は、この実施の形態におけるトルクリミッタを実機ユニットにて耐久走行試験を実施した結果を示す図である。図11において、縦軸は、トルク値であり、横軸は時間である。試験条件は、次のとおりである。
・走行条件:1040rpm×0.5sec/536rpm×0.1sec(交互に切り替える)
・動作寿命:3000h以上
ここで、トルクリミッタ40の構成は次のとおりである。第1回転体11は、アルミ製の金属製円筒体14と永久磁石16との内径部分の空隙部に、ガラス繊維を30%混入したポリプチレンテレフタレート樹脂をインサート成形して永久磁石16と一体的に形成されており、両摺動部28,29には、ポリアミドイミド樹脂にフッ素樹脂とグラファイトを混合させた摺動コーティング膜がスプレー塗装にて形成されている。第2回転体20の摺動部24,25は、ポリアセタール樹脂にチタン酸カリウムウイスカーを混入し、更に両回転体11、20の摺動部24,25、28、29には、シリコーンオイルとフッ素パウダーを混入したグリスを適量使用している。
【0072】
図11に示すように、3000時間以上走行しても、高いトルク値を保っており、良好な耐久性を有していることがわかる。
【0073】
なお、上記実施の形態においては、第1回転体に永久磁石をインサート成形で固着する場合について説明したが、これに限らず、第1回転体にヒステリシス材をインサート成形で固着してもよい(この場合は、第2回転体の内周に永久磁石が取付けられる)。
【0074】
また、上記実施の形態においては、永久磁石の内周面に形成した凹溝として、円周方向および軸方向の溝を例にあげて説明したが、これに限らず、永久磁石の内周面であれば、任意の位置に任意の形状で凹部を設けてもよい。
【0075】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
この発明に係るトルクリミッタは、回転円筒体と、その上部に形成された永久磁石とが所定の位置で確実に一体化されるとともに、温度上昇があっても、永久磁石またはヒステリシス材が割れないため、トルクリミッタとして有利に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】この発明の一実施の形態に係るトルクリミッタの一部断面図である。
【図2】永久磁石の構成を示す図である。
【図3】第1回転体の構成を示す断面図である。
【図4】永久磁石の軸方向端面に形成される凹溝の形状を示す図である。
【図5】永久磁石の軸方向端面に形成される凹溝の形状を示す図である。
【図6】永久磁石の軸方向端面に形成される凹溝の形状を示す図である。
【図7】永久磁石の軸方向端面に形成される凹溝の形状を示す図である。
【図8】トルクリミッタの耐久試験結果を示す図である。
【図9】トルクリミッタのヒートサイクル評価を示す図である。
【図10】この発明の他の実施の形態に係るトルクリミッタを示す図である。
【図11】他の実施の形態に係るトルクリミッタの耐久試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
10 トルクリミッタ、11 第1回転体、12 合成樹脂円筒体、13 グリス用凹溝、14 金属製円筒体、16 永久磁石、17 凹溝、18 溝、19 凸部、20 第2回転体、21 円筒体、22 端部蓋部、23 ヒステリシス材、24、25、28、29 摺動部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の円筒状外周部を有する第1回転体と、円筒状内周部を有し、前記第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体と、前記円筒状外周部および前記円筒状内周部のうちのいずれか一方上に配置された永久磁石と、いずれか他方側に配置されたヒステリシス材とを備えたトルクリミッタであって、
前記合成樹脂製の円筒状外周部に配置される永久磁石またはヒステリシス材は、その内周面に凹部を有し、前記合成樹脂製の円筒状外周部は、前記凹部に嵌り込む凸部を有していることを特徴とする、トルクリミッタ。
【請求項2】
前記合成樹脂製の円筒状外周部は、前記永久磁石またはヒステリシス材に対してインサート成形で一体的に形成される、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記凹部は、前記永久磁石またはヒステリシス材の軸方向の端部に設けられる、請求項1または2に記載のトルクリミッタ。
【請求項4】
前記第1回転体は、前記合成樹脂製の円筒の内周部に、金属製円筒体を含む、請求項1から3のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【請求項5】
前記凹部は、前記永久磁石またはヒステリシス材の軸方向の内周面の端部に設けられた円周方向の溝を含む、請求項1から4のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【請求項6】
前記凹部は、円周方向に間隔を開けて設けられる、請求項1から5のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【請求項7】
合成樹脂製の円筒状外周部を有する第1回転体と、円筒状内周部を有し、前記第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体と、前記円筒状外周部および前記円筒状内周部のうちのいずれか一方上に配置された永久磁石と、いずれか他方側に配置されたヒステリシス材とを備えたトルクリミッタの製造方法であって、
内周面に凹部を有する、永久磁石またはヒステリシス材を準備するステップと、
前記準備された永久磁石またはヒステリシス材の内周部に前記円筒状外周部となるべき合成樹脂をインサート成形して、前記永久磁石またはヒステリシス材と合成樹脂とを一体化するステップとを含む、トルクリミッタの製造方法。
【請求項8】
前記合成樹脂のインサート成形に先立ち、前記準備された永久磁石またはヒステリシス材の内周部側に隙間をあけて金属製円筒体を配置するステップと、
前記永久磁石またはヒステリシス材の内周部と前記金属製円筒体との間の隙間に合成樹脂をインサート成形するステップとを含み、それによって、前記永久磁石またはヒステリシス材と、前記合成樹脂と前記金属製円筒体とを一体成形する、請求項7に記載のトルクリミッタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−138375(P2006−138375A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327862(P2004−327862)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)