説明

トルクリミッタ

【課題】回転方向によって発生トルクを変更可能なトルクリミッタを提供する。
【解決手段】トルクリミッタ10は、円筒状外周部を有する回転体15と、円筒状外周部に対向する円筒状内周部を有し、回転体15と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられたヒステリシス材11とからなり、回転体15の円筒状外周部には永久磁石16が設けられる。ヒステリシス材11は弾性を有しており、円周方向においてその一部に隙間17が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば複写機やプリンター・ファクシミリ、ドアのダンパ等に用いられるトルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
トルクリミッタは、相互に対向する永久磁石とヒステリシス材とから構成されている。従来のトルクリミッタにおいて、発生トルクを変更可能にしたものが、たとえば、特開2006−017141号公報(特許文献1)に開示されている。同公報によれば、磁石とヒステリシス材との対向面積を変えることによって発生トルクを変更している。
【特許文献1】特開2006−017141号公報(要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のトルクリミッタは上記のように構成されていた。発生トルクの変更を考慮したものは存在したが、回転方向によって発生トルクを変えるという発想はなかった。
【0004】
この発明は上記のような問題点に鑑みてなされたもので、回転方向によって発生トルクを変更可能なトルクリミッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る、トルクリミッタは、円筒状外周部を有する第1回転体と、円筒状外周部に対向する円筒状内周部を有し、第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体とからなり、第1回転体の円筒状外周部および第2回転体の円筒状内周部のいずれか一方には永久磁石が、いずれか他方にはヒステリシス材が設けられる。第2回転体は弾性を有するとともに、円周方向において一方端と他方端とを有し、一方端と他方端との間には所定の隙間が設けられる。
【0006】
第2回転体は弾性を有し、円周方向において所定の隙間が設けられているため、回転方向によって隙間が狭くなったり広くなったりする。隙間が減れば、第1回転体と第2回転体との間のギャップが狭くなって発生するトルクが大きくなり、隙間が広がれば、発生するトルクは小さくなる。
【0007】
その結果、回転方向によって発生トルクを変更可能なトルクリミッタを提供できる。
【0008】
好ましくは、第2回転体は、第2回転体の円周部からその接線方向に延在する突出部を有し、第2回転体は、突出部を介して所定の位置に固定される。
【0009】
さらに好ましくは、第1回転体は永久磁石であり、第1回転体の外周面は多極着磁されている。多極着磁の方法はストレート(縦方向)であっても、スキュー(斜め)であってもよい。
【0010】
なお、永久磁石は、第1回転体の軸方向において複数に分割されているのが好ましい。
【0011】
第1回転体の軸方向において複数に分割されて隣接している永久磁石の極性は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0012】
永久磁石とヒステリシス材との間には磁性粉が封入されるのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1はこの発明の一実施の形態に係るトルクリミッタ10を示す図である。図1(A)は外観を示す図であり、図1(B)は、図1(A)において矢印B-Bで示す部分の断面図である。図1(A)を参照して、トルクリミッタ10は、図示のない駆動用のシャフトに止めネジ(図示なし)を介して一体的に回転するようにされた、円筒状外周部を有する回転体15を含む。回転体15の外周部には円筒状の永久磁石16が設けられている。トルクリミッタ10はさらに、永久磁石16の円筒外周部に対向する円筒状内周部を有するヒステリシス材(半硬質磁石)11を含む。
【0014】
ヒステリシス材11は、円筒状に巻かれた円筒状部12と円筒状部12に対してその接線方向に延在するフランジ部13とを含む。フランジ部13には、ヒステリシス材11を所定の位置に固定するための一対の貫通孔14が設けられている。
【0015】
ヒステリシス材11の円筒状部12において、フランジ部13がその円周面から離れる部分の近傍には円筒状部12の端部12aが設けられており、端部12aとフランジ部14との間には所定の隙間17が形成されている。
【0016】
ここで、ヒステリシス材11はマルテンサイト系のステンレスであり、弾性を有している。また、回転体15はアルミのシャフトである。
【0017】
図2は図1(B)において矢印II-IIで示す部分の断面図である。図2を参照して、回転体15の上に設けられた永久磁石16は軸方向に4つの異なる永久磁石16a〜16dが隣接して固定されている。また、それぞれの永久磁石16a〜16dは外周面において多極着磁されている。なお、図中、右上がりの斜線はN極であり、左上がりの斜線はS極である。
【0018】
したがって、図2(A)は隣接する永久磁石16a〜16dが相互に同一極性を有している場合を示す図であり、図2(B)は異なる極性を有している場合を示す図である。トルクを得るためには、これらの図に示すように4つの磁石の固定位置は、完全に同極(隣接する極性がN-N、または、S-S、図2(A))または完全に異極(隣接する極性がN-S、図2(B))となっているほうが好ましい。
【0019】
図3はこのトルクリミッタ10がフランジ部13が固定された状態で回転体15およびその上に固定された永久磁石16が正方向(隙間17が小さくなる方向、時計方向)に回転された場合(A)と逆方向(反時計方向)に回転された場合(B)を示す図である、図3(A)に示すように、回転体15が正方向に回転されると、ヒステリシス材11が弾性を有しており、また、永久磁石16とヒステリシス材11との間に吸着力が作用するため、ヒステリシス材11の隙間17は狭くなる。
【0020】
その結果、ヒステリシス材11と永久磁石16との間のギャップが小さくなり、両者の間に高いトルクが発生する。
【0021】
一方、回転体15が逆方向に回転されると(図3(B))、ヒステリシス材11の隙間17は広くなり、ヒステリシス材11と永久磁石16との間のギャップが大きくなり、両者の間の発生トルクは小さくなる。
【0022】
このように、この実施の形態においては、トルクリミッタ10の外周となる円筒状のヒステリシス材11を、弾性を有する部材で構成し、その円周上に両端部を設け、両端部の間に所定の寸法を有する隙間17を設けたため、内部に設けられた永久磁石16の回転方向に応じてこの隙間17が広くなったり狭くなったりする。それに応じて、永久磁石16とヒステリシス材11とのギャップが大きくなったり小さくなったりするため、回転方向に応じて発生するトルクを調整することができる。
【0023】
次に、この発明の他の実施の形態について説明する。図4および図5はこの発明の他の実施の形態を説明するための図であり、それぞれ先の実施の形態における図1および図2に対応する。この実施の形態におけるトルクリミッタ20においては、永久磁石16とヒステリシス材11との間に磁性粉18を封入した点が先の実施の形態と異なる。それ以外の部分については、同一であるので、同一部分に同一参照番号を付して、その説明を省略する。
【0024】
この実施の形態においては、永久磁石16とヒステリシス材11との間に磁性粉18を封入する。磁性粉18は両者の間に摩擦力を発生させるため、より高いトルクを発生させることができる。また、磁性粉18の封入量を調整することにより、トルクの調整も容易になる。
【0025】
また、永久磁石16を構成する4つの個々の永久磁石16a〜16dのそれぞれが隣接する固定位置は図5(A)に示すようにN−Sに反転させるのが好ましい。これは、異なる磁極を有する永久磁石間の境界にはより強い磁力を発生するためである。なお、図6に回転体の円周上の着磁パターンを示す。
【0026】
なお、この実施の形態において、永久磁石16の抜け防止を行ってもよい。図7はこの抜け防止用のリングを設けた場合のトルクリミッタの全体構成を示す図であり、図4に対応する。図7に示すように、回転体15の両端部よりも内側に永久磁石16が設けられ、永久磁石16の抜け防止用に回転体15の両端部にリング19を設けている。
【0027】
次に、この実施の形態における磁性粉量と発生するトルクとの関係について説明する。図8は、磁性粉量と発生するトルクとの関係を示すグラフである。図8を参照して、磁性粉が無い場合に比べて、磁性粉を増やすほど、正方向における発生トルクは増大する。逆方向に回転した場合でも多少はトルクは増大するが、途中で飽和している。
【0028】
この実施の形態においては、永久磁石16とヒステリシス材11との間に磁性粉18を封入する。磁性粉18は両者の間に摩擦力を発生させるため、より高いトルクを発生させることができる。また、磁性粉18の封入量を調整することにより、トルクの調整も容易になる。
【0029】
なお、上記実施の形態においては、ヒステリシス材にフランジ部を設けてトルクリミッタを固定するようにしたが、これに限らず、任意の方法で固定してもよい。また、固定方法を適宜選択すれば、ヒステリシス材を円筒形状としてもよい。この場合は、ヒステリシス材は円周方向において一方端と他方端とを有し、一方端と他方端との間には所定の隙間が設けられる状態となる。
【0030】
また、上記実施の形態においては、トルクリミッタの外周に位置するヒステリシス材に隙間を設ける場合について説明したが、これに限らず、ヒステリシス材と永久磁石とを逆にして、弾性を有する永久磁石を外周に設けて、その円周の一部に隙間を設けるようにしてもよい。
【0031】
また、上記実施の形態においては、軸方向に4つの永久磁石を連続して設けた場合について説明したが、これに限らず、1つの永久磁石のみでもよいし、任意の永久磁石を連続して設けてもよい。
【0032】
また、上記実施の形態においては、トルクリミッタの外側の回転体となる部分に設けられた隙間は軸方向に平行である場合について説明したが、これは軸方向に対して斜め方向や、螺旋状や、相互に凹凸を有する形状等であってもよい。
【0033】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
この発明に係るトルクリミッタは、回転する方向に応じて発生するトルクを変更させることが可能であるため、トルクリミッタとして有利に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の一実施の形態に係るトルクリミッタを示す図である。
【図2】図1に示したトルクリミッタにおいて矢印II-IIで示す部分の断面図である。
【図3】トルクリミッタにおける永久磁石の回転方向と隙間との関係を示す図である。
【図4】異なる実施の形態に係るトルクリミッタを示す図である。
【図5】図4示したトルクリミッタにおいて矢印V-Vで示す部分の断面図である。
【図6】回転体の外周における着磁状態を示す図である。
【図7】永久磁石の抜け止めリングを設けた状態を示す図である。
【図8】磁性粉量と発生トルクとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10,20 トルクリミッタ、11 ヒステリシス材、12 円筒状部、13 フランジ部、14 貫通孔、15 回転体、16 永久磁石、17 隙間、18 磁性粉、19 リング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状外周部を有する第1回転体と、前記円筒状外周部に対向する円筒状内周部を有し、前記第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体とからなり、前記第1回転体の円筒状外周部および前記第2回転体の円筒状内周部のいずれか一方には永久磁石が、いずれか他方にはヒステリシス材が設けられるトルクリミッタであって、
前記第2回転体は弾性を有するとともに、円周方向において一方端と他方端とを有し、前記一方端と他方端との間には所定の隙間が設けられる、トルクリミッタ。
【請求項2】
前記第2回転体は、前記第2回転体の円周部からその接線方向に延在する突出部を有し、
前記第2回転体は、前記突出部を介して所定の位置に固定される、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記第1回転体は永久磁石であり、前記第1回転体の外周面は多極着磁されている、請求項1または2に記載のトルクリミッタ。
【請求項4】
前記永久磁石は、前記第1回転体の軸方向において複数に分割されている、請求項3に記載のトルクリミッタ。
【請求項5】
前記第1回転体の軸方向において複数に分割されて隣接している永久磁石の極性は同じである、請求項4に記載のトルクリミッタ。
【請求項6】
前記第1回転体の軸方向において複数に分割されて隣接している永久磁石の極性は異なる、請求項4に記載のトルクリミッタ。
【請求項7】
前記永久磁石とヒステリシス材との間には磁性粉が封入される請求項1から6のいずれかに記載のトルクリミッタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−115202(P2009−115202A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288693(P2007−288693)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)