説明

トレイ取出し機構を有する温冷蔵車および配膳装置

【課題】 トレイを収容する本体等の構造を複雑化したり、重量増加を招いたりすることなく、本体内から多数のトレイを一度に取り出すことができるようにする。
【解決手段】 温冷蔵室3A・3B内の幅中央に、前後方向に伸びる仕切り壁部材が多段に列設され、両側壁5には互いに同じ高さ位置にトレイTの縁部を受けるトレイ受け6が両側壁5の上下方向に所定間隔をあけて設けられた少なくとも一室の温冷蔵室を有する温冷蔵車において、温冷蔵室3A・3B内の背面部にその底部から天井部にわたって上下方向に伸びる略棒状のトレイ押出部材11が前後方向に移動自在に立設され、トレイ押出部材11が温冷蔵室3A・3B内の背面部から前方へ移動することで該トレイ押出部材11が温冷蔵室3A・3B内に多段に収容された各トレイTの後方側から各トレイTに当接して、これらトレイTを温冷蔵室3A・3B内の前方へ押し出すようになされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病院や老人ホーム等での食事の際に使用される温冷蔵車であって、該温冷蔵車内に多段に収容されたトレイを一度に取出すためのトレイ取出し機構を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、病院や老人ホーム等では、大勢の入院患者や入所者に料理を提供するために多数のトレイが収容された配膳車が用いられている。
【0003】
そして、病院や老人ホーム等において入所者に料理を提供する場合、一枚のトレイ上に温めて出す食品と冷温状態で出す食品とを載せて配膳する必要がある。そのため、このような配膳を行うための配膳車には、食品を温めるための加熱装置と食品を冷温状態で保持するための冷蔵装置とが併設されると共に、前記加熱装置によって加熱される温蔵室と前記冷蔵装置によって冷却される冷蔵室とが縦方向に列設された複数の仕切り壁を介して併設されており、各仕切り壁間にトレイを差し込むことで該トレイ上の食品が温蔵室と冷蔵室内にそれぞれ配置されていた。
【0004】
前述した配膳車の内部には、トレイの両側縁を受けるためのレールが両側壁に一定間隔で設けられており、当該配膳車の内部を清掃する場合、前記レールや仕切り壁の存在によって作業が行い難いという不都合があった。
【0005】
そのため、このような問題を解消するために、中央に仕切り壁を設けると共に、両側壁にトレイの両側縁部を受ける受部を設けて、内部にトレイが多段に収容されるトレイ収容ワゴンを用意する一方、配膳車の内部には、前記ワゴンが入るワゴン収容室を形成して、該収容室内にワゴンを収容するようにした配膳車も知られている。
【0006】
また、加熱や冷却を行うための運転機構部を備えた貯蔵庫の本体内部に、トレイを多段に載置するための支持枠が左右対称に架設されたカート棚を収容するようにした貯蔵庫も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−317127
【特許文献2】特開平8−240379
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した従来の配膳車や貯蔵庫は、いずれもそれらの本体内に、トレイが多段に載置されたワゴンやカートを収容する構造となっているため、ワゴンの幅中央部分に温蔵と冷蔵とを区画して行うための仕切り壁を設けたり、ワゴンやカートを配膳車内に誘導するための機構を設ける必要があった。そのため、ワゴン等自体の重量が増加してその移動が行い難かったり、配膳車や貯蔵庫の本体内部に前記ワゴン等を誘導するための構造が必要になる等の問題が生じた。
【0009】
本発明の目的は、トレイを収容する配膳車やトレイを搬送するワゴンやカートの構造を複雑化したり、重量増加を招いたりすることなく、多数のトレイを一度に取り出してワゴン等に容易に収容することができる温冷蔵車およびこれを用いた配膳装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の本発明は、両側壁に、互いに同じ高さ位置としたトレイ受けが両側壁の上下方向に所定間隔をあけて設けられた少なくとも一室の温蔵室または冷蔵室を有する温冷蔵車であって、前記温蔵または冷蔵を行う温冷蔵室内の背面部にその底部から天井部にわたって上下方向に伸びる略棒状のトレイ押出部材が温冷蔵室の前後方向に移動自在に立設され、トレイ押出部材が温冷蔵室内の背面部から前方へ移動することで該トレイ押出部材が温冷蔵室内に多段に収容された各トレイの後方側から各トレイに当接して、これらトレイを温冷蔵室内の前方へ押し出すようになされているトレイ取出し機構を備えたものである。
【0011】
請求項2記載の本発明は、温冷蔵室内の幅中央に、前後方向に伸びる仕切り壁部材が上下方向に多段に列設され、両側壁には互いに同じ高さ位置としたトレイ受けが両側壁の上下方向に所定間隔をあけて設けられた少なくとも一室の温冷蔵室を有する温冷蔵車であって、温冷蔵室内の背面部にその底部から天井部にわたって上下方向に伸びる略棒状のトレイ押出部材が温冷蔵室の前後方向に移動自在に立設され、トレイ押出部材が温冷蔵室内の背面部から前方へ移動することで該トレイ押出部材が温冷蔵室内に多段に収容された各トレイの後方側から各トレイに当接して、これらトレイを温冷蔵室内の前方へ押し出すようになされているトレイ取出し機構を有するものである。
【0012】
請求項3記載の本発明は、前記請求項1または請求項2記載の温冷蔵車について、温冷蔵室の底部と天井部の互いに対応する同位置に前後方向に伸びるガイドレールが設けられ、両ガイドレールにトレイ押出部材の上下端部がベアリングを介して係合することで、トレイ押出部材が前後方向に移動自在となされていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4記載の本発明は、前記請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項記載の温冷蔵車について、先端部がトレイ押出部材に掛合するアーム部材を更に有し、該アーム部材によってトレイ押出部材が温冷蔵室の前方へ引き出されるようになされていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項5記載の本発明は、前記請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項記載の温冷蔵車と、全体が箱形であって、複数の車輪を有する基台上の左右両側に前記温冷蔵車内のトレイ受けに対応するトレイ受けレールが架設されたカートとを有し、温冷蔵車における押出部材によって一度に押し出された多数のトレイが前記カートにおける多段のトレイ受けレール上に収容されるようになされている配膳装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トレイ上の料理を加熱したり、冷却したりするための温冷蔵装置並びに前記トレイを多段に収容するためのトレイ支持構造を有する温冷蔵車の前面に、トレイ収容用カートを配置して温冷蔵車内から料理が載った多数のトレイだけを一度に前記収容用カートに収めることができるため、従来のカートやワゴンのように、これら自体に多数の仕切り壁部材を設けたり、これらカートやワゴンをそのまま一体に収容するための複雑な機構を配膳車内に設けたりする必要がなくなる。
【0016】
また、本発明によれば、前述した通り、カート自体の構造を簡略化し、重量的にも大幅に軽量化することができ、しかも複雑な操作等も不要であるため、女性であっても容易に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】トレイ収容用カートを実施形態に係る温冷蔵車の前面に配置した状態を示す斜視図である。
【図2】同実施形態に係る温冷蔵車の前面にトレイ収容用カートを配置した状態の正面図である。
【図3】同実施形態に係る温冷蔵車からトレイ収容用カート内へトレイを押し出す側面断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態を図面にしたがって説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本明細書において、前後、左右および上下は図2を基準とし、前とは図2の図面紙葉の前側を指し、後とは同図の図面紙葉の裏側を指すものとする。また、左とは図2の左側を指し、右とは図2の右側を指すものとする。更に、上とは図2の上側、下とは同図の下側を意味する。
【0020】
図1および図2に示すように、本実施形態の温冷蔵車1は、上部に冷却装置(図示せず)および加熱装置(図示せず)が設けられ、その下方のトレイ収容部分は、中央壁2によって左右室3A・3Bに分けられ、更に左右室3A・3Bの幅中央部分には前後方向に伸び、上下方向に列設された複数の仕切り壁部材4が左右室3A・3Bの底部7と天井部8間に列設され、これら仕切り壁部材4によって、その一側が温蔵室31A、他側が冷蔵室31Bとなされている。また、上下に隣り合う仕切り壁部材4間におけるトレイTが差し込まれるスリットS部分と同じ高さ位置において、左右室3A・3Bの各両側壁5には、それぞれトレイTの縁部を受ける断面L字状のトレイ受け6が取り付けられている。そして、トレイTは上下に隣り合う仕切り壁部材4間のスリットSから差し込まれて、その両側縁が前記トレイ受け6によって支持される。
【0021】
本実施形態では、左右室3A・3Bの各冷蔵室31B・31Bにおける底部7と天井部8の互いに対応する同位置に前後方向に伸びるガイドレール9が取り付けられ、両ガイドレール9に上下方向に伸びる棒状のトレイ押出部材11の上下端部がベアリング(図示略)を介して係合されることで、トレイ押出部材11が冷蔵室31Bの背面部から前面部にわたって前後方向に移動自在となされている。また、トレイ押出部材11の長さ中央前面側にはリング状部11aが突設されており、該リング状部11aにアーム部材20の先端に形成された鉤部20aを掛合させてアーム部材20を引っ張ることでトレイ押出部材11が左右室3A・3Bの前面側へ引き出されるようになされている。
【0022】
また、図1〜図3に示すように、前述した温冷蔵車1の左右室3A・3Bの前面側には、全体がボックス型のカート12が配置される。カート12は、全体が箱形であって、複数の車輪13を有する平面から見て方形の基台14上の各隅部にそれぞれ支柱15A〜15Cが立設され、これら支柱15A〜15Cによって天板16が支持される構造となされており、前後の支柱15A・15Cおよび15Bには前記温冷蔵車1内でトレイTを受けるトレイ受け6と対応するように断面L字状のトレイ受けレール17が上下方向に所定間隔をあけて架設され、各トレイ受けレール17は温冷蔵車1のトレイ受け6と対応している。
【0023】
次に、本実施形態に係る温冷蔵車1の使用要領について説明すると、予め当該温冷蔵車1の冷蔵室31Bの背面部にトレイ押出部材11を配置しておき、当該温冷蔵車1の左右室3A・3Bにおける上下に隣り合う仕切り壁部材4のスリットSから料理が載ったトレイTが差し込まれ、該トレイTの両側縁は左右室3A・3Bの両側壁5に取り付けられたトレイ受け6によって支持され、トレイT上における温蔵室31A側の料理は加熱装置によって加熱され、トレイT上における冷蔵室31B側の料理は冷蔵装置によって冷却される。
【0024】
そして、加熱ないし冷却された料理が載ったトレイTを当該温冷蔵車1から取り出すにあたっては、温冷蔵車1の左右室3A・3Bの一方の前面側に前記カート12を配置し、この状態でトレイ押出部材11のリング状部11aにアーム部材20先端の鉤部20aを掛合させて、アーム部材20を引っ張って温冷蔵車1の冷蔵室31Bの背面部から前面部へトレイ押出部材11を移動させることで、該押出部材11は左右室3A・3B内における各段のトレイTの後縁部に当接されて、これらトレイTがトレイ受け6に沿って前方へ押し出されると共に、押し出された各トレイTはカート12内の対応する各トレイ受けレール17上に収容され、最終的にすべてのトレイTが当該温冷蔵車1から一度に取り出されてカート12内へ収容されるのである。
【0025】
その後、トレイTが収容されたカート12は、配膳場所まで移動され、料理が提供されることとなる。
【0026】
以上述べた温冷蔵車1の使用において、トレイ押出部材11を温冷蔵車1の左右室3A・3Bの背面部から前面部へ移動させるのにあたっては、本実施形態では、アーム部材20を用いたが、温冷蔵車が前面と背面の両側開きの扉を有する場合には、アーム部材20は使用せず、使用者がトレイ押出部材11を背面部側から前面部側へ手で押し出すようにしても良い。また、本実施形態の温冷蔵車1は加熱装置と冷却装置の両方を備えたものであったが、本発明はこれに限定されず、冷却装置または加熱装置のいずれかを備えたものであっても良いし、また仕切り壁部材で区切らないものであっても良い。また、部屋の数も本実施形態のように二室の他、三室以上或いは一室であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の温冷蔵車によれば、温冷蔵車内から一度に多数のトレイを取り出すことができるため、幅広い利用が期待できる。
【符号の説明】
【0028】
1 温冷蔵車
2 中央壁
3A・3B 左右室
4 仕切り壁部材
6 トレイ受け
9 ガイドレール
11 トレイ押出部材
12 カート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側壁に、互いに同じ高さ位置としたトレイ受けが両側壁の上下方向に所定間隔をあけて設けられた少なくとも一室の温蔵室または冷蔵室を有する温冷蔵車において、前記温蔵または冷蔵を行う温冷蔵室内の背面部にその底部から天井部にわたって上下方向に伸びる略棒状のトレイ押出部材が温冷蔵室の前後方向に移動自在に立設され、トレイ押出部材が温冷蔵室内の背面部から前方へ移動することで該トレイ押出部材が温冷蔵室内に多段に収容された各トレイの後方側から各トレイに当接して、これらトレイを温冷蔵室内の前方へ押し出すようになされている、トレイ取出し機構を有する温冷蔵車。
【請求項2】
温冷蔵室内の幅中央に、前後方向に伸びる仕切り壁部材が上下方向に多段に列設され、両側壁には互いに同じ高さ位置としたトレイ受けが両側壁の上下方向に所定間隔をあけて設けられた少なくとも一室の温冷蔵室を有する温冷蔵車において、温冷蔵室内の背面部にその底部から天井部にわたって上下方向に伸びる略棒状のトレイ押出部材が温冷蔵室の前後方向に移動自在に立設され、トレイ押出部材が温冷蔵室内の背面部から前方へ移動することで該トレイ押出部材が温冷蔵室内に多段に収容された各トレイの後方側から各トレイに当接して、これらトレイを温冷蔵室内の前方へ押し出すようになされている、トレイ取出し機構を有する温冷蔵車。
【請求項3】
温冷蔵室の底部と天井部の互いに対応する同位置に前後方向に伸びるガイドレールが設けられ、両ガイドレールにトレイ押出部材の上下端部がベアリングを介して係合することで、トレイ押出部材が前後方向に移動自在となされている、請求項1または請求項2記載のトレイ取出し機構を有する温冷蔵車。
【請求項4】
先端部がトレイ押出部材に掛合するアーム部材を更に有し、該アーム部材によってトレイ押出部材が温冷蔵室の前方へ引き出されるようになされている、請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項記載のトレイ取出し機構を有する温冷蔵車。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項記載の温冷蔵車と、全体が箱形であって、複数の車輪を有する基台上の左右両側に前記温冷蔵車内のトレイ受けに対応するトレイ受けレールが架設されたカートとを有し、温冷蔵車における押出部材によって一度に押し出された多数のトレイが前記カートにおける多段のトレイ受けレール上に収容されるようになされている、配膳装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−70911(P2013−70911A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213821(P2011−213821)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(504288627)株式会社井上製作所 (16)