説明

トレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】加工性、ウェットスキッド性能、耐破壊強度、耐摩耗性及び操縦安定性がバランス良く得られるトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が一定以下であり、かつ芳香族ビニル単量体単位の含有量が一定以上である芳香族ビニル重合体と、低比表面積のシリカ(1)と、高比表面積のシリカ(2)と、シランカップリング剤とをそれぞれ所定量含有するとともに、シリカ(1)の含有量とシリカ(2)の含有量との比率が所定の範囲内であるトレッド用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのウェットスキッド性能を向上させる手法として、ゴム組成物に充填剤としてシリカを配合することが一般的に知られている。この手法に関連する技術として、特許文献1には、窒素吸着比表面積の異なる2種類のシリカを配合したゴム組成物が開示されている。しかしながら、シリカを高充填させた場合には、シリカが分散しにくくなり、耐摩耗性、耐破壊強度及び加工性が悪化する傾向があるという点で改善の余地があった。
【0003】
また、空気入りタイヤのウェットスキッド性能を向上させる別の手法として、特許文献2及び3には、芳香族ビニル単量体のみを重合して得られた重合体を配合したゴム組成物が開示されている。しかしながら、該重合体を配合すると、耐摩耗性が悪化する傾向があるという点で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−101127号公報
【特許文献2】特開2007−302713号公報
【特許文献3】特開2007−112994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決し、加工性、ウェットスキッド性能、耐破壊強度、耐摩耗性及び操縦安定性がバランス良く得られるトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゴム成分と、ガラス転移温度が10℃以下であり、芳香族ビニル単量体単位の含有量が95質量%以上である芳香族ビニル重合体と、窒素吸着比表面積が130m/g以下であるシリカ(1)と、窒素吸着比表面積が150m/g以上であるシリカ(2)と、シランカップリング剤とを含有し、上記ゴム成分100質量部に対して、上記芳香族ビニル重合体の含有量が2〜50質量部、上記シリカ(1)及び(2)の合計含有量が10〜120質量部であり、上記シリカ(1)及び(2)の合計含有量100質量部に対して、上記シランカップリング剤の含有量が2〜15質量部であり、上記シリカ(1)の含有量及び上記シリカ(2)の含有量が、以下の式を満たすトレッド用ゴム組成物に関する。
〔シリカ(1)の含有量〕×0.2≦〔シリカ(2)の含有量〕≦〔シリカ(1)の含有量〕×6.5
【0007】
芳香族ビニル重合体の芳香族ビニル単量体単位の含有量は100質量%であることが好ましい。
【0008】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガラス転移温度が一定以下であり、かつ芳香族ビニル単量体単位の含有量が一定以上である芳香族ビニル重合体と、低比表面積のシリカ(1)と、高比表面積のシリカ(2)と、シランカップリング剤とをそれぞれ所定量含有するとともに、シリカ(1)の含有量とシリカ(2)の含有量との比率が所定の範囲内であるゴム組成物であるので、該ゴム組成物をトレッドに使用することにより、加工性、ウェットスキッド性能、耐破壊強度、耐摩耗性及び操縦安定性がバランス良く得られる空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のゴム組成物は、ガラス転移温度が一定以下であり、かつ芳香族ビニル単量体単位の含有量が一定以上である芳香族ビニル重合体と、低比表面積のシリカ(1)と、高比表面積のシリカ(2)と、シランカップリング剤とをそれぞれ所定量含有するとともに、シリカ(1)の含有量とシリカ(2)の含有量との比率が所定の範囲内である。所定量のシランカップリング剤とともに、シリカ(1)及び(2)を併用することにより、シリカが分散しやすくなり、ウェットスキッド性能、加工性及び耐摩耗性を改善することができる。また、上記芳香族ビニル重合体を配合することで、操縦安定性、ウェットスキッド性能、加工性及び耐破壊強度を改善することができる。これらの作用により、加工性、ウェットスキッド性能、耐破壊強度、耐摩耗性及び操縦安定性をバランス良く得ることができる。
【0011】
ゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ウェットスキッド性能及び耐摩耗性を充分に確保できるという点から、SBR、BRが好ましく、SBR及びBRを併用することがより好ましい。
なお、SBR及びBRとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0012】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。10質量%未満の場合、ウェットスキッド性能が充分に得られない場合がある。また、SBRのスチレン含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。50質量%を超えると、耐摩耗性や加工性が悪化する場合がある。
なお、本明細書において、スチレン含有量は、H−NMR測定によって算出される。
【0013】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。10質量%未満であると、ウェットスキッド性能が充分に得られない可能性が高い。また、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。95質量%を超えると、耐摩耗性が充分に得られない場合がある。
【0014】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%未満であると、耐摩耗性が充分に得られない場合がある。また、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。70質量%を超えると、加工性が悪化する場合がある。
【0015】
ゴム成分100質量%中のSBR及びBRの合計含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%である。40質量%未満であると、ウェットスキッド性能又は耐摩耗性が充分に得られない場合がある。
【0016】
本発明のゴム組成物は、芳香族ビニル重合体を含有する。本明細書において、芳香族ビニル重合体とは、芳香族ビニル単量体単位の含有量が95質量%以上のものをいう。なお、上記芳香族ビニル重合体は、ゴム成分には含まれない。
【0017】
芳香族ビニル重合体を構成する芳香族ビニル単量体(単位)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4−シクロヘキシルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン等が挙げられる。これらは1種であってもよく、2種以上であってもよい。なかでも、経済的で、加工しやすく、ウェットスキッド性能に優れていることから、スチレン、α−メチルスチレン及び1−ビニルナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、スチレンであることがより好ましい。
【0018】
芳香族ビニル重合体は、芳香族ビニル単量体単位以外の成分(エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン等)を含んでもよいが、該成分の含有量をできるだけ少なくすることが好ましい。エチレン、プロピレン等のオレフィン系単量体は、ゴム成分との相溶性が悪いため、上記芳香族ビニル重合体中のオレフィン系単量体単位の含有量が多くなると、ブリードアウトが発生しやすくなる傾向がある。また、ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体は、ゴム成分と共架橋することによりヒステリシスロスが低下するため、芳香族ビニル重合体中のジエン系単量体単位の含有量が多くなると、ヒステリシスロスが低下することにより、ウェットスキッド性能が悪化する傾向がある。このような理由から、芳香族ビニル重合体中の芳香族ビニル単量体単位の含有量は、95質量%以上、好ましくは97質量%以上、より好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。すなわち、上記芳香族ビニル重合体は、芳香族ビニル単量体の単独重合体(ポリスチレン等)であることが好ましい。
【0019】
芳香族ビニル重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−50℃以上、より好ましくは−45℃以上、更に好ましくは−40℃以上である。−50℃未満の場合、芳香族ビニル重合体のヒステリシスロスが小さく、ウェットスキッド性能の改善効果が小さくなる傾向がある。また、芳香族ビニル重合体のTgは、10℃以下、好ましくは5℃以下、より好ましくは0℃以下である。10℃を超えると、耐摩耗性及び低温時のウェットスキッド性能が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、Tgは、JIS−K7121に従い、(株)島津製作所製の自動示差走査熱量計(DSC−60A)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定した値である。
【0020】
芳香族ビニル重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは300以上、より好ましくは350以上である。300未満では、ウェットスキッド性能の改善効果が小さくなる傾向がある。また、芳香族ビニル重合体の重量平均分子量は、好ましくは20000以下、より好ましくは15000以下である。20000を超えると、転がり抵抗特性が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めたものである。
【0021】
芳香族ビニル重合体の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上である。2質量部未満であると、ウェットスキッド性能の改善効果が小さくなる傾向がある。また、芳香族ビニル重合体の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以下、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。50質量部を超えると、操縦安定性及び耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0022】
本発明のゴム組成物は、低比表面積のシリカ(1)と、高比表面積のシリカ(2)とを含有する。シリカ(1)及び(2)としては、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水ケイ酸)、湿式法により調製されたシリカ(含水ケイ酸)などが挙げられ、表面のシラノール基が多く、シランカップリング剤との反応点が多いという理由から、湿式法により調製されたシリカが好ましい。
【0023】
シリカ(1)の窒素吸着比表面積(以下、NSAとする)は、130m/g以下、好ましくは125m/g以下、より好ましくは120m/g以下である。シリカ(1)のNSAが130m/gを超えると、シリカ(2)との混合により得られる効果が小さくなる傾向がある。また、シリカ(1)のNSAは、好ましくは20m/g以上、より好ましくは30m/g以上である。シリカ(1)のNSAが20m/g未満では、耐破壊強度が低下する傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0024】
窒素吸着比表面積(NSA)が130m/g以下のシリカとしては、例えば、デグッサ社製のULTRASIL 360(NSA:50m/g)、ローディア社製のZEOSIL 115GR(NSA:115m/g)、ローディア社製のZEOSIL 1115MP(NSA:115m/g)等が挙げられる。
【0025】
シリカ(1)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。シリカ(1)の含有量が5質量部未満では、シリカ(1)による改善効果が充分に得られない場合がある。また、シリカ(1)の含有量は、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは45質量部以下である。シリカ(1)の含有量が80質量部を超えると、耐破壊強度が低下する傾向がある。
【0026】
シリカ(2)のNSAは、150m/g以上、好ましくは160m/g以上、より好ましくは170m/g以上である。シリカ(2)のNSAが150m/g未満では、シリカ(1)との混合により得られる効果が小さくなる傾向がある。また、シリカ(2)のNSAは、好ましくは300m/g以下、より好ましくは240m/g以下である。シリカ(2)のNSAが300m/gを超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0027】
窒素吸着比表面積(NSA)が150m/g以上のシリカとしては、例えば、デグッサ社製のULTRASIL VN3(NSA:175m/g)、ローディア社製のZEOSIL 1165MP(NSA:160m/g)、ローディア社製のZEOSIL 1205MP(NSA:200m/g)等が挙げられる。
【0028】
シリカ(2)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。シリカ(2)の含有量が5質量部未満では、シリカ(2)による改善効果が充分に得られない場合がある。また、シリカ(2)の含有量は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは45質量部以下である。シリカ(2)の含有量が60質量部を超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0029】
シリカ(1)及び(2)の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上、好ましくは30質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。シリカ(1)及び(2)の合計含有量が10質量部未満では、シリカ(1)及び(2)による改善効果が充分に得られない場合がある。また、シリカ(1)及び(2)の合計含有量は、120質量部以下、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下である。シリカ(1)及び(2)の合計含有量が120質量部を超えると、シリカが分散しにくくなるため、加工性及び耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0030】
シリカ(1)の含有量及びシリカ(2)の含有量は、以下の式を満たす。
〔シリカ(1)の含有量〕×0.2≦〔シリカ(2)の含有量〕≦〔シリカ(1)の含有量〕×6.5
【0031】
シリカ(2)の含有量は、シリカ(1)の含有量の0.2倍以上、好ましくは0.3倍以上である。シリカ(2)の含有量がシリカ(1)の含有量を0.2倍した量より少ないと、充分な耐破壊強度が得られない傾向がある。また、シリカ(2)の含有量は、シリカ(1)の含有量の6.5倍以下、好ましくは5.5倍以下、より好ましくは4.0倍以下である。シリカ(2)の含有量がシリカ(1)の含有量を6.5倍した量より多いと、加工性及び転がり抵抗特性が悪化する傾向がある。
【0032】
本発明のゴム組成物は、シランカップリング剤を配合する。本発明で使用されるシランカップリング剤としては、タイヤ工業において一般的なものを使用でき、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、加工性に優れるという点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドが好ましい。
【0033】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ(1)及び(2)の合計含有量100質量部に対して、2質量部以上、好ましくは4質量部以上、より好ましくは6質量部以上である。シランカップリング剤の含有量が2質量部未満では、ウェットスキッド性能の改善効果が低くなる傾向がある。また、シランカップリング剤の含有量は、シリカ(1)及び(2)の合計含有量100質量部に対して、15質量部以下、好ましくは12質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。シランカップリング剤の含有量が15質量部を超えると、コストの増加に見合った効果が得られない傾向がある。
【0034】
本発明のゴム組成物は、上記成分に加え、シリカ以外の充填剤(カーボンブラック等)、オイル、粘着付与剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等、必要に応じた添加剤が適宜配合され得る。
【0035】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックを含むことが好ましい。これにより、補強効果が得られ、耐摩耗性をより改善することができる。カーボンブラックとしては、例えば、GPF、HAF、FF、ISAF、SAFなどを用いることができる。
【0036】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは40m/g以上、より好ましくは45m/g以上である。40m/g未満では、耐摩耗性の改善効果が小さくなる傾向がある。また、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、好ましくは120m/g以下、より好ましくは90m/g以下である。120m/gを超えると、カーボンブラックが分散しにくくなり、耐摩耗性及び加工性が低下する傾向がある。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0037】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。5質量部未満では、耐摩耗性の改善効果が小さくなる傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下、更に好ましくは35質量部以下である。50質量部を超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0038】
シリカ及びカーボンブラックの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。40質量部未満では、ゴム硬度が低くなり、破断強度が不足する傾向がある。また、該合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは130質量部以下、より好ましくは90質量部以下、更に好ましくは70質量部以下である。130質量部を超えると、発熱性が高くなり、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0039】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロール等の混練機で上記各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。
【0040】
本発明のゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッドとして用いられるものである。
【0041】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、上記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明の空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0042】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0043】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:JSR(株)製のJSR1502(スチレン含有量:23.5質量%)
BR:宇部興産(株)製のBR130B
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN351(NSA:69m/g)
シリカ(1):デグッサ社製のULTRASIL 360(NSA:50m/g)
シリカ(2):ローディア社製のZEOSIL 1205MP(NSA:200m/g)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
芳香族ビニル重合体(1):下記製造例1で合成(芳香族ビニル単量体単位:スチレン、スチレン含有量:100質量%、ガラス転移温度:−20℃、重量平均分子量:830)
芳香族ビニル重合体(2):下記製造例2で合成(芳香族ビニル単量体単位:スチレン、スチレン含有量:100質量%、ガラス転移温度:0℃、重量平均分子量:1020)
芳香族ビニル重合体(3):下記製造例3で合成(芳香族ビニル単量体単位:1−ビニルナフタレン、1−ビニルナフタレン含有量:100質量%、ガラス転移温度:0℃、重量平均分子量:860)
芳香族ビニル重合体(4):下記製造例4で合成(芳香族ビニル単量体単位:スチレン、スチレン含有量:100質量%、ガラス転移温度:50℃、重量平均分子量:3130)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製の椿
プロセスオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスオイルAH−24
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ
【0044】
製造例1(芳香族ビニル重合体(1)の合成)
充分に窒素置換した50ml容器に、ヘキサン35ml、スチレン5ml及び1.6mol/lのn−ブチルリチウムヘキサン溶液2.7mlを混入し、室温で1時間撹拌した後、メタノールを添加することで反応を停止させ、芳香族ビニル重合体(1)を合成した。
【0045】
製造例2(芳香族ビニル重合体(2)の合成)
充分に窒素置換した50ml容器に、ヘキサン35ml、スチレン5ml及び1.6mol/lのn−ブチルリチウムヘキサン溶液3.4mlを混入し、室温で1時間撹拌した後、メタノールを添加することで反応を停止させ、芳香族ビニル重合体(2)を合成した。
【0046】
製造例3(芳香族ビニル重合体(3)の合成)
充分に窒素置換した50ml容器に、ヘキサン35ml、1−ビニルナフタレン5ml及び1.6mol/lのn−ブチルリチウムヘキサン溶液2.3mlを混入し、室温で1時間撹拌した後、メタノールを添加することで反応を停止させ、芳香族ビニル重合体(3)を合成した。
【0047】
製造例4(芳香族ビニル重合体(4)の合成)
充分に窒素置換した50ml容器に、ヘキサン35ml、スチレン5ml及び1.6mol/lのn−ブチルリチウムヘキサン溶液0.9mlを混入し、室温で1時間撹拌した後、メタノールを添加することで反応を停止させ、芳香族ビニル重合体(4)を合成した。
【0048】
実施例1〜6及び比較例1〜9
表1に示す配合内容にしたがって、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を約150℃で3分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、約80℃で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃で18分間プレス加硫し、加硫ゴムシートを得た。
得られた未加硫ゴム組成物を厚さ約2mmのシート状に圧延後、トレッドの形状に加工し、他のタイヤ部材と貼り合わせてタイヤに成形し、170℃で18分間加硫することで試験用タイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を得た。
【0049】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴムシート、試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表1に示す。
【0050】
(ムーニー粘度)
JIS K 6300−1「未加硫ゴム−物理特性−第1部:ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方」に準じて、ムーニー粘度試験機を用いて、1分間の予熱によって熱せられた130℃の温度条件にて、小ローターを回転させ、4分間経過した時点での上記未加硫ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4/130℃)を測定した。測定結果を比較例1の結果を100とし、下記計算式により、各配合のムーニー粘度を指数表示した。指数が大きいほど粘度が低く、加工性に優れることを示す。
(ムーニー粘度指数)=(比較例1のムーニー粘度)/(各配合のムーニー粘度)×100
【0051】
(ウェットスキッド性能)
上記試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面において、速度100km/hのときにブレーキをかけた地点からの制動距離を測定した。そして、比較例1の制動距離を100とし、下記計算式により、各配合のウェットスキッド性能を指数表示した。ウェットスキッド性能指数が大きいほど、ウェットスキッド性能に優れることを示す。
(ウェットスキッド性能指数)=(比較例1の制動距離)/(各配合の制動距離)×100
【0052】
(耐破壊強度)
JIS−K6251に準じて、上記加硫ゴムシートからなる3号ダンベルを用いて引張り試験を実施し、破断強度(TB)と破断時伸びEB(%)を測定した。そして、比較例1のゴム強度(TB×EB/2)を100として、下記計算式により、各配合のゴム強度を指数表示した。ゴム強度指数が大きいほど、耐破壊強度に優れることを示す。
(ゴム強度指数)=(各配合のゴム強度)/(比較例1のゴム強度)×100
【0053】
(耐摩耗性)
ランボーン摩耗試験機を用いて、温度20℃、スリップ率20%及び試験時間2分間の条件下で上記加硫ゴムシートのランボーン摩耗量を測定した。そして、測定したランボーン摩耗量から容積損失量を計算し、比較例1の容積損失量を100とし、下記計算式により、各配合の容積損失量を指数表示した。ランボーン摩耗指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
(ランボーン摩耗指数)=(比較例1の容積損失量)/(各配合の容積損失量)×100
【0054】
(操縦安定性)
上記試験用タイヤを車輛(国産FF2000cc)の全輪に装着してテストコースを実車走行し、ドライバーの官能評価により操縦安定性を評価した。その際に、10点を満点とし、比較例1の操縦安定性を6点として相対評価を行った。数値が大きいほど、操縦安定性に優れることを示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1より、ガラス転移温度が一定以下であり、かつ芳香族ビニル単量体単位の含有量が一定以上である芳香族ビニル重合体と、低比表面積のシリカ(1)と、高比表面積のシリカ(2)と、シランカップリング剤とをそれぞれ所定量含有する実施例は、加工性、ウェットスキッド性能、耐破壊強度、耐摩耗性及び操縦安定性がバランス良く得られた。一方、比較例は、それぞれ対応する実施例と比較して、各性能が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、
ガラス転移温度が10℃以下であり、芳香族ビニル単量体単位の含有量が95質量%以上である芳香族ビニル重合体と、
窒素吸着比表面積が130m/g以下であるシリカ(1)と、
窒素吸着比表面積が150m/g以上であるシリカ(2)と、
シランカップリング剤とを含有し、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記芳香族ビニル重合体の含有量が2〜50質量部、前記シリカ(1)及び(2)の合計含有量が10〜120質量部であり、
前記シリカ(1)及び(2)の合計含有量100質量部に対して、前記シランカップリング剤の含有量が2〜15質量部であり、
前記シリカ(1)の含有量及び前記シリカ(2)の含有量が、以下の式を満たすトレッド用ゴム組成物。
〔シリカ(1)の含有量〕×0.2≦〔シリカ(2)の含有量〕≦〔シリカ(1)の含有量〕×6.5
【請求項2】
芳香族ビニル重合体の芳香族ビニル単量体単位の含有量が100質量%である請求項1記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−94012(P2011−94012A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248940(P2009−248940)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】