トンネル用防音壁及びこれを用いたトンネル用防音システム
【課題】重量増加に頼らずに低コストで防音効果を向上させるトンネル用防音壁を提供する。
【解決手段】掘削中のトンネルT坑内に設置されるトンネル用防音壁であって、凹状の曲面により構成される反射面20を形成した反射部2を備え、前記反射面20が切羽側に向いた正面姿勢とトンネルT側面に向いた横姿勢とに、前記反射部2の姿勢を切替える切替え部材3を備えている。
【解決手段】掘削中のトンネルT坑内に設置されるトンネル用防音壁であって、凹状の曲面により構成される反射面20を形成した反射部2を備え、前記反射面20が切羽側に向いた正面姿勢とトンネルT側面に向いた横姿勢とに、前記反射部2の姿勢を切替える切替え部材3を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削中のトンネル坑内に設置されるトンネル用防音壁及びこれを用いたトンネル用防音システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事において、掘削に発破を使用する場合、近隣集落への振動及び騒音防止対策が大きな課題になっている。かかるトンネル工事での騒音対策として、低周波音域での遮音効果が高い重量物(吸音材)より構成された壁面を備えるトンネル用防音壁が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−283545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したような従来のトンネル用防音壁では、基本的には、吸音材との衝突によって音を減衰させている。よって、遮音性を高めるためには、重量物である吸音材を増量する必要があるので、トンネル外への音の漏れを抑制するために多量の吸音材を配置しなければならない。又、吸音材の増量は、防音壁を支持する構造を増強することにも繋がるので、施工手間が過大となる。このように、従来のタイプのトンネル用防音壁では、防音効果の向上を図るために施工手間とコストが高くなるという問題点がある。
従って、本発明の目的は、重量増加に頼らずに低コストで防音効果を向上させる防音壁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のトンネル用防音壁は、掘削中のトンネル坑内に設置されるトンネル用防音壁であって、凹状の曲面により構成される反射面を形成した反射部と、前記反射面が切羽側に向いた正面姿勢とトンネル側面に向いた横姿勢とに、前記反射部の姿勢を切替える切替え部材とを備えることを特徴とする。
【0005】
上記構成によれば、正面姿勢において、凹状の曲面により構成される反射面が切羽側に向いているので、切羽側で行われる発破等に起因する音波が、前記反射面に衝突した後、切羽側に反射する。従って、坑口側へ向かう音波が減少し、音圧を低下させることができる。しかも、反射波は、続いて切羽側から坑口側に進行する次の音波と衝突して、これを減衰させることができる。又、次の音波と衝突しなかった反射波は、トンネルの壁面に衝突して屈折減衰したり、距離減衰したりすることによっても減衰する。このようにして、本発明のトンネル用防音壁は、トンネルの坑外に騒音が漏れるのを効果的に抑制する。ここで、前記反射部は、反射面で音波を反射するために設けられているので、音波を吸収するという目的のためだけに重量を増す必要がない。
又、切替え部材によって、前記反射部の姿勢を、正面姿勢から前記反射面がトンネル側面に向いた横姿勢に切替えることによって、反射部があった場所に空間が生じる。このようにすると、反射板が正面姿勢となった時にトンネル横断面に対して大きな割合を占めていても、横姿勢にすることによって、ずりや機材を運搬するための車両等の通路となる空間を確保することができる。
【0006】
上記特徴構成において、前記切替え部材が、前記反射部を水平方向に回転自在に支持する支柱よりなることが好ましい。
このように構成すると、前記反射部を回転させる動作を行うだけで、前記反射部の姿勢変更を容易に行うことができる。しかも、前記反射部が水平方向に回転するので、前記反射部が横姿勢にある時に、トンネル坑内、特に車両等の通路となる底面側に広い空間を確保することができる。
【0007】
又、上記特徴構成において、前記反射部が曲面を有する複数枚の反射板よりなり、前記支柱が前記反射板を夫々水平方向に回転自在に支持する複数本の支柱部材よりなり、前記各反射板がその各曲面を切羽側に向けた時に1つの前記凹状の曲面が形成されるように配列されていることが好ましい。
このように構成すると、例えば、大きな反射部を形成するにあたって夫々の反射部を支持する支柱にかかる負荷を小さくすることができる。本発明のトンネル用防音壁は、トンネルの切羽で行われる発破によって生じる爆音や振動に曝されるため、支柱にかかる負荷をなるべく小さくすることが、防音壁の耐久性向上に寄与する。又、反射部を複数枚の反射板に分割してあるので運搬しやすく、トンネル坑内への搬入、トンネル坑内からの搬出も容易となる。
【0008】
上記特徴構成において、前記反射面は、前記正面姿勢においてその中心方向がトンネル延長方向となる回転放物面(パラボロイド)よりなることが好ましい。
発破によって生じる音波は、トンネルの切羽側から坑口側にトンネルの延長方向に平行に進行するので、前記正面姿勢においてその中心方向がトンネル延長方向となる回転放物面よりなる反射面の軸方向に平行に入射する。このため、前記反射面の焦点に反射波が集中しやすい。従って、この反射波が焦点付近に収束するときに、前記次の音波の先頭にある音圧の高い領域と衝突すると、前記次の音波を強く打ち消すので、消音効果が高くなる。
【0009】
又、本発明のトンネル用防音システムは、掘削中のトンネルの切羽側に、第1防音壁を備え、前記第1防音壁の坑口側に、第2防音壁を備え、前記第1防音壁が、請求項1〜4の少なくとも何れか1項に記載のトンネル用防音壁であり、前記第2防音壁が、トンネルを横断面に亘って閉塞する防音壁である点にある。
かかる構成によれば、上記第1防音壁によって、トンネルの坑口側に向かう音波を大幅に遮音し、更に、坑口側に漏れた音を、上記防音壁より坑口側にトンネルを横断面に亘って閉塞可能な 別の防音壁(第2防音壁)を設けて遮音するので、第2防音壁の重量を大幅に増加させることなく、坑外に音が漏れにくくすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トンネル用防音壁の重量増加に頼らずに、低コストで防音効果を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔トンネル用防音壁〕
図1〜10に示す本発明のトンネル防音壁(以下、「防音壁」と略す。)1は、掘削中のトンネルT坑内に設置するものであって、特に、発破を原因とする騒音がトンネルT外へ漏れるのを防ぐために設置する。
図1〜図4は、本発明の防音壁の第1実施形態を表わす。当該実施形態に係る防音壁1は、凹状回転放物面(パラボラアンテナの反射器状)である反射面20を有する反射部2を備える。前記反射部2は、前記反射面20を2等分してなる曲面を有する2枚の反射板21を備える。記反射板21を構成する材料は、その表面の反射面20で音を反射する性質を有するものであれば、特に制限はない。例えば、金属板等を用いることができる。又、反射板21本体の凹面側の表面に、前記音を反射する性質を有する素材からなる層を形成して、反射面20とすることもできる。
【0012】
前記防音壁1は、前記反射部2の姿勢を切替える切替え部材3を備える。この切替え部3は、当該実施形態において、トンネルT坑内の天井面とトンネルTの底面とに亘って鉛直方向に延びる支柱である。この支柱は一対の支柱部材3からなり、夫々の支柱部材3の一端がトンネルT坑内の天井面を支持する横梁T2(例えば、H鋼から構成される)に固定され、他端が底面に固定されていて、その途中部で前記反射板21を水平方向に回転可能に支持する。
更に、前記反射部2と前記支柱部材3とに亘って、前記反射板21の回転をロックするロック機構(図示せず)が設けられている。
【0013】
図1及び図2において、夫々の前記支柱部材3に支持された夫々の前記反射板21は、その曲面をトンネルTの切羽側に向けた状態で、前記反射面20を形成するように配列されている。このように、反射面20がトンネルTの切羽側に向いた前記反射部2の姿勢を「正面姿勢」とする。そして、図3及び図4に示すように、前記夫々の反射板21をトンネルTの側面側に回転させて、反射面20がトンネルTの側壁側に向いた姿勢を「横姿勢」とする。
【0014】
発破によって切羽側で生じる音は、間隔をあけて複数回波状に発生し、主に、前記トンネルTの坑道に沿って坑道の天井面や底面に平行に進行する。従って、ロック機構によって反射板21の回転移動が規制され、反射部2が正面姿勢にある防音壁1が、前記坑道中心部に配置されていると、坑道中心部をトンネルT延長方向に進行してきた音波が防音壁1の反射面20に衝突する。そして反射波の多くはトンネルT坑内中心部に位置する焦点に集束し、その後、トンネルTの切羽側の壁面(天井面、底面、側面)に向かって拡散する。
【0015】
又、トンネルTの坑道内の壁面に隣接する領域では、壁面との摩擦によって音圧が低下したり、速度が低下したりし易い。従って、発破による騒音は、坑道中心部で強く、又、早く伝播する。従って、反射波が焦点付近に集束しているときに、次の音波が切羽側から防音壁1近傍に接近すると、切羽側に向かって進行する音圧の高い反射波と防音壁1側に向かって進行する前記次の音波の音圧が高い部分とが衝突して、互いに強く打ち消しあう。次いで、反射波がトンネルTの壁面に向かって拡散する際にも、次の音波と衝突してこれを打ち消したり、壁面と衝突する際に屈折減衰したり、トンネルT坑内を斜行するため距離減衰が大きくなったりする。これらの少なくとも何れかによって、発破により生じる騒音が、前記防音壁1より坑口T1側に達するのを抑制できる。
このように遮音されているため、前記防音壁1より坑口T1側に到達する音波は、発生時に比べて音圧がかなり低下する。
【0016】
尚、トンネルTの坑道の横断面積に占める前記反射部2の最大横断面積の比率が高い方が、反射波が収束した際の音圧が高くなるので、これらの効果は強くなり易い。従って、運搬、施工等に支障がない限り、トンネルTの坑道の横断面積に占める前記反射部2の最大横断面積の比率が高い、大きな反射面20を形成することが好ましい。
このように反射面20を形成するにあたって、反射部2が複数の反射板21によりなるものであると、運搬並びにトンネルT坑内への搬入及び坑内からの搬出し易い。又、図3及び図4に示すように、当該防音壁1は、夫々の反射板21を水平方向に回転させて、反射部2を横姿勢にすると、坑道中央に大きな空間を形成する。このようにすると、ずり搬出及び機材の運搬のための車両の通路を簡単に確保することができる。
【0017】
前記防音壁1は、反射部2の反射面20が曲面になっているため、発破による爆風や音圧を、吸収せずに反射し易い。又、従来の防音壁と異なり、前記重量物や前記吸音材を具備する必要がない。従って、前記防音壁1は、従来の防音壁にように重量化する必要がなく、発破による爆風や石の飛来に耐えうる限り、軽量化が可能である。更に、前記反射板20や切替え部材3の運搬や施工に手間がかからない。従って、資材の運搬や施工に過大な負荷をかけるものではなく、低コストで高い防音性能を得ることができる。
【0018】
図5〜図8は、本発明の防音壁の第2実施形態を表わす。尚、特に明記していない点については、第1実施形態と同じである。
当該実施形態に係る防音壁4は、トンネルT左右方向に長尺板状の反射部5を備える。正面姿勢において、この反射部5は、垂直方向に切断した断面視で坑口T1側に突出して湾曲する。前記反射部5の切羽に対向する凹表面には、反射面50が形成されている。前記反射面50は、その垂直方向に切断した断面視で坑口T1側に突出して湾曲する。当該実施形態においては、前記長尺板状の反射部5は、その長さ方向に2等分されて2枚の反射板51を形成している。前記反射板51の凸面52の上下端側には、夫々、上下側に開口を有する有底筒状の案内部53が形成されている。
【0019】
前記反射部5は、切替え部材である一対の支柱部材6によってトンネルTの坑内に固定される。これら支柱部材6は、トンネルT坑道の天井面の横梁T2に一端が固定され他端が下方に延長する一対の上部支柱部材61と、トンネルT坑道の底面に一端が固定され他端が上方に延長する一対の下部支柱部材62とからなる。上部支柱部材61の他端及び下部支柱部材62の他端は、前記反射板51の案内部53に外嵌される。このようにして、支柱部材6によって、前記反射板51が回転自在に支持される。更に、前記反射部5と前記支柱部材6とに亘って、前記反射板51の回転をロックするロック機構(図示せず)が形成され、前記ロック機構を解除した状態で前記反射板51を回転させることができる。
図5及び図6は、防音壁4の反射面50が正面姿勢にあり、前記反射板51同士がその曲面をトンネルTの切羽側に向けている。これらの反射板51よりなる反射部5は、トンネルT坑内の横断面視で中央部に位置している。図7及び図8は、前記反射板51をトンネルT側方に向けて回転させ、夫々の反射板51を離間させた横姿勢にある防音壁4を示す。
【0020】
図5及び図6に示すように、正面姿勢にある防音壁4が、ロック機構によって前記反射板51の回転移動が規制された状態で前記坑道中心部に配置されていると、切羽側から坑口T1側に向かって坑道中心部を進行してきた音波は、防音壁4の反射面50に衝突して反射する。この反射波は、トンネルTの坑道中央側に集束した後、トンネルTの壁面(天井面、底面、側面)に向かって拡散する。
前記反射波が集束しているときに、次の音波が切羽側から防音壁4近傍に接近すると、切羽側に向かって進行する音圧の高い反射波と防音壁4側に向かって進行する前記次の音波の音圧が高い部分とが衝突して、互いに打ち消しあう。又、反射波がトンネルTの壁面に向かって拡散する際にも、次の音波と衝突してこれを打ち消したり、壁面と衝突する際に屈折減衰したり、トンネルT坑内を斜行するため距離減衰が大きくなったりする。これらの少なくとも何れかによって、発破により生じる騒音が、前記防音壁4より坑口T1側に達するのを抑制できる。
このようにして、前記防音壁4より坑口T1側に到達する音波の音圧を、発生時に比べてかなり低下させることができる。
【0021】
図7及び図8に示すように、当該防音壁4も、横姿勢にすると、坑道中央に大きな空間を形成する。このようにすると、ずり搬出及び機材の運搬のための車両の通路を簡単に確保することができる。
【0022】
〔トンネル用防音システム〕
本発明のトンネル用防音システムについて、以下に説明する。
図1〜8に示すように、本発明のトンネル用防音システムは、第1防音壁1,4及び第2防音壁9の2つの防音壁を備える。上述した本発明のトンネル防音壁1、4は、第1防音壁としてトンネルTの切羽側に設置される。先に説明したように、前記第1防音壁1,4は、切羽側から坑口T1側に進行する発破等によって生じた音波を切羽側に反射することによって、坑口T1側に騒音が漏れるのを抑制する。
【0023】
但し、当該実施形態にける前記第1防音壁1,4は、トンネルを横断面に亘って閉塞するものではないので、トンネルTの内壁に近い領域をトンネルT延長方向に進行する音波は、第1防音壁1,4より坑口T1側に漏れてしまう。そこで、前記第1防音壁の坑口T1側に、更に、第2防音壁9を設置する。
前記第1防音壁1,4と第2防音壁9の間の距離については、両者の可動部の位置変更(開閉、回転、上下動等)に支障がない限り、特に制限はない。但し、切羽に近い場所では、発破による爆風や石の飛散の影響を受け易いので、前記第1防音壁1,4は、前記第2防音壁9に近い場所(例えば、非限定的に、両者間の距離が20〜30m程度)に設置することが好ましい。
【0024】
前記第2防音壁9はトンネルTを横断面に亘って閉塞するものであって、例えば、特開2006−283545号公報に記載されているような、従来、単体で用いられていたタイプのものを使用することができる。
以下、前記第2防音壁9について、詳述する。
【0025】
図11は、前記第2防音壁9を、トンネルT外側から見た正面図である。図11に示すように、第2防音壁9は、トンネルTの坑口T1に密接して当該坑口T1前に設置され、トンネルTの外部から当該トンネルTの坑口T1を塞いでいる。第2防音壁9は全体として略矩形の形状を有する壁体であり、その壁面積をトンネルTの坑口T1の開口面積よりも大きく設定している。当該第2防音壁9はトンネルTの内部ではなく外部に設置されるので、その壁体形状をトンネルT内周面の断面形状と一致させる必要はない。従って、トンネルTの坑口T1を閉塞することができればどのような形状でもよく、図11に示すような略矩形に限定されない。
【0026】
図1等に示すように、前記第2防音壁9は、堀削中のトンネルTの坑口T1に密接して当該坑口T1前に設置される坑口壁部93と、この坑口壁部93に対してトンネルT延長方向外側に離れて設置される正面壁部94と、前記坑口壁部93と前記正面壁部94の周縁同士を互いに連結する連結壁部100とを備えている。前記各壁部93,94,100は、それぞれ骨組みに複数の小壁部材(後述する重量パネル96や遮音パネル)を取り付けることにより構成されている。骨組みは、鉛直方向に延びる縦梁部材98と、水平方向に延び前記縦梁部材98同士を連結する横梁部材97と、前記第2防音壁9を地面上に安定して立設させるための脚部99と、ターンバックル付きの筋交い(図示せず)とを有している。
【0027】
これらの坑口壁部93及び正面壁部94は、前記低周波音域での遮音効果が高い重量物よりなる。具体的には、前記坑口壁部93及び前記正面壁部94は、その壁幅方向に所定間隔おきに配設された複数本の支持柱95と、低周波音域での遮音効果が高い複数枚の重量パネル96とを備えており、この各重量パネル96が、その上下縁同士を互いに突き合わせた状態で前記支持柱95間に架け渡されている。
前記重量パネル96は、扁平な直方体状に形成された中空ボックス(図示せず)と、この中空ボックスの内部に充填された比重の大きい不定形物よりなる。中空ボックス内への充填物である「低周波音域での遮音効果が高い重量物」としては、土、砂、砂利、石、コンクリート、ポーラスコンクリート、水等の液体、等を例示することができる。この中でも特に砂や土は、不定形であり重量パネル96の製造コスト低減に寄与し、且つ低周波音域での遮音効果が高いので好ましい。
【0028】
前記連結壁部100は、貯留タンクに粒状体及び液体の少なくとも一方が充填されてなる充填層と、支持フレームに支持された高周波音域での遮音効果が高い吸音材(例えば、グラスウール)からなる吸音材層とを備えた遮音パネル(図示せず)により構成される。複数枚の遮音パネルは、所定のユニット枠に組み込まれて遮音パネルユニットを構成する。この遮音パネルユニットの状態で現場に持ち込むことができるので、現場では遮音パネルを1枚ずつ取り付ける手間が省略される。
又、前記第2防音壁9には、かんぬき101を掛けてロックすることができる観音開きタイプの防音扉90や、片開きタイプの人道扉91が設けられており、トンネルT内への機材や人員等の出入りが可能とされている。又、防音扉90の上側には、風管(ダクト)を第2防音壁9に貫通させるためのダクト穴92が設けられている。なお、後述する重量パネル96と同様に、防音扉90や人道扉91の内部を土、砂又は液体等の比重の大きい不定形物で充填してもよい。又、前記重量パネル96でダクト穴92を開閉可能としてもよい。
【0029】
以上のように構成された第2防音壁9は、トンネルT内ではなく坑口前に設置されるので、トンネルT内では使用できない大きな建設機械(例えば大型クレーン車等)を使用して施工することができる。又、坑口壁部93と正面壁部94とは、いずれも低周波音域での遮音効果が高い重量物よりなるとともに、互いに離れて設置されるので、低周波音域の減衰が2回行われ、この点で防音効果が向上し、特に、2〜63Hzの低周波音域の減衰能に優れた第2防音壁9とすることができる。更に、天井壁部100や側面壁部により、第2防音壁9の天井側又は側面側からの音漏れが抑制される。
【0030】
ここで、上記第2防音壁9より切羽側に前記第1防音壁1,4を設けたことによって、切羽側で生じた騒音の音圧が低下しているので、第2防音壁9に求められる遮音性はそれ単体で設けられている場合に比べて低い。よって、前記第2防音壁9が単体で設けられている場合と比べて、経済性を優先することができる。つまり、前記第2防音壁9の前記中空ボックス内への充填物である「低周波音域での遮音効果が高い重量物」の量を減らすことができ、又、前記正面壁部94を省略して、一重の遮音壁とすることもできる。従って、第2防音壁9を構成する資材の運搬や施工の手間を省き、又、材料費を抑制することで、コストを削減できる。
【0031】
図9及び図10は、本発明の防音壁の第3実施形態、及び本発明のトンネル防音システムの他の実施形態を表わす。尚、特に明記していない点については、上述した防音壁及びトンネル防音システムの実施形態と同じである(図10において、第1防音壁を強調するため、第2防音壁の支持柱、重量パネル等細部については省略している)。
当該実施形態に係る第1防音壁7は、前掲の前記第2防音壁9の坑口壁面93を支柱とするものである。この第1防音壁7の反射部8は、その凸面82側で前記坑口壁面93に固定されている。前記反射板81は椀状であり、凹状放物曲面の反射面80を有する。前記防音扉90は、第1防音壁7の切替え部材としても機能し、又、この防音扉90のトンネルT外側に設けられたかんぬき101は、前記第1防音壁7のロック機構としても機能する。図10に示すように、前記防音扉90を閉じた状態では、すべての反射部8a〜8eが正面姿勢となっている。そして、前記防音扉90を開いた状態では、反射部8d及び反射部8eが横姿勢になり、ずりの搬出及び機材の運搬を行う通路ができる。
【0032】
前記防音扉90を閉じ、防音壁7のすべての反射部8a〜8eが正面姿勢にあるとき、坑道中心部を進行してきた音波は、防音壁7の反射面80に衝突して反射し、夫々の焦点に集束した後、トンネルTの壁面(天井面、底面、側面)に向かって拡散する。このようにして、前記第2防音壁9に到達する音波の音圧を、切羽側で騒音が発生した時に比べてかなり低下させることができる。
そして、前記防音壁7より切羽側に達した音波は、前記第2防音壁9の重量パネルの重量物や遮音パネルの吸音材に吸収され、トンネルT坑外への騒音の漏れが大幅に抑制される。
このトンネル防音システムは狭い幅で設置できるので、切羽から坑口までの距離が短い場合や、発破による爆風や石の飛来が激しいため切羽からなるべく離れて防音壁を設置したい場合等に、特に有用である。
【0033】
尚、前記反射面20.50,80は、正面姿勢において、トンネルTの切羽側から坑口T1側に陥没した凹状曲面となるものであれば、上述した形状に限定されない。従って、例えば、反射面を、水平方向に切断した断面視で坑口T1側に突出して湾曲する長尺板状としてもよい。又、図1〜図4に示す反射面20を、トンネルTの上下方向又は左右方向に引き伸ばしたような曲面としてもよい。
又、前記第3実施形態において、前記第2防音壁9の防音扉90に反射部8を設けるに際し、夫々の防音扉90に、第1実施形態のように凹状回転放物面である反射面を有する椀状の反射部を2分割した反射板を取り付け、反射部8を大型化することができる。
【0034】
又、上記実施形態において、切替え部材としての一対の支柱部材3,6によって回転自在に支持される一対の反射板21,51から構成される反射部2,5と、1枚の反射板81から構成される反射部8とを例示したが、発破時の爆風や石の飛来に耐えられる限り、3枚以上の反射板によって反射部が構成されていてもよく、1の支柱部材によって複数の反射板が回転自在に支持されていてもよい。
又、前記反射板21,41の回転移動を規制するために、前記ロック機構に加えて、又はこれに代えて、前記反射板21,41の凸面22,42側に、2枚の反射板21,41に亘ってこれらの移動を規制する別のロック機構を設けてもよい(例えば、2枚の反射板21,41を固定可能にかんぬきを掛け渡す)。
又、反射部が支持部に固定されて一体化した据え置き型であってもよく、支持部の下部に車輪が取り付けられトンネルT坑内外を移動可能に構成されていてもよい。
又、上記実施形態においては、第2防音壁9を坑口T1を閉塞するように設置していたが、前記第1防音壁1,4,7より坑口T1側に位置する限り、坑口T1より切羽側、つまり、トンネルT坑内に設けてもよい。
又、トンネルTに本発明の防音壁を単体で設けることもできる。この場合、例えば、本発明の防音壁が凹状の曲面により構成される反射面を形成した反射部をトンネルT坑内を横断面に亘って閉塞し、且つ正面姿勢と横姿勢とに切替え可能に構成する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態であるトンネル用防音システムの断面図である。
【図2】第1防音壁の反射部が正面姿勢にある図1のトンネル用防音システムの正面図である。
【図3】第1防音壁の反射部が横姿勢にある図1のトンネル用防音システムの側面図である。
【図4】第1防音壁の反射部が横姿勢にある図1のトンネル用防音システムの正面図である。
【図5】別実施形態に係る本発明のトンネル用防音システムを示す断面図である。
【図6】第1防音壁の反射部が正面姿勢にある図5のトンネル用防音システムの正面図である。
【図7】第1防音壁の反射部が横姿勢にある図5のトンネル用防音システムの側面図である。
【図8】第1防音壁の反射部が横姿勢にある図5のトンネル用防音システムの正面図である。
【図9】本発明のトンネル用防音システムの別実施形態を示す断面図である。
【図10】図9のトンネル用防音システムをトンネル坑内から見た正面図である。
【図11】本発明のトンネル用防音システムの第2防音壁をトンネル外から見た図である。
【符号の説明】
【0036】
1,4,7 第1防音壁
2,5,8 反射部
3,6,90 支柱(支柱部材)
9 第2防音壁
20,50,80 反射面
21,51,81 反射板
T トンネル
T1 坑口
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削中のトンネル坑内に設置されるトンネル用防音壁及びこれを用いたトンネル用防音システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事において、掘削に発破を使用する場合、近隣集落への振動及び騒音防止対策が大きな課題になっている。かかるトンネル工事での騒音対策として、低周波音域での遮音効果が高い重量物(吸音材)より構成された壁面を備えるトンネル用防音壁が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−283545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したような従来のトンネル用防音壁では、基本的には、吸音材との衝突によって音を減衰させている。よって、遮音性を高めるためには、重量物である吸音材を増量する必要があるので、トンネル外への音の漏れを抑制するために多量の吸音材を配置しなければならない。又、吸音材の増量は、防音壁を支持する構造を増強することにも繋がるので、施工手間が過大となる。このように、従来のタイプのトンネル用防音壁では、防音効果の向上を図るために施工手間とコストが高くなるという問題点がある。
従って、本発明の目的は、重量増加に頼らずに低コストで防音効果を向上させる防音壁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のトンネル用防音壁は、掘削中のトンネル坑内に設置されるトンネル用防音壁であって、凹状の曲面により構成される反射面を形成した反射部と、前記反射面が切羽側に向いた正面姿勢とトンネル側面に向いた横姿勢とに、前記反射部の姿勢を切替える切替え部材とを備えることを特徴とする。
【0005】
上記構成によれば、正面姿勢において、凹状の曲面により構成される反射面が切羽側に向いているので、切羽側で行われる発破等に起因する音波が、前記反射面に衝突した後、切羽側に反射する。従って、坑口側へ向かう音波が減少し、音圧を低下させることができる。しかも、反射波は、続いて切羽側から坑口側に進行する次の音波と衝突して、これを減衰させることができる。又、次の音波と衝突しなかった反射波は、トンネルの壁面に衝突して屈折減衰したり、距離減衰したりすることによっても減衰する。このようにして、本発明のトンネル用防音壁は、トンネルの坑外に騒音が漏れるのを効果的に抑制する。ここで、前記反射部は、反射面で音波を反射するために設けられているので、音波を吸収するという目的のためだけに重量を増す必要がない。
又、切替え部材によって、前記反射部の姿勢を、正面姿勢から前記反射面がトンネル側面に向いた横姿勢に切替えることによって、反射部があった場所に空間が生じる。このようにすると、反射板が正面姿勢となった時にトンネル横断面に対して大きな割合を占めていても、横姿勢にすることによって、ずりや機材を運搬するための車両等の通路となる空間を確保することができる。
【0006】
上記特徴構成において、前記切替え部材が、前記反射部を水平方向に回転自在に支持する支柱よりなることが好ましい。
このように構成すると、前記反射部を回転させる動作を行うだけで、前記反射部の姿勢変更を容易に行うことができる。しかも、前記反射部が水平方向に回転するので、前記反射部が横姿勢にある時に、トンネル坑内、特に車両等の通路となる底面側に広い空間を確保することができる。
【0007】
又、上記特徴構成において、前記反射部が曲面を有する複数枚の反射板よりなり、前記支柱が前記反射板を夫々水平方向に回転自在に支持する複数本の支柱部材よりなり、前記各反射板がその各曲面を切羽側に向けた時に1つの前記凹状の曲面が形成されるように配列されていることが好ましい。
このように構成すると、例えば、大きな反射部を形成するにあたって夫々の反射部を支持する支柱にかかる負荷を小さくすることができる。本発明のトンネル用防音壁は、トンネルの切羽で行われる発破によって生じる爆音や振動に曝されるため、支柱にかかる負荷をなるべく小さくすることが、防音壁の耐久性向上に寄与する。又、反射部を複数枚の反射板に分割してあるので運搬しやすく、トンネル坑内への搬入、トンネル坑内からの搬出も容易となる。
【0008】
上記特徴構成において、前記反射面は、前記正面姿勢においてその中心方向がトンネル延長方向となる回転放物面(パラボロイド)よりなることが好ましい。
発破によって生じる音波は、トンネルの切羽側から坑口側にトンネルの延長方向に平行に進行するので、前記正面姿勢においてその中心方向がトンネル延長方向となる回転放物面よりなる反射面の軸方向に平行に入射する。このため、前記反射面の焦点に反射波が集中しやすい。従って、この反射波が焦点付近に収束するときに、前記次の音波の先頭にある音圧の高い領域と衝突すると、前記次の音波を強く打ち消すので、消音効果が高くなる。
【0009】
又、本発明のトンネル用防音システムは、掘削中のトンネルの切羽側に、第1防音壁を備え、前記第1防音壁の坑口側に、第2防音壁を備え、前記第1防音壁が、請求項1〜4の少なくとも何れか1項に記載のトンネル用防音壁であり、前記第2防音壁が、トンネルを横断面に亘って閉塞する防音壁である点にある。
かかる構成によれば、上記第1防音壁によって、トンネルの坑口側に向かう音波を大幅に遮音し、更に、坑口側に漏れた音を、上記防音壁より坑口側にトンネルを横断面に亘って閉塞可能な 別の防音壁(第2防音壁)を設けて遮音するので、第2防音壁の重量を大幅に増加させることなく、坑外に音が漏れにくくすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トンネル用防音壁の重量増加に頼らずに、低コストで防音効果を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔トンネル用防音壁〕
図1〜10に示す本発明のトンネル防音壁(以下、「防音壁」と略す。)1は、掘削中のトンネルT坑内に設置するものであって、特に、発破を原因とする騒音がトンネルT外へ漏れるのを防ぐために設置する。
図1〜図4は、本発明の防音壁の第1実施形態を表わす。当該実施形態に係る防音壁1は、凹状回転放物面(パラボラアンテナの反射器状)である反射面20を有する反射部2を備える。前記反射部2は、前記反射面20を2等分してなる曲面を有する2枚の反射板21を備える。記反射板21を構成する材料は、その表面の反射面20で音を反射する性質を有するものであれば、特に制限はない。例えば、金属板等を用いることができる。又、反射板21本体の凹面側の表面に、前記音を反射する性質を有する素材からなる層を形成して、反射面20とすることもできる。
【0012】
前記防音壁1は、前記反射部2の姿勢を切替える切替え部材3を備える。この切替え部3は、当該実施形態において、トンネルT坑内の天井面とトンネルTの底面とに亘って鉛直方向に延びる支柱である。この支柱は一対の支柱部材3からなり、夫々の支柱部材3の一端がトンネルT坑内の天井面を支持する横梁T2(例えば、H鋼から構成される)に固定され、他端が底面に固定されていて、その途中部で前記反射板21を水平方向に回転可能に支持する。
更に、前記反射部2と前記支柱部材3とに亘って、前記反射板21の回転をロックするロック機構(図示せず)が設けられている。
【0013】
図1及び図2において、夫々の前記支柱部材3に支持された夫々の前記反射板21は、その曲面をトンネルTの切羽側に向けた状態で、前記反射面20を形成するように配列されている。このように、反射面20がトンネルTの切羽側に向いた前記反射部2の姿勢を「正面姿勢」とする。そして、図3及び図4に示すように、前記夫々の反射板21をトンネルTの側面側に回転させて、反射面20がトンネルTの側壁側に向いた姿勢を「横姿勢」とする。
【0014】
発破によって切羽側で生じる音は、間隔をあけて複数回波状に発生し、主に、前記トンネルTの坑道に沿って坑道の天井面や底面に平行に進行する。従って、ロック機構によって反射板21の回転移動が規制され、反射部2が正面姿勢にある防音壁1が、前記坑道中心部に配置されていると、坑道中心部をトンネルT延長方向に進行してきた音波が防音壁1の反射面20に衝突する。そして反射波の多くはトンネルT坑内中心部に位置する焦点に集束し、その後、トンネルTの切羽側の壁面(天井面、底面、側面)に向かって拡散する。
【0015】
又、トンネルTの坑道内の壁面に隣接する領域では、壁面との摩擦によって音圧が低下したり、速度が低下したりし易い。従って、発破による騒音は、坑道中心部で強く、又、早く伝播する。従って、反射波が焦点付近に集束しているときに、次の音波が切羽側から防音壁1近傍に接近すると、切羽側に向かって進行する音圧の高い反射波と防音壁1側に向かって進行する前記次の音波の音圧が高い部分とが衝突して、互いに強く打ち消しあう。次いで、反射波がトンネルTの壁面に向かって拡散する際にも、次の音波と衝突してこれを打ち消したり、壁面と衝突する際に屈折減衰したり、トンネルT坑内を斜行するため距離減衰が大きくなったりする。これらの少なくとも何れかによって、発破により生じる騒音が、前記防音壁1より坑口T1側に達するのを抑制できる。
このように遮音されているため、前記防音壁1より坑口T1側に到達する音波は、発生時に比べて音圧がかなり低下する。
【0016】
尚、トンネルTの坑道の横断面積に占める前記反射部2の最大横断面積の比率が高い方が、反射波が収束した際の音圧が高くなるので、これらの効果は強くなり易い。従って、運搬、施工等に支障がない限り、トンネルTの坑道の横断面積に占める前記反射部2の最大横断面積の比率が高い、大きな反射面20を形成することが好ましい。
このように反射面20を形成するにあたって、反射部2が複数の反射板21によりなるものであると、運搬並びにトンネルT坑内への搬入及び坑内からの搬出し易い。又、図3及び図4に示すように、当該防音壁1は、夫々の反射板21を水平方向に回転させて、反射部2を横姿勢にすると、坑道中央に大きな空間を形成する。このようにすると、ずり搬出及び機材の運搬のための車両の通路を簡単に確保することができる。
【0017】
前記防音壁1は、反射部2の反射面20が曲面になっているため、発破による爆風や音圧を、吸収せずに反射し易い。又、従来の防音壁と異なり、前記重量物や前記吸音材を具備する必要がない。従って、前記防音壁1は、従来の防音壁にように重量化する必要がなく、発破による爆風や石の飛来に耐えうる限り、軽量化が可能である。更に、前記反射板20や切替え部材3の運搬や施工に手間がかからない。従って、資材の運搬や施工に過大な負荷をかけるものではなく、低コストで高い防音性能を得ることができる。
【0018】
図5〜図8は、本発明の防音壁の第2実施形態を表わす。尚、特に明記していない点については、第1実施形態と同じである。
当該実施形態に係る防音壁4は、トンネルT左右方向に長尺板状の反射部5を備える。正面姿勢において、この反射部5は、垂直方向に切断した断面視で坑口T1側に突出して湾曲する。前記反射部5の切羽に対向する凹表面には、反射面50が形成されている。前記反射面50は、その垂直方向に切断した断面視で坑口T1側に突出して湾曲する。当該実施形態においては、前記長尺板状の反射部5は、その長さ方向に2等分されて2枚の反射板51を形成している。前記反射板51の凸面52の上下端側には、夫々、上下側に開口を有する有底筒状の案内部53が形成されている。
【0019】
前記反射部5は、切替え部材である一対の支柱部材6によってトンネルTの坑内に固定される。これら支柱部材6は、トンネルT坑道の天井面の横梁T2に一端が固定され他端が下方に延長する一対の上部支柱部材61と、トンネルT坑道の底面に一端が固定され他端が上方に延長する一対の下部支柱部材62とからなる。上部支柱部材61の他端及び下部支柱部材62の他端は、前記反射板51の案内部53に外嵌される。このようにして、支柱部材6によって、前記反射板51が回転自在に支持される。更に、前記反射部5と前記支柱部材6とに亘って、前記反射板51の回転をロックするロック機構(図示せず)が形成され、前記ロック機構を解除した状態で前記反射板51を回転させることができる。
図5及び図6は、防音壁4の反射面50が正面姿勢にあり、前記反射板51同士がその曲面をトンネルTの切羽側に向けている。これらの反射板51よりなる反射部5は、トンネルT坑内の横断面視で中央部に位置している。図7及び図8は、前記反射板51をトンネルT側方に向けて回転させ、夫々の反射板51を離間させた横姿勢にある防音壁4を示す。
【0020】
図5及び図6に示すように、正面姿勢にある防音壁4が、ロック機構によって前記反射板51の回転移動が規制された状態で前記坑道中心部に配置されていると、切羽側から坑口T1側に向かって坑道中心部を進行してきた音波は、防音壁4の反射面50に衝突して反射する。この反射波は、トンネルTの坑道中央側に集束した後、トンネルTの壁面(天井面、底面、側面)に向かって拡散する。
前記反射波が集束しているときに、次の音波が切羽側から防音壁4近傍に接近すると、切羽側に向かって進行する音圧の高い反射波と防音壁4側に向かって進行する前記次の音波の音圧が高い部分とが衝突して、互いに打ち消しあう。又、反射波がトンネルTの壁面に向かって拡散する際にも、次の音波と衝突してこれを打ち消したり、壁面と衝突する際に屈折減衰したり、トンネルT坑内を斜行するため距離減衰が大きくなったりする。これらの少なくとも何れかによって、発破により生じる騒音が、前記防音壁4より坑口T1側に達するのを抑制できる。
このようにして、前記防音壁4より坑口T1側に到達する音波の音圧を、発生時に比べてかなり低下させることができる。
【0021】
図7及び図8に示すように、当該防音壁4も、横姿勢にすると、坑道中央に大きな空間を形成する。このようにすると、ずり搬出及び機材の運搬のための車両の通路を簡単に確保することができる。
【0022】
〔トンネル用防音システム〕
本発明のトンネル用防音システムについて、以下に説明する。
図1〜8に示すように、本発明のトンネル用防音システムは、第1防音壁1,4及び第2防音壁9の2つの防音壁を備える。上述した本発明のトンネル防音壁1、4は、第1防音壁としてトンネルTの切羽側に設置される。先に説明したように、前記第1防音壁1,4は、切羽側から坑口T1側に進行する発破等によって生じた音波を切羽側に反射することによって、坑口T1側に騒音が漏れるのを抑制する。
【0023】
但し、当該実施形態にける前記第1防音壁1,4は、トンネルを横断面に亘って閉塞するものではないので、トンネルTの内壁に近い領域をトンネルT延長方向に進行する音波は、第1防音壁1,4より坑口T1側に漏れてしまう。そこで、前記第1防音壁の坑口T1側に、更に、第2防音壁9を設置する。
前記第1防音壁1,4と第2防音壁9の間の距離については、両者の可動部の位置変更(開閉、回転、上下動等)に支障がない限り、特に制限はない。但し、切羽に近い場所では、発破による爆風や石の飛散の影響を受け易いので、前記第1防音壁1,4は、前記第2防音壁9に近い場所(例えば、非限定的に、両者間の距離が20〜30m程度)に設置することが好ましい。
【0024】
前記第2防音壁9はトンネルTを横断面に亘って閉塞するものであって、例えば、特開2006−283545号公報に記載されているような、従来、単体で用いられていたタイプのものを使用することができる。
以下、前記第2防音壁9について、詳述する。
【0025】
図11は、前記第2防音壁9を、トンネルT外側から見た正面図である。図11に示すように、第2防音壁9は、トンネルTの坑口T1に密接して当該坑口T1前に設置され、トンネルTの外部から当該トンネルTの坑口T1を塞いでいる。第2防音壁9は全体として略矩形の形状を有する壁体であり、その壁面積をトンネルTの坑口T1の開口面積よりも大きく設定している。当該第2防音壁9はトンネルTの内部ではなく外部に設置されるので、その壁体形状をトンネルT内周面の断面形状と一致させる必要はない。従って、トンネルTの坑口T1を閉塞することができればどのような形状でもよく、図11に示すような略矩形に限定されない。
【0026】
図1等に示すように、前記第2防音壁9は、堀削中のトンネルTの坑口T1に密接して当該坑口T1前に設置される坑口壁部93と、この坑口壁部93に対してトンネルT延長方向外側に離れて設置される正面壁部94と、前記坑口壁部93と前記正面壁部94の周縁同士を互いに連結する連結壁部100とを備えている。前記各壁部93,94,100は、それぞれ骨組みに複数の小壁部材(後述する重量パネル96や遮音パネル)を取り付けることにより構成されている。骨組みは、鉛直方向に延びる縦梁部材98と、水平方向に延び前記縦梁部材98同士を連結する横梁部材97と、前記第2防音壁9を地面上に安定して立設させるための脚部99と、ターンバックル付きの筋交い(図示せず)とを有している。
【0027】
これらの坑口壁部93及び正面壁部94は、前記低周波音域での遮音効果が高い重量物よりなる。具体的には、前記坑口壁部93及び前記正面壁部94は、その壁幅方向に所定間隔おきに配設された複数本の支持柱95と、低周波音域での遮音効果が高い複数枚の重量パネル96とを備えており、この各重量パネル96が、その上下縁同士を互いに突き合わせた状態で前記支持柱95間に架け渡されている。
前記重量パネル96は、扁平な直方体状に形成された中空ボックス(図示せず)と、この中空ボックスの内部に充填された比重の大きい不定形物よりなる。中空ボックス内への充填物である「低周波音域での遮音効果が高い重量物」としては、土、砂、砂利、石、コンクリート、ポーラスコンクリート、水等の液体、等を例示することができる。この中でも特に砂や土は、不定形であり重量パネル96の製造コスト低減に寄与し、且つ低周波音域での遮音効果が高いので好ましい。
【0028】
前記連結壁部100は、貯留タンクに粒状体及び液体の少なくとも一方が充填されてなる充填層と、支持フレームに支持された高周波音域での遮音効果が高い吸音材(例えば、グラスウール)からなる吸音材層とを備えた遮音パネル(図示せず)により構成される。複数枚の遮音パネルは、所定のユニット枠に組み込まれて遮音パネルユニットを構成する。この遮音パネルユニットの状態で現場に持ち込むことができるので、現場では遮音パネルを1枚ずつ取り付ける手間が省略される。
又、前記第2防音壁9には、かんぬき101を掛けてロックすることができる観音開きタイプの防音扉90や、片開きタイプの人道扉91が設けられており、トンネルT内への機材や人員等の出入りが可能とされている。又、防音扉90の上側には、風管(ダクト)を第2防音壁9に貫通させるためのダクト穴92が設けられている。なお、後述する重量パネル96と同様に、防音扉90や人道扉91の内部を土、砂又は液体等の比重の大きい不定形物で充填してもよい。又、前記重量パネル96でダクト穴92を開閉可能としてもよい。
【0029】
以上のように構成された第2防音壁9は、トンネルT内ではなく坑口前に設置されるので、トンネルT内では使用できない大きな建設機械(例えば大型クレーン車等)を使用して施工することができる。又、坑口壁部93と正面壁部94とは、いずれも低周波音域での遮音効果が高い重量物よりなるとともに、互いに離れて設置されるので、低周波音域の減衰が2回行われ、この点で防音効果が向上し、特に、2〜63Hzの低周波音域の減衰能に優れた第2防音壁9とすることができる。更に、天井壁部100や側面壁部により、第2防音壁9の天井側又は側面側からの音漏れが抑制される。
【0030】
ここで、上記第2防音壁9より切羽側に前記第1防音壁1,4を設けたことによって、切羽側で生じた騒音の音圧が低下しているので、第2防音壁9に求められる遮音性はそれ単体で設けられている場合に比べて低い。よって、前記第2防音壁9が単体で設けられている場合と比べて、経済性を優先することができる。つまり、前記第2防音壁9の前記中空ボックス内への充填物である「低周波音域での遮音効果が高い重量物」の量を減らすことができ、又、前記正面壁部94を省略して、一重の遮音壁とすることもできる。従って、第2防音壁9を構成する資材の運搬や施工の手間を省き、又、材料費を抑制することで、コストを削減できる。
【0031】
図9及び図10は、本発明の防音壁の第3実施形態、及び本発明のトンネル防音システムの他の実施形態を表わす。尚、特に明記していない点については、上述した防音壁及びトンネル防音システムの実施形態と同じである(図10において、第1防音壁を強調するため、第2防音壁の支持柱、重量パネル等細部については省略している)。
当該実施形態に係る第1防音壁7は、前掲の前記第2防音壁9の坑口壁面93を支柱とするものである。この第1防音壁7の反射部8は、その凸面82側で前記坑口壁面93に固定されている。前記反射板81は椀状であり、凹状放物曲面の反射面80を有する。前記防音扉90は、第1防音壁7の切替え部材としても機能し、又、この防音扉90のトンネルT外側に設けられたかんぬき101は、前記第1防音壁7のロック機構としても機能する。図10に示すように、前記防音扉90を閉じた状態では、すべての反射部8a〜8eが正面姿勢となっている。そして、前記防音扉90を開いた状態では、反射部8d及び反射部8eが横姿勢になり、ずりの搬出及び機材の運搬を行う通路ができる。
【0032】
前記防音扉90を閉じ、防音壁7のすべての反射部8a〜8eが正面姿勢にあるとき、坑道中心部を進行してきた音波は、防音壁7の反射面80に衝突して反射し、夫々の焦点に集束した後、トンネルTの壁面(天井面、底面、側面)に向かって拡散する。このようにして、前記第2防音壁9に到達する音波の音圧を、切羽側で騒音が発生した時に比べてかなり低下させることができる。
そして、前記防音壁7より切羽側に達した音波は、前記第2防音壁9の重量パネルの重量物や遮音パネルの吸音材に吸収され、トンネルT坑外への騒音の漏れが大幅に抑制される。
このトンネル防音システムは狭い幅で設置できるので、切羽から坑口までの距離が短い場合や、発破による爆風や石の飛来が激しいため切羽からなるべく離れて防音壁を設置したい場合等に、特に有用である。
【0033】
尚、前記反射面20.50,80は、正面姿勢において、トンネルTの切羽側から坑口T1側に陥没した凹状曲面となるものであれば、上述した形状に限定されない。従って、例えば、反射面を、水平方向に切断した断面視で坑口T1側に突出して湾曲する長尺板状としてもよい。又、図1〜図4に示す反射面20を、トンネルTの上下方向又は左右方向に引き伸ばしたような曲面としてもよい。
又、前記第3実施形態において、前記第2防音壁9の防音扉90に反射部8を設けるに際し、夫々の防音扉90に、第1実施形態のように凹状回転放物面である反射面を有する椀状の反射部を2分割した反射板を取り付け、反射部8を大型化することができる。
【0034】
又、上記実施形態において、切替え部材としての一対の支柱部材3,6によって回転自在に支持される一対の反射板21,51から構成される反射部2,5と、1枚の反射板81から構成される反射部8とを例示したが、発破時の爆風や石の飛来に耐えられる限り、3枚以上の反射板によって反射部が構成されていてもよく、1の支柱部材によって複数の反射板が回転自在に支持されていてもよい。
又、前記反射板21,41の回転移動を規制するために、前記ロック機構に加えて、又はこれに代えて、前記反射板21,41の凸面22,42側に、2枚の反射板21,41に亘ってこれらの移動を規制する別のロック機構を設けてもよい(例えば、2枚の反射板21,41を固定可能にかんぬきを掛け渡す)。
又、反射部が支持部に固定されて一体化した据え置き型であってもよく、支持部の下部に車輪が取り付けられトンネルT坑内外を移動可能に構成されていてもよい。
又、上記実施形態においては、第2防音壁9を坑口T1を閉塞するように設置していたが、前記第1防音壁1,4,7より坑口T1側に位置する限り、坑口T1より切羽側、つまり、トンネルT坑内に設けてもよい。
又、トンネルTに本発明の防音壁を単体で設けることもできる。この場合、例えば、本発明の防音壁が凹状の曲面により構成される反射面を形成した反射部をトンネルT坑内を横断面に亘って閉塞し、且つ正面姿勢と横姿勢とに切替え可能に構成する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態であるトンネル用防音システムの断面図である。
【図2】第1防音壁の反射部が正面姿勢にある図1のトンネル用防音システムの正面図である。
【図3】第1防音壁の反射部が横姿勢にある図1のトンネル用防音システムの側面図である。
【図4】第1防音壁の反射部が横姿勢にある図1のトンネル用防音システムの正面図である。
【図5】別実施形態に係る本発明のトンネル用防音システムを示す断面図である。
【図6】第1防音壁の反射部が正面姿勢にある図5のトンネル用防音システムの正面図である。
【図7】第1防音壁の反射部が横姿勢にある図5のトンネル用防音システムの側面図である。
【図8】第1防音壁の反射部が横姿勢にある図5のトンネル用防音システムの正面図である。
【図9】本発明のトンネル用防音システムの別実施形態を示す断面図である。
【図10】図9のトンネル用防音システムをトンネル坑内から見た正面図である。
【図11】本発明のトンネル用防音システムの第2防音壁をトンネル外から見た図である。
【符号の説明】
【0036】
1,4,7 第1防音壁
2,5,8 反射部
3,6,90 支柱(支柱部材)
9 第2防音壁
20,50,80 反射面
21,51,81 反射板
T トンネル
T1 坑口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削中のトンネル坑内に設置されるトンネル用防音壁であって、
凹状の曲面により構成される反射面を形成した反射部と、
前記反射面が切羽側に向いた正面姿勢とトンネル側面に向いた横姿勢とに、前記反射部の姿勢を切替える切替え部材とを備えることを特徴とするトンネル用防音壁。
【請求項2】
前記切替え部材は、前記反射部を水平方向に回転自在に支持する支柱よりなる請求項1に記載のトンネル用防音壁。
【請求項3】
前記反射部は、曲面を有する複数枚の反射板よりなり、
前記支柱は、前記反射板を夫々水平方向に回転自在に支持する複数本の支柱部材よりなり、
前記各反射板は、その各曲面を切羽側に向けた時に1つの前記凹状の曲面が形成されるように配列されている請求項2に記載のトンネル用防音壁。
【請求項4】
前記反射面は、前記正面姿勢においてその中心方向がトンネル延長方向となる回転放物面よりなる請求項1〜3の何れか1項に記載のトンネル用防音壁。
【請求項5】
掘削中のトンネルの切羽側に設置される第1防音壁と、この第1防音壁の坑口側に設置される第2防音壁とを備え、
前記第1防音壁は請求項1〜4の少なくとも何れか1項に記載のトンネル用防音壁よりなり、前記第2防音壁は前記トンネルを横断面に亘って閉塞可能な防音壁よりなるトンネル用防音システム。
【請求項1】
掘削中のトンネル坑内に設置されるトンネル用防音壁であって、
凹状の曲面により構成される反射面を形成した反射部と、
前記反射面が切羽側に向いた正面姿勢とトンネル側面に向いた横姿勢とに、前記反射部の姿勢を切替える切替え部材とを備えることを特徴とするトンネル用防音壁。
【請求項2】
前記切替え部材は、前記反射部を水平方向に回転自在に支持する支柱よりなる請求項1に記載のトンネル用防音壁。
【請求項3】
前記反射部は、曲面を有する複数枚の反射板よりなり、
前記支柱は、前記反射板を夫々水平方向に回転自在に支持する複数本の支柱部材よりなり、
前記各反射板は、その各曲面を切羽側に向けた時に1つの前記凹状の曲面が形成されるように配列されている請求項2に記載のトンネル用防音壁。
【請求項4】
前記反射面は、前記正面姿勢においてその中心方向がトンネル延長方向となる回転放物面よりなる請求項1〜3の何れか1項に記載のトンネル用防音壁。
【請求項5】
掘削中のトンネルの切羽側に設置される第1防音壁と、この第1防音壁の坑口側に設置される第2防音壁とを備え、
前記第1防音壁は請求項1〜4の少なくとも何れか1項に記載のトンネル用防音壁よりなり、前記第2防音壁は前記トンネルを横断面に亘って閉塞可能な防音壁よりなるトンネル用防音システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−308877(P2008−308877A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157474(P2007−157474)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(501360120)テクノプロ株式会社 (12)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(501360120)テクノプロ株式会社 (12)
[ Back to top ]