説明

トーショナルダンパ

【課題】振幅や周波数域が異なる多様な捻り振動を効果的に減衰させることができるトーショナルダンパを提供する。
【解決手段】相対回転することにより捻れが生じる回転体301,303の一方の回転体301に連結されるシリンダ2と、シリンダ2内にストローク方向で移動自在にかつ内径方向で自転不可能に設けられて他方の回転体303に連結されるピストンとを有し、シリンダ2内をピストン3がストローク方向で移動する際の移動抵抗力を相対回転に対する抵抗力として作用させるトーショナルダンパ1において、シリンダ2内に充填され比重および粘性が異なりかつ作用する遠心力に回転半径方向で外層と内層との2層に分離する2種類の流動体5,6と、各流動体5,6が2層に分離した場合に外層側の流動体5が流通する位置にピストン3を貫通して形成されるオリフィス3aとを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転部材に取り付けられてそのトルク変動もしくは捻り振動を減衰させるトーショナルダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンのクランクシャフトや変速機のインプットシャフトあるいはドライブシャフトなど、トルク変動やトルク変動に起因する捻り振動が発生する回転部材の振動系には、例えばスプリングや振り子などを用いることにより振動系の振動を吸収するもしくは減衰させるトーショナルダンパやダイナミックダンパなどのダンパ装置が広く適用されている。
【0003】
その一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたダイナミックダンパは、回転体に相対回転不能に取り付けられている環状のダンパケースと、そのダンパケース内に形成された密閉空間であるダンパ室と、そのダンパ室内を径方向に仕切るように設置されているウェイト部材とを備えている。そして、ダンパ室内には、ウェイト部材によって仕切られることによってそのウェイト部材の径方向内側に隣接して位置し所定の圧縮性流体が封入されている内側空間と、ウェイト部材の径方向外側に隣接して位置し所定の圧縮性流体が封入されている外側空間とが形成されていて、ウェイト部材が、遠心力によってその重心が径方向に移動可能に保持されるように構成されている。
【0004】
なお、特許文献2には、共通の軸線の回りに相対回転可能に設けられた第1回転体および第2回転体と、それら第1回転体および第2回転体のそれぞれに対して周方向に相対変位可能に設けられた中間部材と、中間部材を間に挟むようにしてその中間部材と第1回転体および第2回転体との間にそれぞれ配置された一対の弾性体と、第1回転体と第2回転体との間の相対回転に対する摩擦を発生させる摩擦発生手段と、第1回転体または第2回転体のいずれか一方の回転体と中間部材との相対回転を許容する解除位置と、一方の回転体と中間部材とを相対回転不能に連結する連結位置との間を移動可能な連結部材を有し、その連結部材に作用する遠心力が大きいときは連結部材を連結位置に移動させ、遠心力が小さいときには連結部材を解除位置にそれぞれ移動させる連結切替機構とが設けられたダンパ装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、車両用サスペンションのダンパ装置を車体に接続するダンパマウントであって、ダンパ装置と車体との間に配置されて一方の側をダンパ装置に接続され、他方の側を車体に接続されたゴムブッシュと、そのゴムブッシュを弾性変形させてゴムブッシュの見かけ上のばね定数を変化させるアクチュエータとを有するダンパマウントに関して記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−115914号公報
【特許文献2】特開2009−150471号公報
【特許文献3】特開2009−227200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載されているダンパ装置は、回転体が回転するとダンパ装置のウェイト部材に遠心力が作用し、その遠心力によってウェイト部材が径方向での外周側に移動する。ウェイト部材が径方向で移動しその重心位置が変化することにより、ダイナミックダンパのばね定数が変化し、その結果、ダイナミックダンパの固有振動数が変化する。したがって、特許文献1に記載されているダンパ装置によれば、回転体の回転数に応じて、すなわち作用する遠心力の大きさに応じて、ダイナミックダンパの固有振動数を適宜変化させることができ、広い回転数域幅を有する回転体であっても効果的に振動を抑制することができる、とされている。
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されているダンパ装置では、回転体の回転数が変動する場合、その回転体の回転数に応じてダンパ装置の固有振動数を変化させることはできるものの、ダンパ装置の振動吸収性能もしくは振動減衰性能は一律となっている。そのため、回転体の特定の回転数域で発生する特定の周波数域の捻り振動に対しては、ダンパ装置の振動吸収性能もしくは振動減衰性能が十分ではない場合もある。
【0009】
また、例えば、自動変速機を搭載した車両のトルクコンバータにロックアップクラッチと共に備え付けられる従来のダンパ装置においては、例えば図6に示すように、ダンパを低ばね定数化かつ低ヒステリシス化(図6の実線)することにより、高ばね定数(図6の破線)のダンパと比較して、エンジンの低回転使用域で駆動系の振動伝達感度が低くなるので、いわゆるエンジンこもり音を抑制することができる。その反面、ダンパを低ばね定数・低ヒステリシス化させた場合は、高ばね定数のダンパと比較して、駆動系の1次共振周波数が低くなるとともに、その駆動系の振動伝達感度が高くなるので、エンジンの回転数が変動する際に過渡的なショックが生じ易くなってしまう。
【0010】
このように、回転体の捻り振動に対する従来のダンパ装置において、幅広い回転数域に対応してより効果的に回転体の捻り振動を吸収するもしくは減衰させるためには、未だ改良の余地があった。
【0011】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、振幅や周波数域が異なる多様な捻り振動を効果的に吸収するもしくは減衰させることができるトーショナルダンパを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、相対回転することにより捻れが生じる入力側回転体および出力側回転体のいずれか一方に連結されるシリンダと、前記シリンダの内部を2室に分割するように前記シリンダ内にストローク方向で移動自在にかつ前記シリンダの内径方向で自転不可能に設けられるとともに、前記各回転体のいずれか他方に連結されるピストンとを有し、前記シリンダ内を前記ピストンが前記ストローク方向で移動する際の移動抵抗力を前記相対回転に対する抵抗力として作用させるトーショナルダンパにおいて、前記シリンダ内に充填されて混在させられるとともに、比重および粘性がいずれも異なりかつ前記各回転体が回転する際に作用する遠心力により前記シリンダ内において前記各回転体の回転半径方向で外層と内層との2層に分離する2種類の流動体と、前記2室を連通するように前記ピストンを貫通して形成されるとともに、前記遠心力が作用して前記各流動体が2層に分離した場合に前記外層側の流動体が流通する位置に形成されたオリフィスとを備えていることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記2種類の流動体が、前記オリフィスを流通する際の流動抵抗力を前記抵抗力として作用可能な所定の粘性を有するオイルと、前記オイルよりも比重が軽くかつ粘性が小さくなおかつ前記シリンダ内において前記オイルと混合・分離可能なガスとを含むことを特徴とするものである。
【0014】
そして、請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記ガスが、前記オイルと反応しない不活性ガスを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、各回転体の間で捻れが生じることによりピストンがシリンダに対してストローク方向で相対移動すると、ピストンに形成されたオリフィスを流動体が流通する際の流動抵抗によって捻れが吸収される、もしくは捻れによる振動が減衰させられる。その場合、シリンダ内にはそれぞれ比重が異なる2種類の流動体が充填されているので、回転体の回転数が高くなって流動体に作用する遠心力が大きくなると、流動体はシリンダ内において各回転体の回転半径方向で2層に分離する。その結果、ピストンのオリフィスにはシリンダ内で外層に分離した方の流動体のみが流通するようになる。外層側の流動体と内層側の流動体とはそれぞれ粘性も異なっているので、外層側の流動体のみがオリフィスを通過するようになることにより、オリフィスを流動体が流通する際の流動抵抗がそれ以前の状態と比較して変化する。したがって、この請求項1の発明によれば、回転体の回転数に応じて、オリフィスを流動体が流通する際の流動抵抗を変化させること、すなわち捻れ振動に対する振動減衰性能を変化させることができる。そのため、周波数域が異なる多様な捻り振動を効果的に吸収するもしくは減衰させることができる。
【0016】
また、請求項2の発明によれば、シリンダ内に充填される2種類の流動体が、例えば従来のオイルダンパなどで用いられるオイルと、例えば空気や窒素などのガスとによって構成される。したがって、シリンダ内に、相対的に比重が重くかつ粘性が大きいオイルと、相対的に比重が軽く粘性が小さいガスとの2種類の流動体を充填させることができる。その結果、回転体の回転数が相対的に低く作用する遠心力が小さい場合に、ピストンのオリフィスに粘性の小さいガスもしくはガスとオイルの混合体を流通させ、回転体の回転数が相対的に高く作用する遠心力が大きい場合に、ピストンのオリフィスに粘性の大きなオイルのみを流通させることができる。そのため、周波数域が異なる多様な捻り振動に即して、その捻り振動を適切かつ効果的に吸収するもしくは減衰させることができる。
【0017】
そして、請求項3の発明によれば、オイルと共にシリンダ内に混在させられるガスに、例えば窒素やアルゴンなどの不活性ガスが用いられる。そのため、オイルとガスとの反応を防止して、オイルの劣化等を防止もしくは抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明に係るトーショナルダンパの構成の一例を説明するための模式図である。
【図2】図1に示すこの発明に係るトーショナルダンパの回転時の状態を説明するための模式図である。
【図3】この発明に係るトーショナルダンパを適用するトルクコンバータのおよびダンパ機構の構成を示す断面図である。
【図4】この発明に係るトーショナルダンパを適用するダンパ機構の構成を示す正面図である。
【図5】この発明に係るトーショナルダンパをダンパ機構に設置した状態を説明するための模式図である。
【図6】従来のトーショナルダンパの振動伝達特性と振動周波数との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。この発明に係るトーショナルダンパは、互いに相対的に回転することにより捻れが生じる2つの回転体の間に設置されて、それらの間で発生する捻りを吸収するもしくはその捻りによる捻り振動を減衰させるダンパ装置である。そして、例えば図3,図4,図5に示すように、トルクコンバータ100にロックアップクラッチ200と共に備え付けられるダンパ機構300に対して、この発明のトーショナルダンパを適用することができる。
【0020】
図3において、トルクコンバータ100は、公知の一般的なトルクコンバータと同様の構成であり、フロントカバー101と一体化されてエンジンなどの動力源によって駆動されるポンプインペラー102と、そのポンプインペラー102に対向して配置されるタービンランナー103と、それらタービンランナー103におけるフルードの流出部とポンプインペラー102におけるフルードの流入部との間に配置されてフルードの流れの方向を変えるステータ104とを主体として構成されている。
【0021】
したがって、この種のトルコンバータ100においては、トルクの伝達にフルードが介在するので、例えば摩擦クラッチや噛み合いクラッチなどのように入出力部材を機械的に締結するクラッチと比較して動力伝達効率が低下する。そのため、例えばトルクコンバータ100によるトルクの増幅作用が必要ではなくなるような高速・低負荷走行時に、トルクコンバータ100の入力側部材と出力側部材とを機械的に締結するロックアップクラッチ200が備えられている。
【0022】
このロックアップクラッチ200は、トルクコンバータ100のポンプインペラー102に一体化されたフロントカバー101とタービンランナー103との間に配置され、例えば油圧によってフロントカバー101に押し付けられることによってフロントカバー101とタービンランナー103とを直結し、それらフロントカバー101とタービンランナー103との間でトルクの伝達を行うものである。
【0023】
さらに、ロックアップクラッチ200が係合された際に、エンジンのトルク変動や、そのトルク変動に起因する捻り振動等を吸収するもしくは減衰させるためのダンパ機構300が備えられている。このダンパ機構300は、図3,図4に示すように、環状のドライブプレート301と、圧縮コイルばねにより形成されたダンパスプリング302と、ドライブプレート301を挟み込むとともにダンパスプリング302を保持するドリブンプレート303とを主体として構成されている。そして、ドライブプレート301とドリブンプレート303とが相対的に回転すること、すなわちそれら各プレート301,303の間で捻れが生じることにより、各プレート301,303でダンパスプリング302を圧縮し、そのダンパスプリング302の弾性力によって捻れを吸収する、もしくは捻れによる振動を減衰させるようになっている。
【0024】
上記のような圧縮コイルばねを用いた従来のダンパ装置では、捻り振動を吸収もしくは減衰させる際の振動減衰性能は、適用される圧縮コイルばねの特性に依存する。そのため、振動の周波数域が変化すると効果的に振動減衰性能を発揮できない場合がある。また、前述したように、回転体の回転数に応じてダンパ装置の固有振動数を変化させるように構成した場合であっても、ばねや振り子などによる振動減衰性能自体は一律で変化しないので、特定の周波数域の捻り振動に対しては振動減衰性能が十分ではない場合もある。そこで、圧縮コイルばねを用いた上記のダンパ機構300に対して、この発明のトーショナルダンパ1が併設されている。すなわち、図5に拡大して示すように、この発明のトーショナルダンパ1は、ダンパ機構300におけるダンパスプリング302の内周部分であって、互いに相対回転するドライブプレート301とドリブンプレート303との間に配置されている。
【0025】
具体的には、図1に示すように、トーショナルダンパ1は、ダンパ機構300の入力側の回転体であるドライブプレート301に連結されたシリンダ2と、そのシリンダ2のシリンダ室2a内に摺動自在に配置されたピストン3と、ピストン3をダンパ機構300の出力側の回転体であるドリブンプレート303に連結するピストンロッド4とを備えている。具体的には、ピストン3の一方の端面3bにピストンロッド4が一体に固定されていて、そのピストンロッド4の端面3bと固定されていない側の端部4aが、ダンパ機構300のドリブンプレート303に連結されて固定されている。したがって、ピストン3はピストンロッド4を介してドリブンプレート303に連結されている。
【0026】
なお、この構成例では、上記のようにシリンダ2がダンパ機構300のドライブプレート301に連結され、ピストンロッド4がダンパ機構300のドリブンプレート303に連結された例を示しているが、シリンダ2がダンパ機構300のドリブンプレート303に連結され、ピストンロッド4がダンパ機構300のドライブプレート301に連結された構成であってもよい。
【0027】
シリンダ2は、例えば中空の円筒状に形成されている。すなわち、シリンダ2の内周部の中空部分がシリンダ室2aであり、そのシリンダ室2aの開口部2bとピストンロッド4との摺動部分はシールされていて、シリンダ室2aの気密性もしくは液密性が保たれている。シリンダ室2a内には、ピストン3が収容されているとともに、比重および粘性がいずれも異なる2種類の流動体5,6が充填されている。そしてこのシリンダ2の一方の端部2c、具体的にはシリンダ2の開口部2bとは反対側の端部2cが、ダンパ機構300のドライブプレート301に連結されて固定されている。
【0028】
2種類の流動体5,6のうち、一方の流動体5は、例えば従来のオイルダンパなどで用いられているオイルなどの所定の粘性と流動性とを有する流体が適用される。この構成例では、流動体5としてオイル5が用いられている。これに対して、他方の流動体6は、一方の流動体5よりも比重が軽くかつ粘性が小さい流体が適用される。この構成例では、オイル5よりも比重が軽くかつ粘性が小さいガス6が用いられている。
【0029】
上記のようにオイル5とガス6とは、共にシリンダ室2a内に充填されていて、したがってシリンダ室2a内では、オイル5とガス6とが混在している。そしてオイル5とガス6とは比重が違うので、例えばトーショナルダンパ1が停止している場合は、図1に示すように、重力の作用によってオイル5とガス6とはシリンダ室2a内で2層に分離した状態で混在している。また、トーショナルダンパ1が低速で回転している場合や、あるいは回転を停止した直後の場合などでは、オイル5とガス6とは、互いに混ざり合った混合体の状態でシリンダ室2a内に混在することもできる。
【0030】
トーショナルダンパ1の回転数すなわちドライブプレート301およびドリブンプレート303の回転数が高くなり、シリンダ室2a内のオイル5およびガス6に作用する遠心力が大きくなると、具体的には、オイル5に作用する遠心力が重力よりも大きくなると、図2に示すように、オイル5およびガス6が、シリンダ室2a内においてドライブプレート301およびドリブンプレート303の回転半径方向(図1,図2での上下方向)で外層と内層との2層に分離するようになっている。
【0031】
ピストン3は、上記のシリンダ2のシリンダ室2aの形状に対応して、例えば円筒状に形成されていて、シリンダ室2a内においてそのシリンダ室2aを2室に分割するように摺動自在に配置されている。そして、ピストン3には、オリフィス3aが形成されている。オリフィス3aは、ピストン3によって分割されたシリンダ2の2室、すなわちピストン3の前進方向側(図1,図2での左側)のシリンダ室2dとピストン3の後退方向側(図1,図2での右側)のシリンダ室2eとの間を連通する貫通孔である。そしてこのオリフィス3aは、上記のようにシリンダ室2a内において遠心力の作用によってオイル5とガス6とが外層と内層との2層に分離した場合に、前記の回転半径方向で外層側に分離されるオイル5が流通する位置に形成されている。
【0032】
そのため、シリンダ室2a内においてオイル5とガス6とが分離する程度の遠心力が作用する場合には、シリンダ2内でピストン3が相対移動することによりオリフィス3a内をオイル5のみが流通し、その際に流動抵抗力が発生する。すなわち、このトーショナルダンパ1は、上記のようにオリフィス3a内をオイル5が流通する際に発生するオイル5の流動抵抗力を利用して、捻り振動を吸収するもしくは減衰させる構成となっている。
【0033】
一方、前述したようなトーショナルダンパ1が停止している状態や低速で回転している状態でシリンダ2内をピストン3が相対移動する場合は、図1に示すように、オリフィス3a内にはガス6もしくはオイル5とガス6との混合体が流通することになる。前述したようにガス6はオイル5と比較して粘性が十分に小さく、したがってオイル5とガス6との混合体も、当然にオイル5と比較して粘性が小さい。すなわち、オリフィス3a内をガス6もしくはオイル5とガス6との混合体が流通する場合の流動抵抗力は、オリフィス3a内をオイル5のみが流通する場合よりも小さくなる。
【0034】
したがって、このトーショナルダンパ1は、作用する遠心力の大きさ、すなわちドライブプレート301およびドリブンプレート303の回転数の大きさに応じて、言い換えると、捻り振動の振動周波数に応じて、オリフィス3aを流通する流動体の粘性が変化し、その結果、オリフィス3aにおける流動抵抗力すなわち捻り振動に対する振動減衰力が変化するように構成されている。
【0035】
なお、オリフィス3aは、上記のようにオイル5やガス6などの流動体が通過する際に、その粘性に応じた流動抵抗力を生じさせ、振動減衰力を作用させるように機能するものである。したがって、オリフィス3aは、ピストン3において、上記のような遠心力の作用によってオイル5とガス6とが外層と内層との2層に分離した際に外層側に分離されるオイル5が流通する位置に、少なくとも1つ設けられればよいが、所望する振動減衰性能に応じて、あるいはシリンダ2内でピストン3が相対移動する際のバランス等を考慮して、ピストン3の円周方向に複数設けることもできる。また、オリフィス3aの孔径や数量を調整することにより、シリンダ2およびピストン3によって振動を吸収する際の振動減衰性能を調整することができる。
【0036】
また、シリンダ2とピストン3との間には、図示していないが、例えばキーおよびキー溝、あるいはコッターおよびコッター溝などの位置決め機構が設けられている。すなわち、上記のシリンダ2とピストン3との間には位置決め機構が設けられていて、それらの円周方向における相対回転が規制されている。言い換えると、ピストン3は、シリンダ2内でそのシリンダ2の内径方向で自転不可能なように収容されている。そのため、ピストン3のオリフィス3aは、常に、上記のように遠心力の作用によってオイル5とガス6とが外層と内層との2層に分離した際に外層側に分離されるオイル5が流通する個所に位置するようになっている。
【0037】
また、ガス6としては、例えば窒素ガスやアルゴンガスあるいはヘリウムガスなどといった不活性ガスが用いられる。不活性ガスを用いることによって、シリンダ室2a内においてオイル5とガス6との反応を防止して、例えばオイル5の劣化等を防止もしくは抑制することができる。
【0038】
以上のように、この発明のトーショナルダンパ1によれば、ダンパ機構300のドライブプレート301とドリブンプレート303との間で捻れが生じることによりピストン3がシリンダ2に対してストローク方向で相対移動すると、ピストン3に形成されたオリフィス3aを流動体5,6が流通する際の流動抵抗によって捻れが吸収される、もしくは捻れによる振動が減衰させられる。
【0039】
その場合、シリンダ2内にはそれぞれ比重が異なる2種類の流動体5,6、すなわちオイル5とガス6とが充填されているので、ドライブプレート301およびドリブンプレート303の回転数が高くなってオイル5およびガス6に作用する遠心力が大きくなると、それらオイル5およびガス6は、シリンダ2内において回転半径方向で2層に分離する。その結果、ピストン3のオリフィス3aにはシリンダ2内で外層に分離する方、すなわち比重が大きいオイル5のみが流通するようになる。
【0040】
したがって、ドライブプレート301およびドリブンプレート303の回転数に応じて、オリフィス3a内を流通する流動体を変化させること、言い換えると、オリフィス3a内を流動体が流通する際の流動抵抗を変化させることができ、その結果、捻れ振動に対する振動減衰性能を変化させることができる。そのため、周波数域が異なる多様な捻り振動を効果的に吸収するもしくは減衰させることができる。
【符号の説明】
【0041】
1…トーショナルダンパ、 2…シリンダ、 3…ピストン、 3a…オリフィス、 5…オイル(流動体)、 6…ガス(流動体)、 300…ダンパ機構、 301…ドライブプレート(入力側回転体)、 303…ドリブンプレート(出力側回転体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転することにより捻れが生じる入力側回転体および出力側回転体のいずれか一方に連結されるシリンダと、前記シリンダの内部を2室に分割するように前記シリンダ内にストローク方向で移動自在にかつ前記シリンダの内径方向で自転不可能に設けられるとともに、前記各回転体のいずれか他方に連結されるピストンとを有し、前記シリンダ内を前記ピストンが前記ストローク方向で移動する際の移動抵抗力を前記相対回転に対する抵抗力として作用させるトーショナルダンパにおいて、
前記シリンダ内に充填されて混在させられるとともに、比重および粘性がいずれも異なりかつ前記各回転体が回転する際に作用する遠心力により前記シリンダ内において前記各回転体の回転半径方向で外層と内層との2層に分離する2種類の流動体と、
前記2室を連通するように前記ピストンを貫通して形成されるとともに、前記遠心力が作用して前記各流動体が2層に分離した場合に前記外層側の流動体が流通する位置に形成されたオリフィスと
を備えていることを特徴とするトーショナルダンパ。
【請求項2】
前記2種類の流動体は、前記オリフィスを流通する際の流動抵抗力を前記抵抗力として作用可能な所定の粘性を有するオイルと、前記オイルよりも比重が軽くかつ粘性が小さくなおかつ前記シリンダ内において前記オイルと混合・分離可能なガスとを含むことを特徴とする請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項3】
前記ガスは、前記オイルと反応しない不活性ガスを含むことを特徴とする請求項2に記載のトーショナルダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−122634(P2011−122634A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279809(P2009−279809)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)