説明

トーショナルダンパ

【課題】振幅や周波数域が異なる多様な捻り振動を効果的に減衰させることができるトーショナルダンパを提供する。
【解決手段】相対回転することにより捻れが生じる入力側回転体301と出力側回転体303とのうち一方の回転体301に連結される主シリンダ2と、主シリンダ2内に摺動自在に設けられるとともに他方の回転体303に連結される主ピストン3と、主ピストン3に形成された貫通孔3aと、主シリンダ2内に充填される流動体7とを有し、流動体7が貫通孔3aを流通する際の流動抵抗力により捻り振動を減衰させるトーショナルダンパ1において、主ピストン3内に形成された副シリンダ4と、副シリンダ4内に摺動自在に設けられるとともに他方の回転体303に連結される副ピストン5と、捻れおよび遠心力に応じて主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動を規制する減衰力調整機構10とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転部材に取り付けられてそのトルク変動もしくは捻り振動を減衰させるトーショナルダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンのクランクシャフトや変速機のインプットシャフトあるいはドライブシャフトなど、トルク変動やトルク変動に起因する捻り振動が発生する回転部材の振動系には、その振動系に例えばばねや振り子を取り付けることにより振動系の振動を吸収するもしくは減衰させるトーショナルダンパやダイナミックダンパなどのダンパ装置が広く適用されている。
【0003】
その一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたダイナミックダンパは、回転体に相対回転不能に取り付けられている環状のダンパケースと、そのダンパケース内に形成された密閉空間であるダンパ室と、そのダンパ室内を径方向に仕切るように設置されているウェイト部材とを備えている。そして、ダンパ室内には、ウェイト部材によって仕切られることによってそのウェイト部材の径方向内側に隣接して位置し所定の圧縮性流体が封入されている内側空間と、ウェイト部材の径方向外側に隣接して位置し所定の圧縮性流体が封入されている外側空間とが形成されていて、ウェイト部材が、遠心力によってその重心が径方向に移動可能に保持されるように構成されている。
【0004】
なお、特許文献2には、共通の軸線の回りに相対回転可能に設けられた第1回転体および第2回転体と、それら第1回転体および第2回転体のそれぞれに対して周方向に相対変位可能に設けられた中間部材と、中間部材を間に挟むようにしてその中間部材と第1回転体および第2回転体との間にそれぞれ配置された一対の弾性体と、第1回転体と第2回転体との間の相対回転に対する摩擦を発生させる摩擦発生手段と、第1回転体または第2回転体のいずれか一方の回転体と中間部材との相対回転を許容する解除位置と、一方の回転体と中間部材とを相対回転不能に連結する連結位置との間を移動可能な連結部材を有し、その連結部材に作用する遠心力が大きいときは連結部材を連結位置に移動させ、遠心力が小さいときには連結部材を解除位置にそれぞれ移動させる連結切替機構とが設けられたダンパ装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、車両用サスペンションのダンパ装置を車体に接続するダンパマウントであって、ダンパ装置と車体との間に配置されて一方の側をダンパ装置に接続され、他方の側を車体に接続されたゴムブッシュと、そのゴムブッシュを弾性変形させてゴムブッシュの見かけ上のばね定数を変化させるアクチュエータとを有するダンパマウントに関して記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−115914号公報
【特許文献2】特開2009−150471号公報
【特許文献3】特開2009−227200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載されているダンパ装置は、回転体が回転するとダンパ装置のウェイト部材に遠心力が作用し、その遠心力によってウェイト部材が径方向での外周側に移動する。ウェイト部材が径方向で移動しその重心位置が変化することにより、ダイナミックダンパのばね定数が変化し、その結果、ダイナミックダンパの固有振動数が変化する。したがって、特許文献1に記載されているダンパ装置によれば、回転体の回転数に応じて、すなわち作用する遠心力の大きさに応じて、ダイナミックダンパの固有振動数を適宜変化させることができ、広い回転数域幅を有する回転体であっても効果的に振動を抑制することができる、とされている。
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されているダンパ装置では、回転体の回転数が変動する場合、その回転体の回転数に応じてダンパ装置の固有振動数を変化させることはできるものの、ダンパ装置の振動吸収性能もしくは振動減衰性能は一律となっている。そのため、回転体の特定の回転数域で発生する特定の周波数域の捻り振動に対しては、ダンパ装置の振動吸収性能もしくは振動減衰性能が十分ではない場合もある。
【0009】
また、例えば、自動変速機を搭載した車両のトルクコンバータにロックアップクラッチと共に備え付けられる従来のダンパ装置においては、例えば図6に示すように、ダンパを低ばね定数化かつ低ヒステリシス化(図6の実線)することにより、高ばね定数(図6の破線)のダンパと比較して、エンジンの低回転使用域で駆動系の振動伝達感度が低くなるので、いわゆるエンジンこもり音を抑制することができる。その反面、ダンパを低ばね定数・低ヒステリシス化させた場合は、高ばね定数のダンパと比較して、駆動系の1次共振周波数が低くなるとともに、その駆動系の振動伝達感度が高くなるので、エンジンの回転数が変動する際に過渡的なショックが生じ易くなってしまう。
【0010】
このように、回転体の捻り振動に対する従来のダンパ装置において、幅広い回転数域に対応してより効果的に回転体の捻り振動を吸収するもしくは減衰させるためには、未だ改良の余地があった。
【0011】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、振幅や周波数域が異なる多様な捻り振動を効果的に吸収するもしくは減衰させることができるトーショナルダンパを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、相対回転することにより捻れが生じる入力側回転体および出力側回転体のいずれか一方に連結される主シリンダと、その主シリンダの内部にその内部を2室に分割するように摺動自在に設けられるとともに前記各回転体のいずれか他方に連結される主ピストンと、前記2室を連通するように前記主ピストンを貫通して形成された貫通孔と、前記主シリンダ内に充填される流動体とを有し、その流動体が前記貫通孔を流通する際の流動抵抗力を前記相対回転に対する抵抗力として作用させるトーショナルダンパにおいて、前記主ピストンの内部に形成された副シリンダと、前記副シリンダの内部に摺動自在に設けられるとともに前記他方の回転体に連結される副ピストンと、前記捻れの大きさおよび作用する遠心力の大きさに応じて前記主ピストンと前記副ピストンとの間の相対移動を規制する減衰力調整機構とを備えていることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記減衰力調整機構が、予め設定した所定の変位よりも大きな前記捻れが生じた場合もしくは予め設定した所定の力よりも大きな前記遠心力が作用した場合に、前記相対移動を規制する手段を含むことを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記減衰力調整機構が、前記遠心力が大きいほど前記相対移動を強く規制する手段を含むことを特徴とするものである。
【0015】
そして、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記減衰力調整機構が、前記副シリンダの天井面と対向する前記副ピストンの受圧面に前記回転体の回転中心側から外周側に向かうにつれて前記天井面との間隔が狭くなるように形成され、予め設定した所定の変位よりも大きな前記捻れが生じた場合に前記天井面と当接することにより前記相対移動を規制するテーパー面と、前記副シリンダ内の前記天井面と前記テーパ面との間に封入され、前記遠心力が大きいほど前記外周側に移動して前記天井面および前記テーパー面の両方に当接することにより前記相対移動を規制する質量体とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、主シリンダおよび主ピストンによって捻り振動を吸収する機構と、副シリンダおよび副ピストンによって捻り振動を吸収する機構とを、捻り振動の大きさおよび作用する遠心力の大きさに応じて切り替えて機能させることができる。そのため、振幅や周波数域が異なる多様な捻り振動を効果的に吸収するもしくは減衰させることができる。
【0017】
また、請求項2の発明によれば、捻り振動が所定の変位を超えて大きくなると、もしくはトーショナルダンパに作用する遠心力が所定の力を超えて大きくなると、主ピストンと副ピストンとの間の相対移動が規制されて、主シリンダおよび主ピストンによって捻り振動を吸収する機構が機能する状態になる。その結果、例えば変位もしくは振幅が大きな捻り振動が生じた際に、あるいはトーショナルダンパに大きな遠心力が作用するすなわち回転体が高回転数で回転する際に、相対的に副シリンダおよび副ピストンによって捻り振動を吸収する場合と比較して振動減衰性能が高い、主シリンダおよび主ピストンによって捻り振動を吸収する状態にすることができる。そのため、振幅や周波数域が異なる多様な捻り振動に即して、その捻り振動を適切かつ効果的に吸収するもしくは減衰させることができる。
【0018】
また、請求項3の発明によれば、トーショナルダンパに作用する遠心力が所定の力を超えて大きくなる場合に、その遠心力が大きいほど主ピストンと副ピストンとの間の相対移動が強固に規制される。そのため、作用する遠心力の大きさに応じて、すなわち回転体の回転数に応じて、その際に発生する捻り振動を適切に吸収するもしくは減衰させることができる。
【0019】
そして、請求項4の発明によれば、発生する捻り振動の変位が小さく、かつ作用する遠心力が小さい場合は、副シリンダ内の質量体は、回転体の回転中心に近い側、すなわち副シリンダの天井面と副ピストンの受圧面との間隔が広い側に位置するので、主ピストンと副ピストンとの間の相対移動が許容されもしくは弱く規制され、副シリンダおよび副ピストンによって捻り振動を吸収する機構が機能する状態になる。一方、発生する捻り振動の変位が大きい場合、もしくは作用する遠心力が大きい場合には、副シリンダ内の質量体は、回転体の外周に近い側、すなわち副シリンダの天井面と副ピストンの受圧面との間隔が狭い側に位置するので、主ピストンと副ピストンとの間の相対移動が強く規制され、主シリンダおよび主ピストンによって捻り振動を吸収する機構が機能する状態になる。そのため、複雑な制御等を行うことなく簡単な構成によって、振幅や周波数域が異なる多様な捻り振動を適切にかつ効果的に吸収するもしくは減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明に係るトーショナルダンパの構成の一例を説明するための模式図である。
【図2】この発明に係るトーショナルダンパの他の構成例を説明するための模式図である。
【図3】この発明に係るトーショナルダンパを適用するトルクコンバータのおよびダンパ機構の構成を示す断面図である。
【図4】この発明に係るトーショナルダンパを適用するダンパ機構の構成を示す正面図である。
【図5】この発明に係るトーショナルダンパをダンパ機構に設置した状態を説明するための模式図である。
【図6】従来のトーショナルダンパの振動伝達特性と振動周波数との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。この発明に係るトーショナルダンパは、互いに相対回転することにより捻れが生じる2つの回転体の間に設置されて、それらの間で発生する捻り振動を吸収するもしくは減衰させるダンパ装置である。そして、例えば図3,図4,図5に示すように、トルクコンバータ100にロックアップクラッチ200と共に備え付けられるダンパ機構300に対して、この発明のトーショナルダンパを適用することができる。
【0022】
図3において、トルクコンバータ100は、公知の一般的なトルクコンバータと同様の構成であり、フロントカバー101と一体化されてエンジンなどの動力源によって駆動されるポンプインペラー102と、そのポンプインペラー102に対向して配置されるタービンランナー103と、それらタービンランナー103におけるフルードの流出部とポンプインペラー102におけるフルードの流入部との間に配置されてフルードの流れの方向を変えるステータ104とを主体として構成されている。
【0023】
したがって、この種のトルコンバータ100においては、トルクの伝達にフルードが介在するので、例えば摩擦クラッチや噛み合いクラッチなどのように入出力部材を機械的に締結するクラッチと比較して動力伝達効率が低下する。そのため、例えばトルクコンバータ100によるトルクの増幅作用が必要でなくなるような高速・低負荷走行時に、トルクコンバータ100の入力側部材と出力側部材とを機械的に締結するロックアップクラッチ200が備えられている。
【0024】
このロックアップクラッチ200は、トルクコンバータ100のポンプインペラー102に一体化されたフロントカバー101とタービンランナー103との間に配置され、例えば油圧によってフロントカバー101に押し付けられることによってフロントカバー101とタービンランナー103とを直結し、それらフロントカバー101とタービンランナー103との間でトルクの伝達を行うものである。
【0025】
さらに、ロックアップクラッチ200が係合された際に、エンジンのトルク変動や、そのトルク変動に起因する捻り振動等を吸収するもしくは減衰させるためのダンパ機構300が備えられている。このダンパ機構300は、図3,図4に示すように、環状のドライブプレート301と、圧縮コイルばねにより形成されたダンパスプリング302と、ドライブプレート301を挟み込むとともにダンパスプリング302を保持するドリブンプレート303とを主体として構成されている。そして、ドライブプレート301とドリブンプレート303とが相対的に回転すること、すなわちそれら各プレート301,303の間で捻れが生じることにより、各プレート301,303でダンパスプリング302を圧縮し、そのダンパスプリング302の弾性力によって捻れを吸収する、もしくは捻れによる振動を減衰させるようになっている。
【0026】
上記のような圧縮コイルばねを用いた従来のダンパ装置では、捻り振動を吸収もしくは減衰させる際の振動減衰性能は、適用される圧縮コイルばねの特性に依存する。そのため、振動の周波数域が変化すると効果的に振動減衰性能を発揮できない場合がある。また、前述したように、回転体の回転数に応じてダンパ装置の固有振動数を変化させるように構成した場合であっても、ばねや振り子などによる振動減衰性能自体は一律で変化しないので、特定の周波数域の捻り振動に対しては振動減衰性能が十分ではない場合もある。そこで、圧縮コイルばねを用いた上記のダンパ機構300に対して、この発明のトーショナルダンパ1が併設されている。すなわち、図5に拡大して示すように、この発明のトーショナルダンパ1は、ダンパ機構300におけるダンパスプリング302の内周部分であって、互いに相対回転するドライブプレート301とドリブンプレート303との間に配置されている。
【0027】
具体的には、図1に示すように、トーショナルダンパ1は、ダンパ機構300の入力側の回転体であるドライブプレート301に連結された主シリンダ2と、その主シリンダ2のシリンダ室2a内に摺動自在に配置された主ピストン3と、主ピストン3の内部に形成された副シリンダ4と、その副シリンダ4のシリンダ室4a内に摺動自在に配置された副ピストン5と、主ピストン3および副ピストン5をダンパ機構300の出力側の回転体であるドリブンプレート303に連結するピストンロッド6とを備えている。
【0028】
なお、この構成例では、上記のように主シリンダ2がダンパ機構300のドライブプレート301に連結され、ピストンロッド6がダンパ機構300のドリブンプレート303に連結された例を示しているが、主シリンダ2がダンパ機構300のドリブンプレート303に連結され、ピストンロッド6がダンパ機構300のドライブプレート301に連結された構成であってもよい。
【0029】
主シリンダ2は、例えば中空の円筒状に形成されている。すなわち、主シリンダ2の内周部の中空部分がシリンダ室2aであり、そのシリンダ室2aの開口部2bとピストンロッド6との摺動部分はシールされていて、シリンダ室2aの気密性もしくは液密性が保たれている。そして、シリンダ室2a内には、主ピストン3が収容されているとともに、流動体7が充填されている。流動体7は、例えばオイルやガスなどの所定の粘性と流動性とを有する流体を適用することができる。この構成例では、流動体7としてオイル7がシリンダ室2a内に充填されている。そしてこの主シリンダ2の一方の端部2c、具体的には主シリンダ2の開口部2bとは反対側の端部2cが、ダンパ機構300のドライブプレート301に連結されて固定されている。
【0030】
主ピストン3は、上記の主シリンダ2のシリンダ室2aの形状に対応して、例えば円筒状に形成されている。また、主ピストン3には、その内部を軸線方向(図1での左右方向)に貫通する貫通孔3aが形成されている。すなわち、主ピストン3は、シリンダ室2a内においてそのシリンダ室2aを2室に分割するように摺動自在に配置されていて、その主ピストン3によって分割されるシリンダ室2aの2室を連通するように、主ピストン3に貫通孔3aが形成されている。そして、シリンダ室2a内において、貫通孔3a内にもオイル7が充填されている。
【0031】
したがって、主シリンダ2内で主ピストン3が相対移動する場合、貫通孔3aがいわゆるオリフィスとなり、その貫通孔3a内をオイル7が流通する際に流動抵抗力が発生する。すなわち、このトーショナルダンパ1は、上記のように貫通孔3a内をオイル7が流通する際に発生するオイル7の流動抵抗力を利用して、捻り振動を吸収するもしくは減衰させる構成となっている。
【0032】
なお、貫通孔3aは、上記のようにオリフィスとして機能するものであり、主ピストン3において少なくとも1つ設けられればよいが、所望する振動減衰性能に応じて、あるいは主シリンダ2内で主ピストン3が相対移動する際のバランスを考慮して、主ピストン3の円周方向に複数設けることもできる。また、貫通孔3aの孔径や数量を調整することにより、主シリンダ2および主ピストン3によって振動を吸収する際の振動減衰性能を調整することができる。
【0033】
また、主ピストン3の内部は中空に形成されていて、副シリンダ4を兼ねている。すなわち、主ピストン3の内部が副シリンダ4になっていて、その副シリンダ4の内周部分がシリンダ室4aとなっている。上記のシリンダ室2aと同様に、シリンダ室4aの開口部4bとピストンロッド6との摺動部分はシールされていて、シリンダ室4aの気密性もしくは液密性が保たれている。そして、シリンダ室4a内には、副ピストン5が収容されているとともに、流動体8が充填されている。流動体8は、上記の流動体7と同様に、オイルやガスなどの所定の粘性と流動性とを有する流体を適用することができる。例えば流動体7と同様のオイル7を用いてもよく、あるいは、空気や不活性ガスなどの気体を用いることができる。要するに、上記の流動体7およびこの流動体8は、所望する振動減衰性能に応じて、オイルやガスなどの所定の粘性と流動性とを有する流体が適宜選定されて適用されている。
【0034】
副シリンダ4は、上記のように主ピストン3の内周部分に形成されていて、そのシリンダ室4aの開口部4bとは反対側の内端面が天井面4cとなっている。なお、この天井面4cは、見方を変えればシリンダ室4aの底面4cと言い換えることもでき、要は、上記の通りシリンダ室4aにおける開口部4bとは反対側の内端面であって、シリンダ室4a内において後述する副ピストン5の受圧面5aに対向する内壁面のことである。
【0035】
副ピストン5は、上記の副シリンダ4のシリンダ室4aの形状に対応して、例えば円柱状に形成されている。そして副ピストン5の一方の端面5bにピストンロッド6が一体に固定されていて、そのピストンロッド6の端面5bと固定されていない側の端部6aが、ダンパ機構300のドリブンプレート303に連結されて固定されている。したがって、副ピストン5はピストンロッド6を介してドリブンプレート303に連結されていて、上記の主ピストン3は、副ピストン5およびピストンロッド6を介してドリブンプレート303に連結されていている。
【0036】
また、副ピストン5の他方の端面に、すなわち副ピストン5におけるピストンロッド6が固定される側と反対の端面であって、シリンダ室4a内において上記の天井面4cと対向する副ピストン5の受圧面5aに、天井面4cに対して所定の角度を持って傾斜したテーパ面5aが形成されている。具体的には、副ピストン5が副シリンダ4に収容された状態において、その受圧面5aとシリンダ室4a内で互いに対向する天井面4cとの間隔がダンパ機構300の回転中心側(図1での下側)から外周側(図1での上側)へ向かうにつれて次第に狭くなるように傾斜したテーパー面5aとして、副ピストン5の受圧面5aが形成されている。
【0037】
そして、シリンダ室4a内における天井面4cとテーパー面5aとの間の空間に、シリンダ室4a内の流動体8よりも比重が大きくかつ所定の重さと剛性を有する質量体であるボール9が封入されている。この図1に示す構成例では、ボール9は、上記のシリンダ室4a内における天井面4cとテーパー面5aとの間の空間内で移動自在となっている。そのため、ボール9は、ダンパ機構300が回転して遠心力が作用することにより、上記のシリンダ室4a内における天井面4cとテーパー面5aとの間の空間内で、ダンパ機構300の回転中心側から外周側へ向かって移動するようになっている。言い換えると、ボール9は、ダンパ機構300が回転することにより作用する遠心力が大きいほど外周側に移動し、その結果、天井面4cとテーパー面5aとに当接して、主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動を規制するようになっている。
【0038】
このように、トーショナルダンパ1では、ダンパ機構300のドライブプレート301とドリブンプレート303との間の相対回転変位すなわち捻れの大きさに応じて、また、作用する遠心力の大きさに応じて、主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動が規制される。すなわち、設計的もしくは実験的に予め設定した所定の変位よりも大きな捻れが生じた場合に、ピストンロッド6を介して副ピストン5が副シリンダ4の天井面4cに向かって移動し、その結果、副ピストン5のテーパー面5aと天井面4cとが当接することにより、主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動が規制される。また、設計的もしくは実験的に予め設定した所定の力よりも大きな遠心力がトーショナルダンパ1に作用した場合に、副シリンダ4のシリンダ室4a内でボール9が回転中心側から外周側へ移動し、その結果、ボール9が天井面4cおよびテーパー面5aの両方に当接すること、言い換えると天井面4cとテーパー面5aとの間にボール9が挟み込まれることにより、主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動が規制される。したがって、上記の副シリンダ4の天井面4cと副ピストン5のテーパー面5aとボール9とにより、この発明における減衰力調整機構10が構成されている。
【0039】
なお、図示していないが、上記の主シリンダ2と主ピストン3との間、および副シリンダ4と副ピストン5との間には、例えばキーおよびキー溝、あるいはコッターおよびコッター溝などの位置決め機構が設けられている。すなわち、上記の主シリンダ2と主ピストン3との間、および副シリンダ4と副ピストン5との間には位置決め機構が設けられていて、それらの円周方向における相対回転が規制されている。そのため、副ピストン5のテーパー面5aは、常に、上記のように受圧面5aとシリンダ室4a内で互いに対向する天井面4cとの間隔がダンパ機構300の回転中心側から外周側へ向かうにつれて狭くなるように傾斜する姿勢に保持されている。
【0040】
図2は、この発明の他の構成例を示している。上記の図1で示す例では、この発明の質量体に相当するボール9が、副シリンダ4のシリンダ室4a内に、いずれの部材にも固定されることなく移動自在に封入された構成となっているが、この図2に示すトーショナルダンパ1は、副シリンダ4のシリンダ室4a内に封入されるボール9が、伸縮自在の弾性部材11によってシリンダ室4a内に固定されもしくは保持されている。
【0041】
すなわち、図2において、副シリンダ4のシリンダ室4a内の天井面4cと副ピストン5のテーパー面5aとの間の空間で、弾性部材11の一方の端部が副シリンダ4に固定され、弾性部材11の他方の端部がボール9に連結されている。
【0042】
弾性部材11は、例えば圧縮コイルばねあるいはゴムなどの弾性材料により構成することができる。そして、シリンダ室4aの天井面4cに近い位置で、ダンパ機構300の径方向(図2での上下方向)に伸縮可能なように、その一方の端部が副シリンダ4に固定されている。そして、副シリンダ4に固定されない他方の端部に、ボール9が連結されて固定されている。なお、ボール9は、弾性部材11の他方の端部に、自転可能に保持される構成であってもよい。
【0043】
上記のように、この図2に示す構成例におけるボール9は、弾性部材11を介してシリンダ室4a内で副シリンダ4に固定されるとともに、その弾性部材11によって回転中心側(図2での下側)から外周側(図2での上側)へ向けて常に付勢されている。そのため、ボール9は、副ピストン5が副シリンダ4に対して軸線方向(図2での左右方向)で天井面4cに向かって所定のストローク以上移動した場合では、図2に示すように、シリンダ室4a内で常に天井面4cおよびテーパー面5aの両方に当接した状態で保持されて、主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動を規制する。そして、副ピストン5が副シリンダ4に対して軸線方向で前後動することにより、シリンダ室4a内で径方向で上下動するようになっている。
【0044】
また、ダンパ機構300が回転していてボール9に遠心力が作用する場合は、ボール9には弾性部材11による付勢力と遠心力との両方が作用することになり、その結果、主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動が強く規制されることになる。
【0045】
したがって、この図2に示す構成のトーショナルダンパ1では、ボール9を付勢する弾性部材11の弾性力を調整すること、例えばコイルばねのばね定数を調整することにより、主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動を規制する状態を適宜調整することができる。例えば、弾性部材11として用いるコイルばねのばね定数を相対的に低くすることにより、主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動を弱く規制することができ、反対に、弾性部材11として用いるコイルばねのばね定数を相対的に強くすることにより、主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動をより強く規制することができる。
【0046】
以上のように、この発明のトーショナルダンパ1によれば、発生する捻り振動の変位が小さく、かつ作用する遠心力が小さい場合は、副シリンダ4のシリンダ室4a内のボール9は、ダンパ機構300の回転中心に近い側、すなわち副シリンダ4の天井面4cと副ピストン5のテーパー面5aとの間隔が広い側に位置するので、主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動が許容される。あるいはその相対移動が弱く規制される。その結果、副シリンダ4および副ピストン5によって捻り振動を吸収する機構が機能する状態になる。
【0047】
一方、発生する捻り振動の変位が大きい場合、もしくは作用する遠心力が大きい場合には、副シリンダ4のシリンダ室4a内のボール9は、ダンパ機構300の外周に近い側、すなわち副シリンダ4の天井面4cと副ピストン5のテーパー面5aとの間隔が狭い側に位置するので、主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動が強く規制される。その結果、主シリンダ2および主ピストン3によって捻り振動を吸収する機構が機能する状態になる。
【0048】
そして、例えば、捻り振動が所定の変位を超えて大きくなると、もしくはトーショナルダンパ1に作用する遠心力が所定の力を超えて大きくなると、主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動が規制されて、主シリンダ2および主ピストン3によって捻り振動を吸収する機構が機能する状態になる。また、トーショナルダンパ1に作用する遠心力が所定の力を超えて大きくなる場合には、その遠心力が大きいほど主ピストン3と副ピストン5との間の相対移動が強固に規制される。
【0049】
したがって、例えば変位もしくは振幅が大きな捻り振動が生じた際に、あるいはトーショナルダンパ1に大きな遠心力が作用する際すなわちトーショナルダンパ1が高回転数で回転する際に、相対的に副シリンダ4および副ピストン5によって捻り振動を吸収する場合と比較して振動減衰性能が高い、主シリンダ2および主ピストン3によって捻り振動を吸収する状態にすることができる。
【0050】
このように、主シリンダ2および主ピストン3によって捻り振動を吸収する機構と、副シリンダ4および副ピストン5によって捻り振動を吸収する機構とを、捻り振動の大きさおよび作用する遠心力の大きさに応じて切り替えて機能させることができる。そのため、複雑な制御等を行うことなく簡単な構成によって、振幅や周波数域が異なる多様な捻り振動を適切にかつ効果的に吸収するもしくは減衰させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1…トーショナルダンパ、 2…主シリンダ、 3…主ピストン、 3a…貫通孔、 4…副シリンダ、 4c…天井面、 5…副ピストン、 5a…テーパー面,受圧面、 7…オイル(流動体)、 9…ボール(質量体)、 10…減衰力調整機構、 300…ダンパ機構、 301…ドライブプレート(入力側回転体)、 303…ドリブンプレート(出力側回転体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転することにより捻れが生じる入力側回転体および出力側回転体のいずれか一方に連結される主シリンダと、その主シリンダの内部にその内部を2室に分割するように摺動自在に設けられるとともに前記各回転体のいずれか他方に連結される主ピストンと、前記2室を連通するように前記主ピストンを貫通して形成された貫通孔と、前記主シリンダ内に充填される流動体とを有し、その流動体が前記貫通孔を流通する際の流動抵抗力を前記相対回転に対する抵抗力として作用させるトーショナルダンパにおいて、
前記主ピストンの内部に形成された副シリンダと、
前記副シリンダの内部に摺動自在に設けられるとともに前記他方の回転体に連結される副ピストンと、
前記捻れの大きさおよび作用する遠心力の大きさに応じて前記主ピストンと前記副ピストンとの間の相対移動を規制する減衰力調整機構と
を備えていることを特徴とするトーショナルダンパ。
【請求項2】
前記減衰力調整機構は、予め設定した所定の変位よりも大きな前記捻れが生じた場合もしくは予め設定した所定の力よりも大きな前記遠心力が作用した場合に、前記相対移動を規制する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項3】
前記減衰力調整機構は、前記遠心力が大きいほど前記相対移動を強く規制する手段を含むことを特徴とする請求項2に記載のトーショナルダンパ。
【請求項4】
前記減衰力調整機構は、
前記副シリンダの天井面と対向する前記副ピストンの受圧面に前記回転体の回転中心側から外周側に向かうにつれて前記天井面との間隔が狭くなるように形成され、予め設定した所定の変位よりも大きな前記捻れが生じた場合に前記天井面と当接することにより前記相対移動を規制するテーパー面と、
前記副シリンダ内の前記天井面と前記テーパ面との間に封入され、前記遠心力が大きいほど前記外周側に移動して前記天井面および前記テーパー面の両方に当接することにより前記相対移動を規制する質量体と
を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のトーショナルダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−122635(P2011−122635A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279810(P2009−279810)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)